特許第6393462号(P6393462)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6393462
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】エレクトロスプレー装置
(51)【国際特許分類】
   B05B 5/025 20060101AFI20180910BHJP
   B05B 5/08 20060101ALI20180910BHJP
   B05B 13/04 20060101ALI20180910BHJP
   B05B 12/20 20180101ALI20180910BHJP
【FI】
   B05B5/025 A
   B05B5/08 F
   B05B5/08 E
   B05B13/04
   B05B12/20
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-187874(P2013-187874)
(22)【出願日】2013年9月11日
(65)【公開番号】特開2015-54269(P2015-54269A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2016年7月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】山本 清人
(72)【発明者】
【氏名】泉田 信也
【審査官】 市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−229851(JP,A)
【文献】 特開2005−125181(JP,A)
【文献】 特開2011−173085(JP,A)
【文献】 特開2010−259998(JP,A)
【文献】 特開2000−015147(JP,A)
【文献】 特開平04−111490(JP,A)
【文献】 特開平02−307290(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B5/00−5/16
B05B12/00−16/80
B05C5/00−5/04
B05D1/00−7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルから噴霧された溶液材料を、基板に薄膜として堆積するエレクトロスプレー装置であって、
溶液材料に電圧を印加した状態で噴霧する前記ノズルを備え、
前記ノズルは、前記基板の溶液材料が塗布される複数の塗布領域毎に対応するように複数設けられており、平面視において、前記複数のノズルが対応する塗布領域内で移動しながら溶液材料を噴霧することにより、前記対応する塗布領域毎に薄膜を形成するように構成されているとともに、平面視において、前記対応する塗布領域内において渦巻き状に移動するように構成されており、渦巻き状に移動する領域を取り囲む前記塗布領域の略全領域に略均一に溶液材料を塗布するように構成されている、エレクトロスプレー装置。
【請求項2】
前記ノズルと前記基板との間の前記基板の近傍に配置される絶縁物からなるマスクをさらに備え、
前記マスクには、前記基板の溶液材料が塗布される前記複数の塗布領域に対応するように複数の開口部が設けられており、
前記ノズルは、前記マスクの複数の開口部毎に対応するように複数設けられており、平面視において、前記複数のノズルが対応する開口部内で移動することにより、前記対応する塗布領域毎に薄膜を形成するように構成されている、請求項1に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項3】
前記複数のノズルは、平面視において、前記対応する塗布領域内において渦巻き状に移動した後、渦巻き状に移動した軌跡の間を移動するように折り返して渦巻き状に移動するように構成されている、請求項1または2に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項4】
前記ノズルは、平面視において、前記ノズルの隣接する移動軌跡の間隔が略等間隔になるように、前記塗布領域内で移動するように構成されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項5】
前記ノズルは、平面視において、前記対応する塗布領域内において外側から内側に移動するように構成されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載のエレクトロスプレー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エレクトロスプレー装置に関し、特に、溶液材料に電圧を印加した状態で噴霧するノズルを備えるエレクトロスプレー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶液材料に電圧を印加した状態で噴霧するノズルを備えるエレクトロスプレー装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、溶液材料に電圧を印加した状態(溶液材料が帯電した状態)で噴霧する導電体ノズルを備えるエレクトロスプレー装置が開示されている。このエレクトロスプレー装置では、導電体ノズルの先端には、互いに絶縁物で隔てられた複数のスリット状の開口が設けられている。そして、複数のスリット状の開口からそれぞれ溶液材料が噴霧される(複数の静電噴霧現象が発生する)ことにより、成膜対象基板の複数の成膜面(塗布領域)に溶液材料を薄膜として堆積することが可能なように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−135704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載のような従来のエレクトロスプレー装置を用いて、基板上の複数の塗布領域(たとえばマトリクス状に配置された複数の塗布領域)に薄膜を形成する場合、基板の一方端と他方端との間を導電体ノズルを往復移動させる(スキャンする)ことにより、複数の塗布領域に薄膜を形成することが考えられる。ここで、エレクトロスプレー装置では、溶液材料に所望の電圧が印加されるまでに比較的時間がかかる。このため、複数の塗布領域全体に薄膜を形成するための工程に要する時間(タクトタイム)を短くするためには、塗布領域毎に溶液材料に対する電圧の印加をオンオフさせずに、溶液材料に電圧が印加された状態のまま基板の一方端と他方端との間を複数の塗布領域に跨って導電体ノズルを往復移動させるように構成されると考えられる。
【0006】
しかしながら、上記のように、導電体ノズルを基板の一方端と他方端との間を複数の塗布領域に跨って往復移動させる構成では、基板の端部上において導電体ノズルを折り返す必要があるため、基板の端部近傍の塗布領域上の導電体ノズルの移動軌跡が、他の塗布領域上の導電体ノズルの移動軌跡に比べて、導電体ノズルを折り返す分長くなる。その結果、基板の端部近傍の塗布領域では、他の塗布領域に比べて溶液材料の塗布量が多くなるため、塗布領域に形成される薄膜の厚みにばらつき(塗布ムラ)が生じるという問題点がある。また、基板サイズが大きくなると、ノズルの往復移動に時間がかかるという問題点がある。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、塗布領域に形成される薄膜の厚みにばらつきが生じるのを抑制することが可能なエレクトロスプレー装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、この発明の一の局面によるエレクトロスプレー装置は、ノズルから噴霧された溶液材料を、基板に薄膜として堆積するエレクトロスプレー装置であって、溶液材料に電圧を印加した状態で噴霧するノズルを備え、ノズルは、基板の溶液材料が塗布される複数の塗布領域毎に対応するように複数設けられており、平面視において、複数のノズルが対応する塗布領域内で移動しながら溶液材料を噴霧することにより、対応する塗布領域毎に薄膜を形成するように構成されているとともに、平面視において、対応する塗布領域内において渦巻き状に移動するように構成されており、渦巻き状に移動する領域を取り囲む塗布領域の略全領域に略均一に溶液材料を塗布するように構成されている


【0009】
この一の局面によるエレクトロスプレー装置では、上記のように、平面視において、複数のノズルが対応する塗布領域内で移動しながら溶液材料を噴霧することにより、対応する塗布領域毎に薄膜を形成するように構成することによって、ノズルは、複数の塗布領域に跨って移動せずにノズルの移動軌跡が対応する塗布領域内で完結するので、塗布領域に対するノズルの移動軌跡を塗布領域毎に略同じにすることができる。その結果、塗布領域に形成される薄膜の厚みにばらつきが生じるのを抑制することができる。
【0010】
また、基板の一方端と他方端との間を複数の塗布領域に跨ってノズルを往復移動させる従来の構成において、基板の端部近傍の塗布領域に形成される薄膜の厚みと、他の塗布領域に形成される薄膜の厚みとを略等しくするために、基板の端部でノズルを折り返さずに基板の外でノズルを折り返すことが考えられる一方、この構成では、基板の外でも溶液材料が噴霧されるため、その分、溶液材料が無駄になる。これに対して、一の局面によるエレクトロスプレー装置では、上記のように、平面視において、複数のノズルが対応する塗布領域内で移動しながら溶液材料を噴霧することにより、対応する塗布領域毎に薄膜を形成するように構成することによって、ノズルの移動軌跡が対応する塗布領域内で完結するので、塗布領域の外で溶液材料が噴霧されることはない。これにより、溶液材料が無駄になるのを抑制することができる。すなわち、略100%の溶液材料が薄膜として堆積されるので、溶液材料の利用効率を高めることができる。また、基板の一方端と他方端との間を複数の塗布領域に跨ってノズルを往復移動させる従来の構成と異なり、ノズルの移動軌跡が対応する塗布領域内で完結するので、基板サイズが大きくなった場合でも、ノズルの往復移動に時間がかかることを抑制することができる。
【0011】
上記一の局面によるエレクトロスプレー装置において、好ましくは、ノズルと基板との間の基板の近傍に配置される絶縁物からなるマスクをさらに備え、マスクには、基板の溶液材料が塗布される複数の塗布領域に対応するように複数の開口部が設けられており、ノズルは、マスクの複数の開口部毎に対応するように複数設けられており、平面視において、複数のノズルが対応する開口部内で移動することにより、対応する塗布領域毎に薄膜を形成するように構成されている。このように構成すれば、ノズルが複数の塗布領域(隣接する開口部の間のマスクの部分)に跨って移動するのが抑制されるので、マスクの開口部以外の部分に起因する電気力線への悪影響を抑制することができる。その結果、溶液材料の噴霧が不安定になることが抑制されるので、塗布領域に形成される薄膜の厚みにばらつきが生じるのをより抑制することができる。
【0012】
上記一の局面によるエレクトロスプレー装置において、好ましくは、複数のノズルは、平面視において、対応する塗布領域内において渦巻き状に移動した後、渦巻き状に移動した軌跡の間を移動するように折り返して渦巻き状に移動するように構成されている
【0013】
上記一の局面によるエレクトロスプレー装置において、好ましくは、ノズルは、平面視においてノズルの隣接する移動軌跡の間隔が略等間隔になるように、塗布領域内で移動するように構成されている。このように構成すれば、隣接するノズルの移動軌跡の間隔に差がある場合と異なり、塗布領域における溶液材料の堆積量に偏りが生じるのを抑制することができるので、塗布領域に形成される薄膜の厚みにばらつきが生じるのをさらに抑制することができる。




【0014】
上記一の局面によるエレクトロスプレー装置において、好ましくは、ノズルは、対応する塗布領域内において外側から内側に移動するように構成されている。このように構成すれば、塗布領域の外周部において蒸発(固化)した溶液材料(薄膜)が形成されるので、塗布領域の内側の液状の溶液材料が均等に外周部に向かって移動される。その結果、塗布領域に形成される薄膜の厚みにばらつきが生じるのを効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、上記のように、塗布領域に形成される薄膜の厚みにばらつきが生じるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態によるエレクトロスプレー装置の全体図である。
図2】本発明の一実施形態によるエレクトロスプレー装置の断面図である。
図3】本発明の一実施形態によるエレクトロスプレー装置の塗布領域およびマスクを下方から見た図である。
図4図3に示す塗布領域を拡大した図である。
図5】本発明の一実施形態によるエレクトロスプレー装置のノズルの移動経路を説明するための図である。
図6】比較例によるエレクトロスプレー装置の溶液材料の噴霧状態を説明するための図である。
図7】本発明の一実施形態によるエレクトロスプレー装置の溶液材料の噴霧状態を説明するための図である。
図8】本発明の一実施形態の第1変形例によるエレクトロスプレー装置のノズルの移動経路を説明するための図である。
図9】本発明の一実施形態の第2変形例によるエレクトロスプレー装置の塗布領域を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1を参照して、本実施形態によるエレクトロスプレー装置100の構成について説明する。
【0019】
図1および図2に示すように、エレクトロスプレー装置100は、ノズル1と、吸着ステージ(アースプレート)2と、マスク3とを備えている。また、ノズル1が取り付けられるX−Yロボット(X−Yステージ)4が設けられている。なお、吸着ステージ(アースプレート)2は、たとえば金属板からなり、接地されている。
【0020】
X−Yロボット4は、固定部41と、X方向に沿って設けられるX軸ロボット42と、Y方向に沿って設けられるY軸ロボット43と、移動部44と、ロボットドライバ45とを備えている。そして、複数のノズル1が、移動部44に取り付けられている。
【0021】
ノズル1は、溶液材料に電圧を印加した状態で、溶液材料を下方(Z2方向)から上方(Z1方向)に向かって噴霧するように構成されている。そして、ノズル1から噴霧された溶液材料が、基板200に薄膜201として堆積されるように構成されている。ここで、本実施形態では、図2および図3に示すように、ノズル1は、基板200の溶液材料が塗布される複数の塗布領域202毎に対応するように複数設けられており、平面視において、複数のノズル1が対応する塗布領域202内で移動しながら溶液材料を噴霧することにより、対応する塗布領域202毎に薄膜201を形成するように構成されている。具体的には、塗布領域202は、基板200の下面(Z2方向側の面)にマトリクス状に複数(本実施形態では、4行4列、合計16個)、互いに所定の間隔を隔てて設けられている。そして、1つの塗布領域202に対して1つのノズル1が配置されている。すなわち、ノズル1は、マトリクス状の塗布領域202に対応するように、塗布領域202のピッチに合わせて、マトリクス状に複数(本実施形態では、4行4列、合計16個)設けられている。
【0022】
また、本実施形態では、マスク3は、絶縁物から構成されており、ノズル1と基板200との間の基板200の近傍に配置されている。また、マスク3には、基板200の溶液材料が塗布される複数の塗布領域202に対応するように複数の開口部3aが設けられている。具体的には、開口部3aは、マトリクス状に複数(本実施形態では、4行4列、合計16個)設けられている塗布領域202に対応するように、マトリクス状に複数(本実施形態では、4行4列、合計16個)設けられている。そして、ノズル1は、マスク3の複数(16個)の開口部3a毎に対応するように複数(16個)設けられており、平面視において、複数のノズル1が対応する開口部3a内で移動することにより、対応する塗布領域202毎に薄膜201を形成するように構成されている。すなわち、1つの開口部3aに対して1つのノズル1が配置されている。
【0023】
また、本実施形態では、複数のノズル1は、複数のノズル1が対応する塗布領域202内で同時に移動しながら溶液材料を噴霧することにより、対応する塗布領域202毎に同時に薄膜201を形成するように構成されている。すなわち、複数(16個)のノズル1は、X−Yロボット4の移動部44に取り付けられており、移動部44の移動に伴って、複数(16個)のノズル1が同時に移動するように構成されている。また、複数(16個)のノズル1の全てから、溶液材料が噴霧されており、対応する塗布領域202毎に同時に薄膜201が形成されるように構成されている。
【0024】
また、本実施形態では、図3および図4に示すように、ノズル1は、平面視において、隣接するノズル1の移動軌跡Aの間隔が略等間隔Lになるように、塗布領域202内で移動するように構成されている。また、ノズル1は、平面視において、対応する塗布領域202内において外側から内側に移動するように構成されている。具体的には、ノズル1は、図4および図5に示すように、平面視において、略矩形形状の塗布領域202の角部近傍のB1点から、Y2方向に沿って直線的にB2点まで移動する。そして、B2点からB3点にX2方向に沿って直線的に移動する。その後、B3点からB4点にY1方向に沿って直線的に移動する。さらに、B4点からB1点の近傍のB5点(B1点からX2方向側に間隔2L隔てた点)に直線的に移動する。その後、ノズル1が、B1点からB4点まで移動してきた移動軌跡A1(往路、図5の実線)の内側を間隔2L隔てた状態で、塗布領域202の中央部近傍まで移動する。すなわち、ノズル1は、移動軌跡A1(往路)においては、平面視において、左回りに渦巻き状に移動するように構成されている。このように、ノズル1を渦巻き状に移動させることにより、塗布領域202の全領域に略均一に溶液材料を噴霧することが可能になる。
【0025】
そして、図5に示すように、ノズル1は、塗布領域202の中央部近傍で折り返した後、隣接する移動軌跡A1(往路)の間を、移動軌跡A1から間隔L隔てた状態で、塗布領域202の中央部近傍から外側に向かって、平面視において、右回りに渦巻き状に移動(移動軌跡A2(復路)、図5の点線)するように構成されている。このように、ノズル1が移動することにより、ノズル1は、平面視において、隣接するノズル1の移動軌跡Aの間隔が略等間隔Lになるように、対応する塗布領域202内において移動するように構成されている。そして、ノズル1を往路と復路とにおいて渦巻き状に移動させることにより、往路において塗布領域202の全領域に溶液材料が噴霧されるので、復路において噴霧される溶液材料が往路において噴霧される溶液材料になじみ、レベリングされる。その結果、容易に、薄膜201の厚みを略均一にすることが可能になる。
【0026】
また、図5に示すように、ノズル1が塗布領域202上を移動している最中において、溶液材料の噴霧領域203(スプレー径、点線の円で囲まれた領域)の端部が互いにオーバラップするように、ノズル1が移動されるように構成されている。図5では、移動軌跡A1(往路)における噴霧領域203と、移動軌跡A2(復路)における噴霧領域203とがオーバラップするように構成されている。これにより、比較的溶液材料の噴霧量が少ない噴霧領域203の端部において薄膜201の厚みが小さくなるのが抑制される。なお、噴霧領域203のオーバラップする度合いは、形成される薄膜201の厚みが略均一になるように調整される。
【0027】
次に、図6および図7を参照して、比較例によるエレクトロスプレー装置300と比較しながら、ノズルから噴霧される溶液材料の噴霧状態について説明する。
【0028】
図6に示すように、比較例によるエレクトロスプレー装置300は、ノズル301と、吸着ステージ302と、マスク303とを備えている。そして、ノズル301は、隣接する開口部303aの間のマスク303の部分(桟)303bを跨って移動するように構成されている。このため、比較例によるエレクトロスプレー装置300では、ノズル301は、マスク303の桟303bを跨って移動する際に、ノズル301と基板200との間に発生する電気力線(図示せず)に悪影響(たとえば、電気力線が歪められる)が及ぼされる。具体的には、ノズル301に電圧が印加されていることにより、絶縁性(たとえば樹脂)のマスク303の少なくともノズル301側の表面には、分極により正電荷が帯電する。これにより、正電荷が帯電している溶液材料は、マスク303に帯電している正電荷により反発されて、マスク303を避けるようにマスク303の開口部303a側に引き寄せられる。すなわち、電気力線が歪められる。このため、テーラーコーン304が不安定になり、溶液材料の噴霧状態(円錐状に噴霧されるスプレー状の溶液材料)も不安定になる。その結果、基板200に形成された薄膜305の厚みが不均一になる。たとえば、薄膜305の端部が盛り上がった形状になる。なお、テーラーコーンとは、ノズル(溶液材料)に電圧を印加することにより、基板側に円錐状に盛り上がった溶液材料を意味する。
【0029】
一方、図7に示すように、本実施形態によるエレクトロスプレー装置100では、ノズル1が対応する塗布領域202内で移動しながら(すなわち、マスク3の桟3bを跨って移動せずに)溶液材料を噴霧する。これにより、電気力線(図示せず)に悪影響が及ぼされないので、テーラーコーン204の安定した状態が維持される。その結果、溶液材料の噴霧状態(円錐状に噴霧されるスプレー状の溶液材料)が略一定であるので、基板200に形成された薄膜201の厚みは、略均一になる。
【0030】
また、図5および図7に示すように、本実施形態によるエレクトロスプレー装置100では、塗布領域202の端部近傍をノズル1が移動する際、Z方向から見て、溶液材料の噴霧領域203の端部がマスク3にオーバラップするように、ノズル1が移動される。しかしながら、マスク3に蓄積された電荷により、マスク3に向かって噴霧された溶液材料は、塗布領域202の中央部側に反発される。これにより、マスク3に溶液材料が堆積されることが抑制される。
【0031】
次に、本実施形態の効果について説明する。
【0032】
本実施形態では、上記のように、平面視において、複数のノズル1が対応する塗布領域202内で移動しながら溶液材料を噴霧することにより、対応する塗布領域202毎に薄膜201を形成するように構成することによって、ノズル1は、複数の塗布領域202に跨って移動せずにノズル1の移動軌跡Aが対応する塗布領域202内で完結するので、塗布領域202に対するノズル1の移動軌跡Aを塗布領域202毎に略同じにすることができる。その結果、塗布領域202に形成される薄膜201の厚みにばらつきが生じるのを抑制することができる。
【0033】
また、基板200の一方端と他方端との間を複数の塗布領域202に跨ってノズル1を往復移動させる従来の構成において、基板200の端部近傍の塗布領域202に形成される薄膜201の厚みと、他の塗布領域202に形成される薄膜201の厚みとを略等しくするために、基板200の端部でノズル1を折り返さずに基板200の外でノズル1を折り返すことが考えられる一方、この構成では、基板200の外でも溶液材料が噴霧されるため、その分、溶液材料が無駄になる。これに対して、本実施形態のエレクトロスプレー装置100では、上記のように、平面視において、複数のノズル1が対応する塗布領域202内で移動しながら溶液材料を噴霧することにより、対応する塗布領域202毎に薄膜201を形成するように構成することによって、ノズル1の移動軌跡Aが対応する塗布領域202内で完結するので、塗布領域202の外で溶液材料が噴霧されることはない。これにより、溶液材料が無駄になるのを抑制することができる。すなわち、略100%の溶液材料が薄膜201として堆積されるので、溶液材料の利用効率を高めることができる。また、基板の一方端と他方端との間を複数の塗布領域に跨ってノズルを往復移動させる従来の構成と異なり、ノズル1の移動軌跡Aが対応する塗布領域202内で完結するので、基板200のサイズが大きくなった場合でも、ノズル1の往復移動に時間がかかることを抑制することができる。
【0034】
また、本実施形態では、上記のように、ノズル1と基板200との間の基板200の近傍に配置され、基板200の溶液材料が塗布される複数の塗布領域202に対応するように複数の開口部3aを有する絶縁物からなるマスク3を設けて、マスク3の複数の開口部3a毎に対応するようにノズル1を複数設ける。そして、平面視において、複数のノズル1が対応する開口部3a内で移動することにより、対応する塗布領域202毎に薄膜201を形成するように構成する。これにより、ノズル1が複数の塗布領域202(隣接する開口部3aの間のマスク3の部分(桟)3a)に跨って移動するのが抑制されるので、マスク3の開口部3a以外の部分に起因する電気力線への悪影響を抑制することができる。その結果、溶液材料の噴霧が不安定になることが抑制されるので、塗布領域202に形成される薄膜201の厚みにばらつきが生じるのをより抑制することができる。
【0035】
また、本実施形態では、上記のように、複数のノズル1を、複数のノズル1が対応する塗布領域202内で同時に移動しながら溶液材料を噴霧することにより、対応する塗布領域202毎に同時に薄膜201を形成するように構成する。これにより、複数のノズル1を個々に移動させる場合と異なり、1つの駆動源で複数のノズル1を移動させることができるので、エレクトロスプレー装置100の構成が複雑になるのを抑制することができる。
【0036】
また、本実施形態では、上記のように、ノズル1を、平面視において、隣接するノズル1の移動軌跡Aの間隔が略等間隔になるように、塗布領域202内で移動するように構成する。これにより、隣接するノズル1の移動軌跡Aの間隔に差がある場合と異なり、塗布領域202における溶液材料の堆積量に偏りが生じるのを抑制することができるので、塗布領域202に形成される薄膜201の厚みにばらつきが生じるのをさらに抑制することができる。
【0037】
また、本実施形態では、上記のように、ノズル1を、対応する塗布領域202内において外側から内側に移動するように構成する。これにより、塗布領域202の外周部において蒸発中の溶液材料(薄膜201)が形成されるので、塗布領域202内に蒸発中の溶媒の蒸気がただようため、液状の溶液材料がかたよらずに溶液材料の着弾部の周囲に均等に移動し、その結果、塗布領域202に形成される薄膜201の厚みにばらつきが生じるのを効果的に抑制することができる。
【0038】
なお、今回開示された実施形態および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態および実施例の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0039】
たとえば、上記実施形態では、ノズルと基板との間にマスクが配置されている例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、ノズルと基板との間にマスクを配置せずに、複数のノズルが対応する塗布領域内で移動するように構成してもよい。
【0040】
また、上記実施形態では、溶液材料が下方から上方に向かってノズルから噴霧される例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、溶液材料が上方から下方に向かってノズルから噴霧されるようにしてもよい。また、溶液材料が横方に向かってノズルから噴霧されるようにしてもよい。
【0041】
また、上記実施形態では、1つの塗布領域(マスクの開口部)に対して1つのノズルが設けられる例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、1つの塗布領域(マスクの開口部)に対して複数のノズルを設けてもよい。
【0042】
また、上記実施形態では、複数のノズルが対応する塗布領域内で同時に移動しながら溶液材料を噴霧することにより、対応する塗布領域毎に同時に薄膜を形成する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、複数のノズルが対応する塗布領域内で個別に移動しながら溶液材料を噴霧することにより、対応する塗布領域毎に個別に薄膜を形成してもよい。
【0043】
また、上記実施形態では、隣接するノズルの移動軌跡の間隔が略等間隔になる例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、隣接するノズルの移動軌跡の間隔は、略等間隔でなくてもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、ノズルが、平面視において、対応する塗布領域内において外側から内側に渦巻き状に移動(往路)した後、内側から外側に渦巻き状に移動(復路)する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、ノズルが渦巻き状以外の形状の移動経路を移動してもよい。また、図8に示す本実施形態の第1変形例のように、ノズルが、平面視において、対応する塗布領域内において外側から内側にのみ渦巻き状(移動軌跡C)に移動(往路のみ)するようにしてもよい。
【0045】
具体的には、ノズル1は、図8に示すように、平面視において、略矩形形状の塗布領域202の角部近傍のD1点から、Y1方向に沿って直線的にD2点まで移動する。そして、D2点からD3点にX2方向に沿って直線的に移動する。その後、D3点からD4点にY2方向に沿って直線的に移動する。さらに、D4点からD1点の近傍のD5点(D1点からX2方向側に間隔L隔てた点)に直線的に移動する。その後、ノズル1が、D1点からD4点まで移動してきた移動軌跡Cの内側を間隔L隔てた状態で、塗布領域202の中央部近傍まで移動するように構成されている。このように、本実施形態の第1変形例では、略矩形形状の塗布領域202の4辺に沿って、ノズル1が移動された後、塗布領域202の内側に向かってノズル1が移動される。
【0046】
また、上記実施形態では、塗布領域(マスクの開口部)が、基板上に4行4列のマトリクス状に設けられている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、塗布領域が基板上に複数設けられていればよい。たとえば、図9に示す本実施形態の第2変形例のように、塗布領域202(マスク3の開口部3a)を、基板200上に4行4列よりも多く(図9では、6行7列)マトリクス状に設けてもよい。このように、塗布領域202の数が増加した場合でも、塗布領域202の数の増加に応じてノズル1の数を増加させて(図9では、6行7列)同時に移動させれば、塗布領域202の数に係らず、略同一のタクトタイムで薄膜201を形成することが可能になる。
【符号の説明】
【0047】
1 ノズル
3 マスク
3a 開口部
100 エレクトロスプレー装置
200 基板
201 薄膜
202 塗布領域
A、C 移動軌跡
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9