(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6393956
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】酸化亜鉛及びその製造方法並びにその用途
(51)【国際特許分類】
C01G 9/02 20060101AFI20180913BHJP
【FI】
C01G9/02 B
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-57734(P2014-57734)
(22)【出願日】2014年3月20日
(65)【公開番号】特開2015-182894(P2015-182894A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2017年1月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000354
【氏名又は名称】石原産業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小川 誠
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 淳也
(72)【発明者】
【氏名】飯田 正紀
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 満
【審査官】
若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−208881(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/133412(WO,A1)
【文献】
特開2008−254990(JP,A)
【文献】
特開平07−328421(JP,A)
【文献】
特開昭53−116296(JP,A)
【文献】
特開2013−245139(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/147886(WO,A1)
【文献】
国際公開第2015/118777(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 9/00−9/02
A61K 8/27
B01J 21/00−38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛化合物と、カルボン酸及び/又はその塩と、アルカリ金属化合物とを混合して、酸化亜鉛を析出させる方法であって、
カルボン酸及び/又はその塩の量が、亜鉛化合物の亜鉛原子に対するカルボキシル基(−COOH)及びその塩(−COOM)の合量のモル比で表して0.2以上であり、
アルカリ金属化合物の量L(モル/リットル)が、アルカリ金属化合物の価数をnとし、亜鉛化合物の亜鉛原子の価数をmとしたとき、亜鉛濃度X(モル/リットル)に対してmX/n以下の範囲となる量であることを特徴とする酸化亜鉛集積体の製造方法。
【請求項2】
アルカリ金属化合物の量L(モル/リットル)が0.5・mX/n〜0.9・mX/nの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の酸化亜鉛集積体の製造方法。
【請求項3】
亜鉛化合物の亜鉛原子に対するカルボキシル基(−COOH)及びその塩(−COOM)の合量のモル比で表して1.0〜5.0の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化亜鉛集積体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛及びその製造方法並びにその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛は、白色顔料、紫外線遮蔽材、熱伝導性フィラー、充填剤、吸着剤、光触媒、触媒、セラミックス原料、導電材、圧電材料、ガスセンサー、電子写真感光材料、バリスタ、蛍光体、エミッタ、電子デバイス等種々の用途に用いられており、また、化粧料、外用剤、塗料、樹脂組成物、放熱性組成物等に配合して用いられている。
【0003】
酸化亜鉛を製造するには、例えば、亜鉛塩を含む溶液をアルカリ中和剤で中和することにより、液中で直接酸化亜鉛を製造する方法が知られている(特許文献1参照)。また、特許文献2には、前記の酸化亜鉛を直接製造するに際し、レイノルズ数30以上の撹拌を行いながら、1秒〜15分間で亜鉛の塩を含む水溶液と沈殿剤とを混合し、pH11以上の母液から沈殿を生成させて、平均粒子径0.1〜0.88μm、平均粒子厚さ0.01〜0.2μm、平均板状比3以上の薄片状酸化亜鉛粉末を製造する方法が提案されており、沈殿生成に際し、クエン酸、エタノールアミン等の水溶性有機物を共存させることも開示している。特許文献2の実施例14ではクエン酸1g(その亜鉛化合物の亜鉛原子に対するカルボキシル基(−COOH)のモル比で表して0.024に相当)、実施例13ではサリチル酸10g(その亜鉛化合物の亜鉛原子に対するカルボキシル基(−COOH)のモル比で表して0.12に相当)を添加して、薄片状酸化亜鉛粉末を製造している。
【0004】
また、特許文献3には、亜鉛化合物と、その亜鉛化合物の亜鉛原子に対するカルボキシル基(−COOH)及びその塩(−COOM)の合量のモル比で表して0.2以上のカルボン酸及び/又はその塩と、アルカリ金属化合物とを混合して、酸化亜鉛を析出させる方法であって、アルカリ金属化合物の量が、アルカリ金属化合物の価数をnとしたとき、カルボン酸及び/又はその塩に存在するカルボキシル基(−COOH)を中和する量と、亜鉛化合物の亜鉛濃度X(モル/リットル)に対して(2X+0.001)/n〜(4X+0.2)/n(モル/リットル)の範囲となる量との合量を用いると、板状酸化亜鉛粒子が集積して球に類似した形状、好ましくはまりもに類似した形状を有する酸化亜鉛の集積体が得られることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭53−116296号公報
【特許文献2】特許第2683389号公報
【特許文献3】特開2008−254989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記の従来技術は、亜鉛塩を含む溶液を水酸化ナトリウム、アンモニア等のアルカリ中和剤で中和して酸化亜鉛を直接析出させることにより、薄片状、針状の粒子形状を有する酸化亜鉛を製造することができたり、板状形状を有する酸化亜鉛粒子が集積した球状形状を有する集積体が得られたりする。しかしながら、特許文献1の酸化亜鉛は、粒子径、形状のばらつきが大きく結晶性が低いなどの問題がある。特許文献2の薄片状酸化亜鉛は、嵩密度が高く充填性が低いなどの問題がある。また、特許文献3の酸化亜鉛集積体は、凝集粒子になり易く、また、嵩密度が高く充填性が低いなどの問題がある。
【0007】
酸化亜鉛はそれぞれの用途に応じて、形状、大きさ、結晶性等の制御が求められている。例えば、熱伝導性フィラー、充填剤、セラミックス原料等に用いる場合は、薄片状や針状の粒子では嵩密度が高いことから、嵩密度が低く、充填性の良い酸化亜鉛が求められている。また、熱伝導性フィラー、光触媒、触媒、セラミックス原料、導電材、圧電材料等に用いる場合は、充填性に加えて結晶性の良い酸化亜鉛が求められている。また、化粧料、外用剤、塗料、樹脂組成物、放熱性組成物等に配合して用いる場合は、分散性の良い酸化亜鉛が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、酸化亜鉛の粒子形状、粒子径やそれらの集積体の形状、大きさ等を制御する方法を探索した結果、亜鉛化合物と、カルボン酸及び/又はその塩と、アルカリ金属化合物とを混合して、酸化亜鉛を析出させる方法であって、カルボン酸及び/又はその塩の量が、亜鉛化合物の亜鉛原子に対するカルボキシル基(−COOH)及びその塩(−COOM)の合量のモル比で表して0.2以上であり、アルカリ金属化合物の量L(モル/リットル)が、アルカリ金属化合物の価数をnとし、亜鉛化合物の亜鉛原子の価数をmとしたとき、亜鉛濃度X(モル/リットル)に対してmX/n以下の範囲となる量を用いると、柱状又は板状の粒子形状を有する複数個の酸化亜鉛粒子の平面で形成した、球に類似した形状を有する酸化亜鉛が得られ、サッカーボールに類似した形状の酸化亜鉛が得られることなどを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)柱状又は板状の粒子形状を有する複数個の酸化亜鉛粒子の平面で形成した酸化亜鉛、
(2)亜鉛化合物と、カルボン酸及び/又はその塩と、アルカリ金属化合物とを混合して、酸化亜鉛を析出させる方法であって、
カルボン酸及び/又はその塩の量が、亜鉛化合物の亜鉛原子に対するカルボキシル基(−COOH)及びその塩(−COOM)の合量のモル比で表して0.2以上であり、
アルカリ金属化合物の量L(モル/リットル)が、アルカリ金属化合物の価数をnとし、亜鉛化合物の亜鉛原子の価数をmとしたとき、亜鉛濃度X(モル/リットル)に対してmX/n以下の範囲となる量であることを特徴とする酸化亜鉛の製造方法、
(3)前記の酸化亜鉛を含む熱伝導性フィラー、その熱伝導性フィラーを含む放熱性組成物、
(4)前記の酸化亜鉛を含む紫外線遮蔽材、その紫外線遮蔽剤を含む化粧料等である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の酸化亜鉛は、柱状又は板状の粒子形状を有する複数個の酸化亜鉛粒子の平面で形成した酸化亜鉛であり、形状や大きさが整い、結晶性や分散性が良く、嵩密度が低く充填性が良いことから、熱伝導性フィラー、充填剤、白色顔料、セラミックス原料等に用いることができ、化粧料、外用剤、塗料、樹脂組成物、放熱性組成物等に配合することができる。化粧料に配合すると、特定の大きさを有することから分散性が良く肌へのすべり感が良くなる。
また、本発明の酸化亜鉛の製造方法は、亜鉛化合物と、特定量のカルボン酸及び/又はその塩と、特定量のアルカリ金属化合物とを混合して、酸化亜鉛を析出させることができることから、生産性よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1で製造した酸化亜鉛(試料A)の電子顕微鏡写真である。
【
図2】比較例1で得られた酸化亜鉛(試料B)の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の酸化亜鉛は、六方晶、立方晶、立方晶面心構造いずれかのX線回折パターンを示すZnOを少なくとも50重量%含むものであり、水酸化亜鉛や製造の際に使用する硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛等の亜鉛化合物が含まれていても良い。また、製造の際に使用する亜鉛化合物を構成していた硫酸根、硝酸根、塩素、酢酸等が含まれていても良く、また、カルボン酸、その塩、アルカリ金属化合物等の材料が含まれていても良い。更に、酸化亜鉛の粒子表面にはシリカ、アルミナ等の無機化合物やシロキサン等の有機化合物の表面処理剤を被覆していても良い。
【0013】
本発明の酸化亜鉛は、柱状又は板状の粒子形状を有する複数個の酸化亜鉛粒子が集積したものであって、酸化亜鉛粒子の柱状、板状の平らな面(底面あるいは上面)で構成され、酸化亜鉛粒子が六角柱状体であれば、複数個の六角面で構成される。このため、酸化亜鉛の集積体は、多面体で構成された球に類似した形状、あるいは球に近い形状を形成することができる。このような形状として、例えば、サッカーボールに類似した形状であってもよい。サッカーボールは、通常複数個の正五角形と正六角形で構成されているが、そのような構造だけではなく、複数個の六角形で構成されたものを含み、複数個の四角形、複数個の三角形等の多角形、あるいは、複数個の円形、楕円形等で構成された多面体球状類似形状を含む。酸化亜鉛の集積体を形成する多面体の数は、適宜設定することができ、10個以上が好ましく、10〜30個程度がより好ましく、12〜25個がより好ましく、14〜20個が更に好ましい。各平面の間には隙間があっても良く、隙間がない状態でも良い。このような集積体の平均粒径は適宜設定することができ、0.5〜20μmが好ましく、1〜20μmがより好ましい。柱状又は板状の酸化亜鉛粒子の形状、大きさ(わたり径)は電子顕微鏡により観察でき、表面に向いて観察できる辺をその大きさ(わたり径)とすると、0.01〜2.0μmの範囲がより好ましく、0.05〜1.0μmの範囲がより好ましく、0.2〜0.8μmの範囲が更に好ましい。これらの形状や大きさは電子顕微鏡により観察し、平均粒径、大きさ(わたり径)は100個程度の測定により算出する。
【0014】
本発明の酸化亜鉛の製造方法は、亜鉛化合物と、カルボン酸及び/又はその塩と、アルカリ金属化合物とを混合して、酸化亜鉛を析出させる方法であって、カルボン酸及び/又はその塩の量が、亜鉛化合物の亜鉛原子に対するカルボキシル基(−COOH)及びその塩(−COOM)の合量のモル比で表して0.2以上であり、アルカリ金属化合物の量L(モル/リットル)が、アルカリ金属化合物の価数をnとし、亜鉛化合物の亜鉛原子の価数をmとしたとき、亜鉛濃度X(モル/リットル)に対してmX/n以下の範囲となる量であることを特徴とする。亜鉛化合物は、水溶性のものであればどのようなものでも用いることができ、例えば硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛等を用いることができる。種々の形状の酸化亜鉛粒子、その酸化亜鉛粒子が集積した種々の形状の集積体が得られ易いことから硫酸亜鉛が好ましい。また、金属亜鉛、酸化亜鉛、水酸化亜鉛等、中性の水に溶解しないものでも、酸、アルカリ金属化合物に溶解する化合物であれば、上記の亜鉛化合物と同様に用いることができる。
【0015】
前記のカルボン酸はカルボキシル基を有する化合物であり、制限なく用いることができるが、例えば、次のようなものを用いることができ、特にクエン酸及び/又はその塩を用いると多面体で構成された球に類似した形状の酸化亜鉛集積体を製造することができるため好ましい。
(1)ポリカルボン酸、特にジカルボン酸、トリカルボン酸、例えば、シュウ酸、フマル酸。
(2)ヒドロキシポリカルボン酸、特にヒドロキシジ−又はヒドロキシトリ−カルボン酸、例えばリンゴ酸、クエン酸又はタルトロン酸。
(3)(ポリヒドロキシ)モノカルボン酸、例えばグルコヘプトン酸又はグルコン酸。
(4)ポリ(ヒドロキシカルボン酸)、例えば酒石酸。
(5)ジカルボキシルアミノ酸及びその対応するアミド、例えばアスパラギン酸、アスパラギン又はグルタミン酸。
(6)ヒドロキシル化され又はヒドロキシル化されていないモノカルボキシルアミノ酸、例えばリジン、セリン又はトレオニン。
カルボン酸塩としては、どのような塩でも制限なく用いることができるが、例えばナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩等を用いることができる。カルボン酸及び/又はその塩の量は、その亜鉛化合物の亜鉛原子に対するカルボキシル基(−COOH)及びその塩(−COOM、ここで、Mはアルカリ金属、アンモニウム等を示す。)の合量のモル比で表すが、これはカルボキシル基(−COOH)とその塩(−COOM)の合量が酸化亜鉛の粒子形状等に影響を及ぼすためである。例えばクエン酸は1分子中に3個のカルボシキル基を有するため、3個分の影響力がある。前記のモル比で表してカルボキシル基及び/又はその塩は亜鉛化合物の亜鉛原子に対して0.2以上が必要であり、0.2〜10の範囲の量が好ましく、1.0〜5.0の範囲がより好ましい。カルボキシル基のモル比を0.2より少なくするとその添加効果が得られにくいため好ましくない。
【0016】
前記のアルカリ金属化合物は、水溶性でありアルカリ性を呈するものであれば適宜使用することができ、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、酢酸ナトリウム等の酢酸塩などが好ましく用いられる。アルカリ金属化合物の量L(モル/リットル)が、アルカリ金属化合物の価数をnとし、亜鉛化合物の亜鉛原子の価数をmとしたとき、亜鉛濃度X(モル/リットル)に対してmX/n以下の範囲となる量であれば、所望の酸化亜鉛を製造することができるため好ましく、0.5・mX/n〜0.9・mX/nの範囲(mX/nの50〜90%)がより好ましく、0.7・mX/n〜0.9・mX/nの範囲(mX/nの70〜90%)が更に好ましい。
【0017】
前記の亜鉛化合物の水溶液とカルボン酸及び/又はその塩とアルカリ金属化合物とを混合する。具体的には、亜鉛化合物水溶液とカルボン酸及び/又はその塩との混合溶液に撹拌下アルカリ金属化合物又はその水溶液を添加し混合しても良く、また、アルカリ金属化合物又はその水溶液に撹拌下亜鉛化合物水溶液とカルボン酸及び/又はその塩とのそれぞれの溶液あるいは混合溶液を添加し混合しても良いが、亜鉛化合物の水溶液とカルボン酸及び/又はその塩とアルカリ金属化合物又はその水溶液とをいずれも40℃以下に保持して混合するのが好ましい。前記の温度が40℃よりも高いと、アルカリ金属化合物との混合により部分的に酸化亜鉛が析出し不均一な状態となり易いため好ましくなく、好ましい温度は10〜40℃、より好ましい温度は10〜30℃である。加熱は、通常の反応槽、耐圧反応槽等を用いることができる。加熱中の撹拌は通常の混合撹拌の手段を用いることができ、例えば撹拌羽根を付けた撹拌機等で行うことができる。その撹拌機の運転条件は適宜設定することができる。例えば、回転数は20〜2000rpm程度で行うことができ、また、下記のレイノルズ係数で表して10以上程度が好ましく、10〜50000程度がより好ましい。
レイノルズ係数=(翼径)
2×撹拌速度×溶液密度/溶液粘度
添加時間は適宜設定できるが、例えば1秒〜1時間程度が好ましく、1秒〜30分程度がより好ましい。アルカリ金属化合物との混合によりpHを7以上に調整するのが好ましいが、7よりも低いと所望の酸化亜鉛が得られにくい。好ましいpHは8〜13程度、より好ましくは11〜13程度である。アルカリ金属化合物を混合し所定のpHに調整して沈殿物を析出させた後、必要に応じて10分〜5時間程度そのpHを保持しても良い。結晶性を高めるため、その後、撹拌しながら、前記の水溶液を好ましくは40℃以上、より好ましくは60〜250℃程度、更に好ましくは80〜110℃程度に加温しても良い。所定の温度に加温した後、必要に応じて10分〜10時間程度その温度を保持しても良い。
【0018】
亜鉛化合物とカルボン酸及び/又はその塩とアルカリ金属化合物との混合水溶液には更に、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、硝酸カリウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム等の塩類を混合しても良く、アルカリ金属化合物と混合する前の亜鉛化合物水溶液に塩類を添加するのが好ましい。塩類の添加量は、亜鉛化合物の亜鉛原子に対するモル比で表して、0.0001以上の範囲が好ましく、0.001〜10程度がより好ましい。
【0019】
このようにして得られた酸化亜鉛は、必要に応じて濾過・洗浄して固液分離し、乾燥、乾式粉砕を行うと、酸化亜鉛粉末が得られる。固液分離には、フィルタープレス、ロールプレス等の通常工業的に用いられる濾過器を用いることができる。乾燥にはバンド式ヒーター、バッチ式ヒーター、噴霧乾燥機等が、乾式粉砕にはハンマーミル、ピンミル等の衝撃粉砕機、ローラーミル、パルペライザー、解砕機等の摩砕粉砕機、ロールクラッシャー、ジョークラッシャー等の圧縮粉砕機、ジェットミル等の気流粉砕機等を用いることができる。乾燥温度は適宜設定することができるが、80〜200℃程度が適当である。また、必要に応じて前記の酸化亜鉛粉末を200〜800℃程度の温度で焼成しても良く、結晶性を更に高めることができるため好ましい。焼成は通常、空気、酸素、窒素等の雰囲気下で行うことができ、焼成時間は10分〜10時間程度が適当である。
【0020】
本発明の酸化亜鉛は、その粒子表面に必要に応じてケイ素、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、スズ等の酸化物あるいはそれらのリン酸塩等の無機化合物の被覆層を設けることもできる。また、溶媒、塗料やプラスチックス等への分散性を付与するなどの目的で、有機化合物を被覆しても良く、前記の無機化合物と有機化合物の両者を被覆しても良い。有機化合物としては、例えば、(1)有機ケイ素化合物((a)オルガノポリシロキサン類(ジメチルポリシロキサン、メチル水素ポリシロキサン、メチルメトキシポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ジメチルポリシロキサンジオール、ジメチルポリシロキサンジハイドロジェン等又はそれらの共重合体)、(b)オルガノシラン類(アミノシラン、エポキシシラン、メタクリルシラン、ビニルシラン、メルカプトシラン、クロロアルキルシラン、アルキルシラン、フルオロアルキルシラン等又はそれらの加水分解生成物)、(c)オルガノシラザン類(ヘキサメチルシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン等)、(2)有機金属化合物((a)有機チタニウム化合物(アミノアルコキシチタニウム、リン酸エステルチタニウム、カルボン酸エステルチタニウム、スルホン酸エステルチタニウム、チタニウムキレート、亜リン酸エステルチタニウム錯体等)、(b)有機アルミニウム化合物(アルミニウムキレート等)、(c)有機ジルコニウム化合物(カルボン酸エステルジルコニウム、ジルコニウムキレート等)等)、(3)ポリオール類(トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール等)、(4)アルカノールアミン類(モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン等)又はその誘導体(酢酸塩、シュウ酸塩、酒石酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩等の有機酸塩等)、(5)高級脂肪酸類(ステアリン酸、ラウリン酸、オレイン酸等)又はその金属塩(アルミニウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩等)、(6)高級炭化水素類(パラフィンワックス、ポリエチレンワックス等)又はその誘導体(パーフルオロ化物等)が挙げられる。これらの有機化合物は1種を用いても、2種以上を積層又は混合して用いても良い。化粧料に用いる場合は、オルガノポリシロキサン類、高級脂肪酸類を用いるのが好ましい。無機化合物、有機化合物の被覆量は、酸化亜鉛に対し、0.1〜50重量%の範囲が好ましく、0.1〜30重量%の範囲が更に好ましい。酸化亜鉛の粒子表面に前記の無機化合物や有機化合物を被覆させるには、酸化亜鉛の水性スラリー中で、無機化合物あるいは有機化合物を添加し中和するなどして被覆することができる。また、有機化合物を被覆するには別の方法として、前述の乾式粉砕の際に有機化合物を添加し混合することもできる。
【0021】
本発明の酸化亜鉛は、紫外線遮蔽能があるため紫外線遮蔽材に用いられる。また、酸化亜鉛は、紫外線遮蔽材、白色顔料、充填材等として、日焼け止め化粧料、基礎化粧料等の化粧料に適量配合して用いられる。例えば、前記の酸化亜鉛以外に、通常化粧料の用いられる公知の成分、例えば、(1)溶媒(水、低級アルコール類等)、(2)油剤(高級脂肪酸類、高級アルコール類、オルガノポリシロキサン類(シリコーンオイル)、炭化水素類、油脂類等)、(3)界面活性剤(アニオン性、カチオン性、両性、非イオン性等)、(4)保湿剤(グリセリン類、グリコール等のポリオール系、ピロリドンカルボン酸類等の非ポリオール系等)(5)有機紫外線吸収剤(ベンゾフェノン誘導体、パラアミノ安息香酸誘導体、サリチル酸誘導体等)、(6)酸化防止剤(フェノール系、有機酸又はその塩、酸アミド系、リン酸系等)、(7)増粘剤、(8)香料、(9)着色剤(顔料、色素、染料等)、(10)生理活性成分(ビタミン類、ホルモン類、アミノ酸類等)、(11)抗菌剤等が配合されていても良い。化粧料の様態は、固形状、液状、ジェル状等特に制限なく、液状やジェル状の場合、その分散形態も油中水型エマルジョン、水中油型エマルジョン、油型等のいずれでも良い。化粧料中の酸化亜鉛の配合量は、0.1〜50重量%の範囲が好ましい。
【0022】
本発明の放熱性組成物は、上記の酸化亜鉛を熱伝導性フィラーとして含有したものであり、樹脂組成物、グリース組成物、塗料組成物などが挙げられる。また、それらを用いて形成するシート、ゲル、エラストマー、プラスチックなどであっても良い。本発明の放熱性組成物中の上記酸化亜鉛の配合量は、目的とする熱伝導性や樹脂組成物の硬度等、樹脂組成物の性能に合わせて任意に決定することができる。上記酸化亜鉛の熱伝導性を十分に発現させるためには、樹脂組成物中の固形分全量に対して1体積%以上が好ましく、5体積%以上がより好ましく、10体積%以上が更に好ましく、30体積%以上が最も好ましい。このようにして、熱伝導率が好ましくは0.5W/m・K以上とすることができ、より好ましくは1.0W/m・K以上、更に好ましくは2.0W/m・K以上とすることができる。本発明の放熱性組成物は、電子機器などに取り付けて効率よく放熱する材料として用いることができる。なお、本発明の放熱性組成物には、酸化亜鉛以外に、その他の成分を併用して使用することもでき、例えば、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化アルミニウム等の金属酸化物、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化チタン、金属ケイ素、ダイヤモンド等の酸化亜鉛以外の放熱性フィラー、樹脂、界面活性剤等を挙げることができる。
【0023】
放熱性樹脂組成物は、上記の酸化亜鉛を樹脂と混合して使用することができる。使用する樹脂は、熱可塑性樹脂であっても熱硬化性樹脂であっても良く、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、ポリメタクリル酸メチル、エチレン・アクリル酸エチル共重合体(EEA)樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)樹脂、エポキシ、フェノール、液晶樹脂(LCP)、シリコン樹脂、アクリル樹脂等の樹脂を挙げることができる。放熱性グリース組成物とする場合、鉱油又は合成油を含有する基油と混合する。合成油としてα−オレフィン、ジエステル、ポリオールエステル、トリメリット酸エステル、ポリフェニルエーテル、アルキルフェニルエーテル、シリコーンオイル等が使用できる。また、放熱性塗料組成物とする場合、樹脂は硬化性を有するものであっても、硬化性を有さないものであっても良い。塗料は、有機溶媒を含有する溶剤系のものであっても、水中に樹脂が溶解又は分散した水系のものであっても良い。
【0024】
本発明の放熱性組成物は、(1)熱可塑性樹脂と上記酸化亜鉛とを溶融状態で混練して熱成型用の樹脂組成物とする、(2)熱硬化性樹脂と上記酸化亜鉛とを混練後、加熱硬化させて樹脂組成物とする、(3)樹脂溶液又は分散液中に上記酸化亜鉛を分散させて塗料組成物、グリース組成物とすることができる。
【実施例】
【0025】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0026】
実施例1
硫酸亜鉛0.3モルとクエン酸0.3モルを150ccの純水で溶解した。次に2Lの四つ口フラスコに純水500ccを入れ、その中に前記の硫酸亜鉛水溶液を添加し、翼径12cmの2枚羽根の撹拌機を用いて回転数150rpmで撹拌下、室温で0.5モルの水酸化ナトリウムを含む350ccの水溶液を添加し、水溶液のpHを12.5に調整し、30分間保持して沈殿物を析出させた。その後、100℃に昇温し1時間熟成した後、冷却し、濾過・水洗・乾燥して、本発明の酸化亜鉛粉末(試料A)を得た。
この試料Aは、X線回折の結果、結晶性の良い酸化亜鉛であることを確認した。また、電子顕微鏡写真(
図1)から、わたり径0.25μmである六角板状形状を有する酸化亜鉛粒子の六角平面で構成された多面体の球に類似した酸化亜鉛集積体(大きさ平均1.5μm)であった。
【0027】
比較例1
硫酸亜鉛0.3モルとクエン酸0.3モルを150ccの純水で溶解した。次に2Lの四つ口フラスコに純水500ccを入れ、その中に前記の硫酸亜鉛水溶液を添加し、翼径12cmの2枚羽根の撹拌機を用いて回転数200rpmで撹拌下、室温で1.6モルの水酸化ナトリウムを含む350ccの水溶液を添加し、水溶液のpHを12.5に調整し、30分間保持して沈殿物を析出させた。その後、100℃に昇温し1時間熟成した後、冷却し、濾過・水洗・乾燥して、酸化亜鉛粉末(試料B)を得た。
この試料Bは、X線回折の結果、結晶性の良い酸化亜鉛であることを確認した。また、電子顕微鏡写真(
図2)から、わたり径0.07μm、厚み0.3μmである板状形状を有する酸化亜鉛粒子がまりも状に集積した酸化亜鉛集積体(大きさ3μm)であった。
【0028】
この試料Aとエポキシ樹脂(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)、アミン硬化剤とを混練して、熱硬化性熱伝導性樹脂組成物(試料a)を製造した。
この試料aの熱伝導率をレーザーフラッシュ法を用いて算出した。アルバック理工製熱定数測定装置(型番TC7000)を用いて、レーザーフラッシュ法でJIS R1611にしたがって熱拡散率を測定し、島津製作所製熱流束示差走査熱流計(型番DSC−50)を用いて、JIS K7123にしたがって比熱を測定し、水中置換法によってJIS K7112A法にしたがって密度を測定し、それらを掛け合わせて、熱伝導率を計算した。その結果、試料aの熱伝導率は、充填率20vol%で0.9W/m・Kであり、40vol%で1.9W/m・Kであり、放熱性組成物、熱伝導性フィラーとして使えることがわかった。
【0029】
試料Aを直接肌にのせてこすった際の感触を評価したところ、のびは良好であり、化粧料に配合すると分散性が良く肌へのすべり感が良くなることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、柱状又は板状の粒子形状を有する複数個の酸化亜鉛粒子の平面で形成した酸化亜鉛集合体であって、種々の用途に利用することができる。