特許第6393944号(P6393944)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6393944Ni−Zn−Cu系フェライト粒子、樹脂組成物及び樹脂成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6393944
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】Ni−Zn−Cu系フェライト粒子、樹脂組成物及び樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/34 20060101AFI20180913BHJP
   G03G 9/107 20060101ALI20180913BHJP
   H01F 1/375 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   H01F1/34 140
   G03G9/107 321
   H01F1/375
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-194996(P2016-194996)
(22)【出願日】2016年9月30日
(65)【公開番号】特開2018-60826(P2018-60826A)
(43)【公開日】2018年4月12日
【審査請求日】2018年4月19日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231970
【氏名又は名称】パウダーテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100143786
【弁理士】
【氏名又は名称】根岸 宏子
(72)【発明者】
【氏名】小島 隆志
(72)【発明者】
【氏名】石井 一隆
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 隆男
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 哲也
(72)【発明者】
【氏名】安賀 康二
【審査官】 池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−315344(JP,A)
【文献】 特開平9−048618(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/34
G03G 9/107
H01F 1/375
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が1〜2000nmの単結晶体であり、且つ、多面体状の粒子形状を備え、
Niを5〜10重量%含有し、Znを15〜30重量%含有し、Cuを1〜5重量%含有し、Feを25〜50重量%含有することを特徴とするNi−Zn−Cu系フェライト粒子。
【請求項2】
前記Ni−Zn−Cu系フェライト粒子の表面に前記Znが偏析している請求項1記載のNi−Zn−Cu系フェライト粒子。
【請求項3】
前記Ni−Zn−Cu系フェライト粒子の表面に前記Cuが偏析している請求項1又は請求項2記載のNi−Zn−Cu系フェライト粒子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のNi−Zn−Cu系フェライト粒子をフィラーとして含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の樹脂組成物からなることを特徴とする樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ni−Zn−Cu系フェライト粒子、該フェライト粒子を含有する樹脂組成物及び該樹脂組成物からなる樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器への配線、ケーブル等に用いられるフレキシブルプリント配線材料として、平均粒径が1〜10μmの酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミ等のフィラーを含有する樹脂フィルムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような樹脂フィルムは、例えば、樹脂と水系又は溶剤系の溶媒とを含む樹脂組成物にフィラーを分散させた後、フィラーを含有する当該樹脂組成物を基材上に塗布し、溶媒を揮発させ樹脂を硬化させることにより形成される。そして、樹脂フィルム上に銅層等の金属層を積層することによって、金属配線が形成される。このとき、金属層を積層する際には土台として作用する樹脂フィルムが必要である一方、金属層を積層した後には金属配線の形状に応じて不要になった樹脂フィルムを取り除く必要がある。
【0004】
そこで、樹脂フィルムの除去を簡便且つ効率よく行うために、フィラーとして、酸化ケイ素等に代えてフェライト粒子を用い、樹脂フィルムに対して磁場を印加することによって樹脂フィルムを吸着して除去することが考えられる。
【0005】
上記フェライト粒子として、例えば、特許文献2に開示された、平均粒径が20〜50μmであり磁化(飽和磁化)が約60Am/kgであるMn−Mg系フェライト粒子を用いることが考えられる。さらに、上記フェライト粒子として、例えば、特許文献3に開示された、平均粒径が1〜2000nmであって真球状の粒子形状を備えるMn−Mg系フェライトを用いることが考えられる。
【0006】
また、フェライト粒子を含有する樹脂フィルムをフレキシブルプリント配線材料として用いた際に電流リークの発生を抑制して耐久性を確保するためには、フェライト粒子が高抵抗であることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014−074133号公報
【特許文献2】特開2008−216339号公報
【特許文献3】国際公開第2016/043051号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2〜3に開示されたフェライト粒子を樹脂フィルム等の樹脂成形体に用いた場合には、フェライト粒子の樹脂、溶媒又は樹脂組成物に対して十分な分散性を得られなかったり、フェライト粒子によって樹脂成形体の表面に凹凸が生じるという問題がある。また、特許文献2〜3に開示されたフェライト粒子は、高印加電圧時に高抵抗を得られないという問題がある。
【0009】
本発明の課題は、飽和磁化及び電気抵抗が高く、且つ、樹脂、溶媒又は樹脂組成物に対する分散性に優れるフェライト粒子、該フェライト粒子を含有する樹脂組成物及び該樹脂組成物からなる樹脂成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト粒子は、平均粒径が1〜2000nmの単結晶体であり、且つ、多面体状の粒子形状を備え、Niを5〜10重量%含有し、Znを15〜30重量%含有し、Cuを1〜5重量%含有し、Feを25〜50重量%含有することを特徴とする。
【0011】
上記Ni−Zn−Cu系フェライト粒子は、その表面に前記Znが偏析していることが好ましい。
【0012】
上記Ni−Zn−Cu系フェライト粒子は、その表面に前記Cuが偏析していることが好ましい。
【0013】
本発明に係る樹脂組成物は、上記Ni−Zn−Cu系フェライト粒子をフィラーとして含有することを特徴とする。
【0014】
本発明に係る樹脂成形体は、上記樹脂組成物からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト粒子は、Niを5〜10重量%含有し、Znを15〜30重量%含有し、Cuを1〜5重量%含有し、Feを25〜50重量%含有することにより、適度な飽和磁化と高い電気抵抗とを両立して得ることができ、さらに低い残留磁化を得ることができる。また、本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト粒子は、平均粒径が1〜2000nmと小さく、且つ、残留磁化が低いことにより、粒子同士の凝集を低くすることができるので、樹脂、溶媒又は樹脂組成物に対する優れた分散性を得ることができる。また、本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト粒子は、Znを含有することで多面体の粒子形状とすることができる。また、本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト粒子は、透磁率の絶対値は低いものの、粒径が非常に小さく、且つ、単結晶体であることにより、周波数特性に優れるだけでなく、低周波側から高周波側までの幅広い帯域においてほぼ一定の透磁率を得ることができる。さらに、本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト粒子は、当該フェライト粒子をフィラーとして含有する樹脂成形体に好適に用いたときに、当該フェライト粒子の凝集を防いで平滑な表面を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施例1のフェライト粒子のSTEM観察による二次電子像(倍率20万倍)の画像である。
図2図2は、実施例1のフェライト粒子のTEM像(倍率20万倍)の画像である。
図3図3は、実施例1のフェライト粒子のEDX分析結果を示すグラフである。
図4図4は、実施例1及び比較例1のフェライト粒子における複素透磁率の実部μ´の周波数依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
<本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト粒子>
本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト粒子(以下、「フェライト粒子」と記載する)は、下記に示すように、特定のフェライト組成を有することにより、適度な飽和磁化と高い電気抵抗とを両立して得ることができ、さらに残留磁化を低くすることができる。そして、本発明に係るフェライト粒子は、特定の範囲の平均粒径を有し、残留磁化が低いことにより、樹脂、溶媒又は樹脂組成物に対する優れた分散性を得ることができる。また、本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト粒子は、Znを含有することで多面体の粒子形状とすることができる。また、本発明に係るフェライト粒子は、透磁率の絶対値は低いが、単結晶体であることにより、交流磁場によって生成された磁壁が粒界面を通過することがないため、周波数特性に優れるだけでなく、磁壁の共鳴による透磁率の極大は見られるものの低周波側から高周波側までの幅広い帯域においてほぼ一定の透磁率を得ることができる。
【0018】
(平均粒径)
本発明に係るフェライト粒子は、平均粒径が1〜2000nmである。平均粒径が1nm未満では、表面処理を行ったとしても粒子が凝集してしまい、樹脂、溶媒又は樹脂組成物に対する優れた分散性を得ることができない。一方、平均粒径が2000nmを超えると、上記分散性を確保できるものの、フェライト粒子を含有する成形体を構成したときに、フェライト粒子の存在によって成形体の表面に凹凸が生じることがある。成形体が電子機器への配線、ケーブル等に用いられるフレキシブルプリント配線材料である場合には、その表面に形成される金属配線が上記凹凸によって損傷する虞がある。フェライト粒子の平均粒径は、好ましくは1〜800nmであり、さらに好ましくは1〜300nmである。
【0019】
(結晶形態)
本発明に係るフェライト粒子は、その形態が単結晶体である。多結晶体であるフェライト粒子の場合には、焼成による結晶成長の過程で1粒子内の微細構造において結晶粒界が生じてしまう。その結果、交流磁場により生成された磁壁が粒界面を通過するときに結晶粒界で磁壁が足止めされるため周波数特性が劣ってしまうことがある。これに対し、単結晶体であるフェライト粒子の場合には、交流磁場により生成された磁壁が粒界面を通過することがないため周波数特性に優れるだけでなく、磁壁の共鳴による透磁率の極大は見られるものの低周波側から高周波側までの幅広い帯域においてほぼ一定の透磁率を得ることができる。
【0020】
(粒子形状)
本発明に係るフェライト粒子は、Znを含有することで多面体形状とすることができる。これは、Znの飽和蒸気圧が高いためにフェライト粒子の成長時にZnが粒子内部から外部に放出され、そのときZnがフラックスとして機能するために単結晶となり、生成した粒子は結晶構造を反映して多面体形状となったと考えられる。
【0021】
(組成)
本発明に係るフェライト粒子は、Ni−Zn−Cu系フェライト粒子であり、当該フェライト粒子は、Niを5〜10重量%含有し、Znを15〜30重量%含有し、Cuを1〜5重量%含有し、Feを25〜50重量%含有する。本発明に係るフェライト粒子は、上記組成を有するNi−Zn−Cu系フェライト粒子であることにより、後述するように、高い飽和磁化と低い残留磁化とを両立して得ることができ、さらに、低印加電圧〜高印加電圧の範囲に亘って高い電気抵抗を安定して得ることができる。
【0022】
Niの含有量が5重量%未満の場合には、電気抵抗が低くなるため好ましくない。一方、Niの含有量が10重量%超の場合には、相対的にZnの含有量が多くなりすぎるため、飽和磁化を高くすることができない。
【0023】
Znの含有量が15重量%未満の場合には、フェライト粒子の表面にZnを十分に偏析させることができず、低印加電圧時の抵抗が低くなる。さらに、多面体形状になりにくいおそれがある。一方、Znの含有量が30重量%超の場合には、相対的にNiの含有量が少なくなるため、飽和磁化を高くすることができない。
【0024】
Cuの含有量が1重量%未満の場合には、フェライト粒子の表面にCuを十分に偏析させることができず、低印加電圧時の抵抗が低くなる。一方、Cuの含有量が5重量%超の場合には、相対的にNiの含有量が少なくなるため、飽和磁化を高くすることができない。
【0025】
Feの含有量が25重量%未満の場合には、Feの絶対量が少ないため、フェライト成分が生成されず、飽和磁化を高くすることができない。一方、Feの含有量が45重量%超の場合には、フェライト粒子の残留磁化が高くなり、フェライト粒子同士が凝集しやすくなり、樹脂、溶媒又は樹脂組成物に当該フェライト粒子を均一に分散させるのが困難なことがある。
【0026】
本発明に係るフェライト粒子は、その表面にZnが偏析していることが好ましい。フェライト粒子の内部にもZnは存在するが、表面にZnが偏析していることにより、後述する電気抵抗をより高くすることができる。
【0027】
本発明に係るフェライト粒子は、その表面にCuが偏析していることが好ましい。フェライト粒子の内部にもCuは存在するが、表面にCuが偏析していることにより、電気抵抗をより高くすることができる。Cuの表面偏析は、Znが表面偏析している領域で起きていてもよく、Znが表面偏析していない領域で起きていてもよい。
【0028】
(飽和磁化)
本発明に係るフェライト粒子は、上記組成のNi−Zn−Cu系フェライト粒子であることにより、適度な飽和磁化を得ることができる。このため、当該フェライト粒子を用いて樹脂成形体を構成したときに、磁場の印加によって当該樹脂成形体を吸着することができる。当該フェライト粒子は、飽和磁化が20〜60Am/kgの範囲であることが好ましい。飽和磁化が20Am/kg未満では、磁場の印加による上記樹脂成形体の吸着が困難なことがある。一方、上述した平均粒径を有するNi−Zn−Cu系フェライト粒子においては、60Am/kgを超える飽和磁化を実現するのは困難である。
【0029】
(残留磁化)
本発明に係るフェライト粒子は、上記組成のNi−Zn−Cu系フェライト粒子であることにより、低い残留磁化を得ることができる。このため、当該フェライト粒子は、樹脂、溶媒又は樹脂組成物に対する優れた分散性を得ることができる。当該フェライト粒子は、残留磁化が5Am/kg以下であることが好ましい。残留磁化が5Am/kgを上回ると、フェライト粒子同士が凝集しやすくなり、樹脂、溶媒又は樹脂組成物に当該フェライト粒子を均一に分散させるのが困難になることがある。
【0030】
(粉体抵抗)
本発明に係るフェライト粒子は、上記組成のNi−Zn−Cu系フェライト粒子であることにより、粉体抵抗(電気抵抗)を得ることができる。このため、当該フェライト粒子を含む樹脂成形体を用いてプリント配線材料を構成したときに、電流リークの発生を防ぐと共に耐久性を確保することができる。粉体抵抗は、体積抵抗率が1×10Ω・cm以上であることが好ましい。
【0031】
低印加電圧時に低抵抗であると、フェライト粒子の粒子表面に電流が流れやすいため、当該フェライト粒子をフィラーとして含有する樹脂成形体では局所的なピンホールや膜厚が薄い領域で電流が流れやすくなる。その結果、当該フェライト粒子を含む樹脂フィルムをフレキシブルプリント配線材料として用いたとき、プリント配線材料周辺の部品への電流リークが生じやすくなるという問題がある。また、高印加電圧時に高抵抗であると、フェライト粒子の1粒子全体に流れる電流の影響を受けやすいため、当該フェライト粒子を含有する樹脂成形体全体が過電流となって、当該樹脂成形体が変形しやすくなるという問題がある。以上のことから、フェライト粒子の粉体抵抗は、印加電圧が200〜1000Vの範囲に亘って、体積抵抗率が1×10Ω・cm以上であることがさらに好ましい。
【0032】
(BET比表面積)
本発明に係るフェライト粒子は、BET比表面積が1〜30m/gであることが好ましい。BET比表面積が1m/g未満では、フェライト粒子を含有する樹脂組成物を構成したときに、粒子表面と樹脂組成物との親和性が不十分となり、粒子表面に存在する樹脂組成物が局所的に盛り上がることがあり、この樹脂組成物を用いて成形体を構成したときに、成形体の表面に凹凸が生じることがある。
【0033】
<フェライト粒子の製造方法>
次に、上記フェライト粒子の製造方法について説明する。
【0034】
上記フェライト粒子は、Fe、Ni、Zn及びCuを含むフェライト原料を大気中で溶射してフェライト化し、続いて急冷凝固した後に、粒径が所定範囲内の粒子のみを回収することにより、製造することができる。
【0035】
上記フェライト原料を調製する方法は、特に制限はなく、従来公知の方法が採用することができ、乾式による方法を用いてもよく、湿式による方法を用いてもよい。
【0036】
フェライト原料(造粒物)の調製方法の一例を挙げると、Fe原料、Ni原料、Zn原料及びCu原料を所望のフェライト組成となるように適量秤量した後、水を加えて粉砕しスラリーを作製する。作製した粉砕スラリーをスプレードライヤーで造粒し、分級して所定粒径の造粒物を調製する。造粒物の粒径は、得られるフェライト粒子の粒径を考慮すると0.5〜10μm程度が好ましい。また、他の例としては、組成が調製されたフェライト原料を混合し、乾式粉砕を行い、各原材料を粉砕分散させ、その混合物をグラニュレーターで造粒し、分級して所定粒径の造粒物を調製する。
【0037】
このようにして調製された造粒物を大気中で溶射してフェライト化する。溶射には、可燃性ガス燃焼炎として燃焼ガスと酸素との混合気体を用いることができ、燃焼ガスと酸素の容量比は1:3.5〜6.0である。可燃性ガス燃焼炎における酸素の割合が燃焼ガスに対して3.5未満では、溶融が不十分となることがあり、酸素の割合が燃焼ガスに対して6.0を超えると、フェライト化が困難となる。例えば燃焼ガス10Nm/hrに対して酸素35〜60Nm/hrの割合で用いることができる。
【0038】
上記溶射に用いられる燃焼ガスとしては、プロパンガス、プロピレンガス、アセチレンガス等を用いることができ、特にプロパンガスを好適に用いることができる。また、造粒物を可燃性ガス燃焼中に搬送するために、造粒物搬送ガスとして窒素、酸素又は空気を用いることができる。搬送される造粒物の流速は、20〜60m/secが好ましい。また、上記溶射は、温度1000〜3500℃で行うことが好ましく、2000〜3500℃で行うことがより好ましい。
【0039】
続いて、溶射によってフェライト化されたフェライト粒子を、大気中で空気給気による気流に乗せて搬送することによって急冷凝固した後に、平均粒径が1〜2000nmであるフェライト粒子を捕集し回収する。前記捕集は、例えば、急冷凝固したフェライト粒子を空気給気による気流に乗せて搬送し、粒径が上記範囲を超えるフェライト粒子については気流の途中で落下させ、上記範囲の粒径を備えるフェライト粒子を気流の下流側に設けたフィルターによって捕集する方法により行うことができる。
【0040】
その後、回収したフェライト粒子について、必要に応じて分級を行い、所望の粒径に粒度調整する。分級方法としては、既存の風力分級、メッシュ濾過法、沈降法等を用いることができる。なお、サイクロン等で、粒径の大きい粒子を除去することも可能である。
【0041】
また、得られたフェライト粒子に対して、カップリング剤で表面処理を施すことが好ましい。カップリング剤で表面処理することにより、フェライト粒子の樹脂、溶媒又は樹脂組成物への分散性をより向上することができる。カップリング剤としては、各種シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤を用いることができ、より好ましくはデシルトリメチキシシラン、n−オクチルトリエトキシシランを用いることができる。表面処理量は、フェライト粒子のBET比表面積にもよるが、シランカップリング剤換算でフェライト粒子に対して0.05〜8重量%であるのが好ましい。
【0042】
<本発明に係るフェライト粒子の用途>
本発明に係るフェライト粒子は、例えば、フレキシブルプリント配線材料用の樹脂成形体に用いることができる。まず、フェライト粒子を、樹脂と水系又は溶剤系の溶媒とを含む樹脂組成物に添加し、撹拌、混合することにより、樹脂組成物中にフェライト粒子を分散させる。続いて、得られたフィラーを含有する樹脂組成物を基材上に塗布し、溶媒を揮発させ樹脂を硬化させることにより、樹脂成形体を作製することができる。
【0043】
上記フェライト粒子は、上記樹脂成形体において磁性フィラーとして作用する。フェライト粒子は飽和磁化が高く且つ残留磁化が低いので、樹脂成形体上に金属層を積層して金属配線を形成する際に、磁場を印加することにより、不要となった樹脂フィルムを吸着して除去することができる。
【0044】
上記フェライト粒子は、低印加電圧〜高印加電圧の範囲に亘って高い電気抵抗を安定して得ることができるので、当該フェライト粒子を含有する樹脂成形体をフレキシブルプリント配線材料として用いた際に、電流リークの発生を抑制して耐久性を確保することができる。
【0045】
また、本発明に係るフェライト粒子は、フレキシブルプリント配線材料用樹脂成形体に限定されるものでなく、種々の用途に用いることができる。フェライト粒子をフィラー、特に磁性フィラーと用いてもよく、成型体用原料として用いてもよい。フェライト粒子を成型用原料として用いる場合には、成型、造粒、塗工等を行うことができ、焼成を行ってもよい。また、上述したとおり、当該フェライト粒子は、周波数特性に優れ、1MHz〜2GHzの周波数帯域において、ほぼ一定の透磁率を得ることができるので、電磁波シールド材料としても使用可能である。
【0046】
以下、実施例等に基づき本発明を具体的に説明する。
【実施例】
【0047】
1.フェライト粒子の作製
〔実施例1〕
酸化鉄(Fe)、酸化ニッケル(NiO)、酸化亜鉛(ZnO)及び酸化銅(CuO)をモル比で44.9:16.7:33.4:5.1の割合で計量し、混合した。水を加えて粉砕し固形分50重量%のスラリーを作製した。作製されたスラリーをスプレードライヤーで造粒し、分級して平均粒径5μmの造粒物を作製した。
【0048】
次に、得られた造粒物をプロパン:酸素=10Nm/hr:35Nm/hrの可燃性ガス燃焼炎中に流速約40m/secの条件で溶射を行うことによりフェライト化し、続いて、空気給気による気流に乗せて搬送することによって大気中で急冷した。このとき、造粒物を連続的に流動させながら溶射したため、溶射・急冷後の粒子は互いに結着することなく独立していた。続いて、冷却された粒子を気流の下流側に設けたフィルターによって捕集した。このとき、粒径が大きい粒子は、気流の途中で落下したため、フィルターによって捕集されなかった。次に、捕集された粒子について、分級によって粒径が2000nmを超える粗粉を除去し、フェライト粒子を得た。すなわち、得られたフェライト粒子は、最大粒径が2000nm以下であった。表1に製造条件を示す。
【0049】
〔実施例2〕
本実施例では、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化亜鉛及び酸化銅をモル比で45.6:12.3:35.4:6.8とした以外は、実施例1と同様にしてフェライト粒子を作製した。
【0050】
〔比較例1〕
本比較例では、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化亜鉛及び酸化銅をモル比で43.22:6.17:43.69:6.64として混合した以外は、実施例1と全く同一にして造粒物を得た。続いて、本比較例で得られた造粒物を用いた以外は、実施例1と全く同一にしてフェライト粒子を作製した。
【0051】
〔比較例2〕
本比較例では、まず、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化亜鉛及び酸化銅をモル比で70.0:12.0:15.0:3.0として混合した以外は、実施例1と全く同一にして造粒物を得た。続いて、得られた造粒物を匣鉢に収容し、電気炉で1200℃、4時間、酸素濃度0体積%の窒素雰囲気下で焼成してフェライト化することにより、匣鉢の形状に即した塊となった焼成物を得た。得られた焼成物を大気中で急冷し、冷却された焼成物を乳鉢で磨砕することによって粉砕し、フェライト粒子を作製した。
【0052】
〔比較例3〕
本比較例では、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化亜鉛及び酸化銅をモル比で44.9:16.7:38.0:5.1として混合した以外は、実施例1と全く同一にして造粒物を得た。続いて、本比較例で得られた造粒物を用い、実施例1と全く同一にして溶射した後に、冷却された粒子を気流に乗せることなく直接捕集した(全て捕集した)以外は、実施例1と同様にしてフェライト粒子を作製した。
【0053】
〔比較例4〕
本比較例では、酸化鉄及び二酸化マンガン(MnO)をモル比で80:20として混合した以外は、実施例1と全く同一にして造粒物を得た。続いて、本比較例で得られた造粒物を用いた以外は、実施例1と全く同一にしてフェライト粒子を作製した。
【0054】
〔比較例5〕
本比較例では、酸化鉄、二酸化マンガン、酸化マグネシウム(MgO)及び酸化ストロンチウム(SrO)をモル比で50:40:10:1.25として混合した以外は、実施例1と全く同一にして造粒物を得た。続いて、本比較例で得られた造粒物を用いた以外は、実施例1と全く同一にしてフェライト粒子を作製した。
【0055】
【表1】
【0056】
2.塗膜作成用インクの調製及び樹脂成形体の作製
実施例1〜2及び比較例1〜5で得られたフェライト粒子をフィラーとして含有する樹脂成形体を作製するために、まず、次のようにして、当該フェライト粒子を含有する樹脂組成物としての塗膜作成用インクを調製した。
【0057】
実施例1〜2及び比較例1〜5のフェライト粒子をエポキシ系樹脂と混合し、塗膜作成用インクを調製した。塗膜作成用インクの調製は、フェライト粒子65重量部と、エポキシ系樹脂を樹脂固形分換算で12重量部と、トルエン48重量部とを混合し、ホモジナイザーを用いて分散させることによって行った。
【0058】
次に、得られた塗膜作成用インクを用い、ベーカー式アプリケーター(SA−201、テスター産業株式会社)によって、基材としてのPETフィルム或いはガラス板上に塗膜を形成した。塗膜厚さは4mil(101.6μm)とし、塗膜幅は10cmとした。その後、溶媒を乾燥させ樹脂を硬化させることにより、樹脂成形体としての樹脂フィルムを得た。
【0059】
3.フェライト粒子の評価方法
得られた実施例1〜2及び比較例1〜5のフェライト粒子について、化学分析を行うと共に、粉体特性(結晶形態、粒子形状、平均粒径、BET比表面積、表面偏析元素)、磁気特性(飽和磁化、残留磁化)及び電気特性(体積抵抗率)を評価した。各測定方法は以下のとおりである。結果を表2に示す。体積抵抗率は印加電圧200V及び1000Vにおける値を示す。
【0060】
(化学分析)
フェライト粒子における金属成分の含有量は、次のようにして測定した。まず、フェライト粒子0.2gを秤量し、純水60mLに1Nの塩酸20mL及び1Nの硝酸20mLを加えたものを加熱し、フェライト粒子を完全溶解させた水溶液を調製した。得られた水溶液をICP分析装置(ICPS−1000IV、株式会社島津製作所)にセットし、フェライト粒子における金属成分の含有量を測定した。なお、表2中の「<0.01」という記載は、測定誤差であるか、又は、原料や製造工程等に由来する不可避的不純物として存在することを意味している。
【0061】
(結晶形態)
フェライト粒子の結晶形態は、走査透過電子顕微鏡HD−2700 Cs−corrected STEM(株式会社日立ハイテクノロジー製)を用いて観察した。加速電圧は200kVとした。図1に、実施例1のフェライト粒子のSTEM観察による二次電子像(倍率20万倍)の画像を示す。
【0062】
(粒子形状)
フェライト粒子の形状は、透過型電子顕微鏡HF−2100 Cold−FE−TEM(株式会社日立ハイテクノロジー製)を用いて観察した。加速電圧は200kVとした。図2に、実施例1のフェライト粒子のTEM像(倍率20万倍)の画像を示す。
【0063】
(平均粒径)
実施例1〜2及び比較例2〜3のフェライト粒子については、水平フェレ径を平均粒径とした。比較例1、4〜5のフェライト粒子については、体積平均粒径を平均粒径とした。
【0064】
(水平フェレ径)
得られたフェライト粒子について、走査型電子顕微鏡FE−SEM(SU−8020、株式会社日立ハイテクノロジーズ)を用いて倍率20万倍で撮影した。このとき、フェライト粒子を100粒子以上カウント可能な視野において撮影した。撮影したSEM画像をスキャナーで読み込み、画像解析ソフト(Image−Pro PLUS、メディアサイバネティクス(MEDIA CYBERNETICS)社)を用いて画像解析を行った。得られた各粒子の画像についてマニュアル測定によって各粒子の水平フェレ径を測定し、平均粒径とした。
【0065】
(体積平均粒径)
得られたフェライト粒子10gを、分散媒としての水80mLと共にビーカーにいれ、分散剤としてのヘキサメタリン酸ナトリウムを2〜3滴添加した。次いで、得られた溶液に対して、超音波ホモジナイザー(UH−150、株式会社エスエムテー)によって、出力レベル4で20秒間発振させることにより、溶液中にフェライト粒子を分散させた。次に、ビーカー表面に生じた泡を取り除いた後、固液分離し、フェライト粒子を回収した。回収したフェライト粒子について、マイクロトラック粒度分析計(Model9320−X100、日機装株式会社)を用いて体積平均粒径を測定した。
【0066】
(BET比表面積)
BET比表面積の測定は、比表面積測定装置(Macsorb HM model−1208、株式会社マウンテック)を用いて行った。まず、得られたフェライト粒子約10gを薬包紙に載せ、真空乾燥機で脱気して真空度が−0.1MPa以下であることを確認した後に、200℃で2時間加熱することにより、フェライト粒子の表面に付着している水分を除去した。続いて、水分が除去されたフェライト粒子を当該装置専用の標準サンプルセルに約0.5〜4g入れ、精密天秤で正確に秤量した。続いて、秤量したフェライト粒子を当該装置の測定ポートにセットして測定した。測定は1点法で行った。測定雰囲気は、温度10〜30℃、相対湿度20〜80%(結露なし)であった。
【0067】
(表面偏析元素)
フェライト粒子を上述の走査透過電子顕微鏡によって観察した像(STEM像)に対し、エネルギー分散型X線分析(EDX)を行った。分析には、EDAX Octane T Ultra W(AMETEK社製)を用いた。図3に、実施例1のフェライト粒子のEDX分析結果を示す。
【0068】
(磁気特性)
磁気特性の測定は、振動試料型磁気測定装置(VSM−C7−10A、東英工業株式会社)を用いて行った。まず、得られたフェライト粒子を内径5mm、高さ2mmのセルに充填し、上記装置にセットした。上記装置において、磁場を印加し、5K・1000/4π・A/mまで掃引した。次いで、印加磁場を減少させ、記録紙上にヒステリシスカーブを作成した。このカーブにおいて、印加磁場が5K・1000/4π・A/mであるときの磁化を飽和磁化とし、印加磁場が0K・1000/4π・A/mであるときの磁化を残留磁化とした。
【0069】
(粉体抵抗)
粉体抵抗の測定は次のように行った。まず、断面積が4cmのフッ素樹脂製のシリンダーに高さ4mmとなるように試料(フェライト粒子)を充填した後、両端に電極を取り付け、さらにその上から1kgの分銅を乗せた状態とした。続いて、ケースレー社製6517A型絶縁抵抗測定器を用いて、上記電極に測定電圧(200V及び1000V)を印加し60秒後の電気抵抗を測定し、体積抵抗率を算出した。
【0070】
(透磁率)
透磁率の測定は、アジレントテクノロジー社製E4991A型RFインピーダンス/マテリアル・アナライザ 16454A磁性材料測定電極を用いて行った。まず、フェライト粒子9gとバインダー樹脂(Kynar301F:ポリフッ化ビニリデン)1gとを100ccのポリエチレン製容器に収容し、100rpmのボールミルで30分間撹拌して混合した。撹拌終了後、得られた混合物0.6g程度を、内径4.5mm、外径13mmのダイスに充填し、プレス機で40MPaの圧力で1分間加圧した。得られた成形体を熱風乾燥機によって温度140℃で2時間加熱硬化させることにより、測定用サンプルを得た。そして、測定用サンプルを測定装置にセットする共に、事前に測定しておいた測定用サンプルの外径、内径、高さを測定装置に入力した。測定は、振幅100mVとし、周波数1MHz〜3GHzの範囲を対数スケールで掃引し、複素透磁率の実部μ’を測定した。但し、周波数2GHzを超える周波数帯域では測定冶具の影響が大きく測定不能であった。得られたグラフを図4に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
4.塗膜作製用インク及び樹脂フィルムの評価方法
実施例1〜2及び比較例1〜3で得られたフェライト粒子を用いた塗膜作成用インク、及び、当該塗膜作成用インクを用いて形成された樹脂成形体について、次のように評価した。結果を表3に示す。
【0073】
(分散性)
実施例1〜2及び比較例1〜5で得られたフェライト粒子を用いた塗膜作成用インクについて、撹拌の際に均一に分散するまでに要した時間から、フェライト粒子の樹脂組成物に対する分散性を評価した。表2中の各記号の意味は以下のとおりである。尚、均一に分散されたか否かの判定は、目視によって行った。
○:均一に分散するまでの撹拌時間が5分間未満。
△:均一に分散するまでの撹拌時間が5分間以上30分間未満。
×:均一に分散するまでの撹拌時間が30分間以上。
【0074】
(表面平滑性)
上記塗膜作成用インクを用いて形成された樹脂成形体について、マイクロメーターを使用して膜厚を測定した。測定は、位置を変えて9回行った。そして、最大膜厚を最小膜厚との差(最大膜厚−最小膜厚)を算出し、その差から樹脂成形体の表面平滑性を評価した。表2中の各記号の意味は以下のとおりである。
○:最大膜厚−最小膜厚=10μm以下。
△:最大膜厚−最小膜厚=10〜20μm。
×:最大膜厚−最小膜厚=20μm以上。
【表3】
【0075】
5.フェライト粒子の評価結果
図1に示すように、実施例1のフェライト粒子は多面体状の粒子形状を備えることが明らかである。図2に示すように、実施例1のフェライト粒子の内部に結晶粒界が観察されないことから、実施例1のフェライト粒子は単結晶体であることが明らかである。表1に示すように、実施例1のフェライト粒子は、平均粒径が1〜2000nmの範囲内であった。また、実施例2のフェライト粒子についても、実施例1のフェライト粒子と同様の結果が得られた。
【0076】
表2に示すとおり、実施例1〜2のフェライト粒子は、金属成分がFe、Ni、Zn及びCuからなり、Niの含有量が5〜10重量%の範囲内であり、Znの含有量が15〜30重量%の範囲内であり、Cuの含有量が1〜5重量%の範囲内であり、Feの含有量が25〜45重量%の範囲内であった。実施例1及び実施例2のフェライト粒子に含まれるMn及びSrは、原料や製造工程等に由来する不可避的不純物であると考えられる。なお、実施例1〜2のフェライト粒子は、上述した金属以外の金属成分については検出限界以下であった。
【0077】
また、実施例1〜2のフェライト粒子は、飽和磁化が20Am/kg以上、残留磁化が5Am/kg以下であり、印加電圧200V及び1000Vにおける体積抵抗率が1×10Ω・cm以上であった。従って、実施例1〜2のフェライト粒子は、飽和磁化が高く、且つ、低印加電圧〜高印加電圧の範囲に亘って高い電気抵抗を安定して得ることができ、さらに、残留磁化が低いことが明らかである。
【0078】
図3は、実施例1のフェライト粒子のEDX分析結果を示すグラフである。横軸は粒子外表面から内部に向かって掃引された電子線の移動距離(単位:μm)を示し、縦軸は酸素、鉄、ニッケル、銅及び亜鉛の強度を示している。図3の横軸0.004μm付近で各線が立ち上がっていることから、横軸0.004μm付近がフェライト粒子の表面に相当すると考えられる。図3に示すように、亜鉛を示す線は、横軸が0.004〜0.006μmの範囲で強度が極大値を示し、0.006μm以上では強度が低下している。この結果から、フェライト粒子の外表面の亜鉛含有量は内部よりも多く、フェライト粒子の外表面から深さ0.002μmまでの領域に亜鉛が偏析していることが明らかである。また、銅を示す線は、横軸が0.004〜0.006μmの範囲で強度が極大値を示し、0.006μm以上では強度が低下している。この結果から、フェライト粒子の外表面の銅含有量は内部よりも多く、フェライト粒子の外表面から深さ0.002μmまでの領域に銅が偏析していることが明らかである。実施例2のフェライト粒子についても、図3と同様の結果が得られた。
【0079】
一方、比較例1のフェライト粒子は、実施例1〜2のフェライト粒子と同様に、平均粒径が1〜2000nmの単結晶体であり、且つ多面体状の粒子形状を備えることが確認された。また、比較例1のフェライト粒子は、実施例1〜2のフェライト粒子と比較して、飽和磁化が低く、印加電圧200Vでの体積抵抗率が低かった。これは、比較例1では、実施例1〜2と比較して、鉄の含有量が小さく亜鉛の含有量が大きいことが原因であると考えられる。
【0080】
比較例2のフェライト粒子は、多面体の粒子形状を備えるが、実施例1〜2のフェライト粒子とは異なり、平均粒径が0.24μmと大きい多結晶体であることが確認された。これは、比較例2では、電気炉による焼成を行ったためであると考えられる。
【0081】
比較例3のフェライト粒子は、単結晶体からなる粒子と多結晶体からなる粒子が混在しており、実施例1〜2のフェライト粒子と比較して、平均粒径が大きかった。これは、比較例3では、溶射・冷却されたフェライト粒子を全て捕集したために、粒径が大きい粒子まで含まれることとなり、平均粒径が大きくなったと考えられる。
【0082】
Mn系フェライト粒子である比較例4のフェライト粒子は、実施例1〜2のフェライト粒子と同様に、平均粒径が1〜2000nmの単結晶体であったが、粒子形状が真球状であった。また、比較例4のフェライト粒子は、実施例1〜2のフェライト粒子と比較して、残留磁化が高く、印加電圧200V及び1000Vでの体積抵抗率が低かった。
【0083】
Mn−Mg系フェライト粒子である比較例5のフェライト粒子は、実施例1〜2のフェライト粒子と同様に、平均粒径が1〜2000nmの単結晶体であったが、粒子形状が真球状であった。また、比較例5のフェライト粒子は、実施例1〜2のフェライト粒子と比較して、残留磁化が高く、印加電圧1000Vでの体積抵抗率が低かった。
【0084】
図4に、実施例1及び比較例1の複素透磁率の実部μ’の周波数依存性を示すグラフを示す。図4から、実施例1のフェライト粒子は、複素透磁率の実部μ’の値自体は低いものの、周波数変動が小さく1MHz〜2GHzの周波数帯域でほぼ一定の値を示すことが明らかである。一方、比較例1のフェライト粒子は、実施例1のフェライト粒子と同様に周波数変動が小さいものの、複素透磁率の実部μ’の値が実施例1よりも低いことが明らかである。
【0085】
6.塗膜作製用インク及び樹脂成形体の評価結果
表3に示すとおり、実施例1〜2のフェライト粒子は、樹脂組成物に対する分散性に優れていた。よって、実施例1〜2のフェライト粒子は、樹脂成形体を製造する際に優れた生産性を確保することができると考えられる。実施例1〜2のフェライト粒子が分散性に優れるのは、平均粒径が小さく、且つ、残留磁化が低いためであると考えられる。また、実施例1〜2のフェライト粒子を含む塗膜作製用インクは、表面の凹凸が小さく表面平滑性に優れる樹脂成形体を形成することができた。
【0086】
一方、比較例2〜3のフェライト粒子は、平均粒径が大きいために、樹脂組成物に対する分散性が低く、分散するまでに長時間を要した。また、比較例2のフェライト粒子を含む塗膜作成用インクは、塗膜化することができず、樹脂成形体を形成できなかった。比較例3のフェライト粒子を含む塗膜作成用インクは、表面の凹凸が大きくいびつな樹脂成形体となった。
【0087】
比較例4〜5のフェライト粒子は、残留磁化が高いために、粒子同士が凝集しやすく、分散するまでに長時間を要した。比較例4〜5のフェライト粒子を含む塗膜作成用インクは、表面の凹凸が小さく表面平滑性に優れる樹脂成形体を形成することができた。しかしながら、比較例4〜5のフェライト粒子は、塗膜作成用インクを調製する際に長時間を要することから、樹脂成形体を製造する際の生産性が低いと考えられる。
【0088】
以上の結果から、実施例1〜2のフェライト粒子は、高い飽和磁化と高い電気抵抗とを両立して備えると共に、樹脂組成物に対する分散性が高いことが明らかである。そして、実施例1〜2のフェライト粒子は、樹脂成形体を構成したときに優れた表面平滑性を備える樹脂成形体を構成できることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明に係るフェライト粒子は、高い飽和磁化と高い電気抵抗を両立して備えることから、磁気フィラーや成形体原料として好適である。また、当該フェライト粒子は、平均粒径が小さく且つ残留磁化が低いことから、樹脂、溶媒又は樹脂組成物に対する優れた分散性を得ることができる。このため、当該フェライト粒子は、当該フェライト粒子をフィラーとして含有する樹脂組成物を調製し、当該樹脂組成物からなる樹脂フィルム等の成形体を構成したときに、成形体の表面においてフェライト粒子の凝集を防ぎ平滑な表面を得ることができ、さらにその生産性に優れている。
【0090】
また、上記フェライト粒子をフィラーとして含有する樹脂組成物又は当該樹脂組成物からなる上記樹脂成形体を電子機器への配線、ケーブル等に用いられるフレキシブルプリント配線材料として用いることにより、金属配線を形成する工程の中で、不要となった上記樹脂成形体を磁場によって吸着し除去することができるため、簡便且つ効率よく金属配線を形成することができる。また、得られたフレキシブル配線材料は、低印加電圧〜高印加電圧の範囲に亘って高い電気抵抗を安定して得ることができる上記フェライト粒子を含むので、電流リークの発生を抑制して耐久性を確保することができる。
図1
図2
図3
図4