(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シフトレバーを固定するためのシフトロックソレノイドと、変速制御および前記シフトロックソレノイドの制御を行う変速制御モジュールと、を備えた車両の変速制御システムに搭載され、オンとされたときに、前記シフトレバーの位置にかかわらずスタータへの電源の供給を可能とする非常用スイッチの診断装置であって、
前記非常用スイッチは、オフとされたときに共通端子と通常用端子とを接続し、オンとされたときに前記共通端子と前記通常用端子とを遮断するように構成され、かつ、前記共通端子が接地され、前記通常用端子が前記シフトロックソレノイドを介して前記変速制御モジュールに接続されるように構成されており、
前記非常用スイッチがオンとなっているかを検出するスイッチ状態検出手段と、
前記変速制御モジュールに搭載され、前記シフトロックソレノイドに分圧抵抗を介して電圧を印加する電源部と、前記分圧抵抗と前記シフトロックソレノイドとの間の電圧を検出する電圧検出部と、を備えたモニタ部と、
前記スイッチ状態検出手段で前記非常用スイッチがオンとなっていることを検出し、かつ、前記モニタ部で検出した電圧が予め設定した閾値電圧以下であるとき、前記非常用スイッチが異常であると判断する異常判断部と、
を備えたことを特徴とする非常用スイッチの診断装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、非常用スイッチは緊急脱出用に使用されるため、内部でショート等の故障が発生した場合には、非常時にエンジンを始動できなくなるなど深刻な不具合が生じるおそれがある。
【0007】
しかしながら、非常用スイッチは人間が操作するものであるため診断が困難であり、従来、非常用スイッチ自体の診断は行われていなかった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、非常用スイッチの診断を行うことが可能な非常用スイッチの診断装置および変速制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、シフトレバーを固定するためのシフトロックソレノイドと、変速制御および前記シフトロックソレノイドの制御を行う変速制御モジュールと、を備えた車両の変速制御システムに搭載され、オンとされたときに、前記シフトレバーの位置にかかわらずスタータへの電源の供給を可能とする非常用スイッチの診断装置であって、前記非常用スイッチは、オフとされたときに共通端子と通常用端子とを接続し、オンとされたときに前記共通端子と前記通常用端子とを遮断するように構成され、かつ、前記共通端子が接地され、前記通常用端子が前記シフトロックソレノイドを介して前記変速制御モジュールに接続されるように構成されており、前記非常用スイッチがオンとなっているかを検出するスイッチ状態検出手段と、前記変速制御モジュールに搭載され、前記シフトロックソレノイドに分圧抵抗を介して電圧を印加する電源部と、前記分圧抵抗と前記シフトロックソレノイドとの間の電圧を検出する電圧検出部と、を備えたモニタ部と、前記スイッチ状態検出手段で前記非常用スイッチがオンとなっていることを検出し、かつ、前記モニタ部で検出した電圧が予め設定した閾値電圧以下であるとき、前記非常用スイッチが異常であると判断する異常判断部と、を備えた非常用スイッチの診断装置である。
【0010】
前記非常用スイッチは、前記共通端子と前記通常用端子とを備えた第1接点と、第1接点と連動する第2接点と、を備えた2接点スイッチで構成され、前記スイッチ状態検出手段は、前記第2接点の接点信号を検出することで、前記非常用スイッチがオンとなっているかを検出するように構成されてもよい。
【0011】
また、本発明は、前記非常用スイッチの診断装置を備えた変速制御システムであって、コイルに電流が流れたときに接点を閉じるように構成され、スタータへの電源の供給・遮断を切り替えるスタータリレーと、前記コイルに流れる電流を遮断することで前記スタータへの電源供給を強制的に遮断するスタータカットリレーと、を備え、前記スタータリレーの前記コイルの一端にスタータスイッチを介して電圧が印加され、前記コイルの他端がスタータカットリレーを介して接地されるように構成されており、前記非常用スイッチは、オンとされたときに前記共通端子と非常用端子とを接続するように構成され、かつ、前記非常用端子が前記スタータリレーの他端に接続されている変速制御システムである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、非常用スイッチの診断を行うことが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を添付図面にしたがって説明する。
【0015】
図1は、本実施形態に係る非常用スイッチの診断装置を備えた変速制御システムの回路図である。
【0016】
図1に示すように、変速制御システム100は、スタータスイッチ10と、スタータリレー11と、スタータカットリレー12と、シフトロックソレノイド13と、変速制御モジュールとしてのトランスミッションコントロールモジュール(以下、TCMという)14と、非常用スイッチ15と、を備えている。変速制御システム100は、例えば、AMT方式の変速制御システムである。
【0017】
スタータスイッチ10は、エンジン始動時(イグニションキーをオンにした際)など、スタータを作動させる際に接点が閉じられるスイッチである。
【0018】
スタータリレー11は、内蔵されたコイル11aに電流が流れたときに接点を閉じるように構成され、スタータへの電源の供給・遮断を切り替えるものである。
【0019】
スタータカットリレー12は、スタータリレー11のコイル11aに流れる電流を遮断することで、スタータリレー11の接点を強制的に開放させ、スタータへの電源供給を強制的に遮断するものである。スタータカットリレー12は、内蔵されたコイル12aに電流が流れたときに接点を開くように構成されている。
【0020】
スタータリレー11のコイル11aの一端には、スタータスイッチ10を介して所定の電圧が印加されている。スタータリレー11のコイル11aの他端は、スタータカットリレー12を介して接地されるように構成されている。
【0021】
また、スタータカットリレー12のコイル12aの一端には所定の電圧が印加され、他端はTCM14に接続されている。
【0022】
変速制御システム100では、TCM14がスタータカットリレー12のコイル12aを通る回路を電気的に遮断するとスタータカットリレー12の接点が閉じた状態となる。よって、この状態でスタータスイッチ10を閉じれば、スタータリレー11のコイル11aに電流が流れ、スタータリレー11の接点が閉じてスタータに電源が供給される。
【0023】
他方、TCM14がスタータカットリレー12のコイル12aを通る回路を導通させると、スタータカットリレー12の接点が開いた状態となる。そのため、この状態では、たとえスタータスイッチ10が閉じた状態であったとしても、スタータリレー11のコイル11aに電流が流れないこととなり、スタータに電源は供給されないことになる。
【0024】
TCM14は、例えば、エンジン始動時にはスタータカットリレー12の接点を閉じておき、かつ、スタータスイッチ10がオンとされてスタータに電源を供給し、スタータの駆動によりエンジンが始動した後に、スタータカットリレー12の接点を開いてスタータへの電源供給を停止するように構成されている。
【0025】
シフトロックソレノイド13は、図示しないシフトレバーを機械的に固定し、シフトレバーの操作を禁止するものである。シフトロックソレノイド13は、進退可能な頭部を有しており、電流が供給されたときに頭部を進出させてシフトレバーをロックするように構成される。より具体的には、シフトロックソレノイド13は、例えば、その頭部をシフトレバーと一体に設けられたプレートの穴(または切欠き)に挿入することで、シフトレバーを操作できないよう(シフトレバーが動かないよう)機械的にロックするように構成される。
【0026】
TCM14は、種々の変速制御およびシフトロックソレノイド13の制御を行うものである。TCM14は、所定の条件を満足したとき、シフトロックソレノイド13を制御してシフトレバーをロックするように構成されている。なお、
図1では、シフトロックソレノイド13を制御する回路については省略している。
【0027】
非常用スイッチ15は、オンとされたときに、シフトレバーの位置にかかわらずスタータへの電源の供給を可能とするスイッチである。非常用スイッチ15は、例えば、車両のインストゥルメンタルパネルに搭載され、運転者により操作される押しボタン式のスイッチである。
【0028】
非常用スイッチ15は、共通端子Aと通常用端子Bと非常用端子Cの3つの端子を有しており、オフとされたときに共通端子Aと通常用端子Bとを電気的に接続し、オンとされたときに共通端子Aと通常用端子Bとを電気的に遮断すると共に、共通端子Aと非常用端子Cとを電気的に接続するように構成されている。
【0029】
共通端子Aは接地され、通常用端子Bはシフトロックソレノイド13を介してTCM14に電気的に接続され、非常用端子Cは、整流用のダイオード16を介してスタータリレー11のコイル11aの他端(スタータリレー11とスタータカットリレー12との間の線路)に電気的に接続されている。
【0030】
また、本実施形態では、非常用スイッチ15として、上述の端子A〜Cを備えた第1接点15aと、第1接点15aと連動する第2接点15bと、を備えた2接点スイッチを用いている。第2接点15bは、オフとされたときに接点を開放し、オンとされたときに接点を閉じるように構成されている。第2接点15bの一方の端子Dには、整流用のダイオード17を介して所定の電圧が印加されており、他方の端子Eは、TCM14に接続されている。
【0031】
非常用スイッチ15をオフした状態では、共通端子Aと通常用端子Bとが電気的に接続されるため、シフトロックソレノイド13は接地される。よって、TCM14側から制御用の電圧を印加すれば、シフトロックソレノイド13に電流が供給され、シフトレバーのロックが行われることになる。TCM14側からの電圧印加を停止すれば、シフトロックソレノイド13への電流の供給が停止され、シフトレバーのロックが解除される。なお、非常用スイッチ15をオフした状態では、第2接点15bは開放されている。
【0032】
他方、
図2に示すように、非常用スイッチ15をオンした状態では、通常用端子Bが開放状態となる。よって、TCM14側からの電圧印加の有無にかかわらずシフトロックソレノイド13への電流の供給が停止されることとなり、シフトレバーのロックが強制的に解除される。
【0033】
これと同時に、非常用スイッチ15をオンした状態では、共通端子Aと非常用端子Cとが電気的に接続されるため、スタータリレー11のコイル11aの他端が、スタータカットリレー12をバイパスして接地されることになる。よって、スタータカットリレー12の開閉状態にかかわらず、スタータスイッチ10を閉じればコイル11aに電流が流れ、スタータリレー11の接点を閉じてスタータに電源を供給し、エンジンを始動することが可能になる。
【0034】
また、非常用スイッチ15をオンした状態では、第2接点15bが閉じるため、第2接点15bを介してTCM14側に電圧が印加されることになる。
【0035】
さて、変速制御システム100は、本実施形態に係る非常用スイッチの診断装置1を備えている。
【0036】
非常用スイッチの診断装置1は、非常用スイッチ15、または、端子EとTCM14間のハーネスに異常があるか否かを診断するものであり、スイッチ状態検出手段2と、モニタ部3と、異常判断部6と、を備えている。
【0037】
スイッチ状態検出手段2は、非常用スイッチ15がオンとなっているかを検出するものである。本実施形態では、非常用スイッチ15の第2接点15bの接点信号を検出することで、非常用スイッチ15がオンとなっているかを検出するようにスイッチ状態検出手段2を構成した。
【0038】
より具体的には、本実施形態では、スイッチ状態検出手段2は、非常用スイッチ15の第2接点15bと、TCM14に搭載され、第2接点15bを介して入力される電圧(または電流)が予め設定した閾値よりも大きいときに、非常用スイッチ15がオンになっていると判断するスイッチ状態検出部2aと、で構成されている。
【0039】
モニタ部3は、TCM14に搭載されている。モニタ部3は、シフトロックソレノイド13に分圧抵抗Rを介して電圧を印加する電源部4と、分圧抵抗Rとシフトロックソレノイド13との間の電圧を検出する電圧検出部5と、を備えている。分圧抵抗Rは、シフトロックソレノイド13の内部抵抗よりも十分に大きい抵抗値に設定される。
【0040】
このモニタ部3は、従来よりシフトロックソレノイド13の動作モニタ用に搭載されているものであり、部材の共用によるコスト低減を可能としている。なお、分圧抵抗Rをシフトロックソレノイド13の内部抵抗よりも十分に大きい抵抗値に設定しておくことにより、電源部4で電圧を印加した際に、シフトロックソレノイド13に印加される電圧は非常に小さくなり、シフトロックソレノイド13に流れる電流も小さくなる。よって、電源部4で電圧を印加することによりシフトロックソレノイド13が動作してしまうことはない。本実施形態では、電源部4により常時電圧を印加するように構成しているが、シフトロックソレノイド13の誤動作を確実に避けるため、電源部4は、非常用スイッチ15がオンとされたときのみ電圧を印加するように構成されても構わない。
【0041】
異常判断部6は、TCM14に搭載されている。異常判断部6は、スイッチ状態検出手段2のスイッチ状態検出部2aで非常用スイッチ15がオンとなっていることを検出し、かつ、モニタ部3で検出した電圧が予め設定した閾値電圧以下であるとき、非常用スイッチ15が異常であると判断するように構成される。
【0042】
図1に示したように、非常用スイッチ15がオフとなっているときには、共通端子Aと通常用端子Bとが導通し、シフトロックソレノイド13の一端が接地されるので、モニタ部3の電圧検出部5で検出される電圧は、電源部4で印加する電圧が、分圧抵抗Rとシフトロックソレノイド13の内部抵抗とで分圧された電圧となる。本実施形態では、分圧抵抗Rをシフトロックソレノイド13の内部抵抗よりも十分におおきい抵抗値に設定しているため、電圧検出部5で検出される電圧は、接地電位に近い電圧となる。
【0043】
他方、
図2に示したように、非常用スイッチ15がオンとなっているときには、通常用端子Bが開放状態となるため、モニタ部3の電圧検出部5で検出される電圧は、ほぼ電源部4で印加する電圧と等しい電圧となる。
【0044】
したがって、非常用スイッチ15がオンとなっているにもかかわらず、電圧検出部5で検出される電圧が、電源部4で印加する電圧と比較して低くなる場合には、非常用スイッチ15にショート等の異常が発生し、共通端子Aと通常用端子Bとが導通してしまっている可能性がある。
【0045】
そこで、本実施形態では、電圧検出部5で検出される電圧が閾値電圧よりも低くなったときに、非常用スイッチ15に異常があると判断するように異常判断部6を構成している。異常判断部6で用いる閾値電圧は、シフトロックソレノイド13の内部抵抗や分圧抵抗Rの大きさに応じて適宜設定するとよいが、少なくとも、電源部4で印加する電圧よりも小さい必要がある。
【0046】
異常判断部6は、非常用スイッチ15に異常があると判断したとき、故障表示ランプを点灯させること等により、非常用スイッチ15に異常があることを運転者に通知するよう構成されてもよい。
【0047】
また、非常用スイッチ15の異常時、すなわち、共通端子Aと通常用端子Bとが導通してしまっている時には、意図せずシフトロックソレノイド13に電流が流れてシフトレバーがロックされる場合も考えられる。よって、異常判断部6は、非常用スイッチ15に異常があると判断したとき、シフトロックソレノイド13が設けられた回路をTCM14内で強制的に遮断するなどして、シフトロックソレノイド13によるシフトレバーのロックを強制的に解除させるように構成されてもよい。
【0048】
以上説明したように、本実施形態に係る非常用スイッチの診断装置1は、非常用スイッチ15がオンとなっているかを検出するスイッチ状態検出手段2と、TCM14に搭載され、シフトロックソレノイド13に分圧抵抗Rを介して電圧を印加する電源部4と、分圧抵抗Rとシフトロックソレノイド13との間の電圧を検出する電圧検出部5と、を備えたモニタ部3と、スイッチ状態検出手段2で非常用スイッチ15がオンとなっていることを検出し、かつ、モニタ部3で検出した電圧が予め設定した閾値電圧以下であるとき、非常用スイッチ15が異常であると判断する異常判断部6と、を備えている。
【0049】
これにより、非常用スイッチ15に異常があるか否かを診断することが可能となり、非常用スイッチ15の内部で発生したショート等の異常を検知することが可能になる。
【0050】
また、本実施形態に係る非常用スイッチの診断装置1では、モニタ部3として、従来よりシフトロックソレノイド13の電圧モニタ用に用いられていたものを用いることができるため、低コストである。
【0051】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【0052】
例えば、上記実施形態では、非常用スイッチ15の第2接点15bの接点信号を検出することで、非常用スイッチ15がオンとなっているかを検出するようにスイッチ状態検出手段2を構成したが、スイッチ状態検出手段2の具体的な構成はこれに限定されるものではない。例えば、スイッチ状態検出手段2は、非常用スイッチ15の機械的な動き(押しボタンや接点を構成する金属片等の部品の変位等)により、非常用スイッチ15の接続状態を検出するものであってもよい。