(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6393929
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】アンジュレータ用磁石、アンジュレータおよび、放射光発生装置
(51)【国際特許分類】
H05H 13/04 20060101AFI20180913BHJP
【FI】
H05H13/04 F
【請求項の数】26
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-174598(P2017-174598)
(22)【出願日】2017年9月12日
【審査請求日】2018年2月8日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「マイクロアンジュレーターの開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504151365
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】512289603
【氏名又は名称】OP電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(72)【発明者】
【氏名】山本 樹
(72)【発明者】
【氏名】谷口 純
【審査官】
大門 清
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−110598(JP,A)
【文献】
国際公開第2016/063740(WO,A1)
【文献】
特開平04−134299(JP,A)
【文献】
特開2001−110599(JP,A)
【文献】
特開平10−027699(JP,A)
【文献】
特開2002−134300(JP,A)
【文献】
米国特許第04800353(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H3/00−15/00
G21K1/00−3/00、
G21K5/00−7/00
H01F7/00−7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に進む電子を蛇行させることで放射光を発生させるアンジュレータに用いるアンジュレータ用永久磁石であって、
前記アンジュレータ用永久磁石は、
前記第1方向の一方の端面が、他のアンジュレータ用永久磁石と連結する第1連結面を構成し、
前記第1方向と直交する第2方向における一方の磁極面において、N極およびS極が前記第1方向に交互に構成されることで複数のピークを有する磁束密度分布を発生させ、
前記複数のピークを、前記第1連結面の側から順に、第mピークPm(mは1以上の整数)と表すと、第1ピークP1の大きさは、第3ピークP3の大きさよりも大きい、
ことを特徴とするアンジュレータ用永久磁石。
【請求項2】
第2ピークP2の大きさは、第4ピークP4の大きさよりも大きい、ことを特徴とする請求項1に記載のアンジュレータ用永久磁石。
【請求項3】
第5ピークP5の大きさは、前記第3ピークP3の大きさよりも大きく、前記第1ピークP1の大きさよりも小さいことを特徴とする請求項1または2に記載のアンジュレータ用永久磁石。
【請求項4】
前記第1ピークP1の大きさは、前記第1連結面の側から奇数番目の前記複数のピークの大きさの平均よりも大きいことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のアンジュレータ用永久磁石。
【請求項5】
前記第3ピークP3の大きさは、前記第1連結面の側から奇数番目の前記複数のピークの大きさの平均よりも小さいことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のアンジュレータ用永久磁石。
【請求項6】
前記複数のピークのうち、前記第1方向の他方の端面の側からみた最初のピークの大きさは、前記第1連結面の側から偶数番目の前記複数のピークの大きさの平均の半分であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のアンジュレータ用永久磁石。
【請求項7】
前記磁極面に形成される複数の磁極幅は、前記第1連結面から前記第1方向の他方の端面に亘って、前記第1方向に沿って等しいことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載のアンジュレータ用永久磁石。
【請求項8】
前記第2方向の前記一方の磁極面および他方の磁極面のうちいずれかにおいて、前記第2方向に凸となる凸状連結部を有することを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載のアンジュレータ用永久磁石。
【請求項9】
前記第1連結面は、前記第1方向に凸となる凸状連結部または前記第1方向に凹となる凹状連結部を有することを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載のアンジュレータ用永久磁石。
【請求項10】
前記第2方向における前記磁極面のうち、前記電子が通過する経路に面する磁極面と反対の磁極面にヨークが取り付けられていることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載のアンジュレータ用永久磁石。
【請求項11】
前記ヨークの前記第1方向の長さは、前記反対の磁極面の前記第1方向の長さよりも短いことを特徴とする請求項10に記載のアンジュレータ用永久磁石。
【請求項12】
前記ヨークの前記第1方向および前記第2方向に直交する第3方向の長さは、前記反対の磁極面の前記第3方向の長さよりも短いことを特徴とする請求項10または11に記載のアンジュレータ用永久磁石。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれか1項に記載のアンジュレータ用永久磁石を互いの前記第1連結面で連結されて形成された磁石対であって、
前記磁石対の一方のアンジュレータ用永久磁石の前記第1方向の磁束密度分布の前記第1連結面の側からみた最初のピークの磁束密度の向きと、前記磁石対の他方のアンジュレータ用永久磁石の前記第1方向の磁束密度分布の前記第1連結面の側からみた最初のピークの磁束密度の向きと、が互いに反対の関係にある、
ことを特徴とする磁石対。
【請求項14】
前記第1方向の他方の端面は、他のアンジュレータ用永久磁石と連結する第2連結面であり、
前記複数のピークを、前記第2連結面の側から順に、第nピークQn(nは1以上の整数)と表すと、第1ピークQ1の大きさは、第3ピークQ3の大きさよりも大きく、
前記第1ピークP1の磁束密度の向きと、前記第1ピークQ1の磁束密度の向きと、は互いに反対の関係にある、
ことを特徴とする請求項1ないし13のいずれか1項に記載のアンジュレータ用永久磁石。
【請求項15】
第2ピークQ2の大きさは、第4ピークQ4の大きさよりも大きい、ことを特徴とする請求項14に記載のアンジュレータ用永久磁石。
【請求項16】
第5ピークQ5の大きさは、前記第3ピークQ3の大きさよりも大きく、前記第1ピークQ1の大きさよりも小さいことを特徴とする請求項14または15に記載のアンジュレータ用永久磁石。
【請求項17】
前記第1ピークQ1の大きさは、前記第2連結面の側から奇数番目の前記複数のピークの大きさの平均よりも大きいことを特徴とする請求項14ないし16のいずれか1項に記載のアンジュレータ用永久磁石。
【請求項18】
前記第3ピークQ3の大きさは、前記第2連結面の側から奇数番目の前記複数のピークの大きさの平均よりも小さいことを特徴とする請求項14ないし17のいずれか1項に記載のアンジュレータ用永久磁石。
【請求項19】
前記第1連結面および前記第2連結面のうちいずれか一方は、前記第1方向に凸となる凸状連結部および前記第1方向に凹となる凹状連結部のうちいずれか一方であり、前記第1連結面および前記第2連結面のうちいずれか他方は、前記凸状連結部および前記凹状連結部のうちいずれか他方であることを特徴とする請求項14ないし18のいずれか1項に記載のアンジュレータ用永久磁石。
【請求項20】
前記磁極面に形成される複数の磁極幅は、前記第1連結面から前記第2連結面に亘って、前記第1方向に沿って等しいことを特徴とする請求項14ないし19のいずれか1項に記載のアンジュレータ用永久磁石。
【請求項21】
前記磁束密度分布について、前記一方の磁極における磁束密度の積分値と他方の磁極における磁束密度の積分値とは等しいことを特徴とする請求項14ないし20のいずれか1項に記載のアンジュレータ用永久磁石。
【請求項22】
電子を蛇行させることで放射光を発生させるアンジュレータであって、
前記電子が所定の方向に沿って通過する通過路を内部に有する真空槽と、
前記真空槽内において、前記通過路を挟むように対向して配置される一対の磁石列と、を備え、
前記一対の磁石列のそれぞれは、
互いに対向する磁極面において、互いに引き合う磁極が前記所定の方向に交互に構成され、前記通過路内に複数のピークを有する磁束密度分布を発生させ、
請求項1に記載のアンジュレータ用永久磁石を互いの前記第1連結面で連結されて形成された磁石対を含み、
前記磁石対の一方のアンジュレータ用永久磁石の前記第1方向の磁束密度分布の前記第1連結面の側からみた最初のピークの磁束密度の向きと、前記磁石対の他方のアンジュレータ用永久磁石の前記第1方向の磁束密度分布の前記第1連結面の側からみた最初のピークの磁束密度の向きと、が互いに反対の関係にある、
ことを特徴とするアンジュレータ。
【請求項23】
電子を蛇行させることで放射光を発生させるアンジュレータであって、
前記電子が所定の方向に沿って通過する通過路を内部に有する真空槽と、
前記真空槽内において、前記通過路を挟むように対向して配置される一対の磁石列と、を備え、
前記一対の磁石列のそれぞれは、
互いに対向する磁極面において、互いに引き合う磁極が前記所定の方向に交互に構成され、前記通過路内に複数のピークを有する磁束密度分布を発生させ、
請求項15に記載のアンジュレータ用永久磁石が互いに前記第1連結面と前記第2連結面とで連結されて形成される磁石対を含む、
ことを特徴とするアンジュレータ。
【請求項24】
電子を蛇行させることで放射光を発生させるアンジュレータであって、
前記電子が所定の方向に沿って通過する通過路を内部に有する真空槽と、
前記真空槽内において、前記通過路を挟むように対向して配置される一対の磁石列と、を備え、
前記一対の磁石列のそれぞれは、
互いに対向する磁極面において、互いに引き合う磁極が前記所定の方向に交互に構成され、前記通過路内に複数のピークを有する磁束密度分布を発生させ、
請求項9に記載の前記凸状連結部を有するアンジュレータ用永久磁石の前記第1連結面と、請求項19に記載の前記凹状連結部を有するアンジュレータ用永久磁石の前記第1連結面または前記第2連結面と、で連結されて形成された磁石対を含み、
前記磁石対の一方のアンジュレータ用永久磁石の前記第1方向の磁束密度分布の前記磁石対の連結面の側からみた最初のピークの磁束密度の向きと、前記磁石対の他方のアンジュレータ用永久磁石の前記第1方向の磁束密度分布の前記連結面の側からみた最初のピークの磁束密度の向きと、が互いに反対の関係にある、
ことを特徴とするアンジュレータ。
【請求項25】
電子を蛇行させることで放射光を発生させるアンジュレータであって、
前記電子が所定の方向に沿って通過する通過路を内部に有する真空槽と、
前記真空槽内において、前記通過路を挟むように対向して配置される一対の磁石列と、を備え、
前記一対の磁石列のそれぞれは、
互いに対向する磁極面において、互いに引き合う磁極が前記所定の方向に交互に構成され、前記通過路内に複数のピークを有する磁束密度分布を発生させ、
請求項9に記載の前記凹状連結部を有するアンジュレータ用永久磁石の前記第1連結面と、請求項19に記載の前記凸状連結部を有するアンジュレータ用永久磁石の前記第1連結面または前記第2連結面と、で連結されて形成された磁石対を含み、
前記磁石対の一方のアンジュレータ用永久磁石の前記第1方向の磁束密度分布の前記磁石対の連結面の側からみた最初のピークの磁束密度の向きと、前記磁石対の他方のアンジュレータ用永久磁石の前記第1方向の磁束密度分布の前記連結面の側からみた最初のピークの磁束密度の向きと、が互いに反対の関係にある、
ことを特徴とするアンジュレータ。
【請求項26】
請求項22ないし25のいずれか1項に記載のアンジュレータを備える放射光発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
アンジュレータ用磁石、アンジュレータ、アンジュレータ用磁石の設置方法および、放射光発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
より短波長、高エネルギの放射光を発生する放射光発生装置に用いられるアンジュレータにおいて、より高輝度の放射光を得るため、アンジュレータに用いる永久磁石を電子の進行方向に長尺化することが求められている。非特許文献1の技術では、永久磁石を連結した後、連結後の状態で周期的交番磁場を発生するように着磁することでアンジュレータ用永久磁石を長尺化している。または、2つの永久磁石を着磁後連結してアンジュレータ用永久磁石を長尺化している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】山本 樹、極短周期アンジュレータの開発 III、第13回日本加速器学会年会プロシーディングス、1035−1039、2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1の技術で長尺化されたアンジュレータ用永久磁石は、着磁後に磁石間の連結を解除した後に再度連結しても解除前の連結部の磁場が正確に再現されない場合がある。したがって、例えば、運搬する場合には、磁石間の連結を維持して連結状態での磁場の状態を維持する必要があるため、運搬の際の作業性に課題がある。また、非特許文献1では、具体的な着磁方法が十分に開示されていない。
【0005】
本発明は、例えば、着磁後に連結しても、連結部および連結部付近の磁束密度分布が、電子の軌道の安定性に影響を与えない安定性がよい磁束密度分布であり、これに伴い運搬の作業性がよいアンジュレータ用磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の例示的な第1発明は、第1方向に進む電子を蛇行させることで放射光を発生させるアンジュレータに用いるアンジュレータ用永久磁石であって、アンジュレータ用永久磁石は、第1方向の一方の端面が、他のアンジュレータ用永久磁石と連結する第1連結面を構成し、第1方向と直交する第2方向における一方の磁極面において、N極およびS極が第1方向に交互に構成されることで複数のピークを有する磁束密度分布を発生させ、複数のピークを、第1連結面の側から順に、第mピーク(mは1以上の整数)と表すと、第1ピークP
1の大きさは、第3ピークP
3の大きさよりも大きい、ことを特徴とする。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の例示的な第2発明は、第1方向に進む電子を蛇行させることで放射光を発生させるアンジュレータへのアンジュレータ用永久磁石の設置方法であって、複数の永久磁石を着磁し、着磁した複数の永久磁石を搬送容器に収容し、複数の永久磁石が収容された搬送容器をアンジュレータまで搬送し、搬送された搬送容器から取り出された複数の永久磁石を連結して、第1方向に長尺化した磁石列を得て、得られた磁石列をアンジュレータに設置する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、例えば、着磁後に連結しても、連結部および連結部付近の磁束密度分布が、電子の軌道の安定性に影響を与えない安定性がよい磁束密度分布であり、これに伴い運搬の作業性がよいアンジュレータ用磁石を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係るアンジュレータ用永久磁石を用いたアンジュレータの構成の概要を示す図である。
【
図3】第1磁石列に含まれるアンジュレータ用永久磁石の形状の例を示す図である。
【
図4】第1磁石列に含まれるアンジュレータ用永久磁石の形状の他の例を示す図である。
【
図5】ヨークを取り付けたアンジュレータ用永久磁石を示す図である。
【
図6】アンジュレータ用永久磁石の電子と対向する側の磁極面のz方向の磁束密度分布を示す図である。
【
図7】アンジュレータ用永久磁石と連結する他のアンジュレータ用永久磁石の磁束密度分布を示す図である。
【
図8】
図6および
図7で示す2つのアンジュレータ用永久磁石をそれぞれの第1連結面で連結した磁石対の磁束密度分布を示す図である。
【
図9】第2実施形態のアンジュレータ用永久磁石の形状の一例を示す図である。
【
図10】第2実施形態のアンジュレータ用磁石の電子と対向する側の磁極面のz方向の磁束密度分布を示す図である。
【
図11】第2実施形態のアンジュレータ用永久磁石と第1実施形態のアンジュレータ用永久磁石とを用いて三枚のアンジュレータ用永久磁石を連結した磁石列の磁束密度分布を示す図である。
【
図12】第1実施形態または第2実施形態のアンジュレータ用永久磁石を用いたアンジュレータを備える放射光発生装置の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について図面などを参照して説明する。
(第1実施形態)
【0011】
〈アンジュレータ〉
図1は、本実施形態に係るアンジュレータ用永久磁石を用いたアンジュレータの構成を示す概要図である。アンジュレータ1は、電子ビームeを蛇行させることで放射光を発生させる。アンジュレータ1は、真空槽11と、第1磁石列12と、第2磁石列13と、を備える。
【0012】
第1磁石列12と第2磁石列13とは、電子ビームeが通過する通過路14を挟むように対向して配置される一対の磁石列である。通過路14は、電子ビームeが通過する所定の方向に長く形成される。所定の方向をz方向とする。真空槽11は、第1磁石列12と第2磁石列13とで構成される一対の磁石列および一対の磁石列で挟まれる通過路14を内部に有する。なお、磁石列を対向させる方向は、x方向に限られず、y方向に対向させてもよい。
【0013】
第1磁石列12および第2磁石列13は、互いに対向する磁極面において、互いに引き合う磁極がz方向に交互に構成されることで通過路14内に複数のピークを有する磁束密度分布を発生させる。
【0014】
図2は、z方向からみたアンジュレータ1の図である。第1磁石列12および第2磁石列13は、真空槽11内でそれぞれを保持して移動可能な保持部15に保持されうる。保持部15は、x方向に移動可能であり、第1磁石列12と第2磁石列13との間のx方向の間隔を調整可能である。
【0015】
〈アンジュレータ用磁石〉
本実施形態では、以下の構成のアンジュレータ用永久磁石を連結した磁石対を用いて、第1磁石列12および第2磁石列13をz方向に長尺化する。
図3の(a)および(b)は、第1磁石列12に含まれるアンジュレータ用永久磁石121の形状の例を示す図である。アンジュレータ用永久磁石121は、他のアンジュレータ用永久磁石と連結する第1連結面121aを有する。
【0016】
図3の(a)に示すようにアンジュレータ用永久磁石121は、磁極面からみて長辺がz方向に延びる長方形の形状をしている。第1連結面121aは、z方向の一方の端面に構成されている。
図3の(a)に示す例では、第1連結面121aの磁極面から見た輪郭は、y方向に沿って伸びている。
図3の(b)に示すように、第1連結面121aは、y方向の中心部が、z方向に凸となる凸部(凸状連結部)20を有してもよい。この場合、凸部20のy方向の幅は、電子軌道のy方向の振れ幅より十分広いものとする。
【0017】
アンジュレータ用永久磁石121と連結する他のアンジュレータ用永久磁石も同様に第1連結面を有する。第1連結面121aが凸部20を有する場合は、他のアンジュレータ用永久磁石の第1連結面は、z方向に凹となり、凸部20と嵌りあう凹部(凹状連結部)を有する。これらアンジュレータ用永久磁石は、互いの第1連結面で連結され、磁石対を形成する。この構成によれば、2つのアンジュレータ用永久磁石を連結するときにz方向の配置を間違えることを防止することができる。また、
図3の(a)および(b)に示すように、アンジュレータ用永久磁石121の磁極幅hは、第1連結面121aからz方向の他方の面に亘って均一である。
【0018】
図4は、第1磁石列12が含むアンジュレータ用永久磁石121の形状の他の例を示す図である。アンジュレータ用永久磁石121は、いずれかの磁極面において、z方向に直交するx方向に凸となる凸部30を有してもよい。この構成によれば、アンジュレータ用永久磁石を真空槽11内に配置するときにx方向の配置を間違えることを防止することができる。
【0019】
図5は、ヨーク122を取り付けたアンジュレータ用永久磁石121を示す図である。ヨーク122は、アンジュレータ用永久磁石121の磁極面のうち、電子ビームeが通過する通過路14に面する磁極面と反対側の磁極面に取り付けられる。
【0020】
ヨーク122が取り付けられることで、アンジュレータ用永久磁石121の磁力が向上しうる。また、アンジュレータ用永久磁石121の運搬、保持部15への設置の際の衝撃等によってアンジュレータ用永久磁石121が欠けることを防止することができる。
【0021】
アンジュレータ用永久磁石121に取り付けられた状態でのヨーク122のz方向の長さは、アンジュレータ用永久磁石121のz方向の長さよりも短い。したがって、アンジュレータ用永久磁石121と、第1連結面121aを介してアンジュレータ用永久磁石121と連結する他のアンジュレータ用永久磁石と、の間において隙間が生じることはない。ただし、連結に支障をきたさない範囲でヨーク122のz方向の長さはアンジュレータ磁石121のz方向の長さに近づけることが望ましい。
【0022】
また、アンジュレータ用永久磁石121に取り付けられた状態でのヨーク122のy方向の長さは、アンジュレータ用永久磁石121のy方向の長さよりも短くすることが望ましい。アンジュレータ用永久磁石121は、例えば、y方向の位置決めをするガイド(段差など)を有する台座に配置され、台座が保持部15に保持される。ヨーク122のy方向の長さを上述のようにすることでアンジュレータ用永久磁石121のy方向の位置決めを阻害することがない。ただし、このy方向位置決めに支障をきたさない範囲で、ヨーク122のy方向の長さはアンジュレータ磁石121のy方向の長さに近づける事が望ましい。
【0023】
〈磁束密度分布〉
アンジュレータ用永久磁石121は、他のアンジュレータ用永久磁石と連結したあと、連結部とその他部分とでz方向における磁束密度分布のピークの変化量が少なくなるような磁束密度となるように着磁されている。アンジュレータ用永久磁石121のy方向における一方の磁極面において、N極およびS極がz方向に交互に構成されることで複数のピークを有する磁束密度分布が発生する。
【0024】
図6は、アンジュレータ用永久磁石121の電子と対向する側(通過路14に面する側)の磁極面のz方向の磁束密度分布を示す図である。横軸がz方向の位置、縦軸は磁束密度の大きさである。他のアンジュレータ用永久磁石と連結する側を横軸の正方向とする。また、縦軸について、N極の方向を正、S極の方向を負とする。
【0025】
図6に示す通り、磁束密度分布は、正方向および負方向のそれぞれにおいて複数のピークを有する。複数のピークを、第1連結面の側から順に、第mピークP
m(mは1以上の整数)と表す。第1ピークP
1の大きさは、第3ピークP
3の大きさよりも大きい。
【0026】
図7は、アンジュレータ用永久磁石121と連結する他のアンジュレータ用永久磁石の磁束密度分布を示す図である。横軸がz方向の位置、縦軸は磁束密度の大きさである。アンジュレータ用永久磁石121と連結する側(第1連結面の側)を横軸の負方向とする。また、縦軸について、N極の方向を正、S極の方向を負とする。
【0027】
図7に示す通り、磁束密度分布は、正方向および負方向のそれぞれにおいて複数のピークを有する。複数のピークを、第1連結面の側から順に、第P´
mピーク(mは1以上の整数)と表す。第1ピークP´
1の大きさは、第3ピークP´
3の大きさよりも大きい。
【0028】
図6および
図7の第1連結面の側から見た最初のピークである第1ピークP
1および第1ピークP´
1の磁束密度の向き(磁極)は互いに反対の関係にある。
図8は、
図6および
図7で示す2つのアンジュレータ用永久磁石をそれぞれの第1連結面で連結した磁石対の磁束密度分布を示す図である。
図8の左から電子が入射し、右から電子が出射する。
【0029】
横軸がz方向の位置、縦軸は磁束密度の大きさである。アンジュレータ用永久磁石121の第1連結面がある側を横軸の正方向とする。また、縦軸について、N極の方向を正、S極の方向を負とする。2つのアンジュレータ用永久磁石の連結位置をz=Rとする。
【0030】
図8に示す通り、位置Rを境にピークの値が大きく変化することはない。この磁束密度分布の磁石対からなる磁石列で挟まれる通過路14を通過する電子の軌道は、位置Rを境にピークの値が変化する磁束密度分布の磁石をz方向に連結した磁石対からなる従来の磁石列で挟まれる通過路14を通過する電子の軌道よりも安定する。なお、通過路14を挟む磁石列の互いに対向する磁極は、互いに異なる磁極とする。
【0031】
図6の磁束密度分布の特徴を詳細に説明する。まず、第2ピークP
2の大きさは、第4ピークP
4の大きさよりも大きい。また、第5ピークP
5の大きさは、第3ピークP
3の大きさよりも大きく、第1ピークP
1の大きさよりも小さい。第1ピークP
1の大きさは、第1連結面の側から奇数番目の複数のピークの大きさの平均よりも大きい。第3ピークP
3の大きさは、当該平均よりも小さい。複数のピークは、第1連結面から他方の端面に亘って、z方向に沿って等しい間隔で並ぶ。また、各磁極の着磁幅も各ピーク間距離と同じピッチで第1連結面121aからz方向の他方の端面まで形成されている。
【0032】
さらに、アンジュレータ用永久磁石121の他方の端面(第1連結面がない方の端面)から電子を入射する場合、他方の端面の側からみた最初のピークの大きさは、第1連結面の側から偶数番目の複数のピークの大きさの平均の半分であることが望ましい。電子の出射側も同様である。
図8は、電子の入射側を
図6の磁石、出射側を
図7の磁石とすることで、この磁束密度分布とした例である。この磁石列は、磁石列全体で磁場積分がゼロ(N極積分=S極積分)となり、電子の軌道の安定性が向上する。
【0033】
以上の通り、本実施形態の磁束密度分布で着磁されたアンジュレータ用永久磁石は、着磁後に連結しても、連結部および連結部付近の磁束密度分布が、電子の軌道の安定性に影響を与えない安定性がよい磁束密度分布であり、これに伴い運搬の作業性がよい。
(第2実施形態)
【0034】
第1実施形態では、他のアンジュレータ用磁石と連結する連結面が一方の端面にのみ設けられていたが、本実施形態では、両方の端面に連結面が設けられる。すなわち、磁石列の両端に、第1実施形態と同等の精度で3枚以上連結して長尺化できる磁石を用いることができ、作業性および磁束密度分布の安定性の点で有利となりうる。さらに所望の高エネルギの放射光も得ることができる。
【0035】
図9は、本実施形態のアンジュレータ用永久磁石221の形状の一例を示す図である。アンジュレータ用永久磁石221は、他のアンジュレータ用永久磁石と連結する第1連結面221aおよび第2連結面221bを有する。
【0036】
第1連結面221aは、z方向に凸の凸部70を有し、第2連結面221bは、z方向に凹の凹部71を有する。第1連結面221aが凹部を有し、第2連結面221bが凸部を有してもよい。また、
図3の(a)のように、凸部および凹部を有しなくてもよい。各磁極の磁極幅hは、第1連結面221aから第2連結面221bまで等間隔で形成されている。
【0037】
凸部70は、他のアンジュレータ用永久磁石の凹部と嵌りあう。凹部を有する他のアンジュレータ用永久磁石は、本実施形態のアンジュレータ用永久磁石であってもよく、第1実施形態のアンジュレータ用永久磁石であってもよい。この場合、連結面の側から見た各アンジュレータ用永久磁石の最初のピークの磁束密度の向きは互いに反対の関係にある。
【0038】
図10は、本実施形態のアンジュレータ用磁石221の電子と対向する側の磁極面のz方向の磁束密度分布を示す図である。横軸がz方向の位置、縦軸は磁束密度の大きさである。第1連結面221aがある側を横軸の正方向、第2連結面221bがある側を横軸の負方向とする。また、縦軸について、N極の方向を正、S極の方向を負とする。
【0039】
図10に示す通り、磁束密度分布は、正方向および負方向のそれぞれにおいて複数のピークを有する。複数のピークを、第2連結面221bの側から順に、第nピークQ
n(nは1以上の整数)と表す。第1ピークQ
1の大きさは、第3ピークQ
3の大きさよりも大きい。また、第1連結面221aの側から順に、第nピークQ´
n(nは1以上の整数)と表す。第1ピークQ´
1の大きさは、第3ピークQ´
3の大きさよりも大きい。アンジュレータに用いる磁石列の長さを周期長(磁束密度の変化の1周期のz方向の長さ)の整数倍とする場合、第1ピークQ´
1の磁束密度の向きと、第1ピークQ
1の磁束密度の向きと、は互いに反対の関係にある。
【0040】
図10の磁束密度分布の特徴を詳細に説明する。第2ピークQ
2の大きさは、第4ピークQ
4の大きさよりも大きい。第5ピークQ
5の大きさは、第3ピー
クQ3の大きさよりも大きく、第1ピークQ
1の大きさよりも小さい。第1ピークQ
1の大きさは、第2連結面221bの側から奇数番目の複数のピークの大きさの平均よりも大きい。第3ピー
クQ3の大きさは、第2連結面221bの側から奇数番目の複数のピークの大きさの平均よりも小さい。
【0041】
また、第2ピークQ´
2の大きさは、第4ピークQ´
4の大きさよりも大きい。第5ピークQ´
5の大きさは、第3ピー
クQ´
3の大きさよりも大きく、第1ピークQ´
1の大きさよりも小さい。第1ピークQ´
1の大きさは、第1連結面221aの側から奇数番目の複数のピークの大きさの平均よりも大きい。第3ピー
クQ´
3の大きさは、第1連結面221aの側から奇数番目の複数のピークの大きさの平均よりも小さい。
【0042】
また、一方の磁極における磁束密度の積分値(縦軸の0以上の磁束密度の積分値)と他方の磁極における磁束密度の積分値(縦軸0より小さい磁束密度の積分値)とは等しい。
【0043】
図11は、本実施形態のアンジュレータ用永久磁石と第1実施形態のアンジュレータ用永久磁石とを用いて三枚のアンジュレータ用永久磁石を連結した磁石列の磁束密度分布を示す図である。
図6で示したアンジュレータ用永久磁石の第1連結面と
図10で示したアンジュレータ用永久磁石の第2連結面とを連結し、
図10で示したアンジュレータ用永久磁石の第1連結面と
図7で示したアンジュレータ用永久磁石の第1連結面とを連結する。
【0044】
図6で示したアンジュレータ用永久磁石の第1連結面の側から見た最初のピークである第1ピークP
1および
図10で示したアンジュレータ用永久磁石の第2連結面の側から見た最初のピークである第1ピークQ
1の磁束密度の向き(磁極)は互いに反対の関係にある。
【0045】
また、
図7で示したアンジュレータ用永久磁石の第1連結面の側から見た最初のピークである第1ピークP´
1および
図10で示したアンジュレータ用永久磁石の第1連結面の側から見た最初のピークである第1ピークQ´
1の磁束密度の向き(磁極)は互いに反対の関係にある。
【0046】
横軸がz方向の位置、縦軸は磁束密度の大きさである。
図6で示したアンジュレータ用永久磁石の第1連結面がある側を横軸の正方向とする。また、縦軸について、N極の方向を正、S極の方向を負とする。
図6で示したアンジュレータ用永久磁石と
図10で示したアンジュレータ用永久磁石との連結位置をz=R
1、
図7で示したアンジュレータ用永久磁石と
図10で示したアンジュレータ用永久磁石との連結位置をz=R
2とする。
【0047】
図11に示す通り、位置R
1および位置R
2を境にピークの値が大きく変化することはなく、第1実施形態と同様に、
図11で示した磁石列で挟まれる通過路14を通過する電子の軌道は、従来の磁石列で挟まれる通過路14を通過する電子の軌道よりも安定する。なお、通過路14を挟む磁石列の互いに対向する磁極は、互いに異なる磁極とする。
【0048】
第2実施形態では、
図10で示したアンジュレータ用永久磁石に
図7で示したアンジュレータ用永久磁石を連結したが、
図7で示したアンジュレータ用永久磁石の代わりに
図10で示したアンジュレータ用永久磁石を連結してもよい。この場合、
図10で示したアンジュレータ用永久磁石を複数連結することで4枚以上の磁石を連結した磁石列を構成することもできる。
(第3実施形態)
【0049】
〈放射光発生装置〉
上記実施形態のアンジュレータ用永久磁石を用いたアンジュレータは、放射光発生装置に用いられる。
図12は、上記実施形態のアンジュレータ用永久磁石を用いたアンジュレータを備える放射光発生装置の概要図である。
【0050】
放射光発生装置9は、電子銃91と、線型加速器92と、シンクロトロン93と、蓄積リング94と、ビームライン95と、を有する。アンジュレータ1は、蓄積リング94内において、ビームライン95の基部付近に配置される。
【0051】
電子銃91から発生された電子ビームeは、線型加速器92によって1GeV程度まで加速される。加速された電子ビームeは、シンクロトロン93に導入され、8GeV程度のエネルギの光速に近い速度になって、蓄積リング94に入る。電子ビームeは、そのエネルギを維持したまま蓄積リング94内を光速で回り、アンジュレータ1によって蛇行させられて、放射光Rを放出する。放射光Rは、ビームライン95に入り、ビームライン95内で種々の研究および実用的用途に利用される。
【0052】
なお、上記実施形態では、磁石を個別に着磁させた後、連結していたが、連結してから着磁させてもよい。連結部において、上記実施形態の磁束密度分布で着磁後、連結を解いた後、再度連結しても連結部とその他部分とでz方向における磁束密度分布のピークの変化量が少なくなる。
【0053】
アンジュレータを構成する磁石列全体は、N極およびS極の磁場積分をそれぞれ等しくすることが望ましい。また、磁石列を構成する磁石の種類をなるべく増加させないことが、例えば、コストの点で重要となる。
【0054】
用いる磁石の種類を増加させず、磁石列全体で磁場積分を等しくするため、磁石列の一端の極と、他端の極とを互いに異ならせることが望ましい。磁石列の両端を同じ極とする場合は、磁石列全体で磁場積分を等しくするために、複数種類の磁石を磁石列に用いる必要がある。複数種類の磁石は、例えば、磁石のz方向の長さを調整して、端部の磁束密度を調整することで得られる。
【0055】
第1実施形態および第2実施形態に係るアンジュレータ用永久磁石は、連結して長尺化してから運搬するのではなく、運搬してから連結して長尺化することができる。したがって、作業性の点で有利である。第1実施形態および第2実施形態に係るアンジュレータ用永久磁石のアンジュレータへの設置方法は、例えば、以下の通りである。
【0056】
まず、第1実施形態および第2実施形態で示す磁束密度分布を有するように永久磁石を着磁する。着磁後、アクリルケースなどの搬送用の搬送容器に収容し、放射光発生装置9の蓄積リング94内におけるビームライン95の基部付近に配置されたアンジュレータ1まで搬送する。そして、アンジュレータ1の保持部15に保持させる際に、連結して長尺化させる。
【0057】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態を説明してきたが、本発明はこれらの実施の形態に限定されず、その要旨の範囲内において様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 アンジュレータ
11 真空槽
12 第1磁石列
13 第2磁石列
121 アンジュレータ用永久磁石
【要約】
【課題】着磁後に連結しても、連結部および連結部付近の磁束密度分布が、電子の軌道の安定性に影響を与えない安定性がよい磁束密度分布であり、これに伴い運搬の作業性がよいアンジュレータ用磁石を提供する。
【解決手段】第1方向に進む電子を蛇行させることで放射光を発生させるアンジュレータに用いるアンジュレータ用永久磁石であって、アンジュレータ用永久磁石は、第1方向の一方の端面が、他のアンジュレータ用永久磁石と連結する第1連結面を構成し、第1方向と直交する第2方向における一方の磁極面において、N極およびS極が第1方向に交互に構成されることで複数のピークを有する磁束密度分布を発生させ、複数のピークを、第1連結面の側から順に、第mピークP
m(mは1以上の整数)と表すと、第1ピークP
1の大きさは、第3ピークP
3の大きさよりも大きい。
【選択図】
図6