特許第6394091号(P6394091)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6394091
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】車両用ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/17 20060101AFI20180913BHJP
【FI】
   B60T8/17 B
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-123979(P2014-123979)
(22)【出願日】2014年6月17日
(65)【公開番号】特開2016-2855(P2016-2855A)
(43)【公開日】2016年1月12日
【審査請求日】2017年5月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】特許業務法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久田 慶武
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 伸
(72)【発明者】
【氏名】村山 隆
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和晃
【審査官】 杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−147224(JP,A)
【文献】 特開2013−129363(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12 − 8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバによって操作されるブレーキ操作部材であって、初期位置から最深位置までの可動範囲で可動可能なブレーキ操作部材(11)と、
前記ブレーキ操作部材の操作量となるストロークを検出するストロークセンサ(11a)と、
前記ブレーキ操作部材のストロークに応じたマスタシリンダ圧を発生させるマスタシリンダ(13)と、
前記マスタシリンダ圧に基づいて制動力を発生させるホイールシリンダ(14、15、34、35)と、
前記マスタシリンダと前記ホイールシリンダとを接続する主管路(A、E)と、前記マスタシリンダと前記ホイールシリンダの間の差圧を制御する差圧制御弁(16、36)と、前記マスタシリンダよりブレーキ液を吸入して前記主管路における前記差圧制御弁よりも前記ホイールシリンダ側に吐出するポンプ(19、39)と、前記ポンプを駆動するモータ(60)と、を有し、前記ホイールシリンダに加えられるホイールシリンダ圧を制御するブレーキ液圧制御用アクチュエータ(50)と、
前記ブレーキ操作部材のストロークに対応して発生させるべき目標ホイールシリンダ圧を演算すると共に、該目標ホイールシリンダ圧となるように前記ブレーキ液圧制御用アクチュエータを制御し、前記差圧制御弁にて発生させる差圧を調整すると共に前記モータを駆動して前記ポンプによるブレーキ液の吸入吐出動作を行わせるブレーキ制御用の制御手段(70)と、を有し、
さらに、一端が前記ブレーキ操作部材に接続され、他端が前記マスタシリンダに接続された弾性部材であって、前記ブレーキ操作部材の前記可動範囲の全域において少なくても弾性変形可能な弾性部材(12)を備え
ていることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
前記弾性部材は、前記ブレーキ操作部材の可動をセンシング可能な範囲の全域において少なくても非線形もしくは線形的なバネ定数を有していることを特徴とする請求項1に記載の車両用ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ操作に基づいてブレーキ液圧による制動力を発生させる車両用ブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両用ブレーキ装置においては、バキュームブースタやハイドロブースタ等の倍力装置によってブレーキペダルに加えられる荷重(踏力)を加圧助勢し、マスタシリンダ(以下、M/Cという)内に高圧なM/C圧が発生させられるようにしている。これにより、ペダル荷重を加圧助勢した大きなブレーキ液圧をホイールシリンダ(以下、W/Cという)に発生させられ、大きな制動力を発生させることが可能となっている。
【0003】
しかしながら、バキュームブースタやハイドロブースタ等では、加圧助勢の上限値に達した場合(例えばバキュームブースタの死点やハイドロブースタの加圧助勢に使用しているアキュムレータ圧の上限圧に達した場合)、その後、急にブレーキペダルが重くなる。つまり、ペダル荷重に対するW/C圧の関係が急変し、ブレーキペダルを踏み込んでも制動力が上がり難くなる。このため、ドライバに違和感を与えていた。例えば、ペダル荷重が所定値に至るまではペダル荷重に対してW/C圧が比例的に上昇するが、その後は、その上昇勾配が急変するという関係となる。
【0004】
このため、バキュームブースタ等の加圧助勢機構を備えるのではなく、M/CとW/Cの間に備えられるブレーキ液圧制御用アクチュエータの加圧機能に基づいて、ブレーキペダルの操作量に対応するW/C圧を発生させることが提案されている。例えば、特許文献1では、ストローク生成装置を設けてブレーキペダルの踏み込み初期のペダルストロークを確保しつつ、踏力センサでペダル荷重を検出し、ブレーキ液圧制御用アクチュエータの加圧機能に基づいてW/Cの増圧を行う装置が開示されている。
【0005】
ストローク生成装置は、一面が開口した有底筒形状のシリンダ内にコイルスプリングおよび棒状のピストンの一端が挿入され、ピストンの軸方向の中間位置にストッパが配置された構成とされている。ピストンの他端はブレーキペダルに連結されており、ピストンの一端と他端との間の中間位置のうちシリンダの先端面から所定のクリアランスを設けた位置にストッパが配置されている。このため、ブレーキペダルが踏み込まれた初期時には、コイルスプリングが弾性変形してストロークが取り出され、所定ストロークが発生するとストッパがシリンダの先端面に当接して、ピストンおよびシリンダが共にM/C側に踏み込まれ、M/C圧が発生させられるようになっている。
【0006】
このように、ストローク生成装置によって踏み込み初期のストロークを取り出し易くすることで、ブレーキフィーリングの向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−129363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、踏力センサで検出される踏力にはバラツキがあり、安定したブレーキ特性を得ることができない。このため、上記したような加圧補助機構を備えない車両用ブレーキ装置において、ブレーキペダルの操作量をストロークセンサで検出し、その検出結果をフィードバックして、ブレーキ液圧制御用アクチュエータで加圧を行う際の加圧量を決定することが考えられる。この場合、ブレーキ液圧制御用アクチュエータに備えられる差圧制御弁でM/CとW/Cとに所望の差圧が発生させられるように差圧量を制御しつつ、モータ駆動を行うことで、M/C圧よりも差圧量分高くなるようにW/Cを加圧することができる。
【0009】
しかしながら、このようにストロークセンサの検出結果に基づいてブレーキ液圧制御用アクチュエータで加圧を行う際の加圧量を決定する場合、特許文献1に示される車両用ブレーキ装置では、ブレーキ操作のフィーリングを悪化させることが確認された。すなわち、特許文献1に示す車両用ブレーキ装置では、ブレーキペダルの踏み込み初期以外はピストンとシリンダとが当接して長さが固定されるため、基本的にはドライバ操作によるブレーキぺダルのストロークがM/Cに備えられるマスタピストンのストロークとなる。このため、ブレーキ液圧制御用アクチュエータに備えられる差圧制御弁で差圧を発生させた状態でモータ駆動が停止させられると、ポンプの吸入吐出動作によるM/Cからのブレーキ液の吸出しがなくなるため、ドライバがブレーキペダルを踏み込めなくなる。したがって、ブレーキペダルの踏み込みが所定位置で止められた後、その後に更にブレーキペダルを踏み増そうとした場合に、大きな踏力を発生させないとブレーキペダルがストロークせず、ブレーキ操作のフィーリングを悪化させてしまうのである。
【0010】
図3を参照して、この問題について説明する。この図に示すように、踏力が大きくなるのに従ってストロークはほぼ正比例の関係で大きくなる。ここで、ブレーキ液圧制御用アクチュエータの加圧助勢機能に基づいてブレーキペダルの操作量に対応するW/C圧を発生させている。このため、ブレーキペダルのストロークは、ブレーキペダルの操作によるM/CからW/Cへのブレーキ液供給量相当のストロークと、ブレーキ液圧制御用アクチュエータのモータ駆動によるブレーキ液吐出量相当のストロークとを足した値となる。以下、ブレーキペダルの操作によるM/CからW/Cへのブレーキ液供給量相当のストロークを供給量ストロークといい、モータ駆動によるブレーキ液吐出量相当のストロークを吐出量ストロークという。また、供給量ストロークと吐出量ストロークを足したトータルのストロークを総ストロークという。
【0011】
図3に示すように、例えばドライバがブレーキペダルを踏力P1で踏み込んだ場合、その踏力P1に応じたW/C圧が発生させられるように、ブレーキ液圧制御用アクチュエータの加圧助勢機能によってW/Cを加圧する。具体的には、ブレーキ液圧制御用アクチュエータに備えられる差圧制御弁でM/CとW/Cとに所望の差圧が発生させられるように差圧量を制御しつつ、モータ駆動を行うことで、M/C圧よりも差圧量分高いW/C圧を発生させる。このとき、ドライバによる踏み込によって供給量ストロークが発生させられるのに加えて、モータ駆動に伴うポンプによるブレーキ液の吸入吐出動作によってM/C内のブレーキ液が吸い出されて吐出量ストロークが発生する。したがって、これら供給量ストロークと吐出量ストロークを足したストロークが総ストロークとして発生させられることになる。
【0012】
この状態でブレーキペダルの踏み込みが一旦停止させられると、モータ駆動も停止させられる。このため、この後さらにブレーキペダルを踏み増そうとする場合、モータ駆動による吐出量ストロークが生じない状況からブレーキペダルを踏み込まないと、ストロークセンサでストロークの増加が検出できない。そして、このときにブレーキペダルの踏み増しを判定するために必要な踏力は、現状発生させられている踏力P1に対応する総ストローク以上のストロークをドライバの操作のみによる供給量ストロークのみによって発生させられる程度の踏力P2となる。このため、踏力P1から踏力P2まで増加させてブレーキペダルを踏み込まないとブレーキペダルがストロークせず、あたかも硬い板を踏み込んでいるような板感をドライバに与えてしまい、ブレーキ操作のフィーリングの悪化を招いてしまう。
【0013】
本発明は上記点に鑑みて、加圧補助機構を備えない車両用ブレーキ装置において、ブレーキ操作のフィーリングを向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、請求項1または2に記載の発明では、ドライバによって操作されるブレーキ操作部材であって、初期位置から最深位置までの可動範囲で可動可能なブレーキ操作部材(11)と、ブレーキ操作部材の操作量となるストロークを検出するストロークセンサ(11a)と、ブレーキ操作部材のストロークに応じたマスタシリンダ圧を発生させるマスタシリンダ(13)と、ホイールシリンダに加えられるホイールシリンダ圧を制御するブレーキ液圧制御用アクチュエータ(50)と、ブレーキ操作部材のストロークに対応して発生させるべき目標ホイールシリンダ圧を演算すると共に、該目標ホイールシリンダ圧となるようにブレーキ液圧制御用アクチュエータを制御し、差圧制御弁にて発生させる差圧を調整すると共にモータを駆動してポンプによるブレーキ液の吸入吐出動作を行わせるブレーキ制御用の制御手段(70)と、を有し、さらに、一端がブレーキ操作部材に接続され、他端がマスタシリンダに接続された弾性部材であって、ブレーキ操作部材の可動範囲の全域において少なくても弾性変形可能な弾性部材(12)を備えていることを特徴としている。
【0015】
このように、バキュームブースタ等の加圧助勢機能を備えずに、ブレーキ液圧制御用アクチュエータの加圧機能に基づいてブレーキ操作部材の操作に基づくW/C圧を発生させるようにしている。そして、このような車両用ブレーキ装置において、一端がブレーキ操作部材に接続され、他端がM/Cに接続された弾性部材であって、ブレーキ操作部材の可動範囲の全域において少なくても弾性変形可能な弾性部材を備えるようにしている。これにより、ブレーキ操作部材の操作が所定位置で止められた後、その後に更に操作量を増加させる方にブレーキ操作部材が操作された場合にも、弾性部材の変形によってブレーキ操作部材の操作量を増加することが可能となる。したがって、ブレーキ液圧制御用アクチュエータによる加圧を保持状態から増圧状態に切替られ、マスタピストンがストローク可能となって、ドライバに対してブレーキ操作のフィーリングの悪化を感じさせないようにできる。
【0016】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態にかかる車両用ブレーキ装置の基本構成を示した液圧回路図である。
図2】ブレーキペダル11に加えられる踏力に対する弾性部材12の変形量分のストロークを示した図である。
図3】ブレーキペダルに加えられる踏力に対するストロークの関係およびブレーキペダルの踏み増し判定に必要なストロークや踏力を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0019】
(第1実施形態)
以下、本発明を図に示す実施形態について説明する。本発明の一実施形態にかかる車両用ブレーキ装置について図1を参照して説明する。本実施形態では、前後配管の液圧回路を構成する車両に本発明にかかる車両用ブレーキ装置1を適用した例について説明するが、X配管などの車両についても適用可能である。
【0020】
図1に示すように、ドライバが操作するブレーキ操作部材としてのブレーキペダル11が弾性部材12を介してブレーキ液圧の発生源となるM/C13と接続されている。このブレーキペダル11とM/C13との間に接続された弾性部材12が本発明の特徴となる部分である。例えば、弾性部材12は、コイルスプリングなどのバネ部材もしくはゴム部材などによって構成されており、ブレーキペダル11の可動をセンシング可能な範囲、すなわちドライバーの踏み込み前の初期位置から最も踏み込まれた最深位置までのセンシングすべき範囲の全域において少なくても弾性変形可能に構成されている。弾性部材12は、ブレーキペダル11の可動をセンシング可能な範囲の全域において少なくても非線形もしくは線形的なバネ定数を有し、例えばブレーキフィーリングに合わせたバネ定数に設定されている。例えば、図2に示すように、ブレーキペダル11の操作量が大きくなるほど徐々に弾性力が大きくなるバネ定数に設定される。バネ定数を非線形とするのであれば、例えば、ブレーキペダル11の操作量が大きくなるほど徐々に弾性力が大きくなるようにしつつ、その弾性力の増加率がブレーキペダル11の操作量が大きくなるほど徐々に大きくなるバネ定数とすることができる。
【0021】
このような構成では、ブレーキペダル11が踏み込まれると、ブレーキペダル11に付与される踏力によって弾性部材12を弾性変形させつつ、M/C13に配設されたマスタピストン13a、13bが押圧されて、M/C圧が発生させられることになる。具体的には、マスタピストン13a、13bによって区画されるプライマリ室13cとセカンダリ室13dとに同圧のM/C圧が発生させられる。そして、このM/C圧がブレーキ液圧制御用アクチュエータ50を通じて各W/C14、15、34、35に伝えられる。
【0022】
なお、ブレーキペダル11にはストロークセンサ11aが備えられており、ブレーキペダル11の操作量が検出できるようになっている。また、M/C13には、プライマリ室13cおよびセカンダリ室13dそれぞれと連通する通路を有するマスタリザーバ13eが備えられている。このため、マスタピストン13a、13bが移動させられる前の状態において、マスタリザーバ13eからM/C13内へのブレーキ液の供給およびM/C13からマスタリザーバ13eへのブレーキ液の排出が可能となっている。
【0023】
ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50は、第1配管系統50aと第2配管系統50bとを備えた構成とされ、ブレーキ配管を形成した図示しないアルミ製などのブロックに各種部品が組み付けられることで一体化されている。第1配管系統50aは、左後輪RLと右後輪RRに加えられるブレーキ液圧を制御するリア系統、第2配管系統50bは、左前輪FLと右前輪FRに加えられるブレーキ液圧を制御するフロント系統とされる。
【0024】
なお、各系統50a、50bの基本構成は同様であるため、以下では第1配管系統50aについて説明し、第2配管系統50bについては説明を省略する。
【0025】
第1配管系統50aは、上述したM/C圧を左後輪RLに備えられたW/C14および右後輪RRに備えられたW/C15に伝達し、W/C圧を発生させる主管路となる管路Aを備える。
【0026】
また、管路Aには、管路Aを連通状態と差圧状態に制御することで、上流側となるM/C13側の第1管路と下流側となるW/C14、15側の第2管路との間の差圧を制御する第1差圧制御弁16が備えられている。この第1差圧制御弁16は、ドライバがブレーキペダル11の操作を行う通常ブレーキ時(衝突回避などの自動ブレーキ制御や横滑り防止制御などの車両運動制御が実行されていない時)には連通状態となるように弁位置が調整されている。そして、第1差圧制御弁16に備えられるソレノイドコイルに電流が流されると、第1差圧制御弁16は、流された電流値が大きいほど大きな差圧状態となるように弁位置が調整される。
【0027】
この第1差圧制御弁16が差圧状態のときには、W/C14、15側のブレーキ液圧がM/C圧よりも所定以上高くなった際にのみ、W/C14、15側からM/C13側へのブレーキ液の流動が許容される。このため、常時W/C14、15側がM/C13側よりも所定圧力以上高くならないように維持される。また、第1差圧制御弁16に対して並列に逆止弁16aが備えられている。
【0028】
管路Aは、この第1差圧制御弁16よりも下流になるW/C14、15側において、2つの管路A1、A2に分岐する。管路A1にはW/C14へのブレーキ液圧の増圧を制御する第1増圧制御弁17が備えられ、管路A2にはW/C15へのブレーキ液圧の増圧を制御する第2増圧制御弁18が備えられている。
【0029】
第1、第2増圧制御弁17、18は、連通・遮断状態を制御できるノーマルオープン型の2位置電磁弁により構成されている。具体的には、第1、第2増圧制御弁17、18は、第1、第2増圧制御弁17、18に備えられるソレノイドコイルへの制御電流がゼロとされる時(非通電時)には連通状態に制御される。また、第1、第2増圧制御弁17、18は、ソレノイドコイルに制御電流が流される時(通電時)に遮断状態に制御される。
【0030】
管路Aにおける第1、第2増圧制御弁17、18および各W/C14、15の間と調圧リザーバ20とを結ぶ減圧管路としての管路Bには、第1減圧制御弁21と第2減圧制御弁22とがそれぞれ配設されている。これら第1、第2減圧制御弁21、22は、連通・遮断状態を制御できるノーマルクローズ型の2位置電磁弁により構成されている。具体的には、第1、第2減圧制御弁21、22は、第1、第2減圧制御弁21、22に備えられるソレノイドコイルへの制御電流がゼロとされる時(非通電時)には遮断状態に制御される。また、第1、第2減圧制御弁21、22は、ソレノイドコイルに制御電流が流される時(通電時)に連通状態に制御される。
【0031】
調圧リザーバ20と主管路である管路Aとの間には還流管路となる管路Cが配設されている。この管路Cには調圧リザーバ20からM/C13側あるいはW/C14、15側に向けてブレーキ液を吸入吐出するモータ60によって駆動される自吸式のポンプ19が設けられている。モータ60は図示しないモータリレーに対する通電が制御されることで駆動される。
【0032】
調圧リザーバ20とM/C13の間には補助管路となる管路Dが設けられている。この管路Dを通じ、ポンプ19にてM/C13からブレーキ液を吸入し、管路Aに吐出することで、車両運動制御時において、W/C14、15側にブレーキ液を供給し、対象となる車輪のW/C圧を加圧する。
【0033】
なお、ここでは第1配管系統50aについて説明したが、第2配管系統50bも同様の構成であり、第1配管系統50aに備えられた各構成と同様の構成を第2配管系統50bも備えている。具体的には、第1差圧制御弁16および逆止弁16aと対応する第2差圧制御弁36および逆止弁36a、第1、第2増圧制御弁17、18と対応する第3、第4増圧制御弁37、38がある。また、第1、第2減圧制御弁21、22と対応する第3、第4減圧制御弁41、42、ポンプ19と対応するポンプ39、調圧リザーバ20と対応する調圧リザーバ40がある。さらに、管路A〜Dと対応する管路E〜Hがある。ただし、各系統50a、50bがブレーキ液を供給するW/C14、15、34、35については、リア系統となる第1配管系統50aよりもフロント系統となる第2配管系統50bの方の容量に差があっても良い。このような構成とされる場合、フロント側においてより大きな制動力を発生させることができる。
【0034】
また、車両用ブレーキ装置1には、制御手段に相当するブレーキ制御用の電子制御装置(以下、ブレーキECUという)70が備えられている。ブレーキECU70は、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従って各種演算などの処理を実行し、各種車両運動制御を含むブレーキ制御を実行する。例えば、ブレーキECU70は、ストロークセンサ11aおよび図示しない他のセンサ類の検出信号に基づいて車両に発生している各種物理量を演算する。そして、その演算結果に基づいてブレーキ液圧制御用アクチュエータ50に備えられた各種部品が制御され、制御対象輪に対して所望の制動力を発生させるというブレーキ制御が実行される。
【0035】
続いて、上記のように構成された車両用ブレーキ装置1の作動の一例について説明する。なお、本実施形態では、通常時のブレーキ制御として、ブレーキペダル1が踏み込まれたときにブレーキ液圧制御用アクチュエータ50の加圧機能に基づいてM/C圧よりも大きなW/C圧を発生させるという制御を行うことを特徴としている。本実施形態の車両用ブレーキ装置1においても、アンチロックブレーキ制御や横滑り防止制御などの車両安定化のための各種車両運動制御を実行できるが、これらの制御については従来と同様であるため、ここでは通常時のブレーキ制御についてのみ説明する。
【0036】
車両走行中に、ストロークセンサ11aの検出信号が出力されると、それがブレーキECU70に入力されてブレーキペダル11の操作量が演算される。そして、ブレーキECU70は、そのブレーキペダル11の操作量に基づいて通常時のブレーキ制御を行う。
【0037】
具体的には、ブレーキECU70には、各種特性を示すマップもしくは演算式が記憶されており、この各種特性に基づいて、ブレーキペダル11のストロークに対応して発生させるべきW/C圧の目標値(以下、目標W/C圧という)を演算している。そして、このW/C圧の目標値とドライバによるブレーキペダル11の踏み込みに基づいて発生させられたM/C圧との差がブレーキ液圧制御用アクチュエータ50の加圧機能によって発生させる差圧となる。この差圧を発生させられるように、ブレーキECU70にて、第1、第2差圧制御弁16、36のソレノイドコイルに流す電流を制御しつつ、モータ60を駆動し、ポンプ19、39によるブレーキ液の吸入吐出動作を行わせる。これにより、第1、第2差圧制御弁16、36による差圧分がM/C圧に加算されて、M/C圧よりも大きなW/C圧を発生させることが可能となる。
【0038】
なお、一般的に、ブレーキペダルの操作によってM/C圧を発生させ、そのM/C圧をW/C圧として各W/Cに伝えるシステムでは、各W/Cでの消費液量とM/C内から各W/Cへのブレーキ液の供給量が一致する。このため、ペダルストロークとW/C圧の関係はシステム的に決まる一定の特性となり、ブレーキ制御による変化は付けられない。
【0039】
これは、本実施形態のように、ブレーキペダル11の操作によってM/C圧を発生させ、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50の加圧機能によってM/C圧よりも大きなW/C圧を発生させるシステムでも同様である。すなわち、W/C14、15、34、35の消費液量とM/C13から各W/C14、15、34、35へのブレーキ液の供給量とは一致し、消費液量分だけM/C13内のブレーキ液が吸出されてブレーキペダル11がM/C13側に吸い込まれる状態となる。このため、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50での加圧機能を用いるか否かにかかわらず、ブレーキペダル11の操作量となるペダルストロークとW/C圧の関係はシステム的に決まった一定の特性となる。
【0040】
ここで、上記したように本実施形態では、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50の加圧機能により、ブレーキペダル11のストロークに応じてM/C圧よりも大きなW/C圧を発生させるようにしている。この場合において、ブレーキペダル11の踏み込みが所定位置で止められた後、その後に更にブレーキペダル11を踏み増そうとすることがある。しかしながら、ストロークが一旦停止した状態となっていることから、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50による加圧機能が保持された状態となっている。このため、モータ駆動による吐出量ストロークが発生していない状態からブレーキペダル11を踏み込むことになる。
【0041】
このとき、仮に、弾性部材12がブレーキペダル11の踏み込み初期以外は長さが固定される部材であった場合、ドライバ操作によるブレーキペダル11のストローク路がM/C13に備えられるマスタピストン13a、13bのストロークとなる。このため、第1、第2差圧制御弁16、36で差圧を発生させた状態でモータ駆動が停止させられると、ポンプ19、39の吸入吐出動作によるM/C13からのブレーキ液の吸出しがなくなるため、ドライバがブレーキペダル11を踏み込めなくなる。より詳しくは、ブレーキペダル11が踏み込まれたときに、逆止弁16a、36aを通じる経路でブレーキ液の流動が生じ得るが、M/C圧がW/C圧よりも所定圧以上高くならないと流動が生じないため、ブレーキペダル11が踏み込み難い。したがって、ブレーキペダル11の踏み込みが所定位置で止められた後、その後に更にブレーキペダル11を踏み増そうとした場合に、大きな踏力を発生させないとブレーキペダル11がストロークせず、ブレーキ操作のフィーリングを悪化させてしまう。
【0042】
ところが、本実施形態の場合、弾性部材12をブレーキペダル11の可動をセンシング可能な範囲、すなわち踏み込み前の初期位置から最も踏み込まれた最深位置までのセンシングすべき範囲の全域において少なくても弾性変形可能な構成としている。このため、ブレーキペダル11の踏み込みが所定位置で止められた後、その後に更にブレーキペダル11を踏み増そうとした場合に、マスタピストン13a、13bがストロークしなくても、弾性部材12の弾性変形によってブレーキペダル11がストロークする。例えば、図2中に示したように弾性部材12が加えられた踏力の増加量分変形し、その分、ブレーキペダル11がストロークすることになる。このため、このストロークがストロークセンサ11aにて検出され、大きな踏力を発生させていなくてもブレーキ液圧制御用アクチュエータ50による加圧を保持状態から増圧状態に切替えられる。つまり、第1、第2差圧制御弁16、36で発生させる差圧量が増加させられると共にモータ60が駆動させ、ポンプ19、39によるブレーキ液の吸入吐出動作が再開される。
【0043】
したがって、マスタピストン13a、13bがストローク可能となって、更にブレーキペダル11を踏み込み易くなり、ドライバに対してブレーキ操作のフィーリングの悪化を感じさせないようにできる。
【0044】
以上説明したように、本実施形態の車両用ブレーキ装置では、バキュームブースタ等の加圧助勢機能を備えずに、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50の加圧機能に基づいてブレーキペダル11の操作に基づくW/C圧を発生させるようにしている。そして、このような車両用ブレーキ装置において、ブレーキペダル11とM/C13との間に、ブレーキペダル11の可動をセンシング可能な範囲の全域において少なくても弾性変形可能な弾性部材12を備えるようにしている。これにより、ブレーキペダル11の踏み込みが所定位置で止められた後、その後に更にブレーキペダル11を踏み増す場合にも、弾性部材12の変形によってブレーキペダル11を踏み込むことが可能となる。したがって、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50による加圧を保持状態から増圧状態に切替られ、マスタピストン13a、13bがストローク可能となって、ドライバに対してブレーキ操作のフィーリングの悪化を感じさせないようにできる。
【0045】
(他の実施形態)
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。
【0046】
例えば、上記実施形態では、本発明が適用される車両用ブレーキ装置の構成の一例を示したが、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50が備えられていて、それの加圧機能に基づいてM/C圧よりも高いW/C圧を発生させられる構成であれば、他の構成でも良い。
【0047】
また、踏力に対する弾性部材12の関係の一例として図2に示す関係を例に挙げたが、これは単なる一例を示したのであり、他の関係であっても良い。
【0048】
また、上記実施形態では、ブレーキ操作部材としてブレーキペダル11を例に挙げたが、ブレーキレバーなどであっても良い。その場合、ブレーキ操作部材の操作量として、レバーのストロークが用いられることになる。
【符号の説明】
【0049】
1…車両用ブレーキ装置、11…ブレーキペダル、13…M/C、14、15、34、35…W/C、16、36…第1、第2差圧制御弁、19、39…ポンプ、50…ブレーキ液圧制御用アクチュエータ、60…モータ、70…ブレーキECU
図1
図2
図3