(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6394022
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】設備基礎の補修方法
(51)【国際特許分類】
E02D 37/00 20060101AFI20180913BHJP
E02D 27/44 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
E02D37/00
E02D27/44 Z
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-58428(P2014-58428)
(22)【出願日】2014年3月20日
(65)【公開番号】特開2015-183373(P2015-183373A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2016年11月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100095957
【弁理士】
【氏名又は名称】亀谷 美明
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(72)【発明者】
【氏名】大出 哲也
(72)【発明者】
【氏名】榎田 忠宏
【審査官】
荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−348576(JP,A)
【文献】
特開平02−311298(JP,A)
【文献】
特開2003−049543(JP,A)
【文献】
特開平05−018120(JP,A)
【文献】
特開2010−112079(JP,A)
【文献】
特開昭62−063100(JP,A)
【文献】
特開2012−132246(JP,A)
【文献】
特開2010−005728(JP,A)
【文献】
特開平09−067942(JP,A)
【文献】
特開昭62−074600(JP,A)
【文献】
特開昭61−004670(JP,A)
【文献】
特開2007−240249(JP,A)
【文献】
特開昭62−033910(JP,A)
【文献】
米国特許第07516592(US,B1)
【文献】
特開2002−167977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/00−29/00
E02D 29/04−37/00
B26F 3/00
E21B 7/18
E04G 23/02
B28D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械設備を支持する設備基礎の補修方法であって、
既存の機械設備を取り外さずに、設備基礎のグラウト層または基礎コンクリートの補修範囲の一部の、アンカーボルトや鉄筋に当たらない位置に、少なくとも一箇所以上のコア抜きを行い、前記コア抜きで形成された穴に向けてウォータージェットを噴射して、前記補修範囲全体のグラウトまたはコンクリートを取り除き、その後、前記補修範囲に、新しいグラウトまたはコンクリートを打設することを特徴とする、設備基礎の補修方法。
【請求項2】
前記補修範囲が、前記グラウト層または基礎コンクリートの外周端から奥行き寸法1m以上にわたっていることを特徴とする、請求項1に記載の設備基礎の補修方法。
【請求項3】
前記コア抜きは、前記グラウト層または基礎コンクリートの外周端から、前記補修範囲の奥行き寸法までの深さの穴を形成するように行い、前記ウォータージェットは、前記穴の側面に向けて噴射することを特徴とする、請求項1または2のいずれか一項に記載の設備基礎の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械設備用の設備基礎の補修方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
機械設備を支持する設備基礎10は、例えば
図1に示すように、鉄筋コンクリートからなる基礎コンクリート11の上にグラウト層12を設けて形成される。そして、設備20の下端のシュープレート21がグラウト層12の上に配置されてアンカーボルト14で固定され、設備20が設備基礎10に支持される。設備基礎10は、経時劣化や設備の振動等により、次第に既設のグラウトやコンクリートが破壊され、アンカーボルト14のナット15が緩むことがあり、このような場合には補修が必要になる。
【0003】
コンクリート構造物の補修に関し、例えば特許文献1には、構造物を固定するための基礎ボルトを交換するにあたり、基礎ボルトの下側の地盤を掘削して作業空間を形成することが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、高炉等の基礎ペデスタルの改修工事期間を短縮する改修方法が開示され、ビットローラーやウォータージェットなどを用いて基礎部分を粗面化処理することによって、基礎部分と付加部分とが密着することが記載されている。
【0005】
通常、設備基礎の補修を行う際は、設備基礎の上に載っている設備を一旦取り外してから補修作業を行っている。
図6は、その補修作業の工程を示すフローチャートである。先ず、設備周辺の干渉物の撤去を行い(ステップS11)、設備を設備基礎から取り外す(ステップS12)。その後、補修範囲のグラウトやコンクリートを取り除き(ステップS13)、設備の載置位置を調整するためのパッドを設置し(ステップS14)、設備を据え付ける(ステップS15)。そして、補修部分に新しいグラウトやコンクリートを打設し(ステップS16)、最初に撤去した干渉物を復旧させて(ステップS17)、補修作業が終了する。この一連の作業は極めて長時間を要し、設備を数十日間も停止させなければならない場合がある。長期間にわたって設備を停止できない場合や、設備の周辺に大型重機を据え付けられない等の理由で設備を基礎から取り外すことができない場合には、設備を設備基礎の上に載置したままの状態で、グラウトやコンクリートの補修を行わなければならない。
【0006】
従来、補修範囲が小規模な場合は、設備を基礎の上に載せたまま、人力によって補修部分のグラウトやコンクリートを斫って取り除き、その部分に新しいグラウトまたはコンクリートを充填して補修していた。ところが、アンカーボルトの背面やシュープレートとの境界部分など、人力による斫りでは届きにくく、補修範囲の撤去が困難な場所がある。
【0007】
また、従来、補修範囲のグラウトまたはコンクリートをコア抜きして取り除くことが行われている。ところが、基礎の内部に配置されたアンカーボルトや鉄筋等を損傷することなく補修範囲を正確にコア抜きすることは、極めて困難な作業であり、しかも長時間を要していた。
【0008】
さらに、シュープレートの下面が錆びている場合には、錆を取り除く必要があるが、コア抜きや人力による斫りでは、錆落としは困難であった。さらにまた、通常、設備の周囲には配管やケーブル等が多数存在し、これらに損傷を与えずに補修工事を行わなければならない上、作業時間の短縮を図るためには、これらの配管等の移動を最小限に留めることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−94385号公報
【特許文献2】特開2010−112079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、設備基礎の補修において、設備を取り外さずに、広範囲な補修を効率的に行う方法はなく、特許文献1および特許文献2にも開示されていない。
【0011】
本発明の目的は、既存の設備を取り外さずに、設備基礎の広範囲な補修を効率的に行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記問題を解決するため、本発明によれば、
機械設備を支持する設備基礎の補修方法であって、既存の
機械設備を取り外さずに、設備基礎のグラウト層または基礎コンクリートの補修範囲の一部の、アンカーボルトや鉄筋に当たらない位置に、少なくとも一箇所以上のコア抜きを行い、前記コア抜きで形成された穴に向けてウォータージェットを噴射して、前記補修範囲全体のグラウトまたはコンクリートを取り除き、その後、前記補修範囲に、新しいグラウトまたはコンクリートを打設することを特徴とする、設備基礎の補修方法が提供される。
【0013】
前記補修範囲が、前記グラウト層または基礎コンクリートの外周端から奥行き寸法1m以上にわたっていることが好ましい。また、前記コア抜きは、前記グラウト層または基礎コンクリートの外周端から、前記補修範囲の奥行き寸法までの深さの穴を形成するように行い、前記ウォータージェットは、前記穴の側面に向けて噴射するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、既存の設備を載置したままの状態で、効率よく設備基礎の広範囲な補修を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】設備が載置された設備基礎の構成の概略を示す断面図である。
【
図2】本発明の実施形態にかかる補修方法の手順を示すフローチャートである。
【
図3】グラウト層を補修する際のコア抜きの一例を示す正面図である。
【
図4】グラウト層を補修する際のコア抜きの一例を示す平面図である。
【
図5】グラウト層を補修する際のコア抜きの異なる例を示す平面図である。
【
図6】従来の補修方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図を参照して説明する。
【0017】
図1は、設備基礎10の上に設備20が載置された構成の概要を示す断面図である。設備基礎10は、前述の通り、鉄筋コンクリートからなる基礎コンクリート11の上にグラウト層12を設けて形成される。そして、グラウト層12の上に、設備20の下端の鉄板等からなるシュープレート21が載置され、シュープレート21は、基礎コンクリート11の内部まで達するアンカーボルト14で固定される。シュープレート21と基礎コンクリート11とは、グラウト層12を介することにより隙間無く固定される。このようにして、設備20が設備基礎10に支持される。
【0018】
設備基礎10の上に、設備20として例えば圧延機が設置されている場合、1000kgを超える重量を有する圧延機の稼働時の振動等により、シュープレート21とグラウト層12との間に次第に隙間が生じる。そして、隙間が生じた状態で、圧延機の稼働によりグラウト層12に衝撃力が加わることで、グラウト層12が劣化する。隙間の有無は、例えばシュープレート21とグラウト層12との間に薄板を差し込むことで確認でき、この薄板が入り込む範囲が、補修を必要とする範囲であると判断される。
【0019】
図2は、本発明の実施形態にかかる補修作業の工程を示すフローチャートである。
【0020】
補修を行うにあたって、先ず、設備周辺の配管やケーブル等の干渉物の撤去を行い(ステップS1)、その後、設備基礎の補修範囲のグラウトやコンクリートを取り除く。
【0021】
本実施形態では、補修範囲のグラウトまたはコンクリートを取り除く際、先ず、適宜間隔で複数箇所のコア抜きを行い、その後、ウォータージェットを噴射する。すなわち、先ず、作業場所から可能な範囲で、グラウト層12や基礎コンクリート11内に配置されたアンカーボルト14や鉄筋16等に当たらない位置に、例えばφ150mm程度の穴を複数箇所あける(ステップS2)。
図3および
図4は、グラウト層12を補修する際のコア抜きの例を示し、
図4中のハッチングされた部分が補修範囲31を示す。例えば
図4に示すように、コア抜きする際には、外周端から補修範囲31の奥行き寸法Aの穴32をあけるようにコア抜きすることで、その後ウォータージェットでグラウトを撤去する範囲の目安となるようにすることが好ましい。さらに、例えば
図5に示すように、一方(
図5のX方向)からの作業のみではコア抜きが行えない補修範囲31がある場合には、異なる方向(
図5のY方向)でもコア抜きを行えばよい。この場合にも、Y方向のコア抜きをする際には、外周端から補修範囲31のY方向の奥行き寸法Bの穴32をあけることが好ましい。
【0022】
その後、コア抜きで形成された穴32の側面にウォータージェットを噴射して、補修範囲31全体のグラウトまたはコンクリートを取り除く(ステップS3)。補修範囲の目安となる位置にコア抜きしておけば、穴32の側面に向けてウォータージェットを噴射することで、容易に補修範囲31全体のグラウトを取り除くことができる。また、予めコア抜きを行うことで、ウォータージェットで噴射する水の通り道を形成し、ウォータージェットの作業効率が向上する。
【0023】
ウォータージェットは、グラウト層12や基礎コンクリート11内に埋設されている既設のアンカーボルト14や鉄筋16等の金物に損傷を与えることなく、また、人力による斫りでは届きにくい範囲のグラウトやコンクリートの撤去を、容易に行うことができる。また、ウォータージェットは、一箇所から施工可能であることから、設備周辺の既存の配管やケーブル等の干渉物の移動を最小限にとどめることができ、補修作業の工期を短縮できる。
【0024】
さらに、ウォータージェットを噴射することで、シュープレート21の下面の錆落とし等の清掃を同時に実施できるので、新しく充填するグラウトとシュープレート21との密着性が向上する。また、ウォータージェットで削られた補修部分が凸凹を有することにより、既存のグラウトやコンクリートと新しいグラウトやコンクリートとの付着性が向上する。
【0025】
以上のように、コア抜きとウォータージェットとを併用して劣化部分を取り除いた補修範囲に、新しいグラウトまたはコンクリートを打設し(ステップS4)、最初に撤去した干渉物を復旧させて(ステップS5)、補修作業が終了する。こうして、設備基礎10から設備20を取り外すことなく、設備基礎10のグラウト層12や基礎コンクリート11の補修が可能となる。なお、新しいグラウトまたはコンクリートを打設する際、同時に新しいアンカーボルトを取り付けることもできる。
【0026】
上述の通り、ウォータージェットは、アンカーボルト14や鉄筋16等の金物に損傷を与えず、且つ、人力による斫りでは届きにくい範囲のグラウトやコンクリートでも容易に撤去できるという特長があるが、補修範囲31を全てウォータージェットだけで取り除くには、長時間を要する。本発明では、コア抜きにより、ウォータージェットの水が当たる面積を広げておき、コア抜きで形成された穴32の側面にウォータージェットの水を噴射することで、時間短縮を図ることができる。つまり、コア抜きとウォータージェットとを組み合わせることで、補修作業の効率化を実現できる。実際に、設備20を設備基礎10から取り外さず、コア抜きと人力の斫りによって補修範囲のグラウトを取り除いて補修した場合、104時間かかったところが、コア抜きとウォータージェットとを併用する本発明の方法によれば、84時間で補修作業を行うことができ、20時間の時間短縮が実現した。しかも、人力で斫る場合には、手が届かない位置があり、補修が不十分になる可能性がある。なお、設備20を一旦設備基礎10から取り外して作業を行うと、さらに長時間を要し、例えば数十日程度、設備を停止しなければならなくなる。
【0027】
本発明の補修方法は、補修範囲31が、設備基礎10の外周端から奥行き寸法Aが1m以上にわたっている場合に、殊に有効である。奥行き寸法Aが1m未満の場合でも本発明は適用できるが、補修範囲31の奥行きが小さい場合には、従来の方法であるコア抜きのみ、あるいは人力の斫りでも、それほど長時間を要することなく劣化部分を撤去することができるためである。また、補修範囲全体のグラウトやコンクリートを一度に取り除くと、設備を載置する強度を保持できないような広い範囲にわたって補修を行う場合には、複数回に分けて補修作業を行えばよい。すなわち、先ず、設備を載置したままで取り除ける範囲のグラウトやコンクリートをコア抜きおよびウォータージェットの併用により取り除き、そこに新しいグラウトやコンクリートを充填し、その補修部分が固まったところで、残りの範囲について、補修作業を行う。
【0028】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、グラウトやコンクリート等からなる構造物の補修作業に適用できる。
【符号の説明】
【0030】
10 設備基礎
11 基礎コンクリート
12 グラウト層
14 アンカーボルト
15 ナット
16 鉄筋
20 設備
21 シュープレート
31 補修範囲
32 穴