特許第6393957号(P6393957)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6393957
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】転造用平ダイス
(51)【国際特許分類】
   B21H 5/00 20060101AFI20180913BHJP
【FI】
   B21H5/00 A
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-127804(P2014-127804)
(22)【出願日】2014年6月23日
(65)【公開番号】特開2016-7608(P2016-7608A)
(43)【公開日】2016年1月18日
【審査請求日】2017年6月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100192614
【弁理士】
【氏名又は名称】梅本 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】嶋作 勝行
【審査官】 豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】 実公平05−034827(JP,Y2)
【文献】 特開昭62−104639(JP,A)
【文献】 特開昭52−098659(JP,A)
【文献】 実開昭64−38123(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21H 5/00
B21H 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレートおよび複数のダイス部品を備える転造用平ダイスであって、前記ダイス部品は、少なくとも、食付き歯を有する第1のダイス部品と、仕上げ歯を有する第2のダイス部品と、から構成されており、前記第1のダイス部品と前記プレートとの間にはバネが内蔵されており、かつ前記第1および第2のダイス部品が前記プレートの上方に締結手段によって着脱可能に締結されていて、かつ前記第1のダイス部品には前記食付き歯の勾配とは逆向きの勾配が施された逃げ歯が前記第2のダイス部品側に設けられていることを特徴とする転造用平ダイス。
【請求項2】
前記第2のダイス部品には逃げ歯が設けられており、前記第2のダイス部品に設けられた逃げ歯と前記第1のダイス部品に設けられた逃げ歯とが、互いに隣接していることを特徴とする請求項1に記載の転造用平ダイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料に対して転造加工を行うことで歯車等の部品を製作する転造用平ダイスに関する。
【背景技術】
【0002】
歯車などの部品(被加工材)を転造加工する転造用平ダイス(以下、平ダイスという)は、それらを通常2本1対として転造盤に左右もしくは上下に配置して、2本の平ダイス間に被加工材を挟み込んだ後、2本の平ダイスを各々左右方向もしくは上下方向に移動することで歯車などの部品を転造することで加工している。
【0003】
中でも、歯車の転造加工では従来から食付き歯(部)、調整歯(部)、仕上げ歯(部)、逃げ歯(部)の全ての歯が1つの平ダイス上に備えられた一体型のものが使用されてきた。しかし、食付き歯と仕上げ歯とでは繰り返し行われる転造加工による摩耗度が異なるので、食付き歯の損傷が激しければ、たとえ仕上げ歯が使用に耐え得る状態であっても平ダイス自体は廃棄しなければならなかった。そこで、食付き歯の部分と仕上げ歯の部分を個別に製作し、ボルト等で一体化できる平ダイスが考案された。これにより、損傷の大きな部位のみを新しいものと交換することで、平ダイスの長寿命化を図ることができる。
【0004】
例えば、特許文献1に開示されている平ダイスは、平ダイス本体の一部を着脱可能なダイス部品に分割して、平ダイス本体とダイス部品とをボルトにより固定している。このボルトを緩めることで、ダイス部品を上下方向や左右方向に微量の位置調整が可能になり、被加工材に対しては精度の高い転造加工が行える。
【0005】
また、特許文献2に開示されている平ダイスは、食付き歯の一部を平ダイス本体から分離することでダイス部品とし、そのダイス部品を平ダイス本体とボルトにより締結させることで一体化している。このダイス部品と平ダイス本体との間に樹脂等の弾性体を挿入させた状態でボルト締めを行い、平ダイスの長寿命化を実現するとともに転造加工における食付き時の衝撃を緩和し、被加工材への打痕傷を低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平3−47630号公報
【特許文献2】実開平1−38123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、転造加工中に被加工材の直径を変更する場合や使用限界によって平ダイス全体を交換する場合、特許文献1の平ダイスでは被加工材のオーバピン寸法(オーバボール寸法)を調整する時にダイス部品のみを上下方向に微調整することでは対応できない場合がある。そのため、転造盤側で一対の平ダイスにおける仕上げ歯間の距離を調整することになり、最終調整を行うまでに何度も微調整を繰り返す工程が煩雑になるという問題があった。
【0008】
また、特許文献2に開示された平ダイスを用いて、被加工材のオーバピン寸法を変更する場合には一対の平ダイスの仕上げ歯を有する部分同士の距離だけを調整することはできない。そのため、平ダイス間同士の間隔を調整することになり、一対の平ダイスの食付き歯同士が必要以上に接近することで、被加工材への初期加工量が変化し、最終製品(被加工材)の加工精度にまで影響を及ぼすという問題があった。
【0009】
さらに、特許文献2に開示された平ダイスを用いて転造加工を行う場合、弾性体(樹脂)が過度の使用により劣化して、結果的に当初の弾性係数が保てなくなった場合には、被処理材である歯車の精度、特に累積ピッチ誤差への影響が甚大になるという問題があった。
【0010】
そこで、本発明においては被加工材のオーバピン寸法の調整を容易に行えると共に最終製品の加工精度、特に歯車の累積ピッチ誤差を改善できる転造用平ダイスを提供することを課題とする。なお、ここでオーバピン寸法(オーバボール寸法)とは、JIS B0102に規定されている寸法、すなわちできるだけ歯車の直径の両端に位置する歯溝に置いた2個のピン又はボール越しに測った歯溝間の距離をいうものとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した課題を解決するために、本発明においてはプレートと複数のダイス部品を備える転造用平ダイスであって、ダイス部品は、少なくとも、食付き歯を有する第1のダイス部品と、仕上げ歯を有する第2のダイス部品と、から構成されており、第1のダイス部品とプレートとの間にはバネが内蔵されており、かつ第1および第2のダイス部品がプレートの上方に締結手段によって着脱可能に締結されていて、かつ第1のダイス部品には食付き歯の勾配とは逆向きの勾配が施された逃げ歯が第2のダイス部品側に設けられている転造用平ダイスを提供する。本発明により、転造加工時の初期において、被加工材に対する転造用平ダイスの食付き歯の挙動を制御できる
【0012】
請求項2に係る発明においては、第1および第2のダイス部品には逃げ歯が設けられており、第1および第2のダイス部品に設けられた各逃げ歯同士が互いに隣接している転造用平ダイスとした。
【0013】
なお、本発明において「隣接している」とは、逃げ歯を有する部品同士が互いに完全に接している場合や部品の一部同士が接している場合の他に、互いの部品同士が近傍に配置されていることで逃げ歯同士が密接に関係している距離にある場合も含むものとする。
【発明の効果】
【0014】
以上述べたように、本発明においては、転造用平ダイスを構成する第1のダイス部品とプレートとの間にバネを内蔵することで、転造加工時の初期において、被加工材に対する転造用平ダイスの食付き歯の挙動を制御できるので、最終的に歯車の累積ピッチ誤差を改善できるという効果を奏する。
【0015】
また、転造加工中に被加工材径の変更や転造用平ダイスの交換を行う場合、被加工材のオーバピン寸法を調整する必要が生じる。このような場合、本発明の転造用平ダイスでは、第2のダイス部品とプレートとの間に高さを調整するライナーを挿入する。そのため、一対の転造用平ダイスの食付き歯同士の間隔を変えることなく、仕上げ歯同士の間隔のみを調整できる。その結果、突発的に被加工材のオーバピン寸法の調整が必要な場合でも一対の転造用平ダイスにおける食付き歯同士の間隔を必要以上に接近させることなく、適切な間隔とした状態で転造用平ダイスの段取替えを行う場合において、転造用平ダイス全体を交換する場合と比べて短時間で行えると共に最終製品の加工精度も確保できる。
【0016】
また、転造用平ダイスにおけるダイス部分を第1のダイス部品と第2のダイス部品とに分離したので、例えば第1のダイス部品の食付き歯と第2のダイス部品の調整歯や仕上げ歯とは各々異なるピッチで個別に製作できる。したがって、本発明の転造用平ダイスで食付き歯と仕上げ歯の各々のピッチを変える場合、ダイス部分が一体化されている従来の転造用平ダイスで食付き歯と仕上げ歯の各々のピッチを変える場合に比べて、製作コストを低減できて、かつ製作時間の短縮も図ることができるという効果も奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る転造用平ダイス1の構成図(分解斜視図)である。
図2】本発明の実施形態に係る転造用平ダイス1の側面図である。
図3図2におけるA部分の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態の一例について図面を参照して説明する。図1は本発明の実施形態に係る転造用平ダイス1の構成図(分解斜視図)、図2は本発明の実施形態に係る転造用平ダイス1の側面図、図3図2におけるA部分の拡大断面図である。転造用平ダイス1を構成するダイス部品は、図1および図2に示すように転造加工方向の前方側から第1のダイス部品2、第2のダイス部品3の順に、プレート4の上方に配置されており、第1のダイス部品2および第2のダイス部品3は、共にプレート4の下方から複数のボルト30によりプレート4と締結されている。
【0019】
また、図2および図3に示すように第1のダイス部品2とプレート4との間に設けられた空隙H内には複数枚のバネSが内蔵されている。第1のダイス部品2とプレート4との間にバネSが内蔵されていることで、転造加工時における転造圧の大きさに応じて、第1のダイス部品2とプレート4との間隔が自在に変化する。すなわち、本発明の転造用平ダイス1は、第1のダイス部品2とプレート4とが互いにボルト等の締結手段によって締結された状態で、転造用平ダイス1の転造加工方向に対して軸直角方向(図1および図2の紙面上では上下方向)に第1のダイス部品2が移動(上下動)できる構成となっている。以下、本発明に係る転造用平ダイス1を構成する第1のダイス部品2、第2のダイス部品3およびプレート4について詳細に説明する。
【0020】
第1のダイス部品2は、被加工材に対して最初に転造加工を行う複数の食付き歯5を有している。また、後述のプレート4とはボルト30等により着脱可能に締結されている。また、第1のダイス部品2とプレート4との間の空隙H内には複数枚のバネSが積み重ねられた状態で内蔵されている。なお、空隙Hは、第1のダイス部品2の最下面2Lに設けられた第1の凹部H1と、プレート4の最上面4Uに設けられた第2の凹部H2とから構成されている。
【0021】
第2のダイス部品3は、調整歯6および被加工材に対して最終的な転造加工を行う複数の仕上げ歯7を有している。また、第1のダイス部品2と同様に後述するプレート4とはボルト30等により着脱可能に締結されている。
【0022】
プレート4は、転造用平ダイス1の移動方向側から第1のダイス部品2、第2のダイス部品3の順に上方に載置して(据え置いて)、ボルト30等で着脱可能に締結する部品である。また、プレート4の前方端部(転造用平ダイス1の移動方向の前方側の端部)に別個の固定部品(前方側固定部品)10を設けて、プレート4とボルト30で締結することで転造加工時における第1のダイス部品2の微小な移動(ずれ)を抑制できる。
【0023】
同様に、プレート4の後方端部(転造用平ダイス1の移動方向の後方側の端部)に別個の固定部品(後方側固定部品)20を設けて、プレート4とボルト30で締結することで転造加工時における第2のダイス部品3の微小な移動(ずれ)を抑制できる。また、図3に示すように第1のダイス部品2とプレート4との間隔d、すなわち第1のダイス部品2の最下面2Lとプレート4の最上面4Uとの距離は0.05〜0.3mmの範囲であることが好ましい。
【0024】
なお、第1のダイス部品2とプレート4との間には、任意の厚さを有する部品(ライナー)を挿入することで、高さ方向(転造用平ダイスの移動方向に対して軸直角方向)を自由に調整できる。
【0025】
同様に、第2のダイス部品3とプレート4との間にも、任意の厚さを有する部品(ライナー)を挿入することで、高さ方向(転造用平ダイスの移動方向に対して軸直角方向)を自由に調整できる。また、第1のダイス部品2と第2のダイス部品3との間にも任意の厚みを有する部品(ライナー)を挿入することで、長さ方向(転造用平ダイスの加工時における移動方向)を自由に調整できる。
【0026】
第1のダイス部品2と第2のダイス部品3との転造加工方向における間隔を調整するためのライナー部品、第1のダイス部品2および第2のダイス部品3とプレート4との各々の間隔を調整するためのライナー部品を備える場合、第1のダイス部品2および第2のダイス部品3は、ボルト30が各ライナー部品をそれぞれ貫通した状態でプレート4と締結されることになる。
【0027】
次に、第1のダイス部品2および第2のダイス部品3を構成する食付き歯5、調整歯6、仕上げ歯7、逃げ歯8a〜8cについて詳細に説明する。第1のダイス部品2は、図1および図2に示すように転造加工方向の前方側から食付き歯5が大部分を占めており、後方側の一部に逃げ歯8aが設けられている。第2のダイス部品3は、転造加工方向の前方側からいくつかの逃げ歯8bの後に調整歯6、仕上げ歯7が続き、最後方側には逃げ歯8cが設けられている。
【0028】
ここで逃げ歯8aおよび8bは、逃げ歯8cと同様に被加工材に対して転造加工を行えない(施せない)非加工歯である。したがって、逃げ歯8aには食付き歯5の勾配とは逆向きの勾配が施されており、逃げ歯8bには調整歯6と同一の向きの勾配が施されており、逃げ歯8bの勾配量は調整歯6の勾配量よりも大きい。
【0029】
なお、第1のダイス部品2における食付き歯5のピッチと第2のダイス部品3における調整歯6や仕上げ歯7のピッチは、被加工材の材質や寸法に応じて全て同一寸法であっても良いし、各々異なる寸法とすることもできる。また、食付き歯5のピッチを第1のダイス部品2内において途中で変更することで、いわゆる不等ピッチとすることもできる。さらに、調整歯6や仕上げ歯7のピッチも第2のダイス部品3内において途中で変更することで、いわゆる不等ピッチとすることもできる。
【0030】
また、図1においてプレート4の形状については直方体の形状を示しているが、転造加工機の取付治具の形状や大きさに応じて、例えばプレート4の前方側および後方側に凹凸や階段状の段差を設けた形状とすることもできる。さらに、第2のダイス部品3における調整歯6や仕上げ歯7のランド部分は、転造加工方向と平行になる形状の他にも階段形状(段差形状)や傾斜形状とすることもできる。
【実施例】
【0031】
従来の転造用平ダイスと本発明に係る転造用平ダイスをそれぞれ用いて転造速度20m/minの条件で転造加工試験を行ったので、その被加工材(歯車)の加工精度の測定結果について説明する。なお。本測定における累積ピッチ誤差については、歯車の各歯のピッチ誤差を足した合計として算出した。
【0032】
本実施例で用いた従来の転造用平ダイスおよび本発明に係る転造用平ダイスは、共通仕様としてプレート上に、食付き歯を有する第1のダイス部品と、仕上げ歯を有する第2のダイス部品とが、プレートの下方からボルトにより締結されている。本発明に係る転造用平ダイスには、プレートと第1のダイス部品との間に、1箇所につき3枚の皿バネが計10箇所、皿バネの枚数として計30枚を内蔵した。そのときの第1のダイス部品とプレートとの間隔は、0.05mmとした。なお、歯車の完成諸元は、モジュール1.0mm、圧力角37.5°、歯数25枚、幅40mm、材質S45C、ブリネル硬さ(推定値)180〜220HBであった。
【0033】
本発明に係る転造用平ダイスを用いて転造加工を行った歯車(n=20)の測定結果については、その累積ピッチ誤差は20.0〜28.0μmの範囲であった。これに対して、従来の転造用平ダイスを用いて転造加工を行った歯車の測定結果については、その累積ピッチ誤差は34.0〜39.2μmの範囲であった。
【0034】
したがって、本発明に係る転造用平ダイスを用いて転造加工を行うと、従来の転造用平ダイスを用いた場合に比べて、累積ピッチ誤差はおよそ11〜14μmの誤差分が改善(縮小)されることがわかった。
【0035】
以上の結果より、本発明に係る転造用平ダイス、すなわちプレートおよび複数のダイス部品を備えて、ダイス部品は食付き歯を有する第1のダイス部品と、仕上げ歯を有する第2のダイス部品と、から構成されており、第1および第2のダイス部品がプレートの上方に着脱可能に締結手段を用いて締結されており、かつ第1のダイス部品とプレートとの間にバネを内蔵することで、歯車の累積ピッチ誤差を小さくできた。
【符号の説明】
【0036】
1 転造用平ダイス
2 第1のダイス部品
3 第2のダイス部品
4 プレート
5 食付き歯
7 仕上げ歯
8a〜8c 逃げ歯
30 締結手段(ボルト)
S バネ
図1
図2
図3