特許第6393345号(P6393345)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6393345圧粉コア、該圧粉コアの製造方法、該圧粉コアを備える電気・電子部品、および該電気・電子部品が実装された電気・電子機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6393345
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】圧粉コア、該圧粉コアの製造方法、該圧粉コアを備える電気・電子部品、および該電気・電子部品が実装された電気・電子機器
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/26 20060101AFI20180910BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20180910BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20180910BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
   H01F1/26
   H01F41/02 D
   H01F27/255
   H01F1/153 108
   H01F1/153 133
   H01F1/153 175
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-570495(P2016-570495)
(86)(22)【出願日】2015年10月29日
(86)【国際出願番号】JP2015080505
(87)【国際公開番号】WO2016117201
(87)【国際公開日】20160728
【審査請求日】2017年6月12日
(31)【優先権主張番号】特願2015-10578(P2015-10578)
(32)【優先日】2015年1月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプス電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】松井 政夫
(72)【発明者】
【氏名】丸山 智史
(72)【発明者】
【氏名】水嶋 隆夫
【審査官】 右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−219147(JP,A)
【文献】 特開2010−238929(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/139368(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/095496(WO,A1)
【文献】 特開2007−134591(JP,A)
【文献】 特開2001−126941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/26
H01F 1/153
H01F 27/255
H01F 41/02
H01F 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性粉末を含む成形体と、前記成形体の外装コートと、を備える圧粉コアであって、
前記外装コートは、ポリアミドイミド変性エポキシ樹脂を含有すること
を特徴とする圧粉コア。
【請求項2】
前記軟磁性粉末は、鉄系材料およびニッケル系材料の少なくとも一方の粉末を含有する、請求項1に記載の圧粉コア。
【請求項3】
前記軟磁性粉末は、結晶質磁性材料の粉末を含有する、請求項1または請求項2に記載の圧粉コア。
【請求項4】
前記軟磁性粉末は、非晶質磁性材料の粉末を含有する、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の圧粉コア。
【請求項5】
前記軟磁性粉末はナノ結晶磁性材料の粉末を含有する、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の圧粉コア。
【請求項6】
前記軟磁性粉末は、結晶質磁性材料非晶質磁性材料ナノ結晶磁性材料のうちの2種以上を混合したものである請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の圧粉コア。
【請求項7】
前記成形体は、前記軟磁性粉末と結着成分とを備え、前記結着成分は、樹脂系材料を含むバインダー成分の熱分解残渣からなる、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の圧粉コア。
【請求項8】
請求項7に記載される圧粉コアの製造方法であって、
前記軟磁性粉末と前記バインダー成分とを備える混合物の加圧成形を含む成形処理により成形製造物を得る成形工程、
前記成形工程により得られた成形製造物を加熱して、前記軟磁性粉末と前記バインダー成分の熱分解残渣からなる結着成分とを備える前記成形体を得る加熱処理工程、および
ポリアミドイミド樹脂およびその前駆体の少なくとも一方、ならびにエポキシ化合物を含む液状組成物を前記成形体と接触させ、前記成形体の表面を含む領域に前記液状組成物に基づく層を形成し、前記液状組成物に基づく層に含まれる前記エポキシ化合物が有するエポキシ基の反応を進行させて、ポリアミドイミド変性エポキシ樹脂を含む外装コートを形成する外装コート形成工程を備えること
を特徴とする圧粉コアの製造方法。
【請求項9】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載される圧粉コア、コイルおよび前記コイルのそれぞれの端部に接続された接続端子を備える電気・電子部品であって、
前記圧粉コアの少なくとも一部は、前記接続端子を介して前記コイルに電流を流したときに前記電流により生じた誘導磁界内に位置するように配置されていること
を特徴とする電気・電子部品。
【請求項10】
請求項9に記載される電気・電子部品を備えることを特徴とする電気・電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧粉コア、該圧粉コアの製造方法、該圧粉コアを備える電気・電子部品、および該電気・電子部品が実装された電気・電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
データセンターのサーバー内の電源回路、ハイブリッド自動車等の昇圧回路、発電、変電設備等の電気・電子機器には、リアクトル、トランス、チョークコイル等の電気・電子部品が用いられている。こうした電気・電子部品には、磁性部材として圧粉コアが使用される場合がある。かかる圧粉コアは、多数の軟磁性粉末を圧粉成形し、得られた成形体を熱処理することにより得ることができる。
【0003】
圧粉コアは上記のとおり軟磁性粉末の成形体であるため、機械的強度を高める観点から外装コートを備える場合がある。この点に関し、特許文献1には、軟磁性金属粉末を非磁性材料で結合したインダクタ用複合磁性材料であって、前記非磁性材料は、前記軟磁性金属粉末に添加混合された成形助剤と、前記軟磁性金属粉末・成形助剤成形体を熱処理した後に結合材として該軟磁性金属粉末・成形助剤成形体に含浸された含浸樹脂とを有し、前記含浸樹脂は大気圧下での熱硬化温度が180℃以上であることを特徴とする複合磁性材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3145832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の圧粉コアを有する電気・電子部品を備える電気・電子機器の使用環境は様々であって、外気温が高い、発熱部品の近傍に位置する、などの理由により、圧粉コアが100℃近い環境で使用される場合がある。このような高温の環境で使用されると、圧粉コアを構成する材料が熱変性することがある。材料の変性が圧粉コアの磁気特性、特にコアロスを変化させると、圧粉コアからの発熱量が増加して、圧粉コアの熱変性を助長してしまうこともある。このような高温環境下で使用されたことに基づく圧粉コアの磁気特性の変化は、圧粉コアを有する電気・電子部品の動作安定性に影響を与えることが懸念される。したがって、上記の高温環境下で使用されても、磁気特性が変化しにくい圧粉コアが求められている。また、上記の高温環境下で使用された場合に、圧粉コアの機械的強度が適切な範囲内に維持されることも求められている。
【0006】
本発明は、高温環境下で使用されても磁気特性が変化しにくく、機械特性にも優れる圧粉コア、該圧粉コアの製造方法、該圧粉コアを備える電気・電子部品、および該電気・電子部品が実装された電気・電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために提供される本発明の一態様は、軟磁性粉末を含む成形体と、前記成形体の外装コートと、を備える圧粉コアであって、前記外装コートは、ポリアミドイミド変性エポキシ樹脂(本明細書において、かかる樹脂を「PAI−Ep樹脂」と略記する場合もある。)を含有することを特徴とする圧粉コアである。
【0008】
PAI−Ep樹脂を含有する外装コートを備える本発明に係る圧粉コアは、従来使用されていたシリコーン系の樹脂(特にメチルフェニルシリコーン樹脂)を含有する外装コートを備える圧粉コアに比べて、高温環境(具体的には250℃の環境)に長時間(具体的には100時間以上)置かれた場合であっても、磁気特性、特にコアロスが変化しにくい。しかも、高温環境下に長時間置かれた場合であっても、実用的な機械的強度を維持することが可能である。
【0009】
上記の本発明に係る圧粉コアにおいて、前記軟磁性粉末は、鉄系材料およびニッケル系材料の少なくとも一方の粉末を含有していてもよい。鉄系材料やニッケル系材料には比較的酸化しやすい材料が含まれ、その酸化は高温環境下に置かれると顕著となる場合もある。本発明に係る圧粉コアの成形体が含む軟磁性粉末がこのような酸化しやすい材料の粉末を含有する場合であっても、本発明に係る圧粉コアは、PAI−Ep樹脂を含有する外装コートを備えるため、磁気特性の変化が生じにくい。
【0010】
上記の本発明に係る圧粉コアにおいて、前記軟磁性粉末は、結晶質磁性材料の粉末を含有してもよい。上記の本発明に係る圧粉コアにおいて、前記軟磁性粉末は、非晶質磁性材料の粉末を含有してもよい。上記の本発明に係る圧粉コアにおいて、前記軟磁性粉末は、ナノ結晶磁性材料の粉末を含有してもよい。また、前記軟磁性粉末は、結晶質磁性材料非晶質磁性材料ナノ結晶磁性材料より選ばれる2種以上を混合したものであっても良い。
【0011】
上記の本発明に係る圧粉コアにおいて、前記成形体は、前記軟磁性粉末と結着成分とを備え、前記結着成分は、樹脂系材料を含むバインダー成分の熱分解残渣からなるものであってもよい。本発明に係る圧粉コアが備える成形体が上記の熱分解残渣を備える場合には、成形体内部に空隙が生じやすい。本発明に係る圧粉コアは、この空隙を埋めるようにPAI−Ep樹脂が位置することができるため、軟磁性粉末を構成する材料の酸化に起因する圧粉コアの磁気特性の変化が生じにくい。
【0012】
本発明の他の一態様は、上記の本発明に係る圧粉コアの製造方法であって、前記軟磁性粉末と前記バインダー成分とを備える混合物の加圧成形を含む成形処理により成形製造物を得る成形工程、前記成形工程により得られた成形製造物を加熱して、前記軟磁性粉末と前記バインダー成分の熱分解残渣からなる結着成分とを備える前記成形体を得る加熱処理工程、およびポリアミドイミド樹脂およびその前駆体の少なくとも一方、ならびにエポキシ化合物を含む液状組成物を前記成形体と接触させ、前記成形体の表面を含む領域に前記液状組成物に基づく層を形成し、前記液状組成物に基づく層に含まれる前記エポキシ化合物が有するエポキシ基の反応を進行させて、ポリアミドイミド変性エポキシ樹脂を含む外装コートを形成する外装コート形成工程を備えることを特徴とする圧粉コアの製造方法である。上記の方法によれば、バインダー成分の熱分解残渣からなる結着成分を含有する圧粉コアを効率的に製造することが可能である。
【0013】
本発明の別の一態様は、上記の本発明に係る圧粉コア、コイルおよび前記コイルのそれぞれの端部に接続された接続端子を備える電気・電子部品であって、前記圧粉コアの少なくとも一部は、前記接続端子を介して前記コイルに電流を流したときに前記電流により生じた誘導磁界内に位置するように配置されていることを特徴とする電気・電子部品である。
【0014】
本発明のまた別の一態様は、上記の本発明に係る電気・電子部品を備えることを特徴とする電気・電子機器である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る圧粉コアは、高温環境(具体的には250℃の環境)に長時間(具体的には100時間以上)置かれた場合であっても、磁気特性、特にコアロスが変化しにくい。しかも、高温環境下に長時間置かれた場合であっても、実用的な機械的強度を維持することが可能である。したがって、本発明に係る圧粉コアは、高温環境下で使用されても磁気特性が変化しにくく、機械特性にも優れる。また、本発明によれば、上記の圧粉コアを備える電気・電子部品、および該電気・電子部品が実装された電気・電子機器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る圧粉コアの形状を概念的に示す斜視図である。
図2】造粒粉を製造する方法の一例において使用されるスプレードライヤー装置およびその動作を概念的に示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る圧粉コアを備える電子部品であるトロイダルコアの形状を概念的に示す斜視図である。
図4】実施例における比透磁率の変化率(単位:%)の加熱時間依存性を示すグラフである。
図5】実施例におけるコアロスの変化率(単位:%)の加熱時間依存性を示すグラフである。
図6】実施例における圧環強度の加熱前後の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳しく説明する。
1.圧粉コア
図1に示す本発明の一実施形態に係る圧粉コア1は、その外観がリング状であって、軟磁性粉末を含む成形体と、成形体の外装コートと、を備える。本発明の一実施形態に係る圧粉コア1は、外装コートがPAI−Ep樹脂を含有する。限定されない一例として、軟磁性粉末を、圧粉コア1に含有される他の材料(同種の材料である場合もあれば、異種の材料である場合もある。)に対して結着させる結着成分を含有する。
【0018】
(1)成形体
(1−1)軟磁性粉末
本発明の一実施形態に係る圧粉コア1の成形体が含む軟磁性粉末は、鉄を含有する鉄系材料およびニッケルを含有するニッケル系材料の少なくとも一方の粉末を含有していてもよい。鉄系材料やニッケル系材料の中には酸化しやすい材料もある。本発明の一実施形態に係る圧粉コア1の成形体が含む軟磁性粉末が、そのような酸化しやすい材料を含有する場合であっても、後述するように、本発明の一実施形態に係る圧粉コア1は、PAI−Ep樹脂を含有する外装コートを備えるため、軟磁性粉末の酸化が生じにくい。それゆえ、かかる軟磁性粉末の酸化に起因する圧粉コア1の磁気特性の変化が生じにくい。この軟磁性粉末の酸化の抑制が、PAI−Ep樹脂を含有する外装コートを備えることにより高温環境下で使用されても磁気特性が変化しにくい圧粉コアが得られる理由の一つである可能性がある。
【0019】
本発明の一実施形態に係る圧粉コア1の成形体が含む軟磁性粉末は、結晶質磁性材料の粉末を含有してもよい。本明細書において、「結晶質磁性材料」とは、その組織が結晶質からなるものであって、強磁性体、特に軟磁性体である材料を意味する。本発明の一実施形態に係る圧粉コア1の成形体が含む軟磁性粉末は、結晶質磁性材料の粉末からなるものであってもよい。結晶質磁性材料の具体例として、Fe−Si−Cr系合金、Fe−Ni系合金、Ni−Fe系合金、Fe−Co系合金、Fe−V系合金、Fe−Al系合金、Fe−Si系合金、Fe−Si−Al系合金、カルボニル鉄および純鉄が挙げられる。
【0020】
本発明の一実施形態に係る圧粉コア1の成形体が含む軟磁性粉末は、非晶質磁性材料の粉末を含有してもよい。本明細書において、「非晶質磁性材料」とは、組織中の非晶質の部分の体積が全体の50%超であって、強磁性体、特に軟磁性体である材料を意味する。本発明の一実施形態に係る圧粉コア1の成形体が含む軟磁性粉末は、非晶質磁性材料の粉末からなるものであってもよい。非晶質磁性材料の具体例として、Fe−Si−B系合金、Fe−P−C系合金およびCo−Fe−Si−B系合金が挙げられる。上記の非晶質磁性材料は1種類の材料から構成されていてもよいし複数種類の材料から構成されていてもよい。非晶質磁性材料の粉末を構成する磁性材料は、上記の材料からなる群から選ばれた1種または2種以上の材料であることが好ましく、これらの中でも、Fe−P−C系合金を含有することが好ましく、Fe−P−C系合金からなることがより好ましい。
【0021】
なお、上記非晶質磁性材料のFe−P−C系合金の具体例として、組成式が、Fe100at%-a-b-c-x-y-z-tNiaSnbCrcxyzSitで示され、0at%≦a≦10at%、0at%≦b≦3at%、0at%≦c≦6at%、6.8at%≦x≦13.0at%、2.2at%≦y≦13.0at%、0at%≦z≦9.0at%、0at%≦t≦7at%であるFe基非晶質合金が挙げられる。上記の組成式において、Ni,Sn,Cr,BおよびSiは任意添加元素である。
【0022】
Niの添加量aは、0at%以上7at%以下とすることが好ましく、4at%以上6.5at%以下とすることがより好ましい。Snの添加量bは、0at%以上2at%以下とすることが好ましく、0at%以上1at%以下とすることがより好ましい。Crの添加量cは、0at%以上2.5at%以下とすることが好ましく、1.5at%以上2.5at%以下とすることがより好ましい。Pの添加量xは、8.8at%以上とすることが好ましい場合もある。Cの添加量yは、2.2at%以上9.8at%以下とすることが好ましい場合もある。Bの添加量zは、0at%以上8.0at%以下とすることが好ましく、0at%以上2at%以下とすることがより好ましい。Siの添加量tは、0at%以上6at%以下とすることが好ましく、0at%以上2at%以下とすることがより好ましい。
【0023】
本発明の一実施形態に係る圧粉コア1の成形体が含む軟磁性粉末は、ナノ結晶磁性材料の粉末を含有してもよい。本明細書において、「ナノ結晶磁性材料」とは、平均結晶粒径が数nm〜数十nmの結晶粒が組織の少なくとも50%を超える部分に均一に析出してなるナノ結晶組織を有し、強磁性体、特に軟磁性体である材料を意味する。ナノ結晶磁性材料は、ナノ結晶粒以外の組織が非晶質であってもよいし、全てがナノ結晶組織であってもよい。本発明の一実施形態に係る圧粉コア1の成形体が含む軟磁性粉末は、ナノ結晶磁性材料の粉末からなるものであってもよい。ナノ結晶磁性材料の具体例としてFe−Cu−M(ここで、Mは、Nb、Zr、Ti、V、Mo、Hf、Ta、Wより選ばれる1種または2種以上の金属元素)−Si−B系合金、Fe−M−B系合金、Fe−Cu−M−B系合金等が挙げられる。
【0024】
本発明の一実施形態に係る圧粉コア1の成形体が含む軟磁性粉末は、1種類の粉末から構成されていてもよいし、複数種類の混合体であってもよい。この混合体の具体例として、結晶質磁性材料、非晶質磁性材料、ナノ結晶磁性材料のうちの2種以上を混合したものが挙げられる。さらに具体的には、例えば、本発明の一実施形態に係る圧粉コア1の成形体が含む軟磁性粉末は、結晶質磁性材料の粉末と非晶質磁性材料の粉末との混合体であってもよいし、非晶質磁性材料の粉末であって、その一部がナノ結晶磁性材料の粉末であってもよい。
【0025】
本発明の一実施形態に係る圧粉コア1が含有する軟磁性粉末の形状は限定されない。軟磁性粉末の形状は球状であってもよいし非球状であってもよい。非球状である場合には、鱗片状、楕円球状、液滴状、針状といった形状異方性を有する形状であってもよいし、特段の形状異方性を有しない不定形であってもよい。不定形の軟磁性粉末の例として、球状の軟磁性粉末の複数が、互いに接して結合していたり、他の軟磁性粉末に部分的に埋没するように結合していたりする場合が挙げられる。このような不定形の軟磁性粉末は、軟磁性粉末がカルボニル鉄の粉末である場合に観察されやすい。
【0026】
軟磁性粉末の形状は、軟磁性粉末を製造する段階で得られた形状であってもよいし、製造された軟磁性粉末を二次加工することにより得られた形状であってもよい。前者の形状としては、球状、楕円球状、液滴状、針状などが例示され、後者の形状としては、鱗片状が例示される。
【0027】
本発明の一実施形態に係る圧粉コア1が含有する軟磁性粉末の粒径は限定されない。かかる粒径を、メジアン径D50(レーザー回折散乱法により測定された軟磁性粉末の粒径の体積分布における体積累積値が50%のときの粒径)により規定すれば、通常、1μmから45μmの範囲とされる。取扱い性を高める観点、圧粉コア1の成形体における軟磁性粉末の充填密度を高める観点などから、軟磁性粉末の平均粒径D50は、2μm以上30μm以下とすることが好ましく、3μm以上15μm以下とすることがより好ましく、4μm以上13μm以下とすることが特に好ましい。
【0028】
(1−2)結着成分
結着成分は、本発明の一実施形態に係る圧粉コア1に含有される軟磁性粉末を固定することに寄与する材料である限り、その組成は限定されない。結着成分を構成する材料として、樹脂材料および樹脂材料の熱分解残渣(本明細書において、これらを「樹脂材料に基づく成分」と総称する。)等の有機系の材料、無機系の材料などが例示される。樹脂材料として、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂などが例示される。無機系の材料からなる結着成分は水ガラスなどガラス系材料が例示される。結着成分は一種類の材料から構成されていてもよいし、複数の材料から構成されていてもよい。結着成分は有機系の材料と無機系の材料との混合体であってもよい。
【0029】
結着成分として、通常、絶縁性の材料が使用される。これにより、圧粉コア1としての絶縁性を高めることが可能となる。
【0030】
本発明の一実施形態に係る圧粉コア1の成形体は、具体的な一例として、軟磁性粉末とバインダー成分とを含む混合物の加圧成形を含む成形処理を備える製造方法により製造されたものである。本明細書において、「バインダー成分」とは結着成分を与える成分であって、バインダー成分は、結着成分からなる場合もあれば、結着成分と異なる材料である場合もある。
【0031】
バインダー成分が結着成分と異なる場合の具体例として、本発明の一実施形態に係る圧粉コア1の成形体が備える結着成分が、樹脂系材料を含むバインダー成分の熱分解残渣からなる場合が挙げられる。この熱分解残渣の生成にあたり、バインダー成分の一部は分解・揮発する。このため、圧粉コア1が備える成形体が上記の熱分解残渣を備える場合には、成形体内に、具体的には、成形体における最近位に位置する軟磁性粉末同士の間に空隙が生じる場合がある。このような場合であっても、本発明に係る圧粉コア1は、この空隙の少なくとも一部を埋めるようにPAI−Ep樹脂を含有する外装コートが位置することができるため、軟磁性粉末を構成する材料の酸化に起因する圧粉コアの磁気特性の変化が生じにくい。
【0032】
(2)外装コート
本発明の一実施形態に係る圧粉コア1は、外装コートを備える。外装コートは、成形体の機械的強度の向上などを目的として、成形体の少なくとも一部を覆うように設けられる層である。成形体は、軟磁性粉末を含む混合物を加圧成形することを含んで形成されるものであるから、その表面は、軟磁性粉末に由来する凹凸を有している場合がある。また、混合物がバインダー成分を含む場合であって、成形体がバインダー成分の熱分解残渣を含む場合には、上記のように、成形体は空隙を有することがある。こうした場合には、外装コートを構成する材料は、成形体の表面のみならず、表面からある程度内部に入った領域まで存在していてもよい。すなわち、外装コートは、成形体に対して含浸構造を有していてもよい。
【0033】
本発明の一実施形態に係る圧粉コア1が備える外装コートは、PAI−Ep樹脂を含有する。かかる外装コートの限定されない製造方法の一例は次のとおりである。まず、ポリアミドイミド樹脂およびその前駆体の少なくとも一方、ならびにエポキシ化合物を含む液状組成物を成形体と接触させ、成形体の表面を含む領域に上記の液状組成物に基づく層を形成する。この液状組成物に基づく層を加熱などして、エポキシ化合物が有するエポキシ基の反応を進行させて、ポリアミドイミド樹脂とエポキシ化合物との反応物であるPAI−Ep樹脂を含む層からなる外装コートを形成する。
【0034】
上記の液状組成物は、エポキシ基の反応が進行する前の状態にあるため粘度が比較的低く、成形体内に浸透しやすい。したがって、上記の製造方法により製造されたPAI−Ep樹脂を含む外装コートは、成形体に対する含浸構造を有しやすい。外装コートにおける成形体に対して含浸した部分は、アンカー効果をもたらし、外装コートの成形体に対する密着性を高める。また、液状組成物が成形体の内部に浸透することにより、成形体を構成する軟磁性粉末のうち、直接的または間接的に液状組成物に覆われたものが多くなる。このため、本発明の一実施形態に係る圧粉コア1を構成する軟磁性粉末は、外装コートを構成する材料により直接的または間接的に覆われやすい。それゆえ、本発明の一実施形態に係る圧粉コア1は、高温環境下に置かれた場合であっても、酸化に起因する磁気特性の変化が生じにくい。
【0035】
ここで、酸化の抑制の観点のみからは、ポリイミド樹脂などPAI−Ep樹脂と同等またはそれ以上の機能を有する材料が存在する。しかしながら、そのような材料は、ポリイミド樹脂のように、PAI−Ep樹脂よりもガラス転移点が高い場合が多い。このため、液状組成物を固化する工程を備える製造方法で形成する外装コートの材料として用いた場合には、固化の際に必要とされる加熱温度が高くなる。この加熱温度が高いということは、室温までの冷却温度幅が広いことを意味する。このため、ポリイミド樹脂を用いて外装コートを形成すると、外装コートを構成する材料の収縮の程度が大きくなって、軟磁性粉末にひずみを与えやすい。軟磁性粉末に残留するひずみ量が多い場合には、圧粉コア1の磁気特性を高めることが困難となりやすい。
【0036】
PAI−Ep樹脂が、ポリアミドイミド樹脂およびその前駆体の少なくとも一方、ならびにエポキシ化合物を含む液状組成物からなる場合において、ポリアミドイミド樹脂の具体的な構造(分子量や側鎖の構造等)は、エポキシ基と反応しうるカルボン酸基を有している限り、限定されない。溶剤に対する可溶性を有していることが好ましい場合もある。
【0037】
上記の液状組成物に含まれるエポキシ化合物の種類は限定されない。エポキシ基を2つ以上有していればよい。エポキシ化合物として、ビスフェノールA型のエポキシ化合物、ビスフェノールF型のエポキシ化合物、ビフェニル型のエポキシ化合物等の両末端にエポキシ基を有する化合物、ナフタレン型のエポキシ化合物、オルトクレゾールノボラック型のエポキシ化合物、ジシクロペンタジエンに基づく構成単位を有するエポキシ化合物等エポキシ基を多数有するオリゴマー型の化合物などが例示される。これらの中でも、エポキシ化合物は、ビスフェノールA型のエポキシ化合物およびジシクロペンタジエン型のエポキシ化合物からなる群から選ばれる1種以上の化合物からなることが好ましい場合がある。
【0038】
上記の液状組成物における、ポリアミドイミド樹脂およびその前駆体の少なくとも一方の含有量と、エポキシ化合物の含有量との関係は限定されない。ポリアミドイミド樹脂およびその前駆体の少なくとも一方から形成されるポリアミドイミド樹脂のカルボン酸当量と、エポキシ化合物のエポキシ当量とを考慮して設定すればよい。通常、ポリアミドイミド樹脂におけるすべてのカルボン酸基が、エポキシ化合物におけるすべてのエポキシ基と反応するように配合される。
【0039】
本発明の一実施形態に係る圧粉コア1が備える外装コートは、PAI−Ep樹脂を含み、好ましい一形態ではPAI−Ep樹脂からなるため、圧粉コア1が250℃の環境下に置かれた場合であっても、磁気特性の変化が生じにくい。具体的には、上記の環境下に200時間置かれた場合のコアロスの上昇率を30%以下とすることが可能である。また、上記の環境下に200時間置かれた場合の比透磁率の低下率を14%以下とすること(変化率を−14%以上とすること)が可能である。
【0040】
本発明の一実施形態に係る圧粉コア1が備える外装コートは、PAI−Ep樹脂を含み、好ましい一形態ではPAI−Ep樹脂からなるため、圧粉コア1が250℃の環境下に置かれた場合であっても、機械的強度の低下が生じにくい。具体的には、上記の環境下に200時間置かれた場合であっても圧環強度を20MPa程度またはそれ以上とすることが可能である。
【0041】
(3)圧粉コアの製造方法
上記の本発明の一実施形態に係る圧粉コア1の製造方法は特に限定されないが、次に説明する製造方法を採用すれば、圧粉コア1をより効率的に製造することが実現される。
【0042】
本発明の一実施形態に係る圧粉コア1の製造方法は、次に説明する、成形工程および外装コート工程を備え、さらに熱処理工程を備えていてもよい。
【0043】
(3−1)成形工程
まず、軟磁性粉末およびバインダー成分を含む混合物を用意する。この混合物の加圧成形を含む成形処理により成形製造物を得ることができる。加圧条件は限定されず、バインダー成分の組成などに基づき適宜決定される。例えば、バインダー成分が熱硬化性の樹脂からなる場合には、加圧とともに加熱して、金型内で樹脂の硬化反応を進行させることが好ましい。一方、圧縮成形の場合には、加圧力が高いものの、加熱は必要条件とならず、短時間の加圧となる。
【0044】
以下、混合物が造粒粉であって、圧縮成形を行う場合について、やや詳しく説明する。造粒粉は取り扱い性に優れるため、成形時間が短く生産性に優れる圧縮成形工程の作業性を向上させることができる。
【0045】
(3−1−1)造粒粉
造粒粉は、軟磁性粉末およびバインダー成分を含有する。造粒粉におけるバインダー成分の含有量は特に限定されない。かかる含有量が過度に低い場合には、バインダー成分が軟磁性粉末を保持しにくくなる。また、バインダー成分の含有量が過度に低い場合には、熱処理工程を経て得られた圧粉コア1中で、バインダー成分の熱分解残渣からなる結着成分が、複数の軟磁性粉末を互いに他から絶縁しにくくなる。一方、上記のバインダー成分の含有量が過度に高い場合には、熱処理工程を経て得られた圧粉コア1に含有される結着成分の含有量が高くなりやすい。圧粉コア1中の結着成分の含有量が高くなると、軟磁性粉末が結着成分から受ける応力の影響により圧粉コア1の磁気特性が低下しやすくなる。それゆえ、造粒粉中のバインダー成分の含有量は、造粒粉全体に対して、0.5質量%以上5.0質量%以下となる量にすることが好ましい。圧粉コア1の磁気特性が低下する可能性をより安定的に低減させる観点から、造粒粉中のバインダー成分の含有量は、造粒粉全体に対して、1.0質量%以上3.5質量%以下となる量にすることが好ましく、1.2質量%以上3.0質量%以下となる量にすることがより好ましい。
【0046】
造粒粉は、上記の軟磁性粉末およびバインダー成分以外の材料を含有してもよい。そのような材料として、潤滑剤、シランカップリング剤、絶縁性のフィラーなどが例示される。潤滑剤を含有させる場合において、その種類は特に限定されない。有機系の潤滑剤であってもよいし、無機系の潤滑剤であってもよい。有機系の潤滑剤の具体例として、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウムなどの金属石鹸が挙げられる。こうした有機系の潤滑剤は、熱処理工程において気化し、圧粉コア1にはほとんど残留していないと考えられる。
【0047】
造粒粉の製造方法は特に限定されない。上記の造粒粉を与える成分をそのまま混錬し、得られた混練物を公知の方法で粉砕するなどして造粒粉を得てもよいし、上記の成分に溶剤(溶媒・分散媒、水が一例として挙げられる。)を添加してなるスラリーを調製し、このスラリーを乾燥させて粉砕することにより造粒粉を得てもよい。粉砕後にふるい分けや分級を行って、造粒粉の粒度分布を制御してもよい。
【0048】
上記のスラリーから造粒粉を得る方法の一例として、スプレードライヤーを用いる方法が挙げられる。図2に示されるように、スプレードライヤー装置200内には回転子201が設けられ、装置上部からスラリーSを回転子201に向けて注入する。回転子201は所定の回転数により回転しており、スプレードライヤー装置200内部のチャンバーにてスラリーSを遠心力により小滴状として噴霧する。さらにスプレードライヤー装置200内部のチャンバーに熱風を導入し、これにより小滴状のスラリーSに含有される分散媒(水)を、小滴形状を維持したまま揮発させる。その結果、スラリーSから造粒粉Pが形成される。この造粒粉Pを装置200の下部から回収する。
【0049】
回転子201の回転数、スプレードライヤー装置200内に導入する熱風温度、チャンバー下部の温度など各パラメータは適宜設定すればよい。これらのパラメータの設定範囲の具体例として、回転子201の回転数として4000〜6000rpm、スプレードライヤー装置200内に導入する熱風温度として130〜170℃、チャンバー下部の温度として80〜90℃が挙げられる。またチャンバー内の雰囲気およびその圧力も適宜設定すればよい。一例として、チャンバー内をエアー(空気)雰囲気として、その圧力を大気圧との差圧で2mmHO(約0.02kPa)とすることが挙げられる。得られた造粒粉Pの粒度分布をふるい分けなどによりさらに制御してもよい。
【0050】
(3−1−2)加圧条件
圧縮成形における加圧条件は特に限定されない。造粒粉の組成、成形品の形状などを考慮して適宜設定すればよい。造粒粉を圧縮成形する際の加圧力が過度に低い場合には、成形品の機械的強度が低下する。このため、成形品の取り扱い性が低下する、成形品から得られた圧粉コア1の機械的強度が低下する、といった問題が生じやすくなる。また、圧粉コア1の磁気特性が低下したり絶縁性が低下したりする場合もある。一方、造粒粉を圧縮成形する際の加圧力が過度に高い場合には、その圧力に耐えうる成形金型を作成するのが困難になってくる。
【0051】
圧縮加圧工程が圧粉コア1の機械特性や磁気特性に悪影響を与える可能性をより安定的に低減させ、工業的に大量生産を容易に行う観点から、造粒粉を圧縮成形する際の加圧力は、0.3GPa以上2GPa以下とすることが好ましい場合があり、0.5GPa以上2GPa以下とすることがより好ましい場合があり、0.5GPa以上1.8GPa以下とすることが特に好ましい場合がある。
【0052】
圧縮成形では、加熱しながら加圧を行ってもよいし、常温で加圧を行ってもよい。
【0053】
(3−2)熱処理工程
成形工程により得られた成形製造物が本実施形態に係る圧粉コア1が備える成形体であってもよいし、次に説明するように成形製造物に対して熱処理工程を実施して成形体を得てもよい。
【0054】
熱処理工程では、上記の成形工程により得られた成形製造物を加熱することにより、軟磁性粉末間の距離を修正することによる磁気特性の調整および成形工程において軟磁性粉末に付与された歪を緩和させて磁気特性の調整を行って、成形体を得る。
【0055】
熱処理工程は上記のように成形体の磁気特性の調整が目的であるから、熱処理温度などの熱処理条件は、成形体の磁気特性が最も良好となるように設定される。熱処理条件を設定する方法の一例として、成形製造物の加熱温度を変化させ、昇温速度および加熱温度での保持時間など他の条件は一定とすることが挙げられる。
【0056】
熱処理条件を設定する際の成形体の磁気特性の評価基準は特に限定されない。評価項目の具体例として成形体のコアロスを挙げることができる。この場合には、成形体のコアロスが最低となるように成形製造物の加熱温度を設定すればよい。コアロスの測定条件は適宜設定され、一例として、周波数100kHz、最大磁束密度100mTとする条件が挙げられる。
【0057】
熱処理の際の雰囲気は特に限定されない。酸化性雰囲気の場合には、バインダー成分の熱分解が過度に進行する可能性や、軟磁性粉末の酸化が進行する可能性が高まるため、窒素、アルゴンなどの不活性雰囲気や、水素などの還元性雰囲気で熱処理を行うことが好ましい。
【0058】
(3−3)外装コート工程
上記の成形工程により得られた成形製造物からなる成形体、または成形製造物に対して上記の熱処理工程により得られた成形体に対して、PAI−Ep樹脂を含む外装コートを施す。
【0059】
具体的には、ポリアミドイミド樹脂およびその前駆体の少なくとも一方、ならびにエポキシ化合物を含む液状組成物を成形体と接触させ、成形体の表面を含む領域に上記の液状組成物に基づく層を形成する。この液状組成物に基づく層を加熱などして、エポキシ化合物が有するエポキシ基の反応を進行させて、ポリアミドイミド樹脂とエポキシ化合物との反応物であるPAI−Ep樹脂を含む層からなる外装コートを形成する。
【0060】
上記の液状組成物に含まれるポリアミドイミド樹脂およびその前駆体の少なくとも一方、ならびにエポキシ化合物については、前述のとおりであるから、説明を省略する。上記の液状組成物は溶剤を含有していてもよい。溶剤は、液状組成物に含まれる成分の少なくとも一部を適切に溶解し、かつ使用時に適切に揮発することを実現できれば、その種類は限定されない。溶剤の具体例として、酢酸ブチルなどのエステル系物質、メチルエチルケトンなどのケトン系の物質などが挙げられる。溶剤の使用量は、液状組成物全体の粘度などを考慮して設定される。
【0061】
上記の液状組成物に基づく層から外装コートを形成するための条件は、上記の液状組成物の組成に応じて適宜設定される。限定されない例を挙げれば、80℃〜120℃程度の温度で10分間〜30分間程度保持して溶剤を揮発させ、さらに、150℃〜250℃程度の温度で20分間〜2時間程度保持してエポキシ基の反応を進行させることにより、PAI−Ep樹脂を含む外装コートを得ることができる。
【0062】
3.電気・電子部品
本発明の一実施形態に係る電気・電子部品は、上記の本発明の一実施形態に係る圧粉コアを備える。具体的には、本発明の一実施形態に係る電気・電子部品は、圧粉コア、コイルおよびこのコイルのそれぞれの端部に接続された接続端子を備える。ここで、圧粉コアの少なくとも一部は、接続端子を介してコイルに電流を流したときにこの電流により生じた誘導磁界内に位置するように配置されている。
【0063】
このような電気・電子部品の一例として、図3に示されるトロイダルコイル10が挙げられる。トロイダルコイル10は、リング状の圧粉コア1に、被覆導電線2を巻回することによって形成されたコイル2aを備える。巻回された被覆導電線2からなるコイル2aと被覆導電線2の端部2b,2cとの間に位置する導電線の部分において、コイル2aの端部2d,2eを定義することができる。このように、本実施形態に係る電気・電子部品は、コイルを構成する部材と接続端子を構成する部材とが同一の部材から構成されていてもよい。
【0064】
本発明の一実施形態に係る電気・電子部品は、上記の本発明の一実施形態に係る圧粉コアを備えるため、電気・電子部品が高温環境(具体的には250℃の環境)に長時間(具体的には100時間以上)置かれた場合であっても、圧粉コアの磁気特性の変化に基づく電気・電子部品の特性の劣化が生じにくい。また、上記の環境に長時間置かれても圧粉コアが実用的な機械的強度を維持できるため、圧粉コアを用いた電気・電子部品の製造過程、かかる電気・電子部品を電気・電子機器の一部として実装したり組み込んだりする過程、得られた電気・電子機器の使用時において、他の部品との衝突等の外部からの機械的負荷や、急激な温度変化に起因する熱応力などが生じても、電気・電子部品が破損する不具合が生じにくい。
【0065】
本発明の一実施形態に係る電気・電子部品として、上記のトロイダルコイル10のほか、リアクトル、トランス、チョークコイルなどが例示される。
【0066】
4.電気・電子機器
本発明の一実施形態に係る電気・電子機器は、上記の本発明の一実施形態に係る圧粉コアを備える電気・電子部品を備える。具体的には、上記の電気・電子部品が実装されたものや、上記の電気・電子部品が組み込まれたものが例示される。そのような電気・電子機器のさらなる具体例として、電圧昇降圧回路、平滑回路、DC−DCコンバータ、AC−DCコンバータ等を備えたスイッチング電源装置や太陽光発電等に使用されるパワーコントロールユニット等が挙げられる。
【0067】
こうした本発明の一実施形態に係る電気・電子部品は、上記の本発明の一実施形態に係る圧粉コアを備える電気・電子部品を備えるため、高温環境(具体的には250℃の環境)に長時間(具体的には100時間以上)置かれた場合であっても、圧粉コアの磁気特性の低下や破損に起因する動作不良を生じにくい。したがって、本発明の一実施形態に係る電気・電子部品は、信頼性に優れる。
【0068】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各
要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例】
【0069】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0070】
(実施例1)
(1)Fe基非晶質合金粉末の作製
水アトマイズ法を用いて、Fe74.3at%Cr1.56at%8.78at%2.62at%7.57at%Si4.19at%なる組成になるように秤量して得られた非晶質磁性材料の粉末を軟磁性粉末として作製した。得られた軟磁性粉末の粒度分布は、日機装社製「マイクロトラック粒度分布測定装置 MT3300EX」を用いて体積分布で測定した。その結果、体積分布において50%となる粒径であるメジアン径D50は11μmであった。
【0071】
(2)造粒粉の作製
上記の軟磁性粉末を98.3質量部、アクリル系樹脂からなる絶縁性結着材を1.4質量部、およびステアリン酸亜鉛からなる潤滑剤0.3質量部を含み、水を溶剤とするスラリーを用意した。
【0072】
得られたスラリーを乾燥後に粉砕し、目開き300μmのふるいおよび850μmのふるいを用いて、300μm以下の微細な粉末および850μm以上の粗大な粉末を除去して、造粒粉を得た。
【0073】
(3)圧縮成形
得られた造粒粉を金型に充填し、面圧0.5〜2GPaで加圧成形して、外径20mm×内径12.8mm×厚さ6.8mmのリング形状を有する成形製造物を得た。
【0074】
(4)熱処理
得られた成形体を、窒素気流雰囲気の炉内に載置し、炉内温度を、室温(23℃)から昇温速度10℃/分で最適コア熱処理温度である300〜500℃まで加熱し、この温度にて1時間保持し、その後、炉内で室温まで冷却する熱処理を行い、成形体を得た。
【0075】
(5)外装コート
ポリアミドイミド樹脂(カルボン酸当量:1255g/eq)とビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量:189g/eq)とを溶剤に溶解させた液状組成物(粘度:1〜10mPa・s)を用意した。ポリアミドイミド樹脂におけるカルボン酸基の数と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂におけるエポキシ基との数とが等しくなるように、ポリアミドイミド樹脂の含有量およびビスフェノールA型エポキシ樹脂の含有量を設定した。
【0076】
得られた液状組成物中に、上記の成形体を15分間浸漬させた。その後、成形体を液状組成物中から取り出し、70℃にて30分間、その後100℃にて30分間乾燥させて、成形体の表面に液状組成物の塗膜を形成した。この塗膜を備えた成形体を170℃で1時間加熱して、成形体上に外装コートを備える圧粉コアを得た。
【0077】
(実施例2)
液状組成物を調製する際に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂に代えて、ジシクロペンタジエンに基づく構成単位を有するエポキシ化合物(エポキシ当量:265g/eq)を用いて、粘度が1〜10mPa・sの液状組成物を得たこと以外は、実施例1と同様にして、圧粉コアを得た。
【0078】
(実施例3)
液状組成物を調製する際に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂に代えて、オルトクレゾールノボラック型のエポキシ化合物(エポキシ当量:210g/eq)を用いて、粘度が1〜10mPa・sの液状組成物を得たこと以外は、実施例1と同様にして、圧粉コアを得た。
【0079】
(比較例1)
実施例1と同様にして、成形体を得た。メチルフェニル系シリコーン樹脂を溶剤にて溶解して粘度が1〜10mPa・sの液状組成物を調製した。得られた液状組成物中に、上記の成形体を15分間浸漬させた。その後、成形体を液状組成物中から取り出し、常温にて60分間乾燥させて、成形体の表面に液状組成物の塗膜を形成した。この塗膜を備えた成形体を250℃で1時間加熱して、成形体上に外装コートを備える圧粉コアを得た。
【0080】
(比較例2)
実施例1と同様にして、成形体を得た。エポキシ変性シリコーン樹脂を溶剤にて溶解して粘度が1〜10mPa・sの液状組成物を調製した。得られた液状組成物中に、上記の成形体を15分間浸漬させた。その後、成形体を液状組成物中から取り出し、70℃にて30分間乾燥させて、成形体の表面に液状組成物の塗膜を形成した。この塗膜を備えた成形体を170℃で1時間加熱して、成形体上に外装コートを備える圧粉コアを得た。
【0081】
(試験例1)比透磁率の変化率の測定
実施例および比較例により作製した圧粉コアに銅線の巻線を施してトロイダルコアを得た。このトロイダルコアについて、インピーダンスアナライザー(HP社製「4192A」)を用いて、周波数100kHzのときの比透磁率を測定した。この比透磁率を「初期比透磁率μ」という。
実施例および比較例により作製した圧粉コアを250℃の環境に所定時間静置し、静置後の圧粉コアについて、上記の要領で比透磁率を測定した。この比透磁率を「加熱後比透磁率μ」という。
下記式にて比透磁率の変化率Rμ(単位:%)を求めた。
Rμ=(μ−μ)/μ×100
比透磁率の変化率Rμを異なる加熱時間で測定した結果を表1および図4に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
(試験例2)コアロスの変化率の測定
実施例および比較例により作製した圧粉コアに銅線の巻線を施してトロイダルコアを得た。このトロイダルコアについて、BHアナライザー(岩崎通信機社製「SY−8218」)を用いて、周波数100kHz,最大磁束密度100mTの条件でコアロスを測定した。このコアロスを「初期コアロスW」という。
実施例および比較例により作製した圧粉コアを250℃の環境に所定時間静置し、静置後の圧粉コアについて、上記の要領でコアロスを測定した。このコアロスを「加熱後コアロスW」という。
下記式にて比透磁率の低下率RW(単位:%)を求めた。
RW=(W−W)/W×100
比透磁率の変化率RWを異なる加熱時間で測定した結果を表2および図5に示す。
【0084】
【表2】
【0085】
(試験例3)圧環強度の測定
実施例および比較例により作製した圧粉コアを、JIS Z2507:2000に準拠した試験方法により測定して、加熱前圧環強度(単位:MPa)を求めた。
実施例および比較例により別途作製した圧粉コアを、250℃の環境に200時間静置し、静置後の圧粉コアについて、JIS Z2507:2000に準拠した試験方法により測定して、加熱後圧環強度(単位:MPa)を求めた。
加熱前圧環強度および加熱後圧環強度の測定結果を表3および図6に示す。
【0086】
【表3】
【0087】
表1から3および図4から6に示されるように、本実施例に係る圧粉コアは、250℃の環境下に200時間置かれた後でも、比透磁率の低下率は13%以下であり、コアロスの増加率は30%以下であり、かつ圧環強度は20MPa以上であった。しかしながら、比較例に係る圧粉コアは、比透磁率の低下率が13%超であったり、コアロスの増加率が30%超であったり、圧環強度が20MPa未満となったりして、磁気特性および機械的強度の双方について優れた特性を維持することはできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の圧粉コアを用いた電子部品は、ハイブリッド自動車等の昇圧回路や、発電、変電設備に用いられるリアクトル、トランスやチョークコイル等として好適に使用されうる。
【符号の説明】
【0089】
1…圧粉コア
10…トロイダルコイル
2…被覆導電線
2a…コイル
2b,2c…被覆導電線2の端部
2d,2e…コイル2aの端部
200…スプレードライヤー装置
201…回転子
S…スラリー
P…造粒粉
図1
図2
図3
図4
図5
図6