【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成する本発明の第1の態様である複合加工プレス型は、プレス機械のスライドに対して着脱自在に固定される上型、プレス機械のボルスターに対して着脱自在に固定される下型で構成され、被プレス材に対して1回のプレスストロークで、絞り加工と、せん断加工と、曲げ加工及び/又は穴抜加工とをこの順に行って所定形状の製品にするものである。
【0010】
上型は、パッドと、打ち抜き刃と、プレス刃と、上ブランクホルダと、第1のスライダカムと、第1のドライバカムと、第2のスライダカムと、第2のドライバカムと、第1の付勢手段と、第2の付勢手段と、第3の付勢手段とを備えたものである。
【0011】
パッドは、当該上型に、プレスストローク方向で往復動可能な状態で配置されると共に、下型方向に移動する距離が制限されるように組み込まれ、絞り加工のためにパンチが一体化されたものである。
打ち抜き刃は、パッドの外周を覆うように当該上型に固定され、せん断加工のために、被プレス材に製品の輪郭線を打ち抜く形状で形成されたものである。
プレス刃は、パッド内をプレスストローク方向で往復動可能な状態で当該上型に固定され、曲げ加工及び/又は穴抜加工のために、その加工数に応じて設けられたものである。
上ブランクホルダは、プレスストローク方向で往復動可能な状態で配置されると共に、下型方向に移動する距離が制限されるように組み込まれ、打ち抜き刃の外周を覆うように設けられたものである。
第1のスライダカムは、パッドの上方及び上ブランクホルダの上方に配置され、下側に傾斜した傾斜カム面が形成され且つ水平方向で往復動可能な状態で上型に組み込まれたものである。
第1のドライバカムは、パッドの上部に設けられ、第1のスライダカムの傾斜カム面に面接触する傾斜した傾斜カム面が形成されたものである。
第2のスライダカムは、第1のスライダカムの傾斜カム面が形成された内側面とは逆側となる外側面に設けられ、突出形状で傾斜した傾斜カム面を有する凸部が形成されたものである。
第2のドライバカムは、プレスストローク方向で往復動可能な状態で配置されると共に、下型方向に移動する距離が制限されるように組み込まれ、第2のスライダカムの凸部が有する傾斜カム面に面接触するように切欠形状で傾斜した傾斜カム面を有する凹部が形成されたものである。
【0012】
第1の付勢手段は、パッドを下型方向に付勢するものである。第2の付勢手段は、上ブランクホルダを下型方向に付勢するものである。第3の付勢手段は、第2のドライバカムを下型方向に付勢するものである。
【0013】
下型は、ポンチと、下ブランクホルダと、第4の付勢手段とを備えたものである。
ポンチは、パッドに対向配置され、上型の下降時におけるプレスストローク量に応じてパンチと協働して被プレス材に絞り加工を施すダイが一体化されたものである。なお、本明細書において、「協働」とは他の部分と協同して動くことを意味する。
下ブランクホルダは、プレスストローク方向で往復動可能な状態で配置されると共に被プレス材が所定位置に載置され、上型の下降時におけるプレスストローク量に応じて上ブランクホルダと協働して被プレス材の周縁部を加圧拘束するものである。
第4の付勢手段は、下ブランクホルダを、上型方向に付勢すると共に、当該下ブランクホルダが上ブランクホルダと協働して被プレス材の周縁部を加圧拘束した後に、パンチ及びダイが協働して絞り加工を開始する位置に静止させるものである。
【0014】
このような第1の態様である複合加工プレス型によれば、上型が上死点に位置している場合には、パッドのパンチの下端と上ブランクホルダの下端とが水平方向で実質的に一致し、打ち抜き刃及びプレス刃の先端がパッドのパンチ以外の下端及び上ブランクホルダの下端より上方に位置し、第2のドライバカムの下端と、この第2のドライバカムの下端と対向配置される下型の上端とが、絞り加工が完了すると、プレスストローク方向において当接し、その後、第2のドライバカムの凹部が有する傾斜カム面上を第2のスライダカムの凸部が有する傾斜カム面が摺動するように各部を構成すれば、被プレス材に対して1回のプレスストロークで、絞り加工と、せん断加工と、曲げ加工及び/又は穴抜加工とをこの順に行って所定形状の製品にすることができるようになる。なお、本明細書において、「当接」とはあてた状態で接触させることを意味する。また、本明細書において、「摺動」とは接触状態ですり動かすことを意味する。
【0015】
即ち、このように各部を配設させて、被プレス材をプレス加工するために、上死点に位置している上型を下降させると、まず、上型に設けられた上ブランクホルダの下端と、下型に設けられた下ブランクホルダの上端とが、下ブランクホルダの所定位置に載置された被プレス材の周縁部を加圧拘束すると共に、上型に設けられたパッドのパンチが被プレス材に当接する。
【0016】
引き続き上型を下降させると、パッドのパンチと、下型に設けられたポンチのダイとが協働して被プレス材に絞り加工を施す。この際、第1のスライダカムは、第2のドライバカムの下端と、この第2のドライバカムの下端と対向配置される下型の上端とが当接した後に、第2のドライバカムの凹部が有する傾斜カム面上を第2のスライダカムの凸部が有する傾斜カム面が摺動するように、第2のドライバカムの凹部と第2のスライダカムの凸部とが構成されていることにより、絞り加工が完了するまでは水平方向においてその位置で固定されているので、上型に加わる加圧力がカムのスライドによって分散することなくパッドのパンチに伝達することができる。したがって、被プレス材に対して適切に絞り加工を施すことができる。
【0017】
さらに、上型を下降させると、パッドはポンチによって上方へ押し込まれるが、この時点においては、第2のドライバカムの凹部が有する傾斜カム面上を第2のスライダカムの凸部が有する傾斜カム面が摺動するので、第1のスライダカムは上ブランクホルダ方向へ水平移動できるようになる。第1のスライダカムが上ブランクホルダ方向へ水平移動すると、パッドの上部に設けられた第1のドライバカムの傾斜カム面上を第1のスライダカムの傾斜カム面が摺動することになるので、上型は下降することができる。したがって、打ち抜き刃によって被プレス材にせん断加工を施すことができ、さらに、プレス刃によって曲げ加工及び/又は穴抜き加工を施すことができる。
【0018】
本発明の第2の態様は第1の態様である複合加工プレス型において、第2のスライダカムの凸部は、直線カム面を有するものである。
直線カム面は、当該凸部の傾斜カム面の下側端部から下方に向かってプレスストローク方向に沿って延出するものである。
【0019】
第2のドライバカムの凹部は、直線カム面を有するものである。
直線カム面は、当該凹部の傾斜カム面の上側端部から上方に向かってプレスストローク方向に沿って延出し、凸部の直線カム面と当接させることで、第1のスライダカムの上ブランクホルダ方向への水平移動を規制するものである。
【0020】
このような第2の態様である複合加工プレス型によれば、第2のドライバカムの凹部が有する直線カム面上で第2のスライダカムの凸部が有する直線カム面を摺動させている間は、絞り加工を完了するまでは第1のスライダカムの上ブランクホルダ方向への水平移動を規制することができる。
【0021】
本発明の第3の態様は第1の態様又は第2の態様である複合加工プレス型において、打ち抜き刃の先端は、プレスストローク方向において、絞り加工が完了するとせん断加工を開始するような位置に配置されているものである。
プレス刃の先端は、プレスストローク方向において、せん断加工が完了すると曲げ加工及び/又は穴抜加工を開始するような位置に配置されているものである。
下型は、絞り加工が完了すると、プレスストローク方向において、第2のドライバカムの下端に当接する凸部が形成されているものである。
【0022】
このような第3の態様である複合加工プレス型によれば、絞り加工が完了すると、上型が下降中に第2のドライバカムはプレスストローク方向において強制的に停止させられることから、第2のドライバカム及び第2のスライダカムのカム作用により第1のスライダカムが上ブランクホルダ方向へ水平移動することで、上型は引き続き下降することができる。したがって、プレスストローク方向において、絞り加工が完了するとせん断加工を開始するような位置に打ち抜き刃の先端が配置され、プレスストローク方向において、せん断加工が完了すると曲げ加工及び/又は穴抜加工を開始するような位置にプレス刃の先端が配置されているので、絞り加工と、せん断加工と、曲げ加工及び/又は穴抜加工とをこの順に行うことができる。
【0023】
本発明の第4の態様は第1の態様乃至第3の態様のうち何れか1つの態様である複合加工プレス型において、パッドの外側側面には、上型内に水平に突出した状態で設けられたサイドピンに掛止される凹部が形成されているものである。なお、本明細書において、「掛止」とは掛けるに必要な機構をもったものを、引っ掛けて留めることを意味する。
上ブランクホルダの外側側面には、上型内に水平に突出した状態で設けられたサイドピンに掛止される凹部が形成されているものである。
第2のドライバカムの外側側面には、上型内に水平に突出した状態で設けられたサイドピンに掛止される凹部が形成されているものである。
【0024】
このような第4の態様である複合加工プレス型によれば、上ブランクホルダ、パッド及び第2のドライバカムの下型方向に移動する距離を制限することができる。
【0025】
本発明の第5の態様は第1の態様乃至第4の態様のうち何れか1つの態様である複合加工プレス型において、第1の付勢手段、第2の付勢手段、第3の付勢手段及び第4の付勢手段は、それぞれ付勢対象をロッドの先端に固定するピストン形シリンダである。
【0026】
このような第5の態様である複合加工プレス型によれば、プレス型内に設置するスペースの小さい箇所でも設置できるので、複雑な構造のプレス型にも適用できる。