特許第6393939号(P6393939)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6393939酸素安定同位体濃度測定方法、及び酸素安定同位体濃度測定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6393939
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】酸素安定同位体濃度測定方法、及び酸素安定同位体濃度測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/3504 20140101AFI20180913BHJP
   G01N 31/00 20060101ALI20180913BHJP
   G01N 31/12 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   G01N21/3504
   G01N31/00 K
   G01N31/00 Y
   G01N31/12 A
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-226986(P2014-226986)
(22)【出願日】2014年11月7日
(65)【公開番号】特開2016-90464(P2016-90464A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231235
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】上村 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】東海林 征
【審査官】 嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−190871(JP,A)
【文献】 特開昭59−222746(JP,A)
【文献】 特開2005−227045(JP,A)
【文献】 特開2012−25636(JP,A)
【文献】 特表2001−523818(JP,A)
【文献】 CO + OH → CO2 + H: The relative reaction rate of five CO isotopologues,Physical Chemistry Chemical Physics,The Owner Societies,2002年 8月23日,Vol. 4,pp. 4687-4693,doi: 10.1039/b204827m
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/74
G01N 31/00−31/22
G01N 27/60−27/92
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中に含まれる3種の酸素安定同位体である16O、17O、及び18Oの各濃度を測定する酸素安定同位体濃度測定方法であって、
16Oの濃度、17Oの濃度、及び18Oの濃度が既知のサンプルを用いて、赤外分光法により、C16Oの吸光度、C17Oの吸光度、及びC18Oの吸光度を取得し、16Oの濃度とC16Oの吸光度との関係を示す第1の検量線と、17Oの濃度とC17Oの吸光度との関係を示す第2の検量線と、及び18Oの濃度とC18Oの吸光度との関係を示す第3の検量線を作製する検量線作製工程と、
内部に炭素部材が充填され、かつ加熱されることで、不完全燃焼状態とされた反応炉内に前記試料を導入させ、前記試料に含まれる前記3種の酸素安定同位体と前記炭素部材を構成する炭素とを反応させることで、一酸化炭素であるC16O、C17O、及びC18Oを生成する不完全燃焼工程と、
前記反応炉から導出された前記一酸化炭素を含むガスをセル内に導入し、赤外分光法により、前記一酸化炭素であるC16O、C17O、及びC18Oの各吸光度を同時に取得する吸光度取得工程と、
前記第1ないし第3の検量線と、前記吸光度取得工程で取得した前記C16Oの吸光度、前記C17Oの吸光度、及び前記C18Oの吸光度と、に基づいて、前記試料に含まれる16O、17O、及び18Oの各濃度を求める工程と、
を有することを特徴とする酸素安定同位体濃度測定方法。
【請求項2】
前記不完全燃焼工程では、前記一酸化炭素の他に二酸化炭素も生成され、
前記不完全燃焼工程と前記吸光度取得工程との間に、前記不完全燃焼工程よりも高い温度で前記反応炉を加熱し、前記反応炉内に存在する前記二酸化炭素を、前記炭素部材を構成する炭素で還元させて、一酸化炭素としてC16O、C17O、及びC18Oを生成する還元工程を有することを特徴とする請求項1記載の酸素安定同位体濃度測定方法。
【請求項3】
前記試料は、水であり、
前記不完全燃焼工程では、100℃以上1100℃以下の温度で前記反応炉を加熱することを特徴とする請求項1または2記載の酸素安定同位体濃度測定方法。
【請求項4】
前記試料は、水であり、
前記還元工程では、1100℃よりも高く、かつ1500℃以下の温度で前記反応炉を加熱することを特徴とする請求項2または3記載の酸素安定同位体濃度測定方法。
【請求項5】
前記試料は、酸素ガスであり、
前記不完全燃焼工程では、200℃以上300℃以下の温度で前記反応炉を加熱することを特徴とする請求項1または2記載の酸素安定同位体濃度測定方法。
【請求項6】
前記試料は、酸素ガスであり、
前記還元工程では、300℃よりも高く、かつ1200℃以下の温度で前記反応炉を加熱することを特徴とする請求項2または5記載の酸素安定同位体濃度測定方法。
【請求項7】
試料中に含まれる3種の酸素安定同位体である16O、17O、及び18Oの各濃度を測定する酸素安定同位体濃度測定装置であって、
一端が試料導入ラインと接続され、他端が赤外分光装置のセルと接続された筒状の反応炉と、
前記反応炉内に充填され、炭素を含む炭素部材と、
前記試料が前記反応炉内に導入された際、前記反応炉内が不完全燃焼状態となるように、該反応炉を加熱することで、前記試料中に含まれる16O、17O、及び18Oと前記炭素部材を構成する炭素とを反応させることで、一酸化炭素としてC16O、C17O、及びC18Oを生成する第1の加熱装置と、
予め取得した16Oの濃度とC16Oの吸光度との関係を示す第1の検量線、17Oの濃度とC17Oの吸光度との関係を示す第2の検量線、及び18Oの濃度とC18Oの吸光度との関係を示す第3の検量線と、前記反応炉内で生成されたC16O、C17O、及びC18Oの各吸光度と、に基づいて、前記試料中に含まれる16O、17O、及び18Oの各濃度を算出する前記赤外分光装置と、
を有することを特徴とする酸素安定同位体濃度測定装置。
【請求項8】
前記反応炉は、前記試料が導入される前記反応炉の導入口側に配置され、前記第1の加熱部により加熱される第1の領域、及び前記一酸化炭素を含むガスが導出される前記反応炉の導出口側に配置された第2の領域を有し、
前記第1の領域を通過した前記一酸化炭素を含むガスに含まれる二酸化炭素が前記炭素部材に含まれる炭素で還元される温度で、前記第2の領域を加熱する第2の加熱装置を有することを特徴とする請求項7記載の酸素安定同位体濃度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中に含まれる3種の酸素安定同位体である16O、17O、及び18Oの各濃度を測定する酸素安定同位体濃度測定方法、及び酸素安定同位体濃度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素には、16O、17O、及び18Oの3種類の安定同位体があり、天然存在比は16Oが99.754atom%、17Oが0.037atom%、18Oが0.209atom%であることが知られている。
【0003】
近年、18O高濃縮水を利用したPET(陽電子放射断層撮影法)診断薬やアルツハイマー診断薬等の医薬分野での需要が増加しており、酸素安定同位体を含む試料の形態も液体やガス等、多様化している。
【0004】
従来の酸素安定同位体濃度の測定方法として、例えば、特許文献1に開示された測定方法がある。
具体的には、特許文献1には、大気試料又は試料水から採取した溶存気体試料を、液体窒素を冷媒とした第1のトラップによりCO、NO及び水蒸気を吸着除去してOガス、Nガス及びArガスのみからなる試料ガスを作製し、この試料ガスを、液体窒素を冷媒とした第2のトラップ中のモレキュラーシーブで捕集し、モレキュラーシーブを加熱して、捕集した試料ガスを流出すると共に、冷却されたモレキュラーシーブパックトカラムにキャリアガスと共に導入し、モレキュラーシーブパックトカラムの出口から流出されるArガスから時間的に分離して流出されるOガスを、液体窒素を冷媒とした第3のトラップ中のモレキュラーシーブで捕集することによりOガスを単離し、単離Oガスの三種安定酸素同位体比を、質量分析装置により測定する大気中又は溶存気体中の三種安定酸素同位体比測定方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3864395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、大気中の酸素の影響を受けやすい、質量分析装置を用いるため、気密性の高い試料導入系の必要があった。
また、特許文献1に開示された三種安定酸素同位体比測定方法では、3つのトラップ(具体的には、第1ないし第3のトラップ)を用いて、Oガスを単離させ、質量分析装置を用いて、16O、17O、及び18Oの3種類の酸素安定同位体の各濃度を求めていた。そのため、試料を導入から酸素安定同位体の各濃度を算出するまでの時間が長くなってしまう(例えば、5時間程度)という問題があった。
【0007】
そこで本発明は、気密性の高い試料導入系を用いることなく、試料を導入から酸素安定同位体の各濃度を算出するまでの時間を短くすることの可能な酸素安定同位体濃度測定方法、及び酸素安定同位体濃度測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明によれば、試料中に含まれる3種の酸素安定同位体である16O、17O、及び18Oの各濃度を測定する酸素安定同位体濃度測定方法であって、16Oの濃度、17Oの濃度、及び18Oの濃度が既知のサンプルを用いて、赤外分光法により、C16Oの吸光度、C17Oの吸光度、及びC18Oの吸光度を取得し、16Oの濃度とC16Oの吸光度との関係を示す第1の検量線と、17Oの濃度とC17Oの吸光度との関係を示す第2の検量線と、及び18Oの濃度とC18Oの吸光度との関係を示す第3の検量線を作製する検量線作製工程と、内部に炭素部材が充填され、かつ加熱されることで、不完全燃焼状態とされた反応炉内に前記試料を導入させ、前記試料に含まれる前記3種の酸素安定同位体と前記炭素部材を構成する炭素とを反応させることで、一酸化炭素であるC16O、C17O、及びC18Oを生成する不完全燃焼工程と、前記反応炉から導出された前記一酸化炭素を含むガスをセル内に導入し、赤外分光法により、前記一酸化炭素であるC16O、C17O、及びC18Oの各吸光度を同時に取得する吸光度取得工程と、前記第1ないし第3の検量線と、前記吸光度取得工程で取得した前記C16Oの吸光度、前記C17Oの吸光度、及び前記C18Oの吸光度と、に基づいて、前記試料に含まれる16O、17O、及び18Oの各濃度を求める工程と、を有することを特徴とする酸素安定同位体濃度測定方法が提供される。
【0009】
また、請求項2に係る発明によれば、前記不完全燃焼工程では、前記一酸化炭素の他に二酸化炭素も生成され、前記不完全燃焼工程と前記吸光度取得工程との間に、前記不完全燃焼工程よりも高い温度で前記反応炉を加熱し、前記反応炉内に存在する前記二酸化炭素を、前記炭素部材を構成する炭素で還元させて、一酸化炭素としてC16O、C17O、及びC18Oを生成する還元工程を有することを特徴とする請求項1記載の酸素安定同位体濃度測定方法が提供される。
【0010】
また、請求項3に係る発明によれば、前記試料は、水であり、前記不完全燃焼工程では、100℃以上1100℃以下の温度で前記反応炉を加熱することを特徴とする請求項1または2記載の酸素安定同位体濃度測定方法が提供される。
【0011】
また、請求項4に係る発明によれば、前記試料は、水であり、前記還元工程では、1100℃よりも高く、かつ1500℃以下の温度で前記反応炉を加熱することを特徴とする請求項2または3記載の酸素安定同位体濃度測定方法が提供される。
【0012】
また、請求項5に係る発明によれば、前記試料は、酸素ガスであり、前記不完全燃焼工程では、200℃以上300℃以下の温度で前記反応炉を加熱することを特徴とする請求項1または2記載の酸素安定同位体濃度測定方法が提供される。
【0013】
また、請求項6に係る発明によれば、前記試料は、酸素ガスであり、前記還元工程では、300℃よりも高く、かつ1200℃以下の温度で前記反応炉を加熱することを特徴とする請求項2または5記載の酸素安定同位体濃度測定方法が提供される。
【0014】
また、請求項7に係る発明によれば、試料中に含まれる3種の酸素安定同位体である16O、17O、及び18Oの各濃度を測定する酸素安定同位体濃度測定装置であって、一端が試料導入ラインと接続され、他端が赤外分光装置のセルと接続された筒状の反応炉と、前記反応炉内に充填され、炭素を含む炭素部材と、前記試料が前記反応炉内に導入された際、前記反応炉内が不完全燃焼状態となるように、該反応炉を加熱することで、前記試料中に含まれる16O、17O、及び18Oと前記炭素部材を構成する炭素とを反応させることで、一酸化炭素としてC16O、C17O、及びC18Oを生成する第1の加熱装置と、予め取得した16Oの濃度とC16Oの吸光度との関係を示す第1の検量線、17Oの濃度とC17Oの吸光度との関係を示す第2の検量線、及び18Oの濃度とC18Oの吸光度との関係を示す第3の検量線と、前記反応炉内で生成されたC16O、C17O、及びC18Oの各吸光度と、に基づいて、前記試料中に含まれる16O、17O、及び18Oの各濃度を算出する前記赤外分光装置と、を有することを特徴とする酸素安定同位体濃度測定装置が提供される。
【0015】
また、請求項8に係る発明によれば、前記反応炉は、前記試料が導入される前記反応炉の導入口側に配置され、前記第1の加熱部により加熱される第1の領域、及び前記一酸化炭素を含むガスが導出される前記反応炉の導出口側に配置された第2の領域を有し、前記第1の領域を通過した前記一酸化炭素を含むガスに含まれる二酸化炭素が前記炭素部材に含まれる炭素で還元される温度で、前記第2の領域を加熱する第2の加熱装置を有することを特徴とする請求項7記載の酸素安定同位体濃度測定装置が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、赤外分光法を用いることで、外気の影響を受けにくくなるため、質量分析法(質量分析装置)で測定する際に必要な気密性の高い試料導入系を用いることなく、一酸化炭素に含まれるC16Oの吸光度、C17Oの吸光度、及びC18Oの吸光度を測定することが可能となる。
また、試料に含まれる3種の酸素安定同位体と炭素部材を構成する炭素とを不完全燃焼させることで一酸化炭素としてC16O、C17O、及びC18Oを生成し、赤外分光法により、該一酸化炭素に含まれるC16Oの吸光度、C17Oの吸光度、及びC18Oの吸光度を同時に取得し、予め作製した第1ないし第3の検量線と、該一酸化炭素に含まれるC16Oの吸光度、C17Oの吸光度、及びC18Oの吸光度と、に基づいて、試料に含まれる16O、17O、及び18Oの各濃度を求めることが可能となるため、試料を導入から3種の酸素安定同位体の各濃度を算出するまでの時間を短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態に係る酸素安定同位体濃度測定装置の概略構成を模式的に示す図である。
図2】第1の検量線の一例を示す図である。
図3】第2の検量線の一例を示す図である。
図4】第3の検量線の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明を適用した実施の形態について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、本発明の実施形態の構成を説明するためのものであり、図示する各部の大きさや厚さや寸法等は、実際の酸素安定同位体濃度測定装置の寸法関係とは異なる場合がある。
【0019】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態に係る酸素安定同位体濃度測定装置の概略構成を模式的に示す図である。図1では、説明の便宜上、本実施の形態に係る酸素安定同位体濃度測定装置10の構成要素のうち、反応炉15、炭素部材16、第1の加熱装置18、第2の加熱装置19、及び赤外分光装置27の筐体49を断面で図示する。
【0020】
図1を参照するに、本実施の形態に係る酸素安定同位体濃度測定装置10は、試料導入部11と、試料導入ライン12と、バルブ13,23,32,37と、反応炉15、炭素部材16、第1の加熱装置18、と、第2の加熱装置19と、ガス供給ライン21と、セル25と、赤外分光装置27と、排気ライン31と、ポンプ34と、圧力測定用ライン36と、圧力計39と、制御装置(図示せず)と、を有する。
【0021】
試料導入部11は、試料導入ライン12に設けられている。試料導入部11は、例えば、図示していないマイクロシリンジのニードルの先端部が挿入された状態で、マイクロシリンジ内の試料を試料導入ライン12に導入させるためのものである。
試料導入部11に導入される試料は、3種の酸素安定同位体である16O、17O、及び18Oを含んだ試料であり、例えば、液体試料である水やガス試料である酸素ガスを用いることができる。
【0022】
試料導入ライン12は、その一端がキャリアガス供給源(図示せず)と接続されており、他端が反応炉15の試料が導入される導入口側と接続されている。
試料導入部11に導入された試料は、キャリアガス供給源から供給されたキャリアガスとともに、反応炉15内に供給される。キャリアガスとしては、例えば、窒素、或いはアルゴンやヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【0023】
バルブ13は、試料導入ライン12に設けられている。バルブ13が開かれると、バルブ13の下流側に試料及びキャリアガスが供給され、バルブ13が閉じられると、試料及びキャリアガスの供給が停止される。
上記試料導入部11、試料導入ライン12、及びバルブ13は、試料導入系を構成している。本実施の形態では、赤外分光装置27を用いるため、質量分析装置(図示せず)を用いたときのように、気密性の高い試料導入系を有する必要がない。
このため、バルブ13として、高い気密性を有し、かつ高価なダイヤフラムバルブを用いる必要がなくなるので、安価なバルブ(例えば、ボールバルブ)を用いることができる。
【0024】
反応炉15は、その内部に炭素部材16を収容可能な空間を有した筒状の部材である。
反応炉15のガスが導出される導出口側は、ガス供給ライン21の一端と接続されている。反応炉15は、ガス供給ライン21を介して、赤外分光装置27のセル25と接続されている。
【0025】
反応炉15は、第1の加熱装置18により加熱される第1の領域15Aと、第2の加熱装置19により加熱される第2の領域15Bと、を有する。反応炉15は、第2の加熱装置19により、300℃よりも高く、かつ1500℃以下の温度で加熱される。
このため、反応炉15の材料は、上記加熱温度に耐え得るような材料を用いる必要がある。このような材料としては、例えば、融点が2072℃の酸化アルミニウム(アルミナ)、炭化ケイ素(融点が2730℃)、或いは窒化ケイ素(融点が1900℃)等を用いることができる。
【0026】
炭素部材16は、炭素源であり、反応炉15内に形成された空間を充填するように配置されている。炭素部材16は、第1の加熱装置18により、反応炉15内が不完全燃焼状態(言い換えれば、酸素が不足して、二酸化炭素が生成されにくく、かつ一酸化炭素が生成されやすい状態)となるように反応炉15が加熱された際、反応炉15内に導入された試料中に含まれる16O、17O、及び18O(3種の酸素安定同位体)と、炭素部材16を構成する炭素(C)と、を反応させることで、一酸化炭素(具体的には、C16O、C17O、及びC18O)を生成する。
【0027】
このとき、試料が水の場合には、下記(1)式に示す化学反応により、酸素安定同位体の1種を含む一酸化炭素が生成される。また、試料が水の場合には、例えば、反応炉15の温度が100℃以上1100℃以下となるように加熱するとよい。
C+HO → CO+H ・・・(1)
【0028】
一方、試料が酸素ガスの場合には、下記(2)式に示す化学反応により、酸素安定同位体の1種を含む一酸化炭素が生成される。この反応は、発熱反応であるため、試料が酸素ガスの場合には、例えば、反応炉15の温度が200℃以上300℃以下となるように加熱するとよい。
C+O/2→ CO ・・・(2)
【0029】
このように、一酸化炭素としてC16O、C17O、及びC18Oを生成し、後述するように、C16O、C17O、及びC18Oの各吸光度を測定し、試料中に含まれる16O、17O、及び18Oの濃度を算出する場合、2つの酸素安定同位体(同じ種類の酸素安定同位体も含む)を含む6種の二酸化炭素(具体的には、C1616O、C1617O、C1618O、C1717O、C1718O、及びC1818O)を生成し、該二酸化炭素の各吸光度を測定し、該吸光度に基づき、試料中に含まれる16O、17O、及び18Oの濃度を算出する場合と比較して、試料中に含まれる16O、17O、及び18Oの各濃度を容易に求めることができる。
【0030】
上記不完全燃焼状態において、上記(1)式、及び上記(2)式の化学反応が発生する際には、一酸化炭素の他に、試料に含まれる16O、17O、及び18Oを含む二酸化炭素(具体的には、C1616O、C1617O、C1717O、C1718O、C1818O)も一部生成される。
該二酸化炭素は、下記(3)式、及び下記(4)式に示す化学反応により、生成される。
CO + 2HO → CO +2H・・・(3)
CO+O/2 → CO ・・・(4)
【0031】
ところで、反応炉15から導出され、赤外分光装置27のセル25内に供給されるガスに含まれる一酸化炭素(C16O、C17O、及びC18O)の割合が高ければ高いほど、算出される16O、17O、及び18O(酸素安定同位体)の濃度の精度が向上する。
【0032】
そこで、第1の加熱装置18の後段に配置された第2の加熱装置19により、反応炉15(具体的には、第2の領域15B)を高温で加熱して、酸素が不足した状態の反応炉15内において、下記(5)式に示す化学反応を発生させ、二酸化炭素を還元して一酸化炭素(C16O、C17O、及びC18O)を生成することで、一酸化炭素の割合を高めるとよい。
これにより、試料に含まれる16O、17O、及び18O(酸素安定同位体)の濃度の検出精度を向上させることができる。
CO+C → 2CO ・・・(5)
【0033】
試料が水の場合には、例えば、第2の領域15Bの温度が1100℃よりも高く、かつ1500℃以下となるように加熱するとよい。また、試料が酸素ガスの場合には、上記(5)式に示す化学反応が吸熱反応であるため、例えば、第2の領域15Bの温度が300℃よりも高く、かつ1200℃以下となるように加熱するとよい。
【0034】
炭素部材16としては、例えば、不純物が少なく、炭素の純度が高純度(例えば、98%以上)なものを用いるとよい。このような炭素部材16を用いることで、試料に含まれる16O、17O、及び18Oの各濃度を精度良く求めることができる。
炭素部材16の材料としては、例えば、黒鉛、石炭、コークスのうち、少なくとも1種を用いることができる。このような材料を炭素部材16の材料とすることで、炭素部材16を一酸化炭素を生成する際に必要な炭素源として用いることができる。
【0035】
また、炭素部材16の形状は、粒状(ペレット状)にするとよい。このような形状とすることで、炭素部材16の表面積(試料に含まれる酸素安定同位体と反応可能な面積)を広くすることが可能となるので、一酸化炭素を効率良く生成することができる。
【0036】
第1の加熱装置18は、反応炉15の外周面のうち、第1の領域15Aを囲むように配置されている。第1の加熱装置18は、反応炉15の第1の領域15Aが不完全燃焼状態となるように、第1の領域15Aを加熱する。
これにより、酸素が不足した状態が形成され、試料に含まれる16O、17O、及び18Oと、炭素部材16を構成する炭素(C)と、の反応により、一酸化炭素が生成されやすくなる(言い換えれば、二酸化炭素が生成されにくくなる。)。
第1の加熱装置18としては、例えば、ヒーター(例えば、マントルヒーター)を用いることができる。
【0037】
試料が水の場合、第1の加熱装置18は、例えば、100℃以上1100℃以下の温度となるように、第1の領域15Aを加熱するとよい。
第1の領域15Aの温度が100℃よりも低いと、不完全燃焼状態における一酸化炭素の生成率が低下する恐れがあり、好ましくない。一方、第1の領域15Aの温度が1100℃よりも高いと、二酸化炭素が多量に生成する恐れがあり、好ましくない。
したがって、試料が水の場合、100℃以上1100℃以下の温度となるように、第1の領域15Aを加熱することで、第1の領域15A内において、酸素を不足させて、不完全燃焼状態にすることが可能となるので、一酸化炭素を効率良く生成できる。
【0038】
一方、試料が酸素ガスの場合、第1の加熱装置18は、例えば、200℃以上300℃以下の温度となるように、第1の領域15Aを加熱するとよい。
第1の領域15Aの温度が200℃よりも低いと、不完全燃焼状態における一酸化炭素の生成率が低下する恐れがあり、好ましくない。一方、第1の領域15Aの温度が300℃よりも高いと、二酸化炭素が多量に生成する恐れがあり、好ましくない。
したがって、試料が酸素ガスの場合、200℃以上300℃以下の温度となるように、第1の領域15Aを加熱することで、第1の領域15A内において、酸素を不足させて、不完全燃焼状態にすることが可能となるので、一酸化炭素を効率良く生成できる。
【0039】
なお、図1では、一例として、第1の加熱装置18を1つのヒーターで構成する場合を例に挙げて図示したが、例えば、反応炉15の延在方向に対して複数のヒーターを配置することで第1の加熱装置18を構成してもよい。
この場合、反応炉15の導入口側から反応炉15の導出口側に向かう方向に対して、温度が高くなる温度勾配(温度差)を設けるとよい。
上記構成とすることで、二酸化炭素の生成率を低減することができる。
【0040】
第2の加熱装置19は、反応炉15の外周面のうち、第2の領域15Bに対応する部分を囲むように配置されている。第1及び第2の加熱装置18,19は、それぞれ独立して温度制御が可能な構成とされている。
第2の加熱装置19は、反応炉15の第2の領域15Bにおいて、第1の領域15Aで生成された二酸化炭素を還元する還元反応が起こりやすい温度となるように、第2の領域15Bを加熱する。
第2の加熱装置19は、第1の加熱装置18が反応炉15(第1の領域15A)を加熱する温度よりも高い温度で、反応炉15(第2の領域15B)を加熱する。これにより、反応炉15には、反応炉15の導入口側から導出口側に向かう方向に対して温度が高くなる温度勾配(温度差)が形成される。
【0041】
第2の加熱装置19としては、例えば,ヒーター(例えば、マントルヒーター)を用いることができる。試料が水の場合、第2の加熱装置19は、例えば、1100℃よりも高く、かつ1500℃以下の温度となるように、第2の領域15Bを加熱するとよい。
第2の領域15Bの温度が1100℃以下であると、還元反応における一酸化炭素の生成率が低下する恐れがあり、好ましくない。一方、第2の領域15Bの温度が1500℃よりも高いと、二酸化炭素が分解する恐れがあり、好ましくない。
【0042】
したがって、試料が水の場合、1100℃よりも高く、かつ1500℃以下の温度となるように、第2の領域15Bを加熱することで、第2の領域15B内において、二酸化炭素を還元する反応を発生させやすい環境を形成することが可能となるので、ガスに含まれる一酸化炭素の割合を高めることができる。
これにより、赤外分光装置27の検出部52が検出するC16Oの吸光度、C17Oの吸光度、及びC18Oの吸光度の検出感度が向上するため、後述する第1ないし第3の検量線L1〜L3、及び検出部52が検出するC16Oの吸光度、C17Oの吸光度、及びC18Oの吸光度と、に基づいて、水に含まれる16O、17O、及び18Oの各濃度を高精度に求めることができる。
【0043】
一方、試料が酸素ガスの場合、第2の加熱装置19としては、例えば、300℃よりも高く、かつ1200℃以下の温度となるように、第2の領域15Bを加熱することの可能なヒーターを用いるとよい。
第2の領域15Bの温度が300℃以下であると、還元反応における一酸化炭素の生成率が低下する恐れがあり、好ましくない。一方、第2の領域15Bの温度が1200℃よりも高いと、二酸化炭素が分解する恐れがあり、好ましくない。
【0044】
したがって、試料が酸素ガスの場合、300℃よりも高く、かつ1200℃以下の温度となるように、第2の領域15Bを加熱することで、第2の領域15B内において、二酸化炭素を還元する反応を発生させることが可能となり、ガスに含まれる一酸化炭素の割合を高めることができる。
これにより、赤外分光装置27の検出部52が検出するC16Oの吸光度、C17Oの吸光度、及びC18Oの吸光度の検出感度が向上するため、後述する第1ないし第3の検量線、及び検出部52が検出するC16Oの吸光度、C17Oの吸光度、及びC18Oの吸光度と、に基づいて、酸素ガスに含まれる16O、17O、及び18Oの各濃度を高精度に求めることができる。
【0045】
なお、図1では、一例として、第2の加熱装置19を1つのヒーターで構成する場合を例に挙げて図示したが、例えば、反応炉15の延在方向に対して複数のヒーターを配置することで第2の加熱装置19を構成してもよい。
この場合、反応炉15の導入口側から反応炉15の導出口側に向かう方向に対して、第2の領域15Bの温度が高くなるように、第2の領域15Bを加熱するとよい。このような構成とすることで、一酸化炭素の生成率を高めることができる。
【0046】
また、図1では、第1及び第2の加熱装置18,19を設けた場合を例に挙げて説明したが、第2の加熱装置19は必要に応じて設ければよい。第2の加熱装置19を設けない場合には、反応炉15の外周側面全体を覆うように第1の加熱装置18を設けるとよい。
また、2つの反応炉を直列に接続し、1つ目の反応炉の外周面を覆うように第1の加熱装置18を配置し、1つ目の反応炉の後段に配置された2つ目の反応炉の外周面を覆うように第2の加熱装置19を配置させてもよい。
【0047】
ガス供給ライン21は、その他端がセル25と接続されている。ガス供給ライン21は、反応炉15から導出された一酸化炭素(具体的には、C16O、C17O、及びC18O)を含むガスをセル25内に供給するためのラインである。
バルブ23は、ガス供給ライン21に設けられている。バルブ23が開かれると、セル25内に一酸化炭素を含むガスが供給され、バルブ23が閉じられると、セル25内への一酸化炭素を含むガスの供給が停止される。
【0048】
セル25は、セル本体45と、窓部46,47と、を有する。セル本体45は、その内部に、ガス供給ライン21を介して供給される一酸化炭素を含むガスを収容可能な空間を有する。セル本体45は、その下部が赤外分光装置27の筐体49内に収容されている。
セル本体45の容量は、例えば、1〜10Lの範囲内で設定することができる。
【0049】
窓部46は、筐体49内に収容されたセル本体45の側壁を貫通するように設けられている。窓部46は、赤外線照射部51からセル本体45内の一酸化炭素(具体的には、C16O、C17O、及びC18O)に向けて照射される赤外線を通過させることの可能な材料で構成されている。
【0050】
窓部47は、筐体49内に収容されたセル本体45の側壁を貫通し、かつ窓部46と対向するように設けられている。窓部47は、一酸化炭素(具体的には、C16O、C17O、及びC18O)に照射された赤外線を通過させることの可能な材料で構成されている。
一酸化炭素の赤外吸収波長が2100〜2200cm−1程度であることを考慮すると、窓部46,47の材料としては、例えば、KBr、LiF、NaCl、KCl、ZeS等を用いることができる。
【0051】
窓部46,47の材料として、例えば、KBrを用いる場合、40000〜340cm−1の範囲の赤外吸収波長を透過させることができる。また、窓部46,47の材料として、例えば、LiFを用いる場合、100000〜1430cm−1の範囲の赤外吸収波長を透過させることができる。
【0052】
赤外分光装置27は、筐体49と、赤外線照射部51と、検出部52と、データ処理装置53と、を有する。筐体49は、セル本体45の下部、窓部46,47、赤外線照射部51、及び検出部52を収容する空間を有する。
赤外線照射部51は、筐体49内に収容されており、赤外線を照射する部分が窓部46と対向するように配置されている。赤外線照射部51は、窓部46を介して、セル45内に位置する一酸化炭素に赤外線(入射光)を照射する。
【0053】
検出部52は、筐体49内に収容されており、検出する部分が窓部47と対向するように配置されている。検出部52は、データ処理装置53と電気的に接続されている。
検出部52は、C16O、C17O、及びC18Oの各吸光度を検出することができる。検出部52は、吸光度に関するデータを検出した際、該データをデータ処理装置53に送信する。
【0054】
検出部52としては、例えば、半導体型のMCT(Hg−Cd−Te)検出器、焦電型のTGS(硫酸トリグリシン)検出器等を用いることができる。
MCT検出器の測定波長域は、600〜11700cm−1である。また、TGS検出器の測定波長域は、350〜12500cm−1である。
【0055】
データ処理装置53は、筐体49の外に配置されている。データ処理装置53は、記憶部(図示せず)と、演算部(図示せず)と、を有する。
記憶部(図示せず)には、予め取得した16Oの濃度とC16Oの吸光度との関係を示す第1の検量線に関するデータと、17Oの濃度とC17Oの吸光度との関係を示す第2の検量線に関するデータと、18Oの濃度とC18Oの吸光度との関係を示す第3の検量線に関するデータと、第1ないし第3の検量線、及び測定により得られる試料に含まれるC16O、C17O、及びC18Oの各吸光度に基づいて、試料に含まれる16O、17O、及び18Oの各濃度を算出するためのプログラムと、が格納されている。
演算部(図示せず)は、記憶部に格納された上記プログラムを用いて、試料中に含まれる16O、17O、及び18Oの各濃度を算出する。
【0056】
上記構成とされた赤外分光装置27としては、例えば、特定の赤外線波長範囲を測定する赤外分光分析計、特定の赤外線波長のみを測定する赤外線分析計等を用いることができる。
【0057】
排気ライン31は、その一端がセル本体45の上端と接続されている。排気ライン31は、セル本体45内に供給されたガスを排気するためのラインである。
バルブ32は、セル本体45の近傍に位置する排気ライン31に設けられている。バルブ32は、赤外分光装置27が一酸化炭素の吸光度を測定する際には閉じられ、セル本体45内のガスを排気する際には開かれる。
【0058】
ポンプ34は、バルブ32の後段に位置する排気ライン31に設けられている。ポンプ34は、セル本体45のガスを酸素安定同位体濃度測定装置10の外部に排気するための真空ポンプである。ポンプ34としては、例えば、油回転ポンプやダイヤフラムポンプ等を用いることができる。
【0059】
圧力測定用ライン36は、その一端がセル本体45の上端と接続されており、他端が圧力計39と接続されている。バルブ37は、圧力測定用ライン36に設けられている。
圧力計39は、ガスが供給されたセル本体45内の圧力を測定する。圧力計39としては、例えば、ブルドン管式圧力計やダイアフラム式圧力計等を用いることができる。
【0060】
制御装置(図示せず)は、第1の加熱部18−1〜18−3、第2の加熱装置19−1〜19−3、赤外分光装置27、ポンプ34、圧力計39、赤外線照射部51、検出部52、及びデータ処理装置53と電気的に接続されている。制御装置(図示せず)は、酸素安定同位体濃度測定装置10の制御全般を行う。
【0061】
次に、図1に示す酸素安定同位体濃度測定装置10を用いた本実施形態の酸素安定同位体濃度測定方法について説明する。ここでは、一例として、試料として水を用いた場合を例に挙げて説明する。
始めに、第1及び第2の加熱装置18,19により、反応炉15全体を加熱(加熱温度は、例えば、200〜1200℃)し、バルブ32を開いた状態でポンプ34を用いて、酸素安定同位体濃度測定装置10の系内を0.1MPa以下の真空状態とする。
これにより、反応炉15内に存在する水分や二酸化炭素を排出させる(以下、この工程を「前処理工程」という。)。上記前処理工程は、例えば、1時間程度行うとよい。
【0062】
次いで、16Oの濃度、17Oの濃度、及び18Oの濃度が既知のサンプルを用いて、赤外分光法により、C16Oの吸光度、C17Oの吸光度、及びC18Oの吸光度を取得し、16Oの濃度とC16Oの吸光度との関係を示す第1の検量線と、17Oの濃度とC17Oの吸光度との関係を示す第2の検量線と、及び18Oの濃度とC18Oの吸光度との関係を示す第3の検量線を作製する(検量線作製工程)。
上記検量線作製工程は、16Oの濃度、17Oの濃度、及び18Oの濃度が未知な水(試料)を測定する前に行う。
【0063】
具体的には、下記手法により、第1ないし第3の検量線を作製する。
始めに、上述した温度範囲内の温度となるように、第1及び第2の加熱装置18,19を用いて、反応炉15を加熱した状態を維持した上で、試料導入部11に、16Oの濃度、17Oの濃度、及び18Oの濃度が既知のサンプルを導入し、キャリアガスとともに、反応炉15内に供給する。
【0064】
第1の領域15Aでは、サンプルに含まれる16O、17O、及び18O(3種の酸素安定同位体)と炭素部材16を構成する炭素(C)とが反応することで、一酸化炭素(C16O、C17O、及びC18O)が生成される(上記(1)式参照。)。このとき、一酸化炭素の他に二酸化炭素も一部生成される。
【0065】
次いで、一酸化炭素及び二酸化炭素を含むガスが、第2の領域15Bに到達すると、第2の領域15Bでは、炭素部材16を構成する炭素で該二酸化炭素が還元され、一酸化炭素(C16O、C17O、及びC18O)が生成される(上記(3)式、及び上記(4)式参照。)。このような処理を行うことで、ガス中に含まれる一酸化炭素の割合を高めることができる。
第2の領域15Bを通過した一酸化炭素を含むガスは、バルブ23及びガス供給ライン21を介して、セル本体45内に供給される。
【0066】
次いで、赤外線照射部51を用いて、セル本体45内に供給された3種類の一酸化炭素(具体的には、C16O、C17O、及びC18O)に赤外線を照射し、検出部52により、一酸化酸素であるC16O、C17O、及びC18Oの各吸光度を同時に検出する。
なお、C16O、C17O、及びC18O)、赤外吸収波長が約30cm−1異なるため、吸光度を同時に検出することができる。
【0067】
そして、サンプルに含まれる16O、17O、及び18Oの既知の濃度と、検出したC16O、C17O、及びC18Oの各吸光度と、に基づいて、後述する図2図4に示すような、第1ないし第3の検量線L1〜L3を作製する。
なお、第1ないし第3の検量線L1〜L3の作製方法については、後述する実施例1において詳述する。
【0068】
ここで、表1に、一酸化炭素(12CO,13CO)が、16O、17O、及び18Oを含む場合の一酸化炭素の赤外吸収波長(cm−1)を示す。
【0069】
【表1】
【0070】
表1に示す赤外吸収波長は、HPCシステムズ株式会社製のGaussian03(method: B3LYP、Basisset: ccpvdz)にて計算した値である。
Gaussian03は、分子軌道計算プログラムであり、入力した分子構造を計算により最適化し、熱力学的に安定した状態の分子伸縮振動を予想し、赤外吸収波長を簡易に計算することができる。
また、炭素の同位体として、12Cと13Cが自然界に存在しているが、12Cの天然存在比が約99%に対し、13Cの天然存在比は約1%と微量である。さらに、13Cで構成された一酸化炭素ガスは、12Cで構成された一酸化炭素ガスと異なるところに赤外吸収波長があるため、吸収度の測定に影響はない。
【0071】
表2は、二酸化炭素(12CO13CO)が、16O、17O、及び18Oを含む場合の二酸化炭素の赤外吸収波長(cm−1)を示す。
表2に示す赤外吸収波長は、HPCシステムズ株式会社製のGaussian03(method: B3LYP、Basisset: ccpvdz)にて計算した値である。
【0072】
【表2】
【0073】
表1及び表2を参照するに、二酸化炭素ガスの赤外吸収波長は、一酸化炭素ガスの吸収波長と異なることがわかる。このことから、反応炉15内において、一酸化炭素の他に二酸化炭素が発生しても、該二酸化炭素が、検出部52により検出される一酸化炭素の吸光度に影響を及ぼすことはない。
【0074】
次いで、第1ないし第3の検量線L1〜L3を作製する際に使用したサンプルの影響を低減するために、反応炉15内に残存する該サンプルの成分を、酸素安定同位体濃度測定装置10の系外に排出させる。具体的には、先に説明した前処理工程と同じ条件で、該前処理工程を行う。
これにより、サンプルに含まれていた16O、17O、及び18Oの影響を低減することが可能となるので、測定により得られる水(試料)に含まれる16O、17O、及び18Oの各濃度の精度を向上させることができる。
【0075】
次に、水(試料)に含まれる3種の酸素安定同位体である16O、17O、及び18Oの各濃度(未知の濃度)を測定する方法について説明する。
始めに、第1の加熱装置18により、第1の領域15Aの温度が100以上1100℃以下の所定の温度となるように加熱するとともに、第2の加熱装置19により、第2の領域15Bの温度が1100℃よりも高く、かつ1500℃以下の所定の温度となるように加熱する。
【0076】
次いで、上記条件で反応炉15を加熱さえた状態で、マイクロシリンジを用いて、試料導入部11に水(試料)を導入し、キャリアガスで水を反応炉15内に搬送させる。このとき、水(試料)の導入量は、例えば、1mLとすることができる。
また、キャリアガスとして高純度ヘリウムガス(純度が99.99%以上)を用いる場合、キャリアガスの流量は、例えば、1L/minとすることができる。
【0077】
その後、第1の領域15Aにおいて、上記(1)式に示すように、サンプルに含まれる16O、17O、及び18O(3種の酸素安定同位体)と炭素部材16を構成する炭素(C)とを反応させて、一酸化炭素(C16O、C17O、及びC18O)を生成する(不完全燃焼工程)。このとき、一酸化炭素の他に二酸化炭素も一部生成される。
【0078】
次いで、一酸化炭素及び二酸化炭素を含むガスが、第2の領域15Bに到達すると、第2の領域15Bでは、上記(3)式、及び上記(4)式に示すように、炭素部材16を構成する炭素で該二酸化炭素が還元され、一酸化炭素が生成される(還元工程)。
このような還元工程を行うことで、ガス中に含まれる一酸化炭素の割合を高めることが可能となるので、検出部52が検出する一酸化炭素の吸光度の精度(信頼性)を向上させることができる。
第2の領域15Bを通過した一酸化炭素を含むガスは、バルブ23及びガス供給ライン21を介して、セル本体45内に供給される。
【0079】
次いで、赤外線照射部51を用いて、セル本体45内に供給された3種類の一酸化炭素(C16O、C17O、及びC18O)に赤外線を照射し、検出部52により、一酸化酸素であるC16O、C17O、及びC18Oの各吸光度を同時に検出することで、C16Oの吸光度、C17Oの吸光度、及びC18Oの吸光度を取得する(吸光度取得工程)。
【0080】
次いで、予め作製した第1ないし第3の検量線L1〜L3と、検出部52が測定したC16Oの吸光度、C17Oの吸光度、及びC18Oの吸光度と、に基づいて、水(試料)に含まれていた16O、17O、及び18Oの各濃度を求める。
具体的には、検出したC16Oの吸光度と交差する位置の検量線L1の直下に位置する16Oの濃度の値が、水(試料)に含まれていた16Oの濃度となる。水(試料)の17Oの濃度を求める場合には、第2の検量線L2を用いる。また、水(試料)の18Oの濃度を求める場合には、第3の検量線L3を用いる。
【0081】
なお、水(試料)に含まれる16O、17O、及び18Oの各濃度を求める際に使用する反応炉15の体積、炭素部材16の体積、及び該試料の投入量は、第1ないし第3の検量線L1〜L3の作成時に使用した反応炉15の体積、炭素部材16の体積、及びサンプルの投入量と、等しくなるようにするとよい。
これにより、サンプル導入時と試料導入時とにおいて、生成される一酸化炭素ガスと二酸化炭素ガスとの比率が一定となるため、第1ないし第3の検量線L1〜L3を用いて、水(試料)に含まれる16O、17O、及び18Oの各濃度を求めることができる。
【0082】
本実施の形態の酸素安定同位体濃度測定方法、及び酸素安定同位体濃度測定装置によれば、赤外分光法(言い換えれば、赤外分光装置27)を用いることで、外気の影響を受けにくくなるため、質量分析装法(言い換えれば、質量分析装置)を用いる場合に必要な気密性の高い試料導入系を用いる必要がない。
【0083】
また、不完全燃焼状態で、試料に含まれる3種の酸素安定同位体(16O、17O、及び18O)と炭素部材16を構成する炭素(C)とを反応させて、一酸化炭素であるC16O、C17O、及びC18Oを生成し、赤外分光法により、C16O、C17O、及びC18Oの各吸光度を同時に取得し、予め作製した第1ないし第3の検量線L1〜L3と、試料に含まれるC16Oの吸光度、C17Oの吸光度、及びC18Oの吸光度と、に基づいて、試料に含まれる16O、17O、及び18Oの各濃度を求めることで、試料を導入から酸素安定同位体の各濃度を算出するまでの時間を短くすることができる。
具体的には、同一の試料を測定する場合、試料を導入から酸素安定同位体の各濃度を算出するまでの時間を、特許文献1に開示された分析装置を用いた場合の時間の1/3程度にすることができる。
【0084】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0085】
以下、実施例及び比較例について説明するが、本発明は、下記実施例に限定されない。
【0086】
(実施例1)
<酸素安定同位体濃度測定装置の構成>
実施例1では、図1に示す酸素安定同位体濃度測定装置10を用いて、水(試料)に含まれる16O、17O、及び18Oの各濃度(未知の濃度)を求めた。
実施例1では、反応炉15として、内径50mm、長さ1000mmの酸化アルミニウム製の筒状の反応炉を用いた。反応炉15の内容量は、18Lとした。
炭素部材16としては、高さ5mm、直径5mmの円柱形状の高純度黒鉛製ペレット(純度が99.9%以上)を用いた。これを反応炉15内に充填させた。
【0087】
第1及び第2の加熱装置18,19としては、大科電器株式会社製のマントルヒーターを用いた。赤外分光装置としては、日本分光株式会社製の赤外分光分析計であるFTIR6200型(型番)を用いた。検出部52としては、該赤外分析計に内蔵されたMCT検出器を用いた。セル本体45の容量は、2Lとした。また、窓部46,47の材料としては、KBrを用いた。
【0088】
<第1ないし第3の検量線L1〜L3の作製>
始めに、18Oの濃度が98atom%の水と、17Oの濃度が20atom%の水と、18Oの濃度が98atom%の水と、16O、17O、及び18Oの濃度が天然存在比とされた精製水と、該精製水と18Oの濃度が98atom%の水とを半分ずつ混ぜた水と、該精製水と17Oの濃度が20atom%の水とを半分ずつ混ぜることで生成された17Oの濃度が10atom%の水と、の6種類のサンプルを準備した。
なお、上記6種類のサンプルに含まれる16O、17O、及び18Oの濃度は、アネルバ株式会社製の質量分析計であるAGS7000を用いて測定した。
なお、16Oの天然存在比が99.754atom%、17Oの天然存在比が0.037atom%、18Oの天然存在比が0.209atom%である。
【0089】
次いで、上述した前処理工程を1時間行うことで、不純物成分を酸素安定同位体濃度測定装置10の系外に排出させた。このとき、反応炉15の第1の領域15Aを1000℃に加熱し、かつ第2の領域15Bを1200℃に加熱したこと以外は、上述した前処理工程と同じ条件とした。
【0090】
次いで、ガスセル本体45を真空状態(真空度が10KPa以下)とし、この状態を1時間保持させた。
次いで、反応炉15の第1の領域15Aを1000℃、第2の領域15Bを1200℃に加熱した状態で、マイクロシリンジ(図示せず)を用いて、1種の上記サンプルを導入し、純度が99.99%以上の高純度ヘリウムガス(キャリアガス)とともに、該サンプルを反応炉15内に供給した。
このとき、サンプルの導入量は、1mLとした。また、高純度ヘリウムガスの流量は、1L/minとした。
【0091】
そして、反応炉15内において、上述した不完全燃焼工程及び還元工程を行い、セル本体45内に、一酸化炭素を含むガスを供給し、赤外分光装置27により、1000〜4000cm−1の範囲の赤外吸収波長におけるC16O、C17O、及びC18Oの各吸光度を測定した。
このような処理を、上記6種類のサンプルについて、それぞれ行い、各サンプルに含まれるC16O、C17O、及びC18Oの各吸光度を測定した。
【0092】
図2図4は、第1の検量線の一例を示す図である。図2において、縦軸がC16Oの吸光度、横軸が16Oの濃度を示している。図3において、縦軸がC17Oの吸光度、横軸が17Oの濃度を示している。図4において、縦軸がC18Oの吸光度、横軸が18Oの濃度を示している。
【0093】
その後、図2に示す第1の検量線L1、図3に示す第2の検量線L2、図4に示す第3の検量線L3を作製した。
図2に示す点P1、及び図4に示す点P9は、18Oの濃度が98atom%の水を測定したときの結果に基づく点である。図2に示す点P2、及び図4に示す点P8は、精製水と18Oの濃度が98atom%の水とを半分ずつ混ぜた水を測定したときの結果に基づく点である。図2に示す点P3、図3に示す点P4、及び図4に示す点P7は、精製水を測定したときの結果に基づく点である。
図3に示す点P5は、17Oの濃度が10atom%の水を測定したときの結果に基づく点である。図3に示す点P6は、17Oの濃度が20atom%の水を測定したときの結果に基づく点である。図2図4を参照するに、第1ないし第3の検量線L1〜L3は、直線性を有することが判った。
【0094】
<水(試料)に含まれる16O、17O、及び18Oの各濃度(未知の濃度)の測定>
次いで、第1ないし第3の検量線L1〜L3を作製した際に使用した酸素安定同位体濃度測定装置10と同じ装置を用いて、上記サンプルを用いた際のC16O、C17O、及びC18Oの各吸光度の測定と同様な手法により、水(試料)を用いて、C16O、C17O、及びC18Oの各吸光度を測定した。
このとき、700〜4000cm−1の範囲の赤外吸収波長で、C16O、C17O、及びC18Oの各吸光度を測定したこと以外は、上記サンプルのときと同様な条件を用いた。
【0095】
その結果、C16Oの吸光度が377、C17Oの吸光度が2.4、C18Oの吸光度が118であった。したがって、図2図4に示す検量線L1〜L3と、上記C16O、C17O、及びC18Oの吸光度の値から、水(試料)に含まれていた16Oの濃度が76.2%、17Oの濃度が0.7%、18Oの濃度が23.1%であることが判った。
【0096】
なお、アネルバ製の質量分析計であるAGS7000を用いて、上記C16O、C17O、及びC18Oに含まれる16O、17O、及び18Oの各濃度を測定した。その結果、16Oの濃度が76.3%、17Oの濃度が0.9%、18Oの濃度が22.8%であり、実施例1の結果(具体的には、16Oの濃度が76.2%、17Oの濃度が0.7%、18Oの濃度が23.1%)との差がほとんどないことが確認できた。
【0097】
また、第1ないし第3の検量線L1〜L3の作製から水(試料)含まれる16O、17O、及び18Oの各濃度の測定の終了までに要した時間は、20分であり、質量分析計を用いた場合よりも非常に短時間で、16O、17O、及び18Oの各濃度の測定ができることが確認できた。
【0098】
(実施例2)
実施例2では、図1に示す検出部52として、日本分光株式会社製のTSG検出器搭載の赤外分光計FTIR6200型(型番)を用いたこと以外は、実施例1と同様な試験を行った。
その結果、水(試料)に含まれていた16Oの濃度が76.1%、17Oの濃度が0.5%、18Oの濃度が23.4%であり、実施例1の測定結果、及びAGS7000を用いたときの測定結果との差がほとんどないことが確認できた。
【0099】
(実施例3)
実施例3では、16O、17O、及び18Oの各濃度が既知の酸素ガス(サンプル)として、16O濃度が74.3%、17O濃度が0.7%、18O濃度が25%の酸素ガス(大陽日酸株式会社製)を用いて、実施例1と同様な手法により、第1ないし第3の検量線(図示せず)を作製した。
次いで、実施例3では、試料導入部11に、ガスタイトシリンジを用いて、試料として10mLの酸素ガス(16O、17O、及び18Oの各濃度が未知の酸素ガス)を導入し、第1の領域15Aを250℃に加熱し、第2の領域15Bを1100℃に加熱したこと以外は、実施例1と同様な試験を行った。
その結果、酸素ガス(試料)に含まれていた16Oの濃度が74.5%、17Oの濃度が0.8%、18Oの濃度が24.7%であり、第1ないし第3の検量線に基づいて、酸素ガスに含まれる未知の16O、17O、及び18Oの各濃度を測定できることが確認できた。
【0100】
(比較例1)
比較例1では、第1の領域15Aを90℃に加熱し、第2の領域15Bを1550℃に加熱したこと以外は、実施例1と同様な試験を行った。その結果、水(試料)に含まれていた16Oの濃度が61.0%、17Oの濃度が0.6%、18Oの濃度が18.5%であり、実施例1のように、精度良い濃度を得ることができなかった。
【0101】
(比較例2)
比較例2では、第1の領域15Aを150℃に加熱し、第2の領域15Bを1300℃に加熱したこと以外は、実施例3と同様な試験を行った。その結果、酸素ガスに含まれていた16Oの濃度が52.2%、17Oの濃度が0.6%、18Oの濃度が17.0%であり、実施例3のように、精度良い濃度を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、試料中に含まれる3種の酸素安定同位体である16O、17O、及び18Oの各濃度を測定する酸素安定同位体濃度測定方法、及び酸素安定同位体濃度測定装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0103】
10…酸素安定同位体濃度測定装置、11…試料導入部、12…試料導入ライン、13,23,32,37…バルブ、15…反応炉、15A…第1の領域、15B…第2の領域、16…炭素部材、18…第1の加熱装置、19…第2の加熱装置、21…ガス供給ライン、25…セル、27…赤外分光装置、31…排気ライン、34…ポンプ、36…圧力測定用ライン、39…圧力計、45…セル本体、46,47…窓部、49…筐体、51…赤外線照射部、52…検出部、53…データ処理装置
図1
図2
図3
図4