特許第6393449号(P6393449)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6393449接着剤組成物、接着シートおよび半導体装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6393449
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】接着剤組成物、接着シートおよび半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/00 20060101AFI20180910BHJP
   C09J 7/00 20180101ALI20180910BHJP
   C09J 7/20 20180101ALI20180910BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20180910BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20180910BHJP
   H01L 21/52 20060101ALI20180910BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
   C09J133/00
   C09J7/00
   C09J7/20
   C09J11/06
   C09J163/00
   H01L21/52 E
   H01L21/78 M
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-71734(P2012-71734)
(22)【出願日】2012年3月27日
(65)【公開番号】特開2013-203795(P2013-203795A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年1月16日
【審判番号】不服2016-10542(P2016-10542/J1)
【審判請求日】2016年7月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】柄澤 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】根津 裕介
(72)【発明者】
【氏名】賤機 弘憲
【合議体】
【審判長】 冨士 良宏
【審判官】 川端 修
【審判官】 天野 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−265888(JP,A)
【文献】 特開2006−120725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル重合体(A)、エポキシ系熱硬化性樹脂(B)、および熱硬化剤(C)を含み、架橋構造を有する接着剤組成物であって、
該接着剤組成物は、接着剤組成物の全量100質量%に対し、アクリル重合体(A)を10〜40質量%、
エポキシ系熱硬化性樹脂(B)をアクリル重合体(A)100質量部に対し100〜1000質量部、
熱硬化剤(C)をエポキシ系熱硬化性樹脂(B)100質量部に対して、0.1〜500質量部含み、
熱硬化前の接着剤組成物の90℃における溶融粘度が1.0×10Pa・s以上9.2×10Pa・s以下であり、かつ80℃での120秒後の応力緩和率が80〜95%であり、変形性の抑制された、接着剤組成物をフィルム状に成膜してなるフィルム状接着剤からなる接着剤層が基材上に剥離可能に形成されてなり、
該基材が粘着シートである、接着シート。
【請求項2】
熱硬化後の接着剤組成物の170℃における貯蔵弾性率E’が1.0×10Pa以上である請求項1に記載の接着シート。
【請求項3】
請求項1または2に記載の接着シートの接着剤層に半導体ウエハを貼着し、該半導体ウエハをダイシングして半導体チップとし、該半導体チップ裏面に該接着剤層を固着残存させて基材から剥離し、該半導体チップをダイパッド部上、または別の半導体チップ上に該接着剤層を介して載置する工程を含む半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハなどをダイシングし半導体チップを得て、半導体チップを有機基板やリードフレーム上にダイボンディングする工程で使用するのに特に適した接着剤組成物、および該接着剤組成物からなる接着剤層を有する接着シート、ならびに該接着シートを用いた半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン、ガリウムヒ素などの半導体ウエハは大径の状態で製造され、この半導体ウエハは、素子小片(半導体チップ)に切断分離(ダイシング)された後に次の工程であるボンディング工程に移されている。この際、半導体ウエハは予め粘着シートに貼着された状態でダイシング、洗浄、乾燥、エキスパンディング、ピックアップの各工程が加えられた後、次工程のボンディング工程に移送される。
【0003】
これらの工程の中でピックアップ工程とボンディング工程のプロセスを簡略化するために、ウエハ固定機能とダイ接着機能とを同時に兼ね備えたダイシング・ダイボンディング用接着シートが種々提案されている(たとえば、特許文献1〜4参照)。ダイシング・ダイボンディング用接着シートは、樹脂基材上や粘着シート上にフィルム状接着剤(接着剤層)が積層されてなり、ウエハのダイシング時にはウエハを固定し、ダイシング時にウエハとともにダイシングされ、チップと同形状に接着剤層が切断される。その後、チップのピックアップを行うと、チップ裏面に接着剤層が残着した状態でピックアップされる。チップ裏面に残着した接着剤層を介して、チップをリードフレーム等のチップ搭載部に載置し、接着剤層を熱硬化することで、ダイボンドが完了する。次いで、樹脂封止して半導体装置が得られる。その後、半田リフローなどにより半導体装置を所望の箇所に実装する。
【特許文献1】特開2000−017246号公報
【特許文献2】特開2008−133330号公報
【特許文献3】特開2009−203332号公報
【特許文献4】特開2009−030043号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、半導体チップは接着剤層を介してリードフレームに固着されるが、近年接着剤層の変形による種々の不具合が指摘されるようになった。接着剤層の変形の要因は種々推定されている。たとえば、ウエハをチップ状にダイシングする際に、ダイシングブレードが、ウエハおよび接着剤層を切断するとともに、ダイシング・ダイボンディング用接着シートの基材にも切り込む。この結果、基材には、ダイシングラインに沿った溝が形成される。溝の中央部は深く削れるが、溝の側部は切断時の応力や残渣物により凸状に盛り上がる。この凸状の変形した部分に位置する接着剤層は、凸部によって圧迫され、凹状に変形する。また、ダイシング時に発生するダイシングブレードと接着剤層との摩擦熱により接着剤層が溶融、変形するおそれもある。
【0005】
チップと同形状であるべき接着剤層が変形すると、チップ端部において、チップと接着剤層との接触面積が減少し、チップとリードフレームとの間に隙間が発生することがある。チップとリードフレームとの間に隙間が発生すると、封止樹脂がこの隙間に浸入する。その結果、樹脂封止の充填具合が不均一になり、熱衝撃に対する耐性が低下し、チップクラックの要因となる。
【0006】
また、接着剤層が変形する結果、接着剤層の厚みが不均一になり、ダイボンドされたチップが傾くことがあった。チップが傾くと、ワイヤボンドが困難ないし不可能になり、半導体装置の製造歩留まりが低下する。
【0007】
したがって、本発明は、ウエハ固定機能とダイ接着機能とを同時に兼ね備えたダイシング・ダイボンディング用接着シートの接着剤層に用いられる接着剤組成物において、ダイシング時における接着剤層の変形を抑制し、かつ、一旦変形した接着剤層が元の形状を回復するように接着剤組成物を設計することで、得られる半導体パッケージの信頼性向上を図ることを目的としている。
【0008】
上記課題を解決する本発明は、以下の要旨を含む。
(1)アクリル重合体(A)、エポキシ系熱硬化性樹脂(B)、および熱硬化剤(C)を含む接着剤組成物であって、
熱硬化前の接着剤組成物の90℃における溶融粘度が1.0×10Pa・s以上であり、かつ80℃での120秒後の応力緩和率が95%以下である接着剤組成物。
【0009】
(2)熱硬化後の接着剤組成物の170℃における貯蔵弾性率E’が1.0×10Pa以上である(1)に記載の接着用組成物。
【0010】
(3)上記(1)または(2)に記載の接着剤組成物をフィルム状に成膜してなるフィルム状接着剤。
【0011】
(4)上記(3)に記載のフィルム状接着剤からなる接着剤層が基材上に剥離可能に形成されてなる接着シート。
【0012】
(5)上記(4)に記載の接着シートの接着剤層に半導体ウエハを貼着し、該半導体ウエハをダイシングして半導体チップとし、該半導体チップ裏面に該接着剤層を固着残存させて基材から剥離し、該半導体チップをダイパッド部上、または別の半導体チップ上に該接着剤層を介して載置する工程を含む半導体装置の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ダイシング・ダイボンディング用接着シートの接着剤層のダイシング時における変形を抑制でき、変形があったとしても形状回復が容易になるように接着剤層を設計してあるため、チップとチップ搭載部との間の隙間の発生を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について、その最良の形態も含めてさらに具体的に説明する。本発明に係る接着剤組成物は、アクリル重合体(A)、エポキシ系熱硬化性樹脂(B)、および熱硬化剤(C)を含み、熱硬化前の溶融粘度および応力緩和率が特定範囲に制御されてなることを特徴としている。接着剤組成物には、さらに、各種物性を改良するため、必要に応じ他の成分が含まれていてもよい。まず、これら各成分について具体的に説明する。
【0015】
(A)アクリル重合体
接着剤組成物に十分な接着性および造膜性(シート加工性)を付与するためにアクリル重合体(A)が用いられる。アクリル重合体(A)としては、従来公知のアクリル重合体を用いることができる。
【0016】
アクリル重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、1万〜200万であることが望ましく、10万〜150万であることがより望ましく、20万〜120万であることが最も好ましい。アクリル重合体(A)の重量平均分子量が低過ぎると接着剤層と基材との粘着力が高くなり、ピックアップ不良が起こることがあり、また、熱硬化前の接着剤組成物の溶融粘度が低下し、応力緩和率が上昇する傾向にある。一方、アクリル重合体(A)の重量平均分子量が高過ぎると、溶融粘度が増大し、応力緩和率が低下するものの、チップ搭載部の凹凸へ接着剤層が追従できないことがあり、ボイドなどの発生要因になることがある。
【0017】
アクリル重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは−60〜50℃、さらに好ましくは−50〜40℃、特に好ましくは−40〜30℃の範囲にある。アクリル重合体(A)のTgが低過ぎると接着剤層と基材との剥離力が大きくなってチップのピックアップ不良が起こることがある。一方、アクリル重合体(A)のTgが高過ぎると、ウエハを固定するための接着力が不十分となるおそれがある。
【0018】
上記アクリル重合体(A)を構成するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステルモノマーまたはその誘導体が挙げられる。例えば、アルキル基の炭素数が1〜18であるアルキル(メタ)アクリレート、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレートなどが挙げられ;環状骨格を有する(メタ)アクリレート、例えばシクロアルキル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イミド(メタ)アクリレートなどが挙げられ;水酸基を有する(メタ)アクリレート、具体的には2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられ;その他、エポキシ基を有するグリシジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの中では、少なくともアクリル重合体を構成するモノマーとして、水酸基を有しているモノマーを含有することにより、重合して得られるアクリル重合体の後述するエポキシ系熱硬化性樹脂(B)との相溶性が良好となるため好ましい。また、水酸基は後述する架橋剤との反応点としても機能する。アクリル重合体を構成するモノマーとして、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基を有するモノマーを含有することにより、後述するエポキシ系熱硬化性樹脂と熱硬化剤との熱硬化による生成される三次元的な高次構造に取り込まれ、熱硬化後の接着剤組成物の貯蔵弾性率が高くなることがある。アクリル重合体を構成するモノマーとして、アミノエチル(メタ)アクリレート、モノメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基を有するモノマーを含有することにより、後述する架橋剤との反応点として機能することがある。また、上記アクリル重合体(A)は、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、酢酸ビニル、アクリロニトリル、スチレンなどが共重合されていてもよい。
【0019】
さらに、アクリル重合体(A)は、主鎖または側鎖に、エネルギー線重合性基が結合されてなるエネルギー線硬化型アクリル重合体であってもよい。このようなエネルギー線硬化型アクリル重合体は、粘着性とエネルギー線硬化性とを兼ね備える性質を有する。したがって、エネルギー線硬化型アクリル重合体をエネルギー線により硬化させることで、接着剤組成物の溶融物性や流動物性を制御できる。具体的には、エネルギー線硬化型アクリル重合体に含まれるエネルギー線重合性基の割合が多くなるほど、エネルギー線照射により形成される架橋構造が増加し、接着剤組成物の溶融粘度、応力緩和性が高くなる傾向にある。エネルギー線硬化型アクリル重合体は、単独で用いてもよく、エネルギー線硬化性を有しないアクリル重合体と併用してもよい。
【0020】
接着剤層には、エネルギー線硬化型アクリル重合体を除くエネルギー線重合性化合物(以下単に「エネルギー線重合性化合物」ということがある。)を配合してもよい。かかるエネルギー線重合性化合物を配合する理由としては、該化合物の重合により接着剤層の接着力を低下し、基材からの剥離を容易にするためである。エネルギー線を照射する前においては、該化合物は接着剤層のタック付与剤としての効果を発現し、基材への密着性を向上させることができる。
【0021】
上記記載のような複合要因を勘案して、具体的には、ダイシング・ダイボンディング用接着シートの接着剤層には、エネルギー線重合性化合物として、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートなどの比較的低分子量のものが配合されることが多い。
【0022】
アクリル重合体(A)は、接着剤組成物の全量を100質量%(固形分)として、5質量%以上の割合で含まれていることが好ましく、10〜40質量%の割合で含まれることがさらに好ましく、20〜35質量%の割合で含まれることが特に好ましい。
【0023】
接着剤組成物の全量に対するアクリル重合体の割合が少なすぎると、十分な溶融粘度が得られなかったり、応力緩和率が上昇してしまうことがある。一方、アクリル重合体の割合が多すぎると、チップの固着に関与する成分、具体的にはエポキシ系熱硬化性樹脂の相対的な量が減少し、チップの固着が不十分になり、最終的に得られる半導体装置のパッケージ信頼性が低下することがある。
【0024】
(B)エポキシ系熱硬化性樹脂
エポキシ系熱硬化性樹脂(B)としては、種々のエポキシ樹脂を用いることができ、具体的には、多官能系エポキシ樹脂や、ビフェニル化合物、ビスフェノールAジグリシジルエーテルやその水添物、オルソクレゾールノボラックエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェニレン骨格型エポキシ樹脂など、エポキシ基を分子中に2官能以上有するエポキシ化合物が挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
本発明の接着剤組成物には、アクリル重合体(A)100質量部に対して、エポキシ系熱硬化性樹脂(B)が、好ましくは1〜1000質量部含まれ、より好ましくは10〜500質量部、特に好ましくは100〜300質量部含まれる。エポキシ系熱硬化性樹脂(B)の含有量が1質量部未満であると十分な接着性が得られないことがあり、また、熱硬化後の接着剤組成物の貯蔵弾性率が低くなる傾向がある。一方、エポキシ系熱硬化性樹脂(B)の含有量が1500質量部を超えると接着剤層と基材との剥離力が高くなり、ピックアップ不良が起こることがあり、また、アクリル重合体(A)の含有量が相対的に低下するため、熱硬化前の接着剤組成物の溶融粘度が低下したり、応力緩和率が上昇したりする傾向にある。
【0026】
(C)熱硬化剤
熱硬化剤(C)は、エポキシ系熱硬化性樹脂(B)に対する硬化剤として機能する。好ましい熱硬化剤(C)としては、1分子中にエポキシ基と反応しうる官能基を2個以上有する化合物が挙げられる。その官能基としてはフェノール性水酸基、アルコール性水酸基、アミノ基、カルボキシル基および酸無水物などが挙げられる。これらのうち好ましくはフェノール性水酸基、アミノ基、酸無水物などが挙げられ、さらに好ましくはフェノール性水酸基、アミノ基が挙げられる。
【0027】
フェノール系硬化剤の具体的な例としては、多官能系フェノール樹脂、ビフェノール、ノボラック型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン系フェノール樹脂、ザイロック型フェノール樹脂、アラルキルフェノール樹脂が挙げられる。アミン系硬化剤の具体的な例としては、DICY(ジシアンジアミド)が挙げられる。これらは、1種単独で、または2種以上混合して使用することができる。
【0028】
熱硬化剤(C)の含有量は、エポキシ系熱硬化性樹脂(B)100質量部に対して、0.1〜500質量部であることが好ましく、1〜200質量部であることがより好ましい。熱硬化剤(C)の含有量が少ないと硬化不足で接着性が得られないことがあり、また、熱硬化後の接着剤組成物の貯蔵弾性率が低くなる傾向がある。熱硬化剤(C)の含有量が過剰であると接着剤組成物の吸湿率が高まりパッケージ信頼性を低下させることがある。
【0029】
(その他の成分)
本発明に係る接着剤組成物は、上記アクリル重合体(A)、エポキシ系熱硬化性樹脂(B)および熱硬化剤(C)に加えて下記成分を含むことができる。
【0030】
(D)硬化促進剤
硬化促進剤(D)は、接着剤組成物の硬化速度を調整するために用いられる。好ましい硬化促進剤としては、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの3級アミン類;2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾールなどのイミダゾール類;トリブチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどの有機ホスフィン類;テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィンテトラフェニルボレートなどのテトラフェニルボロン塩などが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上混合して使用することができる。
【0031】
硬化促進剤(D)は、エポキシ系熱硬化性樹脂(B)および熱硬化剤(C)の合計100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部、さらに好ましくは0.1〜1質量部の量で含まれる。硬化促進剤(D)を上記範囲の量で含有することにより、高温度高湿度下に曝されても優れた接着特性を有し、厳しいリフロー条件に曝された場合であっても高いパッケージ信頼性を達成することができる。硬化促進剤(D)の含有量が少ないと硬化不足で十分な接着特性が得られず、過剰であると高い極性をもつ硬化促進剤は高温度高湿度下で接着剤層中を接着界面側に移動し、偏析することによりパッケージの信頼性を低下させる。
【0032】
(E)カップリング剤
有機化合物の有する官能基と反応する官能基及び無機物表面の官能基と反応する官能基を有するカップリング剤(E)を、接着剤組成物の被着体に対する接着性、密着性を向上させるために用いてもよい。また、カップリング剤(E)を使用することで、接着剤組成物を硬化して得られる硬化物の耐熱性を損なうことなく、その耐水性を向上することができる。
【0033】
カップリング剤(E)は、有機化合物の有する官能基と反応する官能基として、上記アクリル重合体(A)、エポキシ系熱硬化性樹脂(B)などが有する官能基と反応する基を有する化合物が好ましく使用される。カップリング剤(E)としては、シランカップリング剤が望ましい。このようなカップリング剤としてはγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−6−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−6−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、イミダゾールシランなどが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上混合して使用することができる。
【0034】
カップリング剤(E)は、アクリル重合体(A)およびエポキシ系熱硬化性樹脂(B)の合計100質量部に対して、通常0.1〜20質量部、好ましくは0.2〜10質量部、より好ましくは0.3〜5質量部の割合で含まれる。カップリング剤(E)の含有量が0.1質量部未満だと上記の効果が得られない可能性があり、20質量部を超えるとアウトガスの原因となる可能性がある。
【0035】
(F)架橋剤
接着剤組成物には、接着剤層の初期接着力および凝集力を調節するために、架橋剤を添加することもできる。なお、架橋剤を配合する場合には、前記アクリル重合体(A)には、架橋剤と反応する官能基が含まれ、そのような官能基として、具体的には水酸基、アミノ基等が挙げられる。架橋剤(F)としては有機多価イソシアネート化合物、有機多価イミン化合物などが挙げられる。
【0036】
上記有機多価イソシアネート化合物としては、芳香族多価イソシアネート化合物、脂肪族多価イソシアネート化合物、脂環族多価イソシアネート化合物およびこれらの有機多価イソシアネート化合物の三量体、ならびにこれら有機多価イソシアネート化合物とポリオール化合物とを反応させて得られる末端イソシアネートウレタンプレポリマー等を挙げることができる。
【0037】
イソシアネート系の架橋剤を用いる場合、アクリル重合体(A)としては、水酸基含有重合体を用いることが好ましい。架橋剤がイソシアネート基を有し、アクリル重合体(A)が水酸基を有すると、架橋剤とアクリル重合体(A)との反応が容易に起こり、接着剤に架橋構造を簡便に導入することができる。
【0038】
有機多価イソシアネート化合物としては、たとえば2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,3−キシレンジイソシアネート、1,4−キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、3−メチルジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−2,4’−ジイソシアネート、トリメチロールプロパンアダクトトリレンジイソシアネートおよびリジンイソシアネートが挙げられる。
【0039】
上記有機多価イミン化合物としては、N,N’−ジフェニルメタン−4,4’−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)、トリメチロールプロパン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート、テトラメチロールメタン−トリ−β−アジリジニルプロピオネートおよびN,N’−トルエン−2,4−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)トリエチレンメラミン等を挙げることができる。
【0040】
架橋剤(F)はアクリル重合体(A)100質量部に対して通常0.1〜50質量部、好ましくは1〜40質量部、より好ましくは10〜30質量部の比率で用いられる。架橋剤(F)の配合量を増加することで、組成物中に架橋構造が導入され、組成物の溶融粘度が増加し、また応力緩和率が低下する傾向にある。
【0041】
(G)光重合開始剤
本発明の接着剤組成物が、前述したエネルギー線硬化性アクリル重合体および/またはエネルギー線重合性化合物を含有する場合には、その使用に際して、紫外線等のエネルギー線を照射して、エネルギー線硬化性アクリル重合体および/またはエネルギー線重合性化合物を硬化させる。この際、該組成物中に光重合開始剤(G)を含有させることで、重合硬化時間ならびに光線照射量を少なくすることができる。
【0042】
このような光重合開始剤(G)として具体的には、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン安息香酸、ベンゾイン安息香酸メチル、ベンゾインジメチルケタール、2,4−ジエチルチオキサンソン、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンジル、ジベンジル、ジアセチル、1,2−ジフェニルメタン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドおよびβ−クロールアンスラキノンなどが挙げられる。光重合開始剤(G)は1種類単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
光重合開始剤(G)の配合割合は、エネルギー線硬化性アクリル重合体および/またはエネルギー線重合性化合物100質量部に対して0.1〜10質量部含まれることが好ましく、1〜5質量部含まれることがより好ましい。0.1質量部未満であると光重合の不足で満足なピックアップ性が得られないことがあり、10質量部を超えると光重合に寄与しない残留物が生成し、接着剤組成物のエネルギー線照射による硬化性が不十分となることがある。
【0044】
(汎用添加剤)
本発明の接着剤組成物には、上記の他に、必要に応じて各種添加剤が配合されてもよい。各種添加剤としては、熱可塑性樹脂、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、無機充填剤、顔料、熱伝導剤、ゲッタリング剤、染料などが挙げられる。
【0045】
(接着剤組成物)
本発明に係る接着剤組成物は、上記各成分を適宜の割合で混合して得られる。混合に際しては、各成分を予め溶媒で希釈しておいてもよく、また混合時に溶媒を加えてもよい。
【0046】
上記のような各成分からなる接着剤組成物は、熱硬化性であり、熱硬化前には感圧接着性または熱軟化性と形状保持性とを有する。そして熱硬化を経て最終的には耐衝撃性の高い硬化物を与えることができ、接着強度にも優れ、厳しい高温度高湿度条件下においても十分な接着特性を保持し得る。
【0047】
熱硬化前の接着剤組成物の90℃における溶融粘度は、1.0×10Pa・s以上であり、好ましくは2.0×10Pa・s以上、さらに好ましくは4.0×10Pa・s以上である。ここで、90℃における溶融粘度を規定した理由は、ブレードダイシング時の摩擦熱により、接着剤層が90℃程度までに加熱されることを考慮したものであるが、実際のダイシング時における接着剤層の温度が90℃に限定されることを意味するものではない。熱硬化前の接着剤組成物の90℃における溶融粘度が上記範囲にあると、ダイシング時の摩擦により接着剤層が加熱された場合であっても、接着剤層の変形を抑制することができる。一方、溶融粘度が高すぎる場合には、感圧接着性が低下することがある。
【0048】
ここで、接着剤組成物が、エネルギー線硬化性アクリル重合体および/またはエネルギー線重合性化合物を含有する場合には、エネルギー線硬化前の溶融粘度とエネルギー線硬化後の溶融粘度のいずれかが上記範囲内にあればよい。溶融粘度は、ダイシング時の接着剤層の変形を抑制することを目的として規定されたものであるので、実際のプロセスにおいては、ダイシング時の接着剤層の溶融粘度を意味する。接着剤層のエネルギー線硬化は通常ダイシングに先立って行うが、ダイシング後に行い、または行わないことも可能であるため、溶融粘度は、エネルギー線硬化前とエネルギー線硬化後のいずれかにおいて上記範囲内であれば本発明の効果を得ることができる。後述するとおり、接着剤層のエネルギー線硬化はダイシング前に行うことが好ましいため、溶融粘度は、少なくともエネルギー線硬化後に上記範囲にあることがより好ましい。
【0049】
また、熱硬化前の接着剤組成物の80℃での120秒後の応力緩和率は、95%以下であり、好ましくは80〜94%である。ここで、80℃における応力緩和率を規定した理由は、ダイボンド時に接着剤層が80℃程度までに加熱されることを考慮したものであるが、実際のダイボンド時における接着剤層の温度が80℃に限定されることを意味するものではない。熱硬化前の接着剤組成物の80℃における応力緩和率が上記範囲にあると、ダイシング時に基材の変形にともなって接着剤層が変形している場合であっても、接着剤層が形状を回復し、チップと略同形状になる。一方、応力緩和率が高すぎる場合には、変形の回復性が低下することがある。
【0050】
なお、接着剤組成物の応力緩和率は、接着剤層の積層体を、動的粘弾性測定装置の仕様に合わせて所定の大きさに切り出して作成した試験片についての20%捻り量の応力印加時の応力を周波数1Hzで80℃にて測定し、最大応力(初期応力)Aと、120秒後の応力Bとから(A−B)/A×100(%)で表される式により算出される値である。
【0051】
なお、接着剤組成物が、エネルギー線硬化性アクリル重合体および/またはエネルギー線重合性化合物を含有する場合には、接着剤組成物のエネルギー線硬化前の応力緩和率とエネルギー線硬化後の応力緩和率のいずれかが上記範囲内にあればよい。応力緩和率は、チップのピックアップ後のダイシングからピックアップに到るまでのプロセスにおける接着剤層の変形の回復性を規定したものである。接着剤組成物が、エネルギー線硬化性アクリル重合体および/またはエネルギー線重合性化合物を含有する場合には、通常接着剤層のエネルギー線硬化を行った後にダイシングを行うが、接着剤層のエネルギー線硬化がされていない状態でダイシングを行うことも可能である。したがって、接着剤組成物が、エネルギー線硬化性アクリル重合体および/またはエネルギー線重合性化合物を含有する場合には、応力緩和率は、エネルギー線硬化前とエネルギー線硬化後のいずれかにおいて上記範囲内であれば本発明の効果を得ることができる。後述するとおり、接着剤層のエネルギー線硬化はダイシング前に行うことが好ましいため、応力緩和率は、少なくともエネルギー線硬化後に上記範囲にあることがより好ましい。
【0052】
また、熱硬化後の接着剤組成物の170℃における貯蔵弾性率E’は、好ましくは1.0×10Pa以上、さらに好ましくは2.0×10Pa以上、特に好ましくは5.0×10Pa以上の範囲にある。ここで、170℃における貯蔵弾性率E’を規定した理由は、ワイヤボンド時における接着剤層の温度を考慮したものであるが、実際のワイヤボンド時における接着剤層が170℃に限定されることを意味するものではない。熱硬化後の接着剤組成物の170℃における貯蔵弾性率E’が上記範囲にあると、ワイヤボンド時に接着剤層が加熱された場合であっても、接着剤層の振動を抑制でき、ワイヤボンディングを安定して行うことができる。一方、貯蔵弾性率が高すぎる場合には、硬化性化合物が多量に含まれることを意味し、アクリル重合体(A)の相対的な割合が減少するため、熱硬化前の接着剤組成物の溶融粘度が低下する傾向にある。
【0053】
なお、接着剤組成物の貯蔵弾性率E’は、熱硬化後の貯蔵弾性率E’を意味する。接着剤組成物が、エネルギー線硬化性アクリル重合体および/またはエネルギー線重合性化合物を含有する場合には、貯蔵弾性率E’は、エネルギー線硬化後かつ熱硬化後の接着剤層の貯蔵弾性率E’を意味する。
【0054】
本発明の接着剤組成物は、アクリル重合体(A)、エポキシ系熱硬化性樹脂(B)および熱硬化剤(C)を含み、熱硬化前の溶融粘度および応力緩和率が特定範囲にある限り、各成分の組成比、各成分の物性、組成物の製法等は特に限定はされない。本発明では、後述する実施例において成分の組成比を選択、特定することにより、上記した溶融粘度および応力緩和率を達成した。しかしながら、接着剤組成物の溶融粘度および応力緩和率は、使用する各成分の特性により変動するので、一義的に組成比を特定することは困難である。
【0055】
以下に、本発明で規定する溶融粘度および応力緩和率を制御する具体的指針を説明するが、これらは接着剤組成物の物性を特定範囲に制御するための具体的手段の一例であり、何ら限定的に解釈されるべきではない。
【0056】
アクリル重合体(A)の重量平均分子量(Mw)が低下するにつれて、熱硬化前の接着剤組成物の溶融粘度が低下し、また応力緩和率が上昇する傾向にある。
【0057】
また、接着剤組成物中のアクリル重合体(A)の含有割合が多くなると、熱硬化前の接着剤組成物の溶融粘度は増大し、また応力緩和率が低下する傾向にある。接着剤組成物に架橋剤(F)を添加する場合には、特にアクリル重合体(A)の含有割合の増加が、応力緩和率の低下に与える影響が大きい。なぜならば、高分子量体であるアクリル重合体(A)の接着剤組成物中の相対量が増加すると、接着剤組成物の塑性を低下させる効果がある一方で、アクリル重合体(A)の架橋剤と反応する官能基の絶対量が増加し、接着剤組成物中の架橋密度が増大することによっても、接着剤組成物の塑性を低下させる効果がある。したがって、これらの効果が複合的に応力緩和率の低下に寄与するためである。
【0058】
接着剤組成物中のエポキシ系熱硬化性樹脂(B)の含有割合が多くなると、アクリル重合体(A)の含有量が相対的に低下するため、熱硬化前の接着剤組成物の溶融粘度が低下し、また応力緩和率が上昇する傾向にある。
【0059】
また、前述したように、接着剤組成物中の架橋剤(F)の配合量を増加することで、組成物中に架橋構造が導入され、組成物の溶融粘度が増加し、応力緩和率が低下する。したがって、架橋剤の種類および配合量を適宜に選択することで、溶融粘度を調整することができる。また、上述したように、架橋剤(F)の添加による応力緩和率を低下させる効果は、接着剤組成物中のアクリル系重合体(A)の含有割合が多い場合に顕著である。
【0060】
(フィルム状接着剤および接着シート)
本発明に係る接着剤組成物は、その形態は特に限定はされないが、取り扱い性等の観点から、フィルム状に成膜して用いることが好ましい。フィルム状の接着剤は、それのみからなる単層で使用することもできるが、フィルム状の接着剤(以下、接着剤層と呼ぶ)を基材上に剥離可能に形成してなる接着シートとして用いることが好ましい。本発明に係る接着シートの形状は、テープ状、ラベル状などあらゆる形状をとり得る。
【0061】
接着シートの基材は、接着剤層が基材上に剥離可能に形成できるものであればよく、樹脂フィルム上に接着剤層を、粘着剤層を介さずに形成するものでもよく、粘着シート上に接着剤層を形成しものであってもよい。
【0062】
接着シートの基材に用いられる樹脂フィルムとしては、たとえば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニル共重合体フィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルムなどのフィルムが用いられる。またこれらの架橋フィルムも用いられる。さらにこれらの積層フィルムであってもよい。また、これらを着色したフィルムも用いることができる。接着剤層がエネルギー線硬化型アクリル重合体および/またはエネルギー線重合性化合物を含有する場合には、これらのフィルムはエネルギー線透過性を有することが好ましい。
【0063】
本発明に係る接着シートは、各種の被着体に貼付され、被着体に所要の加工を施した後、接着剤層は、被着体に固着残存させて基材から剥離される。すなわち、接着剤層を、基材から被着体に転写する工程を含むプロセスに使用される。このため、基材の接着剤層に接する面の表面張力は、好ましくは40mN/m以下、さらに好ましくは37mN/m以下、特に好ましくは35mN/m以下である。下限値は通常25mN/m程度である。このような表面張力が低い基材は、材質を適宜に選択して得ることが可能であるし、また基材の表面に剥離剤を塗布して剥離処理を施すことで得ることもできる。
【0064】
基材の剥離処理に用いられる剥離剤としては、アルキッド系、シリコーン系、フッ素系、不飽和ポリエステル系、ポリオレフィン系、ワックス系などが用いられるが、特にアルキッド系、シリコーン系、フッ素系の剥離剤が耐熱性を有するので好ましい。
【0065】
上記の剥離剤を用いて基材の表面を剥離処理するためには、剥離剤をそのまま無溶剤で、または溶剤希釈やエマルション化して、グラビアコーター、メイヤーバーコーター、エアナイフコーター、ロールコーターなどにより塗布して、常温もしくは加熱または電子線硬化させたり、ウェットラミネーションやドライラミネーション、熱溶融ラミネーション、溶融押出ラミネーション、共押出加工などで積層体を形成すればよい。
【0066】
また、接着シートの基材として用いる粘着シートとしては、たとえば、弱粘着力性の再剥離型粘着シートや、エネルギー線照射により粘着力が低下するエネルギー線硬化型粘着シートを用いることができる。なお、基材として粘着シートを用いる場合には、粘着剤層を柔軟にし、また厚くすることで、基材の変形に付随する接着剤層の変形が抑制でき、接着剤層の変形という問題は起こり難い。一方、粘着剤層が薄過ぎる場合や、あるいは粘着剤層を設けずに樹脂フィルム上に直接接着剤層を形成した場合には、ダイシング時における接着剤層の変形が起り易く、本発明の接着剤組成物を採用する利点が大きい。粘着剤層が薄過ぎる場合とは、たとえば粘着剤層が1〜8μm程度である場合である。
【0067】
基材の厚さは、通常は10〜500μm、好ましくは15〜300μm、特に好ましくは20〜250μm程度である。また、接着剤層の厚みは、通常は1〜500μm、好ましくは5〜300μm、特に好ましくは10〜150μm程度である。
【0068】
接着シートの製造方法は、特に限定はされず、基材上に、接着剤層を構成する組成物を塗布乾燥することで製造してもよく、また接着剤組成物を剥離フィルム上に塗布乾燥して、フィルム状の接着剤を得て、これを上記基材に転写することで製造してもよい。なお、接着シートの使用前に、接着剤層を保護するために、接着剤層の上面に剥離フィルムを積層しておいてもよい。該剥離フィルムは、ポリエチレンテレフタレートフィルムやポリプロピレンフィルムなどのプラスチック材料にシリコーン樹脂などの剥離剤が塗布されているものが使用される。また、接着剤層の表面外周部には、リングフレームなどの他の治具を固定するために別途粘着剤層や粘着テープが設けられていてもよい。
【0069】
次に本発明に係る接着シートの利用方法について、該接着シートを半導体装置の製造に適用した場合を例にとって説明する。
【0070】
(半導体装置の製造方法)
本発明に係る半導体装置の製造方法は、上記接着シートの接着剤層に半導体ウエハを貼着し、該半導体ウエハをダイシングして半導体チップとし、該半導体チップ裏面に接着剤層を固着残存させて基材から剥離し、該半導体チップを有機基板やリードフレームのダイパッド部上、またはチップを積層する場合に別の半導体チップ上に該接着剤層を介して載置する工程を含む。
【0071】
以下、本発明に係る半導体装置の製造方法について詳述する。
本発明に係る半導体装置の製造方法においては、まず、表面に回路が形成され、裏面が研削された半導体ウエハを準備する。
【0072】
半導体ウエハはシリコンウエハであってもよく、またガリウム・砒素などの化合物半導体ウエハであってもよい。ウエハ表面への回路の形成はエッチング法、リフトオフ法などの従来より汎用されている方法を含む様々な方法により行うことができる。次いで、半導体ウエハの回路面の反対面(裏面)を研削する。研削法は特に限定はされず、グラインダーなどを用いた公知の手段で研削してもよい。裏面研削時には、表面の回路を保護するために回路面に、表面保護シートと呼ばれる粘着シートを貼付する。裏面研削は、ウエハの回路面側(すなわち表面保護シート側)をチャックテーブル等により固定し、回路が形成されていない裏面側をグラインダーにより研削する。ウエハの研削後の厚みは特に限定はされないが、通常は20〜500μm程度である。
【0073】
その後、必要に応じ、裏面研削時に生じた破砕層を除去する。破砕層の除去は、ケミカルエッチングや、プラズマエッチングなどにより行われる。
【0074】
次いで、リングフレームおよび半導体ウエハの裏面側を本発明に係る接着シートの接着剤層上に載置し、常温で軽く押圧し、または加熱して接着剤層を軟化させて半導体ウエハを圧着し、接着シート上に固定する。次いで、接着剤層にエネルギー線硬化型アクリル重合体および/またはエネルギー線重合性化合物が配合されている場合には、接着剤層に基材側からエネルギー線を照射し、エネルギー線硬化型アクリル重合体および/またはエネルギー線重合性化合物を硬化し、接着剤層の凝集力を上げ、接着剤層と基材との間の接着力を低下させておく。照射されるエネルギー線としては、紫外線(UV)または電子線(EB)等が挙げられ、好ましくは紫外線が用いられる。次いで、ダイシングソーなどの切断手段を用いて、上記の半導体ウエハを切断し半導体チップを得る。この際に、接着剤層は、切断手段の摩擦により、60〜100℃程度に温度が上昇することがある。この際の切断深さは、半導体ウエハの厚みと、接着剤層の厚みとの合計およびダイシングソーの磨耗分を加味した深さにする。接着剤層を本発明の接着剤組成物で構成することで、ダイシング時における接着剤層の変形を抑制することができる。なお、ダイシングの後、ピックアップの前にエネルギー線照射を行った場合には、ダイシング時の接着剤層の変形が固定され、変形の回復性が減弱される可能性があるため、ダイシングの前にエネルギー線照射を行うことが好ましい。エネルギー線照射は複数回に分けて行ってもよい。
【0075】
次いで必要に応じ、接着シートのエキスパンドを行うと、半導体チップ間隔が拡張し、半導体チップのピックアップをさらに容易に行えるようになる。この際、接着剤層と基材との間にずれが発生することになり、接着剤層と基材との間の接着力が減少し、半導体チップのピックアップ性が向上する。このようにして半導体チップのピックアップを行うと、切断された接着剤層を半導体チップ裏面に固着残存させて基材から剥離することができる。接着剤層は、応力緩和率が95%以下であるため、ピックアップにより基材からの拘束から解放されると、弾性的に元の形状に復元する傾向がある。
【0076】
次いで接着剤層を介して半導体チップを、リードフレームのダイパッド上または別の半導体チップ(下段チップ)表面に載置する(以下、チップが搭載されるダイパッドまたは下段チップ表面を「チップ搭載部」と記載する)。チップ搭載部は、半導体チップを載置する前に加熱するか載置直後に加熱される。加熱温度は、通常は80〜200℃、好ましくは100〜180℃であり、加熱時間は、通常は0.1秒〜5分、好ましくは0.5秒〜3分であり、載置するときの圧力は、通常1kPa〜200MPaである。
【0077】
半導体チップをチップ搭載部に載置した後、必要に応じさらに加熱を行ってもよい。この際の加熱条件は、上記加熱温度の範囲であって、加熱時間は通常1〜180分、好ましくは10〜120分である。半導体チップをチップ搭載部に載置した後にワイヤボンディングを行う。この際、接着剤層は通常100℃以上に加熱される。この工程におけるより好ましい加熱温度は150℃以上である。これにより接着剤層が軟化するが、接着剤層を本発明の接着剤組成物で構成することで、ダイボンド時の振動が抑制され、ダイボンドを安定して行うことができる。
【0078】
また、載置後の加熱処理は行わずに仮接着状態としておき、パッケージ製造において通常行われる樹脂封止での加熱を利用して接着剤層を硬化させてもよい。このような工程を経ることで、接着剤層が硬化し、半導体チップとチップ搭載部とを強固に接着することができる。接着剤層はダイボンド条件下ではフィルム形状を維持しつつもある程度軟化しているため、チップ搭載部の凹凸にも十分に埋め込まれ、ボイドの発生を防止できパッケージの信頼性が高くなる。
【0079】
本発明の接着剤組成物および接着シートは、上記のような使用方法の他、半導体化合物、ガラス、セラミックス、金属などの接着に使用することもできる。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において、<溶融粘度>、<応力緩和率>、<貯蔵弾性率>、および<接着剤層の変形>は次のように評価した。
【0081】
<溶融粘度>
実施例、比較例で作成した接着シートの接着剤層(フィルム状接着剤、比較例1および2については、後述する接着剤層の収縮観察の試験と同様にして、紫外線を照射した接着剤層)を、厚さ0.2mmまで積層したのち、その後、直径10mmに打ち抜いたものをさらに厚さ15mmまで積層することで、測定用のサンプルを作成した。なお、接着剤層がエネルギー線重合性化合物を含有する場合には、接着剤層を0.2mmまで積層したのちにエネルギー線(紫外線:230mW/cm、240mJ/cm)を照射し、その後、直径10mmに打ち抜いたものをさらに厚さ15mmまで積層することで、測定用のサンプルを作成した。次いで、キャピラリーレオメーター(島津製作所社製,CFT−100D)を用いて、試験開始温度50℃、昇温速度10℃/分、試験力50kgf、ダイ穴径0.5mmφ、ダイ長さ1.0mmの条件で溶融粘度を測定し、熱硬化前の接着剤組成物の90℃における溶融粘度を求めた。
【0082】
<応力緩和率>
実施例、比較例で作成した接着シートの接着剤層(比較例1および2については、後述する接着剤層の収縮観察の試験と同様にして、紫外線を照射した接着剤層)を厚み1mmとなるように積層して試料としての積層体を得た。この積層体に対して、動的粘弾性測定装置(レオメトリクス社製 RDAII)により、80℃の条件にて捻り量20%の応力を加え、初期応力Aと、120秒後の応力Bについて下記の式より算出した値を接着剤層の80℃における応力緩和率とした。
(A−B)/A×100(%)
【0083】
<貯蔵弾性率>
実施例、比較例で作成した接着シートの接着剤層(フィルム状接着剤)を、厚さ0.2mmまで積層し、140℃の環境下に1時間放置し、エポキシ系熱硬化性樹脂を完全に硬化させた。その後、5mm×25mmに切断することで最終的に、5mm×25mm×0.2mmの直方体の測定用サンプルを得た。なお、接着剤層がエネルギー線重合性化合物を含有する場合には、接着剤層を0.2mmまで積層し、エネルギー線(紫外線:230mW/cm、240mJ/cm)を照射した後、140℃の環境下に1時間放置し、エポキシ系熱硬化性樹脂を完全に硬化させた。その後、5mm×25mmに切断することで測定用サンプルを作成した。
【0084】
次いで、動的粘弾性測定装置(TAインスツルメント社製,DMA Q800)を用いて、試験開始温度0℃、試験終了温度300℃、昇温速度3℃/分、振動数11Hz、振幅20μmの条件で貯蔵弾性率E’を測定し、熱硬化後の接着剤組成物の170℃における貯蔵弾性率を求めた。
【0085】
<接着剤層の変形>
(1)半導体チップの製造
ドライポリッシュ処理したシリコンウエハ(150mm径、厚さ75μm)の研磨面に、実施例および比較例の接着シートの貼付をテープマウンター(リンテック社製、Adwill RAD2500)により行い、ウエハダイシング用リングフレームに固定した。その後接着剤層がエネルギー線重合性化合物を含有する場合には、紫外線照射装置(リンテック社製、Adwill RAD2000)を用いて接着シートの基材面からエネルギー線として紫外線を照射(350mW/cm2、190mJ/cm2)した。次いで、ダイシング装置(ディスコ社製、DFD651)を使用して8mm×8mmのチップサイズにダイシングし、接着剤層を有するシリコンチップを作成した。
【0086】
(2)接着剤層付チップのピックアップ
続いて、ダイボンダー(キャノンマシナリー社製、BESTEND02)により接着剤層付チップをピックアップした。得られた接着剤層付チップについて走査型電子顕微鏡(キーエンス社製、VE-9800)を用いて接着剤層の変形を観察した。チップ側面に対して接着剤層が内側に変形しているものを不良とし、変形が起きていないか、あるいはチップ側面に対して接着剤層が外側に変形しているものを良品として評価し、良品の個数を数えた。サンプル5個中、良品の数が5個の場合を良好とし、4個以下の場合を不良とした。
【0087】
<接着剤組成物>
接着剤組成物を構成する各成分を下記に示す。
(A)アクリル重合体:
(A1):n−ブチルアクリレート55質量部、メチルアクリレート10質量部、グリシジルメタクリレート20質量部、及び2−ヒドロキシエチルアクリレート15質量部からなる共重合体(重量平均分子量:90万、ガラス転移温度:−28℃)
(A2):n−ブチルアクリレート5質量部、メチルアクリレート60質量部、グリシジルメタクリレート20質量部、及び2−ヒドロキシエチルアクリレート15質量部からなる共重合体(重量平均分子量:45万、ガラス転移温度:9℃)
(B)エポキシ系熱硬化性樹脂:
(B1)ビスフェノールF型エポキシ樹脂(三菱化学社製:YL983U, エポキシ当量170g/eq)
(B2)フェニレン骨格型エポキシ樹脂(日本化薬社製:EPPN-502H, エポキシ当量167g/eq)
(C)熱硬化剤:ノボラック型フェノール樹脂(昭和高分子製:BRG-556, フェノール性水酸基当量103g/eq)
(D)硬化促進剤:2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール(四国化成工業株式会社製、キュアゾール2PHZ-PW)
(E)カップリング剤:γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学社製:KBE-403)
(F)架橋剤:トリレンジイソシアナート系架橋剤 (東洋インキ社製:BHS-8515)
(G)光重合開始剤:1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製:イルガキュア184)
エネルギー線重合性化合物:ジシクロペンタジエン骨格を有するエネルギー線硬化性化合物(日本化薬製:KAYARAD R-684)
【0088】
(実施例および比較例)
上記各成分を表1に記載の量(固形分量)で配合し、接着剤組成物を得た。得られた接着剤組成物のメチルエチルケトン溶液(固形濃度61質量%)を、シリコーン処理された剥離フィルム(リンテック株式会社製、SP−PET381031)上に乾燥後20μmの厚みになるように塗布、乾燥(乾燥条件:オーブンにて100℃、1分間)した後に基材(ポリエチレンフィルム、厚さ100μm、表面張力33mN/m)と貼り合せて、接着剤層を基材上に転写することで接着シートを得た。
【0089】
【表1】
【0090】
得られた接着シートを用いて<溶融粘度>、<応力緩和率>、<貯蔵弾性率>および<接着剤層の変形>を評価した。結果を表2に示す。
【表2】
【0091】
本発明の接着剤組成物を用いることで、ダイシング時およびダイボンド時の接着剤層の変形を抑制できた。