(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
軸線のまわりに回転するツールの先端部分のプローブを、マグネシウム合金の表面部に圧入し、回転するツールとの摩擦によって加熱して軟化させ、プローブが圧入された状態でツールを回転させてプローブ近傍を撹拌しつつ、マグネシウム合金の表面に平行にツールを移動させて改質する摩擦撹拌プロセスを施してマグネシウム合金を塑性加工する方法であって、
マグネシウム合金を塑性加工する領域の第1方向における長さ寸法をAとし、
前記摩擦撹拌プロセスによる前記第1方向におけるマグネシウム合金の収縮量をαとした場合に、
前記摩擦撹拌プロセスを施す領域の前記第1方向における長さ寸法を、A+αとして設定し、
前記摩擦撹拌プロセスを施す領域において、前記第1方向における摩擦撹拌プロセスによるマグネシウム合金の入熱状態に、所定の分布を有するように摩擦撹拌プロセス条件を設定することを特徴とするマグネシウム合金の塑性加工方法。
前記塑性加工が曲げ加工とされ、前記第1方向における塑性加工する領域の前記長さ寸法Aが、曲げ部に形成された外側円弧長として設定されることを特徴とする請求項1または2記載のマグネシウム合金の塑性加工方法。
前記摩擦撹拌プロセスでは、前記ツールが前記第1方向と直交する方向に所定長さ移動しその後前記第1方向に隣接する列をなすように往復移動して改質をおこなう際に、この列状改質領域が連続しつつ重ならないように前記ツールの移動状態を設定することを特徴とする請求項1から3のいずれか記載のマグネシウム合金の塑性加工方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、難燃化するために、カルシウムを添加したマグネシウム合金は、アルミニウム−カルシウム系の金属間化合物が作られるため、難燃化することで通常のマグネシウム合金よりもさらに塑性加工性が劣化しており、塑性加工において割れなどが発生するという問題があった。
また、摩擦攪拌に伴う入熱によってマグネシウム合金にひずみが発生するといった現象が見られ、これを改善したいという要求があった。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、以下の目的を達成しようとするものである。
1. マグネシウム合金に対して室温での塑性加工性を向上すること。
2. マグネシウム合金の塑性加工において、改質時の温度状態を好適に制御して、ひずみの発生を防止すること。
3. マグネシウム合金の塑性加工における割れ発生を防止すること。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のマグネシウム合金の塑性加工方法は、軸線のまわりに回転するツールの先端部分のプローブを、マグネシウム合金の表面部に圧入し、回転するツールとの摩擦によって加熱して軟化させ、プローブが圧入された状態でツールを回転させてプローブ近傍を撹拌しつつ、マグネシウム合金の表面に平行にツールを移動させて改質する摩擦撹拌プロセスを施してマグネシウム合金を塑性加工する方法であって、
マグネシウム合金を塑性加工する領域の第1方向における長さ寸法をAとし、
前記摩擦撹拌プロセスによる前記第1方向におけるマグネシウム合金の収縮量をαとした場合に、
前記摩擦撹拌プロセスを施す領域の前記第1方向における長さ寸法を、A+αとして設定
し、
前記摩擦撹拌プロセスを施す領域において、前記第1方向における摩擦撹拌プロセスによるマグネシウム合金の入熱状態に、所定の分布を有するように摩擦撹拌プロセス条件を設定することにより上記課題を解決した。
本発明のマグネシウム合金の塑性加工方法は、マグネシウム合金を塑性加工する全領域に前記摩擦撹拌プロセスが施されることが好ましい。
本発明のマグネシウム合金の塑性加工方法は、前記塑性加工が曲げ加工とされ、前記第1方向における塑性加工する領域の前記長さ寸法Aが、曲げ部に形成された外側円弧長として設定されることができる。
本発明のマグネシウム合金の塑性加工方法は、前記摩擦撹拌プロセスでは、前記ツールが前記第1方向と直交する方向に所定長さ移動しその後前記第1方向に隣接する列をなすように往復移動して改質をおこなう際に、この列状改質領域が連続しつつ重ならないように前記ツールの移動状態を設定することが好ましい
。
本発明のマグネシウム合金の塑性加工方法は、前記塑性加工が曲げ線を形成する曲げ加工とされて、該曲げ線が前記塑性加工する領域における前記第1方向の中央位置に設定されるとともに、
前記摩擦撹拌プロセスを施す領域において、前記曲げ線から前記第1方向の中央外側に離間する方向に向かって、前記摩擦撹拌プロセスによるマグネシウム合金の入熱状態が減少するように摩擦撹拌プロセス条件を設定することがある。
【0008】
本発明のマグネシウム合金の塑性加工方法は、軸線のまわりに回転するツールの先端部分のプローブを、マグネシウム合金の表面部に圧入し、回転するツールとの摩擦によって加熱して軟化させ、プローブが圧入された状態でツールを回転させてプローブ近傍を撹拌しつつ、マグネシウム合金の表面に平行にツールを移動させて改質する摩擦撹拌プロセスを施してマグネシウム合金を塑性加工する方法であって、
マグネシウム合金を塑性加工する領域の第1方向における長さ寸法をAとし、
前記摩擦撹拌プロセスによる前記第1方向におけるマグネシウム合金の収縮量をαとした場合に、
前記摩擦撹拌プロセスを施す領域の前記第1方向における長さ寸法を、A+αとして設定することにより、摩擦撹拌プロセスを施した領域において金属間化合物および結晶粒を微細化することで、塑性加工する領域を充分塑性加工可能として、塑性加工によってもマグネシウム合金に割れが発生しないようにすることができるとともに、摩擦撹拌プロセスを施す領域を必要最小限としてマグネシウム合金への入熱を少なくしてひずみの発生を最小に抑えることが可能となる。
なお、表面部とは、マグネシウム合金の表面からプローブが圧入可能な深さ範囲までを意味するものとされる。
【0009】
本発明のマグネシウム合金の塑性加工方法は、マグネシウム合金を塑性加工する全領域に前記摩擦撹拌プロセスが施されることにより、塑性加工する領域に部分的に摩擦撹拌プロセスが施されていない部分がないため、塑性加工によってもマグネシウム合金に割れが発生しないようにすることができる。
【0010】
本発明のマグネシウム合金の塑性加工方法は、前記塑性加工が曲げ加工とされ、前記第1方向における塑性加工する領域の前記長さ寸法Aが、曲げ部に形成された外側円弧長として設定されることにより、曲げ加工に必要な最小限の領域に摩擦撹拌プロセスを施して、必要な曲げ加工を可能とするとともに、マグネシウム合金への入熱を少なくしてひずみの発生を防止することができる。
【0011】
本発明のマグネシウム合金の塑性加工方法は、前記摩擦撹拌プロセスでは、前記ツールが前記第1方向と直交する方向に所定長さ移動しその後前記第1方向に隣接する列をなすように往復移動して改質をおこなう際に、この列状改質領域が連続しつつ重ならないように前記ツールの移動状態を設定することにより、塑性加工する領域に部分的に摩擦撹拌プロセスが施されていない部分がないため、塑性加工によってもマグネシウム合金に割れが発生しないようにすることができるとともに、マグネシウム合金への入熱を少なくしてひずみの発生を防止することができる。
なお、往復移動とは、往路と復路で同じ方向でもよいし反対の方向に進むように設定することもできる。
【0012】
本発明のマグネシウム合金の塑性加工方法は、前記摩擦撹拌プロセスを施す領域において、前記第1方向における摩擦撹拌プロセスによるマグネシウム合金の入熱状態に、所定の分布を有するように摩擦撹拌プロセス条件を設定することにより、塑性加工の必要な条件を満たしつつ、この加工領域に隣接する領域に対する摩擦撹拌プロセスでの入熱を少なくして、塑性加工を可能とするとともに、隣接する領域でのひずみの発生を防止することができる。
【0013】
本発明のマグネシウム合金の塑性加工方法は、前記塑性加工が曲げ線を形成する曲げ加工とされて、該曲げ線が前記塑性加工する領域における前記第1方向の中央位置に設定されるとともに、
前記摩擦撹拌プロセスを施す領域において、前記曲げ線から前記第1方向の中央外側に離間する方向に向かって、前記摩擦撹拌プロセスによるマグネシウム合金の入熱状態が減少するように摩擦撹拌プロセス条件を設定することにより、曲げ加工に必要な摩擦撹拌プロセスとして曲げ線付近で最も入熱が多くなるように施すとともに、この部分に比べて塑性加工する領域に隣接する領域に対する入熱を低減して、曲げ加工を可能とするとともに、隣接する領域でのひずみの発生を防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、マグネシウム合金において塑性加工を良好におこなうとともに、摩擦撹拌プロセスに起因するひずみの発生を防止することができるという効果を奏することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るマグネシウム合金の塑性加工方法の第1実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態におけるマグネシウム合金の塑性加工方法を示す断面図であり、
図2は、本実施形態におけるマグネシウム合金の塑性加工方法を示す平面図であり、
図3は、本実施形態におけるマグネシウム合金の塑性加工方法における摩擦撹拌プロセスを示す斜視図であり、
図4,
図5は、本実施形態におけるマグネシウム合金の塑性加工方法における摩擦撹拌プロセスを示す断面図であり、図において、符号10は、マグネシウム合金である。
【0017】
本実施形態に係るマグネシウム合金の塑性加工方法において、適用可能なマグネシウム合金素材としては、その化学成分組成に限定されるものではなく、様々な種類のものを適用できる。適用可能なマグネシウム合金素材の例を示すと、Al、Zn、Zr、Mn、Fe、Si、Cu、Ni及びCaからなる群より選択される1種又は2種以上の元素を含み、残部Mg及び不可避不純物からなる組成を有するマグネシウム合金素材が挙げられる。適用可能なマグネシウム合金の例としては、ASTM AZ9169、AZ31、AZ91、AZ92が挙げられる。さらに、JIS H5203、H5303に挙げられるマグネシウム合金鋳物、マグネシウム合金ダイカストへの適用もできる。
【0018】
本実施形態に係るマグネシウム合金の塑性加工方法においては、
図1に示すように、適応する加工が曲げ加工とされ、マグネシウム合金素材の形状についても限定されるものではないが、例えば板状として説明する。これ以外にも、マグネシウム合金素材の形状は、棒状又は管状であっても良いが、曲げ角度の設定が可能であればこれら以外の形状であっても良い。また、マグネシウム合金素材の肉厚tについても限定されるものではないが、素材の肉厚の望ましい上限値は30mm、(特に望ましくは10mm)であり、望ましい下限値は1mm(特に望ましくは3mm)とすることができる。
【0019】
本実施形態に係るマグネシウム合金の塑性加工方法は、
図1に示すように、例えば板体とされるマグネシウム合金10を、パンチ21とダイ22とからなるダイセットで押しつけるV曲げ加工とされる。
【0020】
パンチ21は、
図1に示すように、曲げ線11となるY方向に延在する先端部21aを有し、ダイ22は、パンチ21に対応してY方向に延在するように形成された溝部22aを有し、これらの間にマグネシウム合金10を挟んで押しつけ曲げ部12を形成する。
曲げ線11となるY方向と直交するX方向(第1方向)において、パンチ21の先端部21aは曲率半径R1を有し、これに対応して、ダイ22の溝部22aは曲率半径R2を有する。溝部22aのX方向における開口幅寸法がBとして設定される。
曲げ加工されたマグネシウム合金10の曲げ部12も、曲率半径R2とほぼ同等の曲率半径を有する曲面を形成するように加工される。マグネシウム合金10の曲げ部12は、その外側表面のX方向長さ、つまり、円弧状の長さ寸法がAとなるように設定されている。
【0021】
本実施形態に係るマグネシウム合金の塑性加工方法においては、
図2に示すように、曲げ加工する前のマグネシウム合金10において、加工予定領域13が設定される。
加工予定領域13は、曲げ加工によって
図1に示した曲げ部12に対応する領域とされる。加工予定領域13におけるX方向(第1方向)の中心には曲げ線11が位置するとともに、X方向の両側に所定幅を有するように設定される。この加工予定領域13は、塑性加工(曲げ加工)がおこなわれる領域であり、曲げ加工工程の前に、摩擦撹拌プロセスによる改質工程がおこなわれる摩擦撹拌領域13とされる。
【0022】
摩擦撹拌領域13は、摩擦撹拌プロセスが施される領域とされる。
摩擦撹拌プロセスは、
図3に示すように、平板状のマグネシウム合金10の法線と略一致する軸線Zのまわりに回転するツール30の先端部分のプローブ31によって施される。
プローブ31をマグネシウム合金10の表面部に圧入し、回転するツール30との摩擦によって加熱して軟化させ、プローブ31が圧入された状態でツール30を回転させてプローブ31近傍を撹拌しつつ、マグネシウム合金10の表面に平行にツール30を移動させて改質する。
【0023】
ツール30は、軸線Zを中心に回転可能な円柱状とされるショルダー32と、ショルダー32の先端側に設けられた回転可能なピン状のプローブ31とを有している。ショルダー32の少なくとも先端部の径はプローブ31の径より大きく設定されている。本実施形態においては、ショルダー32は図示しない駆動手段によりが軸線Zを中心に回転可能とされる。ショルダー32の端面の回転中心部に、プローブ31がショルダー32の軸線Zに対して同軸状に突設されている。ショルダー32とプローブ31とは一体に軸線Z周りに回転可能なものとなされている。
【0024】
ツール30はマグネシウム合金10より高融点および高硬度の材質からなり、例えば工具鋼、超硬、セラミックス等により形成されることができる。
本実施形態の摩擦撹拌プロセスにおいては、ツール30のショルダー32径寸法、プローブ31径寸法およびZ方向長さ寸法、その他形態要素は、改質しようとするマグネシウム合金10の種類・性質、および、ツール30の回転数およびY方向移動速度などの稼動条件を勘案して適宜選択される。特に、本実施形態のプローブ31は、
図4に示すように、X方向に径寸法31aを有する。
【0025】
本実施形態の摩擦撹拌プロセスにおいては、
図3に示すように、ツール30の先端部分のプローブ31を、マグネシウム合金10の表面に圧入し、回転するツール30のショルダー32との摩擦によって合金成形体10を加熱して軟化させ、プローブ31が圧入された状態でツール30を引き続き回転させてプローブ31近傍のマグネシウム合金10を撹拌しつつ、マグネシウム合金10の表面と平行であるY方向にツール30を移動させる。ツール30が移動するとマグネシウム合金10がY方向に連続して次々と攪拌され、ツール30がY方向に移動した後には、ショルダー32の接触によるほぼ円形に近い極浅い窪みを生じ、それらが次々に断続的にずれて重なるため並んだ弧状の瘢痕が残る。この図においてはツール30の軌跡及び瘢痕を模式的に記載するものであり、摩擦攪拌プロセスに際して移動したツール30の軸の軌跡も模式的に示している。
【0026】
本実施形態の摩擦撹拌プロセスにおいては、
図3に示すように、ツール30は時計回りに回転し、マグネシウム合金10の表面に平行に矢印Y方向に移動している。
本実施形態では 先にY方向とされる一方向にツール30を移動して列状改質領域13aを形成するように摩擦撹拌した後、
図2に示すように、一旦ツール30を引き上げてプローブ31の径寸法と等しい長さだけX方向に移動させて、既施の列状改質領域13aに隙間無く隣接する列状改質領域13bにプローブ31を圧入して、Y方向とされる一方向で、列状改質領域13aのときとは逆方向に、マグネシウム合金10の表面に平行にツールを移動させる。
【0027】
列状改質領域13bの処理を完了後に続いて、同様にして一旦ツール30を引き上げてプローブ31の径寸法31aと等しい長さだけY方向に移動させ、
図2に示すように、既施の列状改質領域13bに隙間無く隣接する列状改質領域13cを摩擦撹拌する。同様にして、隣接する列状改質領域13dおよび列状改質領域13eを摩擦撹拌する。
【0028】
本実施形態の摩擦撹拌プロセスにおいては、
図2に示すように、列状改質領域13a〜13eがいずれも重ならないように隣接して位置設定される。図において、摩擦撹拌領域13は、5本の列状改質領域13a〜13eとしたが、プローブ31の径寸法31a等、一回の摩擦撹拌プロセスによって改質できる列状改質領域13a〜13eの幅寸法によって、適時、その本数を設定することが可能である。
【0029】
具体的には、
図5に示すように、図で左側に示したツール30が先におこなった摩擦撹拌プロセスにおけるX方向位置を示すものであり、次に隣接する列状改質領域を処理するツール30は、図でハッチングを付けて右側に示した位置になるように、X方向において、先の処理でのプローブ31位置に対して隣接するように、後処理でのプローブ31が位置される。図におけるプローブ31位置が隣り合う列状改質領域13a〜13eのX方向位置に対応している。
【0030】
同時に、本実施形態の摩擦撹拌プロセスにおいては、すべての摩擦撹拌領域13、すなわち、すべての加工予定領域13を網羅するようにツール30の移動軌跡が設定される。具体的には、
図5に示すように、加工予定領域13のX方向の両境界部分にそれぞれプローブ31の外側が位置するように設定することができる。つまり、すべての摩擦撹拌領域13が、複数の列状改質領域13a〜13eによって覆われた状態となるように設定される。
【0031】
本実施形態の摩擦撹拌プロセスにおいては、摩擦撹拌プロセスを施す摩擦撹拌領域13のX方向における幅寸法は、
図1に示す曲げ部12の外側円弧の長さ寸法Aと、摩擦撹拌プロセスによって、マグネシウム合金10がX方向に収縮する収縮量αとの和A+αとなるように設定されている。
【0032】
ここで、αは、摩擦撹拌プロセスにおけるプロセス条件、マグネシウム合金10組成等によって変化するが、概ね0.1〜0.9mmの範囲、好ましくは、0.3〜0.7mmの範囲、より好ましくは、0.4〜0.6mmの範囲として0.5mm程度になるように設定される。
【0033】
つまり、摩擦撹拌領域13のX方向における幅寸法は、マグネシウム合金10の厚さ寸法t、パンチ21先端の曲率半径R1、曲げ角度θに対して、
α+2π(R1+t)×θ/360
とすることができる。
【0034】
本実施形態の摩擦撹拌プロセスにおいては、プローブ30でマグネシウム合金10の表面が塑性変形自在となる温度まで加熱されると共に攪拌され、マグネシウム合金10が冷却後に摩擦攪拌領域13の結晶粒が微細化されるとともに、金属間化合物が微細化されて、改質部15が形成される。
【0035】
摩擦攪拌による改質領域15のX方向における幅寸法は、ツール30のショルダー32径寸法、プローブ31径寸法およびZ方向長さ寸法、マグネシウム合金10の材質、ツール30の回転数およびY方向移動速度などの摩擦攪拌条件に左右される。特に、ショルダー32の径寸法と比較してプローブ31の径寸法31aが大きければ、改質領域15はショルダー32の下部深くまでショルダー32径寸法に近い幅寸法となり、ショルダー32径寸法と比較してプローブ径31aが小さければ改質領域15の幅寸法は狭くなる。またプローブ31長さ寸法が短ければ、マグネシウム合金10の深部における改質領域15の幅寸法は狭くなる。
【0036】
本実施形態の摩擦撹拌プロセスにおいては、ツール30の回転数を500〜1500rpmの範囲、より好ましくは、800〜1000rpmの範囲に設定することができ、これにより、マグネシウム合金10の加工性を確実に向上させることができる。
また、本実施形態の摩擦撹拌プロセスにおいては、ツール30のマグネシウム合金10に対するY方向への相対的な移動速度を100〜800mm/minの範囲、より好ましくは、200〜500mm/minの範囲とすることができ、これによりマグネシウム合金10の加工性を確実に向上させることができる。
また、摩擦撹拌領域13では、その結晶粒の平均粒径が常温値で20μm〜0.01μmの範囲、より好ましくは、3μm〜0.1μmの範囲に形成されることができ、これによりマグネシウム合金10の加工性を確実に向上させることができる。
【0037】
本実施形態の摩擦撹拌プロセスにおいては、ツール30の回転数およびY方向移動速度などの摩擦攪拌条件を設定することで、摩擦撹拌領域13内部において、改質状態に分布を形成する。
【0038】
摩擦撹拌プロセスにおいては、ツール30の回転数およびY方向移動速度などの摩擦攪拌条件を設定することで、マグネシウム合金10への入熱を制御することができる。具体的には、同じ移動速度において、ツール30の回転数を速く(大きく)すれば、マグネシウム合金10への入熱は多くなり、ツール30の回転数を小さくすれば、マグネシウム合金10への入熱は少なくなる。また、同じ回転数として、ツール30のY方向への移動速度を速くすることで、マグネシウム合金10への入熱は少なくなり、ツール30のY方向への移動速度を遅くすることで、マグネシウム合金10への入熱は多くなる。
【0039】
本実施形態の摩擦撹拌プロセスにおいては、摩擦撹拌領域13において、最も曲げ加工での塑性変形がおこなわれて欲しい部分において、マグネシウム合金10への入熱を多くして、マグネシウム合金10における結晶粒および金属間化合物の微細化をより進めた改質状態とする。また、摩擦撹拌領域13の周辺部分など、改質をおこなわない領域に隣接する部分では、マグネシウム合金10への入熱を少なくして、マグネシウム合金10における結晶粒および金属間化合物の微細化があまり進んでいない改質状態とする。
【0040】
具体的には、摩擦撹拌領域13において、
図2に示すように、曲げ線11が位置する摩擦撹拌領域13におけるX方向の中心に位置する列状領域13cでは、ツール30の回転数を速く(大きく)するか、ツール30のY方向への移動速度を遅くなるように設定して、マグネシウム合金10への入熱を多くして、マグネシウム合金10における結晶粒および金属間化合物の微細化をより進めた改質状態とする。
【0041】
列状改質領域13cのX方向両側に隣接して位置する列状改質領域13bおよび列状改質領域13dでは、列状改質領域13cにおける摩擦攪拌条件に比べて抑制した条件、つまりツール30の回転数をより小さくするか、ツール30のY方向への移動速度をより速くする条件として設定し、列状改質領域13cでのマグネシウム合金10への入熱に比べて、マグネシウム合金10への入熱を低減して、マグネシウム合金10における結晶粒および金属間化合物の微細化が比較的進んでいない改質状態とする。
【0042】
さらに、列状改質領域13bおよび列状改質領域13dに対して、X方向両外側に隣接して曲げ線11からより離間する位置として配置される列状改質領域13aおよび列状改質領域13eでは、列状改質領域13bおよび列状改質領域13dでの摩擦攪拌条件に比べて抑制した条件、つまりツール30の回転数をより小さくするか、ツール30のY方向への移動速度をより速くする条件として設定し、列状改質領域13bおよび列状改質領域13dでのマグネシウム合金10への入熱に比べて、マグネシウム合金10への入熱をより一層低減して、マグネシウム合金10における結晶粒および金属間化合物の微細化を抑制した改質状態とする。
【0043】
摩擦撹拌領域13内部において形成する改質状態の分布は、上述した条件に限るものではなく、例えば、ツール30からの入熱が逃げやすい摩擦撹拌領域13の周縁位置において、マグネシウム合金10への入熱をより一層増大して、マグネシウム合金10における結晶粒および金属間化合物の微細化を、摩擦撹拌領域13全体で均一化した形質状態とすることも可能である。
【0044】
また、摩擦撹拌領域13内部において形成する改質状態の分布の他の例としては、列状改質領域13cでは上述した条件と同様の条件として摩擦攪拌するが、列状改質領域13bおよび列状改質領域13dおよび列状改質領域13aおよび列状改質領域13eでは、冷却しながら摩擦攪拌して、マグネシウム合金10への入熱を低減することができる。この場合、列状改質領域13b,13d,13a,13eでは、摩擦攪拌しながら、マグネシウム合金10に冷風、冷水をかけることで、冷却し、入熱を制御することができる。
または、列状改質領域13b,13d,13a,13eでは、列状改質領域13cに比べて、入熱の低い同一の摩擦攪拌条件とされることができ、これにより、中心の列状改質領域13cが改質状態が高く、それ以外の列状改質領域13b,13d,13a,13eは均一に改質状態を低くすることができる。
【0045】
本実施形態のマグネシウム合金の塑性加工方法は、摩擦撹拌プロセスを施した摩擦撹拌領域13において金属間化合物および結晶粒を微細化することで、塑性加工する加工予定領域13を充分塑性加工可能として、曲げ加工によってもマグネシウム合金10に割れが発生しないなど、加工性を向上することができるとともに、摩擦撹拌領域13の大きさを必要最小限とし、かつ、摩擦撹拌プロセスによるマグネシウム合金10への入熱を必要最小限となるように設定することで、マグネシウム合金10におけるひずみの発生を充分抑制ことが可能となる。
【0046】
本実施形態のマグネシウム合金の塑性加工方法においては、摩擦撹拌プロセスを施した摩擦撹拌領域13において、摩擦撹拌プロセスによるマグネシウム合金10への入熱を所定の分布を有するように設定することで、塑性加工する加工予定領域13を充分塑性加工可能として、曲げ加工によってもマグネシウム合金10に割れが発生しないなど、加工性を向上することができるとともに、マグネシウム合金10における金属間化合物および結晶粒を微細化する改質状態に分布を有するように設定することが可能となる。
【0047】
以下、本発明に係るマグネシウム合金の塑性加工方法の第2実施形態を、図面に基づいて説明する。
図6は、本実施形態におけるマグネシウム合金の塑性加工方法の摩擦撹拌プロセスを示す断面図、
図7は、本実施形態におけるマグネシウム合金の塑性加工方法の摩擦撹拌プロセスを示す断面図である。
本実施形態において上述した第1実施形態と異なるのはプローブ35に関する点であり、これ以外の対応する構成要素に関しては、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0048】
本実施形態においては、
図6に示すように、ツール30において、プローブ35が偏心した位置に設けられている。
プローブ35は、ツール30の回転にともなって、径寸法35aとなる円柱状の部分を回転することになる。これにより、
図8に示したように、径寸法36aが大きく設定されたプローブ36を有するツール30と同様に、摩擦撹拌プロセスにおける列状改質領域13a〜13eの幅寸法を、
図2に示した31aと比べて大きな寸法35aとして設定することができる。
【0049】
さらに、プローブ35が偏心した位置に設けられていることにより、同一回転数、同一移動速度とした第1実施形態のプローブ31に比べて、改質状態を進めることが可能となる。さらに、プローブ35が偏心した位置に設けられていることにより、プローブの周速が大きくなり、塑性流動が大きくなる。また、入熱も大きくなる。これにより、結晶粒や金属間化合物が微細化されてマグネシウム合金の加工性を向上させることができる。
【0050】
本実施形態においては、
図7に示すように、図で左側に示したツール30が先におこなった摩擦撹拌プロセスにおけるX方向位置を示すものであり、次に隣接する列状改質領域を処理するツール30は、図でハッチングを付けて右側に示した位置になるように、X方向において、先の処理でのプローブ35位置に対して隣接するように、後処理でのプローブ35が位置される。このとき、X方向の幅寸法を35aとして、列状改質領域13a〜13eに対応する列の数を削減して、摩擦撹拌プロセスの回数を少なくし、処理時間の合計を削減することが可能となる。
【0051】
なお、上記の実施形態において、摩擦撹拌領域13の幅寸法をA+αとして改質領域が最小となるように設定したが、
図4,
図6に示すように、ダイ22の開口幅寸法Bに対して、B+αとすること、または、ツール30において、
図4,
図6に示すように、ショルダー31の内側どうしの距離CがA+αと等しくなるように、ツール30の移動軌跡を設定して、加工性をより一層寄り向上させることも可能である。
【0052】
また、上記の実施形態において、曲げ部12の外側表面長さAに対して、摩擦撹拌領域13の幅寸法A+αとして設定したが、曲げ部12の外側表面長さAに変えて、マグネシウム合金10の厚さtの中間位置における曲げ部12の長さA’を用いて、摩擦撹拌領域13の幅寸法A’+αとして設定することもできる。