【文献】
Li, W. et al.,Org. Process Res. Dev.,2013年,vol.17,p.1061-1065
【文献】
Luo, R. et al.,Adv. Synth. Catal.,2013年,vol.355,p.1297-1302
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【技術分野】
【0001】
本発明は、一連の新規なキラル窒素−リン配位子及び、アルケン類の不斉水素化への適用のための触媒としての、それらの金属錯体に関する。より具体的には、本発明は、これらの新規な窒素−ホスフィン配位子の遷移金属錯体及びアルケン類の不斉水素化における触媒としてのそれらの使用に関する。
【0002】
発明の背景
鏡像異性的に純粋な、医薬、農薬、香味料その他のファインケミカル類を製造することに対する増大する需要が、不斉触媒技術の分野を進歩させてきた。効率的な不斉金属触媒変換の発展が、不斉触媒の進歩において中心的な役割を果たしてきた(Jacobsen, E. N., Pfaltz, A., Yamamoto, H., Eds., Comprehensive Asymmetric Catalysis, Springer, Berlin, 1999;Ojima, I., Ed, Catalytic Asymmetric Synthesis, VCH, New York, 1993;及びNoyori, R. Asymmetric Catalysis In Organic Synthesis, John Wiley & Sons, Inc., New York, 1994)。中でも最も成功を収めたものは、不斉水素化、不斉エポキシ化及びジヒドロキシル化であり、その効率、簡素さ及び実用性に対し、2001年にノーベル賞が授与されている。キラル配位子の設計は、新しい効率的な不斉金属触媒反応の開発において、非常に重要なものとなっており、またそうであり続けよう。
【0003】
分子状水素を用い、プロキラルなオレフィン類、ケトン類及びイミン類を還元する不斉水素化は、キラル化合物を構築するのに最も効率的な方法の1つになっている。これはまた、商業的規模での不斉触媒変換の主要な部分を担うものでもある。効率的なキラルリン配位子の開発は、不斉水素化の成功のために必須である。この分野において公知のキラルリン配位子には、KnowlesのDIPAMP[Knowles, W. S. Acc. Chem. Res. 1983, 16, 106]、KaganのDIOP[Kagan et al, J. Am. Chem. Soc. 1972, 94, 6429]、野依のBINAP[Noyori, R. Chem. Soc. Rev. 1989, 18, 187]、BurkのDuphos及びBPE[Burk, M. J. et al, Organometallics 1990, 9, 2653; Burk, M. J. et al, Angew. Chem., Int. Ed. Engl. 1990, 29, 1462]、今本のBisP*[Imamoto, T. et al, J. Am. Chem. Soc. 1997, 119, 1799]、ZhangのPennPhos[Zhang, X. et al, Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 1999, 38, 516]及びTangPhos[US2004/0229846及びZhang, X. et al, Angew. Chem. Int. Ed. 2002, 41, 1613]、Pfizerのtrichickenfootphos[WO2005/087370及びHoge, G. et al, J. Am. Chem. Soc.2004, 126, 5966]が含まれる。
【0004】
最近、本発明者らは、WO2011/056737に、堅固なモジュール式のP−キラルなジヒドロベンゾオキサホスホール核に由来する、新規な一連のBIBOP及びPOP配位子を記載した。これらの配位子は、エナミドおよびアミノ酸のような官能化オレフィン類のロジウム触媒不斉水素化において、高いエナンチオ選択性を示した。
【0005】
不斉水素化の分野において多大な進歩がなされ、多くの効率的なキラル配位子が開発されてきたが、種々のプロキラルな基質の水素化のための万能な配位子は存在しないので、新しい効率的な配位子の設計は依然として重要である。
【0006】
発明の概要
本発明者らは、一連の、空気に対して安定であり、調整が可能で(tunable)、不斉水素化において優れた反応性及びエナンチオ選択性を示した、新規で効率的なキラル窒素−リン配位子を開発した。高いエナンチオ選択性は、アルケン類の不斉水素化において達成された。
【0007】
発明の詳細な説明
略語
[IrCl(COD)]
2=クロロ(1,5−シクロオクタジエン)イリジウム(I)二量体
B(C
6H
5)
4−=テトラフェニルボラート
B[3,5−(CF
3)
2C
6H
3]
4−(BArF
−)=テトラキス[(3,5−トリフルオロメチル)フェニル]ボラート
BF
4−=テトラフルオロボラート
DCM=ジクロロメタン
EtOAc=酢酸エチル
EtOH=エタノール
HOAc=酢酸
IPA=イソプロピルアルコール
LDA=リチウムジイソプロピルアミド
MeOH=メタノール
MeTHF=2−メチルテトラヒドロフラン
NaBArF=ナトリウムテトラキス[(3,5−トリフルオロメチル)フェニル]ボラート
NaHMDS=ナトリウムへキサメチルジシラジド
PF
6−=へキサフルオロホスファート
PMHS=ポリメチルヒドロシラン
SbF
6−=へキサフルオロアンチモナート
TfO
−=トリフルオロメタンスルホナート
THF=テトラヒドロフラン
Ti(OiPr)
4=チタニウムテトライソプロポキシド
【0008】
最も広い態様において、本発明は、新規な窒素−ホスフィン配位子、本発明の前記新規な窒素−ホスフィン配位子を含む新規な金属錯体、及び前記新規な金属錯体を用いて、後述のような不斉水素化を実施する方法に関する。
【0009】
本発明の窒素-ホスフィン配位子
先に述べた通り、一実施態様では、本発明は、式(Ia)又は(Ib):
【化1】
[式中、
Xは、O、S、又は−NR
5であり;
R
1は、−(C
1−C
6)アルキル、−CF
3、−(C
3−C
10)カルボシクリル、−(5〜11員)ヘテロカルボシクリル、−(C
6−C
14)アリール、−(5〜11員)ヘテロアリール、又はフェロセニルであり;ここで、前記R
1である前記−(C
3−C
10カルボシクリル、−(5〜11員)ヘテロカルボシクリル、−(C
6−C
14)アリール及び−(5〜11員)ヘテロアリールは、−O(C
1−C
6)アルキル、−(C
1−C
6)アルキル及び−CF
3より独立に選択される1〜3個の置換基で任意選択的に置換されており;
R
2は、H、−O(C
1−C
6)アルキル、−(C
1−C
6)アルキル、−(C
3−C
10)カルボシクリル、−(5〜11員)ヘテロカルボシクリル、−(C
6−C
14)アリール、−(5〜11員)ヘテロアリール、−NR
5R
6、又は−SR
5であり;ここで、前記R
2である前記−(C
3−C
10)カルボシクリル、−(5〜11員)ヘテロカルボシクリル、−(C
6−C
14)アリール及び−(5〜11員)ヘテロアリールは、−O(C
1−C
6)アルキル、−(C
1−C
6)アルキル及び−CF
3より独立に選択される1〜3個の置換基で任意選択的に置換されており;
R
3は、1〜3個の(5〜6員)ヘテロアリールで置換されている−(C
1−C
6)アルキルであり;ここで、前記(5〜6員)ヘテロアリール環は、−O(C
1−C
6)アルキル、−N−(C
1−C
6アルキル)
2、−(C
1−C
6)アルキル、フェニル、(5〜11員)ヘテロアリール及び−CF
3より独立に選択される1〜3個のR
4置換基で任意選択的に置換されているか;又は、
R
3は、−O(C
1−C
6)アルキル、−N−(C
1−C
6アルキル)
2、−(C
1−C
6)アルキル、フェニル、(5〜11員)ヘテロアリール及び−CF
3より独立に選択される1〜3個のR
4置換基で任意選択的に置換されている(5〜11員)ヘテロアリールであり;
R
5及びR
6は、各々独立に、H、−(C
1−C
6)アルキル、−CF
3、−(C
3−C
10)カルボシクリル、−(5〜11員)ヘテロカルボシクリル、−(C
6−C
10)アリール、又は−(5〜11員)ヘテロアリールであり;ここで、前記R
5及びR
6である前記−(C
1−C
6)アルキル、−CF
3、−(C
3−C
10)カルボシクリル、−(5〜11員)ヘテロカルボシクリル、−(C
6−C
10)アリール、及び−(5〜11員)ヘテロアリールは、ハロ、−O(C
1−C
6)アルキル、−(C
1−C
6)アルキル及び−CF
3より独立に選択される1〜3個の置換基で各々独立に任意選択的に置換されている]
で示される化合物、又はそれらの混合物(本発明の窒素−ホスフィン配位子)に関する。
【0010】
他の一実施態様では、本発明は、XがOである、直前に記載の態様に準ずる式(Ia)又は(Ib)で示される化合物、又はそれらの混合物に関する。
【0011】
他の一実施態様では、本発明は、XがSである、上記最広義の態様に準ずる式(Ia)又は(Ib)で示される化合物、又はそれらの混合物に関する。
【0012】
他の一実施態様では、本発明は、XがNR
5である、上記最広義の態様に準ずる式(Ia)又は(Ib)で示される化合物、又はそれらの混合物に関する。
【0013】
他の一実施態様では、本発明は、R
1が、−CH
3、−CH
2CH
3、−CH(CH
3)
2、−C(CH
3)
3、−C(CH
2CH
3)
3又は−C(CH
2CH
3)(CH
3)
2より選択される−(C
1−C
6)アルキルである、先行する態様のいずれかに準ずる式(Ia)又は(Ib)で示される化合物、又はそれらの混合物に関する。
【0014】
他の一実施態様では、本発明は、R
1が、シクロペンチル、シクロヘキシル及び1−アダマンチルより選択される−(C
3−C
10)カルボシクリルである、上記最広義の態様に準ずる式(Ia)又は(Ib)で示される化合物、又はそれらの混合物に関する。
【0015】
他の一実施態様では、本発明は、R
1が、フェニル、オルト−トリル、パラ−トリル、3,5−ジメチルフェニル、3,5−ジ−t−ブチルフェニル、3,5−ジ−CF
3−フェニル、オルト−CF
3−フェニル、オルト−アニシル及びナフチルより選択される−(C
6−C
14)アリールである、上記最広義の態様に準ずる式(Ia)又は(Ib)で示される化合物、又はそれらの混合物に関する。
【0016】
他の一実施態様では、本発明は、R
2が、H、−CH
3、又は−OCH
3である、先行する態様のいずれかに準ずる式(Ia)又は(Ib)で示される化合物、又はそれらの混合物に関する。
【0017】
他の一実施態様では、R
2が、−O(C
1−C
6)アルキル、−(C
1−C
6)アルキル及び−CF
3より独立に選択される1〜3個の置換基で各々任意選択的に置換されている、フェニル、ナフチル又はアントラセンである、上記最広義の態様に準ずる式(Ia)又は(Ib)で示される化合物、又はそれらの混合物に関する。
【0018】
他の一実施態様では、R
3が、1〜3個の(5〜6員)ヘテロアリールで置換されている−(C
1−C
6)アルキルであり;ここで、前記(5〜6員)ヘテロアリール環は、−O(C
1−C
6)アルキル、−(C
1−C
6)アルキル、フェニル及び−CF
3より独立に選択される1〜3個のR
4置換基で任意選択的に置換されている、上記最広義の態様に準ずる式(Ia)又は(Ib)で示される化合物、又はそれらの混合物に関する。
【0019】
他の一実施態様では、本発明は、R
3が、−O(C
1−C
6)アルキル、−(C
1−C
6)アルキル、フェニル及び−CF
3より独立に選択される1〜3個のR
4置換基で各々任意選択的に置換されている、−CH
2(キラル−オキサゾリン)又は−CH
2(オルト置換ピリジン)である、直前に記載の態様に準ずる式(Ia)又は(Ib)で示される化合物、又はそれらの混合物に関する。
【0020】
他の一実施態様では、本発明は、R
3が、−O(C
1−C
6)アルキル、−(C
1−C
6)アルキル、フェニル及び−CF
3より独立に選択される1〜3個のR
4置換基で各々任意選択的に置換されている、オルト置換ピリジン、オキサゾリン及びキラル−オキサゾリンより選択される−(5〜6員)ヘテロアリールである、上記最広義の態様に準ずる式(Ia)又は(Ib)で示される化合物、又はそれらの混合物に関する。
【0021】
他の一実施態様では、本発明は、下記式:
【化2】
で示される化合物(Ia)に関する。
【0022】
他の一実施態様では、本発明は、下記式:
【化3】
で示される化合物(Ib)に関する。
【0023】
本発明の金属錯体
先に述べた通り、本発明は、遷移金属と、本発明の窒素-ホスフィン配位子の間で形成される錯体に関する。したがって、一実施態様では、本発明は、式(IIa)又は(IIb):
【化4】
[式中、
Mは、Co、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Ru、Fe、Rh及びIrより選択される遷移金属であり;
A
−は、対アニオンであり;
nは、前記遷移金属Mの酸化状態であり;
L
1及びL
2は、各々オレフィンであるか、又は、L
1及びL
2は、一緒になってジオレフィンを示し;
Xは、O、S、又は−NR
5であり;
R
1は、−(C
1−C
6)アルキル、−CF
3、−(C
3−C
10)カルボシクリル、−(5〜11員)ヘテロカルボシクリル、−(C
6−C
14)アリール、−(5〜11員)ヘテロアリール、又はフェロセニルであり;ここで、前記R
1である前記−(C
3−C
10カルボシクリル、−(5〜11員)ヘテロカルボシクリル、−(C
6−C
14)アリール及び−(5〜11員)ヘテロアリールは、−O(C
1−C
6)アルキル、−(C
1−C
6)アルキル及び−CF
3より独立に選択される1〜3個の置換基で任意選択的に置換されており;
R
2は、H、−O(C
1−C
6)アルキル、−(C
1−C
6)アルキル、−(C
3−C
10)カルボシクリル、−(5〜11員)ヘテロカルボシクリル、−(C
6−C
14)アリール、−(5〜11員)ヘテロアリール、−NR
5R
6、又は−SR
5であり;ここで、前記R
2である前記−(C
3−C
10)カルボシクリル、−(5〜11員)ヘテロカルボシクリル、−(C
6−C
14)アリール及び−(5〜11員)ヘテロアリールは、−O(C
1−C
6)アルキル、−(C
1−C
6)アルキル及び−CF
3より独立に選択される1〜3個の置換基で任意選択的に置換されており;
R
4は、−O(C
1−C
6)アルキル、−(C
1−C
6)アルキル、フェニル及び−CF
3より選択され;
R
5及びR
6は、各々独立に、H、−(C
1−C
6)アルキル、−CF
3、−(C
3−C
10)カルボシクリル、−(5〜11員)ヘテロカルボシクリル、−(C
6−C
10)アリール、又は−(5〜11員)ヘテロアリールであり;ここで、前記R
5及びR
6である前記−(C
1−C
6)アルキル、−CF
3、−(C
3−C
10)カルボシクリル、−(5〜11員)ヘテロカルボシクリル、−(C
6−C
10)アリール、及び−(5〜11員)ヘテロアリールは、ハロ、−O(C
1−C
6)アルキル、−(C
1−C
6)アルキル及び−CF
3より独立に選択される1〜3個の置換基で独立に任意選択的に置換されている]
で示される金属錯体(本発明の金属錯体)に関する。
【0024】
他の一実施態様では、本発明は、MがIrであり、nが1である、本発明の金属錯体に関する。
【0025】
他の一実施態様では、本発明は、A
−がBF
4−、SbF
6−、TfO
−、B(C
6H
5)
4−、B[3,5−(CF
3)
2C
6H
3]
4−(BArF
−)又はPF
6−である、直前に記載の二態様のいずれかに準ずる本発明の金属錯体に関する。
【0026】
他の一実施態様では、本発明は、MがIrであり、A
−がBArF
−であり、nが1である、直前に記載の三態様のいずれかに準ずる本発明の金属錯体に関する。
【0027】
他の一実施態様では、本発明は、
R
1が−C(CH
3)
3であり、
R
2が、−OCH
3又は−(C
6−C
14)アリールであり;ここで、前記−(C
6−C
14)アリールは、−O(C
1−C
6)アルキル、−(C
1−C
6)アルキル及び−CF
3より独立に選択される1〜3個の置換基で任意選択的に置換されている、
直前に記載の四態様のいずれかに準ずる本発明の金属錯体に関する。
【0028】
他の一実施態様では、本発明は、L
1及びL
2が一緒になって、ノルボルナジエン及びシクロオクタジエンより選択されるジオレフィンを示す、本発明の金属錯体に関する。
【0029】
他の一実施態様では、本発明は、式(IIa)で示される、本発明の金属錯体に関する。
【0030】
他の一実施態様では、本発明は、MがIrであり、A
−がBArF
−であり、nが1である、直前に記載の態様に準ずる本発明の金属錯体に関する。
【0031】
他の一実施態様では、本発明は、L
1及びL
2が一緒になって、ノルボルナジエン及びシクロオクタジエンより選択されるジオレフィンを示す、直前に記載の態様に準ずる本発明の金属錯体に関する。
【0032】
他の一実施態様では、本発明は、式(IIb)で示される、本発明の金属錯体に関する。
【0033】
他の一実施態様では、本発明は、MがIrであり、A
−がBArF
−であり、nが1である、直前に記載の態様に準ずる本発明の金属錯体に関する。
【0034】
他の一実施態様では、本発明は、L
1及びL
2が一緒になって、ノルボルナジエン及びシクロオクタジエンより選択されるジオレフィンを示す、直前に記載の態様に準ずる本発明の金属錯体に関する。
【0035】
他の一実施態様では、本発明は、L
1及びL
2が一緒になって、ノルボルナジエン及びシクロオクタジエンより選択されるジオレフィンを示し、窒素-ホスフィン配位子は、下記式:
【化5】
で示される、直前に記載の態様に準ずる本発明の金属錯体に関する。
【0036】
他の一実施態様では、本発明は、L
1及びL
2が一緒になってシクロオクタジエンを示し、窒素-ホスフィン配位子は、下記式:
【化6】
で示される、直前に記載の態様に準ずる本発明の金属錯体に関する。
【0037】
不斉水素化
一実施態様では、本発明は、炭素−炭素又は炭素−ヘテロ原子二重結合を有する化合物の不斉水素化方法(本発明の不斉水素化方法)であって、触媒量の、上記態様のいずれかに記載の本発明の金属錯体の存在下に、前記炭素−炭素又は炭素−ヘテロ原子二重結合を有する化合物を、水素と反応させる工程を含む方法に関する。炭素−ヘテロ原子二重結合の限定的でない例には、炭素と、窒素、酸素又は硫黄の間に形成されたものが含まれる。好ましい実施態様では、炭素−ヘテロ原子二重結合は、炭素と窒素、又は炭素と酸素の間に形成される。
【0038】
他の一実施態様では、本発明は、L
1及びL
2が一緒になってノルボルナジエンを示す、直前に記載の態様における本発明の不斉水素化方法に関する。
【0039】
他の一実施態様では、本発明は、L
1及びL
2が一緒になってオクタジエンを示す、上記最広義の態様における本発明の不斉水素化方法に関する。
【0040】
他の一実施態様では、本発明は、MがIrであり、A
−がBArF
−であり、nが1である、上記態様のいずれかにおける本発明の不斉水素化方法に関する。
【0041】
特に明記しない限り、用語「本発明の化合物」は、本発明のホスフィン配位子(本発明のビス−ホスフィン配位子を含む)及び本発明の金属錯体をいう。
【0042】
本願明細書においてこれまでに開示された全ての化合物に関し、命名法が構造と矛盾している場合、その化合物は構造により定義されていると理解されるものとする。
【0043】
本発明の化合物は、その同位体標識形態をも包含する。本発明の化合物の同位体標識の一形態は、本発明の前記化合物の1個以上の原子が、自然界で通常見出される前記原子の原子量又は質量数とは異なる原子量又は質量数を有する1個又は複数の原子により置き換えられているという事実以外は、本発明の前記化合物と同一である。容易に商業的に入手可能であり、かつ十分確立された手順に従って本発明の組み合わせの活性剤に組み込むことができる同位体の例には、水素、炭素、窒素、酸素、リン、フッ素及び塩素の同位体、例えば、それぞれ、
2H、
3H、
13C、
14C、
15N、
18O、
17O、
31P、
32P、
35S、
18F及び
36Clが含まれる。1個以上の上記同位体及び/又は他の原子の他の同位体を含有する本発明の化合物は、本発明の範囲内にあることが意図される。
【0044】
本発明は、ラセミ体及びラセミ混合物、単一の鏡像異性体、ジアステレオマー混合物ならびに個々のジアステレオマーとして生じうる、1個以上の不斉炭素原子を含有する任意の上記化合物の使用を包含する。異性体は、鏡像異性体及びジアステレオマーである、と定義されるものとする。これらの化合物のそのような全ての異性体形態は、明白に、本発明に包含される。各ステレオジェニック(stereogenic)炭素は、R又はS配置、あるいはそれらの配置の組み合わせで存在してよい。
【0045】
本発明の化合物の幾つかは、複数の互変異性体形態で存在することができる。本発明は、そのような全ての互変異性体を使用する方法を包含する。
【0046】
本明細書中で使用する全ての用語は、特に明記しない限り、当技術分野で知られているとおりの通常の意味で理解されるものとする。例えば、「C
1−C
6アルコキシ」又は「O(C
1−C
6)アルキル」は、末端に酸素を有する(C
1−C
6)アルキル、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシである。全てのアルキル、アルケニル、及びアルキニル基は、構造的に可能な場合で、かつ別に特定しない限り、分岐鎖状又は非分岐鎖状であると理解されるものとする。他のより具体的な定義は以下のとおりである。
【0047】
用語「アルキル」は、分岐鎖状及び非分岐鎖状アルキル基の両方をいう。「アルキ(alk)」又は「アルキル」の接頭辞を使用する任意の組み合わせの用語は、「アルキル」の上記定義に従う類似体をいうことが理解されよう。例えば、「アルコキシ」、「アルキルチオ」などの用語は、酸素又は硫黄原子を介して第二の基に結合しているアルキル基をいう。「アルカノイル」は、カルボニル基(C=O)に結合しているアルキル基をいう。
【0048】
全てのアルキル基又は炭素鎖において、1個以上の炭素原子は、O、S又はNなどのヘテロ原子により任意選択的に置き換えられることができる。Nが置換されていない場合、それはNHであると理解されるものとする。また、ヘテロ原子は、分岐鎖状又は非分岐鎖状炭素鎖内の末端の炭素原子又は内部の炭素原子のいずれと置き換わってよいと理解されるものとする。そのような基は、本明細書で上述のとおり、オキソなどの基により置換されることができ、その結果、アルコキシカルボニル、アシル、アミド及びチオキソ(これらに限定されない)などの定義がもたらされる。本明細書で使用されるとき、「窒素」及び「硫黄」には、窒素及び硫黄の任意の酸化形態ならびに任意の塩基性窒素の四級化形態が含まれる。例えば、−S−(C
1−C
6)アルキルラジカルについては、別に特定しない限り、−S(O)−(C
1−C
6)アルキル及び−S(O)
2−(C
1−C
6)アルキルを包含すると理解されるものとする。
【0049】
用語「−(C
3−C
10)炭素環」は、非芳香族3〜10員(しかし、好ましくは、3〜6員)単環式炭素環式ラジカル、あるいは非芳香族6〜10員縮合二環式、架橋二環式、又はスピロ環式炭素環式ラジカルをいう。C
3−C
10炭素環は、飽和又は部分不飽和のいずれであってもよく、炭素環は環の任意の原子により結合されていてもよく、その結果、安定な構造が生成される。3〜10員単環式炭素環の非限定的な例には、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロペンテニル、シクロヘキシル、シクロヘキセニル、シクロヘプタニル、シクロヘプテニル及びシクロヘキサノンが含まれる。6〜10員縮合二環式炭素環式ラジカルの非限定的な例には、ビシクロ[3.3.0]オクタン、ビシクロ[4.3.0]ノナン及びビシクロ[4.4.0]デカニル(デカヒドロナフタレニル)が含まれる。6〜10員架橋二環式炭素環式ラジカルの非限定的な例には、ビシクロ[2.2.2]ヘプタニル、ビシクロ[2.2.2]オクタニル及びビシクロ[3.2.1]オクタニルが含まれる。6〜10員スピロ環式炭素環式ラジカルの非限定的な例には、スピロ[3,3]ヘプタニル、スピロ[3,4]オクタニル及びスピロ[4,4]ヘプタニルが含まれるが、これらに限定されない。
【0050】
用語「(C
6−C
14)アリール」は、6〜14個の炭素環原子を含有する芳香族炭化水素環をいう。用語C
6−C
14アリールは、環の少なくとも1個が芳香族である単環式環、二環式環及び三環式環を包含する。C
6−14アリールの非限定的な例には、フェニル、インダニル、インデニル、ベンゾシクロブタニル、ジヒドロナフチル、テトラヒドロナフチル、ナフチル、アントラセニル、ベンゾシクロヘプタニル及びベンゾシクロヘプテニルが含まれる。
【0051】
用語「(5〜11員)複素環」は、安定な非芳香族4〜8員単環式複素環式ラジカル又は安定な非芳香族6〜11員縮合二環式、架橋二環式又はスピロ環式複素環式ラジカルをいう。5〜11員複素環は、炭素原子、ならびに窒素、酸素、リン及び硫黄より選択される1個以上、好ましくは1〜4個のヘテロ原子からなる。複素環は、飽和又は部分不飽和のいずれであってもよい。非芳香族4〜8員単環式複素環式ラジカルの非限定的な例には、テトラヒドロフラニル、アゼチジニル、ピロリジニル、ピラニル、テトラヒドロピラニル、ジオキサニル、チオモルホリニル、1,1−ジオキソ−1λ
6−チオモルホリニル、モルホリニル、ピペリジニル、ピペラジニル及びアゼピニルが含まれる。非芳香族6〜11員縮合二環式ラジカルの非限定的な例には、オクタヒドロインドリル、オクタヒドロベンゾフラニル及びオクタヒドロベンゾチオフェニルが含まれる。非芳香族6〜11員架橋二環式ラジカルの非限定的な例には、2−アザビシクロ[2.2.1]ヘプタニル、3−アザビシクロ[3.1.0]ヘキサニル及び3−アザビシクロ[3.2.1]オクタニルが含まれる。非芳香族6〜11員スピロ環式複素環式ラジカルの非限定的な例には、7−アザ−スピロ[3,3]ヘプタニル、7−スピロ[3,4]オクタニル、及び7−アザ−スピロ[3,4]オクタニルが含まれる。
【0052】
用語「(5〜11員)ヘテロアリール」は、環の少なくとも1個が芳香族である、芳香族5〜6員単環式ヘテロアリール又は芳香族7〜11員ヘテロアリール二環式環(ここで、ヘテロアリール環は、N、O、P及びSなどの1〜4個のヘテロ原子を含有する)をいう。5〜6員単環式ヘテロアリール環の非限定的な例には、フラニル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、オキサジアゾリル、チアゾリル、ピラゾリル、ピロリル、イミダゾリル、テトラゾリル、トリアゾリル、チエニル、チアジアゾリル、ピリジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、ピラジニル、トリアジニル及びプリニルが含まれる。7〜11員ヘテロアリール二環式ヘテロアリール環の非限定的な例には、ベンゾイミダゾリル、キノリニル、ジヒドロ−2H−キノリニル、イソキノリニル、キナゾリニル、インダゾリル、チエノ[2,3−d]ピリミジニル、インドリル、イソインドリル、ベンゾフラニル、ベンゾピラニル、ベンゾジオキソリル、ベンゾオキサゾリル及びベンゾチアゾリルが含まれる。
【0053】
(C
3−10)炭素環式環、(5〜11員)複素環式環、二環式アリール環の非芳香族部分及び二環式ヘテロアリール環の非芳香族部分のそれぞれにおける1〜3個の炭素環部分は、独立して、カルボニル、チオカルボニル又はイミニル部分で置き換えられることができることが理解されるであろう。
【0054】
本明細書で使用される用語「ヘテロ原子」は、O、N、P及びSなどの、炭素以外の原子を意味すると理解されるものとする。
【0055】
本明細書で使用される用語「ハロゲン」は、臭素、塩素、フッ素又はヨウ素を意味すると理解されるものとする。定義「ハロゲン化」、「部分又は完全ハロゲン化」、部分又は完全フッ素化、「1個以上のハロゲン原子により置換されている」には、例えば、1個以上の炭素原子上のモノ、ジ又はトリハロ誘導体が含まれる。アルキルについては、非限定的な例は、−CH
2CHF
2、−CF
3などであろう。
【0056】
本明細書に記載の各アルキル、炭素環、複素環もしくはヘテロアリール、又はその類似体は、任意選択的に、部分的又は完全にハロゲン化されていると理解されるものとする。
【0057】
本明細書で使用される用語「オレフィン」は、二重結合により結合されている炭素原子を含有する不飽和炭化水素(即ち、アルケン)、例えば、エチレン、プロペン、1−ブテン、2−ブテン、スチレン、ノルボルナジエン又はシクロオクタジエンなどをいう。用語「ジオレフィン」は、2対の二重結合により結合されている炭素原子を含有する不飽和炭化水素、例えば、ノルボルナジエン又はシクロオクタジエンをいう。
【0058】
本発明の化合物は、以下に記載の一般的合成方法を使用して製造してもよく、それらも本発明の一部分を構成する。
【0059】
一般的合成方法
本発明はまた、式Ia、Ib、IIa及びIIbの化合物の製造方法を提供する。全ての方法において、別に特定しない限り、下記の式におけるR
1、R
2、R
3、R
4、L
1、L
2、A、M及びnは、本明細書において上述の本発明の式Ia、Ib、IIa及びIIbにおける、R
1、R
2、R
3、R
4、L
1、L
2、A、M及びnの意味を有するものとする。
【0060】
最適な反応条件及び反応時間は、使用する特定の反応物に応じて変化しうる。別に特定しない限り、溶媒、温度、圧力、及び他の反応条件は、当技術分野で通常の知識を有する者が容易に選択しうる。具体的な手順は実施例部分に与えられている。典型的には、反応の進行は、所望により薄層クロマトグラフィー(TLC)により監視することができ、中間体及び生成物を、シリカゲル上のクロマトグラフィー及び/又は再結晶化により精製することができる。以下の実施例は説明的なものであり、当業者には理解されるとおり、個々の化合物について、必要に応じて、過度の実験を行わずに具体的な試薬又は条件を改変することが可能である。
【0061】
出発物質及び試薬は、市販されているか、又は化学文献に記載の方法を使用して当業者が調製することのできるものである。式Ia、Ib、IIa及びIIbの最初の生成物を、当技術分野で公知の方法により更に改変して、式Ia、Ib、IIa及びIIbの更なる化合物を製造することができる。
【0062】
XがOである、式Ia、Ibの化合物は、スキーム1に示すとおり調製しうる。
【化7】
【0063】
スキーム1に示すように、ジメトキシフェニルリチウムVIを、適切な溶媒中、アルキルマグネシウムクロリド及び過酸化水素の存在下で、式VIIのジクロロホスフィンと反応させて、式VIIIのホスフィンオキシドを得る。ホスフィンオキシドVIIIを、適切な溶媒中、適切な塩基の存在下でヨード化して、式IXのヨード化中間体を得る。化合物IXのメトキシ基を、三臭化ホウ素(BBr
3)などの試薬により脱メチル化し、続いて環化して、対応する式Xの環化中間体を得る。中間体Xを、(−)クロロギ酸メンチルなどの分割剤を使用して分割して、対応する式XIaの(S)異性体を得る。化合物XIaのヒドロキシル基を、文献において公知の標準的な反応条件下で、メトキシ、アリールなどの他の基に改変して、式XIIaの化合物を得てもよい。化合物式XIIaの合成は、WO2011/056737に記載されている。
交互に、中間体を、(+)クロロギ酸メンチルなどの分割剤を使用して分割して、対応する(R)異性体XXIbを得て、それを、スキーム1記載の方法により、式Ibの化合物に変換してもよい。
【0064】
化合物XIIa中のホスフィンオキシドを適切な条件下で還元して、化合物XIIIaを得る。化合物XIIIaを、適切な溶媒中、適切な塩基の存在下でのヘテロアリールスルホンR
3SO
2Phとの反応により、式Iaの化合物に更に変換し、式Iaの化合物を得ることもできる。
【0065】
式IIa及びIIbの化合物は、スキーム2に従って調製しうる。
【化8】
【0066】
スキーム2に示すとおり、式Iaの化合物を、適切な溶媒中で、遷移金属塩[M(L
1L
2)]
n+nA
−と反応させて、式IIaの化合物を得る。同様に、式Ibの化合物から出発して、対応する式IIbの化合物を得る。
【0067】
他の一実施態様では、本発明は、薬学的に活性な化合物の合成において有用な中間体を提供する、適切な条件下、本発明の触媒の存在下における、炭素−炭素又は炭素−窒素二重結合を含むプロキラル分子の不斉水素化に関する。
【0068】
本発明の全ての化合物は、上記及び下記の実施例部分に記載の方法により調製しうる。
【0069】
実施例
【化9】
i.PhSO
2Na(1.5当量)、水性HOAc中90℃で14時間;ii.NaOMe((1.1当量)、THF、室温;iii.LDA(3.0当量)、THF中−78℃で2時間;iv.PMHS(2当量)、Ti(OiPr)
4(2当量)、THF、65℃で14時間
【0070】
スルホニル化されたピリジン類を合成するための手順
アルゴン雰囲気下、2−クロロピリジン2a(1.135g、10.0mmol)を、HOAc5mLに添加する。次に、フェニルスルフィン酸ナトリウム塩(2.477g、15.0mmol)を添加する。得られた反応混合物を、95℃で24時間撹拌する。反応完結後、混合物を冷却し、水を添加し(10mL)、混合物をMeTHF(50mL)で抽出する。有機層をNaHCO
3溶液(10mL)で1回洗浄し、濃縮する。3aをシリカゲル上、50%ヘキサン/EtOAcで溶出して精製し、溶媒除去後、白色固体2.0g(収率90%)を生成する。
【0071】
【表1】
【0072】
2,6−ビス(フェニルスルホニル)ピリジン(4d)
N
2でパージされた反応器に、2,6‐ジクロロピリジン10.0g(67.57mmol)、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム16.64g(101.4mmol)、塩化テトラブチルアンモニウム5.6g(20.73mmol)及びN,N‐ジメチルアセトアミド100mLを入れる。混合物を100℃に加熱し、4時間撹拌する。次に、別の一部のベンゼンスルフィン酸ナトリウム16.64g(101.4mmol)を入れ、反応器の内容物を、転化率95%超を得るまで100℃で14時間撹拌する。混合物を室温に冷却し、水300mLを添加すると、白色沈殿物の形成を観測する。スラリーを室温で1時間撹拌する。固体を濾過し、イソプロパノール20mLで洗浄し、減圧下50℃で乾燥させて、21.6gの2を収率89%で白色固体として与える;融点178.1〜180.4℃。
【0073】
【表2】
【0074】
2−メトキシ−6−(フェニルスルホニル)ピリジン(3d)
N
2でパージされた反応器に、5.0g(13.9mmol)の4d及び無水THF50mLを入れる。得られたスラリーを、MeONa(MeOH中25wt%)(1.1当量)で滴下処理する。得られたスラリーを室温で1時間撹拌し、完全な転化をLC−MSで観測する。スラリーを濾過し、IPAで洗浄し、オーブン中50℃で一晩乾燥させて、1.94gの3dを白色固体として与える。母液を濃縮し、IPA 15mLを添加し、完全に溶解するまで混合物を加温する。混合物を10℃に冷却し、1時間保持する。第2生成群(second crop)の固体を濾過により回収し、乾燥させて、白色の固体である3dを更に1.17g与え、合計収率90%となる;融点74.6〜75.8℃。
【0075】
【表3】
【0076】
2−フェニル−6−(フェニルスルホニル)ピリジン(3e)
撹拌されている、THF10mL中ビス−(フェニルスルホニル)ピリジン4d(1.0g、2.78mmol)の溶液に、1.0M PhMgBr(5.56mL、2.0当量)を、10分間かけてゆっくり入れる。反応の進行をLC−MSで監視する。出発物質が完全に消費されたら(約2時間)、混合物をMeOH(2mL)でクエンチする。次に、粗混合物を蒸発乾固させ、フラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン中15%酢酸エチル)で生成物を単離し、乾燥させて、656mgの3eを白色固体として生成する;収率80%。
【0077】
【表4】
【0078】
ホスフィンオキシド類を合成するための手順
(2R,3S)−3−(tert−ブチル)−4−メトキシ−2−(ピリジン−2−イル)−2H−ベンゾ[d][1,3]オキサホスホール 3−オキシド(5a)
アルゴン下、中間体1a(1.0g、4.163mmol)及びピリジンスルホン3a(0.913g、4.163mmol)を無水THF10mLに溶解する。混合物をドライアイス/アセトン浴で−78℃に冷却する。撹拌されている溶液を、LDA2.64mL(12.5mmol)(THF/エチルベンゼン中2.0M)で滴下処理する。更に1時間、内部の温度を−70℃未満に維持する。反応が完結したら−78℃でMeOHでクエンチする。混合物を室温に加温し、更に2時間撹拌する。反応混合物は、PH≧12の塩基性とすべきである。必要であれば、NaOH(30wt%)水溶液を添加する。次に、混合物を最小の体積まで濃縮する。水及びCH
2Cl
2を添加して混合物を希釈する。有機層を更にCH
2Cl
2で抽出し、無水Na
2SO
4で乾燥させる。CH
2Cl
2溶液を濃縮し、シリカゲル上CH
2Cl
2中5%MeOHで化合物5aを精製して、乾燥後、白色固体1.2g(収率91%)を生成する;融点186.1〜188.5℃。
【0079】
【表5】
【0080】
(2R,3S)−3−(tert−ブチル)−4−フェニル−2−(ピリジン−2−イル)−2H−ベンゾ[d][1,3]オキサホスホール 3−オキシド(5b)
CH
2Cl
2中0〜2%MeOHでの精製後、化合物5b(1.09g)を収率72%で白色固体として単離する;融点99.2〜101.6℃。
【0081】
【表6】
【0082】
(2R,3S)−3−(tert−ブチル)−4−(2,6−ジメトキシフェニル)−2−(ピリジン−2−イル)−2H−ベンゾ[d][1,3]オキサホスホール 3−オキシド(5c)
100%EtOAcでの精製後、化合物5c(1.37g)を収率78%で白色固体として単離する;融点186.0〜188.4℃。
【0083】
【表7】
【0084】
(2R,3S)−4−(アントラセン−9−イル)−3−(tert−ブチル)−2−(ピリジン−2−イル)−2H−ベンゾ[d][1,3]オキサホスホール 3−オキシド(5d)
CH
2Cl
2中0〜2%MeOHでの精製後、化合物5d(1.73g)を収率90%で白色固体として単離する;融点243〜246℃(分解)。
【0085】
【表8】
【0086】
(2R,3S)−3−(tert−ブチル)−4−メトキシ−2−(6−メトキシピリジン−2−イル)−2H−ベンゾ[d][1,3]オキサホスホール 3−オキシド(5g)
ヘキサン中80%EtOAcでの精製後、化合物5g(1.18g)を収率82%で白色固体として単離する;融点164.9〜167.2℃。
【0087】
【表9】
【0088】
(2R,3S)−3−(tert−ブチル)−4−メトキシ−2−(6−フェニルピリジン−2−イル)−2H−ベンゾ[d][1,3]オキサホスホール 3−オキシド(5h)
ヘキサン中50%EtOAcでの精製後、化合物5h(1.16g)を収率71%で白色固体として単離する;融点172.2〜174.3℃。
【0089】
【表10】
【0090】
ホスフィンオキシド類を還元するための手順
アルゴン下、シュレンクフラスコへ、THF10mLにホスフィンオキシド5a(500mg、1.576mmol)を溶解する。1.0mLのPMHS及び0.93mL(3.152mmol)のTi(OiPr)
4を添加する。得られた混合物を、アルゴン下、65℃で14時間撹拌する。反応の完結を、混合物の一部試料(aliquots)の
31P−NMRで監視する。完結したら、混合物に、脱気された30%NaOH水溶液(20mL)をゆっくり添加し、65℃で1時間撹拌させておく。次に、混合物を室温に冷却し、THFを濃縮する。生成物を、脱気されたtert−ブチルメチルエーテルで抽出(3×30mL)し、頂部に無水MgSO
4を乗せた中性アルミナの栓(plug)を通して有機層を濾過する。減圧下で溶媒を蒸発させた後、410mgの6aを白色固体として得る(収率86%)。
【0091】
【表11】
【0092】
2−((2R,3R)−3−(tert−ブチル)−4−フェニル−2,3−ジヒドロベンゾ[d][1,3]オキサホスホール−2−イル)ピリジン(6b)
化合物6b(383mg)を収率70%で白色固体として単離する。
【0093】
【表12】
【0094】
2−((2R,3R)−3−(tert−ブチル)−4−(2,6−ジメトキシフェニル)−2,3−ジヒドロベンゾ[d][1,3]オキサホスホール−2−イル)ピリジン(6c)
化合物6c(407mg)を収率75%で白色固体として単離する。
【0095】
【表13】
【0096】
2−((2R,3R)−4−(アントラセン−9−イル)−3−(tert−ブチル)−2,3−ジヒドロベンゾ[d][1,3]オキサホスホール−2−イル)ピリジン(6d)
化合物6d(613mg)を収率87%で白色固体として単離する。
【0097】
【表14】
【0098】
2−((2R,3R)−3−(tert−ブチル)−4−メトキシ−2,3−ジヒドロベンゾ[d][1,3]オキサホスホール−2−イル)−6−メトキシピリジン(6g)
上記と同様の手順に従い、2.1mLのPMHSを追加して、化合物6g(465mg)を収率89%で白色固体として調製する。
【0099】
【表15】
【0100】
2−((2R,3R)−3−(tert−ブチル)−4−メトキシ−2,3−ジヒドロベンゾ[d][1,3]オキサホスホール−2−イル)−6−フェニルピリジン(6h)
化合物6h(386mg)を収率65%で白色固体として単離する。
【0101】
【表16】
【0102】
式IIa及びIIbの化合物の合成
イリジウム錯体類を合成するための手順
【化10】
v.[Ir(COD)Cl]
2(0.5当量)、40℃、0.5時間;vi.NaBArF(1.0当量)、H
2O、室温、1〜12時間
【0103】
{2−((2R,3R)−3−(tert−ブチル)−4−メトキシ−2,3−ジヒドロベンゾ[d][1,3]オキサホスホール−2−イル)ピリジン}(η
4−1,5−シクロオクタジエン)イリジウム(I)テトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボラート(7a)
脱気されたCH
2Cl
2(6mL)中の6a(100mg、0.332mmol)及び[IrCl(COD)]
2(115.0mg、0.166mmol)の溶液を、アルゴン下に45℃で1時間加熱する。室温に冷却後、NaBArF(318mg、0.348mmol)、次いで直ちに脱気された水10mLを添加する。二層を30分間激しく撹拌する。層を分離した後、水層をCH
2Cl
2(2mL)で2回抽出する。合わせた有機層をNa
2SO
4で乾燥させ、1mLに濃縮する。次に、アルゴン下、CH
2Cl
2を溶離剤として用い、混合物を短いシリカの栓に通す。第一の橙色画分の中心部を回収し、乾燥させて、413mgの化合物6aを収率85%で赤橙色固体として与える。
【0104】
【表17】
【0105】
{2−((2R,3R)−3−(tert−ブチル)−4−フェニル−2,3−ジヒドロベンゾ[d][1,3]オキサホスホール−2−イル)ピリジン}(η
4−1,5−シクロオクタジエン)イリジウム(I)テトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボラート(7b)
化合物7b(375mg)を収率75%で赤橙色固体として単離する。
【0106】
【表18】
【0107】
{2−((2R,3R)−3−(tert−ブチル)−4−(2,6−ジメトキシフェニル)−2,3−ジヒドロベンゾ[d][1,3]オキサホスホール−2−イル)ピリジン}(η
4−1,5−シクロオクタジエン)イリジウム(I)テトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボラート(7c)
化合物7c(418mg)を収率86%で赤橙色固体として単離する。
【0108】
【表19】
【0109】
{2−((2R,3R)−4−(アントラセン−9−イル)−3−(tert−ブチル)−2,3−ジヒドロベンゾ[d][1,3]オキサホスホール−2−イル)ピリジン}(η
4−1,5−シクロオクタジエン)イリジウム(I)テトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボラート(7d)
化合物7d(427mg)を収率82%で赤橙色固体として単離する。
【0110】
【表20】
【0111】
錯体7g
NaBArFの添加後、
31P−NMRが完全転化を示すまで、混合物を室温で12時間撹拌する。上記と同様の後処理(work up)の後、化合物7g(431mg)を収率87%で淡黄色固体として単離する。
【0112】
【表21】
【0113】
錯体7f
NaBArFの添加後、混合物を室温で30分間撹拌する。
31P−NMRで完全転化が観測される。化合物7f(404mg)を淡黄色固体として単離する(収率79%)。
【0114】
【表22】
【0115】
一般的不斉水素化手順
乾燥したガラスインサート及びマグネチックスターラーバー付き高圧用鋼鉄製オートクレーブ(HEL CAT 24)をグローブボックスに入れる。ガラスインサートに、アルケン基質8a(20mg、0.138mmol)、触媒7a(4.0mg、0.0028mmol)及び0.5mLのDCMを装填する。水素化容器を密閉してグローブボックスから出す。反応器をN
2、次にH
2でパージし、適切なH
2圧及び温度下で、20時間撹拌する。次に、反応器をベントし、9aの転化率及び鏡像体過剰率(ee)をキラルHPLCで測定する。
2,3−ジメチルインデン、即ち化合物8aの四置換炭素−炭素二重結合の還元における本発明のイリジウム触媒の使用を下記表1に示す。
【0116】
【表23】
【0117】
表2に纏められた結果は、例示的な本発明の金属錯体7cが、三及び四置換二重結合のエナンチオ選択的な水素化に関し効率的であることを示している。
【0118】
【表24】