(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
線引きタワーに設けられた加熱炉内に光ファイバ母材を挿入し、前記光ファイバ母材を加熱して溶融させ、線引きして光ファイバを形成し、前記光ファイバを冷却装置内に通過させる光ファイバの製造方法であって、
地震発生時に外部から入手した震源の位置情報を含む振動予測情報に基づき、予測される振動の発生によって前記光ファイバが断線するか否かを判定する判定工程と、
前記判定工程において前記光ファイバが断線すると判定された場合、前記光ファイバの断線を回避するための断線回避動作を行なう回避工程と、
を備え、
前記回避工程における前記断線回避動作は、前記線引きの速度を下げる動作と、前記冷却装置における前記光ファイバの通過する隙間を拡げる動作とを含む、光ファイバの製造方法。
前記判定工程では、過去の地震データから作成された断線判定基準と前記振動予測情報とに基づいて前記光ファイバが断線するか否かを判定する、請求項1または請求項2に記載の光ファイバの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<本発明の実施形態の概要>
最初に本発明の実施形態の概要を説明する。
(1)光ファイバの製造方法は、線引きタワーに設けられた加熱炉内に光ファイバ母材を挿入し、前記光ファイバ母材を加熱して溶融させ、線引きして光ファイバを形成し、前記光ファイバを冷却装置内に通過させる光ファイバの製造方法であって、
地震発生時に外部から入手した震源の位置情報を含む振動予測情報に基づき、予測される振動の発生によって前記光ファイバが断線するか否かを判定する判定工程と、
前記判定工程において前記光ファイバが断線すると判定された場合、前記光ファイバの断線を回避するための断線回避動作を行なう回避工程と、
を備えるものである。
【0010】
上記の光ファイバの製造方法によれば、予測される振動の発生により製造工程中の光ファイバが断線するか否かを、震源の位置情報を含む振動予測情報に基づき判定することができる。また、その判定は、振動が実際に到達する前に、時間的余裕を持って行うことができる。その結果、光ファイバが断線すると判定された場合には、振動が到達する前に時間的余裕をもって断線回避動作を開始して光ファイバの断線を防ぐことができる。このため、断線した後に落とし種を引き出す手順からやり直しとなる場合に比べて、通常の線引き状態に早く(短時間で)復旧させることができ、光ファイバを製造する機会の損失を低減することができる。
【0011】
(2)また、上記(1)の光ファイバの製造方法において、前記振動予測情報は、少なくとも震源地からの距離と地震のマグニチュードとに関する情報が含まれていることが好ましい。
【0012】
この製造方法によれば、振動予測情報に震源地からの距離と地震のマグニチュードに関する情報が含まれているので、地震の規模に基づいた単なる振動の大きさだけでなく、揺れ方(いつ頃、どのように振動するか)も加味して予測することができるので、揺れ方に対応した適切な断線回避動作を行うことができる。
【0013】
(3)また、上記(1)または(2)の光ファイバの製造方法において、前記判定工程では、過去の地震データから作成された断線判定基準と前記振動予測情報とに基づいて前記光ファイバが断線するか否かを判定することが好ましい。
【0014】
この判定工程によれば、過去に発生した地震における光ファイバの断線情報に基づいて光ファイバの断線判定基準を作成する。この断線判定基準と入手された振動予測情報とを対比することにより光ファイバの断線の有無を判定することができるので、適切な断線回避動作を行うとともに光ファイバを製造する機会の損失を低減することができる。
【0015】
(4)また、上記(1)から(3)のいずれかの光ファイバの製造方法において、前記回避工程における前記断線回避動作は、前記線引きの速度を下げる動作と、前記冷却装置における前記光ファイバの通過する隙間を拡げる動作とを含むことが好ましい。
【0016】
この製造方法によれば、冷却装置や加熱炉シャッタなどの光ファイバと接触する可能性のある部位における光ファイバの通過する隙間を拡げることにより、振動に基づく光ファイバの接触を防止することができる。また、特に、冷却装置と光ファイバとが接触する可能性がある場合は、線引き速度を遅くすることにより、冷却装置における光ファイバが通過する隙間を拡げつつも、樹脂を被覆できる温度まで光ファイバを十分に冷却すること(冷却能力の維持)ができる。これにより、光ファイバの断線を回避することができ、光ファイバ製造の機会の損失を低減することができる。
【0017】
(5)また、上記(1)から(3)のいずれかの光ファイバの製造方法において、前記回避工程における前記断線回避動作は、前記冷却装置に流す冷却ガスの流量を増やす動作と、前記冷却装置における前記光ファイバの通過する隙間を拡げる動作とを含むことが好ましい。
【0018】
この製造方法によれば、冷却装置における光ファイバの通過する隙間を拡げることにより、振動に基づく光ファイバの接触を防止することができる。また、冷却ガスの流量を増やすことにより、冷却装置における光ファイバが通過する隙間を拡げつつも、樹脂を被覆できる温度まで光ファイバを十分に冷却することができる。これにより、光ファイバの断線を回避することができ、光ファイバ製造の機会の損失を低減することができる。
【0019】
(6)また、上記(1)から(5)のいずれかの光ファイバの製造方法において、前記震源の位置情報から求められる震源地の方角により、前記判定工程における前記光ファイバが断線するか否かの重み付けを変える。
【0020】
一般的に、震源地から光ファイバの製造装置が設置された地点に至るまでの地盤、地形等は、震源の方角によって異なるが、(6)の製造方法によれば、震源地の方角の情報も加味して断線するか否かの重み付けを変えるので、適切な断線回避動作を行うことができる。
【0021】
(7)また、上記(1)から(6)のいずれかの光ファイバの製造方法において、前記判定工程は、地震波が到達すると予測される時刻より所定時間前で、最も後に配信された振動予測情報に基づいて前記光ファイバが断線するか否かを判定する工程であり、
前記所定時間は、前記断線回避動作にかかる時間より長い時間である。
【0022】
振動予測情報(例えば、気象庁、業務許可事業者等から提供され発信される緊急地震速報)は、複数の速報を数秒〜数十秒間隔で逐次更新する場合があり、後に配信された速報ほど精度が高く真値に近いので、(7)の製造方法によれば、断線回避動作が可能なできるだけ最新の振動予測情報に基づいて、光ファイバの断線が生じるか否かを判定することにより、より的確な判定を行うことができる。
【0023】
(8)また、上記(1)から(7)のいずれかの光ファイバの製造方法において、前記振動予測情報は、光ファイバの製造装置が設置された地点またはその近隣の地点の少なくとも1つの地点に設置された地震計で観測された初期微動の情報が含まれている。
【0024】
地震波の周期(振動数)が光ファイバの製造装置の固有振動数に近いと、光ファイバの製造装置に与える影響が大きく光ファイバの断線が発生しやすくなるが、(8)の製造方法によれば、初期微動の情報を元に本震の揺れを予測して、光ファイバの製造装置の固有振動数に近い揺れか否かを判断するので、適切な断線回避動作を行うことができる。
【0025】
<本発明の実施形態の詳細>
以下、本発明に係る光ファイバの製造方法の実施形態の一例について、図面を参照して詳細に説明する。
【0026】
図1は、本実施形態の光ファイバの製造方法によって光ファイバを製造することのできる装置の概略構成図である。
図1に示すように、光ファイバの製造装置1は、ほぼ鉛直方向に立設された線引きタワー6と、線引きタワー6の上部に設けられ光ファイバ母材Gを加熱する縦型の加熱炉2と、光ファイバG1を冷却する冷却装置11と、を備えている。さらに、光ファイバの製造装置1は、外径測定器10と、被覆塗布装置14と、紫外線照射装置15と、キャプスタン19と、ボビン26と、制御部27と、情報受信部28と、を備えている。
【0027】
光ファイバ母材Gは、把持部5によってその上部が把持される。把持部5は、線引きタワー6における加熱炉2の上方に設けられた駆動部7に連結されており、鉛直方向に移動可能である。光ファイバ母材Gは、駆動部7の駆動により加熱炉2内に送られる。加熱炉2内に供給された光ファイバ母材Gは、その下端側が加熱されて溶融し、下方に引き伸ばされて細径化し、ガラス体の光ファイバG1が形成される。
【0028】
加熱炉2の下端に位置する出口には、開閉可能な加熱炉シャッタ9が設けられている。この加熱炉シャッタ9は、線引き時には閉じられることで加熱炉2内に外気が侵入することを防ぐものである。また、加熱炉シャッタ9は、閉じた状態でその中央に細径の孔が形成されるようになっている。加熱炉シャッタ9は、制御部27と電気的に接続されており、制御部27から送信されてくる制御信号に基づいてシャッタの開閉を行う。
【0029】
加熱炉2の下方には、例えばレーザ光式の外径測定器10が設けられており、加熱炉2を出た光ファイバG1は、この外径測定器10によりその外径が測定される。なお、ここでの外径の測定は、光ファイバG1の軸に直交する方向の平面上の直交軸(X軸とY軸)方向のそれぞれにおいて測定することが好ましい。
【0030】
外径測定器10は、光ファイバG1を測定可能な測定検出範囲が、例えば、光ファイバG1の軸に直交する方向で2mm程度である。光ファイバG1の位置がこの測定検出範囲から外れると、測定を行うことが不可能になり、エラー信号が検出されるかまたは測定値が0μmと検出される。そのときには光ファイバG1が通常のパスラインから外れていると判断できるため、外径測定器10は、線引きされた光ファイバG1がそのパスライン上に存在するか否かを判断できる位置センサとしても機能する。この位置センサ機能を活用すると、地震等の振動により光ファイバG1が揺れて外径測定器10の測定検出範囲から外れたことを、光ファイバG1の振動が所定の値以上になったこととして検知することができる。
【0031】
外径測定器10の下方には、冷却装置11が設けられている。冷却装置11の本体は、例えば光ファイバG1のパスラインから離反する方向に2分割して開閉できる構成となっており、線引き時には通常互いに接合されて一体化された状態で使用される。冷却装置11は、本体を構成する2つの部材を閉じた中央の位置に、長手方向にわたって光ファイバG1が通される挿通孔が形成されている。この挿通孔には冷却ガスが送り込まれ、挿通孔に挿通された光ファイバG1が冷却される。また、冷却装置11の本体は、その内部に、長手方向に沿って冷却流体用の流路が形成されておりその内部は冷却流体が循環するようになっている。この冷却流体によって挿通孔内の冷却ガスが冷却され、その冷却ガス雰囲気中を光ファイバG1が通ることで、線引き後の光ファイバG1を適切な温度に冷却できる。これにより、樹脂を外周に塗布できる程度に光ファイバG1の温度を下げることができる。
【0032】
また、冷却装置11の上端には、挿通孔の入口を開閉可能な上部シャッタ12が設けられている。また、冷却装置11の下端には、挿通孔の出口を開閉可能な下部シャッタ13が設けられている。これらの上部シャッタ12及び下部シャッタ13は、線引き時には閉じられて冷却装置11の冷却効率を高めるものである。また、上部シャッタ12及び下部シャッタ13は、閉じた状態でその中央に細径の孔が形成されるようになっている。その細径の孔は、線引きされた光ファイバG1より大きい直径を有している。光ファイバG1は、上部シャッタ12及び下部シャッタ13とそれぞれ僅かなクリアランスを維持して細径の孔を通過する。なお、冷却装置11はパスライン上に複数台設けられていても良い。
【0033】
冷却装置11の下方には、光ファイバG1に紫外線硬化型樹脂を塗布する被覆塗布装置14と、塗布された紫外線硬化型樹脂を硬化させるための紫外線照射装置15が設けられている。紫外線照射装置15は、例えば、多灯のUVランプによって樹脂を塗布した光ファイバG2に紫外線を照射して、紫外線硬化型樹脂を硬化させるものである。光ファイバG1は、被覆塗布装置14によって外周に紫外線硬化型樹脂が塗布されて、その後、紫外線照射装置15によって紫外線硬化型樹脂が硬化反応することにより、紫外線硬化型樹脂の被覆層が形成された光ファイバG2になる。
【0034】
紫外線照射装置15の下方には、外径測定器16が設けられており、被覆層が形成された光ファイバG2の外径が測定される。この外径測定器16は、上記の外径測定器10と同様のものを用いることができる。なお、ここで測定される光ファイバG2の外径が所定の値となるように、被覆塗布装置14で紫外線硬化型樹脂が塗布される。
【0035】
外径測定器16を通過した光ファイバG2は、ガイドローラ17,18を介してキャプスタン19に引き込まれ、キャプスタン19によって所定の張力が加えられる。このキャプスタン19により、光ファイバG2はさらに下流側に送られる。
【0036】
キャプスタン19の下流側では、光ファイバG2は、ダンサローラ24,25を介して巻き取りボビン26に送られ、この巻き取りボビン26に巻き取られる。
【0037】
情報受信部28は、外部の情報発信基地から発信された地震に関する情報(振動予測情報)を受信(入手)する。情報受信部28は、振動予測情報として、例えば、気象庁、業務許可事業者等から提供され発信される緊急地震速報を受信する。受信する緊急地震速報には、震源地の位置(緯度、経度、深さ)、発生時刻、マグニチュード、予測到達時刻、震源地からの距離、予測最大震度等の情報が含まれている。情報受信部28は、制御部27と電気的に接続されており、受信された緊急地震速報の情報は、制御部27に送信される。なお、震源地の位置が分かれば、光ファイバの製造装置1が設置された地点から見て東西南北いずれの方角に震源地があるかも分かる。
なお、振動予測情報としては、上記の緊急地震速報以外の情報として、光ファイバの製造装置1が設置された地点または近隣の地点の少なくとも1つの地点に設置された地震計で観測され通知された初期微動の情報を含むものであってもよい。
【0038】
制御部27は、加熱炉シャッタ9、外径測定器10、冷却装置11、上部シャッタ12、下部シャッタ13及びキャプスタン19と電気的に接続されており、それらの動作を制御する。例えば、線引き時には、制御部27は、外径測定器10により測定された外径値が所定の範囲内に収まるようにキャプスタン19の駆動を制御し、光ファイバG1の線速が制御される。
【0039】
また、制御部27は、情報受信部28から送信された緊急地震速報の情報に基づいて、予測される振動の発生により光ファイバG1の断線が生じるか否かの判定処理を行う。この判定処理は、過去に発生した地震のデータと対比することによって行われる。過去の地震データは、制御部27に設けられている記憶部(図示省略)に記憶されている。
【0040】
図2は、記憶部に記憶されている過去の地震データの一例をグラフ上に示したものである。光ファイバの断線の有無を、地震のマグニチュード(縦軸)と震源までの距離(横軸)との関係で示している。グラフ上において、○(丸印)は光ファイバG1の断線が発生せず、さらにモニタしている製造装置1以外の同工場内の他機でも断線が発生しなかったケースの地震データを示している。また、△(三角印)は、製造装置1では光ファイバG1の断線は発生しなかったが他機で断線が発生したケースの地震データを示している。また、×(バツ印)は光ファイバG1の断線が発生した地震を示している。
【0041】
また、グラフ上の破線34は、これら過去の地震データに基づいて、光ファイバG1が断線するか否かの閾値を示している。破線34で示される閾値は、断線判定式(断線判定基準の一例)y=x/250+4・・・(1)によって表すことができる。制御部27は、受信した緊急地震速報の情報を断線判定式(1)と対比することによって光ファイバG1の断線が生じるか否かの判定処理を行なう。受信された緊急地震速報における地震のマグニチュードの値(yの値)が震源までの距離の値(xの値)との関係において断線判定式(1)を超えている場合には、光ファイバG1の断線が生じると判定する。これに対して、地震のマグニチュードの値が震源までの距離の値との関係において断線判定式(1)を超えていない場合には、光ファイバG1の断線は生じないと判定する。
【0042】
また、震源から光ファイバの製造装置1が設置された地点に至るまでの地盤、地形等は、一般的に震源の方角によって異なるが、これにより、地震のマグニチュードや震源までの距離が同じであっても、揺れの大きさ(震度)や地震波の到達時間等が異なってくる。このため、光ファイバの製造装置1が設置された地点から見た震源地の方角によって、光ファイバG1の断線の発生状況が変化する場合がある。仮に、震源地の方角ごとに、
図2のグラフを書くと、破線34の傾きが異なる場合があり、断線判定式のパラメータが異なってくる。このため、緊急地震速報(例えば、緊急地震速報の第1報)における震源地の方角により、判定工程における光ファイバG1が断線するか否かの重み付けを変えるようにするとよい。このようにすることで、震源地の方角によって適切な断線回避動作を行うことができる。
【0043】
また、光ファイバの製造装置1が設置された地点またはその近隣(例えば、10km以内)の地点に設置された地震計で観測された初期微動の情報も振動予測情報として利用してもよい。
地震の振動周期(振動数)が光ファイバの製造装置1の固有振動数に近いと、光ファイバの製造装置1が共振して、光ファイバの製造装置に与える影響が大きくなり、光ファイバの断線が発生しやすくなる。このため、地震の振動周期の違いにより、光ファイバG1が断線しやすくなったり断線しにくくなったりする。上記のようにして得られた初期微動の情報を元に本震の振動周期を予測して、光ファイバの製造装置1の固有振動数に近い振動周期(振動数)の揺れであるか否かによって、判定工程における光ファイバG1が断線するか否かの重み付けを変えるなどすれば、適切な断線回避動作を行うことができる。
【0044】
次に
図3に基づいて、緊急地震速報を受信してからの製造装置1の動作を説明する。
図3に示されるグラフの縦軸には光ファイバG1を巻き取る線速が表示され、横軸には時間が表示されている。
【0045】
地震が発生すると各地の観測点で観測された地震情報が気象庁に送信される。気象庁は送信されてきた地震情報に基づいて緊急地震速報を作成し、作成した緊急地震速報を配信する。この緊急地震速報が配信された時点をh1の時点とする。
【0046】
配信された緊急地震速報は、光ファイバG1の製造装置1が設置されている製造地点で情報受信部28によって受信される。製造地点で緊急地震速報を受信したのは、h1から例えば5秒後のh2の時点である。製造装置1の制御部27は、入手した緊急地震速報に基づき、予測される振動の発生によって光ファイバG1の断線が発生するか否かをh2から例えば2秒後のh3の時点までに判定する。判定は、上述したように、入手した緊急地震速報の情報を過去の地震データから算出した閾値と対比することにより行う(判定工程の一例)。製造装置1は、h3の時点までは通常時の線引き速度(例えば2000m/min)によって光ファイバG1を製造している。
【0047】
判定工程において、光ファイバG1の断線が発生すると判定された場合には、先ず、線引き速度を遅くする断線回避動作が行われる(回避工程の一例)。線引き速度を遅くする断線回避動作は、h3の時点から開始される。例えば、光ファイバG1の制御目標とする径が大きく(太くする)設定されると、制御部27は、キャプスタン19の駆動を制御して光ファイバG2を引き込む速度を下げることにより、光ファイバG1の線引き速度が遅くなる。しかし、光ファイバ母材Gが溶融する量が一定であると、光ファイバG1の制御目標とする径をかなり大きく設定しないと、線引き速度を十分に遅くすることができない。そこで、光ファイバ母材Gの位置を上昇させて加熱炉2内で光ファイバ母材Gの溶融される部分を減少させる。このような断線回避動作により光ファイバG1の線引き速度は、h3から例えば約20秒後のh4の時点で約1500m/minまで下降する。光ファイバG1の線引き速度はh4の後も継続してh6の時点まで減速される。
【0048】
次に、h4の時点、すなわち光ファイバG1の線引き速度が約1500m/minに減速された時点から冷却装置11の隙間を拡げる断線回避動作が行われる(回避工程の一例)。この際、冷却装置11の挿通孔に送り込む冷却ガスの量を増加させることで光ファイバG1を冷却する能力を高めるとともに線引き速度を減速させる割合を抑えても良いし、線引き速度を減速させながら冷却能力が維持されるように冷却ガスの量を調整しても良い。また、冷却ガスの温度を下げて冷却能力を維持するようにしても良い。
【0049】
冷却装置11を開くと、冷却装置11の冷却効率は低下し光ファイバG1を十分に冷却することができなくなる。光ファイバG1が高温のまま樹脂を塗布しようとすると、被覆が薄くなり、所望の外径が得られなくなるとともに断線し易くなってしまう。したがって、冷却装置11を開いても光ファイバG1を十分に冷却できる(冷却能力を維持できる)まで光ファイバG1の線引き速度を先ず減速させる。本例では、冷却装置11を開いても冷却能力を維持できる線引き速度が、h4で示される時点の速度(例えば約1500m/min)であり、冷却装置11の隙間を開く断線回避動作は、h4の速度に減速されたときに開始される。なお、冷却能力が維持できるのであれば、線速を下げずに断線回避動作を行っても良い。その場合は、例えば冷却ガスを、冷却装置11を閉じているときに流す量の5倍程度まで増やして流すようにすれば良い。
【0050】
また、冷却装置11は振動により光ファイバG1が冷却装置11に接触しないような大きさに開けば足り、冷却装置11による冷却能力の維持を考慮するとできる限り小さく開くことが望ましい。冷却装置11を開く断線回避動作はh4から例えば約5秒後のh5の時点で終了し、冷却装置11の隙間、すなわち光ファイバG1が通過する細径の孔は、例えば通常時(閉時)が約5mmである場合、約8mmまで開かれる。この隙間は冷却装置11を全開した状態ではなく、光ファイバG1の接触の回避と冷却能力を考慮した開状態であり、以後この状態を半開きの状態ともいう。
【0051】
h5の時点で光ファイバG1の断線を回避する断線回避動作は完了する。すなわち、光ファイバの製造装置1は、緊急地震速報を受信したh2の時点から本例での断線回避動作を完了するまでに、光ファイバG1の断線が発生するか否かを判定する時間(2秒)と線引き速度を遅くする断線回避動作の時間(約20秒)と冷却装置11を開く断線回避動作の時間(約5秒)を足し合わせた約27秒の時間が必要である。このように開始から完了までの時間(例えば約27秒)が必要な断線回避動作であっても、振動が到達するまでには断線回避動作が終わるように動作を開始しているため、本例によれば、地震が到達する前のh5の時点で断線回避動作は完了している。
【0052】
光ファイバG1の線引き速度の減速は、冷却装置11を開いた断線回避動作完了(h5の時点)後も継続されている。なお、前述したように、冷却ガスの流量を増やすなどして冷却能力を維持できるのであれば、線引き速度を減速させる割合を抑えても良い。この場合、線引き速度を減速させる時間を短縮できるので、断線回避動作の開始から完了までに必要な上記時間をさらに短くすることができ、後述する光ファイバの不良品を減らすことができる。h6の時点まで線引き速度が減速された後に、減速された線引き速度において地震の沈静化(所定時間の経過)が待たれる。地震の沈静化の判定は、例えば光ファイバG1が外径測定器10の測定検出範囲に収まった時点、すなわち再び正常なパスライン上に復帰した時点とする。
【0053】
所定の時間が経過した後のh8の時点から、製造装置1の復旧動作が開始される。復旧動作は、線引き速度(2000m/min)の復帰動作、冷却装置11の閉動作等が行われる。復旧動作はh9の時点で完了し、それ以降は通常(良品)の光ファイバG2を製造することができる。
【0054】
冷却装置11が開いているとき、および線引き速度が減速されているときに冷却装置11を通過した光ファイバG1は、製品として不良になる。
図3において、線引き速度を遅くする断線回避動作が開始されたh3の時点から製造装置1の復旧動作が完了するh9の時点までに製造された光ファイバ、すなわち斜線で示される領域Aの面積分の光ファイバが不良品になる。このh3からh9までにおける良品の光ファイバを製造する機会が損失される期間(機会損失期間)は、一例として約60minになる。
【0055】
なお、冷却装置11が開いているときに冷却装置11を通過した光ファイバG1を、ボビンの切替機構等により巻き取りボビン26とは別の不良品用ボビンに巻き替え、廃却しても良いが、そのまま巻き取りボビン26に巻き取り、冷却装置11が開いているときに冷却装置11を通過した光ファイバG1の巻き取り位置を記憶する、若しくは光ファイバG2にマーキングするなどして、線引工程以降の工程(例えば、着色工程、巻き替え工程など)で自動廃却しても良い。なお、後者のやり方であれば、ボビンの切り替えの手間などを省くことができる。
【0056】
機会損失期間を比較するために、断線回避動作が行われずに地震により光ファイバG1が断線した場合を
図3において破線で示す。この場合、h7の時点で製造地点に到達した地震により光ファイバG1が断線し、製造装置1が停止する。光ファイバG1が断線した場合には、製造装置1を、光ファイバ母材Gから光ファイバG1の落とし種を引き出す工程からやり直さなければならない。また、製造装置1は製造地点に複数台設置されていることが多く、これらを順番に再起動していく必要がある。さらに、断線した場合には、地震が収まった後、線引き速度の停止状態(h10の状態)から通常の速度まで復帰させなければならない。これらの要因のため、光ファイバG1が断線した場合の機会損失期間は、h7の時点からh11の時点までの期間になり、その時間は例えば約190minにもなる。
【0057】
以上説明したように、光ファイバの製造方法によれば、気象庁等から入手した緊急地震速報に基づいて、予測される振動の発生により製造装置1で製造中にある光ファイバG1がその振動によって冷却装置11等に接触することで断線されるか否かを判定している。緊急地震速報によれば震源に近い観測点の地震計により捉えたP波を解析することにより震源地の位置(緯度、経度、深さ)、マグニチュード、到達時刻、震源地からの距離、最大震度等の情報を取得することができるので、主要動(S波)が到達する前に時間的余裕を持って光ファイバG1に断線が生じる否かを判定することができる。
【0058】
そして、光ファイバG1に断線が生じると判定された場合には、断線回避動作として光ファイバの線引き速度を減速させる動作と冷却装置11を開かせる動作を行う。この場合、冷却装置11を開いたときにも冷却装置11がその冷却能力を維持できるように先ず線引き速度を減速させておき、その後に冷却装置11を半開き状態に開かせている。このように動作を完了するまでに一定の時間(約27秒)を要する断線回避動作を緊急地震速報に基づいて行うことにより、主要動が到達する前に時間的余裕をもって開始して、主要動が到達する前に断線回避動作を完了することができ、これにより光ファイバG1の断線を防ぐことができる。なお、光ファイバG1に断線が生じるかどうかの判定は、地震波が到達すると予測される時刻より所定時間前に行う必要があり、この所定時間は、断線回避動作に掛かる時間(上記の場合27秒)より長い時間である。
このようにして、光ファイバG1が断線して、製造装置1を光ファイバG1の落とし種を引き出す工程からやり直さなければならない場合に比べて、通常の線引き状態に早く(短時間で)復旧させることができるので、良品光ファイバG2を得られない機会損失期間を大幅に低減することができる。
【0059】
冷却装置11を開くことによる断線回避動作を行う場合、冷却装置11を全開にすると光ファイバG1を冷やすために線引き速度を十分に遅くしたり、冷却ガスの流量を増やすなどして、冷却能力を維持しなければならない。ところが、線引き速度を遅くすればするほど元の線引き速度まで戻すために長い時間が必要になり、機会損失期間が増加してしまう。そこで、線引き速度を遅くする場合には、冷却装置11を半開きにすることにより冷却能力の低下を抑えつつ、線引き速度の減速量も少なくしている。これにより通常の線引き速度に戻るまでの時間を短くして機会損失期間を減少させることができる。
【0060】
また、緊急地震速報の情報には、震源地の位置(緯度、経度、深さ)と地震のマグニチュードに関する情報が含まれているので、地震の単なる振動だけでなく、振動波の伝達してくる方向、振動周期(短周期地震か長周期地震か)等を含む地震の揺れ方を認識することができる。これにより各地震の特徴を正確に予測することができ、光ファイバG1に断線が生じるか否かを正確に判定することができる。
【0061】
また、過去に発生した地震(震源地の位置と地震のマグニチュード)における光ファイバの断線情報に基づいて光ファイバG1の断線判定式(例えば、y=x/250+4・・・(1))が算出されている。この断線判定式(1)と気象庁から入手された緊急地震速報(震源地の位置と地震のマグニチュード)とを対比することにより光ファイバG1の断線が生じるか否かの判定を行っているので、迅速かつ的確な判定を得ることができ、適切な断線回避動作を行い光ファイバG2の製造の機会損失期間を減少させることができる。
【0062】
なお、上記実施形態において、気象庁等から配信される緊急地震速報を受信する回数は複数回であっても良い。地震が発生した場合、各地の観測点で観測された地震情報が気象庁に送信される。気象庁は送信されてきた各観測点の地震情報に基づいて緊急地震速報を作成し、第1緊急地震速報、第2緊急地震速報のように複数の速報を数秒〜数十秒間隔で逐次更新する場合がある。これらの速報は、後に配信された速報ほど精度が高く真値に近い。そこで、製造装置1の情報受信部28は、逐次更新される緊急地震速報を受信し、断線回避に間に合う時間内(上記した例では振動の到達が予測される時刻の約27秒前まで)に受信された緊急地震速報の中の最も後に配信された緊急地震速報に基づいて光ファイバG1の断線が生じるか否かを判定する。これにより、精度が高い緊急地震速報に基づいて光ファイバG1の断線が生じるか否かを判定することができるので、より的確な判定を行うことができ、光ファイバG2の製造の機会損失期間を減少させることができる。
【0063】
また、上記実施形態では線引き装置を例に説明をしたが、本発明は線引き装置以外の設備への適用も可能である。例えば、ガラス微粒子堆積体を製造するための装置(スス付け装置)やガラス微粒子堆積体を焼結してガラス母材を製造するための装置において、振動予測情報から製造中のガラス微粒子堆積体やガラス母材に異常が起こるか否かを判定し、異常を回避する動作を取るようにしても良い。