(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、X線検査装置は医療分野において、患者等における内部疾患の有無等を検査するために利用される他、産業分野において、各種製品等における内部欠陥の有無等を非破壊条件の下で検査するために利用される。(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような従来のX線検査装置100は
図8(a)および
図8(b)に示すように、コーンビーム状のX線を照射するX線管101に対向してX線検出器103が配置されている。そしてX線管101とX線検出器103の間には、被検体Mを載置するステージ105が配置されている。X線検出器103の一例としては、フラットパネル型検出器(FPD:Flat Panel Detector)等の二次元検出器が用いられる。
【0004】
X線検出器103は、X線管101から被検体Mに照射されて透過したX線101aを検出して電気信号に変換し、X線検出信号として出力する。X線検出器103の後段には画像生成部107が設けられており、画像生成部107はX線検出器103から出力されるX線検出信号に基づいてX線画像を生成する。なお、X線101aの中心軸101bと一致する水平方向をx方向とし、x方向と直交する水平方向をy方向とする。
【0005】
またステージ105はz方向(鉛直方向)の軸周りに回転可能となっている。すなわち被検体Mを載置させたステージ105を回転させた状態でX線管101からX線を照射することにより、被検体Mに対して異なる角度から撮影したX線画像が複数枚生成される。そして画像生成部107の後段に設けられる再構成部109が、画像生成部107によって生成されたX線画像を再構成することにより、被検体MについてのX線断層画像を取得することができる。
【0006】
このような被検体回転型のX線検査装置100では、ステージ105を回転させることによってX線断層画像を取得できる。そのためX線管101およびX線検出器103を被検体Mの周りに回転させる機構が不要となるので、X線検査装置100の大型化や製造コストの上昇を回避することができる。
【0007】
しかしながら、X線管には以下のような問題点が指摘される。すなわちX線管において、陽極となるターゲットに、陰極となる電子銃から電子ビームを照射してX線を発生させ、電子ビームの有するエネルギーのうち、ごく一部がX線へ変換され、残りの大部分は熱エネルギーに変化する。その結果、熱エネルギーによるターゲットの熱膨張、電子銃の変形、またはX線管筐体の変形などの要因により、X線の照射量や照射時間に応じて、X線が発生する焦点の位置が徐々にずれることが知られている。
【0008】
X線焦点の位置が徐々にずれる結果、生成されるX線画像の各々について、映し出されるX線像の位置はそれぞれ異なる。従って、これらのX線画像を用いてX線断層画像を再構成する場合、それぞれのX線画像に映るX線像の位置がズレているため、再構成されるX線断層画像にアーティファクトが発生することとなる。そのため、X線断層画像を用いる診断が困難となるという問題が懸念される。
【0009】
そこで従来のX線検査装置では、
図8(a)および
図8(b)に示すように、X線管101とX線検出器103の間にエッジブロック111が設けられる場合がある(例えば、特許文献1、2参照)。エッジブロック111はステージ105またはステージ105の近傍に設置され、ステージ105に載置される被検体Mと同様に、エッジブロック111もX線の照射を受ける。そのため
図9(a)に示すように、画像生成部107が生成するX線画像Pにおいて、被検体Mの投影像とエッジブロック111の投影像が映し出される。
【0010】
図9(b)に示すようにX線焦点がA1で示す位置からA2で示す位置へ移動する場合、X線検出器103に投影されるエッジブロック111の位置はB1からB2へ移動する。その結果、X線画像Pにおけるエッジブロック111の投影像の位置が変化する。すなわち、X線画像Pにおけるエッジブロック111の投影像の位置に基づいて、X線焦点の位置の変動を検出することができる。そしてエッジブロック111の投影像が移動する距離に基づいてX線画像を補正することにより、X線断層画像におけるアーティファクトの発生を回避できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、このような構成を有する従来のX線検査装置では、被検体のX線像を拡大させる場合、X線焦点の位置の変動を検出することが困難となるという問題が懸念される。
【0013】
特に産業分野で用いられるX線検査装置では、被検体内部についてより詳細な情報を得るために被検体のX線像を拡大させてX線画像を撮影する場合が多い。すなわち被検体Mを載置するステージ105とX線管101との距離を小さくする、またはX線管101とX線検出器103との距離を大きくすることによって、X線画像に映し出される被検体MのX線像を拡大させる。
【0014】
このように被検体MのX線像を拡大させる場合において、エッジブロック111がX線管101から照射されるX線の範囲から外れることがある。一例として、エッジブロック111が設けられたステージ105とX線管101との距離を小さくする場合について説明する。この場合、
図10(a)および
図10(b)に示すように、ステージ105およびエッジブロック111は、破線で示される位置から実線で示される位置までx方向に移動する。
【0015】
X線管101から照射されるX線101aの範囲は、X線管101に近づくにつれて狭くなる。従って、エッジブロック111がx方向に移動し、X線管101に近づくと、
図10(a)に示すようにエッジブロック111はX線101aの範囲から外れることとなる。その結果、X線検出器103にエッジブロック111の像が投影されないので、X線焦点の位置が移動したか否かを判別できなくなる。またステージ105の位置を固定した状態で、X線管101とX線検出器103との距離を大きくする場合においても同様の問題が発生する。
【0016】
また、エッジブロック111がX線管101から照射されるX線101aの範囲内にある場合であっても、ステージ105をX線管101に近づけることによって、X線画像Pに映し出されるエッジブロック111のX線像が拡大するとともに、X線焦点の移動距離に対してエッジブロック111のX線像の移動する距離も大きくなる。その結果、X線焦点の移動によって、エッジブロック111のX線像は、X線焦点の移動距離が微小なものであっても容易にX線画像Pの範囲外に移動するので、X線焦点の正確な移動距離を検出することが困難となる。
【0017】
このように従来のX線検査装置では、X線画像に映る被検体のX線像を拡大させることに伴い、エッジブロック111のX線像に基づいてX線焦点の移動を検出することが困難となる。その結果、それぞれのX線画像において、X線焦点の移動に起因するX線像のズレを補正できないので、再構成によって取得されるX線断層画像の品質が低下するという問題が生じる。
【0018】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、X線焦点の移動に起因するX線像の移動を正確に検出することにより、X線像をより正確に映し出すX線断層画像の取得を可能とするX線検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、本発明に係るX線検査装置は、被検体にX線を照射するX線源と、前記被検体を透過したX線を検出するX線検出部と、前記X線検出部が出力する検出信号を用いてX線画像を生成する画像生成部と、前記画像生成部が生成する複数の前記X線画像を再構成させてX線断層画像を取得する断層画像再構成部と、
前記X線源と前記被検体との間に設けられ、X線を遮蔽する遮蔽部を備え、前記X線源から照射されるX線の照射野であるX線照射野を制御するコリメータと、前記X線画像の拡大率に基づいて前記遮蔽部の開閉移動を制御することにより、前記X線照射野を定めるコリメータ制御部と、
前記コリメータ制御部により定められる前記X線照射野の当該撮影時における位置を、前記コリメータ制御部により定められる前記X線照射野
の当初位置と比較して、前記X線画像の
当該撮影時における
前記当初位置に対する前記X線照射野の移動方向および移動距離を検出する照射野検出部と、前記照射野検出部が検出した前記照射野の移動方向および移動距離に基づいて前記X線画像を補正する画像補正部とを備えるものである。
【0020】
好ましくは、X線検査装置は、前記X線源、前記遮蔽部、および前記X線検出部の各々の位置情報を随時検出することにより、前記X線源から前記遮蔽部までの距離、および前記X線源から前記X線検出部までの距離を検出する位置検出部と、前記位置検出部が検出する前記X線源から前記遮蔽部までの距離、および前記X線源から前記X線検出部までの距離に基づいて前記X線画像の拡大率を算出する拡大率算出部とをさらに備える。
【0021】
[作用・効果]本発明に係るX線検査装置によれば、照射野検出部は、
コリメータ制御部により定められるX線照射野の当該撮影時における位置を、コリメータ制御部により定められるX線照射野
の当初位置と比較して、X線画像の
当該撮影時における
当初位置に対するX線照射野の移動方向および移動距離を検出する。そして画像補正部は、X線画像の撮影時におけるX線照射野の移動方向および移動距離に基づいてX線画像を補正する。すなわち画像補正部によって、X線画像においてX線焦点の移動に起因するX線像の位置のズレは補正される。そのため、全てのX線画像について、被検体のX線像は同じ焦点位置から照射されたX線像として映し出される。その結果、一連のX線画像を再構成して得られるX線断層画像において被検体のX線像にブレが発生することを回避できるので、より高品質のX線断層画像を取得することができる。
【0022】
また本発明に係るX線検査装置では、エッジブロックのX線像ではなく、X線照射野の位置に基づいて、X線焦点の移動に起因する被検体Mの位置のズレを検出する。そのため、被検体のX線像を拡大させる場合であっても、X線焦点の移動を確実に検出できるので、X線焦点の移動に起因するX線画像のズレを確実に補正できる。さらに、エッジブロックを例とするハード上の構成を新たに設ける必要がないので、X線検査装置の製造工程の複雑化を防止できる。その結果、X線焦点の移動に起因するX線断層画像のブレを回避できるX線検査装置を、より低いコストで実現することが可能となる。
【0023】
また、上述した発明において、前記画像補正部は、前記照射野の移動方向および移動距離に基づいて前記X線画像の画像データにおけるX線像の位置を補正することによって前記X線画像を補正することが好ましい。
【0024】
[作用・効果]本発明に係るX線検査装置によれば、画像補正部は、照射野の移動方向および移動距離に基づいてX線画像の画像データにおけるX線像の位置を補正する。この場合、各々のX線画像を全て生成してX線の照射を停止させた状態で、X線画像データの各々に対して補正を行うことができる。その結果、X線の照射時間を短縮できるので、被検体の被曝量をより低減することが可能となる。
【0025】
また、上述した発明において、前記X線検出部の位置を移動させる検出器移動部、または前記X線源の位置を移動させるX線源移動部をさらに備え、前記画像補正部は、前記照射野の移動方向および移動距離に基づいて前記検出器移動部または前記X線源移動部を制御することによって前記X線画像を補正することも可能である。
【0026】
[作用・効果]本発明に係るX線検査装置によれば、X線検出部の位置を移動させる検出器移動部、またはX線源の位置を移動させるX線源移動部を備え、画像補正部は照射野の移動方向および移動距離に基づいて、検出器移動部またはX線源移動部を制御することによってX線画像を補正する。すなわち照射野の移動方向および移動距離に基づいてX線検出部またはX線源を移動させることによって、X線画像の各々を補正する。
【0027】
この場合、X線検出部またはX線源の移動によって、X線検出部におけるX線照射野の位置はX線画像の各々について全て同じとなる。そのため、画像補正部によって、X線画像においてX線焦点の移動に起因するX線像の位置のズレは補正される。その結果、一連のX線画像を再構成して得られるX線断層画像において被検体のX線像にブレが発生することを回避できるので、より高品質のX線断層画像を取得することができる。
【発明の効果】
【0028】
X線焦点の移動に起因するX線像の移動を正確に検出することにより、X線像をより正確に映し出すX線断層画像の取得を可能とするX線検出装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照してこの発明の実施例を説明する。
【0031】
<全体構成の説明>
実施例に係るX線検査装置1は
図1(a)および
図1(b)に示すように、被検体Mを載置させる載置ステージ3と、被検体Mに対してX線を照射するX線管5と、被検体Mに照射されて透過したX線を検出するX線検出器7とを備えている。載置ステージ3はz方向(鉛直方向)に平行な軸Gの軸周りに回転可能に構成される。また載置ステージ3はx方向、すなわちX線管5のX線焦点5aから照射されたX線5bの中心軸5cの通る水平方向に移動可能となるように構成される。X線管5とX線検出器7は、載置ステージ3を挟んで対向配置されている。
【0032】
X線検出器7は、X線を検出する検出面7aを備えている。検出面7aにはX線を検出するX線検出素子が二次元マトリクス状に配列されている。X線管5のX線焦点5aから照射されたX線5bは被検体Mを透過する。X線検出器7は検出面7aに入射するX線5bを電気信号に変換し、X線検出信号として出力する。実施例では、X線検出器7としてフラットパネル型検出器(FPD)を用いることとする。X線管5は本発明におけるX線源に相当し、X線検出器7は本発明におけるX線検出部に相当する。
【0033】
X線管5にはコリメータ9が設けられており、コリメータ9は4枚の板状の遮蔽板9a〜9dを備えている。遮蔽板9aおよび遮蔽板9bは
図2(a)で示すように、X線管5のX線焦点5aから照射されるX線5bの中心軸5cを基準として、z方向へ鏡像対称に移動するように構成される。そして遮蔽板9cおよび遮蔽板9dは
図2(b)で示すように、X線5bの中心軸5cを基準としてy方向(x方向と直交する水平方向)へ鏡像対称に移動するように構成される。なお、遮蔽板9a〜9dの各々は鏡像対称に移動する構成に限られず、独立に移動する構成であってもよい。遮蔽板9a〜9dは本発明における遮蔽部に相当する。
【0034】
遮蔽板9a〜9dの各々はX線を遮蔽する材料で構成されており、その一例として鉛が挙げられる。
図2(c)で示すように、X線焦点5aから照射されたX線5bの広がりは、遮蔽板9a〜9dの各々によって角錐状に制限される。そして遮蔽板9a〜9dの各々によって形成された開口部Aを通過したX線5bが被検体Mに照射される。すなわち遮蔽板9a〜9dを開閉移動させて開口部Aを調整することによって、X線5bの照射野すなわちX線照射野Bの位置および大きさが調整される。
【0035】
図3(a)に示すように、X線検出器7の後段には画像生成部11が備えられており、画像生成部11の後段には再構成部13が備えられている。画像生成部11は、X線検出器7から出力されるX線検出信号に基づいて被検体MのX線画像を生成する。再構成部13は、画像生成部11が生成した複数枚のX線画像を再構成することによって、X線断層画像を取得する。再構成部13にはモニタ15が接続されており、モニタ15は再構成部13において再構成されたX線断層画像を表示する。再構成部13は本発明における断層画像再構成部に相当する。
【0036】
X線検査装置1はさらにX線照射制御部17と、X線管移動機構19と、ステージ回転駆動部21と、ステージ移動機構23と、検出器移動機構25と、コリメータ制御部27とを備えている。X線照射制御部17はX線管5に高電圧を出力するように構成されている。そして、X線照射制御部17が与えた高電圧出力に基づいて、X線管5が照射するX線の線量、およびX線を照射するタイミングが制御される。
【0037】
X線管移動機構19はX線管5を、x方向、y方向、およびz方向のそれぞれに移動させる。ステージ回転駆動部21は、載置ステージ3をz方向に平行な鉛直軸Gの軸周りに回転させる。ステージ移動機構23は、載置ステージ3をx方向に移動させる。検出器移動機構25はX線検出器7をx方向、y方向、およびz方向のそれぞれに移動させる。
【0038】
またX線検査装置1には位置検出部29、拡大率算出部31、照射野検出部33、および画像補正部35が付設されている。位置検出部29は、X線管5およびX線検出器7について、各々の位置情報を随時検出する。実施例において、位置検出部29はポテンショメータによって構成されているが、ポテンショメータの代わりにエンコーダなどを用いてもよい。
【0039】
拡大率算出部31は、位置検出部29が検出する、X線管5およびX線検出器7の位置情報の各々に基づいて、画像生成部11が生成するX線画像の拡大率を算出する。
図3(b)に示すように、X線管5およびX線検出器7の位置情報に基づいて、X線管5からX線検出器7までの距離D1を検出できる。
【0040】
そしてX線画像の拡大率はX線管5から遮蔽板9a〜9dまでの距離D2と、距離D1との比によって算出される。X線管5から遮蔽板9a〜9dまでの距離D2はX線検査装置1の規格上、常に一定の値である。そのため、拡大率算出部31は位置検出部29が検出する位置情報に基づいて、X線画像の拡大率を算出することができる。
【0041】
照射野検出部33はX線検出器7の後段に設けられており、X線管5から照射されるX線5bがX線検出器7に照射される範囲をX線照射野として随時検出する。画像補正部35は照射野検出部33が検出するX線照射野の変位に従って、画像生成部11が生成するX線画像を補正する。なお、X線画像を補正する機構については後述する。
【0042】
主制御部37は画像生成部11、再構成部13、X線照射制御部17、X線管移動機構19、ステージ回転駆動部21、ステージ移動機構23、検出器移動機構25、およびコリメータ制御部27を統括制御する。入力部39はキーボード入力式のパネルやタッチ入力式のパネルであり、操作者が入力部39に入力する指示に従って、主制御部37は統括制御を行う。記憶部41は画像生成部11が生成するX線画像、再構成部13が取得するX線断層画像、および拡大率算出部31が算出する拡大率などの情報を記憶する。
【0043】
<動作の説明>
次に実施例に係るX線検査装置1の動作について説明する。
図4は実施例に係るX線検査装置の動作を説明するフローチャートである。
【0044】
ステップS1(拡大率の算出)
まず、操作者は載置ステージ3に被検体Mを載置させる。そして入力部39を操作して、載置ステージ3、X線管5、およびX線検出器7を適切な位置へ移動させる指示を入力する。主制御部37は入力部39に入力された指示の内容に基づいて、X線管移動機構19、ステージ移動機構23、および検出器移動機構25のそれぞれに制御信号を出力する。
【0045】
X線管移動機構19は制御信号に従ってX線管5をx方向、y方向、およびz方向のそれぞれに適宜移動させる。ステージ移動機構23は制御信号に従って、載置ステージ3をx方向に移動させる。そして検出器移動機構25は制御信号に従ってX線検出器7をx方向、y方向、およびz方向のそれぞれに適宜移動させる。このとき、位置検出部29はX線管5およびX線検出器7の各々について位置情報を随時検出し、各々の位置情報を拡大率算出部31に送信する。
【0046】
拡大率算出部31は
図3(b)に示すように、X線管5およびX線検出器7の位置情報の各々に基づいてX線管5からX線検出器7までの距離D1を随時検出する。なお、距離D1はいわゆる焦点−受像面間距離(SID:Source Image Distance)に相当する。そして検出された距離D1の値に基づいて、拡大率算出部31はX線画像の拡大率を随時算出する。ここでX線管5から遮蔽板9a〜9dまでの距離をD2とすると、距離D1の値および距離D2の値を用いて、X線画像の拡大率Eの値は以下の(1)で示される式を用いて算出される。
E=D1/D2 …(1)
【0047】
X線管5から遮蔽板9a〜9dまでの距離は、X線検査装置1の機械的制約上、あらかじめ決まっている。そのため拡大率Eの値は定数kを用いて、以下の(2)で示される式を用いて算出される。
E=D1/k …(2)
拡大率算出部31が算出する拡大率Eの情報は記憶部41に随時送信され、記憶される。載置ステージ3、X線管5、およびX線検出器7の各々を所定の位置へ移動させ、X線画像の拡大率Eの値を算出することによって、ステップS1に係る工程は終了する。
【0048】
ステップS2(コリメータの制御)
ステップS1に係る工程の終了後、拡大率Eの値に基づいてコリメータの制御を行う。すなわち操作者は入力部37を操作してコリメータ9に設けられている遮蔽板9a〜9dの開閉を調節する指示を入力する。主制御部37は入力部39に入力された指示の内容に基づいて、コリメータ制御部27に制御信号を出力する。コリメータ制御部27は制御信号に従って遮蔽板9aおよび遮蔽板9bをz方向に移動させ、遮蔽板9cおよび遮蔽板9dをy方向へ移動させる。
【0049】
X線管5から照射されるX線ビーム5bは遮蔽板9a〜9dの各々によってその広がりが制限され、X線検出器7のうち一定の範囲に照射されることとなる。本発明では、X線5bがX線検出器7に照射される範囲について、X線照射野Bと称する。X線照射野Bの位置および大きさは、X線検出器7に設けられている検出面7aに含まれることが好ましく、特に
図2(c)に示すように、X線照射野Bと検出面7aの全面とが一致することがより好ましい。
【0050】
また、コリメータ制御部27は拡大率算出部31が算出する拡大率Eの値に基づいて遮蔽板9a〜9dの開閉移動を自動的に主制御部37の指示に基づいて制御する。ここでX線照射野Bのy方向の長さをFy、X線照射野Bのz方向の長さをFzとする。そして遮蔽板9a〜9dの開口部Aについてy方向の長さをAy、z方向の長さをAzとする。この場合、Ay=Fy/Eとなるように遮蔽部9cおよび遮蔽部9dの開閉移動が制御され、Az=Fz/Eとなるように遮蔽部9aおよび遮蔽部9bの開閉移動が制御される。遮蔽板9a〜9dの各々が所定の位置に移動することにより、ステップS2に係る工程は終了する。
【0051】
ステップS3(X線の照射)
コリメータの制御が終了した後、X線の照射を行う。すなわち、操作者は入力部39を操作して、載置ステージ3を回転させつつX線画像を生成する指示を入力する。主制御部37は入力部39に入力された指示の内容に基づいて、ステージ回転駆動部21およびX線照射制御部17に制御信号を出力する。
【0052】
ステージ回転駆動部21は制御信号に従って、載置ステージ3を鉛直軸Gの軸周りに回転させる。X線照射制御部17は出力された信号に基づいてX線管5の管電圧や管電流などを制御する。そして載置ステージ3の回転角度が所定の角度に達する度に、X線5bを被検体Mへ断続的に照射させる。X線5bは被検体Mを透過してX線検出器7の検出面7aに入射する。
【0053】
そしてX線検出器7は検出面7aに入射するX線5bを検出して電気信号に変換する。X線検出器7において変換された電気信号はX線検出信号としてX線検出器7から画像生成部11へ出力される。画像生成部11は出力されたX線検出信号に基づいてX線画像を生成する。
【0054】
このように、載置ステージ3を鉛直軸Gの軸周りに回転させる間、X線管5からX線5bが断続的に照射される。X線が照射される毎にX線画像が撮影されるので、載置ステージ3の回転角度が所定の角度に達する度に、被検体Mの関心部位に対してそれぞれ異なる方向から撮影された一連のX線画像が取得される。なお、1,2,…,n回目に照射されるX線5bに基づいて生成されるX線画像をそれぞれ、X線画像P1,P2,…Pnとする。X線画像P1,P2,…Pnの各々は画像生成部11から画像補正部35へ送信される。
【0055】
ステップS4(X線照射野の移動方向および移動距離を検出)
ここで、生成される一連のX線画像P1,P2,…Pnの全てについて、X線照射野Bの位置が常に同じであることが理想である。しかしながらX線管5において、電子ビームをX線に変換する際に発生する熱により、陽極であるターゲットが膨張し、さらに電子銃およびX線管5の筐体自体が変形する。そしてこれらの要因により、X線の照射量や照射時間に応じて、X線管5におけるX線焦点5aの位置は徐々に移動する。
【0056】
この場合、X線焦点5aの位置の移動に従って、X線照射野Bの位置が徐々に移動する。すなわち、X線画像P1,P2,…Pnの各々についてX線を照射するタイミングが異なるので、各々のX線画像についてX線照射野Bの位置はそれぞれずれている。この場合、X線照射野Bの位置がずれることによって、X線画像P1,P2,…Pnの各々に映るX線像の位置もずれることとなる。従って、X線画像P1,P2,…Pnをそのまま用いて再構成する場合、再構成によって取得されるX線断層画像にアーティファクトが発生する。
【0057】
そこで実施例に係るX線検査装置1において、照射野検出部33はX線画像P1,P2,…Pnの各々について、X線照射野Bの移動方向および移動距離を検出する。なお
図5において、X線画像Pnを例にとってX線照射野Bの移動方向および移動距離を検出する機構を説明する。
【0058】
照射野検出部33はまず、X線画像PnにおけるX線照射野Bの位置の検出を行う。X線照射野Bの位置の検出は、X線画像のデータに基づいて行われる。その一例として、検出面7aに二次元マトリクス状に配列される、画素の各々における輝度値に基づいて行われる。すなわち、X線が照射されるX線照射野Bに含まれる画素では、輝度値が比較的高い。一方、X線照射野B以外の画素では、X線が入射しないので輝度値が著しく低くなる。このように、照射野検出部33は輝度値に基づいて、X線照射野Bとそれ以外の領域との境界を画素単位の精度で検出する。
【0059】
このように照射野検出部33によって検出されるX線照射野Bの位置関係を
図5(a)に示す。この場合、X線画像Pnを生成する際におけるX線照射野Bの位置は、X線の照射量や照射時間に応じて、当初におけるX線照射野Bの位置(破線で囲まれる領域B0)から二点鎖線で囲まれる領域Bnへ移動する。
【0060】
そして照射野検出部33は次に、X線画像PnにおけるX線照射野Bnの位置と、当初におけるX線照射野B0の位置に基づいて、X線照射野Bnの移動方向および移動距離を検出する。X線照射野Bnの移動方向は、X線照射野B0とX線照射野Bnの位置関係から判断できる。
図5(a)に示す場合、X線管5から見てX線照射野BnはX線照射野B0の右上に位置するので、X線照射野Bnの移動方向は右上方向であると判断できる。
【0061】
X線照射野Bnの移動距離は、X線照射野B0とそれ以外の領域との境界線、およびX線照射野Bnとそれ以外の領域との境界線の間の距離に基づいて検出される。上述したように、X線照射野Bの位置は画素の各々における輝度値に基づいて行われるので、X線照射野Bとそれ以外の領域との境界は画素単位の高い精度で検出される。従って、
図5(a)に示すX線照射野Bnのy方向への移動距離By、およびX線照射野Bnのz方向への移動距離Bzは、いずれも画素単位の精度で検出される。
【0062】
照射野検出部33はこのようにX線照射野Bの移動方向、移動距離By、および移動距離Bzの各々の情報を検出する。照射野検出部33が検出した情報の各々は画像補正部35へ送信される。
【0063】
ステップS5(X線画像の補正)
画像補正部35は照射野検出部33から送信される情報に基づいて、画像生成部11から送信されるX線画像の補正を行う。ここで検出面7aとX線照射野B0との位置関係に基づいて予想されるX線画像P0を
図5(b)に示す。被検体Mを含むX線像CのX線画像P0における位置は、X線照射野B0の検出面7aにおける位置に対応している。
【0064】
本来、X線5bを照射するX線焦点の位置は常に同じであることが理想である。この場合、X線画像P1,P2,…Pnの画像データの各々について、X線像Cの位置はいずれも同じはずである。しかしながら実際はX線焦点5aの移動に基づいてX線照射野Bが移動している。そのため
図5(c)に示すように、X線画像PnにおけるX線像Cの位置(二点差線で示す領域Cn)は、X線画像P0におけるX線像Cの位置(破線で示す領域C0)と比べてy方向について右に距離Byずれ、さらにz方向について上に距離Bzずれることとなる。
【0065】
そこで画像補正部35はX線画像Pnの画像データに対して、X線照射野Bnの移動方向とは逆方向に移動させる補正を行う。すなわちX線画像PnのX線像Cnをy方向について左に距離By移動させ、かつz方向について下に距離Bz移動させる補正を行う。その結果、
図5(d)に示すように、X線照射野Bnの移動によってずれていたX線像Cの位置は、二点鎖線で示される位置から一点鎖線で示される位置へ補正される。
【0066】
このように、照射野検出部33が検出した、X線照射野Bの移動方向および移動距離の情報に基づいて、画像補正部35はX線画像Pnの画像データを補正する。そしてX線画像P1,P2,…Pnの各々について、ステップS4およびステップS5の操作を繰り返し行うことにより、X線画像P1,P2,…Pnの画像データの各々について、X線像Cの各々の位置が補正される。画像補正部35によって補正されたX線画像P1,P2,…Pnの画像データの各々は、画像補正部35から再構成部13へ送信される。
【0067】
ステップS6(X線断層画像の再構成)
補正されたX線画像P1,P2,…Pnの画像データが全て再構成部13へ送信されることにより、X線断層画像の再構成を行う。すなわち再構成部13は、補正された一連のX線画像P1,P2,…Pnを再構成する。X線画像を再構成させる方法としてはフィルタバックプロジェクション法やシフト加算法などが用いられる。
【0068】
X線画像P1,P2,…Pnの各々に映し出されるX線像の位置は、撮影する際におけるX線照射野の移動方向および移動距離の各々に応じて、いずれも同じ位置となるように補正されている。そのため、補正されたX線画像P1,P2,…Pnの各々を再構成することにより、被検体Mの所望の裁断位置について、アーティファクトのない高品質のX線断層画像を取得できる。モニタ15は再構成部13において取得されたX線断層画像を表示させる。X線断層画像の再構成により、X線撮影に係る一連の工程は全て終了する。
【0069】
このように、実施例に係るX線検査装置では、生成されるX線画像ごとにX線照射野の位置を検出する。そしてX線照射野の移動方向および移動距離に応じて、X線画像に映し出されるX線像の位置を補正する。X線像の位置の補正により、X線焦点の移動に起因する被検体Mの位置のズレは補正される。そのため、各々のX線画像についてX線像の位置を補正することにより、全てのX線画像について、被検体MのX線像は同じ位置に映し出される。その結果、一連のX線画像を再構成して得られるX線断層画像において被検体Mの像にブレが発生することを好適に回避できるので、より高品質のX線断層画像を取得することができる。
【0070】
そして、照射野検出部33は生成されたX線画像のデータの各々について、画素ごとの輝度値に基づいてX線照射野の位置を検出する。そのため、X線照射野とそれ以外の領域との境界を画素単位の高い精度で検出できる。従って、X線照射野の移動方向および移動距離を高精度で検出できるので、各々のX線画像のデータをより正確に補正することが可能となる。
【0071】
さらに照射野検出部33は、生成されたX線画像のデータに基づいてX線照射野の検出を行うすなわちX線を照射して各々のX線画像を全て生成した後、生成されたX線画像データに基づいてX線照射野の検出を行うことができる。すなわち各々のX線画像について、X線照射野の検出およびX線像の位置の補正をX線照射の終了後に行うことができる。そのためX線の照射時間を短縮し、被検体の被曝量をより低減することが可能となる。
【0072】
また実施例に係るX線検査装置では、X線焦点の移動に起因する被検体Mの位置のズレを検出するために、エッジブロックを例とする、ハード上の構成を新たに設ける必要がない。すなわちX線検査装置の製造工程の複雑化を防止できる。その結果、X線焦点の移動に起因するX線断層画像のブレを回避できるX線検査装置を、より低いコストで実現することが可能となる。
【0073】
本発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0074】
(1)上述した各実施例では、画像補正部35はX線画像Pの画像データの各々に対して、X線像の位置を移動させることによってX線画像Pの各々を補正する構成としているが、これに限られない。すなわち、X線照射野の移動方向および移動距離に応じてX線検出器7の位置を移動させることによって、X線画像Pの各々に映るX線像の位置を補正する構成としてもよい。
【0075】
このような変形例の場合、画像補正部35は、照射野検出部33が検出するX線照射野の移動方向および移動距離の情報を主制御部37へ送信する。主制御部37は送信される情報に基づいて、検出器移動機構25へ制御信号を出力する。検出器移動機構25は制御信号に基づいて、X線検出器7をX線照射野Bnの移動方向と同じ方向に移動させる補正を行う。
【0076】
図6(a)に示すように、X線焦点5aの移動によって、X線照射野Bnがy方向について右に距離By移動し、さらにz方向について上に距離Bz移動する場合を例にとる。この場合、検出器移動機構25はX線検出器7をy方向について右に距離By移動させ、さらにz方向について上に距離Bz移動させる。その結果、
図6(b)に示すように、X線検出器7は破線で示す位置から実線で示す位置へ移動するので、移動補正後の検出面7aにおけるX線照射野Bnの位置は、移動補正前の検出面7aにおけるX線照射野B0の位置と等しくなる。
【0077】
このようにX線画像Pの各々を生成するたびにX線検出器7の位置の補正を行うことにより、X線画像Pの各々に映るX線像Cの位置は全て同じとなる。その結果、一連のX線画像Pの再構成によって得られるX線断層画像にアーティファクトが発生することを回避できる。
【0078】
(2)上述した各実施例では、画像補正部35は、X線照射野の移動方向および移動距離の情報に基づいてX線画像の各々を補正する構成を有するがこれに限られることはない。すなわち、X線照射野の移動方向および移動距離の情報に基づいてX線焦点5aの移動方向および移動距離を算出する。そして、X線焦点5aの移動方向および移動距離に応じてX線管5を移動させることによってX線画像Pの各々を補正する構成を採用することも可能である。
【0079】
ここで、X線焦点5aの移動方向および移動距離の算出方法について
図7を用いて説明する。
図7は、変形例に係るX線検査装置1Bをy方向から観察した場合の概略図である。なお、当初におけるX線焦点5aの位置を符号A0で示す。また、X線画像Pnを生成するためにX線を照射する際に、X線焦点5aはA0で示す位置からAnで示す位置へ移動しているものとする。
【0080】
そして当初におけるX線照射野B0の上端を符号U0で示し、Anへ移動したX線焦点5aから照射されるX線によるX線照射野Bnの上端を符号Unで示す。X線照射野Bnのz方向への移動距離Bzは、
図7においてU0からUnまでの距離で表される。また、X線焦点5aのz方向への移動距離Azは、
図7においてA0からAnまでの距離で表される。
【0081】
この場合、遮蔽板9a上の点Kについて、三角形KA0Anと、三角形KU0Unは相似形である。そのため、X線照射野Bnの移動距離Bzと、X線焦点5aの移動距離Azとの関係は、X線管5からX線検出器7までの距離D1、およびX線管5から遮蔽板9a〜9dまでの距離D2を用いて、次の(5)で示される式を用いて表される。
Bz/Az=(D1−D2)/D2 …(5)
D1/D2の値は拡大率Eの値と等しいので、X線焦点5aの移動距離Azは、X線照射野Bnの移動距離Bzおよび拡大率Eを用いて、次の(6)で示される式を用いて表される。
Az=Bz/(E−1) …(6)
【0082】
このように、照射野検出部33はX線照射野Bnのz方向への移動距離Bzと、拡大率算出部31が算出する拡大率Eの値を用いて、X線焦点5aのz方向への移動距離Azを算出できる。同様に、照射野検出部33はX線照射野Bnのy方向への移動距離Byと、拡大率Eの値を用いてX線焦点5aのy方向への移動距離Ayを算出できる。
【0083】
そして
図7に示すように、X線照射野Bnの移動方向とX線焦点5aの移動方向は互いに逆向きである。例えば、X線照射野Bnがy方向について左に距離By移動し、かつz方向について下に距離Bz移動している場合、X線焦点5aはy方向について右に距離Ay移動し、かつz方向について上に距離Az移動している。
【0084】
そのため、X線管5をX線照射野Bnの移動方向と同じ方向に移動させることにより、X線焦点5aの位置はAnからA0へ補正される。具体的には、画像補正部35から主制御部37を介してX線管移動機構19へ制御信号を出力する。X線管移動機構19は制御信号に基づいて、X線管5をy方向について左に距離Ay移動させ、かつz方向について下に距離Az移動させる。その結果、X線画像Pnに映るX線像の位置が補正されるので、再構成によって取得されるX線断層画像にアーティファクトが発生することを回避できる。
【0085】
なお、このような変形例において、X線焦点5aの移動方向および移動距離に応じてX線管5を移動させることによりX線照射野Bの位置を補正する構成としているが、X線照射野Bの位置を補正する方法はこれに限られない。すなわちX線焦点5aの移動方向および移動距離に応じて、遮蔽板9a〜9dの各々を移動させることによりX線照射野Bの位置を補正する構成であってもよい。