(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6393732
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】太陽光発電監視装置及び太陽光発電監視方法
(51)【国際特許分類】
G01W 1/12 20060101AFI20180910BHJP
H02S 50/00 20140101ALI20180910BHJP
【FI】
G01W1/12 Z
H02S50/00
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-225865(P2016-225865)
(22)【出願日】2016年11月21日
(65)【公開番号】特開2018-84421(P2018-84421A)
(43)【公開日】2018年5月31日
【審査請求日】2017年9月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000253226
【氏名又は名称】濱田重工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100127155
【弁理士】
【氏名又は名称】来田 義弘
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(72)【発明者】
【氏名】馬原 薫
【審査官】
伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−55090(JP,A)
【文献】
特開2015−47030(JP,A)
【文献】
特開2016−1958(JP,A)
【文献】
特開2016−19404(JP,A)
【文献】
特開2016−127763(JP,A)
【文献】
特開2005−340464(JP,A)
【文献】
特開2011−216811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01W 1/00
H02S 50/00
G06Q 50/00
H01L 31/00
H02J 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池ストリングの電流値及び電圧値と太陽電池ストリングへ入射する日射量より算出した単位日射量当たりの発電量を太陽電池ストリングの定格出力で除した発電効率を基準値と比較し、前記発電効率が前記基準値を下回ったとき、該太陽電池ストリングを異常と判断する太陽光発電監視装置であって、
基準値設定期間において、設定値以上の降雨量を記録した日以後の設定日数以内のデータを用いて算出した日毎の発電効率を温度帯域で層別し、温度帯域毎に発電効率の平均値に変動幅を加味して前記基準値を設定する基準値設定部と、
前記基準値設定期間経過後において、設定値以上の降雨量を記録した日以後の設定日数以内のデータから温度帯域が最も高い発電データを抽出して算出した1日の平均発電効率を前記発電効率として、該平均発電効率と同じ温度帯域の前記基準値と比較する異常判断部とを備えることを特徴とする太陽光発電監視装置。
【請求項2】
太陽電池ストリングの電流値及び電圧値と太陽電池ストリングへ入射する日射量より算出した単位日射量当たりの発電量を太陽電池ストリングの定格出力で除した発電効率を基準値と比較し、前記発電効率が前記基準値を下回ったとき、該太陽電池ストリングを異常と判断する太陽光発電監視方法であって、
基準値設定期間において、設定値以上の降雨量を記録した日以後の設定日数以内のデータを用いて算出した日毎の発電効率を温度帯域で層別し、温度帯域毎に発電効率の平均値に変動幅を加味して前記基準値を設定する基準値設定ステップと、
前記基準値設定期間経過後において、設定値以上の降雨量を記録した日以後の設定日数以内のデータから温度帯域が最も高い発電データを抽出して算出した1日の平均発電効率を前記発電効率として、該平均発電効率と同じ温度帯域の前記基準値と比較する異常判断ステップとを備えることを特徴とする太陽光発電監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光発電監視装置及び太陽光発電監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料の枯渇に加えて地球温暖化等の地球環境問題が深刻化していることから、クリーンエネルギーである太陽光発電が注目されている。太陽光発電では、複数の太陽電池(セル)を並べてパネル状に形成した太陽電池パネル(太陽電池モジュール)が使用される。
【0003】
大規模な太陽光発電設備では、複数の太陽電池モジュールが直列に接続されて太陽電池ストリングを構成し、複数の太陽電池ストリングがパワーコンディショナーに並列に接続されている。パワーコンディショナーは、太陽電池モジュールで発電した直流電流を交流電流に変換すると共に、太陽電池モジュールから得られる電力を常に最大値に維持する。
【0004】
電流値や発電量などの発電に関する各種データは、リアルタイムで監視サーバーへ送られる。監視サーバーは、パワーコンディショナーや太陽電池ストリング等の発電設備全体の発電状況を監視し、異常が発生した場合、太陽光発電設備管理者へ通知する。
【0005】
例えば特許文献1には、単位時間毎の平均発電量を算出し、単位面積あたりに換算した平均発電量を平均日射量で除算して変換効率を求め、日別変換効率データを生成する変換効率生成部と、所定期間の日別変換効率データに基づき、所定の気温帯域毎に平均変換効率を算出し、算出された平均変換効率に変動幅を加味し、経年劣化係数を乗じて気温帯域毎の劣化判断の判定値とし、気温帯域別データを生成する判定値生成部と、所定期間に対応する劣化診断対応期間における日別変換効率データに基づき、単位時間毎に平均気温が所定の気温帯域に該当する場合、変換効率が判定値以下であるか否かを判定し、判定値以下である場合太陽電池パネルの劣化がある旨を出力装置に出力する劣化診断部とを備える太陽電池劣化診断装置が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、太陽光発電パネルが発電した電力量を用いて発電効率を算出する発電効率算出部と、日射量と太陽光発電パネルのパネル温度を用いて発電効率の理想値を算出し、発電効率算出部で算出した発電効率と理想値との比を理想度として算出する理想度算出部と、理想度が経時的に低下しているか否かを判定する判定部とを有する太陽光発電管理装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014−176195号公報
【特許文献2】特開2015−47030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1記載の技術では、判定値算出時に太陽電池モジュール表面の汚れの影響を考慮していないため、太陽電池モジュールが本来有している発電能力に比べて判定値が低く評価される可能性がある。その結果、太陽電池モジュールに劣化や故障が発生しても異常と判定されず、異常の発見が遅れるおそれがある。
一方、特許文献2記載の技術では、理想度の経時的な推移に基づく解析に時間を要するため、太陽電池モジュールの破損などの突発的な故障に対する判断の遅れが懸念される。
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、太陽電池モジュール表面の汚れの影響を排除して、従来に比べて高い精度で太陽光発電設備の異常を診断する監視装置及び監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、第1の発明は、太陽電池ストリングの電流値及び電圧値と太陽電池ストリングへ入射する日射量より算出した単位日射量当たりの発電量を太陽電池ストリングの定格出力で除した発電効率を基準値と比較し、前記発電効率が前記基準値を下回ったとき、該太陽電池ストリングを異常と判断する太陽光発電監視装置であって、
基準値設定期間において、設定値以上の降雨量を記録した日以後の設定日数以内のデータを用いて算出した日毎の発電効率を温度帯域で層別し、温度帯域毎に発電効率の平均値に変動幅を加味して前記基準値を設定する基準値設定部と、
前記基準値設定期間経過後において、設定値以上の降雨量を記録した日以後の設定日数以内のデータから温度帯域が最も高い発電データを抽出して算出した1日の平均発電効率を前記発電効率として、該平均発電効率と同じ温度帯域の前記基準値と比較する異常判断部とを備えることを特徴としている。
【0011】
また、第2の発明は、太陽電池ストリングの電流値及び電圧値と太陽電池ストリングへ入射する日射量より算出した単位日射量当たりの発電量を太陽電池ストリングの定格出力で除した発電効率を基準値と比較し、前記発電効率が前記基準値を下回ったとき、該太陽電池ストリングを異常と判断する太陽光発電監視方法であって、
基準値設定期間において、設定値以上の降雨量を記録した日以後の設定日数以内のデータを用いて算出した日毎の発電効率を温度帯域で層別し、温度帯域毎に発電効率の平均値に変動幅を加味して前記基準値を設定する基準値設定ステップと、
前記基準値設定期間経過後において、設定値以上の降雨量を記録した日以後の設定日数以内のデータから温度帯域が最も高い発電データを抽出して算出した1日の平均発電効率を前記発電効率として、該平均発電効率と同じ温度帯域の前記基準値と比較する異常判断ステップとを備えることを特徴としている。
【0012】
本発明では、太陽電池モジュール表面の汚れによって太陽光発電設備の診断精度が低下するのを防ぐため、一定量以上の降雨によって太陽電池モジュール表面が洗浄された状態時の発電効率及び基準値を算出して太陽光発電設備の診断に使用する。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、太陽電池モジュール表面の汚れの影響を排除するため、一定量以上の降雨後の設定日数以内のデータを用いて発電効率及び基準値を算出し、太陽光発電設備の診断に使用する。これにより、従来に比べて高い精度で太陽光発電設備の異常を診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る太陽光発電監視装置を備える太陽光発電システムの構成図である。
【
図3】(A)は安定した発電の一例を示す発電量、積算日射量、及び気温のグラフ、(B)は不安定な発電の一例を示す発電量、積算日射量、及び気温のグラフである。
【
図4】(A)は不連続なデータ領域を含む日射量グラフ、(B)は発電効率の異常値データを含む日射量グラフ、(C)は10分未満のデータを含む日射量グラフ、(D)は不良データを削除した日射量グラフである。
【
図5】太陽電池ストリングの異常を判断するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態について説明し、本発明の理解に供する。
【0016】
本発明の一実施の形態における太陽光発電システム10の構成図を
図1に示す。
太陽光発電システム10は、太陽光を受光して発電する太陽光発電設備と、太陽光発電設備の発電状況を監視し、太陽光発電設備の異常を診断する監視設備とを備えている。
【0017】
太陽光発電設備は、それぞれ複数の太陽電池モジュール(図示省略)が直列に接続された複数の太陽電池ストリング11と、各太陽電池ストリング11で発電した電流を集積する接続箱12、並びに接続箱12の電流を集積する集電箱13と、集電箱13の電流を集積するパワーコンディショナー14とを備えている。
パワーコンディショナー14は、前述したように、太陽電池ストリング11で発電した直流電流を交流電流に変換すると共に、太陽電池ストリング11から得られる電力を常に最大値に維持する。太陽光発電設備で生じた電力はパワーコンディショナー14を経由して変電設備に送られる。
【0018】
監視設備は、太陽電池ストリング11の温度を測定する熱電対15や、太陽光発電設備が設置されているサイトの日射量を測定する日射計16などの測定装置と、各太陽電池ストリング11の電流値、電圧値、温度とサイトの日射量を1分毎に保存する記憶装置17と、太陽光発電設備の異常の有無を判断する太陽光発電監視装置20とを備えている。記憶装置17と太陽光発電監視装置20とはインターネット18を介して接続されている。
なお、記憶装置17にはデータロガーやパーソナルコンピュータ、太陽光発電監視装置20にはパーソナルコンピュータを使用することができる。
【0019】
太陽光発電監視装置20は、太陽電池ストリング11の電流値及び電圧値と太陽電池ストリング11へ入射する日射量より算出した単位日射量当たりの発電量を太陽電池ストリング11の定格出力で除した発電効率を基準値と比較し、発電効率が基準値を下回ったとき、当該太陽電池ストリング11を異常と判断する。
【0020】
太陽光発電監視装置20は基準値設定部21と異常判断部22とを有している。
基準値設定部21は、基準値設定期間において、設定値以上の降雨量を記録した日以後の設定日数以内のデータを用いて算出した日毎の発電効率を温度帯域で層別し、温度帯域毎に発電効率の平均値に変動幅を加味して基準値を設定する。なお、基準値は太陽電池ストリング11ごとに設定される。
異常判断部22は、基準値設定期間経過後において、設定値以上の降雨量を記録した日以後の設定日数以内のデータから温度帯域が最も高い発電データを抽出して算出した1日の平均発電効率を、当該平均発電効率と同じ温度帯域の基準値と比較し、基準値を下回ったとき、当該太陽電池ストリング11を異常と判断する。
【0021】
次に、上記構成を有する太陽光発電監視装置20によって、各太陽電池ストリング11に対して実施される太陽光発電監視プロセス(方法)について詳細に説明する。
[基準値の設定]
基準値設定部21で実施されるプロセス(基準値設定ステップ)を
図2のフロー図を用いて説明する。
なお、基準値設定期間は、太陽光発電システム10が稼動を開始した最初の1年間とする。
【0022】
(1)太陽光発電設備が設置されているサイトに最も近い観測地点の降雨量データを、気象庁のホームページ(HP)から取得する(ST11)。
(2)降雨量6mm/h(設定値)以上の降雨量を記録した日以後の4日(設定日数)以内のデータを記憶装置17から抽出する(ST12)。抽出データは、対象日における太陽電池ストリング11の電流値、電圧値、温度、並びにサイトの日射量である。
【0023】
(3)精度の高い異常診断を行うためには、ばらつきの小さい安定した発電データが必要である。そのため、抽出したデータから作成した発電量グラフを用いて、安定した発電データであるかどうか確認する。
図3(A)に示すように、発電量グラフが綺麗な放物線を描いている場合、安定した発電データとみなし、
図3(B)に示すように、発電量グラフが不規則に変化している場合、不安定な発電データとみなす。なお、安定した発電データか否かの判断は、太陽電池ストリング11全体が正常に発電していると考えられる9:00〜15:00のデータを用いて行う。
安定した発電データではない場合(ST13)、ST12に戻る。
【0024】
(4)安定した発電データである場合(ST13)、当該日のデータを温度帯域で層別し、最大温度帯域のデータを抽出する(ST14)。最大温度帯域のデータには、電流値、電圧値、日射量のばらつきが小さいデータが多く含まれている。
なお、温度帯域は、例えば、30℃〜35℃、35℃〜40℃、…、50℃〜55℃、55℃〜60℃のように、5℃ごと層別されている。
【0025】
(5)抽出したデータから、日射量の低下による発電効率の異常値を示したデータや不連続なデータを除外する(ST15)。
図4(A)の枠で囲んだ領域は、日射量の大幅な減少に伴って太陽電池ストリング11の温度が低下し、データが不連続になっている領域を示している。
図4(B)の枠で囲んだ領域は、 日射量の大幅な減少に伴い、日射量と電流値にずれが生じて発電効率が異常値を示した領域である。
図4(C)の枠で囲んだ領域は、不連続なデータと発電効率の異常値を示したデータを削除したことによって10分未満データとなった領域である。
図4(D)は、不良データを削除した日射量グラフである。
【0026】
(6)データ数が50個未満の場合(ST16)、ST12に戻る。
(7)データ数が50個以上の場合(ST16)、当該データより発電効率を算出し(ST17)、算出した発電効率を該当する温度帯域に保存する(ST18)。例えば、冬場の発電効率では、最大温度帯域が30℃〜35℃付近のデータ、夏場の発電効率では、最大温度帯域が55℃〜60℃付近のデータとなる。
【0027】
(8)基準値設定期間である1年を経過していない場合(ST19)、ST11に戻って他の月日について同様の処理を行う。
(9)基準値設定期間である1年を経過した場合(ST19)、温度帯域毎に保存されている発電効率についてその平均値を算出し、平均値に変動幅を加味して各温度帯域の基準値を設定する(ST20)。変動幅は、−3σとする。ただし、σは発電効率の標準偏差である。
【0028】
[異常判断]
基準値設定期間である1年を経過した後に、異常判断部22で実施されるプロセス(異常判断ステップ)を
図5のフロー図を用いて説明する。
なお、気象庁HPより気象データを取得(ST21)してからデータ数≧50個(ST26)までのプロセスは、基準値の設定におけるST11〜ST16と同様なので説明を省略する。
【0029】
(1)データ数が50個以上の場合(ST26)、当該データについて発電効率の平均値を算出する(ST27)。
(2)算出した1日の平均発電効率を、当該平均発電効率と同じ温度帯域の基準値と比較し(ST28)、基準値未満である場合、基準値未満となった太陽電池ストリング11を異常ありとして表示し(ST29)、基準値以上である場合、異常なしとして終了する(ST30)。
【0030】
以上、本発明の一実施の形態について説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、上記実施の形態では、設定値を降雨量6mm/h、設定日数を4日、基準値の変動幅を−3σとしているが、勿論これらの数値に限定されるものではなく、例えば、降雨量を4mm/h〜8mm/h、設定日数を2日〜6日、変動幅を−2σ〜−3σとしてもよい。
【符号の説明】
【0031】
10:太陽光発電システム、11:太陽電池ストリング、12:接続箱、13:集電箱、14:パワーコンディショナー、15:熱電対、16:日射計、17:記憶装置、18:インターネット、20:太陽光発電監視装置、21:基準値設定部、22:異常判断部