(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第一電極及び前記第二電極のうち前記生体の足側に配置された電極がマイナス極性であり、前記第一電極及び前記第二電極のうち前記生体の頭側に配置された電極がプラス極性である、請求項1又は2に記載の電気刺激装置。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(口腔・咽喉頭刺激方法)
本発明の口腔・咽喉頭刺激方法は、口腔・咽喉頭領域に対して電気刺激を与えることによって、口腔・咽喉頭機能障害の治療を行うための方法である。ここで、口腔・咽喉頭機能障害とは、嚥下機能障害、睡眠時無呼吸症候群、及び口腔・咽喉頭機能障害に付随して生じる肺炎(咳を出せないため肺に異物が混入して起こる肺炎)等が挙げられる。
【0023】
本発明の口腔・咽喉頭刺激方法は、電気刺激用電流を発振する発振器と、該発振器が発振した電気刺激用電流を生体の口腔・咽喉頭領域に伝える電極とを有する、口腔・咽喉頭領域に対して電気刺激を与えるための電気刺激装置を用いる。そして、本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法は、電極を生体に位置決めする、位置決め工程と、生体に対して電気刺激用電流を発振する、発振工程と、を含むことを必要とし、ここで、電極は、顎下部及び/又は前頸部、並びに頬部に位置決めされることを必要とする。
【0024】
上記位置決め工程による電極の位置決めによれば、患者の口腔・咽喉頭領域、特に、舌、咽頭壁、口蓋峡等の口腔・咽喉頭機能に関わる領域に、電気刺激を効果的に与えることができる。特に、この領域を流れる電流の電流密度を高くすることによって、咽喉頭領域に存在し、嚥下反射を誘発するために必要な感覚神経への入力を司る、咽頭神経叢や上喉頭神経等に電気刺激を効果的に与えることができ、また、口腔領域に存在し、嚥下動作において重要な役割を果たす舌の動作を支配する舌下神経に電気刺激を効果的に与えることができる。
そのため、口腔・咽喉頭領域に、電気刺激を効果的に与えることができる本発明の口腔・咽喉頭刺激方法によれば、口腔・咽喉頭機能障害の治療の効果を高めることができる。
【0025】
以下、図面を参照して、本発明の口腔・咽喉頭刺激方法の実施形態について詳細に例示説明する。
図1(a)に、1つのチャネル(第一チャネル3C1)の第一電極3C1−1及び第二電極3C1−2からなる電極3を有する、電気刺激装置の一例1aを示し、
図1(b)に、第一チャネル3C1の第一電極3C1−1及び第二電極3C1−2、並びに第二チャネル3C2の第一電極3C2−1及び第二電極3C2−2からなる電極3を有する、電気刺激装置の別の例1bを示す。電気刺激装置1は、発振器が発振した電気刺激用電流、例えばパルス電流を、導線4及び電極3を介して生体に伝えることが可能なように構成されている。
なお、
図1(a)、(b)に示す電気刺激装置1a、1bの詳細については後述する。
【0026】
図1(c)に、本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法において用いられる電気刺激装置1の電極3の位置決めの位置となる、顎下部10、前頸部20、及び頬部30を、患者の頭部60付近の正面図において示し、
図1(d)に、(c)に示す、顎下部10、前頸部20、及び頬部30を、患者の頭部60付近の左側面図において示す。
【0027】
以下、口腔・咽喉頭刺激方法の詳細について記載する。
<位置決め工程>
以下、本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法の位置決め工程の詳細について記載する。
初めに、電極3が位置決めされる、顎下部10、前頸部20、及び頬部30の詳細について記載する。
図2に、顎下部10及び前頸部20を含む胸部70から頭部60までの生体部分を、特に筋肉に注目して、正面図において示す。
【0028】
顎下部10としては、例えば、顎二腹筋(前腹)11、顎舌骨筋12、舌骨舌筋13、茎突舌骨筋14、顎二腹筋(後腹)15、及び広頸筋16等が挙げられ、特に、頸動脈洞に対する刺激を回避する観点から、顎二腹筋(前腹)11、顎舌骨筋12、舌骨舌筋13が好ましい。なお、上記筋肉は、1種単独としてもよく、2種以上の組み合わせとしてもよい。
【0029】
前頸部20としては、例えば、甲状舌骨筋21、肩甲舌骨筋22、胸骨舌骨筋23、輪状甲状筋24、胸骨甲状筋25、胸鎖乳突筋26、及び広頸筋16等が挙げられ、特に、甲状舌骨筋21、肩甲舌骨筋22、胸骨舌骨筋23、輪状甲状筋24、胸骨甲状筋25が好ましい。なお、上記筋肉は、1種単独としてもよく、2種以上の組み合わせとしてもよい。
【0030】
ここで、前頸部20及び後頸部を含む頸部の中で、電極3を位置決めする位置は前頸部20とすることが肝要である。前頸部20に電極3を位置決めする場合、頸部傍脊柱筋や僧帽筋を含む後頸部に電極3を位置決めする場合と比較して、より強い電気刺激を口腔・咽喉頭領域90に与えることができるため、より高い口腔・咽喉頭機能障害の治療の効果を得ることができる。
【0031】
図3に、頬部30を含む頭部60を、特に骨に注目して、正面図において示す。
頬部30は、例えば、頬骨弓上縁34から眼窩下縁35に連なる線(
図3中、点線で示す)よりも下顎36側に位置する頬骨31部分、眼窩下縁35から鼻骨下端37に連なる線(
図3中、点線で示す)よりも下顎36側に位置する上顎骨32部分、及びオトガイ結節38と鼻骨下端37とを結ぶ線(
図3中、点線で示す)よりも頸椎39(
図3に図示せず)側に位置する下顎骨33部分等が挙げられる。なお、上記部分は、1種単独としてもよく、2種以上の組み合わせとしてもよい。
【0032】
図4(a)に、頬部30を含む頭部60を、特に骨に注目して、左側面図において示し、
図4(b)に、頬部30を、特に骨に注目して、左側面図において拡大して示す。
頬部30は、
図3に示す部分の中で、特に、口腔・咽喉頭領域90に対して効率良く電気刺激を与える観点から、翼突下顎縫線41、下顎切痕42、及び眼窩下孔43等が好ましい。なお、上記部位は、1種単独としてもよく、2種以上の組み合わせとしてもよい。
【0033】
図5(a)に、頬部30を含む頭部60を、特に筋肉に注目して、左側面図において示し、
図5(b)に、頬部30を含む下顎36を、特に筋肉に注目して、左側面図において拡大して示す。また、
図5(c)に、頬部30を、特に筋肉に注目して、左側面図において拡大して示し、
図5(d)に、口腔・咽喉頭領域90の体軸断面を示す。
更に、頬部30は、例えば、咬筋44、頬筋45、上唇挙筋46、大頬骨筋47、小頬骨筋48、口角下制筋49、下唇下制筋50、広顎筋51、オトガイ三角筋52、オトガイ筋53、外側翼突筋54、内側翼突筋55、及び上咽頭収縮筋56等が挙げられ、特に、口腔・咽喉頭領域90に対して効率良く電気刺激を与える観点から、咬筋44、頬筋45、外側翼突筋54、内側翼突筋55、及び上咽頭収縮筋56が好ましい。なお、上記筋肉は、1種単独としてもよく、2種以上の組み合わせとしてもよい。
【0034】
電流が上記筋肉の生体表面側を流れてしまうと、電流が生体の深部に位置する上記筋肉にまで電流が流れず、患者の口腔・咽喉頭領域90(特に、舌、咽頭壁、口蓋峡)に電気刺激を十分に与えることができない虞がある。そのため、頬部30に対して電気刺激を与える際には、生体内部に位置する口腔・咽喉頭領域90に対する電気的な距離を近くするという観点から、比較的高い電気抵抗を有する上記頬部30に係る骨部分と、比較的低い電気抵抗を有する上記頬部30に係る筋肉との解剖学的な位置関係を考慮して、口腔・咽喉頭領域90に最も近接した筋組織に対して強い電流が流れるように電極を配置することが好ましい。口腔・咽喉頭領域90は下顎骨33等の骨により覆われた生体内部に位置することから、骨と口腔・咽喉頭領域90に近接する筋組織との間に位置する部位に電極を配置することが好ましい。
【0035】
次に、本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法の位置決め工程の具体例について記載する。
本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法における位置決め工程の第一例を記載する。
図6に示すように、この例では、
図1(a)に示す電気刺激装置の一例1aが用いられる。ここで、電極3は、1つのチャネル(第一チャネル3C1)の第一電極3C1−1及び第二電極3C1−2からなる。
図6(a)に示すように、第一電極3C1−1は、導線4により電気的に接続された第一A電極部分3C1−1A及び第一B電極部分3C1−1Bからなり、第二電極3C1−2は、導線4により電気的に接続された第二A電極部分3C1−2A及び第二B電極部分3C1−2Bからなる。
図6(a)に、位置決め工程の第一例における電極3の位置を、患者の頭部60付近の正面図において示し、
図6(b)に、
図6(a)に示す電極3の位置を、患者の頭部60付近の左側面図において示す。
位置決め工程の第一例では、第一A電極部分3C1−1Aを生体右側(患者側からみて右側、図面上で左側、以下同じ)の前頸部20に、第一B電極部分3C1−1Bを生体右側の頬部30に貼り付けることによって、位置決めし、また、第二A電極部分3C1−2Aを生体左側(患者側からみて左側、図面上で右側、以下同じ)の前頸部20に、第二B電極部分3C1−2Bを生体左側の頬部30に貼り付けることによって位置決めする。
特に、位置決め工程の第一例によれば、口腔・咽喉頭領域に対して均一な刺激を与えることが可能となる。
【0036】
なお、本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法における位置決め工程は、これに限定されることなく、第一電極3C1−1及び第二電極3C1−2のそれぞれを、顎下部10及び/又は前頸部20、並びに頬部30に位置決めすることができればよい。
【0037】
本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法における位置決め工程の第二例を記載する。
図7に示すように、この例では、
図1(b)に示す電気刺激装置の別の例1bが用いられる。ここで、電極3は、2つのチャネル(第一チャネル3C1及び第二チャネル3C2)からなる。
図7(a)に示すように、第一チャネル3C1は、第一電極3C1−1及び第二電極3C1−2からなり、また、第二チャネル3C2は、第一電極3C2−1及び第二電極3C2−2からなる。
図7(a)に、位置決め工程の第二例における電極3の位置を、患者の頭部60付近の正面図において示し、
図7(b)に、
図7(a)に示す電極3の位置を、患者の頭部60付近の左側面図において示す。
位置決め工程の第二例では、第一チャネル3C1の第一電極3C1−1を生体左側の前頸部20に、第一チャネル3C1の第二電極3C1−2を生体右側の頬部30に貼り付けることによって、位置決めし、また、第二チャネル3C2の第一電極3C2−1を生体右側の前頸部20に、第二チャネルの第二電極3C2−2を生体左側の頬部30に貼り付けることによって、位置決めする。
特に、位置決め工程の第二例によれば、頸部側の口腔・咽喉頭領域に比較的強い電気刺激を与えることが可能になる。
【0038】
本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法における位置決め工程の第三例を記載する。
図8に示すように、この例では、
図1(b)に示す電気刺激装置の別の例1bが用いられる。ここで、電極は、
図7に示す位置決め工程の第二例の場合と同様である。以下では、
図7に示す位置決め工程の第二例において用いられる電気刺激装置と同様の要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
図8(a)に、位置決め工程の第三例における電極3の位置を、患者の頭部60付近の正面図において示し、
図8(b)に、
図8(a)に示す電極3の位置を、患者の頭部60付近の左側面図において示す。
位置決め工程の第三例では、第一チャネル3C1の第一電極3C1−1を生体左側の顎下部10に、第一チャネル3C1の第二電極3C1−2を生体右側の頬部30に貼り付けることによって、位置決めし、また、第二チャネル3C2の第一電極3C2−1を生体右側の顎下部10に、第二チャネルの第二電極3C2−2を生体左側の頬部30に貼り付けることによって、位置決めする。
特に、位置決め工程の第三例によれば、口腔側の口腔・咽喉頭領域に比較的強い電気刺激を与えることが可能になる。
【0039】
本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法における位置決め工程の第四例を記載する。
図9に示すように、この例では、
図1(b)に示す電気刺激装置の別の例1bが用いられる。ここで、電極3は、2つのチャネル(第一チャネル3C1及び第二チャネル3C2)からなる。
図9(a)に示すように、第一チャネル3C1は、第一電極3C1−1及び第二電極3C1−2からなり、また、第二チャネル3C2は、第一電極3C2−1及び第二電極3C2−2からなる。ここで、第一チャネルの第一電極3C1−1は、導線4により電気的に接続された第一第一A電極部分3C1−1A及び第一第一B電極部分3C1−1Bからなり、第二チャネルの第一電極3C2−1は、導線4により電気的に接続された第二第一A電極部分3C2−1A及び第二第一B電極部分3C2−1Bからなる。以下では、
図7に示す位置決め工程の第二例において用いられる電気刺激装置と同様の要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
図9(a)に、位置決め工程の第四例における電極3の位置を、患者の頭部60付近の正面図において示し、
図9(b)に、
図9(a)に示す電極3の位置を、患者の頭部60付近の左側面図において示す。
位置決め工程の第四例では、第一第一A電極部分3C1−1Aを生体左側の前頸部20に、第一第一B電極部分3C1−1Bを生体左側の顎下部10に貼り付け、第一チャネルの第二電極3C1−2を生体右側の頬部30に貼り付けることによって、位置決めし、第二第一A電極部分3C2−1Aを生体右側の前頸部20に、第二第一B電極部分3C2−1Bを生体右側の顎下部10に貼り付け、第二チャネルの第二電極3C2−2を生体左側の頬部30に貼り付けることによって、位置決めする。
特に、位置決め工程の第四例によれば、上記第二例及び第三例と比較してより強い電気刺激を咽喉頭上部に与えることが可能になる。
【0040】
本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法における位置決め工程の第五例を記載する。
図10に示すように、この例では、
図1(b)に示す電気刺激装置の別の例が用いられる。ここで、電極は、
図9に示す位置決め工程の第四例の場合と同様である。以下では、
図9に示す位置決め工程の第四例において用いられる電気刺激装置と同様の要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
図10(a)に、位置決め工程の第五例における電極3の位置を、患者の頭部60付近の正面図において示し、
図10(b)に、
図10(a)に示す、電極3の位置を、患者の頭部60付近の左側面図において示す。
位置決め工程の第五例では、第一第一A電極部分3C1−1Aを生体左側の前頸部20に、第一第一B電極部分3C1−1Bを生体右側の顎下部10に貼り付け、第一チャネルの第二電極3C1−2を生体右側の頬部30に貼り付けることによって、位置決めし、第二第一A電極部分3C2−1Aを生体右側の前頸部20に、第二第一B電極部分3C2−1Bを生体左側の顎下部10に貼り付け、第二チャネルの第二電極3C2−2を生体左側の頬部30に貼り付けることによって、位置決めする。
特に、位置決め工程の第五例によれば、咽喉頭下部に比較的強い電気刺激を与えることが可能になる。
なお、顎下部10、前頚部20における電極の位置決めを維持しつつ、第一チャネルの第二電極3C1−2を生体左側の頬部30に貼り付け、第二チャネルの第二電極3C2−2を生体右側の頬部30に貼り付けた場合にも、上記と同様の効果を得ることができる。
【0041】
本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法における位置決め工程の第六例を記載する。
図11に示すように、この例では、
図1(b)に示す電気刺激装置の別の例が用いられる。ここで、電極は、
図9に示す位置決め工程の第四例の場合と同様である。
図11(a)に、位置決め工程の第六例における電極3の位置を、患者の頭部60付近の正面図において示し、
図11(b)に、
図11(a)に示す、電極3の位置を、患者の頭部60付近の左側面図において示す。以下では、
図9に示す位置決め工程の第四例において用いられる電気刺激装置と同様の要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
位置決め工程の第六例では、第一第一A電極部分3C1−1Aを生体左側の頬部30に、第一第一B電極部分3C1−1Bを生体右側の頬部30に貼り付け、第一チャネルの第二電極3C1−2を生体左側の前頸部20に貼り付けることによって、位置決めし、第二第一A電極部分3C2−1Aを生体右側の頬部30に、第二第一B電極部分3C2−1Bを生体左側の頬部30に貼り付け、第二チャネルの第二電極3C2−2を生体右側の前頸部20に貼り付けることによって、位置決めする。
特に、位置決め工程の第六例によれば、咽喉頭上部に比較的強い電気刺激を与えることが可能になる。
【0042】
図1(b)に示す電気刺激装置の別の例1bが用いられる場合の本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法における位置決め工程では、特に、電極3を、生体の顎下部10、前頸部20、及び頬部30に位置決めすることが好ましい。これらの生体部位の組み合わせに電極3を位置決めすれば、特に強い電気刺激を口腔・咽喉頭領域90に与えることができるため、特に高い口腔・咽喉頭機能障害の治療の効果を得ることができる。
【0043】
図7〜
図11に示す上記位置決め工程の第二例〜第六例のように、第一チャネル3C1及び第二チャネル3C2の各電極3を、第一チャネルの第一電極3C1−1の位置及び第二電極3C1−2の位置を結ぶ仮想線(図示せず)と、第二チャネルの第一電極3C2−1の位置及び第二電極3C2−2の位置を結ぶ仮想線(図示せず)とが交差(クロス)するように、位置決めすることによって、各チャネル3C1、3C2からの電気刺激用の電流を、生体の深部の領域で干渉させて、その領域に存在する神経や筋肉に対して、より強い電気刺激を与えることが可能となる。
【0044】
なお、例えば、
図7に示す位置決め工程の第二例において、第一チャネルの第一電極3C1−1の位置と第二チャネルの第一電極3C2−1の位置とを置き換えた場合、すなわち、第一チャネルの第一電極3C1−1の位置及び第二電極3C1−2の位置を結ぶ仮想線(図示せず)と、第二チャネルの第一電極3C2−1の位置及び第二電極3C2−2の位置を結ぶ仮想線(図示せず)とが交差しない(ストレート)場合も、本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法における位置決め工程に含めることができる。
【0045】
本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法における位置決め工程では、
図7〜
図11に示す上記位置決め工程の第二例〜第六例に限定されることなく、位置決め工程は、第一チャネルの第一電極3C1−1、及び第二チャネルの第一電極3C2−1を、顎下部10及び/又は前頸部20に位置決めする工程と、第一チャネルの第二電極3C1−2、及び第二チャネルの第二電極3C2−2を、頬部30に位置決めすることができればよい。
【0046】
<発振工程>
以下、本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法の発振工程の詳細について記載する。
生体に対して発振される電気刺激用電流としては、連続電流、断続電流が挙げられる。連続電流としては、直流電流及び交流電流が挙げられ、交流電流が好ましく、断続電流としては、矩形波、正弦波、三角波、鋸歯状波その他波の波形を有する電流が挙げられる。
【0047】
電気刺激装置1が1つのチャネル(第一チャネル3C1)を有する場合には、1種の周波数の電気刺激用電流を用いることができる。例えば、
図6に示す位置決め工程の第一例の場合、第一チャネル3C1に1種の周波数の電気刺激用電流を流すことができる(ストレート)。
【0048】
電気刺激装置1が複数のチャネルを有する場合には、周波数の異なる複数の周波数の電気刺激用電流を用いることができる。例えば、
図7に示す位置決め工程の第二例の場合、第一チャネル3C1にある周波数の電気刺激用電流を流し、第二チャネル3C2に別の周波数の電気刺激用電流を流すことができる(クロス)。
なお、例えば、
図7において、第一チャネルの第一電極3C1−1の位置と第二チャネルの第一電極3C2−1の位置とを置き換えた場合も、上記と同様に、電気刺激用電流を流すことができる(ストレート)。
【0049】
電流の刺激周波数としては、低周波の周波数帯は、1Hz〜999Hz(1000Hz未満)、好適には1Hz〜200Hzとすることができ、矩形波幅は1.0μsec〜5.0msecであることが好ましい。なお、電流の波形を適宜変調することは可能である。
なお、刺激周波数とは、神経や筋組織に対して与えられる刺激の周波数のことを指し、搬送波周波数を何ら限定するものではない。
【0050】
本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法では、特に、電気刺激用電流としては、複数のパルスを備える波形のパルス電流が好ましく、ここで、パルス電流は、パルス電流の波形を重ね合わせた際に、パルス継続時間が当該パルス電流のパルスのパルス継続時間よりも長い合成パルスを有する合成波が形成されるものであることが好ましい。
この場合、
図1(b)に示す電気刺激装置1bが用いられる。ここで、電気刺激装置1bは、操作部500を有し、この操作部500は、その内部に、発振器としてパルス電流を出力する少なくとも2つのパルス生成部(第1パルス生成部、第2パルス生成部;図示せず)と、パルス生成部の動作を制御する制御部と、が配置されている。更に、操作部500は、その内部に、電源部(図示せず)、入力部500a、表示部500b、及び増幅部(図示せず)を有する。
【0051】
電気刺激装置1の第1パルス生成部及び第2パルス生成部から出力されるパルス電流は、例えば、
図12に示すように、それぞれ同一の波形を有するとともに、一方の極性を持つ1以上のパルス(図示では3つ)を有する第1パルス波部P1と、第1パルス波部P1のパルスの極性とは反対の極性を持つ1以上(図示では3つ)のパルスを有する第2パルス波部P2とを交互に繰り返し備える波形を有する。なお、図示例では、上方側が一方の極性(一方側極性)であり、下方側がその反対の極性(他方側極性)である。そして、電気刺激装置1では、第1パルス生成部が生成したパルスのうち一方側極性を持つパルスは、第1チャネル3C1の第一電極3C1−1から発振され、他方側極性を持つパルスは、第1チャネル3C1の第二電極3C1−2から発振される。また、第2パルス生成部が生成したパルスのうち一方側極性を持つパルスは、第2チャネル3C2の第一電極3C2−1から発振され、他方側極性を持つパルスは、第2チャネル3C2の第二電極3C2−2から発振される。
各パルス生成部から出力されるパルス電流の各パルスは、パルス継続時間Tp及びピーク電流値Cpを有する矩形波パルスである。また、隣り合う矩形波間の、電流が印加されない不印加区間Snの時間(すなわち、電流値が0mAとなる状態の時間)が、不印加時間Tnである。この実施形態では、不印加時間Tnが、パルス継続時間Tpと同じ時間を有する(Tn=Tp)。また、第1パルス波部P1と、第2パルス波部P2との間に電流値が0mAとなる不印加区間が設けられており、この不印加区間の時間はパルス継続時間Tpと同じ時間である。
【0052】
そして、
図12に示すように、この実施形態では、第1パルス生成部及び第2パルス生成部から出力される同一波形のパルス電流の位相差Dがパルス継続時間Tpと同じ時間になる(すなわち、第1パルス生成部が生成したパルス電流のパルスの終点と、第2パルス生成部が生成したパルス電流のパルスの始点とが重なり、第2パルス生成部が生成したパルス電流のパルス電流のパルスの終点と、第1パルス生成部が生成したパルス電流のパルスの始点とが重なる)ように、制御部が各パルス生成部を制御する。その結果、第1パルス生成部及び第2パルス生成部が出力するパルス電流を相互に重ね合わせると、
図12に示すように、各パルス電流のパルスが相互に不印加区間Snを補い合い、パルス継続時間が当該パルス電流のパルスのパルス継続時間Tpよりも長い合成パルスを有する合成波が形成される。そして、形成された合成波は、パルス継続時間が6Tpの合成パルスを、不印加区間Snを介することなく、交互に繰り返し備えている。
【0053】
従って、この実施形態によれば、例えば、各電極3を、第一チャネルの第一電極3C1−1の位置及び第二電極3C1−2の位置を結ぶ仮想線(図示せず)と、第二チャネルの第一電極3C2−1の位置及び第二電極3C2−2の位置を結ぶ仮想線(図示せず)とが交差(クロス)するように、生体の表面に取り付けた状態で各パルス電流を生体に発振させることによって、生体の深部で、各パルス電流が相互に干渉した干渉波を形成させることができる。そして、神経線維が生体の表面よりも多く存在する生体の深部において、干渉波によって、電気刺激を多くの神経線維に与えることができる。
【0054】
また、制御部が、パルス継続時間がパルス電流のパルスのパルス継続時間Tpよりも長い合成パルスを有する合成波が形成されるようにパルス生成部を制御するので、パルス生成部から出力したパルス電流を実際に生体内で干渉させて得られる干渉波は、合成波と同様に、パルス継続時間がパルス電流のパルスのパルス継続時間Tpよりも長い干渉パルスを有するものとなる。
【0055】
電気刺激装置1が発振する電気刺激用電流による治療等が、十分な効果を奏するためには、当該装置による電気刺激が、身体機能の治療等の対象となる組織に関連する多くの神経の神経線維、特に感覚神経の神経線維に与えられる必要がある。すなわち、活動電位が発生する閾値を越えるような電気刺激を神経線維に与えて、多くの神経線維で活動電位を発生させること(神経の「発火」とも言う。)が必要である。感覚神経の神経線維が発火すると、脳が感覚を認識することができ、運動神経の神経線維が発火すると、筋肉が収縮するからである。
ここで、
図13に、各神経について、電気刺激のパルス継続時間と、神経が発火する電流の値(閾値)との関係を曲線で示すように、電気刺激により神経発火が起こる閾値は、神経によって異なり、また、パルス継続時間が短くなるほど高くなる。更に、パルス電流は、生体の内部を伝達する間に減衰するため、生体の深部でパルス電流が干渉して形成される干渉波の電流値は、合成波の電流値(電極から発振されるパルス電流の電流値の合計)よりも低くなる。しかし、この電気刺激装置1のパルス生成部から出力されるパルス電流によれば、上述した通り、得られる干渉波の干渉パルスのパルス継続時間が、パルス電流のパルスのパルス継続時間Tpよりも長くなる。従って、この電気刺激装置1のパルス生成部から出力されるパルス電流によれば、パルス電流が生体の内部を伝達する間に減衰しても、パルス継続時間の長い干渉波により多数の神経の神経線維に対して閾値を超える電気刺激を与え、十分な治療等の効果を得ることができる。
【0056】
この点について
図13を用いてより詳細に説明すると、例えば
図13の点Aで示すパルス継続時間及び電流値のパルス電流のみを生体に与えた場合、生体の深部では電流が減衰して、点Bで示す大きさの電気刺激が与えられることになる。その結果、生体の深部では、Aα神経を発火させることができない。また、互いに異なる周波数を有する正弦波を干渉させる従来技術では、点Aで示すパルス継続時間及び電流値のパルス電流と、当該パルス電流よりもパルス継続時間の短いパルス電流とを干渉させた場合に、干渉波の干渉パルスのパルス継続時間が短くなり、点Cで示す大きさの電気刺激が与えられることになるので、同様にして、生体の深部では、Aα神経を発火させることができない。これに対し、上記パルス電流によれば、干渉波の干渉パルスのパルス継続時間が長くなり、点Dで示す大きさの電気刺激が与えられることになるので、生体の深部において、Aα神経も発火させることができる。
【0057】
すなわち、この電気刺激装置1のパルス生成部から出力されるパルス電流によれば、生体の深部への電気刺激を効率良く行うことができる。
【0058】
また、このパルス電流では、第1パルス生成部及び第2パルス生成部から出力されるパルス電流の波形が同一であり、かつ、第1パルス生成部が生成したパルス電流のパルスの終点と、第2パルス生成部が生成したパルスの始点とが重なり、第2パルス生成部が生成したパルス電流のパルスの終点と、第1パルス生成部が生成したパルスの始点とが重なるので、合成波の波形が、一定の振幅及びパルス継続時間を有する連続した矩形波となる。そのため、使用者に対して一定の刺激を連続的に与えることができる。更に、第1パルス生成部及び第2パルス生成部から出力されるパルス電流の波形が同一であるので、パルス生成部の動作の制御が容易となる。
【0059】
更に、形成された合成波の合成パルスの極性が交互に入れ替わることにより、合成パルスの極性に引き寄せられる生体内の電解質が各電極側に偏ることないので、例えば各電極下での生体内のphの偏り等の、生体内の液性変化を抑えつつ、電気刺激による治療を行うことができる。なお、これに対して、後述の、
図15に示すように各合成パルスの極性が同じである場合には、上記とは逆に生体内の液性変化を利用したり、または電極通流作用を利用したりしつつ電気刺激による治療を行うことができる。なお、生体内の液性を変化させることにより、例えば、特定の細胞の集積が誘導されて、創傷治癒等を促進させることもできる。ここで、電極通流作用とは、やや長い時間またはやや大きな電流を生体に通電すると分極の生成に変化がおこり、その結果として閾値が変化する作用である。
【0060】
ここで、上述のように、電気刺激用電流による治療等が十分な効果を奏するためには、閾値を超える電流値の干渉波を、生体の深部に位置する多くの神経線維に与えることが好ましい。しかし一方で、神経には、疼痛を感じる感覚神経も存在する。そして、干渉波の電流値が疼痛を感じる感覚神経の閾値を超えた場合には、電気刺激装置1を使用する使用者が疼痛を感じる。そのため、電気刺激装置1を使用する使用者の苦痛を軽減しつつ治療等の効果を十分に得る観点からは、疼痛を感じる感覚神経の閾値(例えば、
図13に示すAδ神経、C神経の閾値)を大きく超える干渉波を使用して電気刺激を与えないことが好ましい。
従って、電気刺激装置1が発振するパルス電流によって形成される合成波の合成パルスは、疼痛を感じる感覚神経の閾値を大きく超えないことが好ましく、疼痛を感じる感覚神経の閾値を超えないことが好ましい。
ここで、合成波の合成パルスのパルス継続時間は、限定されるものではない。ただし、電気刺激装置を用いたリハビリテーションの分野においては、
図13に示すように、高強度(強い電流値)の電気刺激を用いる場合にはパルス継続時間が25〜300μsec、低強度(弱い電流値)の電気刺激を用いる場合にはパルス継続時間が1000〜10000μsecの条件が使用されている。従って、合成波の合成パルスは、パルス継続時間が10〜15000μsecであることが好ましい。また、より好ましくは、パルス継続時間が25〜300μsecもしくは1000〜10000μsecである。
【0061】
また、電気刺激装置1を使用する使用者の苦痛を軽減する観点からは、パルス電流は、生体の表面(又は表層)に位置する疼痛を感じる感覚神経の閾値を大きく超えないことが好ましく、例えば、パルス電流のパルス継続時間Tpは、600μsec未満とすることが好ましく、また、300μsec未満とすることが更に好ましい。
これによれば、パルスのパルス継続時間Tpを600μsec未満、特に、300μsec未満とすることにより、生体の表面(又は表層)に位置する疼痛を感じる感覚神経の閾値を大きく超えない範囲で、パルス電流の生体内の減衰を考慮した強度のパルス電流を与えることができる。その結果、使用者の苦痛を軽減しつつ、生体の深部において、神経発火に必要な所望の電流値を有する干渉波を生成させることができる。
【0062】
ここで、この実施形態では、各パルス電流の波形を、
図12に示すようにそれぞれ同じ波形としているが、本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法では、各パルス電流の波形を重ね合わせた際に、パルス継続時間がパルス電流のパルスのパルス継続時間Tpよりも長い合成パルスを有する合成波が形成される限り、各パルス電流の波形を、相互に異なる波形とすることもできる。例えば、
図12において、第1パルス生成部から出力されるパルス電流の各パルスのパルス継続時間Tpをtとし、不印加時間Tnを1/2tとし、また、第2パルス生成部から出力されるパルス電流の各パルスのパルス継続時間Tpを1/2tとし、不印加時間Tnをtとし、そして、位相差Dをtとすることにより、
図12と同じ波形の合成波を得つつ、各パルス電流の波形を、相互に異なる波形とすることもできる。
【0063】
また、
図12に示す合成波は、合成パルスのみから形成されているが、本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法では、合成波には、電気刺激装置1の第1パルス生成部及び第2パルス生成部が出力するパルス電流を相互に重ね合わせた際に、合成されないパルス、すなわち、他のパルス電流のパルスが重畳又は連結されないパルスが含まれていてもよい。
【0064】
更にまた、
図12に示す波形では、各パルス間の不印加時間Tn、及び当該パルスを重ね合わせる位相差Dは、パルス継続時間Tpと同じ時間であるが、本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法では、不印加時間Tn及び位相差Dを変化させることもできる。具体的には、例えば、
図14(a)に示すように、位相差D及び不印加時間Tnをパルス継続時間Tpの半分の時間にすること、或いは、図示しないが、位相差Dをパルス継続時間Tpと同じ時間にしつつ、不印加時間Tnをパルス継続時間Tpの半分の時間にすることも可能である。
なお、
図14(a)では、合成波の合成パルスのパルス継続時間が長くなる一方で、合成パルスに、電流値が突出する部分が発生している。また、当該突出部分は、その電流値が持続する時間が、パルス電流のパルスのパルス継続時間Tpよりも短くなっている。しかし、合成パルス全体として、合成パルスのパルス継続時間が、パルス電流のパルスのパルス継続時間Tpよりも長いので、パルス電流を実際に生体内で干渉させてなる干渉波の干渉パルスによって生体の深部の神経を、低い閾値で発火させることが可能である。また、合成パルスが突出部分を有するので、パルス継続時間が短く且つ電流値が大きい電気刺激も、同時に生体の深部の神経に与えることができる。
【0065】
また、
図12に示す波形は、各パルス間の不印加時間Tn、及び当該パルスを重ね合わせる位相差Dが、パルス継続時間Tpと同じ時間の矩形波であるが、本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法では、パルス形状、不印加時間Tn及び位相差Dを変化させることもできる。具体的には、例えば、
図14(b)〜(d)に示すように、パルス電流に含まれるパルスを正弦半波パルスとしてもよい。また、
図14(b)に示すように、各パルス間の不印加時間Tnを0とし、また、位相差Dをパルス継続時間Tpの半分の時間としてもよい。更に、
図14(c)に示すように、不印加時間Tnを0とし、位相差Dをパルス継続時間Tpの1/3としてもよい。また、
図14(d)に示すように、不印加時間Tnをパルス継続時間Tpの半分の時間にし、位相差Dをパルス継続時間Tpの3/4としてもよい。このように、パルス電流に含まれるパルスを、正弦半波パルスとすることにより、使用者が電気刺激装置を使用した際に感じる刺激感をマイルドにすることができる。また、パルス電流の位相差Dを制御することにより、合成パルス内の電流値が突出する突出部分の電流値を調整することができ、それゆえに、突出部分によるパルス継続時間が短く且つ電流値が大きい電気刺激を、生体の深部の神経に効果的に与えることができる。
【0066】
次に、電気刺激装置1(1a、1b)が発振するパルス電流、及びその合成波の第一の変形例について、
図15を用いて説明する。
図15に示す、第1パルス生成部及び第2パルス生成部から出力されるパルス電流は、一方の極性を持つ1以上のパルス(図示では、一方側極性の3つのパルス)を有する第1パルス波部P1のみを有する点、及び、第1パルス波部P1間の時間(第1パルス波部P1の最後のパルスから、次の第1パルス波部P1の最初のパルスまでの不印加区間の時間)が、第1パルス波部P1内の不印加時間Tnよりも長い点において、
図12に示すパルス電流とは異なっている。なお、図示の例では、第1パルス波部P1間の時間は、不印加時間Tn及びパルス継続時間Tpの2倍である。
【0067】
そして、この変形例では、各パルス電流を相互に重ね合わせると、
図15に示すような合成パルスを有する合成波が形成される。具体的には、各パルス電流は、不印加時間Tnがパルス継続時間Tpと同一の時間を持つ、それぞれ同一の波形を有し、また、位相差Dがパルス継続時間Tpと同じ時間を有するため、各パルス電流を相互に重ね合わせると、図示のように、第2パルス生成部からのパルス電流の第1パルス波部P1のパルスが、第1パルス生成部からのパルス電流の第1パルス波部P1のパルスの後の不印加区間Snに位置し、相互に不印加区間Snを補い合うことで合成波が形成される。従って、当該合成波は、各パルス生成部のパルス電流の第1パルス波部P1の全てのパルス継続時間Tpを合わせたパルス継続時間6Tpを有する一方側極性の合成パルスを、第1パルス波部P1間の時間からパルス継続時間Tpを減じた時間を有する不印加区間を介して、交互に繰り返し備えている。
【0068】
従って、この実施形態では、同じ極性の合成パルスからなるので、
図12に示すように合成パルスの極性が交互に入れ替わる場合と比較して、干渉部位に対して同一の極性の干渉波による電気刺激が繰り返されることとなり、電極通流作用
等を得ることができる。
また、この変形例では、合成波の各合成パルス間に、電流が印加されず電流値が0mAとなる不印加区間が形成されるので、生体の深部で、各パルス電流が相互に干渉して形成される干渉波においても、合成波と同様に、各干渉パルス間に不印加区間が形成される。そして、干渉パルスの継続時間中は神経の発火が起き、各干渉パルス間の不印加区間では、神経の発火が起きない。そのため、各干渉パルス間に不印加区間が形成されない場合とは異なり、電気刺激装置の使用者等が、干渉パルスの入力を認知することができ、電気刺激がどの程度の与えられたのかを把握することができる。すなわち、使用者等が、干渉パルスの入力の回数を認知することが可能となり、使用者等が、電気刺激の使用量を把握することを容易にすることができる。特に、発火した神経が筋肉を収縮させる運動神経の場合には、各干渉パルス間に不印加区間Snが形成されることにより、筋肉の収縮と弛緩を確認することができるので、使用者等が、電気刺激を受けている部分及びその程度を容易に確認することができる。
【0069】
次に、電気刺激装置1(1a、1b)が発振するパルス電流、及びその合成波の第二の変形例について、
図16を用いて説明する。
図16に示す、第1パルス生成部及び第2パルス生成部から出力されるパルス電流は、
図12に示すパルス電流と同様に、それぞれ同一の波形を有するとともに、一方の極性を持つ1以上のパルス(図示では3つ)を有する第1パルス波部P1と、第1パルス波部P1のパルスの極性とは反対の極性を持つ1以上(図示では3つ)のパルスを有する第2パルス波部P2とを交互に繰り返し備える波形である。
しかし、
図16に示すパルス電流は、各パルスが、パルス継続時間Tp及びピーク電流値Cpを有する正弦半波パルスである点、隣り合う正弦半波パルス間の、電流が印加されない不印加区間Snの時間が、パルス継続時間Tpよりも短い不印加時間Tn(図示では、不印加時間Tnは0である)である点、及び、各パルス電流の位相差Dが、パルス継続時間Tpよりも小さい(図示では、Tpの半分の時間である)点において、
図12に示すパルス電流とは異なっている。
なお、この変形例では、第1パルス波部P1と第2パルス波部P2との間の不印加区間の時間も、各パルス波部内の各パルス間の不印加時間Tnと同じく0である。
【0070】
そして、この変形例では、各パルス電流を相互に重ね合わせると、
図16に示すような合成パルスを有する合成波が形成される。具体的には、各パルス電流は、同一波形で、同一のパルス継続時間Tpを有する正弦半波パルスを有し、また、位相差Dがパルス継続時間Tpの半分の時間であるため、合成波は、パルス継続時間3Tpを有する一方側極性の合成パルスと、パルス継続時間3Tpを有する他方側極性の合成パルスとを、不印加区間Snを介することなく、交互に繰り返し備える波形となる。また、各合成パルスは、パルス継続時間内で電流値が変動する形状となる。
【0071】
従って、この変形例では、合成パルスが、
図16に示すように正弦半波パルスを重ね合わせて形成されるので、
図12に示す、合成パルスが、矩形波パルスを重ね合わせて形成される場合と比較して、使用者が電気刺激装置を使用した際に感じる電気刺激感をよりマイルドにすることができる。
【0072】
次に、電気刺激装置1(1a、1b)が発振するパルス電流、及びその合成波の第三の変形例について、
図17を用いて説明する。
図17に示す、第1パルス生成部及び第2パルス生成部から出力されるパルス電流は、一方の極性を持つ1以上のパルス(図示では、一方側極性の3つのパルス)を有する第1パルス波部P1のみを有する点、各パルスが、パルス継続時間Tp及びピーク電流値Cpを有する正弦半波である点、隣り合う正弦半波間の電流が印加されていない不印加区間Snの時間が、パルス継続時間Tpよりも短い不印加時間Tn(図示では、隣り合うパルス間に0mAとなる瞬間のみが存在する)である点、第1パルス波部P1間の時間(第1パルス波部P1の最後のパルスから、次の第1パルス波部P1の最初のパルスまでの不印加区間の時間)が、パルス電流間の位相差Dよりも長い時間(図示では、位相差Dの2倍の時間であり、パルス継続時間Tpと同じ)である点、及び、パルス電流の位相差Dが、パルス継続時間Tpよりも小さい(図示では、Tpの半分の時間である)点において、
図12に示すパルス電流とは異なっている。
【0073】
そして、この変形例では、各パルス電流を相互に重ね合わせると、
図17に示すような合成パルスを有する合成波が形成される。具体的には、各パルス電流は、同一波形で、パルス継続時間Tp及び不印加時間Tnが同じ正弦半波パルスを有し、また、パルス継続時間Tpの半分の位相差Dを有するため、合成波は、パルス継続時間3Tp+Dを有する一方側極性の合成パルスを、第1パルス波部P1間の時間から位相差Dの時間を減じた時間を有する不印加区間を介して複数備える波形となる。また、各合成パルスは、パルス継続時間内で電流値が変動する形状となる。
【0074】
従って、この変形例では、合成パルスが、
図17に示すように一方の極性を有する正弦半波パルスを重ね合わせて形成されるので、
図12に示すような、合成パルスが、矩形波パルスを重ね合わせて形成され、かつ、合成パルスの極性が交互に入れ替わる場合と比較して、使用者が電気刺激装置を使用した際に感じる電気刺激感をよりマイルドにするとともに、電極通流作用を得ることができる。
また、合成波の各合成パルス間に、電流が印加されず電流値が0mAとなる不印加区間が形成されるので、先の第一の変形例と同様に、使用者等が、電気刺激を受けている部分及びその程度を容易に確認することができる。
【0075】
次に、電気刺激装置1(1a、1b)が発振するパルス電流、及びその合成波の第四の変形例について、
図18を用いて説明する。
図18に示す、第1パルス生成部及び第2パルス生成部から出力されるパルス電流は、
図12に示すパルス電流と同様に、パルスが矩形波であり、それぞれ同一の波形を有する。また、パルス電流の位相差Dは、パルス継続時間Tpと同一である。
しかし、
図18に示すパルス電流は、双方の極性を持つ1以上のパルス(図示では、双極性パルスを3対)を有する第3パルス波部P3と、双方の極性を持つ1以上のパルス(図示では、双極性パルスを3対)を有する第4パルス波部P4とを繰り返し備える波形である点において、
図12に示すパルス電流とは異なっている。なお、
図18に示すパルス電流には、
図12に示す第1パルス波部P1と第2パルス波部P2との間に電流値が0mAとなる不印加区間が設けられているのと同様に、第3パルス波部P3と、第4パルス波部P4との間に電流値が0mAとなる不印加区間が設けられている。ここで、第3パルス波部P3の双極性パルスは、ピーク電流値Cpの一方側極性のパルスと、当該一方側極性のパルスよりもピーク電流値が小さい(図示例ではピーク電流値Cp/3の)他方側極性のパルスとからなる。また、第4パルス波部P4の双極性パルスは、ピーク電流値Cpの他方側極性のパルスと、当該他方側極性のパルスよりもピーク電流値が小さい(図示例ではピーク電流値Cp/3の)一方側極性のパルスとからなる。また、第3パルス波部P3と、第4パルス波部P4との間の不印加区間の時間は、パルス継続時間Tpと同一である。
【0076】
そして、この変形例では、各パルス電流を相互に重ね合わせると、
図18に示すような合成波が形成される。具体的には、各パルス電流を相互に重ね合わせると、図示のように、合成波は、パルス継続時間7Tpの一方側極性の合成パルスと、パルス継続時間7Tpの他方側極性の合成パルスとを、不印加区間を介することなく、交互に繰り返し備える波形となる。また、各合成パルスは、パルス継続時間内で電流値が変動する形状、具体的には、電流値が、低い値から急激に上昇した後に低下し、一定となる形状である。
【0077】
従って、この変形例では、合成パルスが、
図18に示すように、双極性パルスを重ね合わせて形成されるので、
図12に示す、合成パルスが一方の極性のパルス(単極性パルス)を重ね合わせて形成される場合と比較して、生体に蓄電された電気的エネルギーを解放しながら電気刺激をすることができるので、より強い電気刺激入力をすることができる。
【0078】
次に、電気刺激装置1(1a、1b)が発振するパルス電流、及びその合成波の第五の変形例について、
図19、20、21(a)、(b)を用いて説明する。
図19、20に示す、第1パルス生成部及び第2パルス生成部から出力されるパルス電流は、第1パルス波部P1と第2パルス波部P2との間の不印加区間の不印加時間が、位相差Dよりも大きい時間である点で、
図12、16に示すパルス電流とは異なっている。また、
図21(a)に示す、第1パルス生成部及び第2パルス生成部から出力されるパルス電流は、第3パルス波部P3と第4パルス波部P4との間の不印加区間の不印加時間が、位相差Dよりも大きい時間である点で、
図18に示すパルス電流とは異なっている。更に、
図21(b)に示す、第1パルス生成部及び第2パルス生成部から出力されるパルス電流は、
図21(a)に示すパルス電流の第3パルス波部P3のみを繰り返し備える波形である点で、
図21(a)に示すパルス電流とは異なっている。
そして、
図19、20、21(a)〜(b)に図示するところでは、各パルス波部間の不印加時間は、位相差Dにパルス継続時間Tpを加えた時間である。
【0079】
そして、これらの変形例では、各パルス電流を相互に重ね合わせると、
図19、20、21(a)、(b)に示すような合成パルスを有する合成波が形成されるとともに、各合成パルス間に、電流が印加されていない区間を形成することができる。具体的には、各パルス電流の各パルス波部の間の不印加区間の不印加時間が、位相差Dよりも大きい時間であるので、各パルス波部の間の不印加時間から、
図19、21(a)、(b)に示すパルス電流ではパルス継続時間Tpを、
図20に示すパルス電流ではパルス継続時間Tpの半分の時間を減じた時間が、各合成パルス間に存在することとなる。
【0080】
従って、
図19、20、21(a)に示す変形例では、それぞれ、
図12、16、18に示すパルス電流及び合成波を用いた場合と同様の効果が得られることに加え、合成波の各合成パルス間に、電流が印加されず電流値が0mAとなる不印加区間が形成されるので、先の第一の変形例と同様に、使用者等が、電気刺激を受けている部分及びその程度を容易に確認することができる。また、
図21(b)に示す変形例では、合成波の各合成パルス間に、電流が印加されず電流値が0mAとなる不印加区間が形成されると共に、同一極刺激が繰り返されるので、先の第一の変形例と同様に、電極通流作用
等を得ることができる。
【0081】
次に、電気刺激装置1(1a、1b)が発振するパルス電流、及びその合成波の第六の変形例について、
図22を用いて説明する。
図22に示す、第1パルス生成部及び第2パルス生成部から出力されるパルス電流は、パルス波部内でパルスの振幅が変動しており、第1パルス波部P1及び第2パルス波部P2のパルスが、当該パルス波部の幅方向中央部で振幅が最大となり、当該パルス波部内で振幅が増加した後に減少する点、及び、各パルス波部内のパルスの数が8つである点で、
図12に示すパルス電流とは異なっている。
具体的には、
図22に示すパルス電流の第1パルス波部P1及び第2パルス波部P2は、それぞれ8つの矩形波パルスから形成され、各パルス波部の幅方向中央部に位置する、各パルス波部の4つ目及び5つ目のパルスが最大の振幅の電流値Cpとなる。また、各パルス波部の幅方向左端のパルス及び幅方向右端のパルス、すなわち各パルス波部の最初のパルス及び最後のパルスが最小の振幅の電流値となっている。更に、最小の振幅となる幅方向両端のパルスから、最大の振幅となる幅方向中央部のパルスまで、各パルスの振幅は漸増している。
【0082】
そして、この変形例では、各パルス電流を相互に重ね合わせると、
図22に示すような合成パルスを有する合成波が形成されるとともに、合成波の合成パルスの振幅が、合成パルスの幅方向中央部で最大となる。具体的には、合成波の合成パルスの振幅は、増加した後に減少している。より具体的には、各パルス電流は、パルス継続時間Tp及び不印加時間Tnが同じである同一の波形を有し、パルス継続時間Tpと等しい位相差Dを有するため、各パルス電流を相互に重ね合わせると、図示のような合成パルスが形成され、合成パルスの最大の振幅は、合成パルスの幅方向両端から幅方向中央部に向かって漸増する。
【0083】
従って、この変形例では、パルス波部のパルスの振幅が、パルス波部の幅方向中央部で最大となるので、大きな電流値を有するパルス電流が急激に生体の表面に対して与えられない。従って、電気刺激による、電気刺激装置の使用者の侵襲性を抑えることができ、また、使用者の電気刺激に対する感触を和らげることができる。また、パルス波部のパルスの振幅が、パルス波部内で変化しない場合、電気刺激装置を使用することで生体内に蓄電された電荷が、パルス波部後に急に放出されて、逆起電力(逆電流)が生じるおそれがあり、その結果として生体に意図しない電気刺激を与えるおそれがあるところ、パルス波部のパルスが、パルス波部内で振幅が増加した後に減少するので、生体に蓄電された電荷の急激な放出による意図しない刺激感を抑制することができる。更に、この変形例では、合成波についても、合成パルスの振幅が、合成パルスの幅方向中央部で最大となるので、同様に、干渉波についても、干渉パルスの振幅が、干渉パルスの幅方向中央部で最大となる。従って、使用者の電気刺激に対する感触を和らげることができる。また、合成波についても、合成パルスの振幅が、パルス波部内で振幅が増加した後に減少するので、生体に蓄電された電荷の急激な放出による意図しない刺激感を抑制することができる。
【0084】
次に、電気刺激装置1(1a、1b)が発振するパルス電流、及びその合成波の第七の変形例について、
図23を用いて説明する。
【0085】
図23に示す、第1パルス生成部及び第2パルス生成部から出力されるパルス電流は、一方の極性を持つ1以上のパルス(図示では、一方側極性の3つのパルス)を有する第1パルス波部P1のみを有する点、及び、連続する複数の第1パルス波部P1間のそれぞれに、微弱パルスを有する点が異なっている。なお、
図23に示す微弱パルスは、当該第1パルス波部P1のパルスと同じ極性をそれぞれ同じ極性を持ち、且つ、第1パルス波部P1のパルスの振幅よりも小さい振幅のCwを有している。
【0086】
具体的には、
図23(a)に示す例では、微弱パルスの微弱パルス継続時間Twは、第1パルス波部P1のパルス継続時間Tpと同じ時間であり、第1パルス波部P1の最後のパルスからパルス継続時間Tpと同じ不印加時間をあけて微弱パルスが印加され、微弱パルスの後に、パルス継続時間Tpと同じ不印加時間をあけて次の第1パルス波部P1の最初のパルスが印加されている。そして、
図23(a)に示す変形例では、各パルス電流を相互に重ね合わせると、位相差Dがパルス継続時間Tpと同じ時間を有するため、図示のように、パルスが連結された合成パルスと、合成パルスの終点から次の合成パルスの始点までわたって印加される合成微弱パルスが形成される。
【0087】
また、
図23(b)に示す例では、微弱パルスは、第1パルス波部P1の最後のパルスから、次の第1パルス波部の最初のパルスまでの間の時間Twの微弱パルス継続時間を有している。また、第1パルス波部P1は、当該第1パルス波部P1のパルス間に、そのパルスと同じ極性で、微弱パルスと同じ振幅を有する補助パルスを有している。そして、
図23(b)に示す変形例では、各パルス電流を相互に重ね合わせると、図示のように、合成パルスと、当該合成パルスの終点から次の合成パルスの始点までわたって印加される合成微弱パルスが形成される。なお、
図23(b)の合成微弱パルスの振幅は、第1パルス生成部及び第2パルス生成部から出力されるパルス電流の各微弱パルスが重畳するため微弱パルスの振幅Cwの2倍になっている。
【0088】
なお、「微弱パルス継続時間」とは、1つの微弱パルス又は合成微弱パルスの始点と終点との間の時間(パルス幅)を指すものとする。また、「合成微弱パルス」とは、各パルス生成部が出力するパルス電流の波形を重ね合わせた際に、重ね合わされたパルス電流の微弱パルス同士が重畳又は連結されることにより生成する、合成パルス以外の部分の波形を指す。
【0089】
従って、この実施形態では、同じ極性の合成パルスからなるので、
図12に示すように合成パルスの極性が交互に入れ替わる場合と比較して、干渉部位に対して同一の極性の干渉波による電気刺激が繰り返されることとなり、電極通流作用
等を得ることができる。更に、パルス電流が、連続する複数の第1パルス波部P1の間のそれぞれに、微弱パルスを有し、微弱パルスが、当該第1パルス波部P1のパルスと同じ極性をそれぞれ持ち且つ第1パルス波部P1のパルスの振幅よりも小さい振幅であるので、干渉部位に対して同一の極性の干渉パルス間に微弱な電気が流れることとなり、より効果的に電極通流作用
等を得ることができる。
【0090】
なお、微弱パルスは、連続する2つのパルス波部の間に印加することもできるところ、
図23(a)及び(b)に示すように、微弱パルスを、連続する3つ以上のパルス波部の間のそれぞれに印加されることが、より効果的な電極通流作用
等を得る観点から好ましい。
【0091】
また、
図23(a)に示すように、微弱パルスの前後に不印加区間を設けることにより、パルス電流が干渉する干渉部位のみにおいて電極通流作用を得ることができる。また、
図23(b)に示すように、隣り合う第1パルス波部P1の間にわたって印加される微弱パルスを設けることにより、電極下を含めた広いエリアで電極通流作用
等を得ることができる。更に、
図23(b)に示すように、隣り合う第1パルス波部P1の間にわたって印加される微弱パルスと、第1パルス波部P1のパルスと同じ極性を有する補助パルスとを設けることにより、より効果的に電極通流作用
等を得ることができる。
【0092】
ここで、微弱パルスは、微弱パルスが印加される前後のパルス波部のパルスとの関係で、当該パルスの振幅の50%以下の振幅が好ましく、また、より好ましくは25%以下の振幅である。または、微弱パルスの振幅は、生体にパルス電流を与えた際に、微弱パルスによって神経が発火しない電流値とすること、もしくは、−1〜1mAの範囲の電流値にすることが好ましい。
【0093】
次に、電気刺激装置1(1a、1b)が発振するパルス電流、及びその合成波の第八の変形例について、
図24を用いて説明する。
【0094】
図24に示す、第1パルス生成部及び第2パルス生成部から出力されるパルス電流は、連続して繰り返される複数の第1パルス波部P1及び第2パルス波部P2において、複数の第1パルス波部P1と第2パルス波部P2との間のそれぞれに、微弱パルスを有する点が異なっている。なお、
図24に示す微弱パルスは、それぞれ同じ極性を持ち、且つ、
図14に示す微弱パルスと同様に、各パルス波部のパルスの振幅よりも小さい振幅のCwを有している。
【0095】
具体的には、
図24(a)に示す例では、微弱パルスの微弱パルス継続時間Twは、第1パルス波部P1及び第2パルス波部P2のパルス継続時間Tpと同じ時間であり、第1パルス波部P1又は第2パルス波部P2の最後のパルスからパルス継続時間Tpと同じ不印加時間をあけて微弱パルスが印加され、微弱パルスの後に、パルス継続時間Tpと同じ不印加時間をあけて次のパルス波部P1、P2の最初のパルスが印加されている。そして、
図24(a)に示す変形例では、各パルス電流を相互に重ね合わせると、位相差Dがパルス継続時間Tpと同じ時間を有するため、図示のように、合成パルスと、当該合成パルスの終点から次の合成パルスの始点までわたって印加される合成微弱パルスが形成される。
【0096】
また、
図24(b)に示す例では、微弱パルスは、第1パルス波部P1又は第2パルス波部P2の最後のパルスから、次のパルス波部P1、P2の最初のパルスまでの間の時間Twの微弱パルス継続時間を有している。また、第1パルス波部P1は、当該第1パルス波部P1のパルス間に、そのパルスと同じ極性で、微弱パルスと同じ振幅を有する補助パルスを有している。更に、第2パルス波部P2は、当該第2パルス波部P2のパルス間に、そのパルスとは逆の極性(微弱パルスと同じ極性)で、微弱パルスと同じ振幅を有する補助パルスを有している。そして、
図24(b)に示す変形例では、各パルス電流を相互に重ね合わせると、図示のように、合成パルスと、当該合成パルスの終点から次の合成パルスの始点までわたって印加される合成微弱パルスが形成される。なお、
図24(b)の合成微弱パルスの振幅は、第1パルス生成部及び第2パルス生成部から出力されるパルス電流の各微弱パルスが重畳するため、微弱パルスの振幅Cwの2倍になっている。
【0097】
従って、この実施形態では、複数の、極性が交互に入れ替わる合成パルスの間のそれぞれに、微弱パルスを有しているので、
図24に示すような同じ極性の合成パルスからなる場合と比較して、合成パルスによる生体内の液性変化を抑えつつ、微弱パルスによって電極通流作用を得ることができる。
【0098】
また、
図24(a)に示すように、微弱パルスの前後に不印加区間を設けることにより、パルス電流が干渉する干渉部位のみにおいて電極通流作用を得ることができる。また、
図24(b)に示すように、第1パルス波部P1と第2パルス波部P2との間にわたって印加される微弱パルスを設けることにより、電極下を含めた広いエリアで電極通流作用を得ることができる。更に、
図24(b)に示すように、第1パルス波部と第2パルス波部P2との間にわたって印加される微弱パルスと、各パルス波部に、第1パルス波部P1のパルスと同じ極性を有する補助パルスとを設けることにより、電極通流作用をより効果的に得ることができる。
【0099】
なお、電気刺激装置1(1a、1b)が発振するパルス電流及びそのパルス電流の合成波は、上述した波形のパルス電流及び合成波に限定されることはなく、本発明の口腔・咽喉頭刺激方法では、各パルス生成部が出力するパルス電流の波形を重ね合わせた際に、パルス継続時間が当該パルス電流のパルスのパルス継続時間よりも長い合成パルスを有する合成波が形成されれば、任意の波形のパルス電流を組み合わせて用いることができる。
【0100】
更に、電気刺激装置1(1a、1b)が、第1パルス生成部及び第2パルス生成部の他、第3パルス生成部などの追加のパルス生成部を有する場合には、例えば、
図25に示すように、それぞれのパルス電流のパルス間の不印加区間Snの時間を、パルス継続時間Tpの2倍にすることで、
図12に示す合成波と同様の合成波を得ることができる。
【0101】
また、電気刺激装置1(1a、1b)が第3パルス生成部を備える場合についても、電気刺激装置1(1a、1b)が第1パルス生成部及び第2パルス生成部のみを有する場合について前述したのと同様に、各パルスの形状、各パルス間の不印加時間Tn、及び位相差Dなどを任意に変化させることができる。パルスを重ね合わせる位相差Dを変化させた例としては、
図26(a)に示すように、3つのパルスのうちの1つのパルスに対して、残りの2つのパルスを互いに重複させずに、重なり合わせること、
図26(b)に示すように、3つのパルスのうちの1つのパルスに対して、残りの2つのパルスの一部を互いに重複させて、重なり合わせること、或いは、
図26(c)に示すように、2つのパルスが全て重複し、残りの1つのパルスの一部を重なり合わせること等、挙げることができる。
図26(a)〜(c)に示す合成パルスでは、合成パルスの幅方向中央部で電流値が最大値となるので、使用者の電気刺激に対する感触を和らげることができる。また、
図26(b)、(c)に示す合成パルスでは、合成パルスの電流値の最大値がパルスの振幅の3倍になるので、生体内での電流の減衰が起きても、十分な刺激を与えることができる。
【0102】
ここで、前述の位置決め工程の各例とパルス電流の各例とを組み合わせた本発明の口腔・咽喉頭刺激方法の実施形態について記載する。
本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法の第一例を記載する。
本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法の第一例は、位置決め工程として、
図8に示す位置決め工程の第三例を用い、電気刺激用電流として、一方の極性を持つパルスを備える単極性パルス電流を用いるものである。
ここで、生体左側の顎下部10に貼り付けた第一チャネル3C1の第一電極3C1−1に負極性(マイナス極性)を持つパルスを備えるパルス電流を、生体右側の頬部30に貼り付けた第一チャネル3C1の第二電極3C1−2に正極性(プラス極性)を持つパルスを備えるパルス電流を発振し、また、生体右側の顎下部10に貼り付けた第二チャネル3C2の第一電極3C2−1に負極性(マイナス極性)を持つパルスを備えるパルス電流を、生体左側の頬部30に貼り付けた第二チャネルの第二電極3C2−2に正極性(プラス極性)を持つパルスを備えるパルス電流を発振することによって、舌筋、オトガイ舌筋等の舌部等に電気刺激を特に効率的に与えることができる。
また、ここで、生体左側の顎下部10に貼り付けた第一チャネル3C1の第一電極3C1−1に正極性(プラス極性)を持つパルスを備えるパルス電流を、生体右側の頬部30に貼り付けた第一チャネル3C1の第二電極3C1−2に負極性(マイナス極性)を持つパルスを備えるパルス電流を発振し、また、生体右側の顎下部10に貼り付けた第二チャネル3C2の第一電極3C2−1に正極性(プラス極性)を持つパルスを備えるパルス電流を、生体左側の頬部30に貼り付けた第二チャネルの第二電極3C2−2に負極性(マイナス極性)を持つパルスを備えるパルス電流を発振することによって、喉頭挙上筋群(主に顎下部の筋肉)等に電気刺激を特に効率的に与えることができる。
【0103】
本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法の第一例によれば、口腔側の口腔・咽喉頭領域90の中でも、特に、舌部や喉頭挙上筋群等に電気刺激を特に効果的に与えて、口腔・咽喉頭機能障害の治療の効果を特に高めることができる。
【0104】
本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法の第二例を記載する。
本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法の第二例は、位置決め工程として、
図8に示す位置決め工程の第三例を用い、電気刺激用電流として、双方の極性を持つパルスを備える双極性パルス電流を用いるものである。
ここで、生体左側の顎下部10に貼り付けた第一チャネル3C1の第一電極3C1−1と、生体右側の頬部30に貼り付けた第一チャネル3C1の第二電極3C1−2との間で双極性パルス電流を発振し、また、生体右側の顎下部10に貼り付けた第二チャネル3C2の第一電極3C2−1と、生体左側の頬部30に貼り付けた第二チャネルの第二電極3C2−2との間で双極性パルス電流を発振することによって、上記本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法の第一例において得られる、舌部等に電気刺激を効率的に与えるという効果と、喉頭挙上筋群等に電気刺激を効率的に与えるという効果とを、共に得ることができる。
【0105】
なお、双極性パルス電流を用いる第二例では、頬部30のみならず顎下部10にも負極性(マイナス)を持つパルスが与えられ、顎下部10において筋収縮に起因する疼痛等の問題が生じる虞、及び、顎下部10のみならず頬部30にも負極性(マイナス)を持つパルスが与えられ、頬部30において筋収縮に起因する疼痛等の問題が生じる虞がある。これに対して、単極性パルス電流を用いる第一例では、上記問題が生じにくい。
【0106】
本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法の第三例を記載する。
本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法の第三例は、位置決め工程として、
図7に示す位置決め工程の第二例を用い、電気刺激用電流として、一方の極性を持つパルスを備える単極性パルス電流を用いるものである。
ここで、生体左側の前頸部20に貼り付けた第一チャネル3C1の第一電極3C1−1に正極性(プラス極性)を持つパルスを備えるパルス電流を、生体右側の頬部30に貼り付けた第一チャネル3C1の第二電極3C1−2に負極性(マイナス極性)を持つパルスを備えるパルス電流を発振し、また、生体右側の前頸部20に貼り付けた第二チャネル3C2の第一電極3C2−1に正極性(プラス極性)を持つパルスを備えるパルス電流を、生体左側の頬部30に貼り付けた第二チャネルの第二電極3C2−2に負極性(マイナス極性)を持つパルスを備えるパルス電流を発振することによって、上咽頭収縮筋等に電気刺激を特に効率的に与えることができる。
また、ここで、生体左側の前頸部20に貼り付けた第一チャネル3C1の第一電極3C1−1に負極性(マイナス極性)を持つパルスを備えるパルス電流を、生体右側の頬部30に貼り付けた第一チャネル3C1の第二電極3C1−2に正極性(プラス極性)を持つパルスを備えるパルス電流を発振し、また、生体右側の前頸部20に貼り付けた第二チャネル3C2の第一電極3C2−1に負極性(マイナス極性)を持つパルスを備えるパルス電流を、生体左側の頬部30に貼り付けた第二チャネルの第二電極3C2−2に正極性(プラス極性)を持つパルスを備えるパルス電流を発振することによって、下咽頭収縮筋等に電気刺激を特に効率的に与えることができる。
【0107】
本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法の第三例によれば、頸部側の口腔・咽喉頭領域90の中でも、特に、下咽頭収縮筋等や上咽頭収縮筋等に電気刺激を特に効果的に与えて、口腔・咽喉頭機能障害の治療の効果を特に高めることができる。
【0108】
本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法の第四例を記載する。
本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法の第四例は、位置決め工程として、
図7に示す位置決め工程の第二例を用い、電気刺激用電流として、双方の極性を持つパルスを備える双極性パルス電流を用いるものである。
ここで、生体左側の前頸部20に貼り付けた第一チャネル3C1の第一電極3C1−1と、生体右側の頬部30に貼り付けた第一チャネル3C1の第二電極3C1−2との間で双極性パルス電流を発振し、また、生体右側の前頸部20に貼り付けた第二チャネル3C2の第一電極3C2−1と、生体左側の頬部30に貼り付けた第二チャネルの第二電極3C2−2との間で双極性パルス電流を発振することによって、上記本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法の第三例において得られる、上咽頭収縮筋等に電気刺激を効率的に与えるという効果と、下咽頭収縮筋等に電気刺激を効率的に与えるという効果とを、共に得ることができる。更に、本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法の第四例によれば、中咽頭収縮筋にも電気刺激を与えることができる。
【0109】
なお、上記第一例及び第二例の場合と同様に、双極性パルス電流を用いる第四例では、頬部30のみならず前頸部20にも負極性(マイナス)を持つパルスが与えられ、前頸部20において筋収縮に起因する疼痛等の問題が生じる虞、及び、前頸部20のみならず頬部30にも負極性(マイナス)を持つパルスが与えられ、頬部30において筋収縮に起因する疼痛等の問題が生じる虞がある。これに対して、単極性パルス電流を用いる第三例では、上記問題が生じにくい。
【0110】
上記第一例〜第四例は、口腔・咽喉頭領域の治療効果を高めるように、一つを単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0111】
本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法の第五例を記載する。
本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法の第五例は、特に、嚥下障害に対する治療効果を高めることを目的としたものである。
嚥下の動作には、口腔・咽喉頭領域90における複数の生体部位が関与している。すなわち、まず、喉頭挙上筋群により咽喉頭領域が上方に持ち上げられ、次いで、舌筋により口腔領域にある舌部が喉頭領域側に移動し、そして、上咽頭収縮筋、中咽頭収縮筋、下咽頭収縮筋がこの順に伸縮することにより嚥下反射が生じる。嚥下障害患者は、これらの作用の一部又は全部に障害が生じている。
【0112】
本発明の口腔・咽喉頭刺激方法の第五例は、位置決め工程として、
図9に示す位置決め工程の第四例を用い、電気刺激用電流として、一方の極性を持つパルスを備える単極性パルス電流、及び双方の極性を持つパルスを備える双極性パルス電流を用いるものである。
まず、第一段階及び第二段階では、本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法の第一例を行う。
すなわち、第一段階では、生体左側の顎下部10に貼り付けた第一第一B電極部分3C1−1Bに負極性(マイナス極性)を持つパルスを備えるパルス電流を、生体右側の頬部30に貼り付けた第一チャネルの第二電極3C1−2に正極性(プラス極性)を持つパルスを備えるパルス電流を発振し、また、生体右側の顎下部10に貼り付けた第二第一B電極部分3C2−1Bに負極性(マイナス極性)を持つパルスを備えるパルス電流を、生体左側の頬部30に貼り付けた第二チャネルの第二電極3C2−2に正極性(プラス極性)を持つパルスを備えるパルス電流を発振する。これにより、喉頭挙上筋群等に電気刺激を特に効率的に与えることができる。
【0113】
そして、第二段階では、生体左側の顎下部10に貼り付けた第一第一B電極部分3C1−1Bに正極性(プラス極性)を持つパルスを備えるパルス電流を、生体右側の頬部30に貼り付けた第一チャネルの第二電極3C1−2に負極性(マイナス極性)を持つパルスを備えるパルス電流を発振し、また、生体右側の顎下部10に貼り付けた第二第一B電極部分3C2−1Bに正極性(プラス極性)を持つパルスを備えるパルス電流を、生体左側の頬部30に貼り付けた第二チャネルの第二電極3C2−2に負極性(マイナス極性)を持つパルスを備えるパルス電流を発振する。これにより、舌筋、オトガイ舌筋等の舌部等に電気刺激を特に効率的に与えることができる。
【0114】
次いで、第三段階では、本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法の第三例の一部を行う。
すなわち、第三段階では、生体左側の前頸部20に貼り付けた第一第一A電極部分3C1−1Aに正極性(プラス極性)を持つパルスを備えるパルス電流を、生体右側の頬部30に貼り付けた第一チャネルの第二電極3C1−2に負極性(マイナス極性)を持つパルスを備えるパルス電流を発振し、また、生体右側の前頸部20に貼り付けた第二第一A電極部分3C2−1Aに正極性(プラス極性)を持つパルスを備えるパルス電流を、生体左側の頬部30に貼り付けた第二チャネルの第二電極3C2−2に負極性(マイナス極性)を持つパルスを備えるパルス電流を発振する。これにより、上咽頭収縮筋等に電気刺激を特に効率的に与えることができる。
【0115】
続いて、第四段階では、本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法の第四例を行う。
すなわち、第四段階では、生体左側の前頸部20に貼り付けた第一第一A電極部分3C1−1Aと、生体右側の頬部30に貼り付けた第一チャネルの第二電極3C1−2との間で双極性パルス電流を発振し、また、生体右側の前頸部20に貼り付けた第二第一A電極部分3C2−1Aと、生体左側の頬部30に貼り付けた第二チャネルの第二電極3C2−2との間で双極性パルス電流を発振する。これにより、上咽頭収縮筋、中咽頭収縮筋、下咽頭収縮筋等に広く電気刺激を特に効率的に与えることができる。
【0116】
更に、第五段階では、本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法の第三例の一部を行う。
すなわち、第五段階では、生体左側の前頸部20に貼り付けた第一第一A電極部分3C1−1Aに負極性(マイナス極性)を持つパルスを備えるパルス電流を、生体右側の頬部30に貼り付けた第一チャネルの第二電極3C1−2に正極性(プラス極性)を持つパルスを備えるパルス電流を発振し、また、生体右側の前頸部20に貼り付けた第二第一A電極部分3C2−1Aに負極性(マイナス極性)を持つパルスを備えるパルス電流を、生体左側の頬部30に貼り付けた第二チャネルの第二電極3C2−2に正極性(プラス極性)を持つパルスを備えるパルス電流を発振する。これにより、下咽頭収縮筋等に電気刺激を特に効率的に与えることができる。
【0117】
上記の通り、第一段階〜第五段階を経ることによって、電気刺激を特に効率的に与える生体部位が、喉頭挙上筋群、舌部、上咽頭収縮筋、上・中・下咽頭収縮筋、下咽頭収縮筋という順序で移り変わる。この順序は、嚥下動作の際に機能する、口腔・咽喉頭領域90における生体部位の順序に倣うものとなる。このように、本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法の第五例によれば、嚥下障害患者の体に嚥下動作を覚え込ませることが可能となり、嚥下障害のリハビリの効果を得ることができる。そのため、この第五例によれば、特に、嚥下障害に対する治療効果を高めることができる。
【0118】
なお、本発明の実施形態に係る口腔・咽喉頭刺激方法の第五例は、第一段階〜第五段階の全てを備えているが、本発明の口腔・咽喉頭刺激方法は、これに限定されることなく、治療目的に応じて第一段階〜第五段階の各段階を適宜組み合わせて、この組み合わせを備えた方法とすることができる。
【0119】
−電気刺激装置−
以下、
図1(a)、(b)に示す電気刺激装置1(1a、1b)の詳細について記載する。
前述の通り、電気刺激装置1は、操作部500を有する。そして、操作部500は、その内部に、入力部500a、表示部500b、電源部(図示せず)、発振器としてのパルス生成部(図示せず)、制御部(図示せず)及び増幅部(図示せず)を有している。
入力部500aは、例えば、電気刺激用の電流をON/OFFするためのスイッチを含む、種々の操作を行うためのスイッチや、種々の設定を行うためスイッチが設けられている。そして、電気刺激装置1の使用者が入力部500aのスイッチを押すと、当該スイッチに応じた信号が入力部500aから出力され、出力された各信号はそれぞれ制御部に入力される。
制御部は、入力部500aから出力された信号に応じた処理を実行して、パルス生成部の動作を制御する。
パルス生成部(発振器)は、パルス電流を出力する。
表示部500bは、例えば入力部500aを介して入力した各種設定値を表示し、電気刺激装置1の使用者が設定内容を確認することができるようにされている。
電源部は、例えば二次電池等からなり、操作部500の発振部や表示部500b等に電力を供給する。
増幅部は、パルス生成部と電極3との間に位置し、パルス生成部が発振した電気刺激用の電流を増幅する。増幅部での増幅により、適当な電力を有する電流を生体に与えることができる。
【0120】
=電極=
以下、電気刺激装置が備える電極3の詳細について記載する。
上記電気刺激装置1の電極の形状は、特に限定されることなく、顎下部10、前頸部20、及び頬部30の形状に適宜合わせることができる。例えば、顎下部10に位置決めされる電極は、生体左側の下顎角(図示せず)から生体右側の下顎角(図示せず)まで下顎のラインに沿って貼り付けることができるような弓型形状とすることができる。また、顎下部10に位置決めされる電極3は、下顎底の中央に貼り付けることができるような円形状とすることもできる。
【0121】
特に、生体に対して発振される電気刺激用電流として干渉波の電流を用いて、口腔・咽喉頭領域90に対して電気刺激を行う場合、顎下部10に位置決めされる電極3の生体表面に対する接触面積(以下、「通電面積」ともいう)は、前頸部20及び/又は頬部30に位置決めされる電極3の通電面積と比較して、小さいことが好ましい。上記構成とすれば、干渉波の電流の干渉域を、口腔・咽喉頭領域90の特に頸部付近の領域(喉頭蓋や下咽頭収縮筋等)にすることが可能になる。そのため、患者の口腔・咽喉頭領域90に電気刺激を効果的に与えて、口腔・咽喉頭機能障害の治療の効果を高めることができる。
【0122】
前述のように干渉波を用いて電気刺激を与える場合、
図27(a)に示すように、電流が干渉する領域Ai(すなわち、電気刺激が効果的に与えられる領域)は、各チャネルを構成する電極3の同士を直線で結んでなる平面Pa,Pbが交差する領域Aiになる。このとき、
図27(a)に示すように、電流が干渉する領域Aiが、生体内の所望の位置(刺激標的部位)Adを含んでいることが望まれる。しかしながら、何らかの要因により、電極3の取り付け位置が変更されると、
図27(b)に示すように、上記領域Aiは、変化して、生体内の所望の位置Adを含まなくなることがある。ここで、
図27(c)に示すように、電極3のサイズを変更すると、電流が干渉する領域Aiを変更することができ、上記領域Aiが、生体内の所望の位置を含むようにすることができる。
【0123】
以下、特に、電流を干渉させて電気刺激を与える場合に好適に用いられる、サイズを変更することが可能な電極3(以下、「サイズ可変電極300」ともいう)について記載する。
上記のサイズ可変電極300の具体例について、
図28〜
図32を用いて説明する。なお、サイズ可変電極300は、前述の電気刺激装置1以外の刺激装置に適用することもできる。
【0124】
ここで、サイズ可変電極の第一実施形態の電極300−1について、
図28を用いて説明する。
図28(a)に示すように、サイズ可変電極の第一実施形態の電極300−1は、円盤状の本体部301と、その略中央から延びる配線302とを有している。また、本体部301は、生体の表面に取り付けられて生体へ電気刺激用の電流を与える部分を含む取付側部分303と、後述の通電範囲変更部を内部に含むケース部分304とから形成されている。
また、電極300−1の取付面(底面)を
図28(b)に示し、
図28(b)のa−a線に沿う断面図を
図28(c)に示すように、取付側部分303は、生体へ取り付けられる取付面P(
図28(a)の下方の面)と、取付面Pとは逆側に位置する非取付面Nを有している。そして、ケース部分304は、接着や溶着などの既知の手段を用いて、非取付面N上に固着されている。
なお、図示では本体部301は円盤状であるが、任意の形状にすることができる。
【0125】
電極300−1の取付側部分303は、複数の導電部312と、複数の絶縁部313とよりなる。そして、導電部312及び絶縁部313の少なくとも一方は、電極300−1を生体の表面に取り付けることができるように、粘着性を有する部材、例えば導電性高分子ゲル、又は、電解質もしくは導電性物質を含むハイドロゲルもしくはゾル等で形成されている。また、ハイドロゲル及びゾルは、例えば、ポリ(アミドアミン)、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリウレタン、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレングリコールモノメタクリレート)、ポリ(メタクリル酸)−コ−ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルアルコール)、及びポリ(ビニル−ピロリドン)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(アミノプロルイメタクリルアミド)、及びポリ(N,N−ジメチル−2−アミノエチルメタクリレート)若しくはこれらのコポリマー、ブロックコポリマー、グラフトコポリマー、並びにこれらのヘテロポリマー、又はこれらの組合せから選択される少なくとも1つのポリマーを含む。
また、
図28(b)に示すように、電極300−1では、導電部312と絶縁部313とが同心円状に交互に配置されている。
なお、この実施形態では、3つの導電部312(中心側から外周縁側に向かって、円盤状の導電部312a1、円環状の導電部312a2及び312a3)と、2つの円環状の絶縁部313とを交互に有しているが、サイズ可変電極300では、導電部312及び絶縁部313の個数は任意に増減させることができる。また、サイズ可変電極300では、導電部312及び絶縁部313を同心円状以外の形状に配置してもよく、また、導電部312及び絶縁部313を、例えば、直方体状や立方体状などの形状にすることも可能である。更にこの実施形態では、導電部312及び絶縁部313は粘着性を有する部材としているが、サイズ可変電極300では、導電部312及び絶縁部313を非粘着性の部材にするとともに、取付側部分303の外周側に粘着材を設けてもよい。また、絶縁部313は、絶縁性を有する部材を用いる他、各導電部312を離間させて配置することで形成される空間を利用して空気絶縁するものであってもよい。
【0126】
配線302及び当該配線302が接続されたケース部分304内には、
図28(c)に示すように、導電部312の数に対応した数(図示例では3本)の導線302aが通っている。そして、導線302aは、それぞれ、一端が導電部312の何れかに接続され、他端が図示しない電気刺激用の電流の供給源(例えば、電気刺激装置の発振部や増幅部)に接続可能に形成されている。そして、各導線302aは、配線302内で互いに接触して導通することが無いように、外周面が絶縁性部材で被覆されている。
なお、導線302aの一端と導電部312との接続は、直接的に導線302aの一端を導電部312に接続させてもよく、間接的に、すなわち、導線302aの一端と導電部312とを、その間に導電性金属板、金属シート、カーボンシート等の導電伝達部材を介して接続することも可能である。
また、電極300−1では、1本の配線302内に3本の導線302aを収容し、当該配線302をケース部分304に接続したが、サイズ可変電極300では、1本の導線302aを収容した複数本の配線302をケース部分304に接続してもよい。
【0127】
そして、
図28に示す電極300−1によれば、互いに離隔して配置された複数の導電部312と、導電部312間に位置する絶縁部313と、各導電部312に個別に接続された導線302aとを通電面積変更機構として機能させることにより、電極3を取り付けた生体の表面に対して電気刺激用の電流を通電する面積を変更することができる。
【0128】
具体的には、この電極300−1では、例えば、図示しない電気刺激装置の制御部を利用し、電気刺激用の電流を通電する導線302a及び導電部312の数及び位置を変更することにより、電気刺激用の電流を通電する面積及び位置を変更することができる。すなわち、この電極300−1では、各導電部312に個別に接続された導線302aは、電気刺激用の電流を通電する導電部312の数及び範囲を変更する通電範囲変更部として機能する。
その結果、電極3の接触面積(通電面積)を電極取り付け後に変更することができる。
【0129】
なお、上述したような、互いに離隔して配置された複数の導電部312と、導電部312間に位置する絶縁部313と、各導電部312に個別に接続された導線302aとを通電面積変更機構として機能させる電気刺激装置用電極300−1では、導線302aが各導電部312に個別に接続されているので、通電面積の変更を確実かつ迅速に行うことができる。また、導線302aが、各導電部312に個別に接続されているので、例えば、使用者等が、電極3に対する物理的な衝撃による通電面積変化等を気にすることなく、電気刺激装置の操作部での操作や電気的制御により、通電面積の変更の操作を行うことができる。なお、電気的制御を行う場合には、通電面積、又は生体内での刺激位置を、経時的に変化させる等の制御パターンで電気刺激を生体に与えることもできる。
また、導線302aが各導電部312に個別に接続されているので、導電部312及び絶縁部313の配置位置の設計自由度が高い。
【0130】
次に、サイズ可変電極の第一実施形態の変形例の電極300−1aについて、
図29を用いて説明する。
図29(a)にその全体を示す変形例の電極300−1aは、取付面(底面)を
図29(b)に示し、
図29(b)のb−b線に沿う断面図を
図29(c)に示すように、配線302内に1本の導線302aしか配置されておらず、当該導線302aが、円盤状の導電部312a1のみに接続している点において、
図28に示す電極300−1と構成が異なっている。すなわち、変形例の電極300−1aは、導線302aが接続された導線付き導電部312a(312a1)と、導線302aが接続されていない導線無し導電部312b(312b1、312b2)とを有している。
【0131】
また、変形例の電気刺激装置用電極300−1aは、
図29(c)のc−c線に沿う断面図を
図29(d)に示すように、ケース部分304内に、各導線無し導電部312b1、312b2に接続された第1導電部材316−1(316−1a、316−1b)と、導線付き導電部312a1に接続され、且つ、第1導電部材316−1と接触/離隔可能に形成された第2導電部材316−2とを備えている点においても、
図28に示す電極300−1と構成が異なっている。
具体的には、ケース部分304内には、平面視扇形で、2つの導電部312a1及び導電部312b1の間に位置する絶縁部313の上側の一部を覆うように配置された内側第1導電部材316−1aと、平面視扇形で、3つの導電部312a1、312b1、312b2及び2つの絶縁部313の上側の一部を覆うように配置された外側第1導電部材316−1bとが配置されている。また、ケース部分304内には、平面視扇形の第2導電部材316−2が、導電部312a1の上側に、導電部312a1上を摺動可能に、且つ、第1導電部材316−1(316−1a、316−1b)と接触/離隔可能に配置されている。
【0132】
内側第1導電部材316−1aは、金属などの導電性の部材よりなり、
図29(c)に示すように、一部が、導線無し導電部312b1の非取付面N側と接続されている。また、内側第1導電部材316−1aのうち、導線付き導電部312a1及び絶縁部313の上側に位置する接触部分317は、少なくとも導線付き導電部312a1(図示例では導電部312a1及び絶縁部313の双方)の非取付面N側と接触しないように(すなわち、ケース部分304内の中空部に位置するように)形成されている。
【0133】
外側第1導電部材316−1bは、金属などの導電性の部材よりなり、
図29(c)に示すように、一部が、導線無し導電部312b1、導線無し導電部312b2、並びに導線無し導電部312b1及び導線無し導電部312b2の間に位置する絶縁部313の非取付面N側と接続されている。また、外側第1導電部材316−1bのうち、導線付き導電部312a1の上側、並びに、導線付き導電部312a1及び導線無し導電部312b1の間に位置する絶縁部313の上側に位置する接触部分317は、少なくとも導線付き導電部312a1(図示例では導電部312a1及び絶縁部313の双方)の非取付面N側と接触しないように(すなわち、ケース部分304内の中空部に位置するように)形成されている。
【0134】
更に、第2導電部材316−2は、導線付き導電部312a1の非取付面N上に、導電部312a1と接触可能かつ導電部312a1上を摺動可能に(図示例では、導電部312a1の中央に接続された導線302aを中心に回転可能に)配置されている。そして、第2導電部材316−2は、導線302aを中心に回転させた際に、第1導電部材316−1a、316−1bの部分317(以下「接触部分317」という)と接触するように構成されている。また、第2導電部材316−2には、第2導電部材316−2を摺動させる際に用いる取っ手部318が固着されており、ケース部分304には、取っ手部318が突出する孔324が、第2導電部材316−2を摺動させる範囲に合わせた円弧状に形成されている。なお、第2導電部材13bは、導線付き導電部113cの非取付面N上を、直接的に接触かつ摺動してもよく、又は間接的に、すなわち、カーボンフィルムもしくは金属板、金属シートなどの導電性部材を介して接触かつ摺動してもよい。
具体的には、第2導電部材316−2は、平面視円形の導線付き導電部312a1の半径よりも短く、且つ、導線302aと接触部分317との間の最短距離よりも長い寸法を有している。また、第2導電部材316−2は、導線付き導電部312a1と接触部分317との間の、非取付面Nに直交する方向の距離D以上の厚み(図示例では、距離Dと等しい厚み)を有している。従って、この電極300−1aでは、第2導電部材316−2を接触部分317の下側に位置させれば、第2導電部材316−2と接触部分317とが接触(図示例では、第2導電部材316−2の上面と接触部分317の下面とが接触)する。
【0135】
なお、電極300−1aでは、第2導電部材316−2の厚みを距離D以上とし、第2導電部材316−2を摺動させた際に第2導電部材316−2の側面と接触部分317の側面とが接触するようにしてもよいし、或いは、第2導電部材316−2の厚みを距離D未満とすると共に取っ手部318を導電性の部材で形成し、第2導電部材316−2を摺動させた際に取っ手部318と接触部分317の側面とが接触するようにしてもよい。
但し、第2導電部材316−2と接触部分317とを確実に接触させると共に、その接触状態を確実に維持する観点からは、第2導電部材316−2の厚みは、距離Dと等しい大きさか、或いは、距離Dよりも若干大きい大きさとして、導線付き導電部312a1の上面と接触部分317の下面との間に第2導電部材316−2が、挟み込まれた状態で嵌め合わされるようにすることが好ましい。第2導電部材316−2が挟み込まれた状態で嵌め合わされれば、生体に対して電気刺激を与えている間に振動などが与えられても、第2導電部材316−2が移動するのを防止することができるからである。
また、第2導電部材316−2と接触部分317とを確実に接触させると共に、その接触状態を確実に維持する観点からは、
図29(c)に示すように、ケース部分304の、取っ手部318が突出する孔324の周辺部、又は取っ手部318の少なくとも一方を軟性材料にするとともに、孔324を、当該孔324の両端及び中間の3箇所に設けた、幅が相対的に広い広幅部分325と、各広幅部分325の間に位置する、幅が相対的に狭い狭幅部分326と、で形成することができる。具体的には、狭幅部分326は、その幅が取っ手部318の径よりも若干小さく形成され、広幅部分325は、その幅が狭幅部分326の幅よりも大きく且つ取っ手部318が弱く嵌合するように形成されている。孔324を広幅部分325及び狭幅部分326で形成することで、取っ手部318が、広幅部分325から狭幅部分326へ摺動する際に抵抗力が生じるので、取っ手部318を、孔324の一方の端側の広幅部分325に位置させれば、第2導電部材316−2を接触部分317に接触させた状態に固定でき、また、取っ手部318を、孔324の中間の広幅部分325に位置させれば、第2導電部材316−2を接触部分317に非接触な状態に固定できる。それゆえに、取っ手部318を広幅部分325に位置させれば、生体に対して電気刺激を与えている間に振動などが与えられても、第2導電部材316−2が移動するのを防止することができる。
【0136】
そして、上述した変形例の電極300−1aによれば、互いに離隔して配置された複数の導電部312(導線付き導電部312a1及び導線無し導電部312b)と、導電部312間に位置する絶縁部313と、第1導電部材316−1と、第2導電部材316−2とを通電面積変更機構として機能させることにより、電極3を取り付けた生体の表面に対して電気刺激用の電流を通電する面積を変更することができる。
【0137】
具体的には、この電極300−1aでは、例えば図示しない電気刺激装置1から導線302aを介して導線付き導電部312a1に電気刺激用の電流を通電した状態において、第2導電部材316−2を摺動させて第2導電部材316−2の位置を変更することにより、電気刺激用の電流を通電する導電部312の数及び範囲を変更することができる。より具体的には、導線付き導電部312a1に電気刺激用の電流を通電した状態において、第2導電部材316−2を接触部分317と接触しない場所に位置させれば、導線付き導電部312a1のみに通電することができる。また、導線付き導電部312a1に電気刺激用の電流を通電した状態において、第2導電部材316−2を内側第1導電部材316−1aの接触部分317と接触させれば、導線付き導電部312a1及び導線無し導電部312b1に通電することができる。更に、導線付き導電部312a1に電気刺激用の電流を通電した状態において、第2導電部材316−2を外側第1導電部材316−1bの接触部分317と接触させれば、導線付き導電部312a1及び導線無し導電部312b1、312b2に通電することができる。
すなわち、この電極300−1aでは、導線付き導電部312a1に接続された導線302aと、1つ以上の導線無し導電部312b1、312b2に接続された第1導電部材316−1と、導線付き導電部312a1に接続され、且つ、第1導電部材316−1と接触/離隔可能に形成された第2導電部材316−2とが、電気刺激用の電流を通電する導電部312の数及び範囲を変更する通電範囲変更部として機能する。
その結果、第2導電部材316−2を移動させることで、電極の接触面積(通電面積)を電極取り付け後に変更することができる。
【0138】
なお、上述したような、導線付き導電部312a1及び導線無し導電部312b1、312b2を有する導電部312、絶縁部313、導線302a、第1導電部材316−1並びに第2導電部材316−2を通電面積変更機構として機能させる電極300−1aでは、導線302aの配線を複雑化することなく、通電面積が変更可能となる。また、電気刺激装置1の、電極3以外の部分、例えば操作部に通電面積を変更するための設計を施す必要がない。更に、導電部312及び絶縁部313の配置位置の設計自由度が高い。
【0139】
続いて、サイズ可変電極の第一実施形態の別の変形例の電極300−1bについて、
図30を用いて説明する。
図30(a)にその全体を示す別の変形例の電極300−1bは、取付面(底面)を
図30(b)に示し、
図30(b)のd−d線に沿う断面図を
図30(c)に示すように、導線302aが内部に配置された配線302を有しておらず、移動式通電部材319を挿通する孔がケース部分304の側面に形成されている点において
図28に示す電極300−1と構成が異なっている。
【0140】
また、別の変形例の電極300−1bは、
図30(c)のe−e線に沿う断面図を
図30(d)に示すように、導電部312に導線302aが接続されておらず、非取付面Nの半面を覆う絶縁性部材320と、フィルム状又はシート状の導電性部材321と、絶縁部313にフィルム状又はシート状の補助絶縁性部材322とを備えている点においても、
図30に示す電極300−1と構成が異なっている。
【0141】
移動式通電部材319は、導線302aに接続されており、金属棒などの導電性の部材よりなる。そして、移動式通電部材319は、ケース部分304の側面に形成された孔に挿通されており、ケース部分304内を移動可能とされている。また、移動式通電部材319は、非取付面Nの中央から最も外側に位置する導電部312b3までの最短距離よりも長い寸法を有している。
なお、移動式通電部材319の移動は、移動式通電部材319に取り付けられ、ケース部分304の側方から貫通孔を介して外部に延びる導線302aを、ケース部分304に対して移動、図示ではケース部分304の半径方向にスライドさせることによって行うことがきる。この際、導線302aの周囲に剛性部材323を設けることで、剛性部材323をスライドさせて導線302aとともに移動式通電部材319を移動させことができる。ここで、移動式通電部材319を指向性高く移動させる観点からは、移動式通電部材319を移動させたい領域の両側に壁状のガイド部を設けてもよい。また、移動式通電部材319の移動は、ボールねじなどの機構を用いて行ってもよい。
【0142】
絶縁性部材320は、
図30(d)に示すように、非取付面Nのうち、移動式通電部材319が挿通される孔が形成された側の半面を覆うように配置されている。従って、別の変形例の電極300−1bでは、孔から挿入された移動式通電部材319は、導電部312と電気的に接触(通電)することなく、ケース部分304内を非取付面Nの中央まで移動可能である。
【0143】
導電性部材321は、導電部312の上面のうち、絶縁性部材320が配置されていない部分に配置されている。すなわち、
図30に示す電極300−1bでは、1つの半円状の導電性部材321と、寸法の異なる2つの円環状の導電性部材321とが、それぞれ導電部312b1、312b2、312b3の上面に配置されている。
【0144】
補助絶縁性部材322は、絶縁部313の上面のうち、絶縁性部材320が配置されていない部分に配置されている。すなわち、
図30に示す電極300−1bでは、寸法の異なる2つの円環状の補助絶縁性部材322が、各絶縁部313の上面に配置されている。
【0145】
そして、
図30に示す電極300−1bによれば、互いに離隔して配置された複数の導電部312と、導電部312間に位置する絶縁部313と、導線302aが接続された移動式通電部材319とを通電面積変更機構として機能させることにより、電極3を取り付けた生体の表面に対して電気刺激用の電流を通電する面積を変更することができる。
【0146】
具体的には、この電気刺激装置用電極300−1bでは、例えば図示しない電気刺激装置1から導線302aを介して移動式通電部材319に電気刺激用の電流を通電した状態において、ケース部分304の孔から挿通した移動式通電部材319を摺動させることにより、電気刺激用の電流を通電する導電部312の数及び範囲を変更することができる。より具体的には、移動式通電部材319に電気刺激用の電流を通電した状態において、移動式通電部材319を半円状の導電性部材321の上部(第一通電位置)に位置させれば、移動式通電部材319と導電部312b1とを導電性部材321を介して電気的に接触させ、導電部312b1のみに通電することができる。また、移動式通電部材319に電気刺激用の電流を通電した状態において、移動式通電部材319を、半円状の導電性部材321、導電部312b1、312b2間に位置する絶縁部313の上面に位置する円環状の補助絶縁性部材322及び導電部312b2の上面に位置する円環状の導電性部材321の上部(第二通電位置)に位置させれば、移動式通電部材319と、導電部312b1、312b2とを導電性部材321を介して電気的に接触させ、導電部312b1、312b2に通電することができる。更に、移動式通電部材319に電気刺激用の電流を通電した状態において、移動式通電部材319を、半円状の導電性部材321、絶縁部313の上面に位置する円環状の補助絶縁性部材322及び導電部312b2、312b3の上面に位置する円環状の導電性部材321の上部(第三通電位置)に位置させれば、移動式通電部材319と、導電部312b1、312b2、312b3とを導電性部材321を介して電気的に接触させ、導電部312b1、312b2、312b3に通電することができる。
すなわち、この電気刺激装置用電極300−1bでは、導線302aが接続された移動式通電部材319が、電気刺激用の電流を通電する導電部312の数及び範囲を変更する通電範囲変更部として機能する。
その結果、導線302aが接続された移動式通電部材319を移動させることで、電極の接触面積(通電面積)を電極取り付け後に変更することができる。
【0147】
ここで、上述したような、導電部312、絶縁部313、及び移動式通電部材319を通電面積変更機構として機能させる電極300−1bでは、導線302aの配線を複雑化することなく、通電面積が変更可能となる。また、電気刺激装置1の、電極3以外の部分、例えば操作部に通電面積を変更するための設計を施す必要がない。更に、導電部312及び絶縁部313の配置位置の設計自由度が高い。
【0148】
なお、この電極300−1bでは、ケース部分304の孔付近の、導線302a又は剛性部材323に、目盛や小さい凹凸を設けることで、ケース部分304内での移動式通電部材319の位置ないし導電部312の通電範囲を認識可能にしてもよい。或いは、電極300−1bでは、補助絶縁性部材322上に小さい凹凸や爪を設け、移動式通電部材319を移動させる際に操作者が当該凹凸や爪を乗り越える際の抵抗を感じることができるようにすることで、ケース部分304内での移動式通電部材319の位置ないし導電部312の通電範囲を認識可能にしてもよい。
【0149】
ここで、上述した電極300−1bでは、絶縁性部材320、導電性部材321及び補助絶縁性部材322を用いることにより、移動式通電部材319が、少なくとも一つの導電部312b1に接触して、移動式通電部材319が接触した導電部312b1と導線302aとを通電可能状態にする第一通電位置と、第一通電位置よりも接触する導電部312の数が多く、移動式通電部材319が接触した導電部312b1、312b2と導線302aとを通電可能状態にする第二通電位置と、第一通電位置及び第二通電位置よりも接触する導電部312の数が多く、移動式通電部材319が接触した導電部312b1、312b2、312b3と導線302aとを通電可能状態にする第三通電位置との間を移動可能にした。
しかし、サイズ可変電極300は、
図30に示す構成に限定されることはない。具体的には、
図30に示す電極300−1bでは、半円状の絶縁性部材320を配置することにより、移動式通電部材319と、導電部312b2、312b3とがケース部分304の孔側で電気的に接触(通電)してしまうのを回避したが、絶縁性部材320は、移動式通電部材319と、導電部312b2、312b3とがケース部分304の孔側で電気的に接触(通電)するのを回避可能であれば、任意の形状(例えば、導電部312b2、312b3の上面のみを覆う形状)とすることができる。また、絶縁性部材320を設けることなく、例えば移動式通電部材319の一部(導線302aと接続されている側)を絶縁性の部材で覆うことにより、移動式通電部材319と、導電部312b2、312b3とがケース部分304の孔側で電気的に接触(通電)してしまうのを回避してもよい。
【0150】
次に、サイズ可変電極の第二実施形態の電極300−2について、
図31を用いて説明する。
図31(a)に示すように、サイズ可変電極の第二実施形態の電極300−2は、略円盤状のカバー部332と、その略中央から延びる配線338と、導電性流体(図示せず)を収容した容器339と、導電性流体を注入する注入管336とを有している。
なお、図示ではカバー部332は円盤状であるが、任意の形状にすることができる。
【0151】
カバー部332は、電極300−2の取付面(底面)を
図31(b)に示し、
図31(b)のf−f線に沿う断面図を
図31(c)に示すように、円盤状の基板333と、当該基板333の、生体の表面を向く取付側面の周縁部に既知の手法で固着された、円環状の取り付け部334とを有している。そして、円環状の取り付け部334は、粘着性の部材で構成されており、円環状の取り付け部334の、基板333側とは反対側の面は、生体に取り付けられる円環状の取付面Pとなる。そのため、このカバー部332では、円環状の取付面Pの内周側に、凹部331が形成されることとなる。そして、凹部331は、カバー部332を生体の表面に取り付けた際には、凹部331の内面と生体の表面とで閉空間を画成する。
【0152】
なお、
図31(b)、(c)に示すように、カバー部332の凹部331内は、絶縁材料よりなり、凹部331内を複数の空間に仕切る仕切り板337、例えば図示のように通電部材335を中心とする同心円状の仕切り板337で区画されている。ここで、仕切り板337は、基板333に固着されており、一部に、流体通過孔337aが形成されている。なお、流体通過孔337aは、同心円の外側に位置する仕切り板337に向かうほど、基板333側に位置するように形成されている。なお、
図31(b)、(c)で示すところでは、半径方向最も内側に位置する仕切り板337を内側仕切り板337bとし、内側仕切り板337bに隣接配置された仕切り板337を外側仕切り板337cとする。
【0153】
カバー部332に接続された配線338には、1本の導線338aが収納されている。そして、導線338aは、カバー部332の凹部331内に配置された通電部材335と接続されている。
なお、通電部材335は、任意形状の導電性部材とすることができる。また、通電部材335は、電極300−2を生体の表面に取り付けた状態で、生体の表面から離隔するように配置されている。また、通電部材335のカバー部332の凹部内の固定は、例えば、通電部材335の基板側部分を内部に嵌め込んで固定する固定部材を、基板333の取付側面に、周知の手法で取り付けて行うことができる。
【0154】
容器339は、導電性流体を収容しており、容器339には、注入管336の一端が接続されている。そして、容器339は、カバー部332の基板333の外表面上に配置されており、例えば樹脂製の変形可能な容器よりなる。
ここで、導電性流体(図示せず)は、導電性及び流動性を有する流体であれば、任意の流体にすることができるが、例えば導電性を有するゾルが好ましい。
【0155】
注入管336は、導電性流体を収容した容器339から、カバー部332の凹部331内の通電部材335の近傍まで延在している。従って、この電極300−2では、容器339を圧縮変形させて容器339内の導電性流体を押し出すことにより、注入管336を介して導電性流体をカバー部332の凹部331内に注入することができる。
なお、電極300−2では、上記容器339に代えてシリンジ状容器としてもよく、シリンジ状容器を用いた場合には、導電性流体の注入量を確認することができる。また、カバー部332の基板333を透明素材とすることで、視覚的に注入量を確認できる設計にすることも可能である。
【0156】
そして、
図31に示す電極300−2によれば、凹部331を有するカバー部332と、カバー部332の凹部331内に配置され且つ導線338aに接続された通電部材335と、導電性流体を凹部331内に注入する注入管336とを通電面積変更機構として機能させることにより、電極3を取り付けた生体の表面に対して電気刺激用の電流を通電する面積を変更することができる。
【0157】
具体的には、この電極300−2では、例えば図示しない電気刺激装置から導線338aを介して通電部材335に電気刺激用の電流を通電した状態において、凹部331の内面と生体の表面とで画成された閉空間内に注入管336を介して導電性流体を注入することにより、電気刺激用の電流を通電する範囲を変更することができる。より具体的には、閉空間内のうち、半径方向最も内側に位置する内側仕切り板337bで区画された空間内にのみ導電性流体を注入し、導電性流体と通電部材335とを接触させれば、当該導電性流体が注入された領域のみに通電することができる。また、内側仕切り板337bの流体通過孔337aを介して導電性流体を半径方向外側に向かって越流させ、内側仕切り板337bと、内側仕切り板337bに隣接配置された外側仕切り板337cとの間の空間内にも導電性流体を注入し、導電性流体と通電部材335とを接触させれば、当該導電性流体が注入された2つの領域に通電することができる。
その結果、導電性流体の注入量及び注入領域を変更することで、電極3の接触面積(通電面積)を電極取り付け後に変更することができる。
なお、この電極300−2では、同心円の外側に位置する仕切り板337に向かうほど、流体通過孔337aが基板333側に位置するように形成されているので、中心から2番目の仕切り板(外側仕切り板337c)よりも外側に向かって導電性流体が越流する前に、上記の2つの領域(内側仕切り板337bで囲まれる領域、及び内側仕切り板337bと外側仕切り板337cとで囲まれる領域)に通電することができる。
また、仕切り板337の、基板333とは逆側(生体側)の端面を、粘着性を有する面として形成することができる。これによれば、仕切り板337の当該端面と、生体の表面との間で、導電性流体が、仕切り板337の内側から外側へ漏れるのを効果的に防止することができる。更に、基板333に、カバー部332の内側と外側との空気の出入りを可能にする、少なくとも一つの通気孔(図示せず)を設けることができる。これによれば、導電性流体を注入してもカバー部332内の圧力を上昇させないようにすることができる。カバー部332内の圧力が上昇しないので、導電性流体の注入を行いやすくすることができ、又は、圧力に起因する生体の表面の変形が抑えられるので、導電性流体が仕切り板337の内側から外側へ漏れるのを効果的に防止することができる。
【0158】
そして、上述したような、凹部331を有するカバー部332と、カバー部332の凹部331内に配置され且つ導線338aに接続された通電部材335と、導電性流体を凹部331内に注入する注入管336とを通電面積変更機構として機能させる電極300−2では、使用する部品数を低減しつつ、通電面積が変更可能となる。また、部品の故障の発生等により電極が使用不能になるのを抑制することができる。また、比較的高価な導電性ゲルを用いなくとも、比較的安価な導電性流体を洗浄除去することで、電極を繰り返し使用可能になる。
【0159】
ここで、
図31に示す電極300−2では、凹部331内で導電性流体が位置する空間を規制するための規制機構として仕切り板337を用いたが、サイズ可変電極300では、導電性流体を例えば5〜15Pa・s程度の高粘度の流体にし、通電部材335の位置を凹部331の開口側(生体の表面側)に近づけることにより、カバー部332の凹部331内に注入された導電性流体が凹部331内で不要に広く拡散することを防止してもよい。また、
図31に示す電極300−2では、仕切り板337に流体通過孔337aを設けたが、サイズ可変電極300では、流体通過孔337aを設けることなく、仕切り板337で画成された空間毎に導電性流体を注入する注入管336及び容器を設けてもよい。
【0160】
次に、サイズ可変電極の第三実施形態の電気刺激装置用電極300−3について、
図32を用いて説明する。
図32(a)に示すように、第三の実施形態の電気刺激装置用電極300−3は、略円盤状のカバー部348と、その略中央に位置する押圧部材349と、押圧部材349に接続された配線340とを有している。
なお、図示ではカバー部348は円盤状であるが、任意の形状にすることができる。
【0161】
カバー部348は、電極300−3の
図32(a)のg−g線に沿う断面図を
図32(b)に示すように、略円盤状の基板343と、当該基板343の、生体の表面を向く取付側面の周縁部に既知の手法で固着された、円環状の取り付け部342とを有している。そして、円環状の取り付け部342は、粘着性の部材で構成されており、円環状の取り付け部342の、基板343側とは反対側の面は、生体に取り付けられる円環状の取付面Pとなる。そのため、このカバー部348では、円環状の取付面Pの内周側に、凹部350が形成されることとなる。そして、凹部350は、カバー部348を生体の表面に取り付けた際には、凹部350の内面と生体の表面とで閉空間を画成する。
なお、カバー部348の基板343の中央には、後述する押圧部材349の一部が貫通する貫通孔343aが形成されている。そして、基板343は、後述する押圧部材を動作させた際に大きく変形しない程度の剛性を有している。
またなお、円環状の取り付け部342は、非粘着性の部材で構成することもできる。
【0162】
なお、
図32(b)に示すように、カバー部348の凹部350内には、弾性通電部材341と、弾性通電部材341を凹部350の開口側に向けて押圧する押圧部材349の一部を構成する通電部材344とが配置されている。
【0163】
弾性通電部材341は、導電性及び弾性を有するものであれば任意の材料とすることができ、例えば導電性ゲル、導電性ゴムを用いることができる。また、弾性通電部材341は、
図32(b)に示すように、その周縁部分が円環状の取り付け部342の内周面に取り付けられている。また、弾性通電部材341は、電極300−3の生体表面への取付前の状態では、当該電極300−3の取付面Pに直交する断面で、平坦又は他端側(取付側)に撓んだ形状をなすとともに、凹部350の開口位置よりも突出しないよう(すなわち、凹部350の開口位置よりも凹部350底側に位置するように)に配置されている。
なお、弾性通電部材341は、円環状の取り付け部342の内周面ではなく、通電部材344に取り付けられていてもよい。
【0164】
カバー部348に接続された配線340には、1本の導線340aが収納されている。そして、導線340aは、カバー部348の凹部350内に配置された通電部材344と電気的に接続されている。具体的には、導線340aは、後述する押込み部材346及び係合部材345を貫通して延在し、通電部材344と電気的に接続されている。
【0165】
押圧部材349は、基板343及び弾性通電部材341の間に配置される通電部材344と、凹部350の開口側(
図32(b)では下側)に向けて押し込み可能であり、基板343の貫通孔343aに対して係合する係合部材345と、てこの原理を利用して係合部材345を凹部350の開口側に押し込む板状の押込み部材346とを備えている。
【0166】
通電部材344は、電極300−3の取付面Pに直交する断面で、弾性通電部材341の幅よりも小さい幅を有し、凹部350の開口側に凸となる蒲鉾状の形状をしている。そして、通電部材344は、係合部材345を凹部350の開口側に向けて押し込んでいない状態(
図32(b)に示す状態)において、下面が弾性通電部材341に接触しており、上面が係合部材345に接触している。
なお、通電部材344の形状は、弾性通電部材341を凹部350の開口側に向けて押圧することができれば、任意の形状にすることができる。
【0167】
係合部材345は、基板343に対する係合部材345の変位を制限する形状を有して基板343と係合している。具体的には、係合部材345の形状は、例えば、図示のように、係合部材345の長手方向に1つ以上(図示例では3つ)形成される返し345aを設けた形状とすることができ、返し345aにより係合部材345の非取付面N側への移動を制限することができる。なお、返し345aは、最大半径が貫通孔343aよりも少し大きく、凹部350の開口側に向かって縮径するテーパー面を有している。そして、このような返し345aを有する係合部材345は、凹部350の開口側に向けて返し345aが変形する大きさの力を加えることにより、凹部350内へと圧入することができる。そして、凹部350内へと圧入された返し345aは、凹部350の開口側とは反対側に向かって返し345aが変形する大きさの力が加わるまでは、基板343と係合して係合部材345の位置を保持する。
【0168】
押込み部材346は、基板343に対して揺動可能なように一端が基板343に取り付けられており、中央部が係合部材345に当接している。そして、押込み部材346によれば、他端側を基板343側に向けて押すことにより、てこの原理を利用して係合部材345をより容易に凹部350内へと圧入することができる。
【0169】
そして、
図32に示す電極300−3では、
図32(c)に示すように、押圧部材349を介して弾性通電部材341を凹部350の開口側に向けて押圧することにより、当該弾性通電部材341を、生体の表面に接触しない絶縁位置(
図32(b)に示す位置)と、弾性通電部材341の少なくとも一部が凹部350の開口まで到達する通電位置との間で移動させることができる。また、押圧部材349の係合部材345の返し345aにより、弾性通電部材341を押圧した状態を維持することができる。
具体的には、
図32に示す電極300−3では、生体の表面に電極3を取り付けた状態において、押込み部材346を介して係合部材345を圧入し、通電部材344を押し下げると共に弾性通電部材341を変形させて弾性通電部材341を凹部350の開口位置まで到達させることにより、弾性通電部材341と生体の表面とを接触させることができる。そして、押圧部材349の係合部材345の返し345aにより、弾性通電部材341を押圧した状態を維持しつつ、導線340a及び通電部材344を介して弾性通電部材341に電気刺激用の電流を通電することができる。また、係合部材345を圧入する長さを変更することにより、弾性通電部材341と生体の表面とが接触する面積を変更して、生体の表面に対して与えられる電気刺激用の電流を通電する面積を変更することができる。
【0170】
すなわち、
図32に示す電極300−3によれば、凹部350を有するカバー部348と、弾性通電部材341と、導線340aと、押圧部材349とを通電面積変更機構として機能させることにより、電極3を取り付けた生体の表面に対して電気刺激用の電流を通電する面積を変更することができる。
【0171】
そして、上述したような、凹部350を有するカバー部348と、弾性通電部材341と、導線340aと、押圧部材とを通電面積変更機構として機能させる電気刺激装置用電極300−3では、より細やかな面積調整をすることができる。
【0172】
−電気刺激装置の変形例−
図33(a)に、
図1(a)に示す電気刺激装置の一例1aの変形例を示す。
電極3は、1つのチャネル(第一チャネル3C1)の第一電極3C1−1及び第二電極3C1−2からなる。第一電極3C1−1は、第一A電極部分3C1−1A及び第一B電極部分3C1−1Bからなり、第二電極3C1−2は、第二A電極部分3C1−2A及び第二B電極部分3C1−2Bからなる。
【0173】
ここで、第一A電極部分3C1−1A及び第二A電極部分3C1−2Aが1つのシート状部材3sに担持されて、第一導子3i1とされ、第一B電極部分3C1−1B及び第二B電極部分3C1−2Bも1つのシート状部材3sに担持されて、第二導子3i2とされる。シート状部材3sとしては、例えば、粘着性の布、不織布、高分子シート(発泡、非発泡)等が挙げられ、特に、経済性、保存安定性の観点から、高分子シートが好ましい。上記構成とすれば、1つの導子3iを貼り付けることによって2つの電極3を同時に貼り付けることが可能となるため、電気刺激装置の使い勝手を向上させることができ、また、口腔・咽喉頭刺激方法の位置決め工程における、電極3の位置決めの精度を高めることができる。
【0174】
また、上記第一導子3i1及び第二導子3i2は、伸び縮み可能な伸縮部材3ecにより連結される。伸縮部材3ecとしては、例えば、伸縮性の布、不織布、高分子シート(網目構造、蛇腹構造)等が挙げられ、特に、経済性、保存安定性の観点から、高分子シートが好ましい。上記構成とすれば、第一導子3i1及び第二導子3i2を、それらの間を所望の距離としながら、貼り付けることが可能となるため、電気刺激装置の使い勝手を向上させることができる。
【0175】
なお、上記シート状部材3s及び伸縮部材3ecは、電極3と適宜組み合わせて用いることができる。
【0176】
図33(b)に、
図1(b)に示す電気刺激装置の別の例1bの変形例を示す。
電極3は、2つのチャネル(第一チャネル3C1及び第二チャネル3C2)からなり、第一チャネル3C1は、第一電極3C1−1及び第二電極3C1−2からなり、また、第二チャネル3C2は、第一電極3C2−1及び第二電極3C2−2からなる。
【0177】
この変形例は、耳に掛けるのに適したフック形状を有する鞘状部材3caを備える。鞘状部材3caには、導線4を通すことができる。鞘状部材3caにより、導線4の配置を整備することができる。そのため、生体表面付近に存在する導線4が、生体の一部や物に引っかかることによって、電極3の位置がずれたり、電極3が剥がれ落ちたりする可能性を低減することができ、これにより、口腔・咽喉頭刺激方法の位置決め工程における、電極3の位置決めの精度を高めることができる。
また、この変形例は、上記鞘状部材3caに固定された耳栓部材3eaを備える。耳栓部材3eaにより、上記鞘状部材3caを耳に確実に固定することが可能となり、口腔・咽喉頭刺激方法の位置決め工程における、電極3の位置決めの精度を高めることができる。
【実施例】
【0178】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0179】
(試験例1)
図1(a)に示す電気刺激装置の一例1aを用いて、1名の被験者の口腔・咽喉頭領域90に電気刺激を与える試験を行った。具体的には、第一チャネルの第一電極3C1−1及び第二電極3C1−2(各電極のサイズ:50mm×50mm)を、
図34(a)に示すX1〜X8、Y1〜Y8の中から選択される位置に位置決めし、被験者に対してパルス電流(周波数:2500Hz、ストレート)を発振した。そして、一対の銀電極を用いて、
図34(b)に示す、口腔内位置A〜I(A:上唇、B:軟口蓋、C:咽頭壁、D:舌中央、E:下唇部、F:左頬、G:口蓋峡、H:右頬、I:口蓋峡)における電位(mV)を測定した。試験例1の条件及び結果の詳細を表1に示す。
【0180】
【表1】
【0181】
表1に示す結果から、患者の口腔・咽喉頭機能に関わる領域である、咽頭壁(C)及び口蓋峡(G、I)に、強い電気刺激を与えることができる場合は、第一チャネルの第一電極3C1−1をX4に、第一チャネルの第二電極3C1−2をY4に位置決めした場合であることが示された。なお、口蓋峡(G、I)は喉頭領域に近接して位置するため、口蓋峡に対する電気刺激により、その周辺領域にある喉頭領域にも電気刺激が与えられているものと推察される。
【0182】
(試験例2)
図1(b)に示す電気刺激装置の別の例1bを用いて、3名の被験者の口腔・咽喉頭領域90に電気刺激を与える試験を行った。具体的には、第一チャネルの第一電極3C1−1及び第二電極3C1−2、並びに第二チャネルの第一電極3C2−1及び第二電極3C2−2(各電極のサイズ:50mm×50mm)を、
図34(a)に示すX1〜X8、Y1〜Y8の中から選択される位置に位置決めし、被験者に対してパルス電流(第一チャネル3C1の搬送波周波数:2500Hz、第二チャネル3C2の搬送波周波数:2700Hz、クロスの干渉波)を発振した。そして、(試験例1)と同様に、咽頭壁(C)及び口蓋峡(G、I)における電位(mV)を測定し、これらの電位(mV)を加算した後、該加算した値を3名分加算した。試験例2の条件及び結果の詳細を表2に示す。
【0183】
【表2】
*1:上位3番目以内の電位となった患者が3名中1名であった電極の位置決め
*2:上位3番目以内の電位となった患者が3名中2名であった電極の位置決め
*3:上位3番目以内の電位となった患者が3名中3名であった電極の位置決め
【0184】
表2に示す結果から、患者の口腔・咽喉頭機能に関わる領域である、咽頭壁(C)及び口蓋峡(G、I)に、強い電気刺激を与えることができる場合は、特に、(第一チャネル3C1;第一電極3C1−1の位置:Y6、第二電極3C1−2の位置:X4、第二チャネル3C2;第一電極3C2−1の位置:X6、第二電極3C2−2の位置:Y4)の場合、及び(第一チャネル3C1;第一電極3C1−1の位置:Y7、第二電極3C1−2の位置:X4、第二チャネル3C2;第一電極3C2−1の位置:X7、第二電極3C2−2の位置:Y4)の場合であることが示された。
【0185】
(試験例3)
図1(b)に示す電気刺激装置の別の例1bを用いて、3名の被験者の口腔・咽喉頭領域90に電気刺激を与える試験を行った。具体的には、第一チャネルの第一電極3C1−1及び第二電極3C1−2、並びに第二チャネルの第一電極3C2−1及び第二電極3C2−2(各電極のサイズ:50mm×50mm)を、
図34(a)に示すX1〜X8、Y1〜Y8の中から選択される位置に位置決めし、被験者に対してパルス電流(第一チャネル3C1の搬送波周波数:2500Hz、第二チャネル3C2の搬送波周波数:2700Hz、クロスの干渉波)を発振した。そして、(試験例1)と同様に、舌中央(D)における電位(mV)を測定し、これらの電位(mV)を3名分加算した。試験例3の条件及び結果の詳細を表3に示す。
【0186】
【表3】
*1:上位3番目以内の電位となった患者が3名中1名であった電極の位置決め
*2:上位3番目以内の電位となった患者が3名中2名であった電極の位置決め
*3:上位3番目以内の電位となった患者が3名中3名であった電極の位置決め
【0187】
表3に示す結果から、患者の口腔・咽喉頭機能に関わる領域である、舌中央(D)に、強い電気刺激を与えることができる場合は、特に、(第一チャネル3C1;第一電極3C1−1の位置:Y6、第二電極3C1−2の位置:X4、第二チャネル3C2;第一電極3C2−1の位置:X6、第二電極3C2−2の位置:Y4)の場合であることが示された。また、舌中央(D)に、比較的強い電気刺激を与えることができる場合は、特に、(第一チャネル3C1;第一電極3C1−1の位置:Y7、第二電極3C1−2の位置:X4、第二チャネル3C2;第一電極3C2−1の位置:X7、第二電極3C2−2の位置:Y4)の場合であることが示された。
【0188】
(試験例4)
図1(b)に示す電気刺激装置の別の例1bを用いて、3名の被験者の口腔・咽喉頭領域90に電気刺激を与える試験を行った。
具体的には、第一チャネルの第一電極3C1−1及び第二電極3C1−2、並びに第二チャネルの第一電極3C2−1及び第二電極3C2−2(各電極のサイズ:50mm×50mm)を、それぞれ下記の位置に位置決めした:(第一チャネル3C1;第一電極3C1−1の位置:Y7、第二電極3C1−2の位置:X4、第二チャネル3C2;第一電極3C2−1の位置:X7、第二電極3C2−2の位置:Y4)。
被験者に対して、表4に示すパルス電流を発振した。なお、試験例4A〜4Cでは、各パルス電流より形成される合成波が、パルス継続時間250μsecを有する1つの合成パルスからなっている。また、試験例4Dでは、パルス電流は、パルス継続時間250μsecの1つのパルスからなっており、各パルス電流に位相差がないので、各パルス電流を重ね合わせてもパルス継続時間は長くなっていない。
そして、(試験例1)と同様に、咽頭壁(C)における電位(mV)を測定して、口腔・咽喉頭領域に与えた電気刺激の電気強度を推定した。各パルス電流を被験者に3回与えて、被験者が、体内のいずれかの位置で、(i)電気刺激を感じ始めたとき、(ii)筋肉が収縮するのを感じ始めたとき、及び(iii)疼痛を感じ始めたときの、咽喉壁(C)での各電気強度(電位差)を測定した。各電気強度の数値を平均した結果を
図34(c)及び表4に示す。なお、(i)、(ii)、(iii)は、それぞれ、感覚閾値、運動閾値、疼痛閾値を超えて、各神経が発火したことを意味する。そして、各測定値が大きいほど、体内の神経が発火するまでに、咽頭壁(C)、すなわち口腔・咽頭領域付近に、より強い電流を与えることが可能であったことを指す。
【0189】
【表4】
【0190】
表4に示す結果から、試験例4Dでは、各パルス電流に位相差を設けていないので、パルス電流の電気強度を上げると、被験者の、電極直下の位置で電気刺激を感じたのに対して、試験例4A〜4Cの電気刺激装置では、各パルス生成部が出力するパルス電流による合成パルスのパルス継続時間が長くなるので、パルス電流の電気強度を上げると、被験者の、電極直下の位置でなく、体内の深部で電気刺激を感じた(すなわち、体内の深部の神経を発火(各閾値を超える)させることができた)。また、試験例4Dでは、電極直下の位置で、疼痛感じる神経も含めて神経が発火したためパルス電流を強くできなかったが、試験例4A〜4Cでは、被験者の、電極直下の位置でしていないので、体内の深部の神経を発火させるとともに、咽頭壁(C)により強い電気強度の干渉波を与えることができた。
また、試験例4A〜4Cでは、パルス電流のパルス継続時間が短いほど電流が深部に到達するので、試験例4Aで最も、咽頭壁(C)、すなわち口腔・咽喉頭領域付近に、より強い電流を与えることができた。