(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記接地板には複数のスライド孔が形成されていて、接地板は前記複数のスライド孔を通じて、スライド孔と同数の接地板用アンカーにスライド可能に固定されていることを特徴とする、請求項1に記載の防護柵における支柱の立設構造。
前記複数のスライド孔は互いに平行であって、斜面の傾斜方向と直交する方向に沿って形成されていることを特徴とする、請求項2に記載の防護柵における支柱の立設構造。
【背景技術】
【0002】
一般に防護柵は斜面等に間隔を隔てて立設した複数の支柱と、隣り合う支柱の間に取り付けた防護ネットを基本的な構成要素としていて、防護柵の衝撃吸収性能を高める場合は防護ネットを構成するロープ材の一部や支柱を支える控えロープの一部に緩衝装置を介装している。
防護ネットの大半は金網、金属製または繊維製のロープ、またはこれらの組み合わせで構成されており、支柱はH鋼や鋼管等の鋼材、コンクリート充填鋼管、PC材を埋設したコンクリート充填鋼管等が知られていて、防護柵の衝撃吸収性能に応じて防護ネットや支柱の素材を選択している。
【0003】
一般に防護柵は防護ネットに作用する落石等の崩落物の衝撃力を最終的に支柱で受ける構造であるから、支柱の立設構造は重要になってくる。
支柱の立設構造としては傾倒不能に立設する形態と、傾倒可能に立設する形態が知られている。
支柱を傾倒不能に立設する形態としては、支柱の下部をコンクリート基礎に根入れする形態と(特許文献1)、現地地盤に地中深く根入れする形態(特許文献2)が知られている。
支柱を傾倒可能に立設する形態は、支柱を根入れせずに接地板に傾倒可能に立設する構造であり、支柱の下部にヒンジ要素を設ける形態と(特許文献3,4)、地中へ打ち込んだ支柱用アンカーに保持ロープを繋ぎ、接地板および中空の支柱内に挿通させて支柱の上端に導出した保持ロープの端に緩衝金具を設けた形態である(特許文献5)。
支柱の下部にヒンジ要素を設けた形態では、支柱用控えロープの一部に緩衝装置が介装されていて、通常は支柱用控えロープが支柱の直立状態を維持し、受撃時において支柱用控えロープがスリップすることでヒンジ要素を中心に支柱が谷側へ傾倒する構造になっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の防護柵にはつぎのような解決すべき課題がある。
<1>特許文献1,2に開示されているように、支柱を傾倒不能に立設した防護柵では、衝撃力に耐えるために支柱の根元が変位不能に固定されていて、支柱に伝達される衝撃力を定位置で受ける構造になっている。
そのため、防護ネットから支柱へ伝わる衝撃力の伝達時間が非常に短く、支柱に対して瞬間的に衝撃力が作用するため、防護柵が本来有する衝撃吸収性能を発揮する前に支柱の根元部が突発的に折れ曲がってしまって衝撃吸収性能を十分に発揮できない。
<2>特許文献3,4に開示されている支柱を傾倒可能に立設した防護柵では、受撃時に支柱が傾倒するものの、支柱の根元部に対して瞬間的に衝撃力が作用するために防護柵が本来有する衝撃吸収性能を十分に発揮することができない。
<3>一般的な柔構造の防護柵は、複数の緩衝装置を具備していて、緩衝装置が作動することで衝撃力を吸収する構造になっている。
複数の緩衝装置を使用することで防護柵の衝撃吸収性能は向上するが、受撃後に変形部材の交換やメンテナンスが必要となる。
【0006】
本発明は以上の問題点を解決するために成されたもので、その目的とするところは、受撃時に支柱の下部への応力集中を緩和して支柱の早期変形と座屈を抑制できて、防護柵が本来有する衝撃吸収性能を十分に発揮できる、防護柵における支柱の立設構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、間隔を隔てて立設した複数の支柱と、支柱間に張り巡らした防護ネットを具備し、前記支柱の下部が接地板を介して斜面に立設された防護柵における支柱の立設構造であって、支柱の下部が接地板と共に斜面の特定方向に向けてスライド可能に立設されている。
本発明の他の形態において、前記接地板には複数のスライド孔が形成されていて、接地板は前記複数のスライド孔を通じて、スライド孔と同数の接地板用アンカーにスライド可能に固定されている。
本発明の他の形態において、前記複数のスライド孔は互いに平行であって、斜面の傾斜方向に沿って形成されていてもよいし、斜面の傾斜方向と直交する方向に沿って形成されていてもよいし、斜面の斜め方向に沿って形成されていてもよい。
本発明の他の形態において、前記支柱と接地板が組立式でもよいし、支柱と接地板が予め一体に組み付けられていてもよい。
本発明の他の形態において、前記防護ネットがスパン単位で隣り合う支柱間に取り付けられている。
【発明の効果】
【0008】
本発明は支柱の下部を接地板と共に斜面の特定方向に向けてスライド可能に立設することで、受撃時に支柱の下部をスライドさせて支柱の下部への応力集中を緩和することができる。
そのため、支柱の早期変形と座屈を抑制できて、防護柵が本来有する衝撃吸収性能を十分に発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を参照しながら本発明について説明する。
説明に際し、斜面Gの傾斜方向をY方向、斜面Gの傾斜方向と直交する方向をX方向と定義して説明する。
【0011】
[実施例1]
<1>防護柵の概要
図1を参照して説明すると、本発明は所定の間隔を隔てて立設した複数の支柱10(中間支柱、端末支柱)と、支柱10間に張り巡らした防護ネットを具備した防護柵を前提としている。
本例で例示した防護柵について説明すると、各支柱10は接地板30を介して斜面Gに立設されている。
支柱10の下部は接地板30と共に斜面Gの特定方向に向けてスライド可能である。 本例では支柱10が斜面GのX方向へ向けてスライドする形態について説明する。
支柱10のスライド構造については後述する。
【0012】
複数の支柱10の間にはロープ製のロープネット21と、ロープネット21より網目の小さい金網22が重合して架け渡されている。ロープネット21と金網22とにより防護ネット23を構成している。
ロープネット21を構成する上下の水平ロープ21a,21bの両端部が隣り合う支柱10,10に連結されている。
ロープネット21は支柱のスパン単位で取り付けてもよいし、3本以上の支柱10に跨って取り付けてもよい。この何れの形態にあっても、隣り合うロープネット21の左右各辺は継目が口開きをしないように別途の連結材(ロープ等)で連結しておく。
【0013】
さらに隣り合う支柱10,10の上部間にはロープ製の間隔保持索24が配索されていて、スパン単位で配索された間隔保持索24が隣り合う支柱10,10の間隔を一定に保持し得るようになっている。
金網22は間隔保持索24に垂下して取り付けてもよいし、ロープネット21に取り付けてもよい。
【0014】
各支柱10の真上または隣り合う支柱10の間には山側アンカー40が設けられていて、端末の支柱10の側方には側方アンカー41が設けられている。
これらのアンカー40,41にはグラウンドアンカーやロックボルト等の公知のアンカーが適用される。
【0015】
各支柱10の上部と山側アンカー40との間には山側控えロープ45が配索され、各接地板30と山側アンカー40との間には山側位置決めロープ46が配索されている。
端末の支柱10の上部と側方アンカー41との間には側方控えロープ47が配索され、端末の支柱10の下部と側方アンカー41との間には側方位置決めロープ48が配索されている。
【0016】
本例では控えロープ45,47やロープネット21を構成する水平ロープ21a,21bに公知の緩衝金具を具備させないタイプの防護柵について説明するが、緩衝金具を具備させた防護柵にも適用が可能である。
【0017】
<2>支柱
図2〜4を参照して説明すると、支柱10はその上下部の外周面には
図1に示した間隔保持索24、控えロープ45,47、位置決めロープ48を巻き掛けて係留するためのずれ止めピン11が突設されている。
これら複数のロープの連結手段はずれ止めピン11による係留式に限定されず、支柱10に突設した図外のブラケットに連結するようにしてもよい。
【0018】
また本例では支柱10が中空の管体(鋼管等)で構成する形態について説明するが、支柱10は公知の鋼材(H鋼等)や、鋼管にコンクリートを充填した充填鋼管等の公知の支柱を含むものである。
【0019】
<3>接地板
接地板30は支柱10の下部を位置決めしつつ、支柱10を通じて作用する荷重を斜面Gへ伝達して支持させるための荷重伝達板である。
接地板30の上面には、支柱10の下部を嵌挿可能な外筒31が突設されていて、外筒31の内周面には支柱10の下部を内接可能な筒状のゴム板32が設けられている。
外筒31は放射状に配設された補強リブ34により補強されている。
支柱10の下部をゴム板32に内挿して嵌め込むことで支柱10の下部を接地板30に組み付けできるようになっている。
外筒31とゴム板32は完全な筒体の形態でもよいが、図示するように筒体を縦割りした分割形でもよい。
【0020】
本例では現場への資材の搬送性と現場における施工性をよくするために、支柱10と接地板30を組立式に構成する形態について説明するが、支柱10と接地板30との間を溶接や螺着等の固着手段により連結するようにしてもよい。
【0021】
なお、本例では接地板30に付設した接続フック36に山側位置決めロープ46の一端を連結した形態を示すが、山側位置決めロープ46の一端を直接、支柱10の下部に係留して連結してもよい。
【0022】
<4>支柱と接地板の緊張構造
図2〜4を参照して説明すると、支柱10は支柱10の内部を挿通させた引張材50を介して支柱10と接地板30との間が緊張状態で連結されている。
引張材50は支柱10の内部に挿通可能なロープ材であり、その下部は外筒31の底面である接地板30に起立して設けた吊りフック35と係留している。
引張材50の上部には締付ボルト51が一体に接続されていて、支柱10の上端に順に載置された環状の当板52とスプリング53等を挿通させた締付ボルト51に締付ナット54が螺着されている。
締付ナット54を締め付けて引張材50を緊張することで支柱10と接地板30との間が緊結されて、接地板30に対して支柱10の起立姿勢が保持される。
接地板30は斜面Gに直接接面させて敷設してもよいが、斜面Gに先行して構築した高さ調整用のモルタル層44上に載置すると接地板30の安定性と支圧効果がよくなる。
【0023】
<5>接地板のスライド構造
接地板30は受撃時に斜面GのX方向へ向けたスライドを許容する状態で斜面Gに固定されている。
図2〜4を参照しながら接地板30のスライド構造について詳しく説明する。
【0024】
<5.1>接地板のスライド孔
接地板30のスライド構造について説明すると、接地板30の板面には外筒31を間に挟んで複数のスライド孔33,33が開設されている。複数のスライド孔33,33は互いに平行な関係にあると共に、斜面GのX方向と平行に配置される。
スライド孔33の全長により接地板30のスライド距離が決まるので、防護柵の衝撃吸収性能や現場の設置状況等を考慮してスライド孔33の全長を適宜選択する。
【0025】
<5.2>接地板用アンカー
接地板30を固定する接地板用アンカー42はロックボルト等の公知のアンカーであり、斜面GのY方向に沿った複数箇所に設けられている。
接地板用アンカー42の設置数はスライド孔33と同数であればよい。
接地板用アンカー42の地上部はナット43を螺着可能なようにねじが形成されていて、各スライド孔33に挿通させた接地板用アンカー42の露出したねじ部にナット43を螺着することで接地板30を斜面Gに固定することができる。
【0026】
[防護柵の挙動]
図5,6を参照しながら受撃時における防護柵の挙動、特に支柱10の挙動について説明する。なお、防護柵における落石等の崩落物の基本的な捕捉作用は従来と同様であるので、ここではその説明を省略する。
【0027】
<1>受撃直後における支柱の挙動
図5は崩落物の衝撃Fが防護ネット23に衝突した直後における防護柵の平面モデル図を示していて、各接地板30のスライド孔33は斜面GのX方向と平行に配置されている。
【0028】
防護ネット23に衝撃Fが作用した直後は、防護ネット23が谷側へ向けてはらみ変形を開始すると共に、衝撃Fは防護ネット23を通じて隣り合う各支柱10,10に対して引張力fとして作用する。各支柱10に作用する引張力は接地板30に対して斜面GのX方向へ向けた変位力fとして作用する。
接地板30に対して作用する斜面GのX方向へ向けた変位力fが、接地板用アンカー42に固定されている接地板30の固着力より小さいときは接地板30に変位が生じない。すなわち、支柱10の立設位置は当初のままであり、隣り合う支柱10,10のスパンL
1も変わらない。
したがって、従来の防護柵と同様に衝撃エネルギーを防護ネット23の変形抵抗力と支柱10の強度で以て吸収する。
【0029】
<2>支柱のスライド
図6は防護ネット23の変形量が増大したときにおける防護柵の平面モデル図を示している。
【0030】
防護ネット23の変形量が増大すると、接地板30に対して作用する斜面GのX方向へ向けた変位力fも増大する。
接地板30に対して作用する斜面GのX方向へ向けた変位力fが、接地板用アンカー42に固定されている接地板30の固着力を超えると、接地板30がスライド孔33に沿った斜面GのX方向へ向けてスライド変位する。
すなわち、支柱10の立設位置が当初位置から横に変位するために、隣り合う支柱10,10のスパンL
2が変位前のスパンL
1と比べて僅かに短くなる。
【0031】
支柱10の下部が斜面GのX方向へ向けた変位している間も、防護ネット23の変形抵抗力と支柱10の強度により衝撃吸収材エネルギーを吸収し続ける。
【0032】
このように本発明では、受撃時に支柱10のスライド変位を伴うことで、支柱10に対する荷重の作用時間が長く引き伸ばされるため、衝撃Fのすべてが隣り合う支柱10,10に対して瞬間的に作用することを回避できる。
荷重の作用時間が長くなるとは、支柱10に対してゆっくりと衝撃力が加わることを意味している。
したがって、支柱10が本来有する衝撃吸収性能を十分に発揮できるだけでなく、防護ネット23に対しても衝撃吸収性能を十分に発揮させることができる。
換言すれば、支柱10の下部への応力集中を緩和できて、支柱10の根元部の突発的な折れ曲がりを抑制できる。
【0033】
<3>隣接スパンへの伝播作用
防護ネット23の一部に崩落物が衝突すると、受撃範囲に位置する防護ネット23が谷側へ向けて撓み変形し、防護ネット20の撓み変形抵抗により、衝撃エネルギーを吸収する。
防護ネット23の変形量が増すと、隣り合う支柱10,10が接近方向に向けて変位すると、その外方に位置する防護ネット23を通じて図外の支柱10へも伝播して順次引き寄せられる。
そのため、受撃していないスパンにおいても衝撃エネルギーの吸収に機能することになる。
【0034】
[実施例2]
以降に他の実施例について説明するが、その説明に際し、前記した実施例と同一の部位は同一の符号を付してその詳しい説明を省略する。
【0035】
図7を参照して支柱10の下部を斜面GのY方向に沿ってスライド可能に立設した実施例について説明する。
本実施例では、接地板30に斜面GのY方向に沿って複数のスライド孔33が設けられている。複数のスライド孔33が互いに平行の関係にあることは先の実施例1と同様である。
接地板用アンカー42を介して接地板30を固定することは先の実施例1と同様である。
【0036】
本実施例にあっては、受撃時に支柱10の下部が押圧板30と共に斜面GのY方向に沿ってスライドが可能であり、先の実施例1と同様に受撃時に支柱10のスライド変位を伴うことで、支柱10の下部への応力集中を緩和できて、防護柵が本来有する衝撃吸収性能を十分に発揮できる。
【0037】
[実施例3]
図8を参照して支柱10の下部を斜面Gの斜め方向に沿ってスライド可能に立設した実施例について説明する。
本実施例では、接地板30に斜面Gの斜め方向に沿って複数のスライド孔33が設けられている。
【0038】
本実施例にあっては、受撃時に支柱10の下部が押圧板30と共に斜面Gの斜め方向に沿ってスライドが可能であり、先の実施例1,2と同様に受撃時に支柱10のスライド変位を伴うことで、支柱10の下部への応力集中を緩和できて、防護柵が本来有する衝撃吸収性能を十分に発揮できる。
【課題】受撃時に支柱の下部への応力集中を緩和して支柱の早期変形と座屈を抑制できて、防護柵が本来有する衝撃吸収性能を十分に発揮できる、防護柵における支柱の立設構造を提供する。
【解決手段】支柱10の下部が接地板30を介して斜面Gに立設されていて、接地板30に形成された複数のスライド孔33を通じて接地板30が接地板用アンカー42にスライド可能に固定されていて、受撃時に支柱10の下部が接地板30と共に斜面Gの特定方向に向けてスライド可能に立設されている。