特許第6393772号(P6393772)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6393772
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】発毛及び育毛促進剤並びにそれらの利用
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/01 20060101AFI20180910BHJP
   A61K 35/57 20150101ALI20180910BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20180910BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20180910BHJP
   A61Q 7/00 20060101ALI20180910BHJP
   A23L 15/00 20160101ALI20180910BHJP
   A23L 33/18 20160101ALI20180910BHJP
   A23J 1/08 20060101ALN20180910BHJP
【FI】
   A61K38/01
   A61K35/57
   A61P17/14
   A61K8/64
   A61Q7/00
   A23L15/00 A
   A23L33/18ZNA
   !A23J1/08 Z
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-556224(P2016-556224)
(86)(22)【出願日】2015年10月30日
(86)【国際出願番号】JP2015080848
(87)【国際公開番号】WO2016068338
(87)【国際公開日】20160506
【審査請求日】2017年5月2日
(31)【優先権主張番号】特願2014-222303(P2014-222303)
(32)【優先日】2014年10月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】500101243
【氏名又は名称】株式会社ファーマフーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】原田 清佑
(72)【発明者】
【氏名】中村 紀夫
(72)【発明者】
【氏名】金 武祚
【審査官】 岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/007318(WO,A1)
【文献】 特開2011−211979(JP,A)
【文献】 特開昭64−083100(JP,A)
【文献】 特開2009−234947(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/075558(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/01
A23L 15/00
A23L 33/18
A61K 8/64
A61K 35/57
A61P 17/14
A61Q 7/00
A23J 1/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵黄タンパク質加水分解物を有効成分として含有することを特徴とする発毛促進剤。
【請求項2】
毛乳頭細胞の増殖因子産生を促進させる作用を有することを特徴とする請求項1に記載の剤。
【請求項3】
増殖因子が血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、線維芽細胞増殖因子−7(FGF−7)及びインスリン様成長因子−1(IGF−1)からなる群より選択される1以上であることを特徴とする請求項2に記載の剤。
【請求項4】
経口剤であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の剤。
【請求項5】
発毛を促進するための医薬であって、請求項1〜3のいずれかに記載の剤を含む医薬。
【請求項6】
発毛を促進するためのサプリメントであって、請求項1〜3のいずれかに記載の剤を含むサプリメント。
【請求項7】
発毛を促進するための食品添加剤であって、請求項1〜3のいずれかに記載の剤を含む食品添加剤。
【請求項8】
発毛促進剤を製造するための卵黄タンパク質加水分解物の使用。
【請求項9】
発毛促進のために使用する請求項1〜3のいずれかに記載の剤。
【請求項10】
発毛促進をコンセプトとする旨が表示されている請求項1〜3のいずれかに記載の剤を含む発毛促進用特定保健用食品、発毛促進用サプリメント、発毛促進用栄養補助食品または発毛促進用機能性食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発毛促進剤及びその利用に関するものである。また、本発明は発毛促進方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加齢、遺伝的素因、社会的ストレス等の原因による脱毛症で悩んでいる人は多く、発毛を促進する育毛剤や、脱毛を防止する抗脱毛剤等、種々開発されている。
例えば、特定の配列を有する大豆タンパク由来のペプチドを有効成分として含む抗脱毛剤が知られている(特許文献1)。
【0003】
一方、本願発明者らは、以前から卵黄タンパク質加水分解物の機能について研究しており、抗酸化作用(特許文献2)、骨強化作用(特許文献3)、軟骨細胞増殖促進作用(特許文献4)などを見出している。しかし、卵黄タンパク質加水分解物の発毛促進作用は報告されておらず、抗酸化作用、骨強化作用又は軟骨細胞増殖促進作用と発毛促進作用とは何の相関もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−247874号公報
【特許文献2】特開2001−328919号公報
【特許文献3】国際公開第WO2006/075558号
【特許文献4】国際公開第WO2014/007318号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、卵黄タンパク質加水分解物の新規用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の各発明を包含する。
〔1〕卵黄タンパク質加水分解物を有効成分として含有することを特徴とする発毛促進剤。
〔2〕毛乳頭細胞の増殖因子産生を促進させる作用を有することを特徴とする〔1〕に記載の剤。
〔3〕増殖因子が血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、線維芽細胞増殖因子−7(FGF−7)及びインスリン様成長因子−1(IGF−1)からなる群より選択される1以上であることを特徴とする〔2〕に記載の剤。
〔4〕経口剤であることを特徴とする〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の剤。
〔5〕発毛を促進するための医薬であって、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の剤を含む医薬。
〔6〕発毛を促進するためのサプリメントであって、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の剤を含むサプリメント。
〔7〕発毛を促進するための食品添加剤であって、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の剤を含む食品添加剤。
〔8〕発毛促進剤を製造するための卵黄タンパク質加水分解物の使用。
〔9〕卵黄タンパク質加水分解物を、発毛を促進することが必要なヒトに経口的に摂取させることを特徴とする非治療的な発毛促進方法。
【0007】
本発明は、さらに、以下の各発明を包含する。
〔10〕〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の剤の有効量を、発毛を促進することが必要な動物に投与することを特徴とする発毛促進方法。
〔11〕発毛促進のための〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の剤の使用。
〔12〕発毛促進のために使用する〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の剤。
〔13〕発毛促進をコンセプトとする旨が表示されている〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の剤を含む特定保健用食品、サプリメント、栄養補助食品または機能性食品。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、卵黄タンパク質加水分解物を有効成分として含有する発毛促進剤を提供することができる。卵黄タンパク質加水分解物は、天然物由来の安全なものであるので、日常的に摂取可能な飲食品、医薬、飼料、サプリメント、食品添加剤等として、広く使用が可能である。さらに、本発明は経口摂取可能である点で非常に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1で製造した卵黄タンパク質加水分解物のゲル濾過クロマトグラフィーによる分子量分析の結果を示した図である。
図2】卵黄タンパク質加水分解物混合飼料経口摂取17日目におけるマウス被毛再生面積の結果を示す図である。
図3】通常飼料又は卵黄タンパク質加水分解物混合飼料経口摂取17日目におけるマウス背部被毛の様子を比較した結果を示す図である。
図4】卵黄タンパク質加水分解物の毛乳頭細胞のVEGF産生促進効果を示す図である。
図5】卵黄タンパク質加水分解物による毛乳頭細胞のFGF−7mRNA発現増加効果を示す図である。
図6】卵黄タンパク質加水分解物による毛乳頭細胞のIGF−1mRNA発現増加効果を示す図である。
図7】通常飼料又は卵黄タンパク質加水分解物混合飼料経口摂取14日目における毛周期休止期誘導マウス背部被毛の様子を比較した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、卵黄タンパク質加水分解物を有効成分として含有する発毛促進剤を提供する。
卵黄タンパク質加水分解物は、卵黄タンパク質を加水分解して得られるものであればよい。卵黄タンパク質加水分解物の原料として用いる卵黄は、鶏、アヒル、うずら等の卵黄が挙げられるが、生産性の点から鶏の卵黄が好ましく用いられる。卵黄は、卵黄液、卵黄粉末、脱脂卵黄粉末等を用いることができ、中でも卵黄粉末、脱脂卵黄粉末が好ましく用いられる。また、資源の有効利用やコストの点から、卵黄から卵黄油や卵黄レシチンを製造する際に副産物として生じる脱脂卵黄を用いることが好ましい。卵黄の脱脂処理は、卵黄に食品加工に使用可能な有機溶媒(例えば、エタノール、イソプロパノール、ヘキサンなどの少なくとも一種)を作用させて実施するのが好ましい。通常は、卵黄にこれらの溶媒を添加して、攪拌して生成する固形物を採取することにより行われる。この操作を複数回繰り返してもよい。簡便性と安全性の点からエタノールが好ましく用いられる。
【0011】
卵黄タンパク質を加水分解するために用いるタンパク質加水分解酵素は、特に限定されないが、プロテアーゼ活性又はカルボキシペプチダーゼ活性を有し食品製造に使用可能な酵素が好ましい。例えば、ペプシン(EC.3.4.23.1)、トリプシン(EC.3.4.21.4)、レニン(EC.3.4.23.15)、レニンを含むチーズ用途のレンネット、カルボキシペプチダーゼA(EC.3.4.17.1)、バチルス属細菌由来のプロテアーゼ(商品名「アルカラーゼ」ノボザイム社製、商品名「オリエンターゼ22BF」エイチビィアイ株式会社製、商品名「ヌクレイシン」エイチビィアイ株式会社製、商品名「プロテアーゼS『アマノ』G」天野エンザイム株式会社製、商品名「サモアーゼPC10」大和化成株式会社製等)、アスペルギルス属麹菌由来プロテアーゼ(商品名「オリエンターゼONS」エイチビィアイ株式会社製、商品名「オリエンターゼ20A」エイチビィアイ株式会社製、商品名「プロテアーゼP『アマノ』3G」天野エンザイム株式会社製、商品名「フレーバーザイム」ノボザイム社製等)などが挙げられる。タンパク質加水分解酵素は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。好ましくは、バチルス属細菌由来のプロテアーゼ、ペプシン又はこれらの組み合わせである。
【0012】
タンパク質加水分解酵素の濃度は、使用する原料卵黄及び酵素に応じて適宜変動するが、原料に脱脂卵黄を用いる場合、酵素と脱脂卵黄の質量比が約1:20から約1:1000の範囲が好ましい。また、酵素反応温度や反応時間も使用する原料卵黄及び酵素により異なるが、約25〜約75℃で約1〜約24時間加水分解を行うことが好ましい。
得られた卵黄タンパク質加水分解物は、適宜脱塩してそのまま用いることができる。また、限外ろ過膜、ゲルろ過や各種カラムクロマトグラフィー、メンブレンフィルター、等電点を利用した方法などで精製や分画して用いてもよい。精製、分画後の卵黄タンパク質加水分解物が発毛促進作用を有することは、例えば、実施例2、3に記載の方法等で確認することができる。
【0013】
得られた卵黄タンパク質加水分解物は、ゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量分布分析において、タンパク質・ペプチド・アミノ酸の合計の面積比に対して、分子量約100以上約20,000以下の部分の面積比が約65%以上を占めることが好ましく、前記面積比が約75%以上を占めることがより好ましく、前記面積比が約85%以上を占めることがさらに好ましく、前記面積比が約90%以上を占めることがさらに好ましい。
また、より好ましい卵黄タンパク質加水分解物としては、分子量1,000の限外濾過膜を用いた分画により得られた卵黄タンパク質加水分解物であって、ゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量分布分析において、タンパク質・ペプチド・アミノ酸の合計の面積比に対して、分子量約500以上約20,000以下の部分の面積比が約85%以上、好ましくは約90%以上を占める卵黄タンパク質加水分解物が挙げられる。
【0014】
このようにして得られた卵黄タンパク質加水分解物は、発毛促進作用、育毛促進作用、養毛作用、抗脱毛作用等を有しているので、発毛促進剤、育毛促進剤、養毛剤、抗脱毛剤等の有効成分として好適に用いることができる。本発明の発毛促進剤は、育毛促進剤、養毛剤、抗脱毛剤と言い換えることができる。
【0015】
本発明の発毛促進剤において、卵黄タンパク質加水分解物の含有量は特に限定されるものではないが、卵黄タンパク質加水分解物を約0.05〜約50質量%含むことが好ましく、約0.1〜約25質量%含むことがより好ましい。また、卵黄タンパク質加水分解物の1日当たりの投与量は投与対象により異なるが、例えば対象が成人ヒトの場合、通常約0.05〜約2000mg/日であり、好ましくは約0.1〜約1000mg/日である。
【0016】
本発明の発毛促進剤は、毛乳頭細胞の増殖因子産生を促進させることができる。増殖因子は特に限定されないが、例えば血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、線維芽細胞増殖因子−7(FGF−7)、インスリン様成長因子−1(IGF−1)等が挙げられ、VEGF、FGF−7及びIGF−1からなる群より選択される1以上であることが好ましく、VEGF、FGF−7及びIGF−1であることがさらに好ましい。本発明の発毛促進剤は、毛乳頭細胞の増殖因子産生促進剤、毛乳頭細胞の血管内皮細胞増殖因子(VEGF)産生促進剤、毛乳頭細胞の線維芽細胞増殖因子−7(FGF−7)産生促進剤、毛乳頭細胞のインスリン様成長因子−1(IGF−1)産生促進剤と言い換えることができる。
【0017】
本発明の発毛促進剤は、経口又は非経口のいずれかの経路で哺乳動物に投与することができる。経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤(糖衣錠を含む)、丸剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤などが挙げられる。非経口剤としては、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤)、点滴剤、外用剤(例えば、経鼻投与製剤、経皮製剤、軟膏剤)、坐剤(例えば、直腸坐剤、膣坐剤)などが挙げられる。これらの製剤は、当該分野で通常行われている手法により、薬学上許容される担体を用いて製剤化することができる。薬学上許容される担体としては、賦形剤、結合剤、希釈剤、添加剤、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤等が挙げられ、例えば、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、砂糖、ラクトース、ペクチン、デキストリン、澱粉、ゼラチン、トラガント、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、低融点ワックス、カカオバター等を担体として使用できる。
【0018】
経口用の固形剤(錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤等)は好ましく、有効成分を例えば賦形剤(ラクトース、マンニトール、グルコース、微結晶セルロース、デンプン等)、結合剤(ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等)、崩壊剤(繊維素グリコール酸カルシウム等)、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム等)、安定剤、溶解補助剤(グルタミン酸、アスパラギン酸等)等の添加剤と混合し、常法に従って製剤化することができる。必要に応じて、コーティング剤(白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等)で被覆していてもよいし、また2以上の層で被覆していてもよい。
【0019】
経口用の液剤(水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤等)は、有効成分を一般的に用いられる希釈剤(精製水、エタノール又はそれらの混液等)に溶解、懸濁又は乳化して製剤化される。さらにこの液剤は、湿潤剤、懸濁化剤、乳化剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、保存剤、緩衝剤等を含有していてもよい。
【0020】
非経口剤としては例えば、皮膚外用剤が挙げられる。皮膚外用剤は、液剤、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、エアゾール剤等に適用できるが、外用に適する剤型であればこれらに限定されるものではない。
【0021】
皮膚外用剤には、必要に応じて、水、低級アルコール、溶解補助剤、界面活性剤、乳化安定化剤、ゲル化剤、粘着剤、その他、所望する剤型を得るために通常使用される基剤成分を配合でき、使用目的に応じて血管拡張剤、副腎皮質ホルモン、保湿剤、殺菌剤、清涼化剤、ビタミン類、香料、色素等を本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合することも可能である。
【0022】
非経口剤としては例えば、注射剤が挙げられる。注射剤は、溶液、懸濁液、乳濁液、及び用時溶剤に溶解又は懸濁して用いる固形の注射剤を包含する。注射剤は、有効成分を溶剤に溶解、懸濁又は乳化して製剤化される。溶剤として、例えば注射用蒸留水、生理食塩水、植物油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エタノールのようなアルコール類等及びそれらの組み合わせが用いられる。さらにこの注射剤は、安定剤、溶解補助剤(グルタミン酸、アスパラギン酸、ポリソルベート80(登録商標)等)、懸濁化剤、乳化剤、無痛化剤、緩衝剤、保存剤等を含んでいてもよい。これらは最終工程において滅菌するか無菌操作法によって製造される。また無菌の固形剤、例えば凍結乾燥品を製造し、その使用前に無菌化又は無菌の注射用蒸留水又は他の溶剤に溶解して使用することもできる。
【0023】
本発明は、発毛を促進するための医薬を提供する。本発明の医薬は、上記本発明の発毛促進剤を含むものであればよい。本発明の医薬は、経口用の固形剤(錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤等)、経口用の液剤等の形態で実施することができる。これらの製剤は、上記と同様の手法により製剤化することができる。
【0024】
本発明は、発毛を促進するためのサプリメントを提供する。本発明のサプリメントは、上記本発明の発毛促進剤を含むものであればよい。本発明のサプリメントは、経口用の固形剤(錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤等)又は経口用の液剤等の形態で実施することができる。これらの製剤は、上記と同様の手法により製剤化することができる。
【0025】
本発明は、飲食品そのものではなく、発毛を促進するための卵黄タンパク質加水分解物が添加又は増量されている飲食品を提供する。本発明の飲食品は、上記本発明の発毛促進剤を含むものであればよい。飲食品には、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、病者用食品が含まれる。飲食品の形態は特に限定されないが、例えば、自然流動食、半消化態栄養食若しくは成分栄養食、又はドリンク剤等の加工形態とすることもできる。飲食品の形態として、例えば茶飲料、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料、そば、うどん、中華麺、即席麺等の麺類、飴、キャンディー、ガム、チョコレート、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子、パン等の菓子及びパン類、かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品、加工乳、発酵乳等の乳製品、サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品、ソース、たれ等の調味料、カレー、シチュー、丼、お粥、雑炊等のレトルトパウチ食品、アイスクリーム、シャーベット、かき氷等の冷菓などを挙げることができる。また、本発明の飲食品は、発毛促進をコンセプトとする旨が表示されている特定保健用食品、サプリメント、栄養補助食品、機能性食品等を含む。また、本発明の飲食品は、乳糖、デンプン、結晶セルロース、リン酸ナトリウム等の医薬用賦形剤を含んでいてもよい。
【0026】
本発明は、飲食品そのものではなく、発毛を促進するための食品添加剤を提供する。本発明の食品添加剤は、上記本発明の発毛促進剤を含むものであればよい。本発明の食品添加剤の形態は特に限定されないが、例えば、液状、ペースト状、粉末状、フレーク状、顆粒状等が挙げられる。本発明の食品添加剤には、飲料用の添加剤も含まれる。本発明の食品添加剤は、一般的な食品添加剤の製造方法に準じて製造することができる。
【0027】
本発明は、発毛を促進するための飼料を提供する。本発明の飼料は、上記本発明の発毛促進剤を含むものであればよい。飼料としては、例えば、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、リャマ、アルパカ、ラクダ、ウサギ、ミンク、キツネ、チンチラ、ガチョウ、アヒル等の家畜用飼料、イヌ、ネコ等のペット用飼料などが挙げられる。本発明の飼料は、飼料中に本発明の発毛促進剤等を添加する以外、一般的な飼料の製造方法を用いて加工製造することができる。
【0028】
本発明の発毛促進剤の有効成分である卵黄タンパク質加水分解物は、食経験の長い卵黄に存在する成分であるため安全性が高く、作用がマイルドであり長期間の摂取又は使用が可能である。また、有効成分の卵黄タンパク質加水分解物は、複数の作用を兼ね備えた多機能成分であり、発毛促進のために使用される他の有効成分と組み合わせて使用することにより、相加的又は相乗的な効果の向上が期待できる。発毛促進のために使用される他の有効成分としては、ミノキシジル、フィナステリド等が挙げられる。
【0029】
本発明には、卵黄タンパク質加水分解物の有効量を発毛促進が必要なヒトに投与する発毛促進方法が含まれる。また、卵黄タンパク質加水分解物を発毛促進が必要なヒトに経口的に摂取させる非治療的な発毛促進方法も含まれる。なお、「非治療的」とは、医療行為、すなわち治療による人体又は動物の体への処置行為を含まない概念である。
【0030】
本発明は、本発明の発毛促進剤の有効量を、発毛を促進することが必要な動物に投与することを特徴とする発毛促進方法を包含する。動物は特に限定されないが、例えば、ヒト、ヒト以外の哺乳動物等であってもよい。ヒト以外の哺乳動物は、特に限定されないが、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、リャマ、アルパカ、ラクダ、ウサギ、ミンク、キツネ、チンチラ、ガチョウ、アヒル等が挙げられる。
本発明は、発毛促進のための本発明の発毛促進剤の使用を含む。
本発明は、発毛促進のために使用する本発明の発毛促進剤を含む。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
〔実施例1:卵黄タンパク質加水分解物の製造〕
(1)脱脂卵黄の調製
卵黄粉末1kgにエタノール5Lを加え、ブレンダーで30分間攪拌したのち固形物を回収した。この操作を3回繰り返して卵黄から脱脂を行い、風乾し、568gの脱脂卵黄粉末を得た。
(2)卵黄タンパク質加水分解物の調製
(1)で得られた脱脂卵黄粉末500gに水2.5kg及びノボザイムズ社製のアルカラーゼ(商品名、Bacillus licheniformis 由来のプロテアーゼ)25gを加え、pHを7にあわせて、55℃で3時間酵素反応させ、その後、80℃で15分間の熱処理で酵素を失活させ、3000×gで20分間遠心分離し、不溶物を除去し、ろ過後、ろ液をスプレー乾燥して、約140gの卵黄タンパク質加水分解物を得た。
【0033】
得られた卵黄タンパク質加水分解物について、以下の条件のゲル濾過クロマトグラフィーで分子量の分析を行った。
カラム:Diol 60(6.0×300mm)(商品名、ワイエムシイ社製)
溶出液:0.2Mリン酸カリウム緩衝液、0.2M NaCl(pH6.9)/アセトニトリル(70:30)
流速:0.7ml/分
検出波長:280nm
分子量分析の結果を図1に示した。図1から、実施例1の卵黄タンパク質加水分解物はタンパク質・ペプチド・アミノ酸の合計を示す全面積に対して、分子量100以上20,000以下の部分の面積比が約90%を占めることが明らかとなった。
【0034】
〔実施例2:動物試験(C3Hマウスを用いた育毛作用の評価)〕
マウスは、日本エスエルシー株式会社が取り扱うSPF C3H/HeN Slc(雄性)を使用した。各試験群の平均体重がなるべく均等になるよう無作為に個体を振り分けた。マウスの飼育条件は1ケージあたり5匹、室温25℃、明暗12時間サイクルとした。
6週齢のマウスを購入した後、1週間の予備飼育を行い、試験環境に馴化させた。7週齢となったマウスの背部被毛を安全カミソリで剃毛した。
試験開始前において、飼料は固型飼料CRF−1(オリエンタル酵母工業株式会社)を、飲料水は公共水道水をそれぞれ自由に摂取させた。
【0035】
試験条件を表1に示した。
【0036】
【表1】
【0037】
剃毛の3日後に試験を開始した。具体的には、各検体投与群には表1に記載の量の卵黄タンパク質加水分解物と通常飼料(CRF−1)と混合した飼料を、陰性対照群には通常飼料(CRF−1)を経口摂取させた。
最終観察日(17日目)には全試験群のマウスを麻酔後に安楽死させて撮影台に固定し、剃毛部を撮影した。撮影した画像から画像解析ソフトを用いて被毛再生部の面積を定量化し、発毛促進効果の有無を判定した。
【0038】
卵黄タンパク質加水分解物混合飼料経口摂取17日目におけるマウス被毛再生面積の結果を図2に示した。また、通常飼料又は卵黄タンパク質加水分解物混合飼料経口摂取17日目におけるマウス背部被毛の様子を比較した結果を図3に示した。卵黄タンパク質加水分解物の経口摂取群では、卵黄タンパク質加水分解物の摂取量に依存して被毛再生が促進され、100mg/kg以上で有意差が認められた。
【0039】
〔実施例3:細胞試験(毛乳頭細胞を用いた成長因子の測定)〕
(1)血管内皮細胞増殖因子(VEGF)産生量の測定
対数増殖期にあるヒト頭髪毛乳頭細胞(HFDPC、Cell Applications, Inc.)を毛乳頭細胞増殖培地(PCGM、Cell Applications, Inc.)で3×10cells/mlに調製し、1mlを24−well plate(collagen−coated)に植え継いで前培養を行った。
顕微鏡観察によって細胞の生育状況を確認した後、培養液全量を交換した。
培養液中に各サンプルを添加してインキュベートを開始した。この際、卵黄タンパク質加水分解物をPBS(−)に100mg/ml又は500mg/mlとなるように溶解し、それぞれ培養液全量に対して1%となるように添加した(最終濃度1mg/ml又は5mg/ml)。また、VEGFを産生促進するモデル薬剤として、ミノキシジル(Sigma-Aldrich Co. LLC.)をエタノールに3mMとなるように溶解し、培養液全量に対して1%となるように添加した(最終濃度30μM)。
2日間のインキュベート後、Human VEGF ELISAキット(R&D SYSTEMS)を用いて培養液中のVEGF濃度を測定した。
【0040】
結果を図4に示した。卵黄タンパク質加水分解物の添加濃度に依存して毛乳頭細胞から培養液中に分泌されたVEGF量が増加することを確認した。
【0041】
(2)線維芽細胞増殖因子−7(FGF−7)mRNA発現量の測定
対数増殖期にあるヒト頭髪毛乳頭細胞をDMEM培地(10%血清)で3×10cells/mlに調製し、1mlを24−well plate(collagen−coated)に植え継いで前培養を行った。
培養液全量を除いて無血清DMEM培地に置換した。その後、速やかに各サンプルを培養液中に添加し、COインキュベーター内で2時間インキュベートした。この際、卵黄タンパク質加水分解物をPBS(−)に100mg/mlとなるように溶解し、培養液全量に対して1%となるように添加した(最終濃度1mg/ml)。また、FGF−7の発現誘導剤として、アデノシン(和光純薬工業株式会社製)をDMSOに10mMとなるように溶解し、培養液全量に対して1%となるように添加した(最終濃度100μM)。
培養液全量を除き、速やかに細胞を1mlのISOGEN2(ニッポンジーン)に溶解し、製造会社が推奨するプロトコルに従ってtotal RNAを精製した。これを鋳型とし、PrimeScript RT reagent kit (Takara)を用いて、製造会社が推奨するプロトコルに従ってcDNAを合成した。この反応液を鋳型とし、SYBR Premix EX Taqに(Takara)及びLightCycler 480(Roche)を用いて、それぞれ製造会社が推奨するプロトコルに従ってreal−time PCRを行った。この際使用したプライマーの塩基配列を表2に示した。
【0042】
【表2】
【0043】
結果を図5に示した。卵黄タンパク質加水分解物を培養液中に添加することにより、FGF−7のmRNA量が増加することが示された。
【0044】
(3)インスリン様成長因子(IGF−1)mRNA発現量の測定
対数増殖期にあるヒト頭髪毛乳頭細胞をDMEM培地(10%血清)で3×10cells/mlに調製し、1mlを24−well plate(collagen−coated)に植え継いで前培養を行った。
培養液全量を除いて無血清DMEM培地に置換した。その後、速やかにサンプルを培養液中に添加し、CO2インキュベーター内で4時間インキュベートした。この際、卵黄タンパク質加水分解物をPBS(−)に100mg/mlとなるように溶解し、培養液全量に対して1%となるように添加した(最終濃度1mg/ml)。また、IGF−1の発現誘導剤として、AdenosineをDMSOに10mMとなるように溶解し、培養液全量に対して1%となるように添加した(最終濃度100μM)。
培養液全量を除き、速やかに細胞を1mlのISOGEN2(ニッポンジーン)に溶解し、製造会社が推奨するプロトコルに従ってtotal RNAを精製した。これを鋳型とし、PrimeScript RT reagent kit (Takara)を用いて、製造会社が推奨するプロトコルに従ってcDNAを合成した。この反応液を鋳型とし、SYBR Premix EX Taqに(Takara)及びLightCycler 480(Roche)を用いて、それぞれ製造会社が推奨するプロトコルに従ってreal−time PCRを行った。この際使用したプライマーの塩基配列を表3に示した。
【0045】
【表3】
【0046】
結果を図6に示した。卵黄タンパク質加水分解物を培養液中に添加することにより、IGF−1のmRNA量が増加することが示された。
【0047】
〔実施例4:動物試験(C57BL/6マウスを用いた成長期誘導作用の評価)〕
マウスは、日本チャールス・リバー株式会社が取り扱うC57BL/6(雌性)を使用した。各試験群の平均体重がなるべく均等になるよう無作為に個体を振り分けた。マウスの飼育条件は1ケージあたり5匹、室温25℃、明暗12時間サイクルとした。
6週齢のマウスを購入した後、1週間の予備飼育を行い、試験環境に馴化させた。7週齢となったマウスの背部被毛を市販の除毛クリームで脱毛した。
試験開始前において、飼料は固型飼料CRF−1(オリエンタル酵母工業株式会社)を、飲料水は公共水道水をそれぞれ自由に摂取させた。
【0048】
試験条件を表4に示した。
【表4】
【0049】
7週齢のC57BL/6マウスは毛周期が休止期にあるが、脱毛刺激によってしだいに成長期へと移行する。脱毛から3日後に試験を開始した。具体的には、各検体投与群には表4に記載の量の卵黄タンパク質加水分解物と通常飼料(CRF−1)と混合した飼料を、陰性対照群にはカゼインを混合させた通常飼料(CRF−1)を経口摂取させた。
最終観察日(投与9日目)には全試験群のマウスを麻酔後に安楽死させ、背部皮膚を電気シェーバーで剃毛し、正中線の両側の皮膚(耳の付け根より下側)を摘出した。摘出した皮膚を10%中性緩衝ホルマリン液に固定し、体軸に平行な4μmのパラフィン切片を作製してHE染色を行った。この際、各群について500個の毛包を観察し、成熟した成長期(Anagen VI)にある毛包の頻度を計測した。
【0050】
卵黄タンパク質加水分解物の経口摂取群では、カゼインの経口摂取群に比べてAnagen VIにある毛包の頻度が増加した。このことから、卵黄タンパク質加水分解物は経口摂取によって成長期毛包の成熟化を誘導し、発毛促進作用を示すことが示された。
【0051】
〔実施例5:動物試験(男性ホルモンによる休止期誘導における育毛作用の評価)〕
マウスは、日本チャールス・リバー株式会社が取り扱うC57BL/6(雌性)を使用した。各試験群の平均体重がなるべく均等になるよう無作為に個体を振り分けた。マウスの飼育条件は1ケージあたり3匹、室温25℃、明暗12時間サイクルとした。
6週齢のマウスを購入した後、1週間の予備飼育を行い、試験環境に馴化させた。7週齢となったマウスの背部被毛を市販の除毛クリームで脱毛した。
試験開始前において、飼料は固型飼料CRF−1(オリエンタル酵母工業株式会社)を、飲料水は公共水道水をそれぞれ自由に摂取させた。
【0052】
7週齢のC57BL/6マウスは毛周期が休止期にあるが、脱毛刺激によってしだいに成長期へと移行する。そこで、そのような毛周期の移行を抑制するため、脱毛後より男性ホルモンの投与を行った。具体的には、ジヒドロテストステロン(DHT)を20質量%のエタノールを含むリン酸緩衝生理食塩液に2mg/mlとなるように溶解し、一日おきに100μlを脱毛部の皮下に注射した。また、脱毛の2日後より飼料を表5に示した混合飼料を与え、自由に摂取させた。
【0053】
【表5】
【0054】
最終観察日(投与14日目)には全試験群のマウスを麻酔下で撮影台に固定し、脱毛部を撮影した。図7に示したように、DHTを投与していないカゼイン混合飼料群では背面が黒色に変化し、発毛が確認されたが、DHTの投与によってそのような黒色化が抑制された。一方で、DHTを投与したカゼイン混合飼料群に比べて、卵黄タンパク質加水分解物混合飼料群では皮膚が黒色化した部位が増加しており、発毛が認められた。これらのことから、卵黄タンパク質加水分解物の経口摂取によって休止期から成長期への移行が誘導され、発毛が促進されることが示された。
【0055】
なお本発明は上述した各実施形態及び実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は発毛促進剤として有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]