特許第6393910号(P6393910)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6393910船舶、及び、船舶のスラッジ堆積量低減方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6393910
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】船舶、及び、船舶のスラッジ堆積量低減方法
(51)【国際特許分類】
   B63B 25/08 20060101AFI20180913BHJP
   B63J 2/14 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   B63B25/08 N
   B63J2/14 B
   B63B25/08 D
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-117496(P2014-117496)
(22)【出願日】2014年6月6日
(65)【公開番号】特開2015-229452(P2015-229452A)
(43)【公開日】2015年12月21日
【審査請求日】2017年3月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】518144045
【氏名又は名称】三井E&S造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】島津 吉雄
(72)【発明者】
【氏名】山田 豪
(72)【発明者】
【氏名】村上 健太
【審査官】 米澤 篤
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭53−8870(JP,A)
【文献】 実開昭58−111700(JP,U)
【文献】 特開昭57−110576(JP,A)
【文献】 特開2000−118482(JP,A)
【文献】 特開2004−217688(JP,A)
【文献】 特開昭54−55988(JP,A)
【文献】 特公昭49−2748(JP,B1)
【文献】 特開昭59−67195(JP,A)
【文献】 特開平04−56691(JP,A)
【文献】 実開昭48−1591(JP,U)
【文献】 実開平4−137998(JP,U)
【文献】 実開平2−108699(JP,U)
【文献】 実開平1−144757(JP,U)
【文献】 実開昭55−135697(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 25/08
B63J 2/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貨物油タンクの底面全体に加熱管を張り巡らすことなく、原油を貨物油タンクに積載して運搬する船舶において、
前記貨物油タンクの内部の隔壁と底板との隅部に設けるブラケットにおける前記隔壁と前記底板とで構成されるコーナー部に開口部を設けるか、又は、前記隔壁に設けられた垂直方向の桁材の下部の一部又は全部で、前記垂直方向の桁材の下部における前記隔壁と前記底板とで構成されるコーナー部に開口部を設けるかすると共に、
前記隔壁と前記底板との隅部において、前記開口部を通して、又は、前記開口部の近傍まで、加熱管を設けたことを特徴とする船舶。
【請求項2】
前記貨物油タンクの洗浄水又は洗浄油の吸引口を前記貨物油タンクの後部に設けると共に、前記加熱管を船長方向に延びる隔壁の下部に沿って船長方向に配置して構成することを特徴とする請求項1に記載の船舶。
【請求項3】
前記ブラケットをサポート型のコーナー無しのストラット形式のブラケットとして構成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の船舶。
【請求項4】
前記加熱管は、前記隔壁と前記底板の両方に対して離間して設けることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の船舶。
【請求項5】
貨物油タンクの底面全体に加熱管を張り巡らすことなく、原油を貨物油タンクに積載して運搬する船舶のスラッジ堆積量低減方法において、
前記貨物油タンクの内部の隔壁と底板との隅部に設けるブラケットにおける前記隔壁と前記底板とで構成されるコーナー部に開口部を設けるか、又は、前記隔壁に設けられた垂直方向の桁材の下部の一部又は全部で、前記垂直方向の桁材の下部における前記隔壁と前記底板とで構成されるコーナー部に開口部を設けるかすると共に、
前記隔壁と前記底板との隅部において、前記開口部を通して、又は、前記開口部の近傍まで、加熱管を設けて、
原油の揚げ荷役時又は前記貨物油タンクの洗浄時に、前記加熱管を加熱することにより、前記隔壁と前記底板の隅部に堆積するスラッジのワックス分とアスファルテンを溶解して、スラッジの堆積量を低減することを特徴とする船舶のスラッジ堆積量低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隔壁と直角に位置するブラケットや垂直方向の桁材の下部のコーナー部に堆積するスラッジの量を減少させることができて、ドック入り時のスラッジの陸揚げ量を少なくして、スラッジを陸揚げして陸上設備で処理する際の時間や処理費用を少なくすることができる船舶、及び、船舶のスラッジ堆積量低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原油を積載し運搬するタンカー等の船舶で、貨物油タンクに加熱管を装備しない船舶では、殆どの場合において、その貨物油タンク内には、スラッジと呼ばれる砂、錆、コールタール等の堆積物が貨物油タンクの内部の構造物のブラケットや垂直方向の桁材の下部などに堆積する。
【0003】
より詳細には、図6に示すように、船舶1Aの貨物油タンク10は、船長方向の区切りとして複数配置され、船幅方向に配置される横隔壁11と、船幅方向の区切りとして船長方向に配置される縦通隔壁12とによって、周囲を囲まれている。図6の構成では、縦通隔壁12により、左舷タンク10P,センタータンク10C、右舷タンク10Sに区画されている。
【0004】
この横隔壁11と縦通隔壁12には、これらの壁板を補強する上下方向又は水平方向の桁材が設けられている。そして、これらの横隔壁11又は縦通隔壁12と底板15とで形成される隅部に、ブラケット16が設けられてこのブラケット16により、横隔壁11又は縦通隔壁12と底板15との構造的な接続を補強している。このブラケット16は、この部分に大きな繰り返し荷重が掛かるのを緩和するために設けられている。船舶1Aは二重殻構造であるため、貨物油タンクの底板15上に配置される補強材は。このブラケット16と垂直方向の桁材12aのみである。
【0005】
このブラケット16及び垂直方向の桁材12aの下部は、所定の間隔で横隔壁11又は縦通隔壁12に底板15と直角に設けられているが、貨物油タンク10の洗浄時に洗浄水又は洗浄油が船長方向に縦通隔壁12に沿って流れる際に、堰となってしまいスラッジが溜まってしまう。
【0006】
なお、このブラケット16及び垂直方向の桁材12aの下部に、小さな開口のドレンホールや大きな開口部が設けられていることがあるが、この大きな開口部は、洗浄水又は洗浄油の流れを考慮して設けられたものではなく、溶接しながら走行する自動溶接機を通すためのものであり、おおよそ縦1m、横1m程度の三角形状等の形状で形成される大きな開口である(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
貨物油タンク10の洗浄時には、洗浄水又は洗浄油は貨物油タンク10の後部に設けられた洗浄水又は洗浄油の吸引口まで流れるが、ブラケット16及び垂直方向の桁材12aの下部が流水方向とは直角を成しているため、スラッジは、ブラケット16及び垂直方向の桁材12aの下部のコーナー部に堆積してしまうという問題がある。
【0008】
このスラッジを放置しておくと貨物油タンク内に堆積し続けて、積載が可能な貨物油の量が減少してくるため、このスラッジを除去する必要があり、このスラッジの除去に関しては、現状の原油洗浄では、その船舶の航海の開始時毎に貨物油タンクの合計数の4分の1の数のタンクを洗浄し、4航海で貨物油タンクの全体を洗浄できるようにすることが海洋汚染防止条約に基づく原油洗浄の規則で定められている。
【0009】
また、船舶は、約2年半毎のドック入り時に、貨物油タンクに堆積されたスラッジを陸揚げして陸上施設で処理している。この陸揚げされるスラッジの重量は、20万重量トン〜30万重量トンのVLCC(超大型タンカー船)で100トンから150トン程度となっている。
【0010】
したがって、このスラッジの陸揚げ量を少しでも少なくすることで、陸上で処理する場合に環境的にはより好ましい状況となるので、スラッジの堆積量を少しでも少なくすることが重要な課題となっている。
【0011】
一方、粘度の高い油を輸送する船舶においては、積荷油のタンク内底部に近く高温蒸気管を導通し、且つ、蒸気の戻り管に復水回収装置を附設した筒型加熱ユニットを配設し、該加熱ユニットの上部開口に対向して断面山形の拡散板を下向きに設け、タンク内の油をポンプにより加熱ユニットの下部開口中心に上向きに開口した噴射ノズルからジェット状に拡散板に向かって噴射させるようにして成る船舶における積荷油の加熱装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0012】
また、粘度の高い油を輸送する船舶においては、加熱ユニットを貨物油タンクの床上に取り付けて、蒸気供給管と排気管を取り付けて加熱する二重底を有するタンカーの荷油加熱装置も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0013】
しかしながら、これらの積荷油の加熱装置や荷油加熱装置は、粘度が高くそのままではポンプによる搬送が困難となるような原油の輸送を行うためのものであり、通常状態でポンプ輸送が可能な原油の輸送で堆積するスラッジに関しては触れられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2000―118482号公報
【特許文献2】実開昭48―1591号公報
【特許文献3】実開平4―137998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、隔壁と直角に位置するブラケットのコーナー部に堆積するスラッジの量を減少させることができて、ドック入り時のスラッジの陸揚げ量を少なくして、スラッジを陸揚げして陸上設備で処理する際の時間や処理費用を少なくすることができる船舶、及び、船舶のスラッジ堆積量低減方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記のような目的を達成するための本発明の船舶は、貨物油タンクの底面全体に加熱管を張り巡らすことなく、原油を貨物油タンクに積載して運搬する船舶において、前記貨物油タンクの内部の隔壁と底板との隅部に設けるブラケットにおける前記隔壁と前記底板とで構成されるコーナー部に開口部を設けるか、又は、前記隔壁に設けられた垂直方向の桁材の下部の一部又は全部で、前記垂直方向の桁材の下部における前記隔壁と前記底板とで構成されるコーナー部に開口部を設けるかすると共に、前記隔壁と前記底板との隅部において、前記開口部を通して、又は、前記開口部の近傍まで、加熱管を設けて構成する。
【0017】
なお、この「貨物油タンクの底面全体に加熱管を張り巡らすことなく」は、燃料用のC重油など、非常に粘性の高い油を積んでいる場合に、加熱管を貨物油タンクの底面全体にわたって底面近傍に張り巡らせて、この粘性の高い油の移動の際に、この加熱管に加熱用蒸気を通して、油を加熱して昇温し、油の流動性を高めている貨物油タンクがあるが、このような構造の貨物油タンクを本発明の貨物油タンクから除くことを意味している。
【0018】
この構成によれば、隔壁に沿って配置される加熱管により、貨物油タンクの内部の隔壁と底板との隅部で、原油に含まれているワックス分とアスファルテンを溶融させることができ、原油やスラッジの粘性を低下させることができるので、スラッジの堆積を防ぎながら、揚げ荷役やタンク洗浄のときに加熱管を加熱することで、溶融したスラッジの一部を揚げ荷役できたり、洗浄水又は洗浄油で洗浄することができたりする。これにより、スラッジの堆積量を低減することができる。その結果、ドック入り時のスラッジの陸揚げ量を少なくすることができるので、スラッジを陸揚げして陸上設備で処理する際の時間や処理費用を少なくすることができる。
【0019】
なお、この加熱管の取り付けは、スラッジが堆積しないように、また、可能な限り流れ易くなるように、流速と流速方向を工夫することが好ましい。例えば、この加熱管の取り付け方向は、各貨物油タンクの船長方向の縦通隔壁に沿って配置、若しくは、洗浄水又は洗浄油を吸引する側の横隔壁に沿って、若しくは、その両方に沿って、配置することが考えられるが、貨物である原油の性状によっては、各貨物油タンクの四つの周囲の隔壁沿いに配置するとより効果的となる場合もある。
【0020】
また、このブラケットのコーナー部の開口部に関しては、開口部の開口面積の大きさによって堆積する量は多少変化するが、隅部に堆積してしまうので、スラッジの堆積量を極力少なくするためには強度が許す範囲で、開口面積を最大限に大きくすることが好ましいが限度がある。そのため、開口部と加熱管を設けて、加熱管による加熱でスラッジを溶解して洗浄水又は洗浄油と共にスラッジを除去することが有効な手段となる。
【0021】
この開口部は、溜まり水を通過させる役割に、加熱管を通過させる役割を持つので、溜まり水を通過させる役割のドレンホールよりも大きいが、溶接しながら走行する自動溶接機を通すための開口部よりも小さくてよい。
【0022】
上記の船舶において、前記貨物油タンクの洗浄水又は洗浄油の吸引口を前記貨物油タンクの後部に設けると共に、前記加熱管を船長方向に延びる隔壁の下部に沿って船長方向に配置して構成すると、揚げ荷役の後は、タンカー船などの船舶では、船体の姿勢を船尾側に傾斜するようにする(船尾トリムという)ことで、貨物油タンクの洗浄時に、洗浄水又は洗浄油を船尾方向に流すことができ、縦通隔壁の下部に設けたブラケット若しくは垂直方向の桁材の下部の開口部によりこの洗浄水又は洗浄油の流れを阻害することなく、貨物油タンクの後部に設けた吸引口から洗浄水又は洗浄油を排出することができる。
【0023】
上記の船舶において、前記ブラケットをサポート型のコーナー無しのストラット形式のブラケットとして構成すると、ブラケットのコーナー部の開口部の面積も大きくとれるようになり、ブラケットのコーナー部におけるスラッジの堆積量が減少する。なお、このブラケットの開口部の形状は、円弧でも三角形でもどのような形状でもよい。
【0024】
上記の船舶において、前記加熱管は、前記隔壁と前記底板の両方に対して離間して設けるのが好ましい。舷側側の貨物油タンクは側壁の舷側側がバラストタンクになっていて二重構造となって、隣接するバラストタンクの内部は防食のために保護用の塗装が施工されているので、加熱管によりこの塗装表面も加熱されることになるが、隔壁と離間して加熱管を設けることにより、この塗装部の温度が高くならないようにして、この塗装部分の温度を塗装が損傷しない温度範囲内とすることができる。
【0025】
より具体的には、例えば、加熱管の取り付けを、底板側から行うとスラッジの流動性の妨げとなるので、ブラケット若しくは垂直方向の桁材の下部の開口部側から支持部材を出して、受け台、馬、ボルトナット等を使用して、底板から離間した状態に支持して取り付ける。このような構成にすることで、固着する前の、流動性があるスラッジが、ブラケット若しくは垂直方向の桁材の下部の開口部を通過するときに、加熱管の支持構造によって妨げられるのを防止することができる。なお、加熱管の底板の上の設置高さや隔壁からの離間距離に関しては、貨物である原油の性状分析を行い、適正な温度と設置高さ、離間距離の関係を実験等で分析して、最適な設定高さ、離間距離とする。
【0026】
そして、上記のような目的を達成するための本発明の船舶のスラッジ堆積量低減方法は、貨物油タンクの底面全体に加熱管を張り巡らすことなく、原油を貨物油タンクに積載して運搬する船舶のスラッジ堆積量低減方法において、前記貨物油タンクの内部の隔壁と底板との隅部に設けるブラケットにおける前記隔壁と前記底板とで構成されるコーナー部に開口部を設けるか、又は、前記隔壁に設けられた垂直方向の桁材の下部の一部又は全部で、前記垂直方向の桁材の下部における前記隔壁と前記底板とで構成されるコーナー部に開口部を設けるかすると共に、前記隔壁と前記底板との隅部において、前記開口部を通して、又は、前記開口部の近傍まで、加熱管を設けて、原油の揚げ荷役時又は前記貨物油タンクの洗浄時に、前記加熱管を加熱することにより、前記隔壁と前記底板の隅部に堆積するスラッジのワックス分とアスファルテンを溶解して、スラッジの堆積量を低減することを特徴とする方法である。この方法によれば、上記の船舶と同様な効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の船舶、及び、船舶のスラッジ堆積量低減方法によれば、貨物油タンクの内部の隔壁と底板との隅部で、隔壁の下部に沿って配置される加熱管により、貨物油タンクの原油に含まれているワックス分とアスファルテンを溶融することができ、スラッジの堆積を防ぎながら、揚げ荷役やタンク洗浄ができるので、貨物油タンクの内部のスラッジの堆積量を低減することができる。その結果、ドック入り時のスラッジの陸揚げ量を少なくして、スラッジを陸揚げして陸上設備で処理する際の時間や処理費用を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施の形態の船舶の貨物油タンクの構造を示す斜視図である。
図2】本発明の実施の形態の船舶における加熱管の配置を示す貨物油タンク内の部分斜視図である。
図3】本発明の実施の形態の船舶における加熱管の配置を模式的に示す横断面図である。
図4】ブラケット及び垂直方向の桁材の下部の開口部とこの開口部における加熱管の配置を模式的に示す部分断面図である。
図5】本発明の実施の形態の船舶における加熱管の配置を模式的に示す部分平面図である。
図6】超大型タンカー船(VLCC)の貨物油タンクの構造の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る実施の形態の船舶、及び、船舶のスラッジ堆積量低減方法について、図面を参照しながら説明する。この本願発明の対象となる船舶は、貨物油タンクの底面全体に加熱管を張り巡らすことなく、原油を貨物油タンクに積載して運搬する船舶である。
【0030】
図1図3に示すように、この船舶1では、図6に示す従来技術の船舶1Aと同様に、貨物油タンク10は、船長方向の区切りとして複数配置され、船幅方向に配置される横隔壁11と、船幅方向の区切りとして船長方向に配置される縦通隔壁12とによって、周囲を囲まれている。図1の構成では、縦通隔壁12により、左舷タンク10P,センタータンク10C、右舷タンク10Sに区画されている。また、二重底構造が採用され、船底13の上に隙間14を介して底板15が設けられている。
【0031】
そして、センタータンク10Cは、その周囲を前後2つの横隔壁11,11と、左右2つの縦通隔壁12,12によって囲まれている。一方、左舷タンク10Pと右舷タンク10Sは、前後2つの横隔壁11,11と、1つの縦通隔壁12と、舷側側即ち船側外板19側の側面の水密隔壁18によって囲まれている。この舷側側の側面の水密隔壁18の外側がバラストタンク30になっていて二重構造となっている。なお、この隣接するバラストタンク30の内部は防食のために保護用の塗装が施工されている。
【0032】
この横隔壁11と縦通隔壁12には、これらの壁板を補強する上下方向又は水平方向の桁材(図示しない)が設けられ、比較的大きな桁材として、垂直方向の桁材12aが設けられている。そして、横隔壁11又は縦通隔壁12と底板15とで形成される隅部に、所定の間隔でブラケット16が設けられている。このブラケット16により、横隔壁11又は縦通隔壁12と底板15との構造的な接続を補強して、この部分に大きな繰り返し荷重が掛かるのを緩和する。
【0033】
本発明においては、図2及び図3に示すように、このブラケット16をサポート型のコーナー無しのストラット形式のブラケットで構成する。それと共に、ブラケット16のコーナー部の開口部の開口面積を大きくする。つまり、貨物油タンク10の内部の隔壁11等(横隔壁11、縦通隔壁12、舷側側の側面の水密隔壁18:以下、隔壁11等という)と底板15との隅部に設けるブラケット16の一部又は全部で、隔壁11等と底板15とで構成するコーナー部に開口部16aを設ける。また、垂直方向の桁材12aの下部には、開口部12aaを設ける。
【0034】
このような開口部16a及び開口部12aaを採用することで、従来型のブラケットのコーナー部に堆積するスラッジの堆積量に比べて、このブラケット16のコーナー部及び垂直方向の桁材12aの下部のコーナー部におけるスラッジの堆積量を著しく減少させることができる。また、この開口部16a、12aaの開口面積は、スラッジの堆積量を少なくするために強度が許せる範囲で最大限に大きくすることが好ましい。
【0035】
これにより、貨物油タンク10の洗浄時に、洗浄水又は洗浄油が隔壁11等に沿って流れるようにして、ブラケット16と垂直方向の桁材12aの下部のいずれかが堰となってスラッジが溜まるのを避ける。
【0036】
なお、このブラケット16の開口部16a、若しくは、垂直方向の桁材12aの下部の開口部12aaは、隔壁11等に沿って洗浄水又は洗浄油が流れるように、その経路の全部に設けることが好ましいが、強度的な制約がある場合もあるので、その場合は、その構造部分を除いて設ける。このブラケット16の開口部16a、及び、垂直方向の桁材12aの下部の開口部12aaの形状は、円弧でも楕円形でも三角形でもどのような形状でもよい。なお、この実施の形態では、縦通隔壁12の垂直方向の桁材12aを例にしているが、洗浄水又は洗浄油の排出方向に応じて、横隔壁11の垂直方向の桁材に関して、同様な開口部を設けてもよい。
【0037】
そして、本発明においては、さらに,このブラケット16の開口部16a、若しくは、垂直方向の桁材12aの下部の開口部12aaを通して、隔壁11等と底板15の隅部に、加熱管20を設ける。この加熱管20は、隔壁11等と底板15の両方に対して離間して設ける。これにより、舷側側の貨物油タンクの外側(舷側側)に配置されたバラストタンク30の内部の塗装部分に加熱管20からの熱が直接熱伝導しないように考慮して、この塗装部の温度が損傷しない温度範囲内に収まるようにする。なお、加熱管20を開口部16a、12aaを通して設ける替りに、加熱管20を開口部16a、12aaの近傍まで設けて、開口部16a、12aaを通さない構成にしてもよい。
【0038】
この加熱管20の取り付けは、例えば、ブラケット16の開口部16a側から支持部材を出して、受け台、馬、ボルトナット等を使用して、底板15から離間した状態に支持して取り付ける。このような構成にすることで、加熱管20を底板15に載置せずに設けられるので、固着する前の、流動性があるスラッジが、ブラケット16の開口部16a、若しくは、垂直方向の桁材12aの下部の開口部12aaを通過するときに、加熱管20の支持構造によって妨げられるのを防止することができる。
【0039】
なお、加熱管20の底板15の上の設置高さや隔壁からの離間距離に関しては、貨物である原油の性状分析を行い、適正な温度と設置高さ、離間距離の関係を実験等で分析して、最適な設定高さ、離間距離とする。
【0040】
また、この加熱管20の取り付けは、スラッジが堆積しないように可能な限り流れ易くなるように、流速と流速方向を工夫することが好ましい。例えば、この加熱管20の取り付け方向は、各貨物油タンク10の船長方向の縦通隔壁12や側壁の水密隔壁18に沿って配置、若しくは、洗浄水又は洗浄油を吸引する側の横隔壁11に沿って、更には、その両方に沿って、配置することが考えられるが、貨物である原油の性状によっては、各貨物油タンクの四つの周囲の隔壁11等沿いに配置するとより効果的となる場合もある。
【0041】
また、開口部16a、12aaは、溜まり水を通過させる役割に加えて、加熱管20を通過させる役割を持つので、溜まり水を通過させる役割のドレンホールよりも大きいが、溶接しながら走行する自動溶接機を通すための開口部よりも小さくてよい。
【0042】
この隔壁11等に沿って加熱管20を配置した構成により、貨物油タンク10の内部の隔壁11等と底板15との隅部で、原油に含まれているワックス分とアスファルテンを溶融することができ、原油やスラッジの粘性を低下することができる。これにより、スラッジの堆積を防ぎながら、揚げ荷役やタンク洗浄のときに加熱管20を加熱することで、溶融したスラッジの一部を揚げ荷役できたり、洗浄水又は洗浄油で洗浄することができたりするので、スラッジの堆積量を低減することができる。その結果、ドック入り時のスラッジの陸揚げ量を少なくすることができるので、スラッジを陸揚げして陸上設備で処理する際の時間や処理費用を少なくすることができる。
【0043】
また、貨物油タンク10の洗浄水又は洗浄油の吸引口を貨物油タンク10の後部に設けると共に、加熱管を船長方向に延びる隔壁(縦通隔壁12又は舷側側の側面の水密隔壁18:以下、隔壁12等という)の下部に沿って船長方向に配置して構成すると、揚げ荷役の後は、タンカー船などの船舶では、船尾側に機関室や居住区が配置されていることが多いので、船体の姿勢を船尾側に傾斜する船尾トリムにすることで、貨物油タンク10の洗浄時に、洗浄水又は洗浄油を船尾方向に流すことができ、隔壁12等の下部に設けたブラケット16の開口部16a、若しくは、垂直方向の桁材12aの下部の開口部12aaによりこの洗浄水又は洗浄油の流れを阻害することなく、貨物油タンク10の後部に設けた吸引口から洗浄水又は洗浄油を排出することができる。
【0044】
次に、本発明の実施の形態の船舶のスラッジ堆積量低減方法について説明する。この方法は、貨物油タンク10の内部の隔壁11等と底板15との隅部に設けるブラケット16、若しくは、垂直方向の桁材12aの下部の一部又は全部で、隔壁11等と底板15とで構成するコーナー部に開口部16a若しくは開口部12aaを設けると共に、開口部16a、12aaを通して、又は、開口部16a、12aaの近傍まで、隔壁11等と底板15のコーナー部に、加熱管20を設けて、原油の揚げ荷役時又は貨物油タンク10の洗浄時に、加熱管20を加熱することにより、隔壁11等と底板のコーナー部に堆積するスラッジのワックス分とアスファルテンを溶解して、スラッジの堆積量を低減することを特徴とする方法である。
【0045】
上記の構成の船舶1、及び、船舶のスラッジ堆積量低減方法によれば、貨物油タンク10の内部の隔壁11等と底板15との隅部で、隔壁の下部に沿って配置される加熱管20により、貨物油タンク10の原油に含まれているワックス分とアスファルテンを溶融することができ、スラッジの堆積を防ぎながら、揚げ荷役やタンク洗浄ができるので、貨物油タンク10の内部のスラッジの堆積量を低減することができる。
【0046】
その結果、ドック入り時のスラッジの陸揚げ量を少なくして、スラッジを陸揚げして陸上設備で処理する際の時間や処理費用を少なくすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の、船舶、及び、船舶のスラッジ堆積量低減方法によれば、貨物油タンクの内部のスラッジの堆積量を低減できるので、ドック入り時のスラッジの陸揚げ量を少なくして、スラッジを陸揚げして陸上設備で処理する際の時間や処理費用を少なくすることができるので、貨物油タンクの底面全体に加熱管を張り巡らすことなく、原油を貨物油タンクに積載して運搬する多くの船舶に利用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 商用船舶
10 貨物油タンク
10C センタータンク
10P 左舷タンク
10S 右舷タンク
11 横隔壁(隔壁)
12 縦通隔壁(隔壁)
12a 桁材
12aa 開口部
13 船底
14 隙間
15 底板
16 ブラケット
16a 開口部
17 吸引口
18 側面の水密隔壁(隔壁)
19 船側外板
20 加熱管
30 バラストタンク
図1
図2
図3
図4
図5
図6