特許第6394180号(P6394180)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6394180
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】鋼管矢板の継手構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/08 20060101AFI20180913BHJP
【FI】
   E02D5/08
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-171384(P2014-171384)
(22)【出願日】2014年8月26日
(65)【公開番号】特開2016-44502(P2016-44502A)
(43)【公開日】2016年4月4日
【審査請求日】2017年4月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100178283
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 孝太
(72)【発明者】
【氏名】石濱 吉郎
(72)【発明者】
【氏名】妙中 真治
【審査官】 苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/125347(WO,A1)
【文献】 特開2012−036608(JP,A)
【文献】 特開平08−027773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/00〜 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管矢板と鋼矢板とを組み合わせた合成壁体に用いられる鋼管矢板の継手構造であって、
鋼矢板の継手部を連結するために鋼管矢板の本体鋼管の軸芯方向に沿って設けられる継手管を備え、
前記継手管は、鋼管矢板の本体鋼管の外側面に取り付けられる取付部と、鋼矢板の継手部が挿入されるスリット部と、前記継手管の外周面を屈曲又は湾曲させ、前記継手管の周方向に延びて形成されるリブ部とを有し、
前記継手管は、前記継手管の軸芯方向に複数の前記リブ部が形成されて、前記継手管の軸芯方向に隣り合った複数の前記リブ部が、前記継手管の周方向の位置を互いに異ならせるものとなること
を特徴とする鋼管矢板の継手構造。
【請求項2】
前記継手管は、合成壁体の背面側から正面側に向けて作用する土圧が鋼矢板から伝達されるものであり、前記リブ部が合成壁体の正面側のみに形成されること
を特徴とする請求項1記載の鋼管矢板の継手構造。
【請求項3】
前記継手管は、合成壁体の背面側から正面側に向けて作用する土圧が鋼矢板から伝達されて、鋼矢板から伝達された土圧に抵抗するものとなるように、前記継手管の軸芯直交方向で凹状又は凸状に前記リブ部が形成されること
を特徴とする請求項1又は2記載の鋼管矢板の継手構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管矢板と鋼矢板とを組み合わせた合成壁体に用いられる鋼管矢板の継手構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、製造コストを削減して、かつ施工性を向上させることができるとともに、継手部のせん断耐力を向上させることを目的として、特許文献1に開示される鋼管矢板の継手構造が提案されている。
【0003】
特許文献1に開示された鋼管矢板の継手構造は、鋼管矢板本管の外面に固定される継手鋼管を備える鋼管矢板において、継手鋼管は、継手鋼管の軸方向で所定の間隔に形成されて、かつ継手鋼管の外面から内部に向けて窪む窪み部を備えるため、鋼管を製造した後にロール加工等の冷間加工により窪み部を形成して、鋼管矢板の製造コストを削減することができる。
【0004】
また、特許文献1に開示された鋼管矢板の継手構造は、複数の鋼管矢板を接続させるときに、一方の継手鋼管の窪み部と他方の継手鋼管とを点接触させることで、継手鋼管同士の競りが抑制されることから、打設抵抗を低減させて、施工性を向上させることができるだけでなく、充填材が窪み部にも付着するため、継手部のせん断耐力を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−36608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示された鋼管矢板の継手構造は、複数の鋼管矢板を接続させるために継手鋼管が用いられるものである。このとき、特許文献1に開示された鋼管矢板の継手構造は、各々の鋼管矢板が支持地盤まで打設されて背面地盤からの土圧に抵抗するものとなるため、複数の鋼管矢板を接続させた継手鋼管に、鋼管矢板の背面側から正面側に向けた土圧が作用しないものとなる。
【0007】
したがって、特許文献1に開示された鋼管矢板の継手構造は、複数の鋼管矢板を接続させた継手鋼管の内部に充填材が充填されることを前提に、継手鋼管の外面から内部に向けて窪んだ窪み部が、継手鋼管と充填材との付着効果を生じさせるものであって、鋼管矢板の背面側から正面側に向けた土圧に抵抗させるものとはなっていない。
【0008】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、継手管の板厚の低減を実現して合成壁体の構築に必要となる材料コストの増大を抑制するとともに、継手管の拡がるような変形を抑制して鋼管矢板と鋼矢板との接続状態を強固に維持することのできる鋼管矢板の継手構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明に係る鋼管矢板の継手構造は、鋼管矢板と鋼矢板とを組み合わせた合成壁体に用いられる鋼管矢板の継手構造であって、鋼矢板の継手部を連結するために鋼管矢板の本体鋼管の軸芯方向に沿って設けられる継手管を備え、前記継手管は、鋼管矢板の本体鋼管の外側面に取り付けられる取付部と、鋼矢板の継手部が挿入されるスリット部と、前記継手管の外周面を屈曲又は湾曲させ、前記継手管の周方向に延びて形成されるリブ部とを有し、前記継手管は、前記継手管の軸芯方向に複数の前記リブ部が形成されて、前記継手管の軸芯方向に隣り合った複数の前記リブ部が、前記継手管の周方向の位置を互いに異ならせるものとなることを特徴とする。
【0010】
第2発明に係る鋼管矢板の継手構造は、第1発明において、前記継手管は、合成壁体の背面側から正面側に向けて作用する土圧が鋼矢板から伝達されるものであり、前記リブ部が合成壁体の正面側のみに形成されることを特徴とする。
【0012】
発明に係る鋼管矢板の継手構造は、第1発明又は明において、前記継手管は、合成壁体の背面側から正面側に向けて作用する土圧が鋼矢板から伝達されて、鋼矢板から伝達された土圧に抵抗するものとなるように、前記継手管の軸芯直交方向で凹状又は凸状に前記リブ部が形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
第1発明〜第発明によれば、鋼管矢板の継手管から鋼矢板の継手部が離脱することを防止して、鋼管矢板と鋼矢板との接続状態を強固に維持することができるため、合成壁体の全体の壁厚方向の変形量を低減させて高い構造性能を発揮させるとともに、鋼矢板を支持するための鋼管矢板の数量を削減することが可能となり、また、継手管の板厚を必要以上に厚くしないで、継手管の拡がるような変形を抑制することができるものとなり、継手管の板厚を低減させて合成壁体の構築に必要となる材料コストの増大を抑制することが可能となる。
【0014】
特に、第2発明によれば、継手管の正面側のみにリブ部を形成して、継手管の背面側の溶接箇所での溶接強度を重点的に向上させることで、継手管の背面側で本体鋼管から継手管を離間させる方向に作用する引張力に強固に抵抗するものとして、鋼管矢板と鋼矢板との接続状態を強固に維持することが可能となる。
【0015】
第1発明〜第3発明によれば、複数のリブ部が軸芯方向で略千鳥状に配置されることで、鋼矢板の継手部と継手管の突出部との接触部を減少させて、鋼矢板の継手部を継手管にスライド挿入するときの摩擦抵抗をより低減させるものとして、鋼管矢板を打設するときの施工性を著しく向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明を適用した鋼管矢板の継手構造が用いられる合成壁体を示す斜視図である。
図2】本発明を適用した鋼管矢板の継手構造が用いられる合成壁体を示す側面図である。
図3】(a)は、本発明を適用した鋼管矢板の継手構造が用いられて、ハット形鋼矢板が鋼矢板として用いられた合成壁体を示す平面図であり、(b)は、その正面図である。
図4】(a)は、本発明を適用した鋼管矢板の継手構造が用いられて、U形鋼矢板が鋼矢板として用いられた合成壁体を示す平面図であり、(b)は、その正面図である。
図5】(a)は、本発明を適用した鋼管矢板の継手構造が用いられて、鋼板パネルが鋼矢板として用いられた合成壁体を示す平面図であり、(b)は、その正面図である。
図6】本発明を適用した鋼管矢板の継手構造を示す斜視図である。
図7】(a)は、本発明を適用した鋼管矢板の継手構造における継手管を示す平面図であり、(b)は、その正面図である。
図8】(a)は、本発明を適用した鋼管矢板の継手構造において正面側のみにリブ部が形成された継手管を示す正面図であり、(b)は、そのD−D線断面図であり、(c)は、そのE−E線断面図である。
図9】(a)は、本発明を適用した鋼管矢板の継手構造において正面側のみで略千鳥状にリブ部が形成された継手管を示す正面図であり、(b)は、そのF−F線断面図であり、(c)は、そのG−G線断面図である。
図10】(a)は、本発明を適用した鋼管矢板の継手構造において傾斜させてリブ部が形成された継手管を示す正面図であり、(b)は、その略千鳥状にリブ部が形成された継手管を示す正面図である。
図11】本発明を適用した鋼管矢板の継手構造における継手管の屈曲したリブ部の形状を示す断面図である。
図12】本発明を適用した鋼管矢板の継手構造における継手管の湾曲したリブ部の形状を示す断面図である。
図13】本発明を適用した鋼管矢板の継手構造における継手管のリブ部の寸法を示す断面図である。
図14】本発明を適用した鋼管矢板の継手構造において背面側から正面側に向けて土圧が作用する状態を示す平面図である。
図15】本発明を適用した鋼管矢板の継手構造における継手管のリブ部の高さと継手管の断面係数との関係を示すグラフである。
図16】本発明を適用した鋼管矢板の継手構造において溶接箇所に引張力が作用する状態を示す平面図である。
図17】(a)は、本発明を適用した鋼管矢板の継手構造において継手の競りが生じたときの接触部を示す平面図であり、(b)は、その正面図である。
図18】(a)は、従来の鋼管矢板の継手構造において継手の競りが生じたときの接触部を示す平面図であり、(b)は、その正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を適用した鋼管矢板の継手構造1を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
本発明を適用した鋼管矢板の継手構造1は、図1に示すように、鋼管矢板3と鋼矢板4とを組み合わせた合成壁体5を構築するために用いられるものである。合成壁体5は、主として、鋼管矢板3が杭部材として設けられるとともに、鋼矢板4が壁部材として設けられる。
【0019】
合成壁体5は、例えば、複数の鋼矢板4が壁幅方向Xに並べられて壁部材として設けられるとともに、壁部材として設けられた複数の鋼矢板4の壁幅方向Xの両端の各々で、支持地盤に到達する程度の深さまで鋼管矢板3が杭部材として設けられる。
【0020】
合成壁体5は、図2に示すように、海洋、河川又は掘削部81と地盤82との境界の護岸壁等として設けられるものである。合成壁体5は、既存の海洋、河川、又は、既存地盤を掘削等して形成された掘削部81を正面側Aとするとともに、既存地盤又は裏込地盤等の地盤82を背面側Bとして構築される。合成壁体5は、主に、壁高方向で鋼矢板4が設けられる範囲のみで、大径の本体鋼管30に、小径鋼管の継手管2が設けられるものとなる。
【0021】
合成壁体5は、海洋、河川又は掘削部81と地盤82との境界に設けられた状態で、背面側Bの地盤82から、正面側Aの海洋、河川又は掘削部81に向けて、地下水圧や土圧Pが作用するものとなる。合成壁体5は、特に、壁部材として設けられた複数の鋼矢板4が、地下水圧や土圧Pを負担するものとして設けられる。
【0022】
鋼管矢板3は、図3に示すように、合成壁体5の壁高方向を軸芯方向Yとして、大径の本体鋼管30に、小径鋼管の継手管2が設けられる。鋼管矢板3は、壁幅方向Xの両端の各々で、本体鋼管30の外側面30aに継手管2が溶接等により取り付けられる。鋼管矢板3は、壁幅方向Xの片端のみで、本体鋼管30の外側面30aに継手管2が取り付けられてもよい。
【0023】
鋼矢板4は、合成壁体5の壁高方向を軸芯方向Yとして、ハット形鋼矢板、U形鋼矢板、鋼板パネル、直線鋼矢板又はZ形鋼矢板等が用いられる。鋼矢板4は、複数のハット形鋼矢板、U形鋼矢板、鋼板パネル、直線鋼矢板又はZ形鋼矢板等が壁幅方向Xに連結されるとともに、壁幅方向Xに連結された複数のハット形鋼矢板、U形鋼矢板、鋼板パネル、直線鋼矢板又はZ形鋼矢板等の壁幅方向Xの両端の各々が、鋼管矢板3の継手管2に接続される。
【0024】
鋼矢板4は、ハット形鋼矢板が用いられる場合に、フランジ部41と、一対のウェブ部42と、一対のアーム部43と、一対の継手部40とを有する。フランジ部41は、図3(a)に示すように、壁幅方向Xに延びて略平板状等に形成される。一対のウェブ部42は、フランジ部41の壁幅方向Xの両端の各々から、壁厚方向に傾斜して形成される。一対のアーム部43は、各々のウェブ部42の壁厚方向の片端から、フランジ部41と略平行に形成される。一対の継手部40は、各々のアーム部43の壁幅方向Xの先端に形成される。
【0025】
鋼矢板4は、U形鋼矢板が用いられる場合に、図4に示すように、フランジ部41と、一対のウェブ部42と、一対の継手部40とを有する。フランジ部41は、図4(a)に示すように、壁幅方向Xに延びて略平板状等に形成される。一対のウェブ部42は、フランジ部41の壁幅方向Xの両端の各々から、壁厚方向に傾斜して形成される。一対の継手部40は、各々のウェブ部42の壁厚方向の先端に形成される。
【0026】
鋼矢板4は、鋼板パネルが用いられる場合に、図5に示すように、フランジ部41と、一対の継手部40とを有する。フランジ部41は、図5(a)に示すように、壁幅方向Xに延びて略平板状等に形成される。一対の継手部40は、フランジ部41の壁幅方向Xの両端の各々に形成されて、一対の継手部40の一方に、断面略T形状の雄継手44が形成されるとともに、一対の継手部40の他方に、断面略円形状の雌継手45が形成された鋼板パネル、及び、一対の継手部40の両方に、断面略T形状の雄継手44が形成された鋼板パネルが用いられる。
【0027】
本発明を適用した鋼管矢板の継手構造1は、図6に示すように、鋼管矢板3の本体鋼管30の軸芯方向Yに沿って設けられる継手管2を備える。本発明を適用した鋼管矢板の継手構造1は、継手管2の軸芯方向Yにスライドさせて鋼矢板4の継手部40を継手管2に挿入することで、鋼矢板4の継手部40が継手管2に連結される。
【0028】
継手管2は、鋼管矢板3の本体鋼管30の外側面30aに取り付けられる取付部21と、鋼矢板4の継手部40が挿入されるスリット部22と、継手管2の周方向Wに延びて形成されるリブ部20とを有する。継手管2は、図7(a)に示すように、最大外径Rを165mm程度、最大板厚tを11mm程度として、断面略円形状等に形成された小径鋼管が用いられる。
【0029】
継手管2は、図7(b)に示すように、軸芯方向Yに延びて外周面2aが略同一面上に形成された略直管状の小径鋼管に、周方向Wで所定の方向からのロールを用いた押圧加工等をすることで、軸芯直交方向Zで外周面2aから凹状に窪ませたリブ部20が形成される。このとき、継手管2は、軸芯直交方向Zで外周面2aから凹状に窪ませたリブ部20が形成されることで、軸芯直交方向Zで内周面2bから突出した突出部24が形成されるものとなる。
【0030】
継手管2は、軸芯方向Yに複数のリブ部20が形成されて、略直管状の直管部23とリブ部20とが軸芯方向Yで交互に配置される。継手管2は、軸芯方向Yに複数のリブ部20が形成された小径鋼管に、周方向Wの一部で軸芯方向Yに連続して切削加工等をすることで、周方向Wの一部が所定の幅で切り欠かれて、軸芯方向Yに延びるスリット部22が形成される。
【0031】
継手管2は、軸芯方向Yの略直交方向で略直線状に延びるリブ部20が、周方向Wの正面側Aから背面側Bまで連続させて形成される。このとき、継手管2は、リブ部20が配置される部位を除き、直管部23が配置される部位のみで、本体鋼管30の外側面30aに取付部21が軸芯方向Yで断続的に溶接接合される。なお、継手管2は、これに限らず、本体鋼管30の外側面30aとリブ部20との隙間が溶接材料で埋められることで、リブ部20が配置される部位でも、本体鋼管30の外側面30aに取付部21を溶接接合することができる。
【0032】
継手管2は、図8に示すように、リブ部20が背面側Bに形成されることなく、リブ部20が正面側Aのみに形成されてもよい。継手管2は、軸芯方向Yに形成された複数のリブ部20が、周方向Wの位置を互いに略同一にして、軸芯方向Yで略並列状に配置されて並べられる。また、継手管2は、図9に示すように、軸芯方向Yに隣り合った複数のリブ部20が、周方向Wの位置を互いに異ならせて、軸芯方向Yで略千鳥状に配置されて並べられてもよく、さらに、図10に示すように、軸芯方向Yに傾斜させて延びるリブ部20が形成されてもよい。
【0033】
このとき、継手管2は、図8図10に示すように、正面側Aにおいて、リブ部20が配置される部位を除き、直管部23が配置される部位のみで、本体鋼管30の外側面30aに取付部21が軸芯方向Yで断続的に溶接接合される。また、継手管2は、リブ部20が背面側Bに形成されないため、背面側Bにおいて、本体鋼管30の外側面30aに取付部21を軸芯方向Yの所定の範囲で連続的に溶接接合することができる。
【0034】
リブ部20は、図11に示すように、軸芯直交方向Zで継手管2の外周面2aを凹状に屈曲させることで、継手管2の内周面2bに屈曲した突出部24が形成される。また、リブ部20は、図12に示すように、軸芯直交方向Zで継手管2の外周面2aを凹状に湾曲させることで、継手管2の内周面2bに湾曲した突出部24が形成される。
【0035】
リブ部20は、図13に示すように、例えば、軸芯方向Yで凹状に形成される長さLを18mm程度として、継手管2の板厚tを6mm又は9mm程度としたときに、継手管2の直管部23の内周面2bから突出した高さhを、3mm、6mm、9mm、15mm又は18mm程度としたものとなる。リブ部20は、継手管2の直管部23の内周面2bから突出した高さhが、継手管2の板厚tの0.5〜5倍程度で、最大30mm程度となる。
【0036】
本発明を適用した鋼管矢板の継手構造1は、図14に示すように、鋼矢板4の継手部40が継手管2に連結された状態で、鋼矢板4の継手部40又はアーム部43が継手管2に接触することで、合成壁体5の背面側Bから正面側Aに向けて、鋼矢板4に作用する地下水圧や土圧Pが、鋼矢板4の継手部40又はアーム部43から継手管2に伝達される。
【0037】
このとき、本発明を適用した鋼管矢板の継手構造1は、継手管2のスリット部22の周方向Wの幅を押し拡げながら継手管2の正面側Aを変形させるようにして、合成壁体5の背面側Bから正面側Aに向けた地下水圧や土圧Pが、継手部40又はアーム部43から継手管2に伝達されるものとなる。
【0038】
本発明を適用した鋼管矢板の継手構造1は、鋼矢板4の継手部40又はアーム部43が継手管2に接触して、鋼矢板4の継手部40又はアーム部43から伝達された地下水圧や土圧Pに抵抗するものとなるように、継手管2の周方向Wに延びて軸芯直交方向Zで継手管2の外周面2aから凹状に窪ませたリブ部20が形成される。
【0039】
本発明を適用した鋼管矢板の継手構造1は、継手管2の内周面2bから突出したリブ部20の高さhを大きくすると、継手管2の周方向Wの断面係数を増大させるものとなり、継手管2のスリット部22の周方向Wの幅を押し拡げる変形に対する継手管2の断面剛性が向上する。
【0040】
図15では、リブ部20を有する継手管2の板厚tを6mmとして、リブ部20の高さhと断面係数との関係が折れ線で示されるとともに、リブ部20を有さない略直管状の小径鋼管の断面係数が、略直管状の小径鋼管の板厚に応じて破線で示されて、リブ部20を有さない小径鋼管とリブ部20を有する継手管2との断面係数の比較を示すものである。図15では、リブ部20を有さない略直管状の小径鋼管について、板厚7mmがN1の破線、板厚8mmがN2の破線、板厚9mmがN3の破線、板厚10mmがN4の破線、板厚11mmがN5の破線、板厚12mmがN6の破線として示される。
【0041】
このとき、本発明を適用した鋼管矢板の継手構造1は、継手管2の板厚tと同程度の高さhのリブ部20が形成されることで(板厚t=6mm、高さh=6mm)、板厚が1mm大きい略直管状の小径鋼管(板厚7mm)と同程度の大きさの断面係数(N1の破線)となる。さらに、本発明を適用した鋼管矢板の継手構造1は、継手管2の板厚tの約2倍の高さhのリブ部20が形成されることで(板厚t=6mm、高さh=12mm)、板厚が3mm大きい略直管状の小径鋼管(板厚9mm)と同程度の大きさの断面係数(N3の破線)となる。
【0042】
本発明を適用した鋼管矢板の継手構造1は、図14に示すように、鋼矢板4に作用した地下水圧や土圧Pが、背面側Bから正面側Aに向けて継手管2に伝達されるものとなるが、継手管2の周方向Wに延びるリブ部20が形成されて、継手管2の周方向Wの断面係数を増大させることで、スリット部22の周方向Wの幅を押し拡げる変形に対する継手管2の断面剛性を向上させることができるものとなる。このとき、本発明を適用した鋼管矢板の継手構造1は、継手管2の断面剛性を向上させて、継手管2の拡がるような変形が抑制されるため、鋼管矢板3の継手管2から鋼矢板4の継手部40が離脱することを防止することができる。
【0043】
これにより、本発明を適用した鋼管矢板の継手構造1は、鋼管矢板3の継手管2から鋼矢板4の継手部40が離脱することを防止して、鋼管矢板3と鋼矢板4との接続状態を強固に維持することができるため、合成壁体5の全体の壁厚方向の変形量が低減して高い構造性能を発揮させるとともに、鋼矢板4を支持するための鋼管矢板3の数量を削減することが可能となる。また、本発明を適用した鋼管矢板の継手構造1は、継手管2の板厚tを必要以上に厚くしないで、継手管2の拡がるような変形を抑制することができるものとなるため、継手管2の板厚tを低減させて合成壁体5の構築に必要となる材料コストの増大を抑制することが可能となる。
【0044】
本発明を適用した鋼管矢板の継手構造1は、図16に示すように、鋼矢板4に作用した地下水圧や土圧Pが、背面側Bから正面側Aに向けて継手管2に伝達されたとき、スリット部22の周方向Wの幅を押し拡げる変形に追随するようにして、継手管2の取付部21の背面側Bの溶接箇所Mに、本体鋼管30から継手管2を離間させる方向の引張力Tが作用する。
【0045】
本発明を適用した鋼管矢板の継手構造1は、リブ部20が継手管2の背面側Bに形成されることなく、継手管2の正面側Aのみに形成されることで、継手管2の取付部21が、継手管2の背面側Bで本体鋼管30の外側面30aに連続的に溶接接合されたものとなる。このとき、本発明を適用した鋼管矢板の継手構造1は、継手管2の背面側Bで取付部21が本体鋼管30の外側面30aに連続的に溶接接合されることで、継手管2の背面側Bの溶接箇所Mでの溶接強度を重点的に向上させることができるものとなる。
【0046】
これにより、本発明を適用した鋼管矢板の継手構造1は、継手管2の正面側Aのみにリブ部20が形成されて、継手管2の背面側Bの溶接箇所Mでの溶接強度を重点的に向上させることで、継手管2の背面側Bで本体鋼管30から継手管2を離間させる方向に作用する引張力Tに強固に抵抗するものとなるため、鋼管矢板3と鋼矢板4との接続状態を強固に維持することが可能となる。
【0047】
本発明を適用した鋼管矢板の継手構造1は、図17に示すように、鋼矢板4の継手部40を継手管2に連結するときに、鋼矢板4の継手部40を継手管2の軸芯方向Yにスライドさせることで、鋼矢板4の継手部40が継手管2に挿入されるものとなる。
【0048】
従来の鋼管矢板の継手構造9は、図18に示すように、鋼管矢板93と鋼矢板94との位置関係によって、鋼矢板94の継手部95と継手管92の内周面92bとが接近して継手の競りが生じる場合があり、鋼矢板94の継手部95を継手管92の内周面92bに接触部Cで当接させながら、鋼矢板94の継手部95が継手管92にスライド挿入される。
【0049】
従来の鋼管矢板の継手構造9は、継手管92の内周面92bが略同一面上に形成されるため、鋼矢板94の継手部95と継手管92の内周面92bとが接触部Cで線接触するものとなることから、鋼矢板94の継手部95と継手管92との接触部Cの延長が大きくなる。このとき、従来の鋼管矢板の継手構造9は、鋼矢板94の継手部95と継手管92との接触部Cの延長が大きなものとなることで、鋼矢板94の継手部95を継手管92にスライド挿入するときの摩擦抵抗が増大して、鋼管矢板93を打設するときの施工性が低下するおそれがある。
【0050】
これに対して、本発明を適用した鋼管矢板の継手構造1は、図17に示すように、継手管2の外周面2aに凹状のリブ部20が形成されて、継手管2の内周面2bに凸状の突出部24が形成されることから、鋼矢板4の継手部40を継手管2にスライド挿入するときに、鋼矢板4の継手部40と継手管2の突出部24とが接触部Cで点接触するものとなる。
【0051】
このとき、本発明を適用した鋼管矢板の継手構造1は、鋼矢板4の継手部40と継手管2の内周面2bとが接近して継手の競りが生じる場合であっても、鋼矢板4の継手部40と継手管2の突出部24とが接触部Cで点接触するため、鋼矢板4の継手部40を継手管2にスライド挿入するときの摩擦抵抗を低減させたものとなり、鋼管矢板3を打設するときの施工性を向上させることが可能となる。
【0052】
特に、本発明を適用した鋼管矢板の継手構造1は、図9図17に示すように、複数のリブ部20が継手管2の軸芯方向Yで略千鳥状に配置されて並べられることで、複数のリブ部20の周方向Wの位置が異なったものとなり、継手管2の突出部24と軸芯方向Yで略一直線状に延びる鋼矢板4の継手部40との接触部Cを減少させることができる。
【0053】
これにより、本発明を適用した鋼管矢板の継手構造1は、複数のリブ部20が軸芯方向Yで略千鳥状に配置されることで、鋼矢板4の継手部40と継手管2の突出部24との接触部Cを減少させて、鋼矢板4の継手部40を継手管2にスライド挿入するときの摩擦抵抗がより低減されるため、鋼管矢板3を打設するときの施工性を著しく向上させることが可能となる。
【0054】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明したが、上述した実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【0055】
例えば、本発明を適用した鋼管矢板の継手構造1は、継手管2の軸芯直交方向Zで継手管2の外周面2aを凸状に屈曲又は湾曲させることで、継手管2に凸状にリブ部20が形成されるものであってもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 :鋼管矢板の継手構造
2 :継手管
2a :外周面
2b :内周面
20 :リブ部
21 :取付部
22 :スリット部
23 :直管部
24 :突出部
3 :鋼管矢板
30 :本体鋼管
30a :外側面
4 :鋼矢板
40 :継手部
41 :フランジ部
42 :ウェブ部
43 :アーム部
44 :雄継手
45 :雌継手
5 :合成壁体
81 :掘削部
82 :地盤
A :正面側
B :背面側
W :周方向
X :壁幅方向
Y :軸芯方向
Z :軸芯直交方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
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図18