(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術では、鋳造スケジュールを基に遡って計算することによって仮算出した転炉、二次精錬設備、および、連続鋳造機のスケジュールから得られる処理順序を前提条件として、線形計画法により溶鋼搬送単位ごとの操業スケジュールを計算している。しかしながら、処理順序を前提条件とした製鋼スケジューリング問題では、任意チャージの処理スケジュールはその前後のチャージの処理スケジュールに制限されるので、処理時間をとることが可能な時間範囲が狭い。そのため、特許文献1に開示されている技術で作成された操業スケジュールは、十分に最適なスケジュールになっていない虞がある。特に、複数の連続鋳造機を有する製鋼工場のスケジューリングでは、キャストの時間的な位置関係によって、二次精錬工程および転炉工程において設備競合が発生するため、チャージの滞留時間を考慮してキャストスケジュールを決定する必要がある。
【0007】
本発明は上記の問題点を鑑みてなされたものであり、コストおよび生産性を考慮した操業スケジュールを作成することが可能な、製鋼プロセスにおける操業スケジュール作成方法、ならびに、製鋼プロセスにおける操業スケジュール作成装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
2基以上の連続鋳造機を有する製鋼工場においては、複数連続鋳造機におけるキャストの時間的な配置がスケジュールの評価に影響する。例えば、2基の連続鋳造機において同時間帯に各連続鋳造機にキャストを配置すると、2基の連続鋳造機が共通して利用する転炉や二次精錬装置において、チャージ処理時間帯に重なりが生じる。この時間的な重なりは、いずれかのチャージの処理開始を早めることで干渉を回避可能であるが、処理すべきチャージ数が多い場合は、処理時刻の早期化が多数のチャージにわたって発生して、溶鋼滞留時間を長時間化させる。溶鋼滞留時間を短縮化させるためには、2基の連続鋳造機におけるキャストの鋳造時間帯が重複しないようにして、転炉工程や二次精錬工程における干渉を抑制すれば良い。しかしながら、この場合には、キャスト間の非鋳造時間が長くなるため、製鋼工場の生産量が低下する。このように、製鋼工場における生産コストに関連する溶鋼滞留時間と生産性とはトレードオフの関係にあり、2つの指標を同時に最適化する製鋼スケジュールを求めることは難しい。
【0009】
上記の製鋼スケジューリング問題に対して、従来は、鋳込スケジュールを前提条件とし、遡り計算によって仮計算した製鋼スケジュールから、各設備における処理順序を求め、次に処理順序を前提条件として溶鋼滞留時間と生産量に関する指標とからなる目的関数が最適となるように、例えば線形計画法を用いて最適スケジュールを計算していた。
しかしながら、上記の従来技術では、鋳込スケジュールを前提条件としているため、そこから求めた処理順序を充足する範囲でしか転炉、二次精錬装置、および連続鋳造機におけるチャージの処理スケジュールを変更することができない。また、与えられた鋳込スケジュールにおけるキャストの鋳造時刻が不適切である場合、不適切な鋳造時刻を含む鋳込スケジュールから仮算出される処理順序を前提条件として操業スケジュールを求めたとしても、全体的に最適なスケジュールとなる保証はない。
【0010】
このような状況を鑑みて鋭意検討した結果、本発明者は、処理順序の制約条件の範囲を超えて、チャージの処理時刻を決定できるようにすることによって、更に目的関数を改善可能な複数の連続鋳造機におけるキャスト配置を決定することが可能になることを知見した。
また、処理順序を決定変数とするスケジューリング問題を混合整数計画問題として定式化して、実際の操業規模の問題を解こうとすると、解候補数が爆発的に増加するため、実用的な計算時間で解を得ることが難しい。そこで、本発明者は、チャージの登録情報を用いて一部の処理順序を固定することにより、解の選択候補を少なくして計算時間を短縮化することを知見した。
本発明は、このような知見に基づいて完成させた。以下、本発明について説明する。
【0011】
本発明の第1の態様は、少なくとも、1基以上の転炉による転炉工程、1基以上の二次精錬装置による二次精錬工程、および、1基以上の連続鋳造機による連続鋳造工程、を有する製鋼工場における操業スケジュールを作成する方法であって、スケジュール作成対象期間に製造予定であるチャージの処理工程、該処理工程における所要時間、処理設備間の最短搬送時間、および、連続鋳造機における連々鋳順位、を含む操業予定情報を読み込む操業予定情報読込工程と、操業予定情報を用いて制約条件を設定する制約条件設定工程と、任意のチャージの生産コストに関する指標および生産量に関する指標を含む目的関数を生成する目的関数生成工程と、制約条件設定工程で設定した制約条件の下で、目的関数生成工程で生成した目的関数を、最大化または最小化する、転炉、二次精錬装置、ならびに、連続鋳造機による処理の、開始時刻および終了時刻を決定するスケジュール演算工程と、を有し、上記制約条件に、(1)転炉、二次精錬装置、および、連続鋳造機による処理の、開始時刻と終了時刻との関係、(2)転炉による処理の終了時刻、転炉と二次精錬装置との間の搬送時間、および、二次精錬装置による処理の開始時刻との関係、(3)二次精錬装置による処理の終了時刻、二次精錬装置と連続鋳造機との間の搬送時間、および、連続鋳造機による処理の開始時刻との関係、ならびに、(4)製造するチャージ間の処理順序を表わす0−1変数を用いて表される、転炉工程、二次精錬工程、および、連続鋳造工程における、チャージ間の処理時刻の関係、が含まれることを特徴とする、製鋼工場における操業スケジュール作成方法である。
【0012】
ここで、本発明において、「スケジュール作成対象期間に製造予定であるチャージの処理工程」とは、各チャージについて、製鋼工場で行われる予定の工程(転炉工程、二次精錬工程、連続鋳造工程)に関する情報をいう。また、「処理設備間の最短搬送時間」とは、転炉と二次精錬装置との間の最短搬送時間、および、二次精錬装置と連続鋳造機との間の最短搬送時間をいう。また、本発明において、「任意のチャージの生産コストに関する指標」とは、例えば、任意のチャージの転炉工程の終了から連続鋳造工程の開始までの所要時間である溶鋼滞留時間や、任意のチャージのメンテナンスや温度調整にかかるコストをいう。また、本発明において、「生産量に関する指標」とは、例えば、連続鋳造工程の完了時刻や、キャスト間の非鋳造時間をいう。このような形態にすることにより、製鋼工場における処理順序と各設備(転炉、二次精錬装置、および、連続鋳造機。以下において同じ。)における処理時刻とを同時に最適化することが可能になる。その結果、コストおよび生産性を考慮した操業スケジュールを作成することが可能な、製鋼プロセスにおける操業スケジュール作成方法を提供することが可能になる。
【0013】
また、上記本発明の第1の態様において、さらに、同一の連続鋳造機で鋳造される任意の2つのチャージに関し、鋳造する順番に対応して、処理順序を表わす0−1変数を1または0に固定するという条件が、上記制約条件に含まれることが好ましい。このような形態にすることにより、実操業のスケジュールを短時間で作成しやすくなる。
【0014】
また、上記本発明の第1の態様において、さらに、連続鋳造機で鋳造される、任意のチャージiと、鋳込順序がチャージiから所定の順番以上離れたチャージjとの間の鋳込順序を表す0−1変数を、1または0に固定するという条件が、上記制約条件に含まれることが好ましい。このような形態にすることにより、実操業のスケジュールを短時間で作成しやすくなる。
【0015】
本発明の第2の態様は、少なくとも、1基以上の転炉による転炉工程、1基以上の二次精錬装置による二次精錬工程、および、1基以上の連続鋳造機による連続鋳造工程、を有する製鋼工場における操業スケジュールを作成する装置であって、スケジュール作成対象期間に製造予定であるチャージの処理工程、該処理工程における所要時間、処理設備間の最短搬送時間、および、連続鋳造機における連々鋳順位、を含む操業予定情報を記憶する操業予定情報記憶部と、該操業予定情報記憶部に記憶された操業予定情報を用いて制約条件を設定する制約条件設定部と、任意のチャージの生産コストに関する指標および生産量に関する指標を含む目的関数を生成する目的関数生成部と、制約条件設定部で設定された制約条件の下で、目的関数生成部で生成された目的関数を、最大化または最小化する、転炉、二次精錬装置、ならびに、連続鋳造機による処理の、開始時刻および終了時刻を決定するスケジュール演算部と、を有し、上記制約条件に、(1)転炉、二次精錬装置、および、連続鋳造機による処理の、開始時刻と終了時刻との関係、(2)転炉による処理の終了時刻、転炉と二次精錬装置との間の搬送時間、および、二次精錬装置による処理の開始時刻との関係、(3)二次精錬装置による処理の終了時刻、二次精錬装置と連続鋳造機との間の搬送時間、および、連続鋳造機による処理の開始時刻との関係、ならびに、(4)製造するチャージ間の処理順序を表わす0−1変数を用いて表される、転炉工程、二次精錬工程、および、連続鋳造工程における、チャージ間の処理時刻の関係、が含まれることを特徴とする、製鋼工場における操業スケジュール作成装置である。
【0016】
このような形態にすることにより、製鋼工場における処理順序と各設備における処理時刻とを同時に最適化することが可能になる。その結果、コストおよび生産性を考慮した操業スケジュールを作成することが可能な、製鋼プロセスにおける操業スケジュール作成装置を提供することが可能になる。
【0017】
また、上記本発明の第2の態様において、さらに、同一の連続鋳造機で鋳造される任意の2つのチャージに関し、鋳造する順番に対応して、処理順序を表わす0−1変数を1または0に固定するという条件が、上記制約条件に含まれることが好ましい。このような形態にすることにより、実操業のスケジュールを短時間で作成しやすくなる。
【0018】
また、上記本発明の第2の態様において、さらに、連続鋳造機で鋳造される、任意のチャージiと、鋳込順序がチャージiから所定の順番以上離れたチャージjとの間の鋳込順序を表す0−1変数を、1または0に固定するという条件が、上記制約条件に含まれることが好ましい。このような形態にすることにより、実操業のスケジュールを短時間で作成しやすくなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、コストおよび生産性を考慮した操業スケジュールを作成することが可能な、製鋼プロセスにおける操業スケジュール作成方法、ならびに、製鋼プロセスにおける操業スケジュール作成装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の説明では、1基の転炉、1基の二次精錬装置(以下において、「RH」と称することがある。)、および、2基の連続鋳造機を有する製鋼工場における操業スケジュールを作成する場合を主に例示するが、本発明は以下に説明する形態に限定されない。
【0022】
図1は、本発明により操業スケジュールを作成可能な製鋼工場のプロセスフローを説明する図である。
図1に示したように、1基の転炉、1基のRH、および、2基の連続鋳造機(CC1、CC2)を有する製鋼工場では、転炉工程が行われた後、二次精錬工程が行われ、その後、2基の連続鋳造機による連続鋳造工程が行われる。
【0023】
1.製鋼工場における操業スケジュール作成方法
図2は、本発明の製鋼工場における操業スケジュール作成方法を説明するフローチャートである。
図2に示したように、本発明の操業スケジュール作成方法は、操業予定情報読込工程(S21)と、制約条件設定工程(S22)と、目的関数生成工程(S23)と、スケジュール演算工程(S24)と、を有している。
【0024】
1.1.操業予定情報読込工程
操業予定情報読込工程(S21)は、スケジュール作成対象期間に製造予定であるチャージの処理工程、該処理工程における所要時間、処理設備間の最短搬送時間、および、連続鋳造機における連々鋳順位、を含む操業予定情報を読み込む工程である。具体的には、スケジュール作成対象期間に製造が予定されているチャージについて、転炉、二次精錬装置、および連続鋳造機における設備番号、処理時間、設備間における搬送時間を含む時間の情報、ならびに、連続鋳造機における連続鋳造回数などキャストに関する情報を含む操業予定情報を、該情報が記憶されている操業予定情報記憶部から読み込む工程である。
【0025】
1.2.制約条件設定工程
制約条件設定工程(S22)は、上記S21で読み込んだ操業予定情報を用いて、制約条件を設定する工程である。S22で設定される制約条件には、(1)転炉、RH、および、連続鋳造機による処理の、開始時刻と終了時刻との関係、(2)転炉による処理の終了時刻、転炉とRHとの間の搬送時間、および、RHによる処理の開始時刻との関係、(3)RHによる処理の終了時刻、RHと連続鋳造機との間の搬送時間、および、連続鋳造機による処理の開始時刻との関係、ならびに、(4)製造するチャージ間の処理順序を表わす0−1変数を用いて表される、転炉工程、二次精錬工程、および、連続鋳造工程における、チャージ間の処理時刻の関係、が含まれる。後述するスケジュール演算工程で混合整数計画問題を解くことにより操業スケジュールを作成する場合における、S22の具体例について、以下に説明する。
【0026】
N
Iをチャージ集合、N
pを設備集合とし、p=1を転炉、p=2をRH、p=3を連続鋳造機とする。また、チャージiの連続鋳造機番号をN
CC(i)、操業予定情報記憶部に登録された鋳造順序をL(i)とする。ここで、製造するチャージの総数をnとするとき、iは1以上n以下の整数である。
【0027】
設備pにおけるチャージiの処理終了時刻y
i、pは、設備pにおけるチャージiの処理開始時刻x
i、pと処理時間v
i、pを用いて次の式で表される。
【0028】
【数1】
ここで、iはN
Iの要素であり、pはN
pの要素である。
【0029】
また、設備pにおけるチャージiの処理時間v
i、pは、転炉やRHなどの精錬工程において成分調整に最低限必要な時間や、連続鋳造機において鋳造にかかる最短処理時間V
i、pMINによって下限を制約される。また、コストや操業上の観点から、最長処理時間V
i、pMAXによって上限を制約される。
【0032】
次に、設備p+1におけるチャージiの処理開始時刻x
i、p+1は、設備p+1の前に処理が実施された設備pにおけるチャージiの処理終了時刻y
i、p、および、設備pと設備p+1との間の搬送時間w
i、p、p+1を用いて、次の式で表される。
【0034】
また、処理設備間の搬送時間w
i、p、p+1は、クレーンにより取鍋を吊上げる際の所要時間、処理設備間(工程間)の搬送に必要な最短搬送時間、および、クレーンにより取鍋を吊り下げる際の所要時間の合計時間である最短搬送時間W
p、p+1MINによって下限が制約される。
【0036】
各設備において2つのチャージを同時に処理することは不可能であるため、必ずいずれかのチャージが先に処理される。そこで、任意の2チャージi、i’に関して、チャージiが先に処理されるときに1、そうでないときに0となる0−1変数π
i、i’を定義する。チャージiおよびチャージi’について何れかのチャージが先に処理されるという制約は、次の式で表される。
【0037】
【数6】
ここで、iおよびi’はN
Iの要素であり、i’≠iである。
【0038】
また、チャージiの処理終了後にチャージi’の処理を開始するために必要な準備時間をQ
i’、pとするとき、2つのチャージi、i’における処理終了時刻y
i、pと処理開始時刻x
i’、pとの関係は、以下の式で表される。
【0039】
【数7】
ここで、Mは十分に大きい正の定数である。「十分に大きい」とは、左辺の和がとる最大の数値を表しており、例えば、対象とするスケジュールにおいて時間軸上の開始時刻点を0として許容される最大の時刻が1440分(1日を分に換算)、処理準備時間の最大値が20分であれば、それらの和である1460分より大きい値を設定することをいう。
【0040】
次に、チャージiの転炉工程が終了してから連続鋳造工程が開始されるまでの溶鋼滞留時間k
iは、チャージiの連続鋳造機の鋳造開始時刻x
i、3と転炉の処理終了時刻y
i、1とを用いて、次の式で表される。
【0042】
S22は、上記S21で読み込んだ操業予定情報を用いて、例えば式(1)〜(8)で表される制約条件を設定する工程とすることができる。ただし、制約条件として上記式(1)〜(8)を設定するのみでは、実操業規模の操業スケジュールを作成する際に、計算時間が長期化しやすい。そこで、計算時間を短縮化しやすい形態にする観点から、例えば、同一の連続鋳造機において、処理順序の追い越しがないと仮定して、登録されたキャストの順序によって、処理順序を表す0−1変数π
i、i’を固定する、下記式(9)で表される制約条件を追加することが好ましい。
【0043】
【数9】
ここで、式(9)におけるiおよびi’は、何れもN
Iの要素であり、i≠i’である。また、N
CC(i’)=N
CC(i)であり、L(i)<L(i’)である。
【0044】
また、S22では、上記式(9)に代えて、登録された鋳込スケジュールにおける鋳造順序において、処理順序を変更可能な範囲を与える制約条件を設定しても良い。例えば、N
Cを正の整数とするとき、任意のチャージiに関して、登録された鋳込順序における前後N
Cチャージまで順序を変更可能であるとき、下記式(10)および(11)で表される制約条件によって、鋳込順序がチャージiよりN
C以上離れたチャージi’との処理順序に関する0−1変数π
i、i’を固定しても良い。このような制約条件を設定することにより、計算時間を短縮化しやすくなる。
【0045】
【数10】
ここで、式(10)におけるiおよびi’は、何れもN
Iの要素であり、i≠i’である。また、i−i’>N
Cである。
【0046】
【数11】
ここで、式(11)におけるiおよびi’は、何れもN
Iの要素であり、i≠i’である。また、i’−i>N
Cである。
【0047】
1.3.目的関数生成工程
目的関数生成工程(S23)は、生産コストに関する指標(ここでは、任意のチャージの転炉工程の終了から連続鋳造工程の開始までの所要時間である溶鋼滞留時間。)、および、生産量に関する指標(ここでは、連続鋳造工程の完了時刻。)を含む目的関数を生成する工程である。S23で生成される目的関数は、下記式(12)で表される。
ここで、溶鋼滞留時間は高温液体である溶鋼が取鍋内に蓄積されている時間を表し、溶鋼滞留時間の長さによって取鍋内の耐火物が溶損することから溶鋼滞留時間の長期化はメンテナンスに掛るコストの増加を表す。更に溶鋼滞留時間の長さに応じて溶鋼温度は低下するため、連続鋳造機での鋳造に適切な温度として溶鋼を供給するためには、溶鋼が取鍋内に蓄積されている間の温度降下量を見積もって転炉またはRHにおいて温度を高くしておく必要がある。したがって、溶鋼滞留時間が長ければ余分に温度を上昇させておく必要があるため生産コストを増加させる。上記の例では、「生産コストに関する指標」を溶鋼滞留時間とし、これを目的関数に加えたが、例えばメンテナンスや温度調整に掛るコストを「生産コストに関する指標」として、目的関数に加えても問題ない。
また、連続鋳造工程の完了時刻を早期化することは、単位時間当たりの生産量を高め、本スケジュールの対象とする全てのチャージの処理を完了した後に、早期に次のチャージ処理を開始することが可能となるため、連続鋳造工程における完了時刻は生産量を表す指標である。上記の例では、「生産量に関する指標」を連続鋳造工程における完了時刻とし、これを目的関数に加えたが、例えばキャスト間の非鋳造時間を「生産量に関する指標」として、目的関数に加えても良い。
【0048】
【数12】
ここで、c
1およびc
2はコスト係数である。コスト係数は需要や操業環境に影響を受けるため、一意に定められるものではなく、ケースによってオペレータが変更・調整しながら使用すべきパラメータである。したがって、需要量や操業条件に応じて、コスト係数を適宜変更することができる。
【0049】
1.4.スケジュール演算工程
スケジュール演算工程(S24)は、上記S22で設定した制約条件の下で、上記S23で生成した目的関数を、最大化または最小化する、転炉工程、二次精錬工程、ならびに、連続鋳造工程の、開始時刻および終了時刻(操業スケジュール)を決定する工程である。最小化問題の目的関数に「−1」をかけると最大化問題になるため、最大化問題は最小化問題と同様にして解を求めることができる。
【0050】
上記S21〜S24を有する本発明の操業スケジュール作成方法によれば、製鋼工場における処理順序と各設備における処理時刻とを同時に最適化することが可能になる。したがって、本発明によれば、コストおよび生産性を考慮した操業スケジュールを作成することが可能な、製鋼プロセスにおける操業スケジュール作成方法を提供することができる。
【0051】
2.製鋼工場における操業スケジュール作成装置
図3は、本発明の製鋼工場における操業スケジュール作成装置の形態例を説明する図である。
図3に示した本発明の製鋼工場における操業スケジュール作成装置3は、操業予定情報記憶部31と、操業予定情報読込部32と、スケジューリング問題生成部33と、スケジュール演算部34と、スケジュール記憶部35と、スケジュール表示部36と、情報入力部37と、を有し、スケジューリング問題生成部33は、制約条件設定部331および目的関数生成部332を有している。
【0052】
操業予定情報記憶部31は、スケジュール作成対象期間に製造予定であるチャージの処理工程、該処理工程における所要時間、処理設備間の最短搬送時間、および、連続鋳造機における連々鋳順位、を含む操業予定情報を記憶する部位である。
【0053】
操業予定情報読込部32は、操業予定情報記憶部31に記憶されている情報から、スケジュール作成対象期間に製造が予定されているチャージについて、転炉、二次精錬装置、および連続鋳造機における設備番号、処理時間、設備間における搬送時間を含む時間の情報、ならびに、連続鋳造機における連続鋳造回数などキャストに関する情報を含む操業予定情報を読み込む部位である。すなわち、操業予定情報読込部32は、上記S21が行われる部位である。
【0054】
スケジューリング問題生成部33は、操業予定情報読込部32によって読み込まれた操業予定情報を用いて、操業スケジュールが満たすべき制約条件を設定し、目的関数を生成する部位である。制約条件は制約条件設定部331で設定され、目的関数は目的関数生成部332で生成される。すなわち、スケジューリング問題生成部33は、上記S22およびS23が行われる部位である。制約条件設定部331で上記S22が行われ、目的関数生成部332で上記S23が行われる。
【0055】
スケジュール演算部34は、スケジューリング問題生成部33で生成されたスケジュール問題について最適化計算を実施することにより、設定した目的関数にしたがって最適なスケジュールを決定する部位である。例えば、スケジュール問題を混合整数計画問題として定式化する場合、汎用のソルバーを用いることで最適なスケジュールを決定することが可能である。すなわち、スケジュール演算部34は、上記S24が行われる部位である。
【0056】
スケジュール記憶部35は、スケジュール演算部34で決定された最適スケジュールを記憶する部位である。
【0057】
スケジュール表示部36は、スケジュール記憶部35に記憶された最適スケジュールの情報を取り出して、その内容を表示する部位である。その表示形態は特に限定されず、例えば、チャージ単位の時刻が表形式で、またはガントチャートにより表示される。
【0058】
情報入力部37は、例えば、スケジュール表示部36に表示された内容を確認した計画立案者が、スケジュールを修正する必要があると判断した際に、チャージ別に設備の開始時刻や終了時刻等のデータを入力する部位である。情報入力部37から入力されたデータはスケジューリング問題生成部33へと送られ、このデータを用いて、対応する時刻変数x
i、p、またはy
i、pを固定する制約条件が加えられることにより、スケジューリング問題が生成される。計画立案者によって製鋼工場が満たすべき操業条件が満たされたと判断されるまで、情報入力部37には修正データを繰り返し入力することができる。
【0059】
このように、操業スケジュール作成装置3によれば、本発明の製鋼工場の操業スケジュール作成方法を実施することができる。上述のように、本発明の製鋼工場の操業スケジュール作成方法によれば、コストおよび生産性を考慮した操業スケジュールを作成することが可能なので、本発明によれば、コストおよび生産性を考慮した操業スケジュールを作成することが可能な、製鋼プロセスにおける操業スケジュール作成装置を提供することができる。
【0060】
上記説明では、1基の転炉、1基のRH、および、2基の連続鋳造機を有する製鋼工場における操業スケジュールを作成する形態を例示したが、本発明により操業スケジュールを作成可能な製鋼工場は、当該形態に限定されない。本発明により操業スケジュールが作成される製鋼工場は、少なくとも、1基以上の転炉、1基以上の二次精錬装置、および、1基以上の連続鋳造機を有していれば良い。
【0061】
また、上記説明では、二次精錬装置としてRHを例示したが、二次精錬装置の形態はRHに限定されず、他の形態の二次精錬装置が備えられる製鋼工場であっても、本発明により操業スケジュールを作成することが可能である。
【0062】
また、上記説明では、混合整数計画問題による定式化を例示したが、操業スケジュールを決定するために解く最適化問題は、例えば、2次制約を含むような混合整数2次計画問題等に代表される数理計画問題であっても良い。
【実施例】
【0063】
実施例を参照しつつ、本発明についてさらに説明を続ける。
【0064】
上記式(1)〜(9)、および、(12)により生成した混合整数計画問題を解くことにより、1基の転炉、1基のRH、および、2基の連続鋳造機を有する製鋼工場の操業スケジュールを作成した(実施例1)。また、上記式(1)〜(8)、(10)、(11)、および(12)により生成した混合整数計画問題を解くことにより、1基の転炉、1基のRH、および、2基の連続鋳造機を有する製鋼工場の操業スケジュールを作成した(実施例2)。
一方、特許文献1の0038段落に記載されているようにバックワードシミュレーションによって算出した仮スケジュールに基づいて、各設備の処理順序を基に上記式(1)〜(5)、(12)、および、下記式(13)でチャージ間の処理時刻の制約を課すことにより、操業スケジュールを作成した。
なお、上記実施例および比較例では、転炉(p=1)における最短処理時間を25分、RH(p=2)における最短処理時間を15〜30分、連続鋳造機(p=3)における最短処理時間を30〜70分とし、簡単化するため最長処理時間は最短処理時間と同値とした。また、上記実施例では、転炉からRHへの最短搬送時間を40分、RHから連続鋳造機1または2(CC1またはCC2)への最短搬送時間を25分とした。また、上記実施例および比較例では、生産量を確保したうえで、生産にかかるコスト(滞留時間が長くなると溶鋼温度が低下するため溶鋼温度を上昇させるための再加熱を行うコストが生じるほか、取鍋耐火物の溶損によるメンテナンスコストが生じる。)を最小化するという意味で、生産量に関連する鋳造完了時刻により大きな重みを付与した。具体的には、コスト係数c
1およびc
2を、c
1=1、c
2=10とし、最小化問題として解を求めた。
なお、RHは溶鋼を真空槽内に循環させることにより不純なガスを取り除く設備であり、処理するチャージに求められる成分規格によって、RHの最短処理時間が定められる。
また、連続鋳造においては鋳片の表面上の疵や内部の品質によって鋳造速度の最大値が定められており、最大鋳造速度でチャージ1杯分の溶鋼を処理するときの鋳造時間が連続鋳造機の最短処理時間となる。
【0065】
【数13】
【0066】
実施例1で作成した、操業スケジュールを
図4に示す。また、比較例で作成した、操業スケジュールを
図5に示す。
図5と比較して、
図4に示した実施例の操業スケジュールでは、1CCにおけるキャストの非鋳造時間帯に2CCではキャストを配置することで、RHおよび転炉における競合を可能な限り回避し、これにより、目的関数を最小にしている。上記式(12)で表される目的関数を最小化しようとした場合、一方の連続鋳造機のキャスト間に、他方の連続鋳造機にキャストを配置することが効果的であるため、実施例1では、
図4に示したようにキャスト間に配置する結果となった。なお、実施例1ではこのような結果になったが、与える問題によっては、例えば2CCのキャストが多数あるような場合には、1CCのキャスト間に2CCのキャストが配置される結果とはならない場合もある。また、上記実施例および比較例では、1分単位でスケジュールを決定したので、キャスト間に他方のCCキャストを配置するといっても、そのキャストの開始時刻の組み合わせは多数ある。本発明を用いることにより、その最適化された開始時間を分単位で決定可能である。
【0067】
次に、比較例をケース1、実施例1をケース2、実施例2をケース3として、各ケースで作成した操業スケジュールにおける評価関数値を
図6に示す。ここで、評価関数値とは、上記式(12)に示したように、溶鋼滞留時間と鋳造完了時刻に重み係数を乗じた和で表され、溶鋼滞留時間の短縮化と鋳造完了時刻の早期化を示す相互的な尺度であり、この値が小さいほど最適スケジュールであることを意味する。
図6に示したように、ケース1(比較例)よりも、ケース2(実施例1)およびケース3(実施例2)は評価関数値が小さい。この結果から、本発明によれば、従来よりも溶鋼滞留時間の短縮化および鋳造完了時刻の早期化を図ることが可能な、操業スケジュールを作成可能であることが確認された。すなわち、本発明によれば、コストおよび生産性を考慮した操業スケジュールを作成することが可能である。
【0068】
図7に、ケース2(実施例1)およびケース3(実施例2)の計算時間の比較を示す。
図7では、ケース2(実施例1)の計算時間を100とした。
図6に示したように、ケース2(実施例1)とケース3(実施例2)とを比べると、ケース2(実施例1)の方が評価は良い。しかしながら、
図7に示したように、ケース3(実施例2)の計算時間は、ケース2(実施例1)の計算時間の約3分の1であった。ケース3(実施例2)の評価関数値は、ケース2(実施例1)の評価関数値と比べて大きく悪化はしていないため、計算時間を短縮化する観点からは、ケース3が効果的な手法であると考えられる。