(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記触媒エレメントは、前記メタルラス基材の前記一面側及び前記他面側に波形に突出させて前記排ガスの流過方向へ連続して延設された突条部を有し、前記メタルラス基材の前記一面と前記他面の向き及び前記流過方向に対する前後の向きをいずれも入れ換えつつ重ねて配置されていることを特徴とする請求項1に記載の触媒構造体。
前記触媒エレメントには、前記メタルラス基材の前記一面側及び前記他面側に波形に突出させた突条部を前記排ガスの流過方向へ連続して延設し、該触媒エレメントを前記メタルラス基材の前記一面と前記他面の向き及び前記流過方向に対する前後の向きをいずれも入れ換えつつ重ねて配置することを特徴とする請求項4に記載の触媒構造体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
板状触媒は、他の形状の触媒と比べて上述したような利点を有する。しかしながら、石炭焚きボイラの排ガスなどのように、ダストが含まれた排ガスを板状触媒で浄化する場合、ダストが衝突することにより触媒が摩耗、損失し、触媒の反応効率が低下する可能性があるため、摩耗強度を向上させることが重要となる。なお、板状触媒を製造するにあたっては、通常、一種類の波形形状をなす板状のメタルラス基材に触媒成分を担持してなる触媒エレメントが作製される。そして、排ガス流路となる隙間を隣り合う触媒エレメント間に形成するため、触媒エレメントを水平方向に180°回転させて交互に複数重ねて配置した触媒構造体が構成される。
【0006】
かかる触媒エレメントの摩耗は、触媒の組成や排ガス条件(ダスト濃度、灰の粒径、流速など)により大きく影響を受けることが知られている。また、それ以外にも、排ガスの流過方向(以下、ガス流れ方向という。)に対する触媒の塗布面及びその背面(同、塗布背面という。)とラス目の傾斜角(別の捉え方をすれば、傾斜方向)によっても触媒の摩耗量に差が生じることが判明している。従来の板状触媒の製造技術においては、触媒の塗布背面が摩耗し易く、該塗布背面のラス目の傾斜角がガス流れ方向に対して抵抗を受け易い掬い角(いわゆる鋭角)となるように触媒エレメントが重畳配置された触媒構造体としていたため、局所的に摩耗し易い部分が生じていた。
【0007】
摩耗現象では、摩耗し難い部分と摩耗し易い部分が存在する場合、摩耗し易い部分が全体の摩耗量を支配するため、摩耗し易い部分の発生を抑制することで、触媒全体、換言すれば、触媒構造体の摩耗強度を向上させることが可能となる。
【0008】
本発明はこれを踏まえてなされたものであり、その解決しようとする課題は、触媒の組成等を変えることなく、触
媒の局所的に摩耗し易い部分をなくすことで、触媒構造体の摩耗強度(耐摩耗性)の向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、メタルラス基材の両面及びラス目に触
媒が担持され、かつ、波型に形成された触媒エレメントが隙間を空けて複数重ねて配置され、前記隙間に排ガスを通過させて浄化する触媒構造体であって、前記ラス目は
、前記メタルラス基材の一面側及び他面側の前記隙間へ傾斜して突出する縁部を有
し、前記メタルラス基材の前記他面に担持された前記触
媒は、前記メタルラス基材の前記一面に担持された前記触
媒よりも低い密度を有してなり、前記触媒エレメントは
、前記メタルラス基材の前記一面
側に傾斜して突出する前記ラス目の縁部を前記排ガスの流れの上流側に向けて、前記メタルラス基材の前記他面
側に傾斜して突出する前記ラス目の縁部を前記排ガスの流れの下流側に向けて配置されていることを特徴とする。
【0010】
これによれば、摩耗強度の低いメタルラス基材の他面側のラス目の傾斜角がガス流れ方向に対して逃げ角(いわゆる鈍角)となるように触媒エレメントを重ねて配置することができる。これにより、触媒成分に摩耗強度の低い部分が生じることを抑制し、触媒構造体の摩耗強度(耐摩耗性)の向上を図ることができる。
【0011】
この場合において、前記触媒エレメントは、第1の触媒エレメントと第2の触媒エレメントを有しており、前記第1の触媒エレメントには、前記メタルラス基材の
前記一面側及び
前記他面側に波形に突出させた第1の突条部が前記排ガスの流過方向へ連続して延設され、前記第2の触媒エレメントには、前記メタルラス基材の
前記一面側及び
前記他面側に波形に突出させた第2の突条部が前記排ガスの流過方向と直交する方向に対する位置を前記第1の突条部と異ならせて前記排ガスの流過方向へ連続して延設され、前記第1の触媒エレメント及び前記第2の触媒エレメントは、交互に重ねて配置された構成とすることができる。
【0012】
なお、前記触媒エレメントは、前記メタルラス基材の
前記一面側及び
前記他面側に波形に突出させて前記排ガスの流過方向へ連続して延設された突条部を有し、前記メタルラス基材の
前記一面と
前記他面の向き及び前記流過方向に対する前後の向きをいずれも入れ換えつつ重ねて配置された構成としても構わない。
【0013】
また、上記課題を解決するため、本発明は、ペースト状の触
媒をメタルラス基材の一面側から
他面側へ供給し、一対の加圧ローラを通すことで、前記メタルラス基材の
両面及びラス目に前記触媒成分を担持させた後、該メタルラス基材をプレスにより波型加工して形成された触媒エレメントが隙間を空けて複数重ねて配置され、前記隙間に排ガスを流過させて浄化する触媒構造体の製造方法であって、前記ラス
目は、前記メタルラス基材の前記一面側及び前記他面側の前記隙間へ傾斜して突出する縁部を
有し、前記メタルラス基材の前記一面
側に傾斜して突出する前記ラス目の縁部を前記排ガスの流れの上流側に向けて、前記メタルラス基材の前記他面
側に傾斜して突出する前記ラス目の縁部を前記排ガスの流れの下流側に向けて、前記触媒エレメントを重ねて配置することを特徴とする。
【0014】
これによれば、摩耗強度の低いメタルラス基材の他面側のラス目の傾斜角がガス流れ方向に対して逃げ角(鈍角)となるように触媒エレメントを重ねて配置することができ、触媒成分に摩耗強度の低い部分が生じることを抑制し、摩耗強度(耐摩耗性)の向上を図ることが可能な触媒構造体を製造することができる。
【0015】
この場合において、前記触媒エレメントとして、第1の触媒エレメントと第2の触媒エレメントを形成し、前記第1の触媒エレメントには、前記メタルラス基材の
前記一面側及び
前記他面側に波形に突出させた第1の突条部を前記排ガスの流過方向へ連続して延設し、前記第2の触媒エレメントには、前記メタルラス基材の
前記一面側及び
前記他面側に波形に突出させた第2の突条部を前記排ガスの流過方向と直交する方向に対する位置を前記第1の突条部と異ならせて前記排ガスの流過方向へ連続して延設し、前記第1の触媒エレメント及び前記第2の触媒エレメントを交互に重ねて配置することができる。
【0016】
また、前記触媒エレメントには、前記メタルラス基材の
前記一面側及び
前記他面側に波形に突出させた突条部を前記排ガスの流過方向へ連続して延設し、該触媒エレメントを前記メタルラス基材の
前記一面と
前記他面の向き及び前記流過方向に対する前後の向きをいずれも入れ換えつつ重ねて配置しても構わない。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、触媒の組成等を変えることなく、触媒を均等に摩耗させることができ、触媒の中に局所的に摩耗し易い部分が存在する事態を抑止することができる。この結果、触媒構造体の摩耗強度(耐摩耗性)の向上を図ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の触媒構造体及びその製造方法について、添付図面を参照して説明する。本発明に係る触媒構造体は、板状のメタルラス基材に触媒成分(以下、単に触媒という。)を担持させた触媒エレメントが隙間(流路)を空けて複数重ねて配置され、前記隙間に排ガスを流過させて浄化するものである。かかる触媒構造体が浄化する排ガスとしては、例えば、発電所や各種工場等の産業設備、自動車などから排出される排気ガスを想定している。なお、以下の説明においては、触媒を担持した状態の板状のメタルラス基材を触媒エレメントという。
【0020】
まず、本発明の理解を容易にするため、本発明に対応する従来の触媒構造体の構成とその問題点について説明する。触媒構造体を構成する板状の触媒エレメントに摩耗現象が生じた場合、その影響要因としては、触媒自体の摩耗強度、触媒の塗布面の状態、排ガスの流過方向(以下、ガス流れ方向という。)に対するメタルラス基材のラス目(具体的には、その縁部)の傾斜方向が挙げられる。
【0021】
図8には、触媒構造体を構成する触媒エレメントの基本製造フローを示す。
図8に示すように、触媒エレメントに加工されるメタルラス基材1は、ロール5に巻かれた状態となっている。ロール5に巻かれた帯状のメタルラス基材1は、順次巻き出され、巻き出されたメタルラス基材1の上にペースト状に調整した触媒(一例として、脱硝触媒)2が載置される。この状態から、載置された触媒2をポリエチレンシート6で挟んで一対の加圧ローラ7に通し、メタルラス基材1の一面(以下、塗布面という。)20に触媒2を塗布するとともに、該メタルラス基材1のラス目を触媒2で埋めることで、触媒2をメタルラス基材1に担持させる。この場合、触媒2は、メタルラス基材1の一面(塗布面20)側から供給される。このように塗布面20及びラス目に触媒2が担持されたメタルラス基材1は、油圧プレス8によりプレスされて波型加工(断面形状が波形となるように加工)される。そして、波型加工されたメタルラス基材1は、シャー9によって所定の長さに切断され、風乾後に焼成される。これにより、板状のメタルラス基材1に触媒2を担持させた触媒エレメントが製造される。
【0022】
このように、ペースト状の触媒2をメタルラス基材1の一面(塗布面20)側から供給し、加圧ローラ7で触媒2を塗布する場合、触媒の種類によっては、他面、つまり塗布面20の反対側の面(以下、塗布背面という。)21でペースト状の触媒2を固める圧力が下がり、塗布背面21側の触媒2が圧密化されないおそれがある。また、ペースト状の触媒2に含まれる水分が、圧力の強い塗布面20から圧力の弱い塗布背面21に移動し、塗布背面21では塗布面20に比べて触媒2中の水分が多くなることがある。触媒2中の水分が多くなると、焼成後の触媒2の細孔容積が増加し、摩耗強度の低下を招く場合がある。
【0023】
次に、メタルラス基材のラス目の傾斜方向による摩耗現象の影響について説明する。
図9には、一面(逃げ面となる表面であって、塗布面20に相当)と他面(掬い面となる裏面であって、塗布背面21に相当)でラス目の傾斜方向を異ならせたメタルラス基材1(1c)の構成を示す。
図9(a)は、一面側の平面図、同図(b)は、他面側の平面図、同図(c)は、同図(a)の矢印A9部分における縦断面を矢印方向から示す図である。このような異方性を有するメタルラス基材1(1c)においては、ラス目24の傾斜角(ラス目24とメタルラス基材1(1c)の一面もしくは他面とがなす角度)がガス流れ方向(
図9においては、左から右へ向かう方向)に対して掬い角(いわゆる鋭角)となっていると(例えば、同図(c)に示す他面(塗布背面21)側)、形状的及び幾何学的にラス目24の掬い面22が流過する排ガスを掬うようになり、排ガス中のダストが掬い面22に集中して衝突する。このため、その集中の程度によっては、ダストの衝突部位となる掬い面22の近傍が激しく摩耗するおそれがある。なお、ラス目24の傾斜角がガス流れ方向に対して逃げ角(いわゆる鈍角)となっていると(例えば、
図9(c)に示す表面(塗布面20)側)、ラス目24の逃げ面23が流過する排ガスを効率的に逃がす構成となる。
【0024】
そこで、本発明においては、摩耗強度の低い面(塗布背面21)をガス流れ方向に対してラス目24の傾斜角が逃げ角(鈍角)となるように、触媒エレメントを重ねて配置することで、触媒2に摩耗強度の低い部分が生じることを抑制し、触媒構造体の摩耗強度(耐摩耗性)の向上を図ることを可能とする。
【0025】
図10は、かかる本発明の作用を説明するための図であって、同図(a)は、触媒2の摩耗強度が低い触媒エレメントの構成を示す平面図、同図(b)は、同図(a)の矢印A101部分における縦断面を矢印方向から示す図である。また、
図10(c)は、触媒2の摩耗強度を同図(b)に示す触媒エレメントよりも高めた触媒エレメントの構成を示す平面図、同図(d)は、同図(c)の矢印A102部分における縦断面を矢印方向から示す図である。
【0026】
図10(a),(b)に示す触媒エレメントの構成においては、触媒2の摩耗強度が比較的高い一面(塗布面20)側では、メタルラス基材1(1c)のラス目24の縁部25が逃げ面23となっているのに対し、摩耗強度が比較的低い他面(塗布背面21)側では、ラス目24の縁部25が掬い面22となっている。したがって、触媒2は、塗布面20側の摩耗強度が高くなる一方で、塗布背面21側では摩耗強度が著しく低くなり、掬い面22の近傍に摩耗個所4が生じる。摩耗現象の強度は、強度の低い部分に支配されるため、結果として、触媒2の摩耗強度、ひいては触媒構造体の摩耗強度(耐摩耗性)が低くなる。
【0027】
これに対し、
図10(c),(d)に示す触媒エレメントの構成においては、触媒2の摩耗強度が比較的高い一面(塗布面20)側では、メタルラス基材1(1a)のラス目24の縁部25を掬い面22とし、摩耗強度が比較的低い他面(塗布背面21)側では、ラス目24の縁部25を逃げ面23としている。これにより、触媒2において摩耗強度が極端に低い部分をなくし、全体がより均等に摩耗される状態としている。この結果、触媒2の摩耗強度、ひいては触媒構造体の摩耗強度(耐摩耗性)を上述した
図10(a),(b)に示す触媒エレメントの構成と比べて向上させることが可能となる。すなわち、触媒2の組成を変更することなく、ガス流れ方向に対するラス目24の傾斜方向、換言すれば、触媒エレメントの積層状態(重畳状態)を変えることで、触媒2の触媒活性を犠牲にすることなく、摩耗強度を向上させることができる。
【0028】
図1〜
図4には、このような本発明の実施形態に係る触媒構造体の構成を示す。
図1は、第1の実施形態に係る触媒構造体の構成を示す図であって、同図(a)は触媒構造体の全体構成を示す斜視図、同図(b)は触媒エレメント(触媒を担持したメタルラス基材)の構成及び重畳状態を示す斜視図である。そして、
図2は、
図1の矢印A1部分における縦断面(第1の実施形態に係る触媒エレメントの重畳状態)を矢印方向から示す図である。また、
図3は、第2の実施形態に係る触媒構造体の構成を示す図であって、同図(a)は触媒構造体の全体構成を示す斜視図、同図(b)は触媒エレメントの構成及び重畳状態を示す斜視図である。そして、
図4は、
図3の矢印A3部分における縦断面(第2の実施形態に係る触媒エレメントの重畳状態)を矢印方向から示す図である。なお、第1の実施形態(
図1及び
図2)及び第2の実施形態(
図3及び
図4)においては、触媒構造体における基本的な構成は共通しており、双方の構成において同一もしくは類似する構成部材については図面上で同一符号を付している。
【0029】
図1及び
図2に示すように、本発明の第1実施形態に係る触媒構造体は、板状のメタルラス基材1(1a)に触媒2を担持させた触媒エレメントが隙間(以下、流路という。)を空けて複数重ねて配置された構成となっており、流路26に排ガスを流過させて浄化する。かかる触媒エレメントは、
図8に示すように、ペースト状の触媒2をメタルラス基材1(1a)の一面(塗布面20に相当)側から供給し、一対の加圧ローラ7を通すことで、メタルラス基材1(1a)の一面及びラス目24に触媒2を担持させた後、該メタルラス基材1(1a)をプレス(一例として、油圧プレス)8により波型加工して形成されている。なお、触媒エレメントは、波型加工後、シャー9によって所定の長さに切断される。この場合、触媒エレメントは、メタルラス基材1(1a)の一面(塗布面20)及びラス目24に触媒2を担持している。具体的には、一面(塗布面20)に触媒2が塗布されるとともに、ラス目24に触媒2が埋められることで、触媒エレメントが構成されている。
【0030】
かかるメタルラス基材1(1a)において、ラス目24は、担持した触媒2よりもメタルラス基材1(1a)の一面(塗布面20)側及び他面(塗布背面21)側の流路26へ傾斜して突出する縁部25を有している。そして、触媒エレメントは、排ガスの流過方向(ガス流れ方向(
図2においては、左から右へ向かう方向))に対し、縁部25とメタルラス基材1(1a)の一面(塗布面20)との間の角度が掬い角(0°より大きく90°より小さい所定の角度(いわゆる鋭角))で、縁部25とメタルラス基材1(1a)の他面(塗布背面21)との間の角度が逃げ角(90°より大きく180°より小さい所定の角度(いわゆる鈍角))となるように重ねて配置されている(
図2参照)。
【0031】
図1(b)に示すように、本実施形態において、触媒エレメントは、第1の触媒エレメントと第2の触媒エレメントを有している。第1の触媒エレメントには、メタルラス基材1(1a)の一面(塗布面20)側及び他面(塗布背面21)側に波形に突出させた第1の突条部27が排ガスの流過方向(ガス流れ方向)へ連続して延設されている。以下、かかる第1の触媒エレメントを構成するメタルラス基材1(1a)を第1のメタルラス基材11aという。これに対し、第2の触媒エレメントには、メタルラス基材1(1a)の一面(塗布面20)側及び他面(塗布背面21)側に波形に突出させた第2の突条部28がガス流れ方向と直交する方向に対する位置を第1の突条部27と異ならせてガス流れ方向へ連続して延設されている。以下、かかる第2の触媒エレメントを構成するメタルラス基材1(1a)を第2のメタルラス基材12aという。
図1には、ガス流れ方向と平行をなして連続するように突出させて延設した第1の突条部27及び第2の突条部28の構成を一例として示している。その際、第1の突条部27及び第2の突条部28は、その縦断面形状が凸曲状(略正弦波の1周期分の波形に相当)をなすように形成している。また、
図1に示す構成においては、かかる第1の突条部27及び第2の突条部28をそれぞれ3本ずつ延設している。
【0032】
ただし、第1の突条部27及び第2の突条部28の形状や本数等の構成は特に限定されず、任意に設定することが可能である。例えば、第1の突条部27及び第2の突条部28の形状は、
図5(a)に示す本実施形態における形状(縦断面形状が凸曲状(略正弦波の1周期分の波形に相当))の他、
図5(b)〜(e)に示すような各種の形状であっても構わない。具体的には、
図5(b)は塗布面20側にのみ縦断面形状が略V字状をなす突条部40、同図(c)は縦断面形状が同図(a)の凸曲状(略正弦波の1周期分の波形に相当)の形状を極大点から極小点まで略垂直に連続させた突条部41(いわゆるのこぎり波の1周期分の波形に相当)、同図(d)は縦断面形状を矩形状(略矩形パルス波の1周期分の波形に相当)とした突条部42、同図(e)は塗布面20側にのみ縦断面形状を略台形状とした突条部43の例をそれぞれ示す。なお、第1の突条部27と第2の突条部28の縦断面形状は同一であることが好ましいが、互いに異なる形状とすることも想定可能である。
【0033】
そして、第1の触媒エレメント及び第2の触媒エレメント(端的には、第1のメタルラス基材11a及び第2のメタルラス基材12a)は、交互に重ねて配置されている。第1の突条部27と第2の突条部28は、ガス流れ方向と直交する方向に対する位置を互いに異ならせて延設されているため、第1の突条部27及び第2の突条部28がスペーサとして機能し、第1のメタルラス基材11aと第2のメタルラス基材12aとの間に所定の空隙を形成することができる。これにより、かかる空隙によって第1の触媒エレメントと第2の触媒エレメントとの間に排ガスを流過させるための隙間(流路)26を確保することができる。なお、第1の触媒エレメント及び第2の触媒エレメントは、このように第1の突条部27及び第2の突条部28によって流路26を形成しつつ、交互に重ねて配置された状態で筺体(以下、触媒ユニットという。)3に収容される。
【0034】
本実施形態において、触媒構造体の触媒エレメント(第1の触媒エレメント及び第2の触媒エレメント)は、
図2に示すように、第1のメタルラス基材11a及び第2のメタルラス基材12aの塗布面20側ではラス目24の縁部25が掬い面22として構成され、塗布背面21側ではラス目24の縁部25が逃げ面23として構成されている。すなわち、摩耗強度が比較的高い塗布面20側が掬い面22、摩耗強度が比較的低い塗布背面21側が逃げ面23となっている。このため、排ガス中のダストが集中して衝突し易い掬い面22の近傍は、逃げ面23の近傍と比較して摩耗強度が高められた状態となっている。したがって、触媒2において摩耗強度が極端に低い部分を排除することができ、全体をより均等に摩耗させることが可能となる。これにより、触媒2の摩耗強度、ひいては触媒構造体の摩耗強度(耐摩耗性)の向上を図ることができる。この結果、例えば、触媒2の組成を変更することなく、ガス流れ方向に対する触媒エレメント(第1の触媒エレメント及び第2の触媒エレメント)の積層方向を変えることで、触媒2の触媒活性を犠牲にすることなく、摩耗強度を向上させることが可能となる。
【0035】
また、
図3及び
図4に示すように、本発明の第2実施形態に係る触媒構造体は、板状のメタルラス基材1(1b)に触媒2を担持させた触媒エレメントが隙間(流路)26を空けて複数重ねて配置された構成となっており、流路26に排ガスを流過させて浄化する。その際、上述した
図8に示す製造フローにより、メタルラス基材1(1b)の一面(塗布面20)に触媒2が塗布されるとともに、ラス目24に触媒2が埋められることで、触媒エレメントが構成されていることは第1の実施形態と同様である。
【0036】
この場合、ラス目24は、担持した触媒2よりもメタルラス基材1(1b)の塗布面20側及び塗布背面21側の流路26へ傾斜して突出する縁部25を有しており、触媒エレメントは、ガス流れ方向(
図4においては、左から右へ向かう方向)に対し、縁部25とメタルラス基材1(1b)の塗布面20との間の角度が掬い角(鋭角)で、縁部25とメタルラス基材1(1b)の塗布背面21との間の角度が逃げ角(鈍角)となるように重ねて配置されていることも第1実施形態と同様である(
図2及び
図4参照)。
【0037】
図3(b)に示すように、本実施形態において、触媒エレメントは、メタルラス基材1(1b)の一面(塗布面20)側及び他面(塗布背面21)側に波形に突出させて排ガスの流過方向(ガス流れ方向)へ連続して延設された突条部29を有し、メタルラス基材1(1b)の一面(塗布面20)と他面(塗布背面21)の向き及びガス流れ方向に対する前後の向きをいずれも入れ換えつつ重ねて配置されている。換言すれば、触媒エレメントは、隣り合う2つの触媒エレメントが、一方に対して他方の位置を水平方向に180°回転させるとともに、垂直方向にも180°回転させて重畳配置されている。この場合、本実施形態に係るメタルラス基材1(1b)は、上述した第1実施形態に係る第1のメタルラス基材11aと同様に構成されており、排ガスの流過方向(ガス流れ方向)へ連続して一面(塗布面20)側及び他面(塗布背面21)側に突出させて延設された突条部29(第1の突条部27と同様)を有している。したがって、
図3には、ガス流れ方向と平行をなして連続するように突出させて延設するとともに、縦断面形状が凸曲状(略正弦波の1周期分の波形に相当)をなす3本の突条部29を延設した構成を一例として示している。
【0038】
ただし、突条部29の形状や本数等の構成は特に限定されず、任意に設定することが可能であることは上述した第1の実施形態と同様である。例えば、突条部29の形状は、
図5(a)に示す本実施形態における形状(縦断面形状が凸曲状(略正弦波の1周期分の波形に相当))の他、
図5(b)〜(e)に示すような各種の形状(突条部40〜43)とすることが可能である。
【0039】
本実施形態において、触媒エレメントは、メタルラス基材1(1b)の塗布面20と塗布背面21の向きを入れ換えるとともに、ガス流れ方向に対する前後の向きを交互に入れ換えて(すなわち、水平方向に180°回転させるとともに、垂直方向にも180°回転させて)重ねて配置されている。これにより、重畳方向に対して隣り合う2つの触媒エレメントを、これらにおける突条部29のガス流れ方向と直交する方向に対する位置を互いに異ならせて配置することができるため、突条部29がスペーサとして機能し、隣り合うメタルラス基材1(1b)の間に所定の空隙を形成することができる。これにより、かかる空隙によって隣り合う触媒エレメントの間に排ガスを流過させるための隙間(流路)26を確保することができる。このように、本実施形態においては、塗布面20同士及び塗布背面21同士が交互に流路26を挟んでそれぞれ対面した状態となるように、触媒エレメントが複数重ねて配置されている。なお、これらの触媒エレメントは、互いの突条部29によって流路26を形成しつつ、重ねて配置された状態で触媒ユニット3に収容される。
【0040】
本実施形態において、触媒構造体の触媒エレメントは、
図4に示すように、塗布面20側ではラス目24の縁部25が掬い面22として構成され、塗布背面21側ではラス目24の縁部25が逃げ面23として構成されている。したがって、本実施形態においても、上述した第1の実施形態(
図1及び
図2)と同様に、触媒2において摩耗強度が極端に低い部分を排除することができ、全体をより均等に摩耗させることが可能となる。これにより、触媒2の摩耗強度、ひいては触媒構造体の摩耗強度(耐摩耗性)の向上を図ることができる。なお、本実施形態においては、突条部29によって塗布面20同士が対面されて形成された流路26と、突条部29によって塗布背面21同士が対面されて形成された流路26とが交互に配された構成となっている。
【0041】
次に、上述した第1の実施形態(
図1及び
図2)及び第2の実施形態(
図3及び
図4)を適用し、実験により摩耗強度(耐摩耗性)の分析を行った実施例及びその比較例について説明する。
【0042】
(実施例1)
実施例1(構成については、
図1及び
図2に示す第1の実施形態を参照)においては、メタルラス基材1(第1のメタルラス基材11a及び第2のメタルラス基材12a)として、ステンレスエキスパンドメタルを適用した。その際、かかるステンレスエキスパンドメタルは、幅方向(ガス流れ方向と直交する方向)の寸法が450mmに設定された帯状をなし、触媒エレメントへの加工前においてはロール5に巻かれた状態となっている(
図8参照)。また、触媒2としては、酸化チタンを主成分とし、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)を添加した後、シリカアルミナ繊維を加えて水によってペースト化させたものを用いた。
【0043】
次いで、ステンレスエキスパンドメタルにペースト状の触媒2を塗布して担持させ、その後、第1の突条部27及び第2の突条部28における山部の高さ(別の捉え方をすれば、谷部の深さ)が5.7mmとなるように加工するとともに、長さ方向(ガス流れ方向)の寸法が500mmとなるように切断した。ここで、流路26を確保するために、ガス流れ方向と直交する方向に対する山部及び谷部の位置が異なる(位置をずらした)突条部(第1の突条部27と第2の突条部28)をガス流れ方向へ連続して延設した2種類の波形形状の触媒エレメントを作製した。この場合、例えば、波形が異なる2種類の油圧プレス8を用いてプレス加工することにより、2種類の波形の触媒エレメント(第1の触媒エレメント及び第2の触媒エレメント)を作製することができる。
【0044】
そして、これらの触媒エレメントを塗布面20側におけるラス目24の傾斜角(ラス目24の縁部25と塗布面20とがなす角度)がガス流れ方向に対して掬い角(鋭角)、塗布背面21側におけるラス目24の傾斜角(ラス目24の縁部25と塗布背面21とがなす角度)がガス流れ方向に対して逃げ角(鈍角)となるように、2種類の触媒エレメントを交互に所定枚数重ねて触媒ユニット3内に配置し、触媒構造体を構成した(
図1及び
図2参照)。なお、かかる触媒構造体における流路26の形状は、1種類となる。
【0045】
(実施例2)
実施例2(構成については、
図3及び
図4に示す第2の実施形態を参照)においては、上述した実施例1と同一のペースト状の触媒2を同一のステンレスエキスパンドメタルに塗布して担持させた。その後、突条部29における山部の高さ(別の捉え方をすれば、谷部の深さ)を実施例1と同一(5.7mm)となるように加工するとともに、長さ方向(ガス流れ方向)の寸法も同一(500mm)となるように切断した。なお、本実施例2においては、共通する突条部29をガス流れ方向へ連続して延設した1種類の波形形状の触媒エレメントのみを作製した。
【0046】
そして、かかる触媒エレメントを、ガス流れ方向に対するラス目24の傾斜角が塗布面20側は掬い角(鋭角)、塗布背面21側は逃げ角(鈍角)となるように、1枚目の触媒エレメント(
図4における最下段の触媒エレメント)として配置した。その後、2枚目の触媒エレメントは、メタルラス基材1(1b)の一面(塗布面20)と他面(塗布背面21)の向きを入れ換えるとともに、ガス流れ方向に対する前後方向の向きも入れ換えて、1枚目の触媒エレメントに重ねて配置した。すなわち、本実施例2においては、ガス流れ方向に対し、塗布面20側におけるラス目24の傾斜角が掬い角、塗布背面21側におけるラス目24の傾斜角が逃げ角となるように1枚目の触媒エレメントを触媒ユニット3に配置した後、この上に重ねる2枚目の触媒エレメントは、1枚目の触媒エレメントの突条部29における山部(谷部)と2枚目の触媒エレメントの突条部29における山部(谷部)が重ならないようにするため、水平方向に180°回転させる。さらに、ガス流れ方向に対し、塗布面20側におけるラス目24の傾斜角が掬い角、塗布背面21側におけるラス目24の傾斜角が逃げ角となるように、2枚目の触媒エレメントを垂直方向にも180°回転させ(天地を逆転させ)、1枚目の触媒エレメントに重ねて触媒ユニット3内へ配置する。これを交互に実施例1と同一枚数にわたって繰り返し、触媒構造体を構成した(
図3及び
図4参照)。なお、かかる触媒構造体における流路26の形状は、2種類となる。
【0047】
(比較例1)
比較例1の構成を
図6及び
図7に示す。
図6は、比較例に係る触媒構造体の構成を示す図であって、同図(a)は触媒構造体の全体構成を示す斜視図、同図(b)は触媒エレメント(触媒2を担持したメタルラス基材1(1c))の構成を示す斜視図である。そして、
図7は、
図6の矢印A6部分における縦断面(比較例1に係る触媒エレメントの重畳状態)を矢印方向から示す図である。
【0048】
かかる比較例1においては、上述した実施例1及び実施例2と同一のペースト状の触媒2を同一のステンレスエキスパンドメタルに塗布して担持させた。その後、突条部30における山部の高さ(別の捉え方をすれば、谷部の深さ)を実施例1及び実施例2と同一(5.7mm)となるように加工するとともに、長さ方向(ガス流れ方向)の寸法も同一(500mm)となるように切断した。なお、比較例1においては、共通する突条部30を延設した1種類の波形形状の触媒エレメントのみを作製した。また、比較例1に係るメタルラス基板1(1c)は、
図10(a)に示すものに相当する。
【0049】
そして、かかる触媒エレメントを塗布面20側におけるラス目24の傾斜角がガス流れ方向に対して逃げ角(鈍角)となるように(塗布背面21側におけるラス目24の傾斜角は掬い角(鋭角))、1枚目の触媒エレメント(
図7における最下段の触媒エレメント)として配置した。その後、2枚目の触媒エレメントは、塗布背面21側におけるラス目24の傾斜角がガス流れ方向に対して逃げ角となるように(塗布面20側におけるラス目24の傾斜角は掬い角)、ガス流れ方向に対する前後方向の向きを入れ換えて、1枚目の触媒エレメントに重ねて配置した。すなわち、比較例1においては、ガス流れ方向に対し、塗布面20側におけるラス目24の傾斜角が逃げ角となるように1枚目の触媒エレメントを触媒ユニット3に配置した後、この上に重ねる2枚目の触媒エレメントは、1枚目の触媒エレメントの突条部30における山部(谷部)と2枚目の触媒エレメントの突条部30における山部(谷部)が重ならないようにするため、塗布面20(もしくは塗布背面21)の向きは同一向きとしたままで、水平方向に180°回転させて1枚目の触媒エレメントに重ねて触媒ユニット3内へ配置する。これを交互に実施例1及び実施例2と同一枚数にわたって繰り返し、触媒構造体を構成した(
図6及び
図7参照)。このように、比較例1においては、ガス流れ方向に対する前後方向の向きは入れ換える一方で、上述した実施例2とは異なり、メタルラス基材1(1c)の一面(塗布面20)と他面(塗布背面21)の向きは入れ換えない。つまり、水平方向に180°回転させる一方で、垂直方向には回転させない(天地は逆転させない)。なお、かかる触媒構造体における流路26の形状は、2種類となる。
【0050】
すなわち、比較例1に係る触媒構造体では、ガス流れ方向に対し、塗布背面21側におけるラス目24の傾斜角が掬い角となる触媒エレメントと、塗布背面21側におけるラス目24の傾斜角が逃げ角となる触媒エレメントが交互に重ねて配置(積層)されている。かかる比較例1は、従来の触媒構造体の構成に相当し、このような触媒エレメントの重畳状態(積層状態)が現在においては一般的に採用されている。
【0051】
(実施例1及び実施例2と比較例1との比較)
触媒エレメント(端的には、触媒2)の摩耗状態に対する評価として、粉体摩耗試験装置を用いて
図11に示す条件で触媒2の摩耗状態を確認した。
図12には、かかる触媒エレメントの摩耗状態に対する評価結果を示す。なお、
図12には、触媒エレメント(触媒2を担持したメタルラス基材1)の局所及び全体に対する摩耗度合(摩耗強度)を優れた順に◎、○、△の各記号で示している。
【0052】
図12に示すように、実施例1に係る触媒構造体とすることで、比較例1に示す従来型の触媒構造体よりも触媒エレメント全体の摩耗度合が減少した。これは、塗布背面21の摩耗強度が向上し、摩耗度合が平均化されたこと、つまり、触媒エレメントの全体が均等に摩耗されたことによる効果である。
【0053】
実施例2に係る触媒構造体における摩耗状態は、実施例1と同程度であった。また、触媒エレメント全体の摩耗強度は、従来型の比較例1と比べ改善していることが分かった。また、実施例2では、2種類の異なる流路26が形成されるが、かかる流路26の相違は触媒2の反応効率にほとんど影響しないことを確認している。
【0054】
比較例1では、上述したように、ガス流れ方向に対し、塗布背面21側におけるラス目24の傾斜角が掬い角になる触媒エレメントと、塗布背面21側におけるラス目24の傾斜角が逃げ角となる触媒エレメントが交互に重ねて配置(積層)されているため(
図6及び
図7参照)、塗布背面21側におけるラス目24の傾斜角が掬い角になる触媒エレメントでは摩耗度合が大きいという結果となった。つまり、ラス目24の傾斜角が掬い角となる触媒2の近傍(掬い面22の近傍)が激しく摩耗する結果となった。
【0055】
このように、比較例1では、塗布背面21側におけるラス目24の傾斜角が掬い角となる触媒エレメントが存在しており、触媒エレメント全体における摩耗強度の不均衡を招くため、結果として、触媒エレメント全体の摩耗強度が弱くなる。これに対し、実施例1及び実施例2では、塗布背面21側におけるラス目24の傾斜角が掬い角となる触媒エレメントをなくしているため、触媒エレメント全体における摩耗強度を均等に保つことができる。これにより、触媒エレメント全体の摩耗強度を有効に改善させる結果となった。
【0056】
以上、本発明に係る触媒構造体によれば、触媒2の組成等を変えることなく、触媒エレメント(端的には、触媒2)を均等に摩耗させることができ、触媒2の中に局所的に摩耗し易い部分が存在する事態を抑止することができる。この結果、触媒エレメント、ひいては触媒構造体の摩耗強度(耐摩耗性)の向上を図ることが可能となる。また、本発明に係る触媒構造体は、触媒2の組成等を変えるものではなく、ガス流れ方向に対する触媒エレメントの重畳状態(積層状態)や製法に関わるものであり、触媒2の活性を犠牲にすることなく、摩耗強度を独立して向上させることができる。この結果、例えば、触媒エレメントの摩耗寿命の向上により、脱硝反応器に充填する触媒量の低減化に展開することも可能である。