(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なっている場合がある。従って、具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0011】
(固体酸化物型燃料電池10の構成)
固体酸化物型燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:SOFC)10の構成について、図面を参照しながら説明する。
図1は、固体酸化物型燃料電池10の構成を示す拡大断面図である。
【0012】
固体酸化物型燃料電池10は、縦縞型、横縞型、燃料極支持型、電解質平板型、或いは円筒型の燃料電池である。固体酸化物型燃料電池10は、
図1に示すように、燃料極20、固体電解質層30、バリア層40および空気極50を備える。
【0013】
燃料極20は、固体酸化物型燃料電池10のアノードとして機能する。燃料極20は、
図1に示すように、燃料極集電層21と燃料極活性層22を有する。
【0014】
燃料極集電層21は、多孔質の板状焼成体である。燃料極集電層21は、ニッケル(Ni)と酸素イオン伝導性物質を主成分として含んでいてもよい。燃料極集電層21は、NiをNiOとして含んでいてもよい。燃料極集電層21がNiOを含む場合、NiOは、発電時に水素ガスによってNiに還元されてもよい。酸素イオン伝導性物質としては、イットリア安定化ジルコニア(3YSZ、8YSZ、10YSZなど)やスカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)などが挙げられる。燃料極集電層21において、Ni及び/又はNiOの体積比率はNi換算で35〜65体積%とすることができ、酸素イオン伝導性物質の体積比率は35〜65体積%とすることができる。還元時における燃料極集電層21の気孔率は、15%以上50%以下であることが好ましい。燃料極集電層21の厚みは、0.2mm〜5.0mmとすることができる。
【0015】
なお、本実施形態において、「組成物Aが物質Bを主成分として含む」とは、好ましくは、組成物Aにおける物質Bの含量が60重量%以上であることを意味し、より好ましくは、組成物Aにおける物質Bの含量が70重量%以上であることを意味する。
【0016】
燃料極活性層22は、燃料極集電層21と固体電解質層30の間に配置される。燃料極活性層22は、多孔質の板状焼成体である。燃料極活性層22は、Niと酸素イオン伝導性物質を主成分として含む。燃料極活性層22は、NiをNiOとして含んでいてもよい。燃料極活性層22がNiOを含む場合、NiOは、発電時に水素ガスによってNiに還元されてもよい。酸素イオン伝導性物質としては、イットリア安定化ジルコニア(3YSZ、8YSZ、10YSZなど)やスカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)などが挙げられる。燃料極活性層22において、Ni及び/又はNiOの体積比率はNi換算で25〜50体積%とすることができ、酸素イオン伝導性物質の体積比率は50〜75体積%とすることができる。還元時における燃料極活性層22の気孔率は、15%以上50%以下であることが好ましい。燃料極活性層22の厚みは5.0μm〜30μmとすることができる。
【0017】
固体電解質層30は、燃料極20とバリア層40の間に配置される。固体電解質層30は、燃料極20及びバリア層40と共焼成されている。固体電解質層30は、空気極50で生成される酸素イオンを透過させる機能を有する。固体電解質層30の材料としては、例えば、3YSZ、8YSZ、10YSZ及びScSZなどを挙げることができる。固体電解質層30の厚みは、3μm〜30μmとすることができる。固体電解質層30は、緻密質であり、固体電解質層30の気孔率は、10%以下であることが好ましい。
【0018】
バリア層40は、固体電解質層30と空気極50の間に配置される。バリア層40は、燃料極20及び固体電解質層30と共焼成されている。バリア層40は、固体電解質層30と空気極50の間に高抵抗層が形成されることを抑制する。バリア層40は、セリア(CeO
2)や希土類金属酸化物がCeO
2に固溶したセリア系材料を主成分として含む。このようなセリア系材料としては、例えばガドリニウムドープセリア(GDC:(Ce,Gd)O
2)やサマリウムドープセリア(SDC:(Ce,Sm)O
2)などが挙げられる。バリア層40は、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、スカンジウム(Sc)、Ca(カルシウム)、又はこれらの酸化物を含有していてもよい。バリア層40は、緻密質であり、バリア層40の気孔率は、10%未満である。バリア層40の気孔率とは、バリア層40の総体積に対する気孔(空隙および後述する閉空間を含む)の体積割合である。バリア層40の厚みは、3μm〜20μmとすることができる。バリア層40内部の微構造については後述する。
【0019】
バリア層40は、
図1に示すように、空気極50との間に界面P1を形成する。界面P1は、バリア層40の空気極50側の表面によって形成される。界面P1は、バリア層40と空気極50の成分濃度をマッピングした場合に濃度分布が急激に変化するラインや、バリア層40と空気極50の間で気孔率が急激に変化するラインによって規定することができる。
【0020】
バリア層40は、
図1に示すように、固体電解質層30との間に界面P2を形成する。界面P2は、バリア層40の固体電解質層30側の表面によって形成される。界面P2は、電子プローブマイクロアナリシス法(EPMA:Electron Probe Micro Analyzer)によってバリア層40の主成分(例えばセリウム)と固体電解質層30の主成分(例えばジルコニウム)の濃度分布を厚み方向にライン分析した場合に、各濃度が一致するラインに規定することができる。
【0021】
空気極50は、バリア層40上に配置される。空気極50は、固体酸化物型燃料電池10のカソードとして機能する。空気極50は、多孔質の板状焼成体である。空気極40は、一般式ABO
3で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含むペロブスカイト型複合酸化物を主成分として含む。このようなペロブスカイト型複合酸化物としては、例えばランタンストロンチウムコバルトフェライト(LSCF:(La,Sr)(Co,Fe)O
3)、ランタンストロンチウムフェライト(LSF:(La,Sr)FeO
3)、ランタンストロンチウムコバルタイト(LSC:(La,Sr)CoO
3)、ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM:(La,Sr)MnO
3)、及びサマリウムストロンチウムコバルタイト(SSC:(Sm,Sr)CoO
3)などが挙げられる。空気極50の気孔率は、25%〜50%とすることができる。空気極50の厚みは、3μm〜600μmとすることができる。
【0022】
(バリア層40内部の微構造)
バリア層40内部の微構造について、図面を参照しながら説明する。
図2は、バリア層40内部の微構造を模式的に示す断面図である。
【0023】
バリア層40は、複数の凸部41を有する。凸部41の中央部は、空気極50側に突出する。凸部41は、
図2に示すように、バリア層40を構成する粒子(以下、「バリア層粒子」という。)40aによって形成される。バリア層粒子40aのうち凸部41は、錐体状に形成されている。凸部41の表面は、曲面状に形成される。そのため、凸部41の断面は、空気極50側に湾曲するように突出している。
【0024】
複数の凸部41はマトリクス状に連なっており、これによってバリア層40の空気極50側の表面が形成されている。すなわち、界面Pは、バリア層粒子40aの表面が連なることによって形成されており、周期的な凹凸形状を有する。このように、界面Pが周期的な凹凸形状を有することで、バリア層40と空気極50の接触面積の増大が図られている。
【0025】
バリア層粒子40aの平均円相当径は、0.5μm以上3μm以下とすることができる。バリア層粒子40aの平均円相当径とは、バリア層粒子40aと同じ断面積を有する円の直径の算術平均値である。なお、本実施形態において、「平均」とは、バリア層粒子40aごとの測定値の算術平均を意味する。平均値を求める場合、バリア層粒子40aのサンプル数は10個以上であることが好ましい。ただし、円相当径が0.05μm以下のバリア層粒子40aは接触面積の増大に対する寄与度が小さいため、平均円相当径を算出する場合には円相当径が0.05μm以下のバリア層粒子40aを除外することが好ましい。
【0026】
凸部41の平均幅Wは、0.1μm以上2μm以下とすることができる。凸部41の平均幅Wは、0.3μm以上1.5μm以下であることが好ましい。凸部41の平均幅Wは、
図2に示すように、面方向(すなわち、界面Pが延びる方向)における凸部41の両端の平均最短距離に相当する。
【0027】
凸部41の平均高さHは、0.01μm以上1μm以下とすることができる。凸部41の平均高さHは、0.03μm以上0.5μm以下であることが好ましい。凸部41の平均高さHは、
図2に示すように、面方向において凸部41の両端を結ぶ直線と頂部PPとの厚み方向(すなわち、面方向と直交する方向)における平均最短距離に相当する。
【0028】
また、凸部41の平均幅Wに対する平均高さHの比(以下、「高さ幅比」)H/Wは、0.05以上である。高さ幅比H/Wが大きいほど、凸部41は急峻な形状となり、バリア層40と空気極50の接触面積のさらなる増大を図ることができる。高さ幅比H/Wは、0.4以下であることが好ましい。
【0029】
ここで、
図3は、
図2の部分拡大図である。
図3に示すように、凸部41の頂部PPにおける第1曲率半径CR1の平均値は、3.5μm以下であることが好ましい。第1曲率半径CR1の平均値が小さいほど、凸部41は急峻な形状となるため、バリア層40がアンカー効果を発揮する。第1曲率半径CR1の平均値は、0.3μm以上であることがより好ましい。なお、凸部41の頂部PPは、凸部41のうち最も空気極50に食い込んだ部分であり、界面Pの一部を形成する。第1曲率半径CR1とは、頂部PPの輪郭の内側(バリア層側)に接する最大内接円の半径である。
【0030】
図3に示すように、隣接する2つの凸部41間の最深部DPにおける第2曲率半径CR2の平均値は、2.0μm以下であることが好ましい。第2曲率半径CR2の平均値は、0.8μm以上であることがより好ましい。第2曲率半径CR2の平均値が小さいほど、最深部DPが切れ込んだ形状となるため、最深部DPに入り込んだ空気極50がアンカー効果を発揮する。なお、最深部DPは、隣接する2つの凸部41が互いに接続する領域であり、最もバリア層40に食い込んだ部分である。最深部DPは、界面Pの一部を形成する。第2曲率半径CR2とは、最深部DPの輪郭の外側(空気極側)に接する最大外接円の半径である。
【0031】
また、バリア層40は、
図2に示すように、複数の閉空間42を有する。閉空間42は、バリア層粒子40aの粒界に配置される。閉空間42は、バリア層40の断面を3万倍率のSTEM(走査型透過電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)で観察した場合に、10μm
2当たり1個以上形成されていることが好ましい。すなわち、バリア層40の断面における閉空間42の存在率は、1個/10μm
2以上であることが好ましい。本実施形態において、バリア層40が閉空間42を有することは、断面における閉空間42の存在率が1個/10μm
2以上であることを意味する。
【0032】
複数の閉空間42のうち少なくとも一部の閉空間42には、空気極50の構成成分の少なくとも一部が集積されていてもよい。また、複数の閉空間42のうち少なくとも一部の閉空間42には、固体電解質層30の構成成分の少なくとも一部が集積されていてもよい。また、複数の閉空間42のうち少なくとも一部の閉空間42には、空気極50の構成成分の一部と固体電解質層30の構成成分の一部を含む複合酸化物が集積されていてもよい。
【0033】
閉空間42に集積される空気極50の構成成分としては、例えばSrやLaが挙げられるがこれに限られるものではない。閉空間42に集積される固体電解質層30の構成成分としては、例えばZrが挙げられるがこれに限られるものではない。閉空間42に集積される複合酸化物としては、SrZrO
3やLa
2Zr
2O
7が挙げられるがこれに限られるものではない。
【0034】
空気極50の構成成分、固体電解質層30の構成成分及びこれらの複合酸化物(以下、「集積物質」と総称する。)は、同一の閉空間42に混在していてもよい。集積物質は、閉空間42の全体に充填されていてもよいし、閉空間42の一部だけに配置されていてもよい。
【0035】
ここで、空気極50や固体電解質層30の構成成分は、各層の成形体を焼成する際だけでなく、燃料電池が高温稼動している際にもバリア層40内に拡散される可能性がある。従って、集積物質は、燃料電池完成時点において閉空間42にすでに集積されていてもよいが、燃料電池の使用中に徐々に閉空間42に集積されてもよい。このように、バリア層粒子40aの粒界に複数の閉空間42を配置しておくことによって、焼成時及び使用時においてバリア層粒子40aの粒界を移動する拡散成分をトラップすることができる。一方で、バリア層粒子40aどうしが離れることによって形成される従来の気孔では、粒界を移動する拡散成分をトラップすることは困難であった。そのため、閉空間42は、従来の気孔に比べて、粒界を移動する拡散成分を効率的にトラップすることができる。
【0036】
本実施形態において、複数の閉空間42は界面P付近に位置している。すなわち、複数の閉空間42は、バリア層40のうち空気極50に近接する位置に設けられている。具体的に、複数の閉空間42は、界面Pから2μm以内に位置していることが好ましい。また、複数の閉空間42は、界面Pから数えて2段目のバリア層粒子層よりも界面P側に位置していることがより好ましい。すなわち、複数の閉空間42は、界面Pから数えて1段目のバリア層粒子40aどうしの粒界、界面Pから数えて1段目のバリア層粒子40aと2段目のバリア層粒子40aとの粒界、及び界面Pから数えて2段目のバリア層粒子40aどうしの粒界のいずれかに位置していることが好ましい。このように、複数の閉空間42が界面P付近に位置することによって、空気極50からの拡散成分をより効率的にトラップすることができる。
【0037】
閉空間42の平均円相当径は、10nm以上100nm以下とすることができる。閉空間42の平均円相当径は、20nm以上であることが好ましい。閉空間42の平均円相当径とは、閉空間42と同じ断面積を有する円の直径の算術平均値である。なお、本実施形態において、「平均」とは、閉空間42ごとの測定値の算術平均を意味する。平均値を求める場合、閉空間42のサンプル数は10個以上であることが好ましい。ただし、円相当径が3nm以下の閉空間42は空気極の構成成分などの集積に対する寄与度が小さいため、平均円相当径を算出する場合には円相当径が3nm以下の閉空間42を除外することが好ましい。
【0038】
(固体酸化物型燃料電池10の製造方法)
次に、固体酸化物型燃料電池10の製造方法の一例について説明する。ただし、以下に述べる材料、粒径、温度、及び塗布方法等の各種条件は、適宜変更することができる。
【0039】
まず、金型プレス成形法で燃料極集電層用粉末を成形することによって、燃料極集電層21の成形体を形成する。
【0040】
次に、燃料極活性層用粉末と造孔剤(例えばPMMA)との混合物にバインダーとしてPVA(ポリビニルブチラール)を添加してスラリーを作製する。続いて、印刷法などでスラリーを燃料極集電層21の成形体上に印刷して、燃料極活性層22の成形体を形成する。
【0041】
次に、固体電解質層用粉末に水とバインダーを混合してスラリーを作製する。続いて、塗布法などでスラリーを燃料極20の成形体上に塗布して、固体電解質層30の成形体を形成する。
【0042】
次に、バリア層用粉末(例えば、GDCなど)に水とバインダーを混合してスラリーを作製する。続いて、塗布法などでスラリーを固体電解質層30の成形体上に塗布して、バリア層40の成形体を形成する。
【0043】
この際、以下に列挙する3つの因子のうち少なくとも1つを制御することによって、後述する積層体の焼成時に形成される閉空間42の数やサイズを調整することができる。
・バリア層用粉末を用いたスラリーに添加する造孔材の量とサイズ
・バリア層40の成形体の粉体充填率
・バリア層用粉末に添加する不純物(例えば、Zr)の量とサイズ
【0044】
次に、成形体の積層体を1300〜1600℃で2〜20時間共焼結して、燃料極20、固体電解質層30およびバリア層40の共焼成体を形成する。
【0045】
この際、バリア層40の成形体を単体で焼成した場合の焼成収縮率よりも積層体の焼成収縮率を小さくして、共焼成時のバリア層40の収縮を抑えることによって、バリア層40を構成する粒子の粒界に閉気孔42を形成することができる。
【0046】
また、以下の2つの条件のうち少なくとも1つを用いることによって、バリア層40における凸部41の形状やサイズを調整することができる。
・焼成開始温度を、燃料極20<固体電解質層30<バリア層40の順とすること
・焼成収縮率を、固体電解質層30<バリア層40<燃料極20の順とし、かつ、バリア層40の焼成収縮率を固体電解質層30の焼成収縮率よりも0.5%〜3.5%程度大きくすること
【0047】
次に、空気極用材料粉末(例えば、LSCF、LSF、LSC及びLSM-8YSZなど)に水とバインダーを混合してスラリーを作製する。そして、塗布法などを用いてスラリーをバリア層40上に塗布して、空気極50の成形体を形成する。
【0048】
次に、共焼成体と空気極50の成形体を900〜1100℃で1〜20時間焼結する。
【0049】
(作用及び効果)
本実施形態において、バリア層40の気孔率は10%未満である。そのため、バリア層が多孔質である場合、すなわちバリア層の内部に空隙(気孔を含む)が形成されている場合に比べて、バリア層40の内部に空気極50や固体電解質層30の構成成分が拡散することを抑制できる。
【0050】
また、バリア層40は、バリア層粒子40aの粒界に形成された複数の閉空間42を有する。そのため、バリア層粒子40aの粒界を移動する空気極50や固体電解質層30の構成成分を閉空間42に集積することができる。
【0051】
以上のように、本実施形態に係る固体酸化物型燃料電池10によれば、空気極50や固体電解質層30の構成成分がバリア層40に拡散することを抑制しつつ、バリア層粒子40aの粒界を移動する微量な拡散成分を閉空間42に集積できる。その結果、固体酸化物型燃料電池10の発電性能が低下することを抑制することができる。
【0052】
(他の実施形態)
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で種々の変形又は変更が可能である。
【0053】
例えば、上記実施形態において、空気極50は多孔質な単層構造を有することとしたが、多孔質な多層構造を有していてもよい。具体的に、空気極50は、バリア層40上に形成される活性層と、活性層上に形成される集電層とを有していてもよい。活性層は、酸素イオン伝導性と電子伝導性を併せ持つ混合導電材料によって構成することができる。
【0054】
また、上記実施形態では、バリア層40上に空気極50が配置されることとしたが、これに限られるものではない。バリア層40と空気極50の間には、バリア層40よりも気孔率の高い多孔質バリア層が介挿されていてもよい。このような多孔質バリア層は、バリア層40と同様の材料を用いたスラリーを共焼成体のバリア層40上に塗布した後に焼成(1200〜1500℃、1〜20時間)することによって形成できる。多孔質バリア層の気孔率は、15%以上であることが好ましい。多孔質バリア層の厚みは、1〜50μmとすることができる。なお、バリア層40と多孔質バリア層の界面は、気孔率が急激に変化するラインに規定することができる。
【実施例】
【0055】
以下において本発明に係るセルの実施例について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0056】
[サンプルNo.1の作製]
以下のようにして、サンプルNo.1を作製した。
【0057】
まず、NiOと8YSZの混合粉末を金型プレス成形法で成形して、燃料極集電層の成形体を形成した。
【0058】
次に、NiOと8YSZとPMMAの混合物にPVAを添加してスラリーを作製した。続いて、このスラリーを燃料極集電層の成形体上に印刷して、燃料極活性層の成形体を形成した。
【0059】
次に、8YSZに水とバインダーを混合してスラリーを作製した。続いて、このスラリーを燃料極活性層の成形体上に塗布して、固体電解質層の成形体を形成した。
【0060】
次に、GDCに水とバインダーを混合してスラリーを作製した。続いて、このスラリーを固体電解質層の成形体上に塗布して、バリア層の成形体を形成した。
【0061】
次に、燃料極、固体電解質層及びバリア層それぞれの成形体の積層体を共焼成(1400℃、5時間)して、燃料極、固体電解質層及びバリア層の共焼成体を作製した。
【0062】
次に、LSCFに水とバインダーを混合してスラリーを作製した。続いて、このスラリーをバリア層上に塗布して、空気極の成形体を形成した。
【0063】
次に、空気極の成形体を1050℃で5時間焼成して、空気極を作製した。
【0064】
[サンプルNo.2〜6の作製]
サンプルNo.2〜6では、バリア層のGDCスラリーに造孔材を添加するとともに、バリア層の成形体を単体で焼成した場合の焼成収縮率よりも積層体の焼成収縮率を小さくすることによって、バリア層を構成するバリア層粒子の粒界に複数の閉空間を形成した。この際、造孔材のサイズを調整することによって、表1に示すように閉空間の平均円相当径を変更した。
【0065】
また、サンプルNo.2〜6では、焼成開始温度を燃料極<固体電解質層<バリア層の順とし、かつ、焼成収縮率を固体電解質層<バリア層<燃料極の順とすることによって、表1に示すようにバリア層の凸部の形状とサイズを調整した。
【0066】
その他の工程は、上記サンプルNo.1と同じとした。
【0067】
[バリア層内部の微構造の観察]
各サンプルの断面を3万倍率のSTEMで撮像して、
図4に示すようなSTEM画像を取得した。
【0068】
次に、STEM画像において、バリア層粒子の粒界に形成された閉空間の有無の確認と閉空間の平均円相当径の測定を行った。また、STEM画像において、バリア層と空気極の界面付近におけるGDC粒子(バリア層粒子)のサイズ及びバリア層の凸部の形状を観察した。閉空間の有無の確認結果、閉空間の平均円相当径の測定結果、GDC粒子の平均円相当径の測定結果、及び凸部の形状の観察結果を表1にまとめて示す。
【0069】
[閉空間内の物質の特定]
サンプルNo.1〜6について、閉空間内に集積されている物質をEPMAやEDXなどの手法で元素の同定を行うと共に、反応物の構造解析についてはSTEMの電子線回折により特定した。その結果、閉空間には、空気極の構成成分であるSrと固体電解質層の構成成分であるZrとの複合酸化物であるSrZrO
3が形成されていることが確認された。
【0070】
[発電試験]
サンプルNo.1〜6について、燃料極側に窒素ガスを供給しながら、空気極側に空気を供給した状態で、800℃まで昇温した後に燃料極に水素ガスを3時間供給することによって還元処理を行った。その後、サンプルNo.1〜6について、定電流条件(電流密度:0.3A/cm
2)においてセル電圧の降下率(1000時間のセル電圧の変化率)を測定した。測定結果を表1にまとめて示す。
【0071】
[剥離の有無]
焼成後のサンプルNo.2〜6の断面を顕微鏡で観察することによって、バリア層と空気極の界面における剥離の頻度(発生箇所数)を確認した。確認結果を表1にまとめて示す。表1では、剥離が確認されたサンプルを“×”と評価し、1箇所だけ剥離が確認されたサンプルを“○”と評価し、剥離が確認されなかったサンプルを“◎”と評価した。
【0072】
[熱サイクル試験後の剥離の有無]
次に、サンプルNo.3〜6について、還元雰囲気を維持した状態で、常温から800℃まで30分で昇温し、その後1時間で常温まで降させるサイクルを10回繰り返した。その後、各サンプルの断面を顕微鏡で観察することによって、バリア層と空気極の界面における剥離の有無を確認した。確認結果を表1にまとめて示す。表1では、剥離が確認されたサンプルを“×”と評価し、剥離が確認されなかったサンプルを“◎”と評価した。
【0073】
【表1】
【0074】
表1から分かるように、バリア層に閉空間が存在するサンプルNo.2〜6では、セル電圧の降下率を抑制することができた。これは、バリア層内に拡散してきた空気極及び固体電解質層の構成成分を閉空間にトラップすることによって、バリア層の電気抵抗の増大を抑えることができたためである。なお、平均円相当径10nm未満の閉空間を安定的に作製するのは困難であったため、サンプルNo.2〜6では平均円相当径10nm以上の閉空間を作製した。また、熱サイクル試験時にクラックが発生するリスクを考慮して、サンプルNo.2〜6では平均円相当径100nm以下の閉空間を作製した。
【0075】
また、表1から分かるように、バリア層粒子の平均円相当径が0.5μm以上3μm以下で、かつ、高さ幅比H/Wが0.05以上であるサンプルNo.3〜6では、焼成後の時点における剥離の発生頻度を抑えることができた。これは、バリア層と空気極の接合面積を増大させることができたためである。
【0076】
また、頂部の曲率半径の平均値が3.5μm以下であるサンプルNo.3〜6では、熱サイクル試験後においても剥離が観察されなかった。
【0077】
また、最深部の曲率半径の平均値が2μm以下であるサンプルNo. No.3〜6では、熱サイクル試験後においても剥離の発生頻度を抑えることができた。