(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0020】
<<加飾タイヤ>>
タイヤは、地面と接するトレッド部に連続する一対のサイドウォール部を有している。このサイドウォール部は、車両にタイヤが装着されたときに車両周囲の人の視界に容易に入る部分であるため、当該タイヤのサイドウォール部の外観を悪化させない、更には美麗であることが望まれる。そのために、サイドウォール部の表面に、加飾層を形成して装飾を施すことが行われている。
【0021】
本発明の加飾タイヤは、色材を含有するインク組成物の硬化膜である加飾層がタイヤ表面に形成されており、表面保護層が加飾層上に形成されている。なお、本発明におけるタイヤ表面とは、加飾層を形成できるタイヤのサイドウォールの表面を意味する。
【0022】
タイヤを構成するゴム組成物としては特に限定されないが、一般的なタイヤ用ゴム成分を適宜含むことができる。例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)等の少なくとも1種を含むことができる。
【0023】
本発明においては、加飾層がタイヤ表面の少なくとも一部に形成されており、表面保護層は、加飾層上からタイヤ表面上に渡って形成されていてもよい。この態様の場合には、表面保護層は、加飾層上及びタイヤ表面上に形成されることになり、本発明における表面保護層は、加飾層上及びタイヤ表面上の両方において上記の密着性や追従性の効果を発揮することができる。
【0024】
<加飾層>
加飾層の印刷は、インクジェット方式、スプレー方式、刷毛塗り方式等、どのような方式であっても良いが、装飾の自由度が高まる点で、インクジェット方式であることが好ましい。
【0025】
加飾層を構成するインク組成物は、色材を含有するインク組成物であり、活性エネルギー線硬化型インク組成物、水性インク組成物、油性インク組成物のいずれも使用できる。なお、本発明における硬化膜とは、最終的に硬化や乾燥によって得られた膜であればよく、上記の活性エネルギー線硬化型インク組成物の硬化膜のみならず、上記の水性インク組成物や油性インク組成物から水や溶剤などが蒸発して得られる乾燥膜を含む意味である。
【0026】
水性インク組成物としては、水や、水とアルコール等の親水性溶剤の混合溶媒およびバインダー樹脂中に水溶性染料を分散させたインク(水性染料インク)や、有機顔料及び/又は無機顔料を分散させたインク(水性顔料インク)などの従来公知の水性インクが使用でき特に限定されない。
【0027】
油性インク組成物としては、トルエン、キシレン、酢酸エチル、MEK等の溶剤およびバインダー樹脂に油溶性染料を溶解、もしくは有機顔料及び/又は無機顔料を分散させた従来公知の油性インクが使用でき特に限定されない。
【0028】
本発明においては、インク組成物として、活性エネルギー線硬化型インク組成物が好ましい。活性エネルギー線硬化型インク組成物を用いることで、(ア)タイヤに印字する際、インク組成物の表面張力が低いので基材に適切に塗布できる点、(イ)活性エネルギー線硬化型のため、タイヤに印字した際、インク組成物の乾燥時間を短縮できる点、(ウ)前記乾燥時間の短縮によって、色の異なる複数種類のインク組成物がタイヤ上で混ざるのを防止でき、鮮明な画像をタイヤ表面上で形成できる点、(エ)タイヤに印字する際、インク組成物が基材を膨潤させにくい点、などの効果が得られる。
【0029】
〔活性エネルギー線硬化型インク組成物〕
[色材]
色材は、染料系、顔料系のいずれも使用できるが、好ましくは顔料系である。顔料としては、従来の油性インク組成物に通常用いられている無機顔料又は有機顔料であればどのようなものであってもよく、例えば、カーボンブラック、カドミウムレッド、モリブデンレッド、クロムイエロー、カドミウムイエロー、チタンイエロー、酸化チタン、酸化クロム、ビリジアン、チタンコバルトグリーン、ウルトラマリンブルー、プルシアンブルー、コバルトブルー、ジケトピロロピロール、アンスラキノン、ベンズイミダゾロン、アンスラピリミジン、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、スレン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、チオインジゴ系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料、アルミペースト、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、クレー、沈降性硫酸バリウム、パール顔料等が挙げられる。
【0030】
活性エネルギー線硬化型インク組成物の顔料の好ましい分散粒径は、レーザー散乱法による体積平均粒径で10nm以上300nm以下であることが好ましい。体積平均粒径を10nm以上、300nm以下にすることで、耐光性を維持することが可能となることや、分散の安定化が可能となり顔料の沈降やインクジェット記録装置でインクジェットインクを吐出する際でのヘッド詰まりや吐出曲がりが発生する可能性がより軽減することが可能となるため、より好ましい硬化型インクとすることができる。
【0031】
本発明において、顔料を用いる場合、その含有量は適宜調整されればよい。顔料の種類によっても異なるが、インク組成物全体における、顔料の含有量は、分散性と着色力を両立する点から、有機顔料の場合、0.1〜20質量%が好ましく、0.2〜10質量%がより好ましい。また、分散性と着色力を両立する点から、無機顔料の場合、1〜40質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。
【0032】
[粘度]
活性エネルギー線硬化型インク組成物の粘度は、40℃において5mPa・s以上20mPa・s以下であることが好ましく、5mPa・s以上15mPa・s以下であることがより好ましい。5mPa・s以上、20mPa・s以下とすることで、インクジェット装置を用いて吐出する場合に、仮にインクジェット装置のヘッドに、加熱による粘度の低下機構が組み込まれたとしても、ドット抜けによる吐出不良が生ることなく好ましい吐出性を維持することができるようになるため、より好ましい活性エネルギー線硬化型インク組成物とすることができる。ここで吐出性とは連続印刷中にインクのドット抜けが生じたり、吐出の乱れ等が生じることにより正常に印字できないことを意味する。
【0033】
また、本発明の活性エネルギー線硬化型インク組成物の表面張力は、インクジェットの吐出性、吐出安定性の点から、40℃での表面張力が20〜40mN/mであることが好ましい。
【0034】
[組成]
タイヤに対する追従性を高めるため、活性エネルギー線硬化型インク組成物は、活性エネルギー線重合性モノマーと、必要に応じて活性エネルギー線重合開始剤を含有し、該活性エネルギー線重合性モノマーは、モノマーA):ガラス転移点が−30℃以下の単官能モノマーと、モノマーB):ガラス転移点が0℃以下の多官能モノマーとを含有することが好ましい。また、モノマーA)及びB)に加え、モノマーC):ガラス転移点が0℃以上110℃以下の脂環式構造を有する単官能モノマーを含有することがより好ましい。
【0035】
なお、本明細書において、「活性エネルギー線重合性モノマー」とは、エチレン性不飽和二重結合を1つ以上有する重合性モノマーのことをいう。
【0036】
[モノマーA):ガラス転移点が−30℃以下の単官能モノマー]
活性エネルギー線重合性単官能モノマーは、モノマーA)ホモポリマーのガラス転移点(Tg)が−30℃未満であり、エチレン性不飽和二重結合を有する活性エネルギー線重合性単官能モノマー(以下、「モノマーA)」ともいう。)を含有する。モノマーA)は硬化膜の柔軟性及び伸長性を高くすることができる。柔軟性が高いとは、インク組成物の硬化膜を形成した印刷体を曲げた際に硬化膜が割れ難いことを意味し、伸長性が高いとは、硬化膜を引張った際に破断し難いことを意味する。
【0037】
モノマーA)の例として、2−エチルヘキシルアクリレート(Tg=−85℃)、2−エチルヘキシルカルビトールアクリレート(Tg=−65℃)、2−メトキシエチルアクリレート(Tg=−50℃)、2−メトキシブチルアクリレート(Tg=−56℃)、4−ヒドロキシブチルアクリレート(Tg=−80℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアクリレート(Tg=−70℃)、エトキシジエチレングリコールアクリレート(Tg=−70℃)、イソアミルアクリレート(Tg=−45℃)、イソデシルアクリレート(Tg=−55℃)、イソオクチルアクリレート(Tg=−83℃)、イソテトラデシルアクリレート(Tg=−56℃)、カプロラクトンアクリレート(Tg=−53℃)、メトキシトリプロピレングリコールアクリレート(Tg=−75℃)、EO(エチレンオキサイド)変性コハク酸アクリレート(Tg=−40℃)、トリデシルアクリレート(Tg=−75℃)等が挙げられる。中でも、柔軟性及び密着性に優れ、硬化収縮が小さい点から、イソオクチルアクリレート、トリデシルアクリレート及びエトキシジエチレングリコールアクリレートから選択されるいずれか1以上のモノマーであることが好ましい。
【0038】
モノマーA)の含有量は、活性エネルギー線重合性モノマー全量に対して2質量%以上65質量%以下であることが好ましく、5質量%以上50質量%以下であることがより好ましく、10質量%以上35質量%以下であることがさらに好ましい。2質量%以上にすることで、タイヤに印字した際、タイヤの伸びに追従することができるようになるため、インク組成物の硬化物に割れや剥がれがより生じにくくなる点で好ましい。65質量%以下にすることで、インク組成物に対して所定の活性エネルギー線量を照射した際に、インク組成物の硬化が十分に進行する点で好ましい。
【0039】
[モノマーB):ガラス転移点が0℃以下の多官能モノマー]
活性エネルギー線重合性多官能モノマーは、モノマーB):ホモポリマーのガラス転移点が0℃以下であり、エチレン性不飽和二重結合を有する多官能モノマー(以下、「モノマーB)」ともいう。)を含有する。モノマーB)は、硬化性の向上に寄与し、ガラス転移点が低いために「硬化性」と「柔軟性や伸長性」とのバランスが良い。硬化性とは、多官能性であるために架橋性が高く、少量の活性エネルギー線照射量で硬化膜を形成することができることを意味する。Tgが0℃以下であることで、タイヤに印字した際、タイヤの伸びに充分に追従することができるようになるため、インク組成物の硬化物に割れや剥がれが生じにくい点で好ましい。
【0040】
モノマーB)のうち、二官能モノマーの例として、ビスフェノールAの11モル〜32モルのエチレンオキサイド付加変性物(以下、「EO変性」という。)のジアクリレート、エチレングリコールの繰り返し数nが7〜14のポリエチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールの繰り返し数nが7〜14のポリプロピレングリコールジアクリレートが好ましく挙げられ、より好ましい例として、EO30モル付加変性物であるEO変性(30)ビスフェノールAジアクリレート(Tg=−42℃)、ポリエチレングリコールジアクリレート(n=9,Tg=−20℃)、ポリエチレングリコールジアクリレート(n=13〜14,Tg=−34℃)、ポリプロピレングリコールジアクリレート(n=7,Tg=−8℃)、ポリプロピレングリコールジアクリレート(n=12,Tg=−32℃)等が挙げられる。
【0041】
モノマーB)のうち、三官能モノマーの例として、EO変性(3)トリメチロールプロパントリアクリレート(Tg=−40℃)、EO変性(6)トリメチロールプロパントリアクリレート(Tg=−8℃)、EO変性(9)トリメチロールプロパントリアクリレート(Tg=−19℃)、EO変性(15)トリメチロールプロパントリアクリレート(Tg=−32℃)、プロピレンオキサイド付加変性物(以下、「PO変性」という。)(3)トリメチロールプロパントリアクリレート(Tg=−15℃)、PO変性(6)トリメチロールプロパントリアクリレート(Tg=−15℃)等が挙げられる。
【0042】
上記の中でも、硬化膜の柔軟性・硬化性に優れる点で、Tgが−30℃以下の2官能モノマーが好ましく、ポリプロピレングリコールジアクリレート(n=12,Tg=−32℃)、ポリエチレングリコールジアクリレート(n=13〜14,Tg=−34℃)及びEO変性(30)ビスフェノールAジアクリレート(Tg=−42℃)から選択されるいずれか1以上のモノマーであることがさらに好ましい。
【0043】
モノマーB)の含有量は、活性エネルギー線重合性モノマー全量に対して3質量%以上40質量%以下であることが好ましく、5質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、8質量%以上20質量%以下であることが特に好ましい。3質量%以上とすることでインク組成物に活性エネルギー線を照射してインク組成物を硬化する際に、所定の活性エネルギー線照射量で充分に硬化することができる。40質量%以下とすることで、適度な粘度及び架橋性となるため、好ましい追従性や伸長性を有することとなり、好ましい。
【0044】
モノマーA)とモノマーB)とを両方含有することで、「柔軟性や伸長性」と「硬化性」とを両立させることができるため、より好ましい表面保護層組成物とすることができる。
【0045】
[モノマーC):ガラス転移点が0℃以上110℃以下の脂環式構造を有する単官能モノマー]
活性エネルギー線重合性単官能モノマーは、モノマーC):ホモポリマーのガラス転移点が0℃以上110℃以下の脂環式構造を有する単官能モノマー(以下、「モノマーC)」ともいう。)を含有する。ガラス転移点が上記範囲で、脂環式構造を有する単官能モノマーを適量配合することにより硬化膜の柔軟性及び膜強度がバランスよく向上する。
【0046】
モノマーC)の例として、イソボルニルアクリレート(Tg=94℃)、4−t−ブチルシクロヘキシルアクリレート(Tg=34℃)、シクロヘキシルアクリレート(Tg=15℃)、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート(Tg=14℃)等が挙げられる。中でも、柔軟性と膜強度のバランスを向上する点で、イソボルニルアクリレート、4−t−ブチルシクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート及びジシクロペンテニルオキシエチルアクリレートから選択されるいずれか1以上のモノマーであることが好ましい。
【0047】
モノマーC)の含有量は、柔軟性と膜強度のバランスを適度に向上できる点で、活性エネルギー線重合性モノマー全量に対して1質量%以上70質量%以下であることが好ましく、3質量%以上50質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上30質量%以下であることが特に好ましい。1質量%以上とすることで、硬化物の膜強度を適度に維持することができるようになるため、好ましい。70質量%以下とすることで、基材への追従性や柔軟性を適度に維持することができるようになるため、膜強度と柔軟性のバランスが良くなるため、好ましい。
【0048】
モノマーA)及びモノマーB)に加え、さらにモノマーC)を含有することで、「塗膜強度」が高まるため、結果として、「柔軟性や伸長性」、「硬化性」及び「塗膜強度」の全てを満たす硬化膜が得られる。
【0049】
[その他のモノマー]
モノマーA)〜C)に加え、本発明の目的を達成できる範囲で、さらに別のモノマーを適宜加えてもよい。例えば、ベンジルアクリレート(Tg=6℃)、フェノキシエチルアクリレート(Tg=−22℃)、ラウリルアクリレート(Tg=−3℃)、2−ヒドロキシエチルアクリレート(Tg=−15℃)、ステアリルアクリレート(Tg=30℃)、ジシクロペンテニルアクリレート(Tg=120℃)、ジシクロペンタニルアクリレート(Tg=120℃)、1−アダマンチルアクリレート(Tg=153℃)等に例示される単官能モノマー、1,4−ブタンジオールジアクリレート(Tg=45℃)、テトラエチレングリコールジアクリレート(Tg=23℃)、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート(Tg=187℃)、トリメチロールプロパントリアクリレート(Tg=62℃)、ペンタエリスリトールトリアクリレート(Tg=103℃)等に例示される多官能モノマーを加えることもでき、またこれらのモノマーに限定されず、従来公知のモノマーなど、各種様々なモノマーを適宜加えることもできる。なお、モノマーとは、その分子量によってはオリゴマー又はプレポリマーとも称される化合物をも含む概念である。
【0050】
なかでも、ベンゼン環に置換基を有していてもよいフェノキシ(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレートを更に含有することで、表面保護層との密着性を向上することができ、好ましくはガラス転移点が0℃以下、更に好ましくは−20℃以下であるベンゼン環に置換基を有していてもよいフェノキシ(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレートであるときに表面保護層との密着性を向上させつつ、タイヤの伸縮に対する追従性を向上できる。ベンゼン環に置換基を有していてもよいフェノキシ(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレートを含有することで密着性が向上する作用について詳細は不明であるが、ベンゼン環に置換基を有していてもよいフェノキシ(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレートを含有することで(ポリ)アルキレングリコール鎖に基因して加飾層の親水性が向上し、その結果、表面保護層の親水性基(水酸基等)との親和性が向上するため、密着性が向上すると推測される。
【0051】
ベンゼン環に置換基を有していてもよいフェノキシ(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレートの具体例としては、上記のフェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート及びこれらの化合物のベンゼン環に置換基を有する化合物などが例示できる。
【0052】
ベンゼン環に置換基を有していてもよいフェノキシ(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレートの含有量は、活性エネルギー線重合モノマー全量中で、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、特に好ましくは20質量%以上、上限としては70質量%以下であることが好ましい。5質量%以上にすることで、表面保護層との密着性が充分となり好ましく、70質量%以下とすることで活性エネルギー線による重合性を十分に維持することができるようになるため好ましい。
【0053】
また、別のモノマーとしては、例えば、ポリウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレートなども挙げることができる。これらのアクリレートのうち比較的高い粘性を有するモノマーを含有させたときの活性エネルギー線硬化型インク組成物は、そのインク全体の粘度が高くなる場合があるため、例えば、インクジェット装置を用いて吐出する場合に吐出圧力によっては吐出し難くなる場合がある。そのため、これらのアクリレートを含有するときはモノマー全量に対して10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、実質的に含有していないことがさらに好ましい。なお、実質的に含有していないとは、モノマー全量に対してその他のモノマーが1質量%以下であることをいう。ここで、モノマーとは、その分子量によってはオリゴマー又はプレポリマーとも称される化合物をも含む概念である。
【0054】
本願発明の活性エネルギー線硬化型インク組成物は、モノマーAとモノマーBとモノマーCとその他のモノマーとの合計量が、モノマー全量に対して80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、実質的に100質量%であることがさらに好ましい。ここで、実質的に100質量%とは、モノマー全量に対してモノマーAとモノマーBとモノマーCとその他のモノマーとの合計量が99質量%以上であることをいう。
【0055】
[活性エネルギー線重合開始剤]
活性エネルギー線硬化型インク組成物は、必要に応じて活性エネルギー線重合開始剤を含有してもよい。活性エネルギー線は、ラジカル、カチオン、アニオン等の重合反応の契機となり得るエネルギー線であれば、遠紫外線、紫外線、近紫外線、赤外線等の光線、X線、γ線等の電磁波のほか、電子線、プロトン線、中性子線等のいずれであってもよいが、硬化速度、照射装置の入手容易さ、価格等の観点において、紫外線照射による硬化が好ましい。前記活性エネルギー線重合開始剤としては、前記活性エネルギー線の照射により活性エネルギー線硬化型インク組成物中のエチレン性不飽和二重結合を有する化合物の重合反応を促進するものであれば特に限定されず、従来公知の活性エネルギー線重合開始剤を用いることができる。前記活性エネルギー線重合開始剤の具体例として、例えば、チオキサントン等を含む芳香族ケトン類、α−アミノアルキルフェノン類、α−ヒドロキシケトン類、アシルフォスフィンオキサイド類、芳香族オニウム塩類、有機過酸化物、チオ化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、及びアルキルアミン化合物等が挙げられる。
【0056】
本発明において、活性エネルギー線重合開始剤としては、重合反応を促進し、硬化性を向上する点から、中でも、アシルフォスフィンオキサイド類、α−ヒドロキシケトン類、及びα−アミノアルキルフェノン類よりなる群から選択される1種以上を用いることが好ましい。
【0057】
アシルフォスフィンオキサイドの具体例として、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニル−フォスフィンオキサイドビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフェニルフォスフィンオキサイド、(2,4,6‐トリメトキシベンゾイル)フォスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0058】
α−ヒドロキシケトンの具体例として、2−ヒドロキシ−1−{4−〔4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル〕−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−4’−ヒドロキシエトキシ−2−メチルプロピオフェノン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、オリゴ{2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノン}等が挙げられる。
【0059】
α−アミノアルキルフェノンの具体例として、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル−ブタノン−1、2−ジメチルアミノ−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン等が挙げられる。
【0060】
活性エネルギー線重合開始剤の量は、活性エネルギー線重合性モノマーの重合反応を適切に開始できる量であればよく、活性エネルギー線硬化型インク組成物全体に対して1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、3質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。
【0061】
[分散剤]
活性エネルギー線硬化型インク組成物は、色材を分散するための分散剤を含有することが好ましい。分散剤として高分子分散剤が挙げられる。この高分子分散剤の主鎖はポリエステル系、ポリアクリル系、ポリウレタン系、ポリアミン系、ポリカプロラクトン系等からなり、高分子分散剤は、側鎖としてアミノ基、カルボキシル基、スルホン基、ヒドロキシル基等の極性基やこれらの塩を有するのが好ましい。
【0062】
好ましい高分子分散剤はポリエステル系分散剤であり、具体例として、日本ルーブリゾール社製「SOLSPERSE33000」、「SOLSPERSE32000、「SOLSPERSE24000」;ビックケミー社製「Disperbyk168」、;味の素ファインテクノ社製「アジスパーPB821」等が挙げられる。
【0063】
高分子分散剤は、色材100質量部に対して有効成分として3質量部以上100質量部以下であることが好ましく、5質量部以上60質量部以下であることがより好ましい。3質量部以上とすることで、色材が均一に分散され、インクの安定性や吐出性を維持することができるようになるため、好ましい。ここで、インクの安定性とは、インク組成物を長期保存した際のインク物性(例えば、粘度、粒度等)の安定性を意味する。また、100質量部以下とすることで、重合性モノマー等の硬化成分を十分に確保できるため、硬化性を維持することができ、また硬化物の柔軟性も維持することができるため、好ましい。
【0064】
また、高分子分散剤は、インク組成物全量に対して有効成分として0.1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。0.1質量%以上とすることで、色材を均一に分散することができるようになり、インクの安定性や吐出性を維持することができるようになるため、好ましい。30質量%以下とすることで、重合性モノマー等の硬化成分を十分に確保できるため、硬化性を維持することができ、また硬化物の柔軟性も維持することができるため、好ましい。
【0065】
[表面調整剤]
活性エネルギー線硬化型インク組成物は、さらに表面調整剤を含有していてもよい。表面調整剤としては特に限定されないが、具体例としては、ジメチルポリシロキサンを有するビックケミー社製「BYK−306」、「BYK−333」、「BYK−371」、「BYK−377」、エボニックデグサジャパン社製「TegoRad2100」、「TegoRad2200N」、「TegoRad2300」等が挙げられる。
【0066】
表面調整剤の含有量は、インク組成物全量に対して1質量%以下であることが好ましい。1質量%以下とすることで、硬化物の濡れ張力が高く維持することができるようになるため、硬化物の表面に表面保護層を形成する際にハジキが生じ得ることがない点で好ましい。
【0067】
[その他の添加剤]
また、活性エネルギー線硬化型インク組成物は、その他の添加剤として、可塑剤、重合禁止剤、光安定化剤、酸化防止剤等、種々の添加剤を含有していてもよい。溶剤は発明の目的を達成する範囲内で添加することも出来るが、含有しないことが最も好ましい。
【0068】
〔活性エネルギー線硬化型インク組成物の硬化膜〕
硬化膜の厚さは、1μm以上100μm以下であることが好ましい。1μm以上にすることで、色材を含有する硬化膜の色濃度が薄くなることがないため意匠性や装飾性の低下や密着性、伸長性等の物性が向上するため、より好ましい。100μm以下にすることで、インク組成物に対して活性エネルギー線を照射した際に、インク組成物をより短時間で充分に硬化することができるようになるため、より好ましい。
【0069】
硬化膜の膜厚測定方法は、作製した硬化膜と同様の塗布条件でPETフィルム(東洋紡績社製、A4300)にインク組成物を塗布し、得られた硬化膜の厚さをマイクロメーターにより測定した。測定は1サンプルにつき10箇所行い、これらの平均値を平均膜厚とした。後述の表面保護層及びプライマーについても同様のものとする。
【0070】
上記活性エネルギー線硬化型インク組成物を、JIS 3号試験片を作製して、JIS K6251に準拠して引張試験を行ったときの100%伸長時の弾性率が1.0〜1.5MPaであるゴム基材上に厚さ10ミクロンの硬化膜として形成し、この硬化膜が形成された硬化膜形成基材を、ダンベル状6号形(JIS K6251−5)の試験片として、JIS K7161法にしたがい25℃で引張速度100mm/分で引張試験した際に硬化膜の割れが生じるときの最小の伸び率を硬化膜破断点伸びと定義し((硬化膜の割れが生じたときの印刷体の長さ−印刷体の元の長さ)/印刷体の元の長さ×100から算出する)、該硬化膜破断点伸びは、100%以上(例えば、基材を元の2倍に伸ばしたときの伸びを100%と表記する)であることが好ましく、より好ましくは150%以上であり、150%以上1000%以下であることがさらに好ましい。硬化膜破断点伸びは、150%以上であることで、タイヤの伸びに対して充分に追従でき、タイヤが伸縮した場合であっても、その表面に形成された硬化膜の割れや剥がれをいっそう抑制できる。一方、硬化膜破断点伸びが、1000%を超えるものは硬化膜の強度を大きくしにくい。
【0071】
<表面保護層>
加飾タイヤは屋外に晒されるため、塵、埃、泥、すす、ピッチ等の付着により加飾層の美観や外観が著しく損なわれる。また、酸化や紫外線等による劣化で加飾層の表面にひび割れ等が生じ得るし、光沢も損なう。そこで、本発明の加飾タイヤには表面保護層が形成されている。なお、表面保護層は、加飾層の表面に形成される場合に限らず、タイヤ基材の表面に直接形成されていてもよいし、タイヤ基材の表面に形成された、後述するプライマー層の表面に形成されていてもよい。表面保護層は、上記インク組成物の硬化膜の上に塗布乾燥することにより硬化膜として形成される。
【0072】
本発明においては、表面保護層は、ガラス転移点(Tg)が0℃以下のシリコーン変性(メタ)アクリル系樹脂を含む表面保護層組成物の硬化膜である。シリコーン変性(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移点(Tg)は−20℃以下であることが好ましい。ガラス転移点(Tg)が0℃以下であることにより、特に低温下における硬化膜の伸びが良好となるので追従性が向上する。また、繰返し応力がかかる条件においても、タイヤ基材への高い追従性を有する。また、タイヤ基材表面に活性エネルギー線硬化型インク組成物の硬化膜である加飾層を形成し、該加飾層上に表面保護層を形成しない場合において、該加飾層の伸縮性が劣り、割れが発生するような加飾層であったとしても、該加飾層上に本発明の表面保護層を形成することで割れの発生が抑制することができる。
【0073】
シリコーン変性(メタ)アクリル系樹脂とは、シロキサン結合とアクリル系樹脂が共存している樹脂又は樹脂組成物をいい、例えば、シリコーン変性剤(シロキサン化合物)とエチレン性不飽和単量体の共重合体であってもよいし、その一部にシリコーン変性剤が結合したアクリル系樹脂であってもよい。
【0074】
シリコーン変性(メタ)アクリル系樹脂は、後述するように、水性エマルジョンであることがVOC削減の観点から好ましく、例えば、(メタ)アクリル系のラジカル重合性単量体と、シリコーンオリゴマーとを重合したもの、好ましくは(メタ)アクリル系のラジカル重合性単量体と、シリコーンオリゴマーとを、乳化剤を用いて乳化重合を行ったものなどが挙げられる。具体的には、特開2010−69645号公報記載のシリコーン変性アクリルラテックスや、特開2009−290201号公報記載のシリコーン変性アクリルエマルジョンなどが使用できる。これらの製品は市販品を用いることができ、例えば、DNPファインケミカル製「OP−SA13」、「OP−SA79」、「OP−SA355」、「OP−SA356」などを用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上混合して用いてもよい。
【0075】
表面保護層組成物における上記のシリコーン変性(メタ)アクリル系樹脂は、水系のアクリル系エマルジョン内に粒子として存在する、シリコーン変性(メタ)アクリル系エマルジョンであることが好ましい。エマルジョンの分散粒子径としては、500nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましい。500nm以下とすることで適度な密着性を維持できるようになるため好ましい。
【0076】
エマルジョン中の不揮発分量としては10質量%以上、80質量%以下が好ましく、20質量%以上、60質量%以下がより好ましい。10質量%以上であることで、保護層を形成するために乾燥時間が過度に長くなることがなくなるため、生産性が良い面で好ましい。80質量%以下とすることで、タイヤに表面保護層組成物を塗布性が向上する点で好ましい。
【0077】
表面保護層組成物には、更にカーボネート変性ウレタン樹脂を含むことが好ましい。また、カーボネート変性ウレタン樹脂のTgが−20℃以下であることが好ましい。カーボネート変性ウレタン樹脂は、特に耐水性を劣化させることなく耐傷性の向上に効果があり、また、Tgを−20℃以下とすることで、低温での柔軟性がより劣化し難いという効果が得られる。
【0078】
カーボネート変性ウレタン樹脂としては、少なくともポリイソシアネートとポリオールとの反応により得られるポリウレタンであり、更に、分子内の少なくとも一部にポリカーボネート構造、すなわちカーボネート基(−O−CO−O−)を有するポリウレタン樹脂である。
【0079】
ポリウレタン樹脂の原料には、ポリオール及びポリイソシアネートと、触媒、鎖伸長剤、架橋剤、水、整泡剤等から所望に応じて選択された成分と、を使用することができる。ポリオールとしては、例えば、分子末端にヒドロキシ基を備えるポリカーボネートポリオールを少なくとも一部に用いればよい。ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンポリ−3−メチルペンタンカーボネートジオール、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンカーボネートジオール、ポリ(ヘキサメチレン−1,4−シクロヘキサンジメチレンカーボネート)ジオール等が挙げられる。
【0080】
ポリイソシアネートについては特に制限はなく、芳香族、脂肪族及び脂環式のポリイソシアネートを用いることができる。例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどが挙げられる。触媒、鎖伸長剤、架橋剤、整泡剤なども従来公知のものを特に制限なく使用することができる。
【0081】
カーボネート変性ウレタン樹脂は水分散形態又はエマルジョン形態でもよく、例えば、特開2013−87122号公報に記載の水性ポリウレタン樹脂や水性ポリウレタン樹脂組成物を好適に用いることができる。
【0082】
Tgが−20℃以下であるカーボネート変性ウレタン樹脂の具体例としては、DNPファインケミカル製「OP−U354」などの市販品を用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上混合して用いてもよい。
【0083】
カーボネート変性ウレタン樹脂の含有量は、表面保護層組成物中で5質量%以上、90質量%以下であることが好ましい。5質量%以上とすることで、耐傷向上の効果が見られるようになるため好ましく、90質量%以下とすることで、加飾層との密着性を維持することができるため好ましい。
【0084】
シリコーン変性(メタ)アクリル系樹脂/カーボネート変性ウレタン樹脂の比率が質量比で10/0〜1/9、好ましくは9/1〜3/7、最も好ましくは8/2〜4/6である。1/9以下とすることで耐傷性の向上が多くなる点で好ましい。
【0085】
表面保護層組成物には、ヒドラジド類を含むことが好ましい。シリコーン変性(メタ)アクリル系樹脂および加飾層に含有されるカルボニル基とヒドラジン類のヒドラジド基の脱水縮合反応により、エマルジョン粒子間架橋およびエマルジョン粒子加飾間架橋が発生し、密着性が向上する。このため、ヒドラジド類の添加は特にタイヤ及び加飾層への密着性の向上に効果がある。
【0086】
ヒドラジド類の具体例としては、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカンジオヒドラジドなどを用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上混合して用いてもよい。
【0087】
ヒドラジド類含有量は、インク組成物中で0.1質量%以上、5質量%以下であることが好ましい。0.1質量%以上とすることで、タイヤ及び加飾層への密着性の向上の効果がみられるようになるため好ましく、5質量%以下とすることでインク中へ容易に溶解することができるようになるため好ましい。
【0088】
表面保護層組成物の硬化膜の厚さは、1μm以上100μm以下であることが好ましい。1μm以上とすることで、加飾層を適切に保護することができるようになるため、好ましい。100μm以下とすることで、保護層を形成するために過度に乾燥時間が長くなることがなくなるため、生産性の面で好ましい。
【0089】
<プライマー層>
タイヤ表面と加飾層との接着性を高めるため、タイヤ表面と加飾層との間にプライマー層が形成されていてもよい。
【0090】
プライマー層を構成するプライマー組成物として、上記シリコーン変性(メタ)アクリル系エマルジョンや、塩素化ポリオレフィン等を含む樹脂組成物が挙げられる。タイヤ基材への密着性、追従性、活性エネルギー線硬化型インク組成物との密着性、柔軟性等の点でTgが50℃以下のシリコーン変性(メタ)アクリル系エマルジョンを含むプライマー組成物が好ましい。また、接着性を高めるため、プライマー組成物に硬化剤を加えてもよい。
【0091】
プライマー組成物のシリコーン変性(メタ)アクリル系エマルジョン中の不揮発分量としては10質量%以上、80質量%以下が好ましく、20質量%以上、60質量%以下がより好ましい。10質量%以上であることで、プライマー層を形成するために乾燥時間が過度に長くなることがなくなるため、生産性が良い面で好ましい。80質量%以下とすることで、プライマー組成物を塗布性が向上する点で好ましい。
【0092】
硬化剤として、ポリイソシアネートが挙げられる。硬化剤の含有量は、プライマー剤100質量部に対して1質量部以上、50質量部以下であることが好ましい。1質量部以上とすることで、硬化剤を加えても接着性が有意に向上する点で好ましい。50質量部以下とすることで、基材への追従性が向上するため、好ましい。
【0093】
本発明では、被印刷基体は有色のタイヤである。そこで、印刷後の意匠性や発色性を向上するため、酸化チタン等の白色顔料、アルミペースト、パール顔料等の隠蔽性顔料をプライマー組成物に含有させることが好ましい。特に、印刷後の意匠性や発色性を向上するために、酸化チタンを含有するプライマー組成物が好ましい。
【0094】
プライマー剤が酸化チタンを含有する場合、酸化チタンの含有量は、プライマー剤100質量部に対して1質量部以上、50質量部以下であることが好ましい。1質量部以上にすることで、印刷後の意匠性や発色性が有意に向上する。50質量部以下にすることで、硬化膜の追従性等が向上する。
【0095】
プライマー層の厚さは、1μm以上100μm以下であることが好ましい。1μm以上であれば、プライマー層を設けた際に基材表面と加飾層との接着性が有意に向上し、隠蔽性顔料を含有するプライマー層の場合に加飾層を印刷後の意匠性や発色性が有意に向上するので好ましい。100μm以下であれば、プライマー剤を硬化させるための乾燥時間が短くなり、生産性の面で優れるので好ましい。
【0096】
プライマー剤の市販品として、酸化チタン及びシリコーン変性(メタ)アクリル系エマルジョンを含有するPR−12,PR−13(いずれもDNPファインケミカル社製)が挙げられる。
【0097】
<加飾タイヤの製造方法>
本発明の加飾タイヤの製造は、まず、活性エネルギー線硬化型インク組成物をタイヤ上に印刷した後、活性エネルギー線で硬化することによって加飾層の形成が行われる。
【0098】
加飾層の印刷は、インクジェット方式、スプレー方式、刷毛塗り方式等、どのような方式であっても良いが、装飾の自由度が高まる点で、インクジェット方式であることが好ましい。
【0099】
活性エネルギー線は、200〜450nmの波長域の光が好ましく、250〜430nmの波長域の光がより好ましい。光源は、特に限定されるものではなく、例えば、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、低圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、紫外線レーザー、太陽光、LEDランプ等が挙げられる。これらの光源を用い、積算光量が100mJ/cm
2以上、好ましくは200mJ/cm
2以上になるように活性エネルギー線を照射することにより、インク組成物を瞬時に硬化させることができる。
【0100】
次に、必要に応じてプライマー層が形成された後、表面保護層が形成される。表面保護層を形成する場合、組成物が均一に塗布される態様であればどのような方法であってもよく、例えば、スプレー塗布、タオル、スポンジ、不織布、ティッシュ等を用いた塗布、ディスペンサー、刷毛塗り、グラビア印刷、フレキソ印刷、シルクスクリーン印刷、インクジェット、熱転写方式等のいずれであってもよい。
【0101】
表面保護層組成物が上記のシリコーン変性(メタ)アクリル系エマルジョンである場合、エマルジョンを塗布乾燥する表面保護層形成工程においては、乾燥温度が30℃以上であることが好ましく、40℃以上であることがより好ましくい。これにより、加飾層への密着性に優れた硬化膜を得ることができる。
【実施例】
【0102】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
【0103】
〔色材を含有する活性エネルギー線硬化型インク組成物の調製〕
表1に示す割合で、インクA、インクB、インクC、インクD、インクEのインク組成物を調整した。高分子分散剤としては、日本ルーブリゾール社製のSOLSPERSE33000を用いた。
【0104】
【表1】
【0105】
〔表面保護層組成物の調製〕
表面保護層として、シリコーン変性アクリレート系樹脂エマルジョン1を100重量部(メーカー名 株式会社DNPファインケミカル、商品名OP−SA13、Tg-1℃、樹脂分40%)を調整した。その他、表2、表3に示す割合で、実施例及び比較例における表面保護層を調整した。
【0106】
〔加飾タイヤの製造〕
テーブル評価に供するため、JIS 3号試験片を作製して、JIS K6251に準拠して引張試験を行ったときの100%伸長時の弾性率が1.2MPaであるゴム基材を基材として印刷体を製造した。ゴム基材の表面に、表1に示す加飾層を構成する組成物を平均膜厚が40μmの厚さとなるように解像度720dpiの条件でインクジェット法で印字した。そして、SubZeroシステム(UVランプシステム,Integration Technology社製,Dバルブ,出力100W/cm)を用いて、積算光量が640mJ/cm
2、ピーク照度が640mW/cm
2、搬送速度が18m/minの条件でインク組成物を硬化した。積算光量及びピーク照度の測定は、紫外線光量計UV−351(オーク製作所社製)を用いて行った。これにより、加飾層を作製した。
【0107】
続いて、加飾層の表面に、表2及び表3に示す表面保護層を構成する組成物(エマルジョン状態、表中の粒径はシリコーン変性アクリルエマルジョンのエマルジョン粒径を示す)を、バーコーターを用いて乾燥後の平均膜厚が表2及び表3の平均膜厚となるように塗布し、表2及び表3の乾燥温度で乾燥して表面保護層を得るとともに、実施例及び比較例の加飾タイヤを得た。また加飾層の表面に表面保護層を設けないものを参考例として作製した。
【0108】
〔密着性の評価〕
硬化後の表面保護層にセロハン粘着テープを貼り付け、表面保護膜とセロハン粘着テープとを充分に密着した後、セロハン粘着テープを90度で剥離したときの表面保護膜の基材への密着の程度から判断した。評価はゴム基材上と加飾層上とで分けて行った。結果を表1及び表2に示す。なお、以下の評価項目において、良から劣について、◎>○>○△>△>×の5段階評価とした。
【0109】
<耐傷性の評価>
耐傷性の評価は、ポリブラシでサンプルを100往復擦ったときの外観を評価することによって行った。結果を表1及び表2に示す。
【0110】
〔耐水性の評価〕
耐水性は、試験体を室温の水道水に1週間浸漬し、その後の試験体を濡れたままにて90°曲げ試験を行うことによって塗膜の剥離状態を評価した。結果を表1及び表2に示す。
【0111】
〔耐候性の評価〕
耐候性は、試験体をJIS K 7350−2に準拠して試験を行い、キセノンアークウェザオメーターに100h暴露後の外観変化によって評価した。結果を表1及び表2に示す。
【0112】
〔破断伸びの評価〕
JIS 3号試験片を作製して、JIS K6251に準拠して引張試験を行ったときの100%伸長時の弾性率が1.0〜1.5MPaであるゴム基材上に厚さ10ミクロンの硬化膜として形成し、この硬化膜が形成された硬化膜形成基材を、ダンベル状6号形(JIS K6251−5)の試験片として、JIS K7161法にしたがい25℃で引張速度100mm/分で引張試験した際に、加飾層又は表面保護層の硬化膜の割れが生じるときの伸び率を硬化膜の破断伸び(%)とした。結果を表1及び表2に示す。
【0113】
〔走行性の評価〕
ドラム走行試験等に供するため、上記のテーブル試験用のゴム基材をタイヤ(製品名:SNWAKER,サイズ:155/65R13,ブリヂストン社製)基材に変更した点以外は、上記の同様にして、実施例及び比較例の加飾タイヤを製造した。
【0114】
加飾タイヤの走行性評価は、ドラム走行試験を行うことによって評価した。60km/hの速度でタイヤ走行試験を行い、塗膜の剥離や割れの有無を確認した。結果を表1及び表2に示した。
【0115】
【表2】
【0116】
【表3】
【0117】
シリコーン変性アクリルエマルジョン1:(メーカー名株式会社DNPファインケミカル、商品名、OP−SA13、Tg−1℃、樹脂分40%)
シリコーン変性アクリルエマルジョン2:(メーカー名株式会社DNPファインケミカル、商品名、OP−SA355、Tg−25℃、樹脂分40%)
シリコーン変性アクリルエマルジョン3:(メーカー名株式会社DNPファインケミカル、商品名、OP−SA356、Tg−25℃、樹脂分40%)
シリコーン変性アクリルエマルジョン4:(メーカー名株式会社DNPファインケミカル、商品名、OP−SA55、Tg35℃、樹脂分40%)
シリコーンオイル:(メーカー名株式会社ウィルソン、商品名、ブラックコーティング)
カーボネート変性ウレタンエマルジョン(メーカー名株式会社DNPファインケミカル、商品名、OP−U354、Tg−30℃、樹脂分35%)
架橋剤:アジピン酸ジヒドラジド
【0118】
表2、3の結果より、本発明の加飾タイヤにおいては、密着性、耐傷性、耐水性、耐候性、走行性のいずれにおいても○以上の評価であり、また、硬化膜の破断伸びも150%以上と高く、追従性に優れることが理解できる。