(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のグラフト共重合体の製造方法について説明する。本製造方法は、側鎖に二重結合を有する重合体(D)の主鎖を単量体(B)でグラフト化して得られるグラフト共重合体の製造方法に関するものであり、チオカルボニルチオ化合物(A)の存在下で単量体(B)を重合する重合工程を含む。
【0011】
<側鎖に二重結合を有する重合体(D)>
側鎖に二重結合を有する重合体(D)(以下、単に「重合体(D)」とも称する。)としては、加硫可能なゴムを使用することが好ましい。その具体例としては、例えば天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリル−クロロプレンゴム、アクリロニトリル−イソプレンゴム、スチレン−クロロプレンゴム、スチレン−イソプレンゴム等のジエン系ゴム;エチレン−プロピレンゴム、エチレン−ブテンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)等のエチレン−α−オレフィン系共重合ゴムなどが挙げられる。重合体(D)としては、これらのうち、ブタジエンに由来する構造単位を有する重合体を好ましく使用することができる。なお、重合体(D)は、一種を単独で又は複数種を組み合わせて使用することができる。
【0012】
重合体(D)は、合成品を使用してもよいし市販品を使用してもよい。市販品としては、ブタジエン系重合体として例えばJSR社製RB810などを;スチレン−ブタジエン系共重合体として例えばJSR社製TR2000などを、それぞれ挙げることができるが、これらに限定されるものではない。重合体(D)を合成する場合、その合成方法は特に限定せず、従来公知の有機化学の定法に従って得ることができる。
【0013】
重合体(D)としては、高1,2−ビニル構造を持った共重合体を好ましく使用することができ、中でも、ブタジエンに由来する構造単位を有する、高1,2−ビニルポリブタジエンエラストマー(BR)を好ましく使用することができる。重合体(D)の1,2−ビニル含量は、少なすぎるとグラフト鎖の導入量が少なくなって所望の特性を得にくくなる。こうした観点から、重合体(D)の1,2−ビニル含量は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、25質量%以上であることが更に好ましい。なお、ビニル含量は
1H−NMRによって測定した値である。
【0014】
重合体(D)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、最終生成物であるグラフト共重合体の用途等に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは1.0×10
3〜2.0×10
6であり、より好ましくは1.0×10
3〜1.0×10
5である。
【0015】
<単量体(B)>
単量体(B)は、ラジカル重合性不飽和結合を有する化合物であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。重合に使用する単量体(B)は極性基を有していてもよい。単量体(B)が有していてもよい極性基としては、例えば水酸基、炭素数1〜10のアルコキシ基、カルボニルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、シアノ基、アミド基、イミド基、オルガノシロキシ基、オルガノシリル基、アルコキシシリル基、アミノ基、アシル基、スルホニル基、カルボキシル基等が挙げられる。
【0016】
単量体(B)の具体例としては、例えば、エチレン、プロピレン、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、スチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン等の非極性モノマー;
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸−イソブチル、(メタ)アクリル酸−t−ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2−フェニルエチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、イソボルニル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸−N,N−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸−N,N−ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸オクトキシポリエチレングリコール、α−メトキシアクリル酸メチル、α−エトキシアクリル酸メチル、3−メトキシアクリル酸エステル、クロトン酸メチル、クロトン酸エチル、フマル酸ジアルキル、イタコン酸等のα,β−不飽和カルボン酸エステル化合物;
【0017】
N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−t−ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド等などのα,β−不飽和カルボン酸アミド化合物;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、メチルイソプロペニルケトン、エチルイソプロペニルケトン等のα,β−不飽和カルボニル化合物;酢酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のカルボン酸ビニル化合物;無水マレイン酸、無水イタコン酸、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド等の環式ビニル化合物;N−ビニルピロリドン、ビニルカルバゾール、ビニルイミダゾール等のN−ビニル化合物;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の炭素−炭素二重結合を2つ以上有する化合物;(メタ)アクリロニトリル等を挙げることができる。なお、単量体(B)は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。本明細書中の(メタ)アクリルは、アクリル及びメタクリルであることを示す。
【0018】
<ラジカル発生剤(C)>
本発明において、単量体(B)の重合は単に加熱するだけでも可能であるが、生産性の観点からラジカル発生剤(C)の存在下で重合することが好ましい。ラジカル発生剤(C)は、従来公知のラジカル重合において一般に用いられるラジカル重合開始剤から適宜選択することができる。具体的には、例えば過酸化物、アゾ化合物、レドックス系開始剤等の加熱によりラジカルを発生する化合物や、放射線の照射によりラジカルを発生する化合物を挙げることができる。
【0019】
加熱によりラジカルを発生する化合物の具体例としては、過酸化物として、例えばt−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ペルオキシ酢酸t−ブチル、ペルオキシ安息香酸t−ブチル、ペルオキシオクタン酸t−ブチル、ペルオキシネオデカン酸t−ブチル、ペルオキシイソ酪酸t−ブチル、過酸化ラウロイル、ペルオキシピバル酸t−アミル、ペルオキシピバル酸t−ブチル、過酸化ジクミル、過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等を;
アゾ化合物として、例えばアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−ブタンニトリル)、4,4’−アゾビス(4−ペンタン酸)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2−(t−ブチルアゾ)−2−シアノプロパン、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(1,1)−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド、2,2’−アゾビス(2−メチル−N−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド、2,2’−アゾビス(N,N’−ジメチレンイソブチルアミジン)ジクロリド、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジクロリド、2,2’−アゾビス(N,N−ジメチレンイソブチルアミド)、2,2’−アゾビス(2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル]プロピオンアミド)、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(イソブチルアミド)二水和物等を;
【0020】
レドックス系開始剤として、例えば加硫酸塩と酸性亜硫酸ナトリウムと硫酸第一鉄との組み合わせ物、t−ブチルハイドロパーオキサイドと酸性亜硫酸ナトリウムと硫酸第一鉄との組み合わせ物、p−メンタンハイドロパーオキサイドと硫酸第一鉄とエチレンジアミン四酢酸ナトリウムとナトリウムホルムアルデヒドサルホキシレートとの組み合わせ物等を;それぞれ挙げることができる。加熱によりラジカルを発生する化合物としては、酸素などによる副反応物が生成されにくい点でアゾ化合物が好ましく、アゾビスイソブチロニトリルが特に好ましい。
【0021】
放射線の照射によりラジカルを発生する化合物の具体例としては、例えばアセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1,4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシド、オリゴ(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−(4−(1−メチルビニル)フェニル)プロパノン)等が挙げられる。なお、ラジカル発生剤(C)は、これらのうちの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
<チオカルボニルチオ化合物(A)>
チオカルボニルチオ化合物(A)としては、RAFT重合において用いられる連鎖移動剤(RAFT剤)から適宜選択して使用することができる。チオカルボニルチオ化合物(A)としては、例えば、ビス(チオカルボニル)ジスルフィド化合物(下記式(s−1)で表される化合物)、ジチオエステル化合物(下記式(s−2)で表される化合物)、トリチオカルボナート化合物(下記式(s−3)で表される化合物)、ジチオカルバマート化合物(下記式(s−4)で表される化合物)、キサンタート化合物(下記式(s−5)で表される化合物)等を挙げることができる。
【化1】
(式(s−1)〜式(s−5)中、Z
1〜Z
11はそれぞれ独立に1価の有機基である。)
【0023】
上記式(s−1)〜式(s−5)中のZ
1〜Z
11における1価の有機基は、例えば炭素数1〜30のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルチオ基、ヘテロシクリル基、−NR
1R
2、−NR
1−NR
2R
3、−COOR
1、−OCOR
1、−CONR
1R
2、−P(=O)(OR
1)
2又は−O−P(=O)R
1R
2(ただし、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立にアルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基である。)等を挙げることができ、炭素原子に結合する水素原子の1個以上がシアノ基、カルボキシル基等で置換されていてもよい。
上記式(s−2)中のZ
4及び上記式(s−4)中のZ
8は、フェニル基等の芳香族基であることが好ましく、上記式(s−3)中のZ
6、上記式(s−4)中のZ
9及び上記式(s−5)中のZ
11はアルキル基であることが好ましい。
【0024】
チオカルボニルチオ化合物(A)の具体例としては、ビス(チオカルボニル)ジスルフィド化合物として、例えばテトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、ビス(n−オクチルメルカプト−チオカルボニル)ジスルフィド、ビス(n−ドデシルメルカプト−チオカルボニル)ジスルフィド、ビス(ベンジルメルカプト−チオカルボニル)ジスルフィド、ビス(n−ブチルメルカプト−チオカルボニル)ジスルフィド、ビス(t−ブチルメルカプト−チオカルボニル)ジスルフィド、ビス(n−ヘプチルメルカプト−チオカルボニル)ジスルフィド、ビス(n−ヘキシルメルカプト−チオカルボニル)ジスルフィド、ビス(n−ペンチルメルカプト−チオカルボニル)ジスルフィド、ビス(n−ノニルメルカプト−チオカルボニル)ジスルフィド、ビス(n−デシルメルカプト−チオカルボニル)ジスルフィド、ビス(t−ドデシルメルカプト−チオカルボニル)ジスルフィド、ビス(n−テトラデシルメルカプト−チオカルボニル)ジスルフィド、ビス(n−ヘキサデシルメルカプト−チオカルボニル)ジスルフィド、ビス(n−オクタデシルメルカプト−チオカルボニル)ジスルフィド等を;
【0025】
ジチオエステル化合物として、例えば2−フェニル−2−プロピルベンゾチオエート、4−シアノ−4−(フェニルチオカルボニルチオ)ペンタン酸、2−シアノ−2−プロピルベンゾジチオエート等を;
トリチオカルボナート化合物として、例えばS−(2−シアノ−2−プロピル)−S−ドデシルトリチオカーボネート、4−シアノ−4−[(ドデシルスルファニル−チオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸、シアノメチルドデシルトリチオ−カルボナート、2−(ドデシルチオカルボノチオールチオ)−2−メチルプロピオン酸等を;
ジチオカルバマート化合物として、例えばシアノメチルメチル(フェニル)カルバモジチオエート、シアノメチルジフェニルカルバモ−ジチオエート等を;
キサンタート化合物として、例えばキサントゲン酸エステル等を;それぞれ挙げることができる。
【0026】
チオカルボニルチオ化合物(A)は、グラフト反応に使用する単量体(B)の種類に応じて上記の中から適宜選択して使用することができる。例えば、単量体(B)として(メタ)アクリル系モノマーを用いる場合には、ビス(チオカルボニル)ジスルフィド化合物、ジチオベンゾアート化合物及びトリチオカルボナート化合物よりなる群から選ばれる少なくとも一種を好ましく使用することができ、ビス(チオカルボニル)ジスルフィド化合物及びトリチオカルボナート化合物よりなる群から選ばれる少なくとも一種をより好ましく使用することができる。また、単量体(B)として酢酸ビニルやN−ビニルピロリドン等の比較的低活性なモノマーを用いる場合には、ジチオカルバマート化合物及びキサンタート化合物の一種以上を好ましく使用することができる。なお、チオカルボニルチオ化合物(A)は上記のうちの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0027】
本発明のグラフト共重合体は、チオカルボニルチオ化合物(A)の存在下で単量体(B)を重合する工程を含む方法によって製造される。本製造方法の具体的な態様としては、例えば下記の方法[1]及び方法[2]が挙げられる。
[1]チオカルボニルチオ化合物(A)及び側鎖に二重結合を有する重合体(D)の存在下で単量体(B)を重合することによりグラフト共重合体を製造する方法。
[2]チオカルボニルチオ化合物(A)の存在下で単量体(B)を重合し、次いで、該重合により得られた重合生成物と、側鎖に二重結合を有する重合体(D)とをラジカル発生剤の存在下で反応させることによりグラフト共重合体を製造する方法。
【0028】
<方法[1]について>
方法[1]では、重合体(D)上の二重結合(例えば1,2−ビニル結合)と単量体(B)を重合して枝ポリマーを成長させることによって、目的とするグラフト共重合体を合成する。方法[1]における単量体(B)の使用割合は、グラフト鎖の導入量やグラフト鎖部分の分子量に応じて適宜設定すればよいが、重合体(D)100質量部に対して、好ましくは1〜1,000質量部であり、より好ましくは10〜500質量部である。
上記重合におけるチオカルボニルチオ化合物(A)の使用割合は、単量体(B)の合計100質量部に対して、好ましくは0.05〜20質量部であり、より好ましくは0.1〜10質量部である。また、単量体(B)の重合をラジカル発生剤(C)の存在下で行う場合、ラジカル発生剤(C)の使用割合は、単量体(B)の合計100質量部に対して、好ましくは0.01〜20質量部であり、より好ましくは0.1〜10質量部である。
【0029】
方法[1]は溶液重合により行うことができる。重合形式は、回分式及び連続式のいずれを用いてもよい。使用する溶媒(E)は、反応に不活性な有機溶媒であって、かつ重合体(D)を溶解可能(好ましくは常温で溶解可能)であればよく、例えば脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素などの炭化水素系溶媒を好ましく使用することができる。それらの具体例としては、脂肪族炭化水素として、例えばn−へキサン、n−ヘプタン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、1−ペンチン、2−ペンチン等を;脂環式炭化水素として、例えばシクロペンタン、シクロへキサン、メチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキセン等を;芳香族炭化水素として、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等を;それぞれ挙げることができる。これらの溶媒のうち、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素又はそれらの混合物が好ましく、トルエンがより好ましい。なお、溶媒(E)は、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
溶液重合の場合の溶媒(E)の使用割合は、重合体(D)の溶媒に対する溶解度等に応じて適宜設定すればよいが、反応効率の観点から、重合体(D)の100質量部に対して、30〜1,000質量部とすることが好ましく、50〜800質量部とすることがより好ましい。
【0030】
なお、反応に使用する重合体(D)、単量体(B)、ラジカル発生剤(C)及びチオカルボニルチオ化合物(A)及び溶媒(E)は、重合反応に供する前にそれぞれ単独に又はこれらの二種以上の混合物を、不純物ヒドロキノン等の重合阻害剤をアルミナを用いて予め処理しておくことが好ましい。この処理により、不純物による重合停止反応を好適に抑制可能となり、反応に使用するモノマーの高い重合転化率を達成可能になる。
【0031】
重合温度は、ラジカル重合が進行可能な温度であれば特に制限されるものではないが、生産性の観点から0℃以上とすることが好ましく、0℃〜140℃の範囲とすることがより好ましく、20〜100℃の範囲とすることがさらに好ましく、50〜90℃の範囲とすることが特に好ましい。なお、重合温度は、上記重合反応が発熱反応であることを考慮して設定することが好ましい。重合温度は、ラジカル発生剤(C)、単量体(B)及び溶媒(E)のフィード速度及び温度を調整し、反応器外部からの冷却や加熱を行うことにより制御することができる。重合反応は、モノマーを実質的に液相に保つのに十分な圧力の下で行うことが好ましい。上記重合の反応時間は、好ましくは30分〜20時間であり、より好ましくは1〜10時間である。
【0032】
こうして本発明のグラフト共重合体を含有する重合体溶液が得られる。この重合体溶液から重合体を単離する方法としては従来公知の方法を採用することができる。具体的には、例えばスチームストリッピング等で溶媒を分離した後、重合体を濾別し、さらに脱水及び乾燥して重合体を取得する方法;フラッシングタンクで濃縮し、さらにベント押し出し機等で脱揮する方法;ドラムドライヤー等で直接脱揮する方法;等を適用できる。
【0033】
<方法[2]について>
方法[2]では、先ずチオカルボニルチオ化合物(A)の存在下で単量体(B)を重合して枝ポリマーを合成し、得られた枝ポリマー末端基(チオカルボニルチオ基)をラジカル発生剤で再活性化させることにより重合体(D)上の反応点(1,2−ビニル結合等)と反応させる2段階の反応によって、目的とするグラフト共重合体を合成する。
【0034】
単量体(B)を重合する重合工程において、チオカルボニルチオ化合物(A)の使用割合は、単量体(B)の合計100質量部に対して、好ましくは0.1〜100質量部であり、より好ましくは5〜50質量部である。単量体(B)の重合をラジカル発生剤(C)の存在下で行う場合、ラジカル発生剤(C)の使用割合は、チオカルボニルチオ化合物(A)100質量部に対して、好ましくは1〜1,000質量部、より好ましくは10〜100質量部である。
【0035】
単量体(B)の重合は溶液重合により行うことが好ましい。また、重合形式は回分式及び連続式のいずれを用いてもよい。溶液重合で使用する溶媒(E)の種類及び使用割合は上記方法[1]の説明を適用できる。単量体(B)の重合は、グラフト率を調整しやすい点や次の工程での反応性を高める点で重合体(D)の非存在下で行うことが好ましい。
単量体(B)の重合温度は、ラジカル重合が進行可能な温度であればよく、好ましい範囲は上記方法[1]の重合温度の説明を適用することができる。重合時間は、好ましくは30分〜15時間、より好ましくは1〜8時間である。
【0036】
こうして、単量体(B)に由来する構造単位を有する重合体を含む溶液が得られる。この重合体溶液はそのまま次の工程に供してもよく、重合体溶液中に含まれる重合体を単離したうえで次の工程に供してもよく、又は単離した重合体を精製したうえで次の工程に供してもよい。重合体溶液から重合体を単離する方法については上記方法[1]での説明を適用することができる。
【0037】
次いで、上記重合により得られた重合生成物(枝ポリマー)と重合体(D)とを、ラジカル発生剤の存在下で反応させる(グラフト化工程)。本工程で使用するラジカル発生剤の具体例としては、単量体(B)の重合に際して使用してもよいラジカル発生剤(C)として例示の化合物が挙げられる。なお、本工程で使用するラジカル発生剤は、単量体(B)の重合に使用する化合物と同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0038】
上記重合生成物と重合体(D)との反応は、好ましくは有機溶媒中で実施される。生産性の観点からすると、上記重合工程で得られた重合体溶液をそのまま用い、この反応溶液中に重合体(D)及び追加のラジカル発生剤を添加することが好ましい。その場合、重合体(D)100質量部に対する単量体(B)の合計の使用割合が、好ましくは5〜300質量部、より好ましくは10〜150質量部となるように、上記重合工程における単量体(B)の使用割合及び本工程における重合体(D)の使用割合を設定することが望ましい。追加のラジカル発生剤の使用割合は、チオカルボニルチオ化合物(A)100質量部に対して、好ましくは1〜1,000質量部であり、より好ましくは10〜100質量部である。
【0039】
上記重合生成物と重合体(D)との反応温度は、生産性の観点から0℃以上とすることが好ましく、0℃〜140℃の範囲とすることがより好ましく、20〜100℃の範囲とすることがさらに好ましく、50〜90℃の範囲とすることが特に好ましい。反応時間は、好ましくは30分〜15時間であり、より好ましくは1〜8時間である。
こうして本発明のグラフト共重合体を含有する重合体溶液が得られる。この重合体溶液から重合体を単離する方法については上記方法[1]での説明を適用することができる。なお、上記[2]の方法では、チオカルボニルチオ化合物(A)を用いた重合を行うことで重合系にラジカル連鎖移動基が存在するために、重合体(D)のgraft-to法でゲル化が進行しないものと推測される。
【0040】
本発明の製造方法(上記方法[1]及び方法[2]を含む。)により製造されたグラフト共重合体は、グラフト率が例えば0.5〜50質量%であり、好ましくは1〜40質量%であり、より好ましくは2〜30質量%である。このグラフト率は、グラフト共重合体1分子中におけるグラフト鎖(枝ポリマー)の占める質量割合(%)である。なお、グラフト率は
1H−NMRによって測定した値である。
上記製造方法によれば、ゲル含有量が1質量%以下、好ましくは0.8質量%以下、より好ましくは0.7質量%以下のグラフト共重合体を得ることができる。なお、ゲル含有量は、乾燥後の重合体を重合溶媒に投入・還流した後に金網でろ過し、この金網を乾燥させたときの金網の質量増加分を計量することにより求めた値である。
【0041】
本発明のグラフト共重合体のグラフト鎖部分における、GPCによるポリスチレン換算の質量平均分子量(Mw)は、好ましくは0.1×10
5〜2.0×10
6であり、より好ましくは0.3×10
5〜1.5×10
6であり、更に好ましくは0.5×10
5〜1.0×10
6である。また、本発明のグラフト重合体における重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、1.0〜10.0であることが好ましく、1.0〜8.0であることがより好ましい。
【0042】
<重合体組成物及び粘着剤>
本発明の重合体組成物は、重合体成分として、本発明の製造方法により得られたグラフト共重合体を含む。本発明のグラフト共重合体及び重合体組成物は種々の用途に使用することができ、例えば粘着剤、分散剤、相溶化剤、履物用素材、各種自動車部品、工業用品、アスファルト組成物等に適用することができ、中でも粘着剤に好ましく適用することができる。
【0043】
本発明の粘着剤は、上記製造方法により得られるグラフト共重合体の1種以上と、必要に応じて添加されるその他の任意成分とを含むものである。その他の任意成分としては、例えば粘着付与剤、ポリオレフィン樹脂、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、光安定剤、熱重合禁止剤、消泡剤、レベリング剤、帯電防止剤、界面活性剤、保存安定剤、フィラー等が挙げられる。これらの任意成分は、一般に粘着剤に使用される種類及び量で適宜用いることができる。粘着剤中の任意成分(例えば粘着付与剤等)の配合割合は、好ましくは0〜30質量%であり、より好ましくは0〜20質量%である。
【0044】
本発明の粘着剤を基材上に塗布して粘着剤層を形成することにより、基材層と粘着剤層とを備える粘着体を製造することができる。基材としては、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド等が挙げられる。本発明の粘着剤を用いて得られた粘着体は、例えば粘着テープ、粘着シート、粘着フィルム等に適用することができ、工業用、建築用、医療用等の各種分野で用いることができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定
されるものではない。なお、実施例及び比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。重合体の各種物性値の測定方法は以下のとおりである。
【0046】
[質量平均分子量Mw及び数平均分子量Mn]
以下の条件で、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(商品名「HLC−8120GPC」、東ソー社製)を使用して得られたGPC曲線の最大ピークの頂点に相当する保持時間からポリスチレン換算で求めた。
カラム:商品名「GMHXL」(東ソー社製)2本
カラム温度:40℃
移動相;テトラヒドロフラン
流速;1.0ml/分
サンプル濃度;10mg/20ml
[グラフト重合体1分子中の枝ポリマーの割合(グラフト率)]
グラフト率[質量%]は
1H−NMRを用いて測定した。測定装置には400MHz-NMR(Bruker社製、AVANCEIII、AV400N)を用い、測定溶媒にはCDCl
3を用いた。
[ゲル含有量]
ゲル含有量[質量%]は、乾燥後の重合体1gを、重合で使用したのと同じ溶媒100mlに投入し、2時間還流した後、あらかじめ秤量した80メッシュステンレス金網でろ過し、この金網を100℃で1時間真空乾燥させ、質量増加分を計量することにより求めた。なお、重合体溶液をろ過した後、20mlの溶媒で1回洗浄した。
【0047】
[実施例1:重合体(P−1)の合成]
500mlの耐圧瓶を窒素置換し、これに、チオカルボニルチオ化合物(A)(制御剤)としてテトラメチルチウラムジスルフィド1.3質量部、重合溶媒(E)としてトルエン35.2質量部、単量体(B)としてメタクリル酸メチル35.0質量部、ラジカル発生剤(C)としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)のトルエン溶液(200mM)を11.7質量部、側鎖に二重結合を有する重合体(D)としてブタジエン系重合体(JSR社製RB810)を16.9質量部 をそれぞれ仕込み、重合用組成物を得た。
【0048】
次いで、上記重合用組成物が収容された耐圧瓶を、オイルバスを用いて80℃で7時間加熱し、グラフト重合を行い、重合体溶液を得た。重合体溶液をアセトンに再沈殿することにより不純物を除去したのち、真空乾燥機を用いて60℃で15時間乾燥させ、重合体(P−1)を得た。
なお、重合途中に、重合体を含む反応混合物を適宜抜き取り、この混合物に含まれる揮発分を除去し、固形分濃度を求めてモノマーの重合転化率(%)を算出したところ、61%であった。また、得られた重合体(P−1)のグラフト鎖部分の重量平均分子量Mw、及び重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比(Mw/Mn)を測定したところ、Mw=722,900、Mw/Mn=5.15であった。グラフト率は12.9質量%であった。また、重合体(P−1)はゲル化していなかった。なお、「ゲル化」とは系が流動性を失った状態をいい、ここでは目視にて確認した。さらに、得られた重合体(P−1)のゲル含有量を測定したところ、0.4質量%であった。
【0049】
[実施例2〜7:重合体(P−2)〜重合体(P−7)の合成]
使用するチオカルボニルチオ化合物(A)、単量体(B)、ラジカル発生剤(C)、重合体(D)及び重合溶媒(E)の種類及び量、並びに重合条件を下記表1の通り変更した以外は、実施例1と同様にグラフト重合を行ってそれぞれ重合体(P−2)〜重合体(P−7)を得た。得られた重合体の物性を下記表1に併せて示した。
【0050】
【表1】
【0051】
表1中、チオカルボニルチオ化合物(A)、単量体(B)、重合体(D)及び重合溶媒(E)の数値は、重合体組成物中の配合割合(質量部)を示す。また、化合物の略称は以下の通りである。
<チオカルボニルチオ化合物(A)>
A−1−1;テトラメチルチウラムジスルフィド
A−1−2;S−(2−シアノ−2−プロピル)−S−ドデシルトリチオカーボネート(200mMトルエン溶液)
<単量体(B)>
B−1−1;メタクリル酸メチル
B−1−2;メタクリル酸2−ヒドロキシエチル
B−1−3;メタクリル酸グリシジル
B−1−4;メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル
B−1−5;アクリル酸2−メトキシエチル
<ラジカル発生剤(C)>
AIBN;アゾビスイソブチロニトリル(200mMトルエン溶液)
<側鎖に二重結合を有する重合体(D)>
RB810;JSR(株)製のブタジエン系重合体、商品名「RB810」
TR2000;JSR(株)製のスチレン−ブタジエン共重合体、商品名「TR2000」
【0052】
[実施例8:重合体(P−8)の合成]
500mlの耐圧瓶を窒素置換し、これに、チオカルボニルチオ化合物(A)としてS-(2-シアノ-2-プロピル)-S-ドデシルトリチオカーボネートのトルエン溶液(200mM)2.5質量部、重合溶媒(E)としてトルエン71質量部、ビニル系単量体(B)としてメタクリル酸メチル10.8質量部、ラジカル発生剤(C)としてアゾビスイソブチロニトリルのトルエン溶液(200mM)を0.6質量部、をそれぞれ仕込み、80℃で2時間重合反応を行った。重合開始から2時間経過後、側鎖に二重結合を有する重合体(D)としてブタジエン系重合体(JSR社製RB810)を8.0質量部、及び追加ラジカル発生剤(C’)としてアゾビスイソブチロニトリルのトルエン溶液(200mM)を6.0質量部、を反応系に追加し、80℃で7時間反応を行い、重合体(P−8)を得た。得られた重合体(P−8)の物性の測定結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
[比較例1:重合体(R−1)の合成]
チオカルボニルチオ化合物(A)を使用しなかった点、使用する単量体(B)、ラジカル発生剤(C)、重合体(D)及び重合溶媒(E)の種類及び量を上記表1の通りとした点、並びに重合条件を上記表1の通りとした点以外は、実施例1と同様の操作を行って重合体(R−1)を得た。得られた重合体の物性を上記表1に併せて示した。
【0055】
表1に示すように、チオカルボニルチオ化合物(A)の存在下で単量体(B)の重合を行った実施例1〜8では、ゲル化せず安定性の高いグラフト共重合体が得られた。これに対し、チオカルボニルチオ化合物(A)を使用せずに重合を行った比較例1では、生成物はゲル化しており、THFやトルエン等の溶剤に不溶であった。