(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6394196
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】ゴム押出装置
(51)【国際特許分類】
B29C 47/70 20060101AFI20180913BHJP
B29K 21/00 20060101ALN20180913BHJP
【FI】
B29C47/70
B29K21:00
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-177110(P2014-177110)
(22)【出願日】2014年9月1日
(65)【公開番号】特開2016-49729(P2016-49729A)
(43)【公開日】2016年4月11日
【審査請求日】2017年8月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(72)【発明者】
【氏名】平井 秀憲
【審査官】
▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−103421(JP,A)
【文献】
特開平08−001664(JP,A)
【文献】
特開2006−205418(JP,A)
【文献】
実開昭61−105125(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 47/00−47/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のシリンダと、このシリンダ内に配置されるスクリューと、このシリンダの先端に設置されるヘッドと、このヘッドの先端部に配置され押出口を有するダイとを備えたゴム押出装置において、
前記押出口の前端面よりも後方に引っ込んだ所定位置から前記シリンダ側に向かって延在する整流体を少なくとも前記ダイまたは前記ヘッドに形成された押出流路の内部にこの押出流路の内面とは離間した状態で設置し、この押出流路と前記整流体の間の隙間に、前記スクリューにより押し出されたゴムを通過させて前記押出口から押し出す構成にしたことを特徴とするゴム押出装置。
【請求項2】
筒状のシリンダと、このシリンダ内に配置されるスクリューと、このシリンダの先端に設置されるヘッドと、このヘッドの先端部に配置され押出口を有するダイとを備えたゴム押出装置において、
前記押出口の前端面よりも後方に引っ込んだ所定位置から前記シリンダ側に向かって延在する平板状の整流体を少なくとも前記ダイまたは前記ヘッドに形成された押出流路の内部に前記整流体の相対的に面積が大きい対向する両平面をそれぞれ、この押出流路の内面と対向させて離間した状態にして設置し、この押出流路と前記整流体の間の隙間に、前記スクリューにより押し出されたゴムを通過させて前記押出口から押し出す構成にしたことを特徴とするゴム押出装置。
【請求項3】
前記整流体の延在長さが10mm以上である請求項1または2に記載のゴム押出装置。
【請求項4】
前記所定位置が前記押出口の前端面から後方に1mm以上の位置に設定された請求項1〜3のいずれかに記載のゴム押出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム押出装置に関し、さらに詳しくは、簡易な構成でありながら、押し出されたゴム押出物の押出方向の収縮を短時間に抑制することができるゴム押出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤ等のゴム製品を製造する際には、ゴム押出装置によって未加硫ゴムを押出す押出し工程がある。ゴム押出装置では、内設されたスクリューによって未加硫ゴムを可塑化し、先端のダイに形成された押出口から押し出すことにより、所定形状に型付けされたゴム押出物にする。このゴム押出物は、冷却後に所定長さに切断される。ゴムは粘弾性特性を有するので、押出し工程での歪をエネルギーとして内部に溜め込み、これが原因となって切断した後、主に、押出し方向に収縮(シュリンク)する。収縮が過大になると、予め設定された寸法との差異が大きくなり、後工程で支障が生じるという問題がある。
【0003】
このような問題を解決する方法は、従来、種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、押出機の下流側に配置した振動装置によって、ゴム押出物に振動を与えてゴムの収縮速度を早くする。このようにしてゴム押出物を十分に収縮させることにより、後工程での収縮を防止している。
【0004】
その他の対策として、押出機の下流側に複数の搬送コンベヤを直列に配置して、下流の搬送コンベヤ程、搬送速度を遅く設定する方法が知られている。この方法では、搬送コンベヤを乗り移る際にゴム押出物を強制的に収縮させることにより、後工程での収縮を防止している。しかしながら、これら従来の対策では、装置が大掛かりになり、また、収縮を抑えるまでに要する時間が長くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−244090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、簡易な構成でありながら、押し出されたゴム押出物の押出方向の収縮を短時間に抑制することができるゴム押出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明のゴム押出装置は、筒状のシリンダと、このシリンダ内に配置されるスクリューと、このシリンダの先端に設置されるヘッドと、このヘッドの先端部に配置され押出口を有するダイとを備えたゴム押出装置において、前記押出口の前端面よりも後方に引っ込んだ所定位置から前記シリンダ側に向かって延在する整流体を少なくとも前記ダイまたは前記ヘッドに形成された押出流路の内部に
この押出流路の内面とは離間した状態で設置し、この押出流路と前記整流体の間の隙間に、前記スクリューにより押し出されたゴムを通過させて前記押出口から押し出す構成にしたことを特徴とする。
本発明の別のゴム押出装置は、筒状のシリンダと、このシリンダ内に配置されるスクリューと、このシリンダの先端に設置されるヘッドと、このヘッドの先端部に配置され押出口を有するダイとを備えたゴム押出装置において、
前記押出口の前端面よりも後方に引っ込んだ所定位置から前記シリンダ側に向かって延在する平板状の整流体を少なくとも前記ダイまたは前記ヘッドに形成された押出流路の内部に前記整流体の相対的に面積が大きい対向する両平面をそれぞれ、この押出流路の内面と対向させて離間した状態にして設置し、この押出流路と前記整流体の間の隙間に、前記スクリューにより押し出されたゴムを通過させて前記押出口から押し出す構成にしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ダイまたはヘッドに形成された押出流路の内部に整流体を設置して、押出流路と整流体の間の隙間に、スクリューにより押し出されたゴムを通過させることにより、このゴムは押出流路の内面および整流体の表面と接触しつつ押出口から押し出されることになる。押出流路の内面および整流体の表面と接触する部分には、押出方向と直交する方向の歪が残留する。これら部分は、押し出された際に、この歪に起因して押出方向に伸びる挙動を示すので、結果的にゴム押出物の収縮を抑えることができる。即ち、大掛かりな構造を必要とすることなく、整流体を設けた簡易な構成でありながら、押出し直後からゴム押出物の押出方向の収縮を抑制できる。これにより、短時間で十分にゴム押出物の収縮を抑えることが可能になる。
【0009】
また、整流体を押出口の前端面よりも後方に引っ込んだ所定位置からシリンダ側に向かって延在することで、押出流路と整流体の間の隙間を通過したゴムは、押出口から押し出された直後に一体化するのでゴム押出物は整流体によって分割されたままになることがない。それ故、ゴム押出物を後工程で支障なく使用することができる。
【0010】
ここで、例えば、前記整流体の延在長さが10mm以上である仕様にする。この仕様によれば、整流体の表面に接触するゴムの部分に対して、押出方向と直交する方向の歪を十分に与えることができる。そのため、ゴム押出物の押出方向の収縮を抑制するには有利になる。
【0011】
例えば、前記所定位置を前記押出口の前端面から後方に1mm以上の位置に設定された仕様にする。この寸法が1mm未満であると、ゴム押出物は整流体によって分割されたままの状態になる可能性が高くなる。それ故、この寸法を1mm以上に設定することで、後工程で支障なくそのまま使用できるゴム押出物を得ることができる。
【0012】
前記整流体は例えば板状にする。板状の整流体にすることで通過するゴムに対する抵抗が過大になることを防止できるので、円滑な押出作業が確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のゴム押出装置を平面視で例示する説明図である。
【
図2】
図1のダイを正面視で例示する説明図である。
【
図3】
図1のダイおよびヘッド周辺を側面断面視で例示する説明図である。
【
図4】従来の押出直後のゴム押出物の状態を断面視で例示する説明図である。
【
図5】本発明のゴム押出装置によって押出直後のゴム押出物の状態を断面視で例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のゴム押出装置を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0015】
図1〜
図3に例示する本発明のゴム押出装置1は、筒状のシリンダ2と、シリンダ2の内部に配置されるスクリュー4と、シリンダ2の先端に設置されるヘッド3とを備えている。ヘッド3の先端にはダイ5が取り付けられている。ダイ5には押出口6が形成され、押出口6の前方には引き取りコンベヤ9が配置されている。
【0016】
押出口6の前端面よりも後方に引っ込んだ所定位置からシリンダ2側に向かって整流体8が延在している。即ち、押出口6の前端面から後方に所定寸法aの位置から後方に延在する延在長さbの整流体8が設置されている。この整流体8は、少なくともダイ5またはヘッド3に形成された押出流路7の内部に設置される。この実施形態では、平板状の整流体8から下方に延びる接続部8aを介して、整流体8がダイ5に固定されている。そして、整流体8は、ダイ5およびヘッド3に形成された押出流路7に跨って延在している。整流体8は、ダイ5に形成された押出流路7のみ、或いは、ヘッド3に形成された押出流路7のみに延在させることもできるが、押出口6近傍の押出流路7に設置する。
【0017】
所定寸法aは例えば1mm以上に設定される。所定寸法aの上限値は、整流体8が押出口6の近傍に配置されることになる範囲で設定され、例えば50mm程度である。延在長さbは例えば10mm以上に設定される。延在長さbの上限値は例えば100mm程度であるが、これに限定されない。
【0018】
尚、この実施形態では、1つの整流体8がその厚さ方向を押出口6の厚さ方向(縦方向)にして押出口6の幅方向(横方向)に平行に、押出口6の幅方向中央部に配置されている。整流体8の向きは、これに限定されず、例えば、その厚さ方向を押出口6の幅方向(横方向)にして押出口6の厚さ方向(縦方向)に平行に配置することもできる。
【0019】
生産ラインでこのゴム押出装置1によってゴム押出物Rを押し出す際には、所定量の未加硫ゴムおよび配合剤を押出機1に投入する。これら材料は回転するスクリュー4により混合、混練される。混合、混練された未加硫ゴムは、ある程度柔らかくなって(可塑化されて)押出口6から押出口6の断面形状に型付けされて、未加硫のゴム押出物Rとしてシート状に押し出される。
【0020】
この際に、スクリュー4により前方に押し出されたゴムが、押出流路7と整流体8の間の隙間を通過して押出口6から押し出される。即ち、スクリュー4によってシリンダ2側から押し出されたゴムは、押出流路7の内面および整流体7の表面と接触しつつ押出口6から押し出される。
【0021】
ここで、従来のゴム押出装置では、ゴム押出物Rは、押出流路7の内面に接触しつつ押出口6から押出される。この際に、押出流路7の内面と接触する部分には、押出方向と直交する方向の歪が残留する。本発明の発明者は、従来のゴム押出装置による多数のゴム押出物Rの形状を観察、分析することにより、
図4に例示するように、この歪が残留した部分は、押し出された際に、この歪に起因して先端方向(押出方向)に伸びる挙動を示すことを知得した。
【0022】
そのため、ゴム押出物Rの先端部は、外周部分が相対的に先端方向(押出方向)に突出し、断面中央部が相対的に後方に窪んだ形状になる。即ち、ゴム押出物Rを押出す直前に押出方向と直交する方向に歪を残留させると、押出後にその部分が押出方向に伸び、これに伴って、収縮しようとする断面中央部の収縮を抑制する。本発明はこの原理を利用している。
【0023】
図5に例示するように本発明のゴム押出装置1では、押出流路7の内面および整流体8の表面と接触する部分には、押出方向と直交する方向の歪が残留する。この歪が残留した部分が、押し出された際に、この歪に起因して押出方向に伸びる挙動を示すので、従来に比して、押出方向に伸びる部分が増大する。その結果、収縮しようとする断面中央部の収縮が抑制されて、全体として、ゴム押出物Rの収縮が抑制されることになる。
【0024】
本発明のゴム押出装置1によれば、大掛かりな構造を必要とすることなく、整流体8を設けた簡易な構成でありながら、押出し直後からゴム押出物Rの押出方向の収縮を抑制することが可能になる。即ち、引き取りコンベヤ9の上で、ゴム押出物Rが十分に収縮させるために長時間待つ等の処理をしなくても、短時間に収縮が収まる。それ故、従来に比して短時間で十分にゴム押出物Rの収縮を抑えることが可能になる。
【0025】
整流体8によって一次的に分割されたゴムは、押し出された流れのなかで、分割された後ですぐに分割面どうしが自然に接合して一体化する。即ち、整流体8によって分割された未加硫ゴムのスウェル(広がろうとする性質)によって、ゴム押出物Rの分割面どうしが自動的に接合する。
【0026】
したがって、ゴム押出物Rの分割面どうしが接合することにより分割面は消滅し、引き取りコンベヤ9によって次工程に搬送される。それ故、ゴム押出物Rはそのまま製造ラインの次工程に送って使用することができる。
【0027】
整流体8の延在長さbを10mm以上にすると、整流体8の表面に接触するゴムの部分に対して、押出方向と直交する方向の歪を十分に与えることができる。そのため、ゴム押出物Rの押出方向の収縮を抑制するには有利になる。適切な延在長さbは例えば、10mm〜50mmである。
【0028】
整流体8の前端位置は、押出口6の前端面から後方に1mm以上の位置に設定するとよい。所定寸法aが1mm未満であると、ゴム押出物Rは整流体8によって分割されたままの状態になる可能性が高くなり、後工程での使用に支障が生じる。それ故、この所定寸法aを1mm以上に設定することで、後工程で支障なくそのまま使用できるゴム押出物Rを得ることができる。また、この所定寸法aを過大にすると、ゴム押出物Rの収縮を抑制する効果がなくなるので、所定寸法aは例えば1mm〜50mmにすることが好ましい。
【0029】
整流体8は板状の他、円柱状は円錐状、角錐状など様々な形状にすることができる。板状の整流体8にすることで通過するゴムに対する抵抗が過大になることを防止できるので、円滑な押出作業が確保できる。平板状の整流体8は、相対的に面積が大きい平面が押出流路7の内面に対向するように、押出流路7の延設方向に沿った向きに延在させる。例えば、断面四角形状の押出流路7の場合は断面四角形状の整流体8を使用し、断面円形状の押出流路7の場合は断面円形状の整流体8を使用して、押出流路7と整流体8の断面形状どうしは同じ形状(相似形状)にする。
【0030】
また、押出流路7の断面積に対して整流体8の断面積が過大になると、ゴムに対する抵抗が過大になり、ゴム温度が高くなり過ぎる、或いは、整流体8に過大な外力が作用する等の問題が生じる。そのため、押出流路7の断面積に対する整流体8の断面積が占める割合は40%以下が好ましく、より好ましくは5%〜30%、さらに好ましくは5%〜20%にする。
【0031】
複数の整流体8を設けることもできる。この場合、押出流路7の断面視で、整流体8の表面と押出流路7の内面との最大離間距離、隣り合う整流体8どうしの最大離間距離が100mm以下になるように配置にすることが好ましい。具体的には、押出口6が幅寸法300mm、高さ寸法50mmの長方形状の場合、押出流路7には例えば幅寸法10mm、高さ寸法5mmの3つの整流体8を幅方向に配置し、互いの幅方向間隔、最も右側の整流体8と押出口6の右内面、最も左側の整流体8と押出口6の左内面がそれぞれ等間隔になるようにすることが好ましい。
【実施例】
【0032】
断面円形状の押出流路および押出口を備えた押出装置を用いてゴム押出物を押出した。この際に、整流体の有無だけを異ならせて押出を行なった。整流体は、平板状であり、押出口の前端面よりも後方に1〜2mm引っ込んだ位置からシリンダ側に10mm延在させて、押出流路を横切るように設置した。押出流路の断面積に対して、整流体の断面積が占める割合は10%程度であった。
【0033】
整流体の有無だけを異ならせた2種類のサンプルについて、押出直後と十分に押出方向の収縮が収まった時とを比較して、押出方向の収縮率を測定した。その結果、整流体を設けて押出したゴム押出物は、整流体を設けずに押出したゴム押出物に比して、押出方向の収縮率が30%程度低減したことが確認できた。
【符号の説明】
【0034】
1 押出装置
2 シリンダ
3 ヘッド
4 スクリュー
5 ダイ
6 押出口
7 押出流路
8 整流体
8a 接続部
9 引取りコンベヤ
R ゴム押出物