特許第6394020号(P6394020)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6394020複合積層体、リチウム電池及び複合積層体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6394020
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】複合積層体、リチウム電池及び複合積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20180913BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20180913BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20180913BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20180913BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20180913BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20180913BHJP
   C01G 33/00 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   H01M10/0562
   H01M10/0585
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M4/131
   C01G53/00 A
   C01G33/00 A
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-57997(P2014-57997)
(22)【出願日】2014年3月20日
(65)【公開番号】特開2015-185228(P2015-185228A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2016年12月20日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木平 由紀
(72)【発明者】
【氏名】太田 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】朝岡 賢彦
【審査官】 宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/036090(WO,A1)
【文献】 特開2013−243111(JP,A)
【文献】 特開2012−059529(JP,A)
【文献】 特開2013−032259(JP,A)
【文献】 特開2013−184848(JP,A)
【文献】 特開2010−272344(JP,A)
【文献】 特開2010−143785(JP,A)
【文献】 特開2012−174659(JP,A)
【文献】 特開2010−045019(JP,A)
【文献】 特開2010−102929(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/010692(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/05−10/0587
H01B 1/06− 1/08
H01M 4/13− 4/1399
H01M 4/36− 4/62
C01G25/00−25/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LaとSrとを少なくとも含有するガーネット型酸化物を含む第1層と、Liと遷移金属とを含有する複合酸化物を含む第2層とが一体焼成されており、
前記ガーネット型酸化物は、基本組成Li7+X+Y-ZLa3-X-YSrXYZr2-ZZ12(式中、元素Aは、Ba,Ca,MgおよびYからなる群より選ばれた1種類以上の元素であり、元素Bは、Sc,Ti,V,Y,Nb,Hf,Ta,Al,Si,GaおよびGeからなる群より選ばれた1種類以上の元素であり、0.05≦X≦0.2、0≦Y≦1、0≦Z≦1、(X+Y)<Zを満たす)で表される、
複合積層体。
【請求項2】
前記ガーネット型酸化物は、0.05≦X≦0.1を満たす、請求項に記載の複合積層体。
【請求項3】
前記複合酸化物は、基本組成LiNiaCobMnc2(0≦a<1、0<b≦1、0≦c<1、a+b+c=1)で表される、請求項1又は2に記載の複合積層体。
【請求項4】
前記複合酸化物は、0.2≦a≦0.6、0.2≦b≦0.6、0.2≦c≦0.6を満たす、請求項に記載の複合積層体。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の複合積層体を備えた、リチウム電池。
【請求項6】
LaとSrとを少なくとも含有するガーネット型酸化物を含む第1層と、Liと遷移金属とを含有する複合酸化物を含む第2層とを積層した積層体を形成する積層工程と、
前記積層体を1100℃以下の焼成温度で焼成する焼成工程と、を含み
前記ガーネット型酸化物は、基本組成Li7+X+Y-ZLa3-X-YSrXYZr2-ZZ12(式中、元素Aは、Ba,Ca,MgおよびYからなる群より選ばれた1種類以上の元素であり、元素Bは、Sc,Ti,V,Y,Nb,Hf,Ta,Al,Si,GaおよびGeからなる群より選ばれた1種類以上の元素であり、0.05≦X≦0.2、0≦Y≦1、0≦Z≦1、(X+Y)<Zを満たす)で表される、
複合積層体の製造方法。
【請求項7】
前記ガーネット型酸化物は、0.05≦X≦0.1を満たす、請求項に記載の複合積層体の製造方法。
【請求項8】
前記複合酸化物は、基本組成LiNiaCobMnc2(0≦a<1、0<b≦1、0≦c<1、a+b+c=1)で表される、請求項6又は7に記載の複合積層体の製造方法。
【請求項9】
前記積層工程では、前記ガーネット型酸化物の粉体を含む前記第1層と、前記複合酸化物の粉体を含む前記第2層とを積層した積層体を形成し、
前記焼成工程では、前記粉体を含む積層体を焼成する、請求項のいずれか1項に記載の複合積層体の製造方法。
【請求項10】
前記焼成工程では、前記積層体を800℃以上1000℃以下の焼成温度で焼成する、請求項のいずれか1項に記載の複合積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合積層体、リチウム電池及び複合積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複合積層体としては、LiNi0.8Co0.15Al0.052の正極活物質層とLi7La3Zr212の固体電解質であるガーネット型酸化物とをホットプレスにより積層焼結した複合体が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この積層体では、板状正極及び板状固体電解質の密着性を高めて、界面抵抗をより低減することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−243111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1の複合積層体では、ホットプレス焼結を行う必要があり、複合体を製造するに際して高圧で焼結させる制約があった。また、複合積層体を常圧で焼結させると、活物質層と固体電解質層との間に界面抵抗の高い反応層が生成し、電池として機能しないことがあった。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、機能をできるだけ低下させずに積層することができる複合積層体、リチウム電池及び複合積層体の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、Liと遷移金属(例えばNiやCo、Mnなど)とを少なくとも含有する複合酸化物に対して、Srを含有するガーネット型酸化物を積層して常圧焼結させると、機能をできるだけ低下させずに積層することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の複合積層体は、LaとSrとを少なくとも含有するガーネット型酸化物を含む第1層と、Liと遷移金属とを含有する複合酸化物を含む第2層とが一体焼成されたものである。
【0008】
本発明のリチウム電池は、上述した複合積層体を備えたものである。
【0009】
本発明の複合積層体の製造方法は、LaとSrとを少なくとも含有するガーネット型酸化物を含む第1層と、Liと遷移金属とを含有する複合酸化物を含む第2層とを積層した積層体を形成する積層工程と、前記積層体を1100℃以下の焼成温度で焼成する焼成工程と、を含むものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の複合積層体の製造方法及び複合積層体は、機能をできるだけ低下させずに積層することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推測される。例えば、Laを含有するガーネット型酸化物と、Liと遷移金属とを含有する複合酸化物とを積層して焼成すると、これらの材料が焼成中に反応し、両層の間に反応層が生成することがある。これにより、抵抗が高くなるなど、複合積層体の機能が低下する。本発明では、ガーネット型酸化物にSrを含むことにより、複合酸化物中の遷移金属と、ガーネット型酸化物との反応をより抑制し、上記機能低下を抑制するものと推察される。これは、LaサイトにLaよりイオン半径のわずかに大きなSrを添加すると、結晶粒の外側にSrが濃化する一方、La濃度が低下することにより、複合酸化物の遷移金属とLaとの反応が抑制されるためであると推察される。このように、反応層の生成を抑制することにより、機能をできるだけ低下させずに、第1層と第2層とを積層することができると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】全固体型リチウム電池20の構造の一例を示す説明図。
図2】実施例4のガーネット型酸化物のSEM写真及び元素分析結果。
図3】ガーネット型酸化物と複合酸化物との反応性を検討したXRD測定結果。
図4】Srの含有量に対する電気伝導度及び安定性指標との関係図。
図5】ガーネット型酸化物と複合酸化物とを混合した焼結体の外観写真。
図6】比較例1の組成の複合積層体を備えた全固体電池のCVサイクル。
図7】実施例5の組成の複合積層体を備えた全固体電池のCVサイクル。
図8】実施例5の充放電測定結果。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の複合積層体は、LaとSrとを少なくとも含有するガーネット型酸化物を含む第1層と、Liと遷移金属とを含有する複合酸化物を含む第2層とが一体焼成されたものである。この複合積層体は、第1層がリチウムのイオン伝導性を有する酸化物である固体電解質層であり、第2層がリチウムイオンを吸蔵放出する活物質層であるものとしてもよい。なお、「一体焼成」とは、焼結体同士を貼り合わせたものではない趣旨であり、粉体の成形体と焼結体とを一体で焼成したものとしてもよいし、粉体の成形体同士を一体で焼成したものとしてもよい。
【0013】
第1層に含まれるガーネット型酸化物は、LiとLaとSrとZrとを含有し、更にLaと異なる元素でありアルカリ土類金属及びランタノイド元素のうち少なくとも1種以上の元素Aと、Zrと異なる元素であり酸素と6配位をとることが可能な遷移元素及び第12族〜第15族に属する典型元素のうち少なくとも1種以上の元素Bとを含有するものとしてもよい。より具体的には、ガーネット型酸化物は、基本組成Li7+X+Y-ZLa3-X-YSrXYZr2-ZZ12(式中、元素Aは、Ba,Ca,MgおよびYからなる群より選ばれた1種類以上の元素であり、元素Bは、Sc,Ti,V,Y,Nb,Hf,Ta,Al,Si,GaおよびGeからなる群より選ばれた1種類以上の元素であり、0<X≦1、0≦Y≦1、0≦Z≦1、(X+Y)<Zを満たす)で表されるものであることがより好ましい。このガーネット型酸化物は、Srを含むものとすると、機能をできるだけ低下させずに第2層と積層することができる。また、Srを含むものとすると、融点が下がり、焼成温度を低下させるなど、焼成エネルギーをより低減することができる。この元素Aは、Caが好ましい。Caを含むものとするとリチウムイオン伝導度をより向上することができる。また、元素Bは、Nbであることが好ましい。Nbを含むものとすると、リチウムイオン伝導度をより高めることができる。この基本組成式において、ガーネット型酸化物は、0.05≦X≦0.2を満たすことがより好ましい。この範囲では、第2層との反応安定性とイオン伝導性とを両立することができより好ましい。また、イオン導電性をより優先すれば、0<X<0.05を満たすものとしてもよい。あるいは、第2層との反応安定性をより優先すれば、0.2<X<1の範囲としてもよい。
【0014】
ここで、ガーネット型酸化物は、主としてガーネット型の構造を有していればよく、例えば、ガーネット型以外の構造が一部含まれていたり、X線回折のピーク位置がシフトしているなどガーネットからみて歪んだ構造を含むものとしてもよい。また、組成式で示しているが、第1層には他の元素や構造などが一部含まれていてもよい。なお、「基本組成」とは、元素A,元素Bにはそれぞれ主成分の元素と1以上の副成分の元素を含んでいてもよい趣旨である。
【0015】
ガーネット型酸化物は、電気伝導度(リチウムイオン伝導度,25℃)が0.4×10-4(S/cm)以上であることが好ましく、1.0×10-4(S/cm)以上であることがより好ましく、1.4×10-4(S/cm)以上であることが更に好ましく、1.5×10-4(S/cm)以上であることが最も好ましい。このリチウムイオン伝導度は、Sr,元素A,元素Bの添加割合(X,Y,Z)や、焼成温度を調整することにより、適宜変更することができる。
【0016】
ガーネット型酸化物は、1100℃以下で焼成されていることが好ましく、1050℃以下で焼成されていることがより好ましく、1000℃以下で焼成されていることが更に好ましい。1100℃以下の焼成では、焼成エネルギーの低減をより図ることができる。ガーネット型構造を形成する観点から、ガーネット型酸化物は、800℃以上で焼成されていることが好ましい。このガーネット型酸化物を含む第1層は、第2層と共に一体焼成されていることが好ましい。こうすれば、1回の焼成により積層体を焼結できるため、焼成効率がよい。
【0017】
第2層に含まれる複合酸化物は、Liのほか、Ni、Co及びMnのうち1以上を含有するものとしてもよい。例えば、複合酸化物は、基本組成LiNiaCobMnc2(0≦a<1、0<b≦1、0≦c<1、a+b+c=1)で表されるものであることがより好ましい。この基本組成において、0.2≦a≦0.6、0.2≦b≦0.6及び0.2≦c≦0.6を満たすものとしてもよい。また、この基本組成において、0.3≦a≦0.4、0.3≦b≦0.4及び0.3≦c≦0.4を満たすものとしてもよい。例えば、複合酸化物は、基本組成式をLi(1-n)MnO2(0<n<1など、以下同じ)やLi(1-n)Mn24などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-n)CoO2とするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-n)NiO2とするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-n)Ni1/3Co1/3Mn1/32とするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物であるものとしてもよい。
【0018】
本発明の複合積層体は、第1層の厚さが0.1μm以上であるものとしてもよいし、1μm以上であるものとしてもよいし、10μm以上であるものとしてもよい。また、第1層の厚さは1mm以下であるものとしてもよい。なお、第2層の厚さも同様である。本発明の複合積層体は、第1層と第2層とを積層した状態で焼結しても、複合積層体の機能、例えばリチウムイオン伝導性などを低下させないことから、複合積層体をより薄く作製可能である。また、未焼結の第1層及び第2層を積層させて焼成することができるから、焼成工程の簡略化や焼成エネルギーの低減をより図ることができる。
【0019】
本発明の複合積層体は、リチウム電池に利用することができる。リチウムイオン伝導度がより高いからである。このとき、ガーネット型酸化物は、例えば、リチウム電池の固体電解質として利用するものとしてもよいし、リチウム電池のセパレータとして利用するものとしてもよい。こうしたリチウム電池は、固体電解質である第1層と正極活物質である第2層とを備える複合積層体と、リチウムを吸蔵・放出しうる負極活物質を有する負極と、を備えるものである。負極に用いる負極活物質としては、リチウム金属、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、リチウムチタン複合酸化物及び導電性ポリマーなどが挙げられる。炭素質材料は、特に限定されるものではないが、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。
【0020】
本発明のリチウム電池は、上述した複合積層体を備えている。このリチウム電池は、二次電池としてもよいし、全固体型リチウム電池としてもよい。このリチウム電池の構造は、特に限定されないが、例えば図1に示す構造が挙げられる。図1は、全固体型リチウム電池20の構造の一例を示す説明図である。この全固体型リチウム電池20は、第1層である固体電解質層10と、この固体電解質層10の片面に形成された第2層である正極活物質層11と、この固体電解質層10のもう片面に形成された負極活物質層14とを有する。ガーネット型酸化物を含む固体電解質層10及び複合酸化物を含む正極活物質層11が、本発明の複合積層体12である。正極活物質層11の表面には、集電体13が形成されており、負極活物質層14の表面には、集電体15が形成されている。
【0021】
本発明の複合積層体の製造方法は、LaとSrとを少なくとも含有するガーネット型酸化物を含む第1層と、Liと遷移金属とを含有する複合酸化物を含む第2層とを積層した積層体を形成する積層工程と、この積層体を1100℃以下の焼成温度で焼成する焼成工程と、を含む。
【0022】
積層工程では、上記複合積層体で説明したガーネット型酸化物や複合酸化物を用いるものとすればよい。ガーネット型酸化物は、例えば、LiやLa、Sr、Zr、更にはNbなどの原料成分を混合して1100℃以下の温度で焼成することにより得ることができる。ガーネット型酸化物の原料にSrや元素Aなどが含まれるため、より低い焼成温度でガーネット型の結晶構造にすることができる。原料成分は、酸化物よりも、炭酸塩や水酸化物とすることが好ましい。このとき、Liを過剰量入れることが好ましい。この積層工程では、第1層を焼結体とし第2層を粉体の成形体としてもよいし、第2層を焼結体とし第1層を粉体の成形体としてもよいし、第1層及び第2層を粉体の成形体としてもよい。第1層と第2層とを粉体の成形体として焼成工程で焼結させると、焼成処理の繰り返しをより低減でき好ましい。
【0023】
焼成工程では、積層体を1100℃以下の焼成温度で焼成する。この焼成工程では、圧力をかけて積層体の焼成処理を行うものとしても問題ないが、常圧の大気雰囲気で積層体の焼成処理を行うことが好ましい。こうすれば、簡便な処理で複合積層体を焼成することができる。また、第1層にはSrが含まれているから、常圧焼成を行っても、第1層と第2層との間に電気伝導度の低い不活性な反応層が生成しにくい。焼成温度は、1050℃以下がより好ましく、1000℃以下が更に好ましい。焼成エネルギーをより低減することができるからである。なお、第1層及び第2層の焼結性を考慮すると、焼成温度は、800℃以上であることが好ましく、900℃以上であることがより好ましく、950℃以上であることが更に好ましい。焼結性を高めることが可能であれば、750℃以上としてもよい。
【0024】
以上詳述した複合積層体では、機能をできるだけ低下させずに第1層と第2層と積層することができる。これは、例えば、ガーネット型酸化物にSrを含むことにより、複合酸化物中の遷移金属とガーネット型酸化物との反応をより抑制し、電気伝導度の低い不活性な反応層が生成しにくいためであると推察される。このため、上記機能低下が抑制されるものと推察される。また、ガーネット型酸化物にSrや元素A,Bなどを含むため、電気伝導度の低下をできるだけ抑えると共に、焼成エネルギーをより低減することができる。これは、構成元素数を増やすことにより融点が下がり、Zrのサイトに違うイオン半径を有する元素を置換することによりLiイオン周りの酸素イオンの原子座標が変化し、Liイオンの移動が容易になるためであると考えられる。
【0025】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0026】
以下には、本発明の複合積層体を具体的に作製した例を実施例として説明する。
【0027】
[ガーネット型酸化物の作製]
ガーネット型酸化物として、Li6.75La3Zr1.75Nb0.2512(LLZNb)と、Srを更に添加したLi7+X-ZLa3-XSrXZr2-ZNbZ12(Sr−LLZNb)とを合成した。出発原料は、Li2CO3、La(OH)3、SrCO3、ZrO2およびNb25とした。出発原料を化学量論比になるように秤量した。ただし本焼結でのLiの欠損を補う目的で、組成中のLi量に対して10at.%になるようにLi2CO3を過剰添加した。ジルコニアボールを用い、エタノール中にて遊星ボールミル(300rpm)で1時間、混合・粉砕を行った。出発原料の混合粉末をボールとエタノールから分離したのち、Al23るつぼ中にて、LLZNbを950℃、10時間、Sr−LLZNbを900℃、10時間、大気雰囲気で仮焼した。その後、この混合粉末を、ジルコニアボールを用い、エタノール中にて遊星ボールミル(300rpm)で1時間混合粉砕した。得られた粉末を再び上記条件下(950・900℃、10時間、大気雰囲気)で仮焼し、その後ペレット状に成形した。このペレットを、未成形の仮焼物(パウダーベッド)で包みそれぞれ1150・1050℃、36時間、大気雰囲気下で本焼結し、試料(ペレット)を得た。上記基本組成式でX=0及びZ=0.25の組成を比較例1(LLZNb)とし、X=0.05及びZ=0.40の組成を実施例1とし、X=0.10及びZ=0.30の組成を実施例2とし、X=0.30及びZ=0.45の組成を実施例3とし、X=0.50及びZ=0.50の組成を実施例4とし、X=0.40及びZ=0.50の組成を実施例5とした。
【0028】
[複合酸化物]
LiCoO2(LCO)は、日本化学製セルシード10Nを用いた。また、LiNi1/3Co1/3Mn1/32と(NCM)して、戸田工業製のものを用いた。
【0029】
[LBO合成]
Li3BO3(LBO)は、Li2CO3、B23を出発原料とし、化学量論比になるよう秤量し、ボールミルで混合したのち、600℃、10時間焼成して得た。
【0030】
[複合積層体の作製]
複合酸化物とLBO粉末とを溶媒(アルコール)に加え、エチルセルロース(日新化成(株)製ECビヒクル)をバインダーとして添加しペーストとした。上述したガーネット型酸化物のペレット上に複合酸化物のペーストをスクリーン印刷により形成し、乾燥して未焼結の積層体とした。この積層体を、800℃で1時間、その後900℃で30分間、大気中で焼き付け、ガーネット型酸化物と複合酸化物とを一体焼結した複合積層体を得た。
【0031】
(電気伝導度)
複合積層体の電気伝導度を測定した。恒温槽中にてACインピーダンスアナライザー(Agilent4294A)を用い、周波数40Hz〜110MHz、振幅電圧100mVの条件で、ナイキストプロットの円弧より抵抗値を求め、この抵抗値から電気伝導度を算出した。ACインピーダンスアナライザーで測定する際のブロッキング電極にはAu電極を用いた。Au電極は市販のAuペーストを850℃、30分の条件で焼き付けることで形成した。
【0032】
(反応性評価)
ガーネット型酸化物と、複合酸化物(NCM及びLCO)との反応性を評価した。ガーネット型酸化物と複合酸化物とを質量比で、2:1の割合となるよう配合して乳鉢で混合し、純金製のるつぼ中で加熱した。加熱は電気炉中で行い、900℃で30分間保持した。その後、得られた混合粉末を乳鉢で粉砕し、X線回折測定装置(リガク製、Ultima IV)を用いて、反応性を評価した。X線回折測定は、測定モードを蛍光軽減モードとし、0.01°ステップ、10°/分、測定範囲2θ=10〜80°の条件で行った。
【0033】
(全固体リチウム電池の作製及び評価)
上記作製した複合積層体の表面(複合酸化物の表面)にAuをイオンコートした。また、上記作製した複合積層体の裏面(複合酸化物が形成されていないガーネット型酸化物の表面)に負極活物質としてLi金属を蒸着して電池を作製した。電池評価は、ソーラトロンを用いて、0.1mV/secで2.5V〜4.3Vの範囲でCVサイクルし、また、2.5〜5V(5μA/cm2)でCC充放電することにより行った。
【0034】
(結果と考察)
図2は、実施例4のガーネット型酸化物のSEM写真及び元素分析結果である。図2に示すように、LaをSrで置換すると、Srが粒界部で濃化することがわかった。図3は、ガーネット型酸化物と複合酸化物との反応性を検討したXRD測定結果である。比較例1のガーネット型酸化物の組成では、反応物であるLaNiO3のピークが明確に確認できた。そこで、ガーネット型酸化物のXRDピークと重ならないLaNiO3のピーク範囲として、2θ=22.5〜23.5°を選び、XRDのピーク強度を用いてガーネット型酸化物の安定性の指標を求めた。この指標は、反応物のピーク強度をXRDの全体のピーク強度の総和で割った値の逆数とした。図4は、Srの含有量に対する電気伝導度及び安定性指標との関係図である。図4に示すように、基本組成式におけるSrの含有量Xが0.05≦X≦0.2の範囲Aでは、複合酸化物との反応性が低く、且つ電気伝導度(即ちLiイオン伝導率)が比較的高い領域であった。また、0.2<X<1の範囲Bでは、複合酸化物との反応性は低いが、電気伝導度が低い領域であった。また、0<X<0.05の範囲Cでは、複合酸化物との反応性は比較的高いが、電気伝導度が高い領域であった。したがって、反応性とLiイオン伝導率との関係からは、0.05≦X≦0.2の範囲Aがより良好であると考えられた。図5は、ガーネット型酸化物と複合酸化物(LCO)とを混合した焼結体の外観写真である。この焼結体は、ガーネット型酸化物と複合酸化物(LCO)とを体積比で2:1で混合した粉体をプレス成形により成形し、この成形体を900℃、30分焼成して得られた。図5に示すように、目視において焼成体を確認すると、Srの含有量に応じて黄緑色の反応色に変化がみられ、Sr含有量が多いほど反応抑制効果があることが確認できた。
【0035】
図6は、比較例1の組成の複合積層体を備えた全固体電池のCVサイクルである。図7は、実施例5の組成の複合積層体を備えた全固体電池のCVサイクルである。図6は、比較例1の組成で750℃1時間焼成したものと、900℃30分焼成した複合積層体を用いた電池の測定結果である。また、図7は、実施例5の組成で800℃1時間焼成したものと、900℃30分焼成した複合積層体を用いた電池の測定結果である。図6に示すように、比較例1の組成では、900℃で焼成すると、充放電しないことがわかった。例えば、複合体の作製時にガーネット型酸化物と複合酸化物とを共焼成する場合には、焼成温度が比較的高い(例えば850℃以上など)ことがあり、比較例1の組成では好ましくなかった。一方、実施例5の組成では、900℃で焼成しても充放電することから、Srの効果が現れていると考えられた。図8は、実施例5の充放電測定結果である。図8に示すように、実施例5の複合積層体を備えた全固体リチウム電池では、2.5V〜5.0Vの範囲で問題なくCC充放電を行うことができることが確認された。
【符号の説明】
【0036】
10 固体電解質層、11 正極活物質層、12 複合積層体、13 集電体、14 負極活物質層、15 集電体、20 全固体型リチウム電池。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8