(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6394105
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】アルミ複合材の遮熱コーティング方法及びその構造並びにピストン
(51)【国際特許分類】
C25D 11/04 20060101AFI20180913BHJP
【FI】
C25D11/04 302
【請求項の数】7
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-127238(P2014-127238)
(22)【出願日】2014年6月20日
(65)【公開番号】特開2016-6211(P2016-6211A)
(43)【公開日】2016年1月14日
【審査請求日】2017年5月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 建興
【審査官】
坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−231348(JP,A)
【文献】
特開平10−281002(JP,A)
【文献】
特開2010−249008(JP,A)
【文献】
特開2012−046784(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 11/04
B22D 19/00
B22D 19/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
針状結晶構造を有する多孔質セラミックスにアルミニウム合金を鋳込んでアルミ複合材を形成し、そのアルミ複合材の表面近傍をアルマイト処理して遮熱コーティング膜を形成することを特徴とするアルミ複合材の遮熱コーティング方法。
【請求項2】
前記アルミ複合材は、ホウ酸アルミニウムのウイスカーの骨格構造からなる多孔質セラミックスにアルミニウム合金を鋳込んで形成される請求項1記載のアルミ複合材の遮熱コーティング方法。
【請求項3】
前記アルマイト処理は、硫酸濃度10〜20%、電流密度1〜2A/dm2、処理時間30分以上、5時間以下で、厚さが20μm以上、250μm以下のアルマイト膜からなる遮熱コーティング膜を形成する請求項1又は2記載のアルミ複合材の遮熱コーティング方法。
【請求項4】
針状結晶構造を有する多孔質セラミックスでアルミニウム合金を強化したアルミ複合材を形成し、そのアルミ複合材の表面近傍に、アルマイト膜からなる遮熱コーティング膜が形成されたことを特徴とするアルミ複合材の遮熱コーティング構造。
【請求項5】
前記遮熱コーティング膜は、厚さが20μm以上、250μm以下、熱伝導率が、0.2〜1.5W/mKである請求項4記載のアルミ複合材の遮熱コーティング構造。
【請求項6】
針状結晶構造を有する多孔質セラミックスでアルミニウム合金を強化したアルミ複合材を形成し、そのアルミ複合材の表面に、アルマイト膜からなる遮熱コーティング膜が形成されたことを特徴とするピストン。
【請求項7】
前記遮熱コーティング膜は、厚さが20μm以上、250μm以下、熱伝導率が、0.2〜1.5W/mKである請求項6記載のピストン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストン等のアルミニウム部品の遮熱コーティングを施すためのアルミ複合材の遮熱コーティング方法及びその構造並びにピストンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンの燃費を改善させるため、ピストンの頂面や燃焼室等への遮熱コーティングを施すことは非常に有効な方法である。
【0003】
遮熱コーティング膜としては、部材表面にプラズマ溶射で熱伝導率の低いジルコニア層を施すことは、最も一般的な方法であるが、部材がアルミニウム合金から構成されている場合、アルマイト処理で遮熱コーティング膜を形成する方法がある。
【0004】
アルマイト処理は、硫酸などの処理浴に部材としてのアルミニウム合金を入れ、アルミニウム合金を陽極として電気分解することにより、アルミニウム合金の表面を電気化学的に酸化させて酸化アルミニウム(アルミナ)の皮膜を生成させる。この皮膜はハニカム状の孔径が数nmから数百nmの多孔質酸化皮膜からなり、皮膜形成後は、水和処理することで、水酸化アルミニウム化して、ハニカム状の孔壁表面を水和膨張させて封孔処理することでアルマイト膜が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平01−071631号公報
【特許文献2】特開昭63−230983号公報
【特許文献3】特開平05−230563号公報
【特許文献4】特開平09−030872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、アルマイト膜の成長と内部の気孔率はアルミニウム合金組成そのものに依存し、基本的な合金組成を変えないで、しかも同じ溶液を使う場合、気孔率を変えることは難しい。従って、より低い熱伝導率を求めている場合、従来のアルミニウム合金では難しい。
【0007】
上述のようにアルマイト処理は、アルミニウム製品を陽極(+極)に接続し、電解液中に(一般に硫酸溶液)通電させて、酸化反応を起こして、アルミニウム合金の表面に酸化皮膜を生成するもので、酸化皮膜は通電の時間経過と共に成長する。このアルマイト膜は、ハニカム状の多孔質酸化皮膜であり、膜の生成・成長と内部の気孔率は、合金の組成とアルマイトの処理法(例えば、硫酸法、燐酸法やシュウ酸法など)によりコントロールされる。
【0008】
同じ方法の場合、気孔率等は合金の組成に大きく依存するので、通常のアルミニウム合金の場合、アルマイト膜の気孔率の向上(熱伝導率の低下)が難しい。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、気孔率を向上できるアルミ複合材の遮熱コーティング方法及びその構造並びにピストンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明は、アルミニウム合金の表面近傍を針状結晶多孔質セラミックス強化アルミ複合材で形成し、その針状結晶多孔質セラミックス強化アルミ複合材の表面近傍をアルマイト処理して遮熱コーティング膜を形成することを特徴とするアルミ複合材の遮熱コーティング方法である。
【0011】
針状結晶多孔質セラミックス強化アルミ複合材は、ホウ酸アルミニウムのウイスカーの骨格構造からなる多孔質セラミックスにアルミニウム合金を鋳込んで形成されるのが好ましい。
【0012】
アルマイト処理は、硫酸濃度10〜20%、電流密度1〜2A/dm
2、処理時間30分以上、5時間以下で、厚さが20μm以上、250μm以下のアルマイト膜からなる遮熱コーティング膜を形成するのが好ましい。
【0013】
また本発明は、アルミニウム合金の表面を、針状結晶多孔質セラミックス強化アルミ複合材で形成し、その針状結晶多孔質セラミックス強化アルミ複合材の表面近傍に、アルマイト膜からなる遮熱コーティング膜が形成されたことを特徴とするアルミ複合材の遮熱コーティング構造である。
【0014】
前記遮熱コーティング構造において、遮熱コーティング膜は、厚さが20μm以上、250μm以下、熱伝導率が、0.2〜1.5W/mKであるのが好ましい。
【0015】
さらに本発明は、アルミニウム合金で形成されるピストンの頂面と燃焼室の表面近傍を針状結晶多孔質セラミックス強化アルミ複合材で形成し、その針状結晶多孔質セラミックス強化アルミ複合材の表面に、アルマイト膜からなる遮熱コーティング膜が形成されたことを特徴とするピストンである。
【0016】
前記ピストンにおいて、遮熱コーティング膜は、厚さが20μm以上、250μm以下、熱伝導率が、0.2〜1.5W/mKであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、遮熱コーティング膜の気孔率が増加し、熱伝導率を低下させることができるという優れた効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施の形態を示し、(a)は本発明が適用されるピストンの要部断面図、(b)はピストンに形成される遮熱コーティング膜の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0020】
先ず、アルミ複合材の遮熱コーティング方法が適用されるディーゼルエンジンのピストン構造を説明する。
【0021】
図1(a)において、10は、ピストンで、その頂面11に凹状の燃焼室12が形成される。
【0022】
ピストン10は、AC8AやAl−12mass%Si−(1〜3mass%)Ni−(0.5〜1mass%)Mg−(1〜5mass%)Cuの組成からなるアルミニウム合金で形成される。
【0023】
このピストン10を製造する際に、ピストン10の頂面11や燃焼室12の表面に位置する部分、或いは全体を針状結晶多孔質セラミックス強化アルミ複合材13で形成し、その後、頂面11や燃焼室12の表面をアルマイト処理して遮熱コーティング膜14を形成する。
【0024】
針状結晶多孔質セラミックス強化アルミ複合材13は、ホウ酸、水酸化アルミニウムとウイスカー成長の助剤である酸化ニッケルの粉末の成形体を1100℃〜1300℃で焼成し、ホウ酸アルミニウムウイスカーの骨格構造を有する多孔質セラミックスを成形し、その針状結晶多孔質セラミックスに溶湯アルミニウム合金を高圧で鋳込んで形成される。
【0025】
ホウ酸アルミニウム(9Al
2O
3・2B
2O
3)のウイスカーは、直径0.2〜1.5μm、長さ5〜40μmで、ウイスカーの体積分率Vfは15〜50%とする。
【0026】
アルミニウム合金を鋳込む際、ピストンの鋳型内部に、頂面と燃焼室に相当する部分のみ或いはピストン全体の形状に形成した針状結晶多孔質セラミックスをセットした後、溶湯アルミニウム合金を鋳込み、その後溶湯アルミニウム合金に圧力を掛け(圧力鋳造)、針状結晶多孔質セラミックスに溶湯アルミニウムを浸透させることにより、少なくとも頂面と燃焼室に相当する部分が針状結晶多孔質セラミックス強化アルミ複合材13で形成されたピストン10が製造される。
【0027】
アルマイト処理は、
図1(a)に示すように処理浴20に、ピストン10を、その頂面11と燃焼室12が臨むようにセットし、処理浴20に濃度10〜20%硫酸(21)を充填し、ピストン10を+として、電流密度1〜2A/dm
2、処理時間30分以上、5時間以下で、通電することで、頂面11と燃焼室12表面の針状結晶多孔質セラミックス強化アルミ複合材13がアルマイト化され、これにより、厚さが20μm以上、250μm以下、熱伝導率0.2〜1.5W/mKのアルマイト膜からなる遮熱コーティング膜14が形成される。
【0028】
遮熱コーティング膜14の形成後は、水和処理することで、水酸化アルミニウム化して、孔壁表面を水和膨張させて封孔処理する。
【0029】
この遮熱コーティング膜14は、
図1(b)に示すように、母層15が針状結晶多孔質セラミックス強化アルミ複合材13で形成され、母層15内のホウ酸アルミニウム等のウイスカー16がランダムに配向して絡み合った状態で焼結されており、アルマイト処理した際には、そのアルミナ皮膜の成長方向もランダムとなり、アルマイト膜の成長過程では、ウイスカーの針状結晶は成長されたアルマイト膜に取り込まれるため、アルマイト膜中の気孔率が増え、膜の熱伝導率が低下する。よって、針状結晶の量を増やすと、気孔率が増加し、熱伝導が低下する。
【0030】
このウイスカー16の体積分率Vf(15〜50%)を調整することで気孔率が制御でき、成形条件によって気孔率が85〜50%の範囲の遮熱コーティング膜14が作製できる。
【0031】
このように本発明は、アルマイト処理する部分に、アルミニウム合金の代わりに針状結晶多孔質セラミックス強化アルミ複合材を用い、その複合材の表面に、より多孔質のアルマイト膜を作製することで、遮熱コーティング膜の熱伝導率を低減させることができる。
【0032】
本発明で処理した複合材をピストンに用いた場合、従来のアルマイト膜と比較して、遮熱効果が向上し、エンジンの燃費の改善が図られる。
【0033】
また、針状結晶多孔質セラミックスを複合することで、燃焼室部の高温疲労強度は従来の合金より50〜80%以上に向上し、高Pmax(筒内最高圧力)エンジンにも対応できる。
【符号の説明】
【0034】
10 ピストン
11 頂面
12 燃焼室
13 針状結晶多孔質セラミックス強化アルミ複合材
14 遮熱コーティング膜