特許第6393615号(P6393615)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6393615安定化された輝度を有するランタンセリウムテルビウムリン酸塩系燐光体、その調製方法および発光デバイスにおいての使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6393615
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】安定化された輝度を有するランタンセリウムテルビウムリン酸塩系燐光体、その調製方法および発光デバイスにおいての使用
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/81 20060101AFI20180910BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20180910BHJP
   H01L 33/26 20100101ALI20180910BHJP
【FI】
   C09K11/81CPW
   C09K11/08 B
   H01L33/26
【請求項の数】16
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-527586(P2014-527586)
(86)(22)【出願日】2012年8月21日
(65)【公表番号】特表2014-529659(P2014-529659A)
(43)【公表日】2014年11月13日
(86)【国際出願番号】EP2012066259
(87)【国際公開番号】WO2013030044
(87)【国際公開日】20130307
【審査請求日】2015年7月21日
【審判番号】不服2017-7823(P2017-7823/J1)
【審判請求日】2017年5月31日
(31)【優先権主張番号】11/02643
(32)【優先日】2011年8月31日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】508079739
【氏名又は名称】ローディア オペレーションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ビュイセット, ヴァレリー
(72)【発明者】
【氏名】ル−メルシエ, ティエリー
【合議体】
【審判長】 川端 修
【審判官】 阪▲崎▼ 裕美
【審判官】 日比野 隆治
(56)【参考文献】
【文献】 特開平6−56412(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
30ppm以下のリチウム含有量および30ppm以下のホウ素含有量を有するランタンセリウムテルビウムリン酸塩系燐光体において、前記リン酸塩が、4μm以下の平均の大きさを有する粒子からなることと、25℃において前記燐光体上で測定された輝度(B25と200℃において同じ燐光体上で測定された輝度(B200に基づく輝度の変化([B25−B200]/B25)が0.04以下の輝度の変化を有することとを特徴とする、ランタンセリウムテルビウムリン酸塩系燐光体であって、輝度の値は、400nm〜780nmの間の発光強度を積分することによって得られ、
25およびB200は、燐光体によって放出される光子の数と励起ビームを形成する光子の数との比に対応し、この変換収率は、電磁スペクトルの可視領域において、280nm未満の波長で紫外線または真空紫外線範囲の励起下における燐光体の発光を測定し、400nm〜780nmの間の発光強度を積分することによって評価される、燐光体
【請求項2】
上記輝度の変化が0.03以下であることを特徴とする、請求項に記載の燐光体。
【請求項3】
上記輝度の変化が0.02以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の燐光体。
【請求項4】
前記燐光体が、3.5μm以下の平均の大きさを有する粒子からなることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の燐光体。
【請求項5】
前記燐光体が、2.5μm〜4μmの平均の大きさを有する粒子からなることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の燐光体。
【請求項6】
前記燐光体が0.7以下の分散指数を有する粒子からなることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の燐光体。
【請求項7】
前記ランタンセリウムテルビウムリン酸塩が式(LaCeTb)PO(式中、x、yおよびzが以下の式:
x+y+z=1
0.2≦y≦0.45
0.1≦z≦0.2
を満たす)に従うことを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の燐光体。
【請求項8】
a)元素ランタン、セリウムおよびテルビウムの可溶塩を含む第1の溶液をリン酸イオンを含み2未満の初期pHを有する第2の溶液中に連続的に且つ撹拌しながら導入し、それによって沈殿物を形成し、そして前記第1の溶液を前記第2の溶液に導入する間、沈殿媒体のpHを2未満の一定の値に維持する工程と、
b)得られた沈殿物を回収する工程と、
c)前記沈殿物を1000℃以下の温度においてか焼する工程と、
d)この沈殿物を還元雰囲気下、0.2%以下の質量による量の四硼酸リチウム(Li)の存在下で、1050℃〜1150℃の温度においておよび2時間〜4時間の時間にわたって熱処理する工程と
を含むことを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の燐光体を調製するための方法。
【請求項9】
前記沈殿媒体の前記pHが1〜2の値に一定に保たれることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記沈殿媒体の前記pHが、塩基性化合物を添加することによって維持されることを特徴とする、請求項またはに記載の方法。
【請求項11】
第2の溶液のリン酸イオンが、リン酸溶液の形態であることを特徴とする、請求項10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
四硼酸リチウムの量が0.1%〜0.2%であることを特徴とする、請求項11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程d)から得られた生成物が、少なくとも30℃の温度の水中に再分散されて懸濁液を生じ、次に懸濁液中に保持され、最後に前記懸濁液の液体媒体から分離されることを特徴とする、請求項12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
紫外線励起デバイス、三色ランプ、水銀蒸気ランプ、液晶装置を背面照明するためのランプ、プラズマスクリーン、キセノン励起ランプ、発光ダイオード励起デバイスおよび紫外線励起マーキング装置においての請求項1〜のいずれか一項に記載の燐光体の使用。
【請求項15】
緑色発光源として請求項1〜のいずれか一項に記載の燐光体を含む発光デバイス。
【請求項16】
紫外線励起デバイス、三色ランプ、水銀蒸気ランプ、液晶装置を背面照明するためのランプ、プラズマスクリーン、キセノン励起ランプ、発光ダイオード励起デバイスおよび紫外線励起マーキング装置であることを特徴とする、請求項15に記載の発光デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定化された輝度を有するランタンセリウムテルビウムリン酸塩系燐光体、それを調製するための方法、および発光デバイスにおいてのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ランタン、セリウムおよびテルビウムの混合リン酸塩は、それらのルミネセンス特性のために公知である。それらは、可視範囲内にある波長より短い波長を有する特定の高エネルギー放射線(照明装置またはディスプレイ装置のための紫外線(UV)または真空紫外線(VUV)放射線)によって照射されると明るい緑色光を発光する。この特性を利用する燐光体は、一般に工業規模で、例えば三色蛍光ランプ、液晶ディスプレイのための背面照明装置またはプラズマ装置において使用されている。
【0003】
さらに、その性質、特にこれらの生成物の使用特性が強化される燐光体を得ることが継続的に試みられている。したがって、発光デバイスを製造する間、使用される燐光体が高温に暴露され、それらのルミネセンス性質、特にそれらの輝度の低下をもたらす場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、その輝度が、か焼後および発光デバイス内でのそれらの操作中でも安定したままである燐光体が必要とされている。
【0005】
この要件を満たす燐光体を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的において、本発明の燐光体はランタンセリウムテルビウムリン酸塩をベースとしており、リン酸塩が4μm以下の平均の大きさを有する粒子からなることと、それが30ppm以下のリチウム含有量および30ppm以下のホウ素含有量を有することと、25℃において燐光体上で測定された輝度と200℃において同じ燐光体上で測定された輝度との間に4%以下の輝度の変化を有することとを特徴としている。
【0007】
また、本発明は、この種の燐光体を調製するための方法に関し、前記方法は、以下の工程:
a)元素ランタン、セリウムおよびテルビウムの可溶塩を含む第1の溶液をリン酸塩イオンを含み2未満の初期pHを有する第2の溶液中に連続的に且つ撹拌しながら導入し、それによって沈殿物を形成し、そして第1の溶液を第2の溶液に導入する間、沈殿媒体のpHを2未満の一定の値に維持する工程と、
b)得られた沈殿物を回収する工程と、
c)沈殿物を1000℃以下の温度においてか焼する工程と、
d)工程c)から得られた沈殿物を還元雰囲気下、0.2%以下の質量による量の四硼酸リチウム(Li)の存在下で、1050℃〜1150℃の温度においておよび2時間〜4時間の時間にわたって熱処理する工程とを含むことを特徴としている。
【0008】
本発明のその他の特徴、詳細および利点は、以下の記載およびその説明のための様々な特定の、非限定的な実施例を読めばより十分に明らかになるであろう。
【0009】
また、説明の他の部分については、他に特に指示しない限り、与えられる値の範囲または限度の全てにおいて、範囲の値が含まれ、したがってこのように規定された値の範囲または限度は、少なくとも下限と同等もしくはこれより大きいおよび/または多くても上限と同等もしくはこれより小さい一切の値にわたっていることが明記される。
【0010】
上述のように、燐光体は、式LnPO(式中、Lnは元素ランタン、セリウム、およびテルビウムを表わす)の、オルトリン酸塩タイプのランタンセリウムテルビウムリン酸塩をベースとしている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のより詳しい実施形態によると、燐光体は、本質的に−他の残留リン酸塩種が存在し得るので−そして好ましくは、完全にまたは単に前述のリン酸塩だけからなる。
【0012】
本発明の燐光体のリン酸塩は、モナザイト結晶構造を示す。この結晶構造はX線回折(XRD)の技術によって実証され得る。好ましい一変形形態によると、本発明の燐光体は高純度相であり、それはXRD図が単一のモナザイト相だけを示すことを意味する。しかしながら、本発明の燐光体はまた、高純度相でなくてもよく、その場合、生成物のXRD図は、ごく微量の残留相の存在を示す。
【0013】
より詳しくは、ランタンセリウムテルビウムリン酸塩は、式(LaCeTb)PO(1)(式中、x、yおよびzが以下の式:
x+y+z=1
0.2≦y≦0.45
0.1≦z≦0.2を満たす)に従うことができる。
【0014】
より詳しくは、yは関係式0.2≦y≦0.35を満たすことができ、zは関係式0.13≦z≦0.16を満たすことができる。
【0015】
本発明の燐光体の別の特徴によると、ランタンセリウムテルビウムリン酸塩は、4μm以下、より詳しくは3.5μm以下、およびより詳しくはさらに3.2μm以下の平均の大きさまたは平均直径を有する粒子からなる。この平均直径は特に2.5μm〜4μm、およびより詳しくは2.5μm〜3.5μmであってもよい。
【0016】
この平均直径は、粒子の母集団においての直径の体積平均である。
【0017】
本明細書で問題となっている粒子は、「一次粒子」と称される、凝結した形態の、他のいっそう微細な粒子の凝結体であってもよい。説明の他の部分において、用語「粒子」は、他に特に指示しない限り、これらの一次粒子に適用されるのではなく、4μm以下の平均直径を有する上述の粒子に適用される。
【0018】
ここでおよび説明の他の部分について示される粒度の値は、1分30秒間にわたって超音波(130W)を使用して水中に分散された粒子の試料上でレーザー粒度分析の技術によって、例えば、Malvernレーザー粒度分析器を使用して測定される。
【0019】
さらに、粒子は好ましくは、典型的に0.7以下、より詳しくは0.6以下、およびより詳しくはさらに0.5以下の低い分散指数を有する。
【0020】
粒子の母集団の「分散指数」は、本説明の意味において、以下に規定される比I:
I=(D84−D16)/(2×D50
を意味すると理解され、
上式中、D84が、粒子の84%がD84より小さい直径を有する粒径であり、
16が、粒子の16%がD16より小さい直径を有する粒径であり、
50が、粒子の50%がD50より小さい直径を有する、粒子の平均直径である。
【0021】
また、本発明の燐光体は、そのリチウムおよびホウ素含有量によって特性決定される。
【0022】
このリチウム含有量は30ppm以下、特に20ppm以下である。それはより詳しくは15ppm以下であってもよい。
【0023】
さらに、本発明の燐光体は、30ppm以下、より詳しくは20ppm以下、およびより詳しくはさらに15ppmのホウ素含有量を有する。
【0024】
ここでおよび説明の全体について、リチウムおよびホウ素含有量がICP(誘導結合プラズマ)−AES(原子発光分光法)またはICP−OES(発光分光法)技術によっておよび生成物の完全な攻撃後に測定されることが指摘される。
【0025】
本発明の燐光体の別の特に注目すべき特徴はその輝度である。この輝度は安定している。これは、輝度が温度によって著しく変化しないことを意味する。より具体的には、25℃において燐光体について測定された輝度(B25)と200℃において測定されたこの燐光体の輝度(B200)との間の変化が4%以下である([B25−B200]/B25≦0.04)。輝度のこの変化はより詳しくは3%以下、およびより詳しくはさらに2%以下であり得る。
【0026】
燐光体の輝度は燐光体の変換収量によって定量化されてもよく、燐光体によって放出される光子の数と励起ビームを形成する光子の数との間の比に相当する。燐光体の変換収量は、一般に280nm未満の波長の紫外線または真空紫外線範囲の励起下で燐光体の発光を電磁スペクトルの可視範囲において測定することによって評価される。輝度の値は、400nm〜780nmの間の発光強度を積分することによって得られる。
【0027】
本発明の特定の実施形態によると、燐光体はランタンセリウムテルビウムリン酸塩をベースとしており、ナトリウムまたはカリウムの特定の含有量およびモナザイト結晶構造を有する。
【0028】
より具体的には、上述の特定の実施形態の第1の変形形態によると、本発明の燐光体は上記のようにリン酸塩系であり、カリウムを350ppm以下の量で含む。この量は、リン酸塩の全質量に対するカリウム元素の質量によって表わされる。
【0029】
カリウムの最小量は、カリウム含有量を測定するために使用される分析技術によって検出可能な最小値に相当し得る。しかしながら、一般的に言えば、この最小量は少なくとも10ppm、より詳しくは少なくとも40ppm、およびより詳しくはさらに少なくとも50ppmである。カリウムのこの量はより詳しくは、100ppm以上〜350ppm以下の値、あるいは200ppm超〜350ppmの値であってもよい。
【0030】
特定の一変形形態によると、燐光体は、アルカリ金属元素としてカリウム、および任意選択によりリチウム以外の元素を含有しない。
【0031】
上述の特定の実施形態の第2の変形形態によると、本発明の燐光体は上記のようにリン酸塩をベースとしており、ナトリウムを350ppm以下、より詳しくは250ppm以下、およびより詳しくはさらに100ppm以下の量で含む。また、この量は、リン酸塩の全質量に対するナトリウム元素の質量によって表わされる。
【0032】
また、ナトリウムの最小量は、ナトリウム含有量を測定するために使用される分析技術によって検出可能な最小値に相当し得る。しかしながら、一般的に言えば、この量は少なくとも10ppmおよびより詳しくは少なくとも50ppmである。
【0033】
特定の一変形形態によると、燐光体は、アルカリ金属元素としてナトリウム、および任意選択によりリチウム以外の元素を含有しない。
【0034】
同様にここでおよび説明の全体について、カリウムまたはナトリウムの量は2つの技術に従って測定されることが明記される。第1の技術は、X線蛍光技術であり、少なくともおよそ100ppmであるカリウムまたはナトリウムの量を測定することを可能にする。この技術は、より詳細にはカリウムまたはナトリウムの量が最高である燐光体に使用される。第2の技術は、ICP(誘導結合プラズマ)−AES(原子発光分光法)またはICP−OES(発光分光法)技術である。この技術は、より詳細にはここではカリウムまたはナトリウムの量が最低であり、特におよそ100ppm未満の量の燐光体に使用される。
【0035】
本発明の燐光体を調製するための方法をここで説明する。
【0036】
本発明によると、第1の工程(a)において、ランタンセリウムテルビウムリン酸塩を直接におよび制御されたpHにおいて沈殿させるために、元素ランタン、セリウム、およびテルビウム、Ln元素の塩を含む第1の溶液(これらの塩はそのとき、所望の組成の生成物を得るために必要とされる比率で存在している)を、リン酸塩イオンを含む第2の溶液と反応させる。
【0037】
方法の第1の重要な特徴によると、反応体を導入する特定の順序を遵守することが必要であり、さらにより具体的には、Ln元素の塩の溶液が、リン酸塩イオンを含む溶液中に徐々に且つ連続的に導入されなければならない。
【0038】
本発明による方法の第2の重要な特徴によると、リン酸塩イオンを含む溶液の初期pHは、2未満および好ましくは1〜2の間でなければならない。
【0039】
第3の特徴によると、沈殿媒体のpHは次に、2未満および好ましくは1〜2の間のpH値に維持しなければならない。
【0040】
「制御されたpH」とは、リン酸塩イオンを含有する溶液に、前記溶液中へのLn元素の塩を含む溶液の導入と同時に塩基性化合物を添加することによって沈殿媒体のpHを特定の一定またはほぼ一定の値に保持することを意味する。したがって、媒体のpHは、設定されたセットポイント値のあたりで0.5pH単位以下、より好ましくはこの値あたりで0.1pH単位以下で変動する。設定されたセットポイント値は、有利には、リン酸塩イオンを含む溶液の初期pH(2未満)に相当する。
【0041】
沈殿は、好ましくは、重要ではないが、有利には室温(15℃〜25℃)から100℃の間の温度で、水性媒体中で実施される。この沈殿は、反応混合物を攪拌しながら行われる。
【0042】
第1溶液中のLn元素の塩の濃度は、広範囲で変動してよい。したがって、これらの元素の塩の濃度は、0.01mol/L〜3mol/Lの間であってよい。
【0043】
本発明に適しているLn元素の塩は、特に、例えば、硝酸塩、塩化物、酢酸塩、カルボン酸塩、またはこれらの混合物などの水性媒体に可溶性である塩である。
【0044】
Ln元素の塩の溶液と反応させることが意図されたリン酸塩イオンは、純粋もしくは溶解化合物、例えばリン酸、アルカリ金属リン酸塩または、Ln元素と結合したアニオンとともに可溶性化合物を生じさせる他の金属元素のリン酸塩によって提供されてもよい。
【0045】
リン酸塩イオンは、2つの溶液間のPO/Lnのモル比が1より大きい、有利には1.1〜3の間であるような量で存在する。
【0046】
上の説明において強調したように、リン酸塩イオンを含む溶液は、最初に(即ち、Ln元素の塩の溶液の導入の開始前に)2未満および好ましくは1〜2の間のpHを有していなければならない。このため、使用される溶液が自然にこのようなpHを有していない場合は、そのpHは塩基性化合物の添加または酸(例えば、非常に高いpHを有する初期溶液の場合には塩酸)の添加のいずれかによって所望の適切な値にされる。
【0047】
その後、Ln元素の塩を含む溶液を導入する間、沈殿媒体のpHは、徐々に低下する。したがって、本発明による方法の特徴の1つによると、沈殿媒体のpHを一定の所望の作業値に保持するために(前記pHは必ず2未満および好ましくは1〜2の間である)、塩基性化合物が前記媒体中へ同時に導入される。
【0048】
本発明に適した塩基性化合物には、例として、金属水酸化物(NaOH、KOH、Ca(OH)等)もしくは水酸化アンモニウム、または任意の他の塩基性化合物であって、その成分種が、反応混合物に添加される間に、その混合物中に通常は存在する成分種のうちの1つと組み合わさることによって沈殿物を全く形成せず、沈殿媒体のpHの維持を可能にする任意の他の塩基性化合物がある。
【0049】
本発明の好ましい一実施形態によって、この塩基性化合物は有利には、反応混合物の液相と沈殿物の洗浄によるかまたはリン酸塩をか焼する間に熱分解することによって容易に除去可能である化合物である。
【0050】
したがって、本発明の好ましい塩基性化合物はアンモニアであり、それは有利には水溶液の形態で使用される。
【0051】
沈殿の終了時に、予め得られた反応混合物を沈殿が起こる温度範囲と同じ温度範囲内にある温度に或る時間にわたって、例えば15分〜1時間であってもよい時間保持することによって老化を実施することが任意選択により可能である。
【0052】
次の工程(b)において、沈殿物は、本質的に公知の任意の手段によって、より詳しくは簡単な濾過によって回収されてもよい。本発明による方法の条件下で、確かに、非ゼラチン質の濾過可能なリン酸塩を含む化合物が沈殿される。
【0053】
その後、回収された生成物を例えば水で洗浄し、次に乾燥させる。
【0054】
以下の工程(c)において、生成物に第1の熱処理または第1のか焼を処置する。
【0055】
か焼温度は一般に1000℃以下、より詳しくは約900℃以下であり、それは少なくとも650℃である。
【0056】
温度が高くなればなるほど、一般に、か焼時間が短くなる。一例として、この時間は1〜3時間の間であってもよく、上に示された温度における保持時間として理解されるべきである。
【0057】
この第1のか焼は、一般に空気中で行なわれる。
【0058】
この第1の熱処理の終了時に、本発明の燐光体の前駆体として考えられる生成物が得られるが、幾分、この前駆体は商業的な観点から十分な発光性質を有しない。
【0059】
本発明の燐光体を得るために、この前駆体は第2の熱処理を受けることが必要とされる。
【0060】
この第2の熱処理は、一般的には還元雰囲気(例えばH、N/HまたはAr/H)中で行なわれる。
【0061】
本発明の本質的な特徴によると、それはフラックス、または融剤の存在下で行なわれ、それは四硼酸リチウム(Li)である。融剤+前駆体の組合せに対して四硼酸塩0.2質量%以下である四硼酸塩の量で融剤を前駆体と混合して処理する。この量はより詳しくは0.1%〜0.2%であってもよい。
【0062】
処理の温度は1050℃〜1150℃の間である。処理の時間は2〜4時間であり、この時間は、上に示された温度における保持時間であると理解される。
【0063】
処理の後、粒子を有利には洗浄して、可能な限り高純度であり解凝集された状態または低い凝集状態である燐光体を生じさせる。後者の場合、燐光体は、例えば、ボールミルを使用して、それを緩い条件下で解凝集処理を処置して解凝集してもよい。
【0064】
しかしながら、本発明の方法の有利な一変形形態によると、第2の熱処理から得られた生成物を温水中に再分散させてもよい。
【0065】
この再分散は、撹拌しながら、固体生成物を水中に導入することによって行なわれる。得られた懸濁液は、約1〜6時間、より詳しくは約1〜3時間であってもよい時間撹拌しながら保持される。
【0066】
水の温度は大気圧下で少なくとも30℃、より詳しくは少なくとも60℃であってもよく、それは約30℃〜90℃の間、好ましくは60℃〜90℃の間であってもよい。次に、懸濁液中の固体生成物は、任意の公知の手段によって液体媒体から分離される。その後、それを洗浄し、および/または乾燥させてもよい。必要ならば、最後に生成物は上に記載されたように解凝集されてもよい。
【0067】
本発明の方法による第2の熱処理が前駆体の粒子と燐光体の粒子の大きさの間のわずかな変化をもたらすことが指摘されてもよい。この変化は一般に20%以下、より詳しくは10%以下である。従って、その平均粒度を初期前駆体の粒子の平均粒度に戻すために燐光体をミル粉砕する必要はない。
【0068】
燐光体を調製するための方法においてミル粉砕を実施しないか、または簡単な解凝集を実施することによって表面の欠陥をほとんどまたは全く示さない生成物を生じ、それによってこれらの生成物のルミネセンス性質の強化を助ける。生成物のSEM顕微鏡写真は、確かに、それらの表面が実質的に平滑であることを示す。より詳しくは、この効果は、前記生成物が水銀蒸気ランプにおいて使用される時に生成物と水銀との相互作用を制限する効果であり、したがって、それらの使用において利点となっている。
【0069】
上に言及された特定の実施形態による燐光体、すなわち、モナザイト構造を有するリン酸塩をベースとし且つナトリウムまたはカリウムを含む燐光体を調製するための方法をここで説明する。
【0070】
これらの方法は、上に説明されたより一般的な方法に本質的に似ている。したがって、この一般生成物のために上に示された説明は、以下に記載される相違にも関わらず、ここでも同様に該当する。
【0071】
したがって、カリウムを含むリン酸塩をベースとした燐光体の調製のために、塩化物が上述の工程(a)のためのLn元素の塩として使用される。さらに、リン酸塩イオンを含む第2の溶液の初期pHを2未満の値にするかまたは沈殿の間にpHを維持するかどちらかのために使用される塩基性化合物は、少なくとも部分的に、水酸化カリウムである。「少なくとも部分的に」とは、少なくとも1つが水酸化カリウムである塩基性化合物の混合物を使用できることを意味する。他の塩基性化合物は、例えば、アンモニア水であってもよい。好ましい一実施形態によると、水酸化カリウムだけの塩基性化合物が使用され、別のさらにより好ましい実施形態によると、水酸化カリウムを単独で、前述の2つの操作のために、換言すれば第2の溶液のpHを適した値にすることおよび沈殿物のpHを維持することの両方のために使用する。これらの後者の2つの好ましい実施形態において、アンモニア水などの塩基性化合物によって導入されることがある窒素含有生成物の廃棄が低減されるかまたは無くなる。
【0072】
上に説明された一般的な方法に対してこの特定の方法の別の相違は、第1のか焼から得られた生成物が後で温水中に再分散されるという事実にある。
【0073】
この再分散は、撹拌しながら固体生成物を水中に導入することによって行なわれる。得られた懸濁液は、約1〜6時間の間、より詳しくは約1〜3時間の間であってもよい時間撹拌しながら保持される。
【0074】
水の温度は、少なくとも30℃、より詳しくは少なくとも60℃であってもよく、それは、大気圧下で約30℃〜90℃の間、好ましくは60℃〜90℃の間であってもよい。この操作を加圧下で、例えばオートクレーブ内で、次いで100℃〜200℃の間、より詳しくは100℃〜150℃の間であってもよい温度において実施することができる。
【0075】
最後の工程において、固体は、本質的に公知の任意の手段によって、例えば簡単な濾過によって液体媒体から分離される。再分散工程を一回または複数回、上に説明された条件下で、任意選択により第1の再分散が実施された温度とは異なった温度において繰り返すことが任意選択により可能である。
【0076】
ナトリウムを含むリン酸塩をベースとした燐光体の調製のために、使用される方法は、ここでもまた、上に説明された一般的な方法に似ているが、Ln元素の塩として塩化物を工程(a)において使用することが第1の相違である。さらに、リン酸塩イオンを含む第2の溶液の初期pHを2未満の値にするかまたは沈殿の間にpHを維持するかどちらかのために使用される塩基性化合物は、少なくとも部分的に、水酸化ナトリウムである。「少なくとも部分的に」とは、少なくとも1つが水酸化ナトリウムである塩基性化合物の混合物を使用できることを意味する。他の塩基性化合物は、例えば、アンモニア水であってもよい。好ましい一実施形態によると、水酸化ナトリウムだけの塩基性化合物が使用され、別のさらにより好ましい実施形態によると、単独の水酸化ナトリウムが、前述の2つの操作のために、換言すれば第2の溶液のpHを適した値にするためにおよび沈殿物のpHを維持するために使用される。これらの後者の2つの好ましい実施形態において、アンモニア水などの塩基性化合物によって導入されることがある窒素含有生成物の廃棄が低減されるかまたは無くなる。
【0077】
最後に、カリウムを含む燐光体の調製の場合のように、第1のか焼から得られた生成物がその後に温水中に再分散される。この再分散についての上記の説明は同様にここでも該当する。
【0078】
また、本発明は、ランタンセリウムテルビウムリン酸塩系燐光体に関し、このリン酸塩は、4μm以下の平均の大きさを有し30ppm以下のリチウム含有量および30ppm以下のホウ素含有量を有する粒子からなり、この燐光体は、上に説明された調製方法によって得られる。
【0079】
この燐光体は、上の説明に示された技術的特徴の全て、特に結晶学的特徴、組成の特徴(特に、上式(1)を参照)、粒度の特徴、および分散指数の特徴を示す。また、それは上述の輝度の安定性を示し、すなわち、0.4以下の輝度の変化([B25−B200]/B25)を示す。さらに、調製方法について記載されたことは全て、この燐光体の定義に関してここでも同様に該当する。
【0080】
本発明の燐光体は、生成物の様々な吸光領域に相当する電磁励起に対して緑色において強度のルミネセンス特性を示す。
【0081】
したがって、本発明の燐光体は、紫外線(200〜280nm)範囲内、例えば約254nmにある励起源を特徴とする照明装置またはディスプレイ装置において使用されてもよい。より詳しくは、これは、三色ランプ、特に水銀蒸気ランプ、および管状形またはフラット形の液晶装置の背面照明(LCD背面照明)のためのランプを含める。
【0082】
また、本発明の燐光体は、真空紫外線(または「プラズマ」)励起装置、例えばプラズマスクリーンおよび水銀を含有しない三色ランプ、特にキセノン励起ランプ(管状形またはフラット形)のための緑色燐光体としての優れた候補である。
【0083】
本発明の燐光体は、発光ダイオードによる励起を特徴とする装置における緑色燐光体として使用されてもよい。それらは、特に近紫外線において励起され得る装置において使用されてもよい。
【0084】
また、それらは、紫外線励起マーキング装置において使用されてもよい。
【0085】
本発明の燐光体は、ランプおよびスクリーン装置において、公知の技術を使用して、例えばスクリーン印刷、電気泳動、または沈降によって使用されてもよい。
【0086】
また、それらは、有機母材(例えば、紫外線下などで透明であるプラスチック母材またはポリマー)、無機母材(例えば、シリカ)または有機−無機混成母材中に分散されてもよい。
【0087】
別の態様によると、本発明はまた、本発明の燐光体を緑色発光光源として含む上述したタイプの発光デバイスに関する。
【0088】
これらのデバイスは、紫外線励起デバイス、特に三色ランプ、より詳しくは水銀蒸気ランプ、液晶装置を背面照明するためのランプ、プラズマスクリーン、キセノン励起ランプ、発光ダイオード励起デバイスおよび紫外線励起マーキング装置であってよい。
【0089】
実施例をここで示す。
【実施例】
【0090】
実施例1
この実施例は、本発明による燐光体の前駆体の調製に関する。
【0091】
1リットルのビーカー内に、希土類硝酸塩の溶液(溶液A)を以下のように調製する:3.0MのLa(NO溶液171.5g、2.88MのCe(NO溶液179.8g、2.57MのTb(NO溶液54.5g、および107.7mLの脱イオン水を混合し、組成物(La0.44Ce0.43Tb0.13)(NOに相当する、合計0.7モルの希土類硝酸塩を生じる。
【0092】
1リットルのビーカー内に、436mlの脱イオン水を29.4gの85%Normapur HPOと混合し、次いで28%アンモニア水NHOHと混合してpH1.7にした溶液を導入する(溶液B)。溶液を60℃に加熱する。先に調製された溶液Aをゆっくりと且つ撹拌しながら、温度(60℃)において混合物に添加し、pHを1.7に調節する。得られた混合物を60℃において15分間老化させる。老化の終了時に、溶液は乳状白色の外観を呈する。それを放置して30℃に冷却する。それをフリット上で濾過し、2リットルの水で洗浄し、その後、それを乾燥させ、900℃の空気中で2時間にわたってか焼する。
【0093】
これは、モナザイト相希土類リン酸塩、(La,Ce,Tb)POを生じる。粒子は、3.0μmのD50、0.5の分散指数を有する。
【0094】
実施例2
この実施例は、本発明による燐光体の調製に関する。
【0095】
実施例1において得られた前駆体を1100℃において4時間にわたって還元雰囲気(Ar/H)下で、(La,Ce,Tb)PO前駆体の量に対して0.1重量%の硼酸リチウム、Liの存在下でか焼する。次に、得られた生成物を60℃の温水中で再分散させ、Buechnerフィルターで濾過し、次に1Lの水で洗浄する。
【0096】
その後、それを60℃の炉内で一晩乾燥させる。その後、それを30分のボールミル処理によって解凝集し、次に選別する。
【0097】
粒子は3.2μmのD50を有し、0.6の分散指数を有する。
【0098】
ルミネセンス効率は基準として100%に設定される。
【0099】
注目されたホウ素含有量は19ppmであり、測定されたリチウム含有量は12ppmである。
【0100】
比較例3
この比較例は、本発明による燐光体を調製するために使用された融剤とは異なった融剤を使用する燐光体の調製に関する。
【0101】
実施例1において得られた前駆体を1000℃において3時間にわたって還元雰囲気(Ar/H)下で(La,Ce,Tb)PO前駆体の量に対して1重量%のフッ化リチウム、LiFの存在下でか焼する。得られた生成物の砕解を促進するために、その後、それを5%の硝酸溶液中に再分散させ、Buechnerフィルターで濾過した後、5Lの水で洗浄する。その後、それを60℃の炉内で一晩乾燥させる。その後、それを1時間のボールミル処理によって解凝集し、次に選別する。
【0102】
粒子は4.5μmのD50を有し、0.5の分散指数を有する。
【0103】
25℃において測定されたルミネセンス効率は、実施例2の生成物に対して99%である。
【0104】
比較例4
この比較例は、本発明による燐光体を調製するために使用された融剤とは異なった融剤を使用する燐光体の調製に関する。
【0105】
実施例1において得られた前駆体を1000℃において3時間にわたって還元雰囲気(Ar/H)下で(La,Ce,Tb)PO前駆体の量に対して52.3重量%の硼酸および0.85%のLiCOの存在下でか焼する。得られた生成物の砕解を促進するために、その後、それを5%の硝酸溶液中に再分散させ、Buechnerフィルターで濾過した後、3Lの水で洗浄し、次いで5%の水酸化カリウム溶液中に再分散させ、濾過して3Lの水で洗浄した。
【0106】
その後、それを60℃の炉内で一晩乾燥させ、次に選別する。
【0107】
粒子は7.3μmのD50を有し、1.2の分散指数を有する。
【0108】
25℃において測定されたルミネセンス効率は、実施例2の生成物に対して98%である。
【0109】
ホウ素含有量は530ppm、リチウム含有量は44ppmである。
【0110】
輝度の変化を以下の表に示す。
【0111】
【表1】
【0112】
200℃においての輝度は、ホットプレート上で200℃に保たれる燐光体上で測定される(温度が段階的に20℃上昇され、一段階に対して15分である)。