(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6393823
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】ガスエンジンの燃焼室構造
(51)【国際特許分類】
F02B 19/18 20060101AFI20180910BHJP
F02B 19/12 20060101ALI20180910BHJP
F02M 21/02 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
F02B19/18 A
F02B19/12 E
F02M21/02 Q
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-253881(P2017-253881)
(22)【出願日】2017年12月28日
【審査請求日】2017年12月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平山 永遠
(72)【発明者】
【氏名】稲岡 拓也
(72)【発明者】
【氏名】宮本 世界
(72)【発明者】
【氏名】柏木 駿伸
【審査官】
松永 謙一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−077844(JP,A)
【文献】
実開平06−047632(JP,U)
【文献】
実開平05−021149(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 19/18
F02B 19/12
F02M 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドとピストンの間に形成された主燃焼室と、
前記主燃焼室の中心線上で前記シリンダヘッドに取り付けられた副室部材の内部に形成された副燃焼室であって、前記副室部材に放射状に設けられた複数のノズルによって前記主燃焼室と連通する副燃焼室と、を備え、
前記ピストンが上死点に位置するときに、少なくとも、前記ピストンの半径の1/2の半径で規定される中央領域において、前記シリンダヘッドと前記ピストンの間隔が前記副室部材から遠ざかるにつれて広がっており、かつ、前記複数のノズルのそれぞれの中心線の延長線である火炎噴射軸から前記シリンダヘッドまでの距離と前記火炎噴射軸から前記ピストンまでの距離が実質的に等しく、
前記火炎噴射軸は、前記ピストンが上死点に位置するときに、前記主燃焼室の周面まで前記ピストンと干渉しない、ガスエンジンの燃焼室構造。
【請求項2】
前記火炎噴射軸は、前記副室部材から遠ざかるにつれて前記ピストンに向かって倒れるように傾斜しており、
前記ピストンの頂き面は、少なくとも前記中央領域において径方向外側に向かって下り勾配となるテーパー状である、請求項1に記載のガスエンジンの燃焼室構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主燃焼室および副燃焼室を含むガスエンジンの燃焼室構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、燃料ガスと空気の混合ガスを燃焼させるガスエンジンが知られている。このようなガスエンジンの中には、主燃焼室にリーンな混合ガスが導入され、このリーンな混合ガスが、副燃焼室からノズルを通じて噴射される火炎によって点火されるものもある。
【0003】
例えば、特許文献1には、
図4に示すようなガスエンジンの燃焼室構造100が開示されている。具体的に、燃焼室構造100では、シリンダヘッド130とピストン120の間に主燃焼室110が形成されており、主燃焼室110の中心線111上でシリンダヘッド130に副室部材140が取り付けられている。
【0004】
副室部材140の内部には、副燃焼室150が形成されている。また、副室部材140の主燃焼室110内に突出する先端部には、副燃焼室150と主燃焼室110とを連通させる複数のノズル141が放射状に設けられている。ノズル141の向きは、ピストン120が上死点に位置するときに、ノズル141を通じて噴射される火炎がピストン120の中央付近に衝突するように設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−129788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、
図4に示す燃焼室構造100では、火炎が噴射直後(主燃焼室110の全域に十分に伝播する前)にピストン120に衝突するため、高温である火炎の熱がピストンに奪われる。これにより、燃焼で得られる熱エネルギーが低下する。また、火炎の直線的な噴射がピストン120で物理的に阻害されるために、燃焼速度が遅いという問題もある。これらの要因により、
図4に示す燃焼室構造100では十分な燃焼性能を得ることができない。
【0007】
そこで、本発明は、十分な燃焼性能を得ることができるガスエンジンの燃焼室構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明のガスエンジンの燃焼室構造は、シリンダヘッドとピストンの間に形成された主燃焼室と、前記主燃焼室の中心線上で前記シリンダヘッドに取り付けられた副室部材の内部に形成された副燃焼室であって、前記副室部材に放射状に設けられた複数のノズルによって前記主燃焼室と連通する副燃焼室と、を備え、前記ピストンが上死点に位置するときに、少なくとも、前記ピストンの半径の1/2の半径で規定される中央領域において、前記シリンダヘッドと前記ピストンの間隔が前記副室部材から遠ざかるにつれて広がっており、かつ、前記複数のノズルのそれぞれの中心線の延長線である火炎噴射軸から前記シリンダヘッドまでの距離と前記火炎噴射軸から前記ピストンまでの距離が実質的に等しい、ことを特徴とする。
【0009】
上記の構成によれば、少なくとも中央領域においては、火炎がピストンにもシリンダヘッドにも衝突しない。従って、火炎の噴射直後では、高温の火炎の熱がピストンまたはシリンダヘッドに奪われることがないとともに、燃焼速度が速い。その結果、十分な燃焼性能を得ることができる。
【0010】
前記火炎噴射軸は、前記副室部材から遠ざかるにつれて前記ピストンに向かって倒れるように傾斜しており、前記ピストンの頂き面は、少なくとも前記中央領域において径方向外側に向かって下り勾配となるテーパー状であってもよい。この構成によれば、シリンダヘッドを特殊な形状とする必要がないため、他の部材との取り合いが多いシリンダヘッドの設計上の制約を減らすことができる。
【0011】
前記複数のノズルの向きは、前記ピストンが上死点に位置するときに前記火炎噴射軸が前記ピストンと干渉しないように設定されていてもよい。この構成によれば、火炎が主燃焼室の周面まで直線的に噴射されるので、より優れた燃焼性能を得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、十分な燃焼性能を得ることができるガスエンジンの燃焼室構造が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るガスエンジンの燃焼室構造の断面図である。
【
図2】
図1に示す燃焼室構造の要部の拡大断面図である。
【
図3】本発明の第2実施形態に係るガスエンジンの燃焼室構造の要部の拡大断面図である。
【
図4】従来のガスエンジンの燃焼室構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1および
図2に、本発明の第1実施形態に係るガスエンジンの燃焼室構造1を示す。この燃焼室構造1は、主燃焼室2と副燃焼室7を含む。
【0015】
ガスエンジンは、複数のシリンダ51(
図1では1つのシリンダ51のみを図示)が設けられたシリンダブロック5と、各シリンダ51内に配置されたピストン3と、シリンダ51を覆うシリンダヘッド4を含む。
図1および
図2では、ピストン3が上死点に位置する状態を描いている。
【0016】
主燃焼室2は、シリンダヘッド4とピストン3の間に形成されている。つまり、シリンダヘッド4の下面41が主燃焼室2の天井面であり、ピストン3の頂き面31が主燃焼室2の底面である。
【0017】
図示は省略するが、シリンダヘッド4には、給気ポートおよび排気ポートが設けられている。給気ポートは給気弁(図示せず)により開閉され、排気ポートは排気弁(図示せず)により開閉される。
【0018】
シリンダヘッド4には、主燃焼室2の中心線21上で副室部材6が取り付けられている。この副室部材6は、上述した給気ポートおよび排気ポートの間に位置する。副燃焼室7は、副室部材6の内部に形成されている。
【0019】
副室部材6の主燃焼室2内に突出する先端部には、副燃焼室7と主燃焼室2とを連通させる複数のノズル8が放射状に設けられている。副燃焼室7から主燃焼室2へはノズル8を通じて火炎が噴射される。つまり、各ノズル8の中心線の延長線が火炎噴射軸81である。
【0020】
本実施形態では、ノズル8の向きが、ピストン3が上死点に位置するときに火炎噴射軸81がピストン3と干渉しないように設定されている。具体的に、火炎噴射軸81は、副室部材6から遠ざかるにつれてピストン3に向かって倒れるように傾斜している。換言すれば、火炎噴射軸81は副室部材6から斜め下向きに延びている。ただし、火炎噴射軸81は、副室部材6から真横に延びていてもよい。換言すれば、火炎噴射軸81は、主燃焼室2の中心線21を中心とする径方向と平行であってもよい。あるいは、火炎噴射軸81は、副室部材6から斜め上向きに延びていてもよい。
【0021】
また、本実施形態では、中央領域Aが設定されている。中央領域Aは、ピストン3の半径の1/2の半径で規定される領域である。そして、ピストン3が上死点に位置するときに、少なくとも中央領域Aにおいて、シリンダヘッド4とピストン3の間隔が副室部材6から遠ざかるにつれて広がっている。
【0022】
さらに、本実施形態では、ピストン3が上死点に位置するときに、少なくとも中央領域Aにおいて、火炎噴射軸81からシリンダヘッド4までの距離Dhと火炎噴射軸81からピストン3までの距離Dpが実質的に等しい。なお、距離Dhおよび距離Dpは、火炎噴射軸81と直交する垂線上の、火炎噴射軸81上の同じ点からの距離である。また、「実質的に等しい」とは、距離Dhと距離Dpの差がそれらの一方の±10%の範囲内に収まっていることをいう。
【0023】
ピストン3の頂き面31は、少なくとも中央領域Aにおいて径方向外側に向かって下り勾配となるテーパー状であることが望ましい。本実施形態では、ピストン3の頂き面31が全面に亘って径方向外側に向かって下り勾配となるテーパー状である。
【0024】
シリンダヘッド4の下面は、本実施形態では全面に亘って径方向外側に向かって斜め下向きに傾斜するテーパー状である。ただし、シリンダヘッド4の下面41は、フラット(主燃焼室2の中心線21を中心とする径方向と平行)であってもよい。あるいは、シリンダヘッド4の下面41は、径方向外側に向かって斜め上向きに傾斜するテーパー状であってもよい。
【0025】
以上説明したように、本実施形態の燃焼室構造1Aは、少なくとも中央領域Aにおいて、火炎噴射軸81がピストン3の頂き面31とシリンダヘッド4の下面41の間のほぼ中央を通るように構成されている。つまり、少なくとも中央領域Aにおいては、火炎がピストン3にもシリンダヘッド4にも衝突しない。従って、火炎の噴射直後では、高温の火炎の熱がピストン3またはシリンダヘッド4に奪われることがないとともに、燃焼速度が速い。その結果、十分な燃焼性能を得ることができる。
【0026】
また、本実施形態では、火炎噴射軸81およびピストン3の頂き面31が共に斜め下向きに傾斜しているので、シリンダヘッド4を特殊な形状とする必要がないため、他の部材との取り合いが多いシリンダヘッド4の設計上の制約を減らすことができる。ただし、この効果は、ピストン3の頂き面31が少なくとも中央領域Aにおいて斜め下向きに傾斜していれば得ることができる。
【0027】
(第2実施形態)
図3に、本発明の第2実施形態に係るガスエンジンの燃焼室構造1Bを示す。なお、本実施形態において、第1実施形態と同一構成要素には同一符号を付し、重複した説明は省略する。
【0028】
本実施形態では、シリンダヘッド4の下面41がほぼフラットであるとともに、ピストン3の周縁部が上向きに突出している。より詳しくは、ピストン3の頂き面31は、ピストン3の半径の約4/5の領域では径方向外側に向かって下り勾配となるテーパー状であるが、その外側の領域では径方向外側に向かって上り勾配となるテーパー状である。換言すれば、ピストン3の頂き面31には、ピストンの半径の約4/5の位置に周方向に連続するリング状の溝が形成されている。
【0029】
図3では、ピストン3が上死点に位置する状態を描いている。本実施形態でも、ノズル8の向きが、ピストン3が上死点に位置するときに火炎噴射軸81がピストン3と干渉しないように設定されている。
【0030】
本実施形態でも、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0031】
(その他の実施形態)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0032】
例えば、
図3に示すように、ピストン3の周縁部が上向きに突出する場合は、ピストン3が上死点に位置するときに火炎噴射軸81がピストン3の周縁部に干渉してもよい。ただし、
図2および
図3に示すように、ピストン3が上死点に位置するときに火炎噴射軸81がピストン3の周縁部に干渉しなければ、火炎が主燃焼室2の周面まで直線的に噴射されるので、より優れた燃焼性能を得ることができる。
【符号の説明】
【0033】
1A,1B 燃焼室構造
2 主燃焼室
21 中心線
3 ピストン
4 シリンダヘッド
5 主燃焼室
6 副室部材
7 副燃焼室
8 ノズル
81 火炎噴射軸
【要約】
【課題】十分な燃焼性能を得ることができるガスエンジンの燃焼室構造を提供する。
【解決手段】ガスエンジンの燃焼室構造は、シリンダヘッドとピストンの間に形成された主燃焼室と、主燃焼室の中心線上で前記シリンダヘッドに取り付けられた副室部材の内部に形成された副燃焼室であって、副室部材に放射状に設けられた複数のノズルによって主燃焼室と連通する副燃焼室と、を備え、ピストンが上死点に位置するときに、少なくとも、ピストンの半径の1/2の半径で規定される中央領域において、シリンダヘッドとピストンの間隔が副室部材から遠ざかるにつれて広がっており、かつ、複数のノズルのそれぞれの中心線の延長線である火炎噴射軸からシリンダヘッドまでの距離と火炎噴射軸からピストンまでの距離が実質的に等しい。
【選択図】
図1