特許第6393601号(P6393601)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6393601犠牲陽極材を用いた断面修復を伴わない鉄筋コンクリート構造物の簡易補修方法および簡易修復構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6393601
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】犠牲陽極材を用いた断面修復を伴わない鉄筋コンクリート構造物の簡易補修方法および簡易修復構造
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20180910BHJP
   C23F 13/00 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
   E04G23/02 A
   C23F13/00 R
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-237581(P2014-237581)
(22)【出願日】2014年11月25日
(65)【公開番号】特開2016-98596(P2016-98596A)
(43)【公開日】2016年5月30日
【審査請求日】2017年9月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】514300638
【氏名又は名称】クリディエンス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】508099911
【氏名又は名称】西日本高速道路メンテナンス関西株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】514300649
【氏名又は名称】ベクター コロージョン テクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100080838
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 光康
(74)【代理人】
【識別番号】100194261
【弁理士】
【氏名又は名称】栢原 崇行
(72)【発明者】
【氏名】小野田 基
【審査官】 星野 聡志
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−505985(JP,A)
【文献】 特開2003−129671(JP,A)
【文献】 特表2011−503365(JP,A)
【文献】 特開2007−113040(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0118702(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
C23F 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート除去部に露出した鉄筋に犠牲陽極材を金属的に接続するとともに、イオン交換可能な導電性材料によりコンクリート除去部または既存コンクリート部に犠牲陽極材を設置固定する犠牲陽極材設置工程と、前記犠牲陽極材設置工程後に前記鉄筋及び犠牲陽極材が同一環境下となるように防水材で覆う防水工程とより構成されることを特徴とする犠牲陽極材を用いた断面修復を伴わない鉄筋コンクリート構造物の簡易補修方法。
【請求項2】
鉄筋コンクリート構造物の鉄筋の腐食による劣化部の表層コンクリートを除去し、コンクリート除去部を形成する表層コンクリート除去工程と、該コンクリート除去部に露出した鉄筋に犠牲陽極材を金属的に接続するとともに、イオン交換可能な導電性材料によりコンクリート除去部または既存コンクリート部に犠牲陽極材を設置固定する犠牲陽極材設置工程と、前記犠牲陽極材設置工程後に前記鉄筋及び犠牲陽極材が同一環境下となるように防水材で覆う防水工程とより構成されることを特徴とする犠牲陽極材を用いた断面修復を伴わない鉄筋コンクリート構造物の簡易補修方法。
【請求項3】
前記犠牲陽極材設置工程は、犠牲陽極材が鉄筋に直接接触しないように、鉄筋近傍のコンクリート除去部に犠牲陽極材をイオン交換可能な導電性材料により固定したものであることを特徴とする請求項1又は2記載の犠牲陽極材を用いた断面修復を伴わない鉄筋コンクリート構造物の簡易補修方法。
【請求項4】
鉄筋コンクリート構造物の鉄筋の腐食による劣化部の表層コンクリートを除去して形成した又は鉄筋コンクリート構造物の鉄筋の腐食により自然に表層コンクリートが剥落し形成されたコンクリート除去部と、該コンクリート除去部に露出した鉄筋と、該鉄筋に金属的に接続されるとともに、イオン交換可能な導電性材料によりコンクリート除去部または既存コンクリート部に設置固定された犠牲陽極材と、前記鉄筋及び犠牲陽極材が同一環境下となるように覆うことができる防水材とより構成されることを特徴とする犠牲陽極材を用いた断面修復を伴わない鉄筋コンクリート構造物の簡易補修構造。
【請求項5】
前記犠牲陽極材は、コンクリート除去部に露出した鉄筋に直接接触しないように、鉄筋近傍のコンクリート除去部にイオン交換可能な導電性材料により設置固定されていることを特徴とする請求項4記載の犠牲陽極材を用いた断面修復を伴わない鉄筋コンクリート構造物の簡易補修構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート構造物の鉄筋等の腐食により発生した劣化部に犠牲陽極材を使用し、断面修復することなく簡易的な修復で長期間コンクリート構造物の鉄筋腐食防止できる、犠牲陽極材を用いた断面修復を伴わない鉄筋コンクリート構造物の簡易補修方法および簡易修復構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート構造物、主に道路の外壁、橋梁、トンネル等の維持管理において、沿岸部の飛来塩分や凍結防止剤による塩害や中性化によるコンクリート内の鉄筋腐食が問題となっており、鉄筋腐食により膨張した鉄筋がコンクリートを破壊することにより発生する剥落は人身事故にもつながるおそれがあり、重大な問題となっている。
【0003】
このため、鉄筋腐食に起因するコンクリート構造物の補修工法が提案されているが、断面欠損が発生した劣化部に関しては、防錆材を塗布し放置するか、モルタルやコンクリートを使用した大規模な断面修復工事を行うことが通常である。なお、断面修復工法とは、コンクリート除去部を形成し、鉄筋腐食に対して処置をした後、コンクリート構造物の断面を当初の断面寸法に復旧する工法をいう。
【0004】
しかし、防錆材のみを用いた場合は耐久性が短く、鉄筋の腐食が進行してしまい、構造物の劣化が進み修繕費用も結果として増大してしまう。また、断面修復工事を行うには多くの時間と費用が必要となり、道路の通行止めなど社会への影響も大きい。
【0005】
なお、断面修復によりできる、既存コンクリートと補修部にある新設コンクリートやモルタルの境界部ではマクロセル腐食が発生するが、鉄筋コンクリート構造物およびその補修部の鉄筋を長期にわたり防食する工法として犠牲陽極工法がある。
【0006】
市販の製品には特殊モルタルで覆われたパック型の陽極本体と鉄筋結束用のワイヤーからなるものがあり、パック材に使用されているモルタルはコンクリートと親和性があり、陽極の活動を持続させる電解質を保持しており、補修部のコンクリート内へ埋設し、鉄筋と金属的に接続され、同時にコンクリートやモルタルで断面修復することで犠牲陽極材とコンクリート間でのイオン交換を可能とし鉄筋腐食を防ぐことができる修復方法としては特許文献1の断面修復構造が知られている。
【0007】
また、コンクリート表面に鉄よりもイオン化傾向の大きい金属を溶射したり、シート状またはパネル状の陽極材を設置し、コンクリート内部の鉄筋と金属的に接続することで鉄筋の腐食を防ぐ工法も提案されている。
【0008】
しかしながら、上記の補修工法では、モルタルやコンクリートでの断面修復を行う事が、犠牲陽極工法の必須条件であったり、金属溶射を行う為の大掛りな設備や均一な平面、ある程度の大面積に設置することが条件となり下地コンクリートの調整やアンカーボルトやリベットを使用した設置工程など、大規模な補修工事となり、メンテナンスの一環として劣化部の調査をし、鉄筋腐食による断面欠損を発見した場合でも、その場で簡易的に修繕することはできない。このため、不具合箇所の調査とその補修は別の管理者、もしくは別の組織にて行われることもあり、補修費用の増大や劣化部の拡大要因ともなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3099830号公報
【特許文献2】特開2008−291485号公報
【特許文献3】特開2009−150222号公報
【特許文献4】特表2002−536544号公報
【特許文献5】特開2011−38131
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は以上のような従来の欠点に鑑み、メンテナンス担当者や検査を行う者が、断面修復など大規模な補修を行わずに、簡単にその場で簡易的に鉄筋コンクリート構造物の延命を図ることができる犠牲陽極材を用いた断面修復を伴わない鉄筋コンクリート構造物の簡易補修方法および簡易修復構造を提供することを目的としている。
【0011】
本発明の前記ならびにそのほかの目的と新規な特徴は次の説明を添付図面と照らし合わせて読むと、より完全に明らかになるであろう。
ただし、図面はもっぱら解説のためのものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明はコンクリート除去部に露出した鉄筋に犠牲陽極材を金属的に接続するとともに、イオン交換可能な導電性材料によりコンクリート除去部または既存コンクリート部に犠牲陽極材を設置固定する犠牲陽極材設置工程と、前記犠牲陽極材設置工程後に前記鉄筋及び犠牲陽極材が同一環境下となるように防水材で覆う防水工程とで犠牲陽極材を用いた断面修復を伴わない鉄筋コンクリート構造物の簡易補修方法を構成している。
【0013】
また、本発明は鉄筋コンクリート構造物の鉄筋の腐食による劣化部の表層コンクリートを除去して形成した又は鉄筋コンクリート構造物の鉄筋の腐食により自然に表層コンクリートが剥落し形成されたコンクリート除去部と、該コンクリート除去部に露出した鉄筋と、該鉄筋に金属的に接続されるとともに、イオン交換可能な導電性材料によりコンクリート除去部または既存コンクリート部に設置固定された犠牲陽極材と、前記鉄筋及び犠牲陽極材が同一環境下となるように覆うことができる防水材とで犠牲陽極材を用いた断面修復を伴わない鉄筋コンクリート構造物の簡易補修構造を構成している。
【発明の効果】
【0014】
以上の説明から明らかなように、本発明にあっては次に列挙する効果が得られる。
(1)請求項1の発明においては、コンクリート除去部をモルタル等で修復する必要がないので、断面修復のみを行う又は犠牲陽極材を埋設して断面修復を行う他の工法のように、断面修復を行う為の多くの工程や道路を通行止めにする等の必要がないので、多くの期間と費用を要せず、簡易的かつ十分な鉄筋腐食抑制効果を得ることができる。
(2)メンテナンスや調査を行う担当者がその活動の範囲内で補修を行うことができる為、コンクリート構造物の性能維持を容易に行うことができる。
(3)大規模な補修を行わずに、簡単にその場で簡易的に鉄筋コンクリート構造物を、重機や特殊な施工機器の使用や多くの材料輸送が必要なく、使用材料そのものの大幅な削減、廃棄物の削減等、環境に配慮した補修ができ、道路を通行止めにする等の労力やコストをかけることなく、コンクリート構造物の性能維持を容易に行うことができる。
(4)請求項2の発明においても前記(1)〜(3)と同様な効果が得られるとともに、コンクリートの浮きなど将来懸念される部位を事前に除去したり、コンクリート除去部を工事しやすいように形成することができる。
(5)請求項3の発明においても前記(1)〜(4)と同様な効果が得られるとともに、腐食した鉄筋と犠牲陽極材が直接接触しないので、腐食した鉄筋の一部に偏った防食電流が流れることを防止することができる。
したがって、鉄筋全体を広範囲に効率よく防食することができる。
(6)請求項4の発明においても前記(1)〜(4)と同様な効果が得られる。
(7)請求項5の発明においても前記(1)〜(5)と同様な効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明を実施するための第1の形態の工程図。
図2】本発明を実施するための第1の形態の表層コンクリート除去工程の説明図。
図3】本発明を実施するための第1の形態の犠牲陽極材設置工程の説明図。
図4図3の4−4線断面図。
図5】本発明を実施するための第1の形態の犠牲陽極材の概要説明図。
図6】本発明を実施するための第1の形態の簡易防水工程の説明図。
図7】本発明を実施するための第1の形態の簡易修復構造を示す説明図。
図8】本発明を実施するための第2の形態の工程図。
図9】本発明を実施するための第2の形態の犠牲陽極材設置工程の説明図。
図10図9の10−10線断面図。
図11】本発明を実施するための第2の形態の簡易修復構造を示す説明図。
図12】本発明を実施するための第3の形態の工程図。
図13】本発明を実施するための第3の形態の表層コンクリートの説明図。
図14】発明を実施するための第3の形態の簡易修復構造を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に示す本発明を実施するための形態により、本発明を詳細に説明する。
【0017】
図1ないし図7に示す本発明を実施するための第1の形態において、1はメンテナンス担当者や検査を行う者が、断面修復など大規模な補修を行わずに、簡単にその場で簡易的に鉄筋コンクリート構造物2の延命を図ることができる犠牲陽極材を用いた断面修復を伴わない鉄筋コンクリート構造物の簡易補修方法で、この犠牲陽極材を用いた断面修復を伴わない鉄筋コンクリート構造物の簡易補修方法1は鉄筋コンクリート構造物2の鉄筋3の腐食によりコンクリートに生じたひび割れ、浮き、剥離等の劣化部4の表層コンクリート5を除去し、コンクリート除去部6を形成する表層コンクリート除去工程7と、該コンクリート除去部6に露出した鉄筋3に特殊モルタルで覆われたパック型犠牲陽極材8を鉄線又は導電線9により金属的に接続するとともに、イオン交換可能な導電性材料10によりコンクリート除去部6に犠牲陽極材8を設置固定する犠牲陽極材設置工程11と、前記鉄筋3および犠牲陽極材8が同一環境となるように前記犠牲陽極材設置工程11後に前記コンクリート除去部6を防水材12で覆う防水工程13とで構成されている。
【0018】
また、前記犠牲陽極材を用いた断面修復を伴わない鉄筋コンクリート構造物の簡易補修方法1を用いて、鉄筋コンクリート構造物2の鉄筋3の腐食によりコンクリートに生じたひび割れ、浮き、剥離等の劣化部4の表層コンクリート5を除去して形成したコンクリート除去部6と、該コンクリート除去部6に露出した鉄筋3と、該鉄筋3に鉄線又は導電線9により金属的に接続されるとともに、イオン交換可能な導電性材料10によりコンクリート除去部6に設置固定されたパック型犠牲陽極材8と、前記コンクリート除去部6を覆う防水材12とで前記犠牲陽極材を用いた断面修復を伴わない鉄筋コンクリート構造物の簡易補修構造14を構成している。
【0019】
前記表層コンクリート除去工程7は、鉄筋コンクリート構造物2の鉄筋3の腐食によりコンクリートに生じた劣化部4の表層コンクリート5をハンマー等の手持ちの工具で除去して、腐食した鉄筋3を露出させ、コンクリート除去部6を形成する工程である。
なお、鉄筋劣化部分の表層コンクリートに浮きや剥離等、事前に取り除くべき要因がある場合は、表層コンクリート除去工程を行い、コンクリート除去部を形成するが、本発明の必須工程ではなく、鉄筋劣化部の表層コンクリートが自然に剥落したことで鉄筋の一部が露出していたり、表層コンクリート除去工程のみがすでに行われていれば、その露出部分をコンクリート除去部とし、表層コンクリート除去工程を行わなくてもよい。
【0020】
前記犠牲陽極材設置工程11は、鉄筋3にパック型犠牲陽極材8を鉄線又は導電線9により金属的に接続し、イオン交換可能な導電性材料10によりコンクリート除去部6に犠牲陽極材8を設置固定することにより、イオン交換可能な導電性材料10およびコンクリートを介して犠牲陽極材8から鉄筋3へ防食電流を流せるようにするための工程である。
【0021】
本実施の形態のパック型犠牲陽極材8は、図5で示すように、陽極コア15と、該陽極コア15に埋設又は接続された鉄線又は導電線9と、陽極コア15を覆う電解質、酸化安定材16(アクティベーター)を含む特殊モルタルで構成されている。この特殊モルタルは陽極コア15に使用される金属が腐食した際の膨張を吸収する効果も有する。
【0022】
前記陽極コア15は、亜鉛、亜鉛合金等が好ましいが、アルミニウム、アルミニウム合金、カドミウム、カドミウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金等の通常条件下で鉄筋よりもイオン化傾向の大きい金属材料を用いることができる。
【0023】
また、前記酸化安定材16は、陽極コア15が不動態化することを防止するために用いられるもので、陽極コアが亜鉛の場合にはpH13.3以上、好ましくはpH13.5〜14超の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等が用いられる。なお、塩化ナトリウムのような塩化物や臭化物などハロゲン化合物を用いてもよい。
【0024】
イオン交換が可能なイオン交換可能な導電性材料10は、パック型犠牲陽極材8とコンクリート除去部6のコンクリート表面6aとの接着を容易に行うことができるように、ゲル状の導電性シート、導電性ゲルの使用が好ましいが、エポキシ樹脂等を併用して固定することも可能である。
【0025】
犠牲陽極材8と鉄筋3の金属的接続を行う際は鉄筋3に鉄線又は導電線9を直接結束する。通常は鉄製の鉄線又は導電線9を鉄筋3に巻きつけるが、ハンダ付け、溶接、その他クリップなどを使用した機械的接続も可能である。
【0026】
犠牲陽極材8の設置個所は鉄筋上よりも鉄筋付近のコンクリート表面6aが好ましい。これは、犠牲陽極材8にて発生した防食電流が近接した鉄筋3のみに直接流れることを防ぐためである。
【0027】
前記防水工程13は、犠牲陽極材8とコンクリート除去部6のコンクリート表面6aとのイオン交換可能な導電性材料10と鉄筋3と設置された犠牲陽極材8を含む補修部分を防水材12で覆うことで、鉄筋3および犠牲陽極材8とが同一環境下、すなわち外気の影響を受けることなく、導電性材料を介しコンクリートとイオンの交換が可能となる環境に置かれることとなり、犠牲陽極材8から鉄筋3へ防食電流が安定して流れ、補修部および犠牲陽極材8の防錆範囲にある鉄筋およびマクロセル腐食を抑制することができる。
【0028】
前記防水工程13で用いられる防水材12は、アクリル、ポリウレタン、エポキシ、ポリウレア樹脂など防水性を有する材料であれば使用可能だが、メンテナンス時に併せて簡易的に補修を行う目的上、硬化の速い材料が好まれる。鉄筋3および犠牲陽極材8を同一環境下に保持できるものであれば、刷毛、ローラー、スプレー等で液状の防水材12を塗布し、硬化させて皮膜状にコンクリート除去部5を覆うものであればよく、弾性を持つものであればなおよい。
【0029】
また、防水材12に透明性があれば補修部を目視検査することもでき、維持管理をさらに容易にすることができる。なお、使用される防水材には設計寿命に応じて耐候性を考慮することが好適である。
【0030】
[発明を実施するための異なる形態]
次に、図8ないし図13に示す本発明を実施するための異なる形態につき説明する。なお、これらの本発明を実施するための異なる形態の説明に当って、前記本発明を実施するための第1の形態と同一構成部分には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0031】
図8ないし図11に示す本発明を実施するための第2の形態において、前記本発明を実施するための第1の形態と主に異なる点は、パック型犠牲陽極材8を腐食した鉄筋3にイオン交換可能な導電性材料10を介して直接固定する犠牲陽極材設置工程11Aにした点で、このような犠牲陽極材を用いた断面修復を伴わない鉄筋コンクリートの簡易補修方法1Aおよび犠牲陽極材を用いた断面修復を伴わない鉄筋コンクリートの簡易修復構造14Aとしても前記本発明を実施するための第1の形態と同様な作用効果が得られる。なお、このように犠牲陽極材8を設置した場合、犠牲陽極材8自体がイオン交換可能な導電性材料10を介して鉄筋3に接触するので、ある程度限定された範囲に犠牲陽極の効果を集中することができる。
【0032】
図12及び図13に示す本発明を実施するための第3の形態において、前記本発明を実施するための第1の形態と主に異なる点は、鉄筋コンクリート構造物の鉄筋の腐食により自然に表層コンクリートが剥がれ落ちた部分をコンクリート除去部6Aとし、表層コンクリート除去工程を行わない点で、このような犠牲陽極材を用いた断面修復を伴わない鉄筋コンクリートの簡易補修方法1Bおよび犠牲陽極材を用いた断面修復を伴わない鉄筋コンクリートの簡易修復構造14Bとしても前記本発明を実施するための第1の形態と同様な作用効果が得られる。
【0033】
なお、本発明の実施の形態においてはゲル状の導電性シート、導電性ゲル、エポキシ樹脂等の現場で容易に使用可能なイオン交換可能な導電性材料を想定しており、現場で混練等の作業が必要となるモルタルは原則として除かれるが、少量に小分けされ水の添加のみで簡単に混練できるプレミックスモルタルや、コーキングガンに充填されたモルタルのような一定期間持ち運び可能で、かつ、現場で容易に使用可能なモルタルやセメント系材料であれば、本発明の導電性材料として使用してもよい。また、前記モルタルやセメント系材料が十分な防水性を有する場合は、防水材としても使用可能である。
【0034】
但し、使用するセメント系材料の電気抵抗値やポリマーの種類によってはイオン交換を妨げる場合があるので注意が必要である。一般的には電気抵抗値15000Ω・cm以下のセメント系材料を使用し、ポリマーが使用されている場合は事前に適合試験を行うこととなる。なお、電気抵抗値が15000Ω・cm以上の場合であっても使用できる場合もあるが、防錆範囲が小さくなる影響がある。
【0035】
また、本願発明の実施の形態においては、コンクリート除去部6にパック型の犠牲陽極材8を設置固定し、鉄筋3及び犠牲陽極材8が同一環境下となるように防水材12でコンクリート除去部6をまとめて覆う形態について説明したが、パック型の犠牲陽極材ではなくても犠牲陽極の効果を得られる金属を用いれば同様の防錆効果が期待でき、また、鉄筋3及び犠牲陽極材8が同一環境となれば、コンクリート除去部6全体を防水材12で覆わなくてもよい。
【0036】
さらに、犠牲陽極材8をコンクリート除去部6ではなく表層コンクリート5に設置固定し、コンクリート除去部6および犠牲陽極材8を設置固定した表層コンクリート5まで防水材12で覆うことにより、犠牲陽極材8と鉄筋3が同一環境下となるので、このような構成にしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は鉄筋コンクリート構造物の点検・補修等をする産業で利用される。
【符号の説明】
【0038】
1、1A、1B:犠牲陽極材を用いた断面修復を伴わない鉄筋コンクリート構造物の簡易補修方法、
2:鉄筋コンクリート構造物、 3:鉄筋、
4:劣化部、 5:表層コンクリート、
6、6A:コンクリート除去部、 7:表層コンクリート除去工程、
8:犠牲陽極材、 9:導電線、
10:導電性材料、 11、11A:犠牲陽極材設置工程、
12:防水材、 13:防水工程、
14、14A、14B:犠牲陽極材を用いた断面修復を伴わない鉄筋コンクリート構造物の簡易補修構造、
15:陽極コア、 16:酸化安定材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14