(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、木材を乾燥する乾燥工程と、木材を減圧する減圧工程と、減圧状態で木材に不燃化処理剤を含浸させる減圧含浸工程と、加圧状態で木材に不燃化処理剤を含浸させる加圧含浸工程と、をそれぞれ複数回含む不燃木材の製造方法が開示されている。
【0003】
特許文献2には、木材に難燃薬剤を含浸し、その後、該木材表面にアルコキシ金属塩系塗料を塗布することを特徴とする不燃木材の製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献3には、難燃化薬剤・準不燃化薬剤・不燃化薬剤によって処理された難燃化木材・準不燃化木材・不燃化木材に関する技術が開示されている。
【0005】
特許文献4には、難燃薬剤を実質的に含まない木材で構成された表面層と、該表面層に隣接した内側の難燃薬剤を注入処理した難燃薬剤注入層と、を備えた耐火集成材に関する技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、難燃化木材、準不燃化木材、及び不燃化木材などの不燃化処理された木材は、処理されていない非不燃化木材と比較し、接着性や塗装の付着性が劣る。
【0008】
本発明は、上記事実を鑑み、不燃化処理された木材の接着性の向上又は塗装の付着性の向上が課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、不燃化処理された木材の表面に
前記木材と架橋する下地処理剤が塗布されていると共に前記下地処理剤が前記表面の仮導管で形成された凹部に充填されている、表面処理木材である。
【0010】
請求項1に記載の発明では、
不燃化処理された木材の表面に該木材と架橋する下地処理剤が塗布されていると共に下地処理剤が表面の仮導管で形成された凹部に充填されているので、木材の接着性が向上する又は塗装の付着性が向上する。
【0017】
請求
項2の発明は、不燃化処理された木材の表面
及び前記表面の仮導管で形成された凹部に充填された薬剤を液体で除去する除去工程と、前記除去工程の後に前記木材と架橋する下地処理剤を前記表面に塗布
し、前記凹部に前記下地処理剤を充填する塗布工程と、
を備える表面処理木材の製造方法である。
【0018】
請求
項2に記載の発明では、不燃化処理された木材の表面
及び該表面の仮導管で形成された凹部に充填された薬剤を液体で除去した表面に木材と架橋する下地処理剤を塗布
し、凹部に下地処理剤を充填することで、下地処理剤が架橋する表面積が増加する
。よって、薬剤を液体で除去していない表面に下地処理剤を塗布する場合と比較し、木材の接着性が向上する又は塗装の付着性が向上する。
【0019】
請求
項3の発明は、前記除去工程は、前記液体に前記木材を予め定められた時間浸漬する浸漬工程、前記液体を湿潤させた湿潤部材で前記木材の前記表面を拭く拭工程、前記液体を湿潤させた湿潤部材で前記木材の前記表面を予め定められた時間被覆する被覆工程、前記木材に予め定められた時間前記液体を掛流す掛流工程と、の一つ又は複数を組み合わせた工程である
、請求項2に記載の表面処理剤の製造方法である。
【0020】
請求
項3に記載の発明では、簡単な方法で、薬剤が液体で効果的に除去される。
【0021】
ここで、不燃性能に関して政令で定める技術的水準に適合する建築材料には、不燃材料、準不燃材料、難燃材料の3ランクがある。上記、「不燃化処理された木材」とは、これらの不燃材料、準不燃材料、及び難燃材料をいずれも含むものである。また、「不燃化処理」とは、木材に薬剤を含浸させる等して不燃性能を向上させる処理全般を指し、「不燃化処理された木材」には、不燃化木材、準不燃化木材、及び難燃化木材以外も含まれる。別の観点から説明すると、薬剤を用いて不燃性能が向上する処理が行われた木材であればよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、不燃化処理された木材の接着性が向上する又は塗装の付着性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<実施形態>
本発明の一実施形態にかかる表面処理木材について説明する。
【0025】
図1に示す本実施形態の第一表面処理木材50は、難燃化木材、準不燃化木材、及び不燃化木材などの不燃化処理された木材10の表面14の薬剤20(
図2を参照)が液体で除去され、下地処理剤(プライマー)60が塗布され接着面62Aとなる下地処理剤層62が形成されている。なお、図中の第二表面処理木材40については、後述する。
【0026】
[木材]
本実施形態の不燃化処理された木材10について説明する。
【0027】
不燃性能に関して政令で定める技術的水準に適合する建築材料には、不燃材料、準不燃材料、難燃材料の三つのランクがある。本実施形態の「不燃化処理された木材10」とは、これらの不燃材料、準不燃材料、及び難燃材料をいずれも含むものである。また、「不燃化処理」とは、木材に薬剤を含浸させる等して不燃性能を向上させる処理全般を指し、本実施形態の木材10には、不燃材料、準不燃材料、及び難燃材料以外の木材も含まれる。つまり、本実施形態の木材10には、これらよりも不燃性能が低い木材及びこれらよりも不燃性能が高い木材が含まれる。別の観点から説明すると、薬剤を用いて不燃性能が向上する処理が行われた木材であればよい。
【0028】
薬剤20を木材10に含浸(注入)させる方法は周知の含浸技術を用いることができる。例えば、浸漬法、噴射法、減圧・加圧式処理法、パッシブ減圧薬剤注入法等を用いることができる。
【0029】
薬剤20としては、周知の難燃化処理剤や不燃化処理剤を用いることができる。具体的には、硼酸、硼砂等の水溶性無機化合物、珪酸、燐酸を含む薬剤、リン系、窒素系、ホウ素、ハロゲン系の防火薬剤などを用いることができる。
【0030】
図2に示すように、不燃化処理された木材10は、仮導管16に薬剤20が充填された状態となる。また、表面14には仮導管16によって凹部17が形成されており、この凹部17に薬剤20が充填された状態となる。
【0031】
[除去処理]
つぎに、木材10の表面14の薬剤20を液体Mで除去する方法について説明する。
【0032】
本実施形態の液体Mは水(H
2O)である。なお、純水である必要はなく、水溶液であってもよい。例えば、酸性又はアルカリ性の水溶液であってもよいし、界面活性剤等を含む洗浄液であってもよい。更に、水以外の液体、例えば、有機溶剤であってもよい。また、液体Mは、薬剤20の種類に応じて適宜選択すればよい。
【0033】
なお、以降に説明する四つの浸漬処理、拭処理、被覆処理、及び掛流処理のいずれか一つを行ってもよいし、複数組み合わせて行ってもよい。また、これら四つの以外の除去処理方法で薬剤20を液体で除去してもよい。
【0034】
そして、木材10に対して除去処理を行うことで、
図3に示すように、木材10の表面14の薬剤20が除去された状態となる。
図3に示す状態の木材を第二表面処理木材40とする。
【0035】
(浸漬処理)
図4に示すように、水槽100の液体(水)Mの中に、木材10を予め定めた時間(例えば、1時間)浸漬して取り出す。
【0036】
(拭処理)
図5に示すように、液体(水)Mを湿潤させた布やスポンジなどの湿潤部材110で木材10の表面14を拭く。
【0037】
(被覆処理)
図6に示すように、液体(水)Mを湿潤させた布やスポンジなどの湿潤部材120で木材10の表面14を予め定めた時間(例えば、1時間)被覆して取り出す。
【0038】
(掛流処理)
図7に示すように、木材10の表面14に予め定めた時間(例えば、1時間)、液体(水)Mを掛流す。
【0039】
[塗布処理(下地処理)]
つぎに、
図3に示す状態を第二表面処理木材40の表面14に下地処理剤(プライマー)60(
図1参照)を塗布し、接着面62Aとなる下地処理剤層62を形成する塗布処理(下地処理)について説明する。
【0040】
本実施形態では、下地処理剤(プライマー)60は、シランカップリング剤を含有する液体であり、木材10の木質12(繊維(主成分セルロース))と化学的に反応して架橋する。
【0041】
なお、シランカップリング剤を含有する液体以外の下地処理剤(プライマー)60であってもよい。要は、木材10の木質12(繊維(主成分セルロース))と化学的に反応して架橋する物質が含まれていればよく、また、木材10の木質12の種類や薬剤20に応じて適宜選択すればよい。
【0042】
図8に示すように、除去処理された第二表面処理木材40の表面14に下地処理剤(プライマー)60を刷毛130で塗る。なお、下地処理剤(プライマー)60を塗布する方法は、刷毛130で塗る以外の方法であってもよい。例えば、第二表面処理木材40の表面14に下地処理剤60をスプレーで吹き付けてもよい。
【0043】
また、第二表面処理木材40の表面14に下地処理剤(プライマー)60を刷毛130で塗って接着面62Aとなる下地処理剤層62が形成された木材を第一表面処理木材50とする(
図1参照)。
【0044】
<作用及び効果>
つぎに、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0045】
図2に示すように、不燃化処理された木材10は、仮導管16で形成された凹部17に薬剤20が充填された状態であり、表面14には薬剤20が露出している。
【0046】
図3に示すように、この木材10の表面14の薬剤20を液体(水)Mで除去することで(
図4〜
図7を参照)、仮導管16で形成された凹部17に充填された薬剤20が除去される。
【0047】
図8に示すように、薬剤20が除去された第二表面処理木材40の表面14に、下地処理剤(プライマー)の下地処理剤60を塗布する。これにより
図1に示すように、表面14には、下地処理剤60で構成された下地処理剤層62が形成される。なお、下地処理剤60は、木質12(繊維(主成分セルロース))と化学的に反応して架橋する。
【0048】
また、第二表面処理木材40の表面14の凹部17から薬剤20が除去されているので、凹部17に下地処理剤60が充填され、下地処理剤60が架橋する面積が増える。
【0049】
そして、
図1に示す第一表面処理木材50の下地処理剤層62、つまり下地処理剤60は、木質12よりも接着剤70との化学的結合が強いので接着性が向上する。つまり、下地処理剤60を塗布することで、接着性が向上された接着面62Aが形成され、この結果、接着剤70の接着性が向上する。
【0050】
[その他の表面処理木材]
ここで、第一表面処理木材50は、薬剤20の除去処理と下地処理剤60の塗布処理(下地処理)との両方を行ったが、いずれか一方のみであってもよい。よって、つぎにこれらいずれか一方の処理のみを行った場合について説明する。
【0051】
図9に示す薬剤20の除去処理のみを行った第二表面処理木材40は、薬剤20が除去された表面14との接着剤70との接触面積が増えることにより化学結合が促進されると共に、凹部17に接着剤70が充填されることによる投錨効果によって、接着性が向上する。
【0052】
図10に示す塗布処理(下地処理)のみ行った第三表面処理木材45は、薬剤20が充填されている凹部17と凹部17との間の木質の表面14と化学的に反応して架橋すると考えられる。また、刷毛130(
図8参照)で薬剤20を塗る場合は、一部の凹部17から薬剤20が除去されることもあると考えられる。そして、薬剤20が除去された凹部17に下地処理剤60が充填されるので、下地処理剤60が架橋する面積が増える。
【0053】
よって、除去処理が行わないで塗布処理(下地処理)を行って形成された下地処理剤層62(下地処理剤60)を有する第三表面処理木材45は、
図1に示す第一表面処理木材50と同様に接着性が向上する。
【0054】
[接着性の向上効果の確認実験]
つぎに、「薬剤20の除去処理」及び「下地処理剤60の塗布処理(下地処理)」による接着性の向上効果の確認実験、及びその結果について説明する。
【0055】
(実験方法の概要)
集成材の日本農林規格より、ブロックせん断試験に準じた試験を実施した。
【0056】
ブロックせん断試験を行う試験体は、
A(○):除去処理無し、塗布処理無し
B(□):除去処理有り、塗布処理無し:第二表面処理木材40
C(●):除去処理無し、塗布処理有り:第三表面処理木材45
D(■):除去処理有り、塗布処理有り:第一表面処理木材50
とした。
また、A、B、C、Dは複数の試験体を作成して、それぞれ試験を実施した。
【0057】
除去処理は、
図5に示す液体(水)Mを湿潤させた布やスポンジなどの湿潤部材110で木材10の表面14を拭く拭処理で行った。
【0058】
図8に示す塗布処理(下地処理)では、貼り合わせる両方の試験体に下地処理剤60を刷毛130で塗った。
【0059】
接着処理は、接着する両方の試験体に接着剤70(
図1等を参照)を塗布して貼り合わせ、一定時間圧縮力を加える圧締処理を実施した。
【0060】
圧締終了後、20℃、60%RHの環境に24±2時間養生したのち、ブロックせん断試験を行った。
【0061】
(実験結果)
図11は、A、B、C、Dのそれぞれの試験体における最大せん断応力の平均値をプロットしたものである。この
図11から最大せん断応力の大きさは、A<B<C<Dの順番となった。つまり、接着力はA<B<C<Dの順番で大きくなる。
【0062】
すなわち、「薬剤20の除去処理」及び「下地処理剤60の塗布処理(下地処理)」による接着性の向上効果が確認された。また、「処理剤20の除去処理」及び「下地処理剤60の塗布処理(下地処理)」のいずれか一方のみでも接着性の向上効果が確認された。
【0063】
<適用例>
本発明が適用された第一表面処理木材50、第二表面処理木材40、第三表面処理木材45を接着接合して用いる適用例としては、第一表面処理木材50、第二表面処理木材40、第三表面処理木材45同士を接着接合又は他の木材と接着接合した耐火集成材や単板積層材(LVL)等の耐火木質部材が挙げられる。
【0064】
なお、使用する接着剤は、薬剤20、下地処理剤60、及び木材10の木質12の種類等に応じて適宜選択すればよい。例えば、レゾルシノール系樹脂接着剤やメラミン樹脂接着剤などの熱硬化型接着剤等を用いることができる。
【0065】
<その他>
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0066】
第一表面処理木材50、第二表面処理木材40、第三表面処理木材45は、接着接合して用いたが、これに限定されない。第一表面処理木材50、第二表面処理木材40、第三表面処理木材45に塗料を塗布する場合も、接着剤70と同様の理由で塗料の木材との接着性が向上する。よって、塗料が剥がれにくくなり、塗装の付着性・耐久性が向上する。なお、下地処理剤60は、塗布する塗料に応じて適宜選択すればよい。
【0067】
本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは言うまでもない