特許第6394066号(P6394066)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6394066
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】回転体の製造方法、感光体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/18 20060101AFI20180913BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20180913BHJP
   G03G 5/05 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   B05D1/18
   B05D7/00 K
   G03G5/05 102
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-106320(P2014-106320)
(22)【出願日】2014年5月22日
(65)【公開番号】特開2015-221402(P2015-221402A)
(43)【公開日】2015年12月10日
【審査請求日】2017年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士ゼロックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 寛晃
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 博
【審査官】 横島 隆裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−060183(JP,A)
【文献】 特開平10−039523(JP,A)
【文献】 特開2002−082454(JP,A)
【文献】 特開平02−210447(JP,A)
【文献】 特開2000−221708(JP,A)
【文献】 特開平07−175229(JP,A)
【文献】 特開昭62−254871(JP,A)
【文献】 特開昭59−080364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00−7/26
G03G 5/00−5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状又は円柱状の基体を下降させて塗液に浸漬し、該下降を該基体の上部が該塗液から露出する状態で停止する第1工程と、
該第1工程の停止位置で該基体を予め定められた時間保持する第2工程と、
該第2工程の後、該基体をさらに下降させる第3工程と、
該第3工程の後、該基体を該塗液から引き上げる第4工程と、
を有する
円筒状又は円柱状の回転体の製造方法。
【請求項2】
前記第3工程で下降される位置まで途中で停止せずに前記基体を下降させた後に該基体を引き上げて、前記基体の上部で前記塗液の自重によって液だれが生じる範囲を予め測定し、
前記第1工程は、該範囲内に前記塗液の液面が位置するように、前記下降を停止する
請求項1に記載の、円筒状又は円柱状の回転体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2の製造方法によって前記基体の外周に感光層が形成される感光体ドラムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体の製造方法、感光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、感光体ドラムの基体に塗液(感光層)を塗工する塗工方法が開示されている。この塗工方法では、塗工槽に浸漬させた基体を、その基体の塗工域上部が液面上の空気に所定時間露出するように、一旦引き上げてから再浸漬させ、その後、基体の全体を塗工槽から引き上げる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−82454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、基体に浸漬塗布された塗液の自重によって基体の上部で生じる液だれを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、円筒状又は円柱状の基体を下降させて塗液に浸漬し、該下降を該基体の上部が該塗液から露出する状態で停止する第1工程と、該第1工程の停止位置で該基体を予め定められた時間保持する第2工程と、該第2工程の後、該基体をさらに下降させる第3工程と、該第3工程の後、該基体を該塗液から引き上げる第4工程と、を有する。
【0006】
請求項2の発明では、前記第3工程で下降される位置まで途中で停止せずに前記基体を下降させた後に該基体を引き上げて、前記基体の上部で前記塗液の自重によって液だれが生じる範囲を予め測定し、前記第1工程は、該範囲内に前記塗液の液面が位置するように、前記下降を停止する。
【0007】
請求項3の発明は、請求項1又は2の製造方法によって前記基体の外周に感光層が形成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の請求項1の製造方法によれば、第3工程で下降される位置まで途中で停止せずに基体を下降させた後に該基体を引き上げる比較例に比べ、基体に浸漬塗布された塗液の自重によって基体の上部で生じる液だれを抑制できる。
【0009】
本発明の請求項2の製造方法によれば、本製造方法における範囲の範囲外に塗液の液面が位置するように、基体の下降を停止する比較例に比べ、基体に浸漬塗布された塗液の自重によって基体の上部で生じる液だれを抑制できる。
【0010】
本発明の請求項3の製造方法によれば、第3工程で下降される位置まで途中で停止せずに基体を下降させた後に該基体を引き上げる比較例に比べ、基体の軸方向端部における感光層の薄膜化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係る浸漬塗布装置の構成を示す概略図である。
図2】本実施形態に係る感光体の構成を示す概略図である。
図3】本実施形態に係る製造方法を示す概略図である。
図4】本実施形態に係る製造方法を示す概略図である。
図5】本実施形態に係る製造方法において、粘度が上昇した塗液の動作を示す概略図である。
図6】本実施形態及び比較例に係る製造方法における液だれを示す概略図である。
図7】実施例及び比較例の評価結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明に係る実施形態の一例を図面に基づき説明する。
【0013】
(浸漬塗布装置10)
まず、後述の製造方法に用いられる浸漬塗布装置10について説明する。図1は、浸漬塗布装置の構成を示す概略図である。
【0014】
浸漬塗布装置10は、図1に示されるように、基体32が浸漬される塗液L(塗布液)が収容された塗液槽12と、塗液Lが貯留された貯留部14と、貯留部14の塗液Lを塗液槽12に供給する供給ポンプ16と、塗液槽12の上部から溢れ出た塗液Lを受ける受け部18と、基体32が塗液槽12の塗液Lに浸漬されるように基体32を昇降させる昇降装置20と、を備えている。
【0015】
この浸漬塗布装置10では、塗液Lが、供給ポンプ16により、塗液槽12の下部の供給口12Aを通じて、貯留部14から塗液槽12に供給されるようになっている。さらに、塗液槽12の開放された上部から溢れ出た塗液Lを受け部18が受け、受け部18が受けた塗液Lが貯留部14に戻るようになっている。このように、塗液Lが循環するようになっている。
【0016】
さらに、浸漬塗布装置10では、昇降装置20の支持部22で基体32の上部(軸方向端部)を支持し、昇降装置20の昇降運動により、基体32が、塗液槽12の塗液Lに対して浸漬されると共に塗液Lから引き上げられて、塗液Lが基体32の外周に塗布されるようになっている。
【0017】
(感光体の構成及びその構成材料)
次に、後述の製造方法の製造対象である感光体(回転体の一例)の構成及びその構成材料について説明する。図2は、感光体の構成を示す概略図である。
【0018】
感光体30は、帯電、露光、現像、転写、定着などの工程を経て画像を形成する電子写真式の画像形成装置(レーザプリンタ等)に用いられる感光体(感光体ドラム)である。感光体30は、具体的には、図2に示されるように、円筒状の基体32と、感光層50と、を有している。感光層50は、下引層34と、電荷発生層36と、電荷輸送層38と、表面層40(オーバーコート層)と、を有して構成されている。下引層34、電荷発生層36、電荷輸送層38及び表面層40は、この順で、基体32の外周面に積層されている。以下、各部(各層)の構成材料について説明する。
【0019】
(基体32)
基体32としては、例えば、導電性を有する材料が用いられる。基体32としては、具体的には、例えば、アルミニウム、銅、ステンレス、クロム、ニッケル等の金属材料が挙げられる。なお、「導電性」とは、例えば、体積抵抗率が1013Ωcm未満であることをいう。
【0020】
(下引層34)
下引層34は、例えば、結着樹脂に無機粒子を含有した層として構成される。なお、下引層34には、公知の添加剤が含まれていてもよい。
【0021】
無機粒子としては、酸化錫、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム等の無機粒子(導電性金属酸化物)が挙げられる。
【0022】
結着樹脂としては、例えばポリビニルブチラール等のアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、カゼイン、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、ゼラチン、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン−アルキッド樹脂、フェノール樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂等の公知の高分子樹脂化合物、また電荷輸送性基を有する電荷輸送性樹脂やポリアニリン等の導電性樹脂等が挙げられる。
【0023】
下引層34の膜厚は、例えば、15μm以上50μm以下に設定される。
【0024】
(電荷発生層36)
電荷発生層36は、例えば、結着樹脂に電荷発生材料を含有する層として構成される。なお、電荷発生層36には、公知の添加剤が含まれていてもよい。
【0025】
電荷発生材料としては、ビスアゾ、トリスアゾ等のアゾ顔料、ジブロモアントアントロン等の縮環芳香族顔料、ペリレン顔料、ピロロピロール顔料、フタロシアニン顔料、酸化亜鉛、三方晶系セレン等が挙げられる。
【0026】
結着樹脂としては、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリビニルアントラセン、ポリビニルピレン、ポリシラン等の有機光導電性ポリマーから選択してもよい。望ましい結着樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂、ポリアリレート樹脂(ビスフェノール類と芳香族2価カルボン酸の重縮合体等)、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルピリジン樹脂、セルロース樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、カゼイン、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂等が挙げられる。
【0027】
電荷発生層36の膜厚は、例えば、0.1μm以上5.0μm以下に設定される。
【0028】
(電荷輸送層38)
電荷輸送層38は、例えば、結着樹脂に電荷輸送材料を含有する層として構成される。なお、電荷輸送層38には、公知の添加剤が含まれていてもよい。
【0029】
電荷輸送材料としては、公知のものが挙げられ、例えば、2,5−ビス(p−ジエチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール等のオキサジアゾール誘導体、1,3,5−トリフェニル−ピラゾリン、1−[ピリジル−(2)]−3−(p−ジエチルアミノスチリル)−5−(p−ジエチルアミノスチリル)ピラゾリン等のピラゾリン誘導体、トリフェニルアミン、トリス[4−(4,4−ジフェニル−1,3−ブタジエニル)フェニル]アミン、N,N′−ビス(3,4−ジメチルフェニル)ビフェニル−4−アミン、トリ(p−メチルフェニル)アミニル−4−アミン、ジベンジルアニリン等の芳香族第3級アミノ化合物、N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−N,N′−ジフェニルベンジジン等の芳香族第3級ジアミノ化合物、3−(4′−ジメチルアミノフェニル)−5,6−ジ−(4′−メトキシフェニル)−1,2,4−トリアジン等の1,2,4−トリアジン誘導体、4−ジエチルアミノベンズアルデヒド−1,1−ジフェニルヒドラゾン等のヒドラゾン誘導体、2−フェニル−4−スチリル−キナゾリン等のキナゾリン誘導体、6−ヒドロキシ−2,3−ジ(p−メトキシフェニル)ベンゾフラン等のベンゾフラン誘導体、p−(2,2−ジフェニルビニル)−N,N−ジフェニルアニリン等のα−スチルベン誘導体、エナミン誘導体、N−エチルカルバゾール等のカルバゾール誘導体、ポリ−N−ビニルカルバゾール及びその誘導体などの正孔輸送物質、クロラニル、ブロモアントラキノン等のキノン系化合物、テトラシアノキノジメタン系化合物、2,4,7−トリニトロフルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン等のフルオレノン化合物、キサントン系化合物、チオフェン化合物等の電子輸送物質が挙げられる。
【0030】
結着樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂(例えば、ビスフェノールA若しくはビスフェノールZタイプ等のポリカーボネート樹脂)、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリスルホン樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体樹脂、塩化ビニリデン−アクリルニトリル共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸樹脂、シリコーン樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリアミド樹脂、塩素ゴム等の絶縁性樹脂、及びポリビニルカルバゾール、ポリビニルアントラセン、ポリビニルピレン等の有機光導電性ポリマー等が挙げられる。
【0031】
電荷輸送層38の膜厚は、例えば、5μm以上50μm以下に設定される。
【0032】
(表面層40)
表面層40は、例えば、結着樹脂及びフッ素系粒子を含んで構成されている。耐摩耗性の観点から、結着樹脂として硬化性の樹脂が用いられ、トナーの転写性向上の観点から、フッ素系粒子が配合されている。なお、表面層40には、公知の添加剤が含まれていてもよい。
【0033】
結着樹脂としては、例えば、架橋性の電荷輸送材料が架橋した架橋物が挙げられる。
【0034】
フッ素系粒子を構成する材料としては、フッ素原子を含有する樹脂であれば特に限定されるものではないが、例えば、4フッ化エチレン樹脂(PTFE)、3フッ化塩化エチレン樹脂、6フッ化プロピレン樹脂、フッ化ビニル樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、2フッ化2塩化エチレン樹脂、及びそれらの共重合体の中から選ばれる1種又は2種以上から構成される。
【0035】
(感光体の製造方法)
次に、感光体(回転体の一例)の製造方法について説明する。感光体の製造方法は、下引層形成工程、電荷発生層形成工程、電荷輸送層形成工程、表面層形成工程を有している。
【0036】
(下引層形成工程)
下引層形成工程では、基体32の外周に下引層34を形成する。具体的には、例えば、下引層34の前述の構成材料を溶媒(分散媒)に加えた塗液を基体32に塗布して、当該塗液による塗膜を乾燥させることで、基体32に下引層34を形成する。
【0037】
塗液を基体32に塗布する方法としては、例えば、浸漬塗布法、突き上げ塗布法、ワイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、ブレード塗布法、ナイフ塗布法、カーテン塗布法等の公知の方法が用いられる。
【0038】
また、塗液を調製するための溶媒(分散媒)としては、公知の有機溶剤、例えばアルコール系、芳香族系、ハロゲン化炭化水素系、ケトン系、ケトンアルコール系、エーテル系、エステル系等から選択される。溶媒としては、具体的には、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチレンクロライド、クロロホルム、クロルベンゼン、トルエン等の有機溶剤が用いられる。また、これらの溶剤は、単独または2種以上混合して用いてもよい。
【0039】
また、液中に下引層34の構成材料を分散させる場合の方法としては、例えば、ボールミル、振動ボールミル、アトライター、サンドミル、横型サンドミル等のメディア分散機や、攪拌、超音波分散機、ロールミル、高圧ホモジナイザー等のメディアレス分散機を用いた公知の分散方法が挙げられる。
【0040】
(電荷発生層形成工程)
電荷発生層形成工程では、基体32に形成された下引層34の表面上に電荷発生層36を形成する。具体的には、例えば、電荷発生層36の前述の構成材料を溶媒(分散媒)に加えた塗液を、基体32に形成された下引層34の表面上に塗布して、当該塗液による塗膜を乾燥させることで、下引層34の表面上に電荷発生層36を形成する。
【0041】
塗液を下引層34の表面上に塗布する方法としては、下引層34を形成する場合と同様に、公知の塗布方法が用いられる。塗液を調製するための溶媒(分散媒)としては、下引層34を形成するための塗液と同様に、例えば、公知の有機溶剤が用いられる。液中に電荷発生層36の構成材料を分散させる場合の方法としては、下引層34を形成するための塗液の場合と同様に、公知の分散方法が挙げられる。
【0042】
(電荷輸送層形成工程)
電荷輸送層形成工程では、図1に示す浸漬塗布装置10を用いた浸漬塗布方法により、下引層34(図2参照)及び電荷発生層36(図2参照)が形成された基体32の外周に、電荷輸送層38(図2参照)の前述の構成材料を溶媒(分散媒)に加えた塗液(塗布液)を塗布し、電荷輸送層38を形成する。
【0043】
なお、塗液を調製するための溶媒(分散媒)としては、下引層34を形成するための塗液と同様に、例えば、公知の有機溶剤が用いられる。液中に電荷輸送層38の構成材料を分散させる場合の方法としては、下引層34を形成するための塗液の場合と同様に、公知の分散方法が挙げられる。
【0044】
電荷輸送層形成工程は、具体的には、停止工程(第1工程の一例)、保持工程(第2工程の一例)、下降工程(第3工程の一例)及び引上工程(第4工程の一例)を有している。なお、少なくとも、保持工程において、浸漬塗布装置10の供給ポンプ16が停止し、貯留部14から塗液槽12への塗液Lの供給が停止している。
【0045】
停止工程では、図3(A)に示されるように、下引層34及び電荷発生層36が形成された基体32を下降させて、該基体32を塗液Lに浸漬する。具体的には、基体32の上部を浸漬塗布装置10の支持部22で支持し、その基体32を、昇降装置20(図1参照)により、塗液Lが収容された塗液槽12の中へ下降させる。そして、図3(B)に示されるように、基体32の上部が塗液Lから露出する状態で、基体32の下降を停止する。
【0046】
保持工程では、停止工程における停止位置(図3(B)に示す位置)で、該基体32を予め定められた規定時間保持する。このとき、基体32は、図中の二点鎖線Aで示される第1浸漬位置(浸漬部分)まで浸漬されている。
【0047】
この第1浸漬位置は、例えば、以下のように設定される。すなわち、下降途中で停止することなく(停止位置(図3(B)に示す位置)での停止を行わずに)、下降工程における後述の最下位置(図4(A)に示す位置)に基体32を下降させた後に基体32を引き上げる第1比較例の場合(図6(A)参照)において、基体32の上部で塗液Lの自重によって液だれが生じる範囲(図6(A)のDの範囲)を予め測定し、その範囲内に、第1浸漬位置を設定する。すなわち、当該範囲内に塗液Lの液面(上面)が位置するように、停止工程において、基体32の下降を停止するようになっている。
【0048】
第1比較例における液だれは、塗液Lによる塗膜の上端から特定の範囲で生じるものであり、基体32の軸方向中央部における膜厚よりも、膜厚が薄くなった範囲を、液だれが生じた範囲とする。なお、例えば、渦電流膜厚測定装置にて、基体32の90°毎の周方向の4か所で測定した測定値の平均値を、膜厚とする。
【0049】
当該範囲(図6(A)のDの範囲)の上下長さは、基体32の上下方向長さが300〜350mmである場合において、例えば、20mmとされる。なお、塗液Lの粘度によって液だれの程度は変化するため、当該範囲(図6(A)のDの範囲)の上下長さは、塗液Lの粘度によって、変化しうる。
【0050】
また、保持工程において、基体32を規定時間保持するのは、塗液Lの液面(気液界面)における溶媒の蒸発によって塗液Lの粘度を、塗液Lの液面(気液界面)で局所的に上昇させるためであり、前記規定時間は、例えば、2秒以上20秒以下の範囲で設定される。
【0051】
規定時間の下限は、保持工程において塗液Lの溶媒が蒸発して、要求される液だれの抑制効果を発揮するのに必要な粘度に上昇するのに必要な時間によって設定される。塗液Lの粘度がほとんど上昇していない状態では、自重による液だれが生じてしまうためである。
【0052】
一方、規定時間の上限は、基体32が塗液Lから引き上げられた際に(引上工程)、溶媒の蒸発による気泡の塗液Lからの排出が確保できる粘度となるように設定される。塗液Lの粘度が上昇すれば、気泡の移動が制限されると共に、塗液Lが流れにくく厚膜化されるため、塗液Lの粘度が高すぎると、気泡の塗液Lからの排出が阻害される。
【0053】
なお、塗液Lの溶媒の沸点(揮発性)によって、経過時間当たりの粘度の上昇度は変化するため、規定時間は、塗液Lの溶媒の沸点(揮発性)によって変化しうるが、溶媒として公知の有機溶剤を用いた塗液Lでは、2秒以上20秒以下の範囲であれば、要求される液だれの抑制効果を発揮すると共に、気泡の排出が確保できる粘度に上昇する。
【0054】
保持工程の後に、下降工程が実施される。下降工程では、図4(A)に示されるように、基体32における保持工程で露出していた上部の一部が、塗液Lに浸漬するまで基体32を下降させる。これにより、基体32は、図中の二点鎖線Bで示される第2浸漬位置まで浸漬される。基体32の第2浸漬位置まで浸漬されたとき、基体32が電荷輸送層形成工程において最も下方の位置(最下位置)に位置する。
【0055】
下降工程の後に、引上工程が実施される。引上工程では、図4(B)に示されるように、下降工程で塗液Lに浸漬された基体32を塗液Lから引き上げる。これにより、電荷発生層36上に塗液Lが塗布される。
【0056】
そして、塗液槽12から引き上げた基体32の下端部分に付着した塗液Lを拭き取り、塗液Lによる塗膜を乾燥(溶媒を蒸発により除去)させることで、電荷輸送層38を形成する。
【0057】
(表面層形成工程)
表面層形成工程では、基体32に形成された電荷輸送層38の表面上に表面層40を形成する。具体的には、例えば、表面層40の前述の構成材料を溶媒(分散媒)に加えた塗液を、基体32に形成された電荷輸送層38の表面上に塗布して、当該塗液による塗膜を乾燥させることで、電荷輸送層38の表面上に表面層40を形成する。
【0058】
塗液を電荷輸送層38の表面上に塗布する方法としては、下引層34を形成する場合と同様に、公知の塗布方法が用いられる。表面層40を形成するための塗液を調製するための溶媒(分散媒)としては、下引層34を形成するための塗液と同様に、例えば、公知の有機溶剤が用いられる。液中に表面層40の構成材料を分散させる場合の方法としては、下引層34を形成するための塗液の場合と同様に、公知の分散方法が挙げられる。
【0059】
以上のように、前述の下引層形成工程、電荷発生層形成工程、電荷輸送層形成工程、表面層形成工程を経て、電子写真式の画像形成装置に用いられる感光体(回転体の一例)が製造される。
【0060】
(本実施形態に係る作用)
本実施形態の製造方法における電荷輸送層形成工程では、図3(B)に示されるように、基体32の第1浸漬位置(二点鎖線Aの位置)まで浸漬するように、基体32の下降を停止し、この停止位置で該基体32を予め定められた規定時間保持する。このように、基体32が停止位置(図3(B)に示す位置)に規定時間とどまることで、塗液Lの流れ(溢れ出る動作)が滞り、図5(A)に示されるように、当該塗液Lの液面(気液界面)において、塗液Lの溶媒が蒸発して、塗液Lの粘度が上昇する。基体32の周囲で粘度が上昇した塗液LAが、基体32の第1浸漬位置(二点鎖線Aの位置)に付着する。なお、図5(A)(B)(C)において、粘度が上昇した塗液を符号LAにて示している。
【0061】
一方、下降工程における最下位置(図4(A)に示す位置)まで途中で停止せずに基体32を下降させた後に基体32を引き上げる第1比較例では、塗液Lの液面(気液界面)において、塗液Lが流動した状態が維持されるので、塗液Lの粘度が局所的に上昇しない。従って、粘度が上昇した塗液LAの基体32への付着も生じない。このため、図6(A)に示されるように、基体32の上部において、符号Dの範囲で、塗液Lの重力による液だれが生じる。
【0062】
このため、形成される電荷輸送層の膜厚が、基体32の軸方向一端部において、軸方向中央部よりも薄くなり、電荷輸送層の膜厚が基体32の軸方向でばらつくことになる。電荷輸送層の膜厚が基体32の軸方向でばらつくと、帯電ムラが生じて画像の濃度ムラが発生すると共に、感光層の摩耗による寿命が電荷輸送層の膜厚の薄い部分に応じた寿命となることで、感光体の寿命が短くなる。
【0063】
従って、電荷輸送層の膜厚が薄い部分については、画像エリアとして使用できず、基体32において、画像エリアとして使用できる範囲Rが狭くなる。よって、要求される画像エリアを確保するためには、基体32を長くする必要がある。
【0064】
また、下降工程における最下位置(図4(A)に示す位置)まで途中で停止せずに基体32を下降させて、予め定められた時間保持した後に、基体32を引き上げる第2比較例では、粘度が上昇した塗液が、基体32の第2浸漬位置(二点鎖線Bの位置)に付着する。このため、図6(B)に示されるように、基体32の第2浸漬位置(二点鎖線Bの位置)、すなわち、基体32に塗布された塗液Lの上端において、塗液Lが下方に流れにくくなり、塗液Lの重力による液だれが抑制される。しかしながら、基体32の上端よりも下側では、塗液Lの重力による液だれが生じる。従って、第1比較例と同様に、画像エリアとして使用できる範囲Rが狭くなり、要求される画像エリアを確保するためには、基体32を長くする必要がある。
【0065】
これに対して、本実施形態では、図5(A)に示されるように、粘度が上昇した塗液LAが基体32の第1浸漬位置(二点鎖線Aの位置)に付着し、付着した塗液LAが、下降工程(図5(B)参照)及び引上工程(図5(C)参照)において、基体32の昇降動作に追従する。
【0066】
そして、基体32を引き上げた際に(引上工程)、基体32の第1浸漬位置(二点鎖線Aの位置)において、基体32に塗布された塗液L、LAが下方に流れにくくなる。このため、図6(C)に示されるように、基体32の上部において、基体32に塗布された塗液Lの上端よりも下側で生じる液だれが抑制される。
【0067】
このため、塗液Lによる塗膜が基体32の上部で厚膜化し、膜厚のバラつきに起因する画像の濃度ムラや、感光層の摩耗による感光体の短寿命等の前述の問題が解消され、画像領域として使用できる範囲Rが拡大される。これにより、要求される長さの画像領域を得るのに必要な基体32の軸方向長さを縮められ、感光体の製造費を抑えられる。
【0068】
なお、基体32の第1浸漬位置の上方においては、塗液Lの粘度が上昇していないため、液だれが生じるものの、粘度が上昇した塗液LAが、基体32の第1浸漬位置で、粘度が上昇していない塗液Lを支持することになり、塗液Lの液だれが抑制される。また、図6(C)では、第1比較例(図6(A)参照)において生じる液だれを二点鎖線DAにて示している。
【0069】
特に、本実施形態では、保持工程において、第1比較例の場合に基体32の上部で塗液の自重によって液だれが生じる範囲内(図6(A)のDの範囲)に、塗液Lの液面が位置するように、基体32の下降を停止する。このため、第1比較例及び第2比較例において液だれを生じる範囲Dで、塗膜が厚膜化される。このため、画像領域として使用できる領域Rが、より効果的に拡大される。
【0070】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0071】
[実施例1]
−電荷輸送層の形成−
4フッ化エチレン樹脂粒子8質量部(平均粒径:0.2μm)と、フッ化アルキル基含有メタクリルコポリマー(重量平均分子量30000)0.01質量部とを、テトラヒドロフラン4質量部、トルエン1質量部とともに20℃の液温に保ち、48時間攪拌混合し、4フッ化エチレン樹脂粒子懸濁液Aを得た。
【0072】
次に、電荷輸送物質として、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−[1,1’]ビフェニル−4,4’−ジアミン4質量部と、ビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂(粘度平均分子量:40,000)6質量部、酸化防止剤として2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール0.1質量部を混合して、テトラヒドロフラン24質量部及びトルエン11質量部を混合溶解して、混合溶解液Bを得た。
【0073】
このB液に前記A液を加えて攪拌混合した後、微細な流路を持つ貫通式チャンバーを装着した高圧ホモジナイザー(吉田機械興行株式会社製)を用いて、500kgf/cm2まで昇圧しての分散処理を6回繰り返した液に、フッ素変性シリコーンオイル(商品名:FL−100 信越化学工業社製)を5ppm添加し、十分に撹拌して電荷輸送層形成用塗液を得た。
【0074】
この塗液を温度24℃、粘度440mPa・sに調整し、外径30mm、長さ340mmのアルミパイプ基体上に、前述の電荷輸送層形成工程に基づき塗布を行った。基体を下降中、最下位置より6mm浅い停止位置にて5秒停止後、最下位置まで浸漬し、引上げ速度170mm/minにて中心部の膜厚30.0μmになるように引き上げ、塗膜を乾燥させて、実施例1の電荷輸送層を作成した。
【0075】
[実施例2]
実施例1に記載の停止時間を2秒とした以外は、同様の条件で電荷輸送層を作成した。
【0076】
[実施例3]
実施例1に記載の停止時間を10秒とした以外は、同様の条件で電荷輸送層を作成した。
【0077】
[実施例4]
実施例1に記載の停止時間を15秒とした以外は、同様の条件で電荷輸送層を作成した。
【0078】
[実施例5]
実施例1に記載の停止時間を20秒とした以外は、同様の条件で電荷輸送層を作成した。
【0079】
[実施例6]
実施例1に記載の塗液をテトラヒドロフランの代わりに、1,4-ジオキサン(沸点が、テトラヒドロフランより高い)を用いた以外は、同様の条件で塗液を得た。その後、実施例1に記載の同様の条件で電荷輸送層を作成した。
【0080】
[実施例7]
実施例1に記載の塗液をテトラヒドロフランの代わりに、1,4-ジオキサンを用いた以外は、同様の条件で塗液を得た。実施例1に記載の停止時間を20秒とした以外は同様の条件で電荷輸送層を作成した。
【0081】
[比較例1]
実施例1に記載の最下位置まで途中で停止せずに基体を下降させた後に基体を引き上げて、電荷輸送層を作成した。他の条件は、実施例1と同様である。
【0082】
(評価)
実施例1〜7及び比較例1で作成した電荷輸送層の膜厚を、渦電流膜厚測定装置(自社製)にて、電荷輸送層の上端(上端側の塗布開始位置)より50mm以上310mm以下の間を20mm間隔に、90°毎の周方向の4か所で測定し、その平均値を平均膜厚A(μm)とした。
【0083】
電荷輸送層の上端より10mmにおいて、90°毎の周方向の4か所で測定し、その平均値を膜厚B(μm)とし、A−Bの値を、基体の上部だれ量とした。
【0084】
また、作成された電荷輸送層に気泡による塗膜不良があるか否かを目視にて確認した。図7に示される評価結果では、塗膜不良がなかった場合を「○」とし、気泡が確認されたが画質に影響がない程度である場合を「△」とした。
【0085】
さらに、実施例1から6及び比較例1で作成された電荷輸送層を有する感光体ドラムを、電子写真式の画像形成装置に組み込んで、画質評価を行った。画質評価では、単色のハーフトーン画像を用紙に出力し、当該ハーフトーン画像上の濃度ムラを目視することにより評価した。図7に示される評価結果では、ハーフトーン画像に濃度ムラが見られない場合を「○」とし、ハーフトーン画像に濃度ムラが少し見られるが画質に問題ない場合を「△」とし、ハーフトーン画像に濃度ムラが見られ画質に問題ある場合を「×」とした。
【0086】
この結果、図7に示されるように、実施例1〜7において、比較例1に比べ、上部液だれ量が低減された。また、画質濃度ムラも、実施例1〜7において、比較例1よりも良好となった。なお、実施例5では、気泡による塗膜不良が確認されたものの、画質濃度ムラには影響がなかった。
【0087】
(変形例)
前述の下降工程では、停止工程及び保持工程において基体32における露出していた上部の一部が、塗液に浸漬するまで該基体を下降させていたが、これに限られず、基体32における保持工程で露出していた上部の全部が、塗液に浸漬するまで該基体を下降させてもよい。
【0088】
また、製造される回転体としては、感光体(感光体ドラム)に限られず、例えば、定着ロール等のロール状の部材であってもよい。
【0089】
また、塗液Lに浸漬される基体32の形状としては、円筒状に限られず、例えば、円柱状に形成されていてもよい。
【0090】
また、本実施形態では、電荷輸送層形成工程において、停止工程、保持工程、下降工程及び引上工程を含む浸漬塗布方法により、電荷輸送層38を形成していたが、これに限られない。例えば、下引層34、電荷発生層36及び表面層40を形成する場合に、当該浸漬塗布方法を用いて、浸漬塗布を行う構成であってもよい。
【0091】
また、前述の停止工程では、第1比較例の場合(図6(A)参照)において、基体32の上部で塗液Lの自重によって液だれが生じる範囲内(図6(A)のDの範囲)に塗液Lの液面が位置するように、基体32の下降を停止していたがこれに限られない。例えば、図6(A)のDの範囲の下側(当該範囲の若干下側)で停止してもよく、基体32の上部が露出する状態で停止すればよい。
【0092】
本発明は、上記の実施形態に限るものではなく、その主旨を逸脱しない範囲内において種々の変形、変更、改良が可能である。例えば、上記に示した変形例は、適宜、複数を組み合わせて構成しても良い。
【符号の説明】
【0093】
30 感光体(回転体の一例)
32 基体
50 感光層
L 塗液
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7