【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
〔実施例1:卵黄タンパク質加水分解物の製造〕
(1)脱脂卵黄の調製
卵黄粉末1kgにエタノール5Lを加え、ブレンダーで30分間攪拌したのち固形物を回収した。この操作を3回繰り返して卵黄から脱脂を行い、風乾し、568gの脱脂卵黄粉末を得た。
(2)卵黄タンパク質加水分解物の調製
(1)で得られた脱脂卵黄粉末500gに水2.5kg及びノボザイムズ社製のアルカラーゼ(商品名、Bacillus licheniformis 由来のプロテアーゼ)25gを加え、pHを7にあわせて、55℃で3時間酵素反応させ、その後、80℃で15分間の熱処理で酵素を失活させ、3000×gで20分間遠心分離し、不溶物を除去し、ろ過後、ろ液をスプレー乾燥して、約140gの卵黄タンパク質加水分解物を得た。
【0033】
得られた卵黄タンパク質加水分解物について、以下の条件のゲル濾過クロマトグラフィーで分子量の分析を行った。
カラム:Diol 60(6.0×300mm)(商品名、ワイエムシイ社製)
溶出液:0.2Mリン酸カリウム緩衝液、0.2M NaCl(pH6.9)/アセトニトリル(70:30)
流速:0.7ml/分
検出波長:280nm
分子量分析の結果を
図1に示した。
図1から、実施例1の卵黄タンパク質加水分解物はタンパク質・ペプチド・アミノ酸の合計を示す全面積に対して、分子量100以上20,000以下の部分の面積比が約90%を占めることが明らかとなった。
【0034】
〔実施例2:動物試験(C3Hマウスを用いた育毛作用の評価)〕
マウスは、日本エスエルシー株式会社が取り扱うSPF C3H/HeN Slc(雄性)を使用した。各試験群の平均体重がなるべく均等になるよう無作為に個体を振り分けた。マウスの飼育条件は1ケージあたり5匹、室温25℃、明暗12時間サイクルとした。
6週齢のマウスを購入した後、1週間の予備飼育を行い、試験環境に馴化させた。7週齢となったマウスの背部被毛を安全カミソリで剃毛した。
試験開始前において、飼料は固型飼料CRF−1(オリエンタル酵母工業株式会社)を、飲料水は公共水道水をそれぞれ自由に摂取させた。
【0035】
試験条件を表1に示した。
【0036】
【表1】
【0037】
剃毛の3日後に試験を開始した。具体的には、各検体投与群には表1に記載の量の卵黄タンパク質加水分解物と通常飼料(CRF−1)と混合した飼料を、陰性対照群には通常飼料(CRF−1)を経口摂取させた。
最終観察日(17日目)には全試験群のマウスを麻酔後に安楽死させて撮影台に固定し、剃毛部を撮影した。撮影した画像から画像解析ソフトを用いて被毛再生部の面積を定量化し、発毛促進効果の有無を判定した。
【0038】
卵黄タンパク質加水分解物混合飼料経口摂取17日目におけるマウス被毛再生面積の結果を
図2に示した。また、通常飼料又は卵黄タンパク質加水分解物混合飼料経口摂取17日目におけるマウス背部被毛の様子を比較した結果を
図3に示した。卵黄タンパク質加水分解物の経口摂取群では、卵黄タンパク質加水分解物の摂取量に依存して被毛再生が促進され、100mg/kg以上で有意差が認められた。
【0039】
〔実施例3:細胞試験(毛乳頭細胞を用いた成長因子の測定)〕
(1)血管内皮細胞増殖因子(VEGF)産生量の測定
対数増殖期にあるヒト頭髪毛乳頭細胞(HFDPC、Cell Applications, Inc.)を毛乳頭細胞増殖培地(PCGM、Cell Applications, Inc.)で3×10
4cells/mlに調製し、1mlを24−well plate(collagen−coated)に植え継いで前培養を行った。
顕微鏡観察によって細胞の生育状況を確認した後、培養液全量を交換した。
培養液中に各サンプルを添加してインキュベートを開始した。この際、卵黄タンパク質加水分解物をPBS(−)に100mg/ml又は500mg/mlとなるように溶解し、それぞれ培養液全量に対して1%となるように添加した(最終濃度1mg/ml又は5mg/ml)。また、VEGFを産生促進するモデル薬剤として、ミノキシジル(Sigma-Aldrich Co. LLC.)をエタノールに3mMとなるように溶解し、培養液全量に対して1%となるように添加した(最終濃度30μM)。
2日間のインキュベート後、Human VEGF ELISAキット(R&D SYSTEMS)を用いて培養液中のVEGF濃度を測定した。
【0040】
結果を
図4に示した。卵黄タンパク質加水分解物の添加濃度に依存して毛乳頭細胞から培養液中に分泌されたVEGF量が増加することを確認した。
【0041】
(2)線維芽細胞増殖因子−7(FGF−7)mRNA発現量の測定
対数増殖期にあるヒト頭髪毛乳頭細胞をDMEM培地(10%血清)で3×10
4cells/mlに調製し、1mlを24−well plate(collagen−coated)に植え継いで前培養を行った。
培養液全量を除いて無血清DMEM培地に置換した。その後、速やかに各サンプルを培養液中に添加し、CO
2インキュベーター内で2時間インキュベートした。この際、卵黄タンパク質加水分解物をPBS(−)に100mg/mlとなるように溶解し、培養液全量に対して1%となるように添加した(最終濃度1mg/ml)。また、FGF−7の発現誘導剤として、アデノシン(和光純薬工業株式会社製)をDMSOに10mMとなるように溶解し、培養液全量に対して1%となるように添加した(最終濃度100μM)。
培養液全量を除き、速やかに細胞を1mlのISOGEN2(ニッポンジーン)に溶解し、製造会社が推奨するプロトコルに従ってtotal RNAを精製した。これを鋳型とし、PrimeScript RT reagent kit (Takara)を用いて、製造会社が推奨するプロトコルに従ってcDNAを合成した。この反応液を鋳型とし、SYBR Premix EX Taqに(Takara)及びLightCycler 480(Roche)を用いて、それぞれ製造会社が推奨するプロトコルに従ってreal−time PCRを行った。この際使用したプライマーの塩基配列を表2に示した。
【0042】
【表2】
【0043】
結果を
図5に示した。卵黄タンパク質加水分解物を培養液中に添加することにより、FGF−7のmRNA量が増加することが示された。
【0044】
(3)インスリン様成長因子(IGF−1)mRNA発現量の測定
対数増殖期にあるヒト頭髪毛乳頭細胞をDMEM培地(10%血清)で3×10
4 cells/mlに調製し、1mlを24−well plate(collagen−coated)に植え継いで前培養を行った。
培養液全量を除いて無血清DMEM培地に置換した。その後、速やかにサンプルを培養液中に添加し、CO
2インキュベーター内で4時間インキュベートした。この際、卵黄タンパク質加水分解物をPBS(−)に100mg/mlとなるように溶解し、培養液全量に対して1%となるように添加した(最終濃度1mg/ml)。また、IGF−1の発現誘導剤として、AdenosineをDMSOに10mMとなるように溶解し、培養液全量に対して1%となるように添加した(最終濃度100μM)。
培養液全量を除き、速やかに細胞を1mlのISOGEN2(ニッポンジーン)に溶解し、製造会社が推奨するプロトコルに従ってtotal RNAを精製した。これを鋳型とし、PrimeScript RT reagent kit (Takara)を用いて、製造会社が推奨するプロトコルに従ってcDNAを合成した。この反応液を鋳型とし、SYBR Premix EX Taqに(Takara)及びLightCycler 480(Roche)を用いて、それぞれ製造会社が推奨するプロトコルに従ってreal−time PCRを行った。この際使用したプライマーの塩基配列を表3に示した。
【0045】
【表3】
【0046】
結果を
図6に示した。卵黄タンパク質加水分解物を培養液中に添加することにより、IGF−1のmRNA量が増加することが示された。
【0047】
〔実施例4:動物試験(C57BL/6マウスを用いた成長期誘導作用の評価)〕
マウスは、日本チャールス・リバー株式会社が取り扱うC57BL/6(雌性)を使用した。各試験群の平均体重がなるべく均等になるよう無作為に個体を振り分けた。マウスの飼育条件は1ケージあたり5匹、室温25℃、明暗12時間サイクルとした。
6週齢のマウスを購入した後、1週間の予備飼育を行い、試験環境に馴化させた。7週齢となったマウスの背部被毛を市販の除毛クリームで脱毛した。
試験開始前において、飼料は固型飼料CRF−1(オリエンタル酵母工業株式会社)を、飲料水は公共水道水をそれぞれ自由に摂取させた。
【0048】
試験条件を表4に示した。
【表4】
【0049】
7週齢のC57BL/6マウスは毛周期が休止期にあるが、脱毛刺激によってしだいに成長期へと移行する。脱毛から3日後に試験を開始した。具体的には、各検体投与群には表4に記載の量の卵黄タンパク質加水分解物と通常飼料(CRF−1)と混合した飼料を、陰性対照群にはカゼインを混合させた通常飼料(CRF−1)を経口摂取させた。
最終観察日(投与9日目)には全試験群のマウスを麻酔後に安楽死させ、背部皮膚を電気シェーバーで剃毛し、正中線の両側の皮膚(耳の付け根より下側)を摘出した。摘出した皮膚を10%中性緩衝ホルマリン液に固定し、体軸に平行な4μmのパラフィン切片を作製してHE染色を行った。この際、各群について500個の毛包を観察し、成熟した成長期(Anagen VI)にある毛包の頻度を計測した。
【0050】
卵黄タンパク質加水分解物の経口摂取群では、カゼインの経口摂取群に比べてAnagen VIにある毛包の頻度が増加した。このことから、卵黄タンパク質加水分解物は経口摂取によって成長期毛包の成熟化を誘導し、発毛促進作用を示すことが示された。
【0051】
〔実施例5:動物試験(男性ホルモンによる休止期誘導における育毛作用の評価)〕
マウスは、日本チャールス・リバー株式会社が取り扱うC57BL/6(雌性)を使用した。各試験群の平均体重がなるべく均等になるよう無作為に個体を振り分けた。マウスの飼育条件は1ケージあたり3匹、室温25℃、明暗12時間サイクルとした。
6週齢のマウスを購入した後、1週間の予備飼育を行い、試験環境に馴化させた。7週齢となったマウスの背部被毛を市販の除毛クリームで脱毛した。
試験開始前において、飼料は固型飼料CRF−1(オリエンタル酵母工業株式会社)を、飲料水は公共水道水をそれぞれ自由に摂取させた。
【0052】
7週齢のC57BL/6マウスは毛周期が休止期にあるが、脱毛刺激によってしだいに成長期へと移行する。そこで、そのような毛周期の移行を抑制するため、脱毛後より男性ホルモンの投与を行った。具体的には、ジヒドロテストステロン(DHT)を20質量%のエタノールを含むリン酸緩衝生理食塩液に2mg/mlとなるように溶解し、一日おきに100μlを脱毛部の皮下に注射した。また、脱毛の2日後より飼料を表5に示した混合飼料を与え、自由に摂取させた。
【0053】
【表5】
【0054】
最終観察日(投与14日目)には全試験群のマウスを麻酔下で撮影台に固定し、脱毛部を撮影した。
図7に示したように、DHTを投与していないカゼイン混合飼料群では背面が黒色に変化し、発毛が確認されたが、DHTの投与によってそのような黒色化が抑制された。一方で、DHTを投与したカゼイン混合飼料群に比べて、卵黄タンパク質加水分解物混合飼料群では皮膚が黒色化した部位が増加しており、発毛が認められた。これらのことから、卵黄タンパク質加水分解物の経口摂取によって休止期から成長期への移行が誘導され、発毛が促進されることが示された。
【0055】
なお本発明は上述した各実施形態及び実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。