特許第6393211号(P6393211)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6393211
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】挿入式骨固定部材
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/86 20060101AFI20180910BHJP
【FI】
   A61B17/86
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-33713(P2015-33713)
(22)【出願日】2015年2月24日
(65)【公開番号】特開2016-154642(P2016-154642A)
(43)【公開日】2016年9月1日
【審査請求日】2017年10月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】317011595
【氏名又は名称】帝人メディカルテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】森井 敬
(72)【発明者】
【氏名】岡 大史良
【審査官】 木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】 特表2000−503568(JP,A)
【文献】 特表2003−510124(JP,A)
【文献】 実公昭56−31212(JP,Y2)
【文献】 特表平8−501962(JP,A)
【文献】 国際公開第1989/001767(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/00 ― 17/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸体の基端にヘッド部を有し、該軸体が、円柱状の基軸に複数の環状膨出部を軸方向に間隔をあけて設けてなり、骨固定プレートを該骨固定プレートに設けた孔を介して骨に固定するために使用される挿入式骨固定部材であって、
挿入式骨固定部材が、骨に形成された穴への挿入時に軸体の環状膨出部が穴の周壁に食い込んで固定される剛性を備えた生体内分解吸収性材料から形成されてなり、
環状膨出部が、先端側傾斜面と基端側傾斜面を有し、縦断面形状における先端側傾斜面が、基軸に対し5〜30°の角度で先端側から基端側に向けて径が拡大する形状をし、基端側傾斜面が、基軸に対し75〜90°の角度で先端側から基端側に向けて径が縮小する形状をし、
基端側傾斜面が基軸と交差する部分に、基軸の外径の0.05〜0.3倍の半径のアールが形成されてなることを特徴とする挿入式骨固定部材。
【請求項2】
基軸の外径に対するヘッド部の外径の寸法比が、1.5〜2.5であることを特徴とする請求項1に記載の挿入式骨固定部材。
【請求項3】
基軸の外径に対する環状膨出部の外径の寸法比が、1.35〜1.5であることを特徴とする請求項1又は2に記載の挿入式骨固定部材。
【請求項4】
ヘッド部の天面が、骨固定プレートを骨に固定した状態で骨固定プレートの表面と面一となる平坦面に形成されてなることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の挿入式骨固定部材。
【請求項5】
ヘッド部の天面の中心部に丸穴状の凹部が形成されてなり、該凹部に、凹部に対して締め代を有する挿入具の先端部を強嵌合状態に嵌着するようにしてなることを特徴とする請求項1、2、3又は4に記載の挿入式骨固定部材。
【請求項6】
環状膨出部の外径に対する穴の直径の寸法比が、0.8〜0.95であることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5に記載の挿入式骨固定部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨固定プレートをこの骨固定プレートに設けた孔を介して骨に固定するために使用される挿入式骨固定部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、頭蓋や顎の骨の接合するために、生体適合性を有する骨固定プレートが使用されているが、その際、骨固定プレートは、骨固定部材によって骨に固定される。
【0003】
ところで、骨固定部材には、図4に示すように、骨固定プレート102に設けた孔102aを介して骨103に形成された穴103aへ挿入具104を用いて押し込んで固定する挿入式のものや骨にねじ込んで固定するスクリュー式のものがあるが、特に、挿入式のものは、固定を簡易に行うことができる利点があることから、種々の形状のものが提案され、実用化されている(例えば、特許文献1〜2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2000−503568号公報
【特許文献2】特表2003−510124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、挿入式骨固定部材は、固定を簡易に行うことができる利点を有する反面、スクリュー式骨固定部材と比較して、骨に対する固着力が小さいという問題に加え、円柱状の基軸に軸方向に間隔をあけて設けた環状膨出部の付け根の部分に応力集中が生じやすく、強度の点でも問題があった。
【0006】
本発明は、上記従来の挿入式骨固定部材の有する問題点に鑑み、骨に対する固着力が大きく、かつ、強度を有する挿入式骨固定部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の挿入式骨固定部材は、軸体の基端にヘッド部を有し、該軸体が、円柱状の基軸に複数の環状膨出部を軸方向に間隔をあけて設けてなり、骨固定プレートを該骨固定プレートに設けた孔を介して骨に固定するために使用される挿入式骨固定部材であって、挿入式骨固定部材が、骨に形成された穴への挿入時に軸体の環状膨出部が穴の周壁に食い込んで固定される剛性を備えた生体内分解吸収性材料から形成されてなり、環状膨出部が、先端側傾斜面と基端側傾斜面を有し、縦断面形状における先端側傾斜面が、基軸に対し5〜30°の角度で先端側から基端側に向けて径が拡大する形状をし、基端側傾斜面が、基軸に対し75〜90°の角度で先端側から基端側に向けて径が縮小する形状をし、基端側傾斜面が基軸と交差する部分に、基軸の外径の0.05〜0.3倍の半径のアールが形成されてなることを特徴とする。
ここで、「剛性」とは、挿入式骨固定部材を骨に形成された穴へ挿入したときに、軸体の環状膨出部が実質的に変形せずに穴の周壁に食い込んで固定される、骨より硬い性状を意味する。
【0008】
この場合において、基軸の外径に対するヘッド部の外径の寸法比を、1.5〜2.5とすることができる。
【0009】
また、基軸の外径に対する環状膨出部の外径の寸法比を、1.35〜1.5とすることができる。
【0010】
また、ヘッド部の天面を、骨固定プレートを骨に固定した状態で骨固定プレートの表面と面一となる平坦面に形成することができる。
【0011】
また、ヘッド部の天面の中心部に丸穴状の凹部が形成されてなり、該凹部に、凹部に対して締め代を有する挿入具の先端部を強嵌合状態に嵌着するようにすることができる。
【0012】
また、環状膨出部の外径に対する穴の直径の寸法比を、0.8〜0.95とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の挿入式骨固定部材は、剛性を備えた生体内分解吸収性材料から形成されてなり、環状膨出部が、先端側傾斜面と基端側傾斜面を有し、縦断面形状における先端側傾斜面が、基軸に対し5〜30°の角度で先端側から基端側に向けて径が拡大する形状をし、基端側傾斜面が、基軸に対し75〜90°の角度で先端側から基端側に向けて径が縮小する形状をし、基端側傾斜面が基軸と交差する部分に、基軸の外径の0.05〜0.3倍の半径のアールが形成されてなることにより、骨に形成された穴への挿入時に軸体の環状膨出部が穴の周壁に食い込んで固定される際の食い込み量が多いため、骨に対する固着力が大きく、かつ、応力集中の生じにくい形状のため、強度を有する挿入式骨固定部材を提供することができる。
【0014】
また、基軸の外径に対するヘッド部の外径の寸法比を、1.5〜2.5とすることにより、ヘッド部と骨固定プレートに設けた孔の周縁との十分な係合代を確保し、骨固定プレートを骨に強固に固定することができる。
【0015】
また、基軸の外径に対する環状膨出部の外径の寸法比を、1.35〜1.5とすることにより、骨に形成された穴への挿入時に軸体の環状膨出部が穴の周壁に食い込んで固定される際の十分な食い込み量を確保し、骨に対する固着力を大きくすることができる。
【0016】
また、ヘッド部の天面を、骨固定プレートを骨に固定した状態で骨固定プレートの表面と面一となる平坦面に形成することにより、生体に対して刺激を与える突出部をなくすことができる。
【0017】
また、ヘッド部の天面の中心部に丸穴状の凹部が形成されてなり、該凹部に、凹部に対して締め代を有する挿入具の先端部を強嵌合状態に嵌着するようにすることにより、骨固定部材を挿入具を用いて押し込んで固定する際の挿入具への保持力を高めることができ、骨固定部材が挿入具から離脱することを防止し、操作性を向上することができる。
【0018】
また、環状膨出部の外径に対する穴の直径の寸法比を、0.8〜0.95とすることにより、骨に形成された穴への挿入時に軸体の環状膨出部が穴の周壁に食い込んで固定される際の十分な食い込み量を確保し、骨に対する固着力を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の挿入式骨固定部材の第1実施例を示す正面図である。
図2】本発明の挿入式骨固定部材の第2実施例を示す正面図である。
図3】本発明の挿入式骨固定部材とスクリュー式骨固定部材の骨に対する固着力の比較試験を行った結果を示すグラフである。
図4】従来の挿入式骨固定部材を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の挿入式骨固定部材の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0021】
図1に、本発明の挿入式骨固定部材の第1実施例を示す。
この挿入式骨固定部材1(以下、単に、「骨固定部材1」という。)は、軸体11の基端にヘッド部12を有し、軸体11が、円柱状の基軸11aに複数(本実施例において、図1(a)は2個のもの、図1(b)は3個のものを例示しているが、軸体11の長さ等に応じて、4個以上とすることもできる。)の環状膨出部11bを軸方向に間隔をあけて設けてなり、骨固定プレート2を骨固定プレート2に設けた孔2aを介して骨3に固定するために使用されるもので、骨3に形成された穴3aへの挿入時に軸体11の環状膨出部11bが穴3aの周壁に食い込んで固定される剛性を備えた生体内分解吸収性材料から形成されてなり、環状膨出部11bが、先端側傾斜面11b1と基端側傾斜面11b2を有し、縦断面形状における先端側傾斜面11b1が、基軸11aに対し5〜30°、好ましくは、10〜25°の角度θ1で先端側から基端側に向けて径が拡大する形状をし、基端側傾斜面11b2が、基軸に対し75〜90°、好ましくは、80〜90°の角度θ2で先端側から基端側に向けて径が縮小する形状をし、基端側傾斜面11b2が基軸11aと交差する部分に、基軸11aの外径D11aの0.05〜0.3倍の半径のアール11rが形成されてなるようにしている。
ここで、「基軸11a」とは、軸体11の環状膨出部11bを除いた部分を意味し、「基軸11aの外径D11a」とは、軸体11の先端部を除く最小径の部分の直径を意味する。
なお、軸体11の先端部は、骨3に形成された穴3aへの挿入しやすさを考慮して、必要に応じて、基軸11aの外径D11a(軸体11の最小径)よりも小径の先細形状に形成することができる。
【0022】
この場合において、この骨固定部材1の構成材料である生体内分解吸収性材料は、バイオセラミックとポリマーとのコンポジット材料からなり、骨固定部材1は、このコンポジット材料を強化成形したものから構成することができる。
これにより、骨固定部材1は、骨より硬い性状を呈し、操入具(図示省略)を介して打撃等することにより骨固定部材1の軸体11を骨3に形成された穴3aへ挿入、固定する際に、骨固定部材1が破損したり、損傷を受けることを防止することができるとともに、軸体11の環状膨出部11bが実質的に変形せずに穴3aの周壁に食い込んで固定されるものとなる。
環状膨出部11bは、穴3aの周壁に食い込んで骨固定部材1の軸体11を骨3に固定させるためのものであり、環状の一部を切欠いたものであっても、実質的に当該部分が変形せずに全体として環状を維持し、上記機能を奏するものであれば、これも環状膨出部の概念に含まれる。
【0023】
ここで、骨固定部材1を構成するバイオセラミックとポリマーとのコンポジット材料を強化成形した生体内分解吸収性材料について説明する。
この生体内分解吸収性材料は、本件出願人が先にインプラント材料として提案したものであり(必要があれば、例えば、特許第3239127号公報参照。)、基本的に生体内分解吸収性である結晶性の熱可塑性ポリマー中に粒子又は粒子の集合塊の大きさが0.2〜50μmの表面生体活性なバイオセラミックス粉体の10〜60重量%を実質的に均一に分散させた複合材料からなり、ポリマーの結晶が圧入充填による加圧により結晶化して配向しており、かつ、その結晶化度が10〜70%である、閉鎖成形型内に圧入充填して加圧配向した圧縮成形又は鍛造成形により得られた加圧配向成形体からなる粒子及びマトリックスポリマー強化複合材料である。
【0024】
(A)材料
(a)バイオセラミックス
1)バイオセラミックス
バイオセラミックスは、表面生体活性なバイオセラミックスである。
表面生体活性なバイオセラミックスとしては、焼成したハイドロキシアパタイト(HA)、バイオガラス系もしくは結晶化ガラス系の生体用ガラス、ディオプサイド等のいずれか単独又は2種以上の混合物を挙げられる。その中、焼成したハイドロキシアパタイト(HA)、バイオガラス系のバイオグラス、セラビタール、結晶化ガラス系のA−Wガラスセラミック等や結晶化ガラス系のバイオベリット−1、インプラント−1、β−結晶化ガラス、ディオプサイドが好適に使用できる。
【0025】
2)他のバイオセラミックス
使用可能な他のバイオセラミックスとしては、表面生体活性なバイオセラミックスの外、生体内吸収性のバイオセラミックスのような他のバイオセラミックスも同様に使用できる。
生体内吸収性のバイオセラミックスとしては、未焼成ハイドロキシアパタイト、ジカルシウムホスフェート、トリカルシウムホスフェート、テトラカルシウムホスフェート、オクタカルシウムホスフェート、カルサイト等のいずれか単独、又は2種以上の混合物が挙げられる。その中、未焼成のHA(未焼成HA)、ジカルシウムホスフェート、α−トリカルシウムホスフェート(α−TCP)、β−トリカルシウムホスフェート(β−TCP)、テトラカルシウムホスフェート(TeCP)、オクタカルシウムホスフェート(OCP)、ジカルシウムホスフェート・ハイドレート・オクタカルシウムホスフェート(DCPD・OCP)、ジカルシウムホスフェート・アンハイドライド・テトラカルシウムホスフェート(DCPA・TeCP)、カルサイト等が好適に使用できる。
【0026】
(b)ポリマー
ポリマーとしては、生体内分解吸収性である結晶性の熱可塑性ポリマーであれば特に制限されないが、そのうちでも生体安全性、生体適合性が確認され、既に実用されているポリ乳酸や、各種のポリ乳酸共重合体(例えば、乳酸−グリコール酸共重合体)が好ましく使用される。
ポリ乳酸としては、L−乳酸又はD−乳酸のホモポリマーが好適であり、また、乳酸−グリコール酸共重合体としては、モル比が99:1〜75:25の範囲内のものが、グリコール酸のホモポリマーよりは耐加水分解性がよくて好適である。また、非晶性のD、L−ポリ乳酸又はその乳酸−グリコール酸共重合体、乳酸−カプロラクトン共重合体、或いは該ホモポリマー、コポリマーと相溶性のある生体内分解吸収性の他のポリマーの少量を、塑性変形し易くするために、或いは得られる加圧配向による配向成形体に靱性を持たせるために混合してもよい。もちろん、生体との反応、或いは分解速度を配慮すると、未反応のモノマーや触媒残渣が除去・精製されて少ないポリマーがよい。
【0027】
上記ポリマーは、骨接合材として少なくとも或る値以上の強度等の物性が必要であるが、該ポリマーの分子量がビレット等の予備成形体に溶融成形する段階でどうしても低下するので、該ポリマーがポリ乳酸の場合、初期の粘度平均分子量が15万〜70万、好ましく25万〜55万のものを使用することが重要である。この範囲の分子量を有するポリマーを使用すると、加熱下に溶融成形加工して最終的に10万〜60万の粘度平均分子量を有する予備成形体を得ることができる。すなわち、生体内分解吸収性である結晶性の熱可塑性ポリマーが15〜70万の初期粘度平均分子量を有するポリ乳酸であり、その溶融成形後の粘度平均分子量が10〜60万である。
【0028】
ポリマーを、その後の圧入充填による加圧配向による分子鎖(結晶)の配向のための冷間での塑性変形によって、高強度の複合材料とすることができるが、この塑性変形の過程でうまく条件を設定して操作すれば、分子量の低下を極力抑えることができる。
【0029】
ポリマーの初期粘度平均分子量が15万未満では、溶融粘度が低いので成形が容易である利点はあるが、高い初期強度は得られない。また、生体中での強度の低下が速いために強度の維持期間が骨癒合に必要な期間よりも短くなる。また、ポリマーの初期粘度平均分子量が70万を越えて高くなり過ぎると、ポリマーが加熱時に流動し難くなり、溶融成形で予備成形体を造る際に高温、高圧が必要となるため、加工時の高い剪断応力や摩擦力によって発生する熱のために大幅な分子量の低下を招き、最終的に得られる材料の分子量は却って70万以下のものを使用した場合よりも低くなるので、強度が期待される値より小さいものとなる。
【0030】
初期粘度平均分子量が低い15万〜20万のポリマーでは、比較的多量の30〜60重量%の表面生体活性なバイオセラミックス粉体を充填することが可能であるが、溶融成形後に分子量がより低くなると、曲げ変形等の外力を受けて降伏したときに破断(降伏破壊)し易いので、10〜30重量%の低充填量に抑えるのがよく、また後記する変形度Rも比較的小さく抑えるのがよい。一方、粘度平均分子量が55万〜70万の高いポリマーを、溶融成形することは比較的難いので40〜60重量%の多量の表面生体活性なバイオセラミックス粉体を充填して溶融成形することはより一層困難である。そこで、表面生体活性なバイオセラミックス粉体を20重量%以下に、また変形度Rも必然的に小さく抑えるべきである。要するに、初期粘度平均分子量が20万〜55万程度であれば、比較的広範囲の充填量と変形度Rが選択できる。また、生体内での強度維持期間が適当であり、分解・吸収の速度もまたほど良い程度である。
【0031】
フィラーの充填量が多い場合には混合物の流動性が乏しいので、溶融粘度を下げて成形し易くするために、粘度平均分子量が10万以下、場合によっては1万以下の低分子量のポリマーを滑剤として材料の物性に影響しない程度に少量添加してもよい。使用するポリマー中に残存モノマーの量が多いと加工の過程で分子量の低下を招き、生体内での分解も速くなるので、その量は約0.5重量%以下に抑えることが望ましい。フィラーが40重量%以上の高充填の場合に、両者の界面結合力を上げる目的で、軟質の生体内吸収性のポリマーや、ポリ乳酸のD体とL体の光学異性体からなるコンプレックスをフィラーに表面処理して用いてもよい。その後の成形型への圧入充填による分子(結晶)配向の操作によって分子量を実質的に低下させることなく高強度の加圧配向成形体が得られる。
【0032】
(c)結晶化度
圧入充填による加圧配向成形体は、高い機械的強度を持ち、ほど良い加水分解の速度を持つという2つの要求因子のバランスを考えて、結晶化度の範囲を10〜70%、好ましくは20〜50%に選択する必要がある。結晶化度が70%を越えると、見かけの剛性は高いが、靱性に欠けるので脆くなる。また、分解は必要以上に遅くなり、生体内での吸収、消失に長期を要するので望ましくない。逆に、結晶化度が10%未満と低い場合には、結晶配向による強度の向上は望めない。このように機械的強度と分解、吸収による消滅の速さ、或いは生体への刺激が少ないことを勘案すると、適切な結晶化度は10〜70%、好ましくは20〜50%である。10〜20%の低結晶化度であっても、フィラーの効果によって強度は非充填の場合よりも向上する。また、50〜70%の高結晶化度であっても、加圧による塑性変形の過程で微結晶が生じて、生体内での分解、吸収に不利に作用することは少ない。すなわち、配向成形体の結晶化度が10〜70%であることが望ましい。
【0033】
(d)密度
このように三次元的に加圧配向された成形体は、例えば、延伸配向の成形体に比較して、密度が高くなる。それは変形度にも左右されるが、表面生体活性なバイオセラミックスを20%台混合したものは1.4〜1.5g/cm 、30%台混合したものは1.5〜1.6g/cm 、40%台混合したものは1.6〜1.7g/cm 、50%台混合したものは1.7〜1.8g/cmとなる。この高密度は材料の緻密さを示す指数でもあり、高強度を裏付ける重要な要因の一つである。
【0034】
(e)結晶形態
この材料は、圧入充填による加圧配向によって作られたために、成形体の結晶(分子鎖)が本質的に複数の基準軸に平行に配向している。一般に、基準軸が多くなるほど成形体の強度的な異方性が少なくなるので、方向性のある材料のように、或る方向からの比較的弱い力で破壊するようなことは少なくなる。
【0035】
(B)製造法
製造法は、基本的に(a)予め生体内分解吸収性である結晶性の熱可塑性ポリマーと表面生体活性なバイオセラミックス粉体とが実質的に均一に混合・分散した混合物を作り、(b)次いで該混合物を溶融成形して予備成形体(例えば、ビレット。)を造り、(c)該予備成形体を下端が本質的に閉鎖された成形型の狭い空間を持つ閉鎖成形型のキャビティ内に(圧縮配向の場合)圧入充填することによって、或いは断面の厚み或いは幅のいずれかが部分的又は全体的に予備成形体のそれよりも小さい成形型の狭い空間に、或いは成形型の空間を予備成形体を収容する空間よりも小さくした成形型のキャビティ内に(鍛造配向の場合)圧入充填することによって、該予備成形体を冷間で塑性変形させながら加圧配向成形体とする。
すなわち、製造法は、予め生体内分解吸収性である結晶性の熱可塑性ポリマーと表面生体活性なバイオセラミックス粉体とが実質的に均一に分散した混合物を作り、次いで該混合物を溶融成形して予備成形体を造り、該予備成形体を閉鎖成形型のキャビティ内に、冷間で圧入充填して塑性変形させて配向成形体とする。
【0036】
ところで、この骨固定部材1は、基軸11aの外径D11aに対するヘッド部12の外径D12の寸法比を、1.5〜2.5とすることが望ましい。
これにより、ヘッド部12と骨固定プレート2に設けた孔2aの周縁との十分な係合代を確保し、骨固定プレートを骨に強固に固定することができる。
【0037】
また、基軸11aの外径D11aに対する環状膨出部11bの外径D11bの寸法比を、1.35〜1.5とすることが望ましい。
これにより、骨3に形成された穴3aへの挿入時に軸体11の環状膨出部11bが穴3aの周壁に食い込んで固定される際の十分な食い込み量を確保し、骨3に対する固着力を大きくすることができる。
【0038】
また、ヘッド部12の天面を、骨固定プレート2を骨3に固定した状態で骨固定プレート2の表面と面一となる平坦面に形成する(皿ネジの頭部形状と同様の形状に形成する。)ことが望ましい。
これにより、生体に対して刺激を与える突出部をなくすことができる。
【0039】
なお、ヘッド部12の形状は、骨固定部材1の使用形態に応じて、例えば、図2に示す本発明の挿入式骨固定部材の第2実施例のように、ヘッド部12の天面が、骨固定プレート2を骨3に固定した状態で骨固定プレート2の表面から突出した形状に形成することもできる。
【0040】
また、ヘッド部12の天面の中心部に丸穴状の凹部12aが形成されてなり、この凹部12aに、凹部12aに対して締め代(この締め代の寸法は、嵌め合い構造における「しばりばめ」に準じて設定することができる。)を有する挿入具の先端部を強嵌合状態に嵌着するようにすることが望ましい。
これにより、骨固定部材1を挿入具を用いて押し込んで固定する際の挿入具への保持力を高めることができ、骨固定部材1が挿入具から離脱することを防止し、操作性を向上することができる。
【0041】
また、環状膨出部11bの外径D11bに対する骨3に形成された穴3aの直径D3aの寸法比を、0.8〜0.95とすることが望ましい。
これにより、骨3に形成された穴3aへの挿入時に軸体11の環状膨出部11bが穴3aの周壁に食い込んで固定される際の十分な食い込み量を確保し、骨3に対する固着力を大きくすることができる。
【0042】
以上の構成からなる本実施例の骨固定部材1は、骨3に形成された穴3aへの挿入時に軸体11の環状膨出部11bが穴3aの周壁に食い込んで固定される際の食い込み量が多いため、軸体11の長さL11を短く設定しても、骨3に対する固着力が大きく、かつ、応力集中の生じにくい形状のため、強度を有するものとなる。
【実施例】
【0043】
次に、図1(a)に示す骨固定部材1について、より具体的な諸元値を示す。
生体内分解吸収性材料:焼成したハイドロキシアパタイト(HA)とポリ乳酸共重合体とのコンポジット材料
骨固定部材1の長さL1:4mm
軸体11の長さL11:3mm
ヘッド部12の長さL12(骨固定プレート2の厚さ):1mm
先端側傾斜面11b1の基軸11aに対する角度θ1:17°
基端側傾斜面11b2の基軸11aに対する角度θ2:90°
基軸11aの外径D11a(軸体11の最小径):1.4mm
環状膨出部11bの外径D11b:2mm
環状膨出部11bの山の高さ:0.3mm
環状膨出部11bのピッチ:1mm(図1(b)に示す骨固定部材1は、0.7mm)
アール11r:0.2mm
ヘッド部12の外径D12:3mm
ヘッド部12の凹部12aの直径D12a:1mm
ヘッド部12の凹部12aの深さL12a:1mm
骨3に形成された穴3aの直径D3a:1.85mm
【0044】
図1(a)に示す挿入式骨固定部材1(4mmタック)と、これと略同寸法で骨にねじ込んで固定するスクリュー式骨固定部材(ミニスクリュー(タキロン社製CS204))(比較例)を用いて、骨に対する固着力の比較試験を行った。
【0045】
[試験方法]
豚の腓骨に直径D3a:1.85mm及び1.90mmの穴3aを形成し、図1(a)に示す挿入式骨固定部材1(4mmタック)を穴3aへ挿入具を用いて押し込んで固定した。
豚の腓骨に直径D3a:1.85mmの穴3aを形成し、この穴3aにタッピングを行い、スクリュー式骨固定部材(ミニスクリュー(タキロン社製CS204))をトルクリミッタが働くまで締め付けて固定した。
引っ張り試験機に試料片を設置し、タック及びミニスクリューを引き抜かれるまで、10mm/minの速度で引き抜き荷重を加えた(n=5)。
【0046】
その結果を、表1〜表2及び図3に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
表1〜表2及び図3に示す比較試験の結果から明らかなように、骨に対する固着力において、挿入式骨固定部材1は、固着力の大きさに若干のバラツキがあるものの、スクリュー式骨固定部材と同等か、それより大きな固着力を発揮することを確認した。
【0050】
以上、本発明の挿入式骨固定部材について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の挿入式骨固定部材は、骨に対する固着力が大きく、かつ、強度を有する特性を備えていることから、頭蓋や顎の骨の接合する骨固定プレートを骨に固定するために使用される挿入式骨固定部材の用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0052】
1 挿入式骨固定部材
11 軸体
11a 基軸
11b 環状膨出部
11b1 先端側傾斜面
11b2 基端側傾斜面
11r アール
12 ヘッド部
12a 凹部
2 骨固定プレート
2a 孔
3 骨
3a 穴
図1
図2
図3
図4