(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記流体システムでは、この流体システムが管路系に配置された場合の総発電電力量をできる限り多く確保することが望まれる。
【0005】
特に、管路系の総落差がその管路系の上流端に配置する貯留槽に大きく依存する場合には、発電可能なエネルギーは、落差×管路系を流れる流量に比例するので、貯留槽の液位をできる限り最大液位に保持しながら連続的に発電する方が、長期間で見た場合の総発電量を多く確保できる。従って、例えば貯留槽の液位が低下している場合には、その液位を上昇させて最大液位になるのを待った後、水車などの流体機械で所期の発電動作を開始することが望ましい。
【0006】
また、管路系は、流体流れに対するその配管系固有の抵抗(配管ロス)を有し、その抵抗が大きいほど、管路系に同一流量を流したときの落差損失は大きくなり、その分、管路系の有効落差は小さくなる。しかし、管路系の総落差が大きいほど有効落差は大きいため、管路系の総落差を高く保持するのが望ましい。
【0007】
そこで、管路系の総落差、すなわち上流端に配置する貯留槽の液位を把握するように、例えば貯留槽の液位を検出する水位計を貯留槽に配置して、貯留槽の液位を直接検出したり、管路系に配置した水車などの流体機械を流れる流量を流量センサで検出したり、その水車などの流体機械前後の圧力を各々圧力センサで検出して、貯留槽の液位を推測することが考えられる。
【0008】
しかしながら、上記考えでは、水位計、流量センサ、圧力センサなどのセンサ類が必要となり、またこれ等の検出信号を信号線を経て制御回路に通信する必要が生じ、高コストになる。また、それ等センサ類の保全も必要になる欠点がある。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑み、その目的は、管路系に水車などの流体機械を配置する流体システムにおいて、水位計、流量センサ、圧力センサなどのセンサ類を必要とすることなく、管路系の総落差を推定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、第1の発明の流体システムは、管路系(1)に配置された流体機械(T)と、上記流体機械(T)の回転軸(9)に連結された回転電気機械(G)とを備えた流体システムにおいて、上記流体機械(T)を流れる流量(Q)と流体機械(T)前後の有効落差(H)との関係マップに上記回転電気機械(G)の運転状態が記録された特性マップ(M)を有する制御手段(20)を備え、上記制御手段(20)は、上記回転電気機械(G)の運転状態を複数回変更し、その複数回の運転状態と上記特性マップ(M)に基づいて、上記管路系(1)に固有の有効落差(H)及び流量(Q)の流動抵抗特性線(S)を推定して、上記管路系(1)の総落差(Ho)を推定することを特徴とする。
【0011】
上記第1の発明では、回転電気機械の例えば回転数を複数回変更して、その回転電気機械の運転状態(その回転数と、その回転数の下でのトルク、発電電力などで定まる運転状態)が複数回変更される。これ等の回転電気機械の運転状態は、各々、特性マップ上で、流体機械の流量と有効落差との組合せの運転点に対応し、これ等の運転点から管路系に固有の有効落差及び流量の流動抵抗特性線が推定される。この流動抵抗特性線において流量=0での有効落差が管路系の総落差であると推定される。従って、管路系の総落差を水位計や流量センサ、圧力センサなどのセンサ類を必要とすることなく推定することが可能である。
【0012】
また、例えば、推定した管路系の総落差が低い場合には、水車などの流体機械に流す流量を絞ることにより、回転電気機械での発電を確保しながら管路系の総落差(貯留槽の液位)を上昇させることができる。更に、推定した流動抵抗特性線が通常範囲を逸脱する場合には、管路系の異常と判断可能である。加えて、推定した管路系の総落差に関する情報を本流体システムのユーザーに知らせることができるので、管路系、貯留槽の保全や異常対応に安価に対応できる。
【0013】
尚、回転電気機械の各運転状態から、これ等運転状態に対応する特性マップ上の流体機械の各流量を把握できるので、高価な流量センサは不要であるが、流量センサに比較して安価な圧力センサは設けても良い。この場合には、圧力センサで検出した流体機械前後の圧力を流動抵抗特性線の推定に利用すれば、管路系の総落差をより精度良く推定できる。
【0014】
第2の発明は、上記流体システムにおいて、上記制御手段(20)は、上記管路系(1)に固有の流動抵抗特性線(S)を、上記管路系(1)の流量の2乗に比例して管路抵抗が増加する曲線で表現される予め定めた配管モデルにも基づいて推定することを特徴とする。
【0015】
上記第2の発明では、管路系の流動抵抗特性線の推定に際し、その特性線の実際の変化傾向(有効落差が管路系の流量の2乗に比例して減少する実特性)を良好に表現した配管モデルを用いるので、管路系の流動抵抗特性線を精度良く推定することが可能である。
【0016】
第3の発明は、上記流体システムにおいて、上記制御手段(20)は、上記推定した管路系(1)の総落差(Ho)が目標総落差(HT)になるように、上記回転電気機械(G)を制御して、上記流体機械(T)を流れる流量を調整することを特徴とする。
【0017】
第4の発明は、上記流体システムにおいて、上記制御手段(20)は、上記推定した管路系(1)の総落差(Ho)が上記目標総落差(HT)を越えるとき、上記回転電気機械(G)の回転数を低下又はトルクを増加制御して上記流体機械(T)を流れる流量を増大させ、上記目標総落差(HT)未満のとき、上記回転電気機械(G)の回転数を上昇又はトルクを減少制御して上記流体機械(T)を流れる流量を減少させることを特徴とする。
【0018】
上記第3及び第4の発明では、流体機械を流れる流量が増減制御されて、推定した管路系の総落差が目標総落差に調整される。従って、例えば推定した管路系の総落差が目標総落差未満の低い落差である場合には、目標総落差にまで上昇させることを優先できるので、管路系の総落差が低い状態から目標総落差になった後に、回転電気機械での発電の制御を所期通り開始して、長期間で見た場合の回転電気機械の総発電量を多く確保することができる。
【0019】
第5の発明は、上記流体システムにおいて、上記制御手段(20)は、上記推定した管路系(1)の総落差(Ho)が上記目標総落差(HT)を含む設定範囲の上限値(HU)を越えるとき、上記回転電気機械(G)を零値近傍の極低回転数に制御して、上記流体機械(T)を流れる流量を最大流量近傍に増大させると共に、警報を発することを特徴とする。
【0020】
上記第5の発明では、管路系の総落差が上限値を越えるときには、流体機械(T)を流れる流量を最大流量近傍に増大させることができるので、総落差の異常状態を本流体システムのユーザーに報知しつつ正常状態への素早い対応が可能である。
【0021】
第6の発明は、上記流体システムにおいて、上記制御手段(20)は、上記推定した管路系(1)の総落差(Ho)が上記目標総落差(HT)を含む設定範囲の下限値(HL)未満のとき、上記回転電気機械(G)を無拘束運転近傍の極低トルクに制御して、上記流体機械(T)を流れる流量を最少流量近傍に減少させると共に、警報を発することを特徴とする。
【0022】
上記第6の発明では、管路系の総落差が下限値未満のときには、流体機械(T)を流れる流量を最少流量近傍に減少させることができるので、総落差の異常状態を本流体システムのユーザーに報知しつつ正常状態への素早い対応が可能である。しかも、回転電気機械を無拘束運転近傍の極低トルクに制御しているので、回転電気機械は水車などの流体機械により駆動されて発電状態にあり、その発電量は回転電気機械の運転制御に利用できる。
【0023】
第7の発明は、上記流体システムにおいて、上記制御手段(20)は、流体機械(T)を流れる流量が同一流量を保持したまま上記特性マップ(M)上の運転点が変化したときの流体機械(T)前後の有効落差(H)の変動分を管路系(1)の総落差(Ho)の変動分と把握することを特徴とする。
【0024】
上記第7の発明では、流動抵抗特性線(S)の推定を省略して、管路系(1)の総落差(Ho)の変動分を把握するので、流動抵抗特性線(S)の推定を省略する分、時間を短縮できる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、第1の発明の流体システムによれば、管路系に固有の流動抵抗特性線を推定して管路系の総落差を把握したので、水位計や流量センサなどのセンサ類や、その検出信号を送信する通信線などを必要とすることなく管路系の総落差を推定することが可能である。
【0026】
第2の発明によれば、管路系固有の流動抵抗特性線をより精度良く推定できるので、管路系の総落差をより正確に推定できる。
【0027】
第3及び第4の発明によれば、流体機械を流れる流量を増減制御して、推定した管路系の総落差を目標総落差に調整できるので、管路系の総落差を高く確保して、長期間で見た場合の回転電気機械の総発電量を多くすることが可能である。
【0028】
第5の発明によれば、管路系の総落差が上限値を越えるときには、その総落差を低下させつつ、その総落差の異常状態を本流体システムのユーザーに報知できる。
【0029】
第6の発明によれば、管路系の総落差が下限値未満のときには、その総落差を上昇させつつ、その総落差の異常状態を本流体システムのユーザーに報知できると共に、水車などの流体機械の流量を極く少量に制限しながらも回転電気機械での発電を維持して、その回転電気機械の制御に要する電力を賄うことが可能である。
【0030】
上記第7の発明によれば、流動抵抗特性線(S)の推定を省略する分、時間短縮が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、又はその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0033】
(実施形態)
図1は、本発明の実施形態の流体システムを含む管路系の全体概略構成を示す。同図において、管路系(1)の上流端には水(流体)の貯留槽(2)が配置され、下流端には受水槽(3)が配置される。上記管路系(1)の途中には、本流体システム(A)の水車(流体機械)(T)が配置され、この水車(T)の回転軸(9)には回転電気機械(G)が接続されており、貯留槽(2)の水を管路系(1)の水車(T)に流すことにより、水車(T)及び回転電気機械(G)を回転駆動して、回転電気機械(G)を発電機として動作させて発電する構成である。
【0034】
また、上記管路系(1)において、上記水車(T)よりも下流側には、管路系(1)を流れる流量を調整可能な吐出弁(D)が配置されている。
【0035】
上記
図1の管路系(1)では、貯留槽(2)の水面から受水槽(3)の水面までの落差が総落差(Ho)であり、貯留槽(2)の水が管路系(1)を経て受水槽(3)に至るまでの管路抵抗に相当する落差を上記総落差(Ho)から減じた落差が水車(T)での有効落差(H)である。
【0036】
図2は、上記回転電気機械(G)の制御系及び電源連系を示す。同図において、回転電気機械(G)の発電出力はコンバータ部(13)により直流出力に変換された後、平滑コンデンサ(12)により平滑され、系統連系装置(11)に出力される。
【0037】
更に、(20)は上記コンバータ部(13)を制御する制御装置(制御手段)であって、内部には、予め、
図3に示す特性マップ(M)が記憶されている。この特性マップ(M)は、縦軸を水流の有効落差(H)、横軸を水車(T)に供給される流量(Q)としている。この特性マップ(M)において、回転電気機械(G)は、その負荷をかけずトルク零値(T=0)とした場合の無拘束速度曲線と回転数零値(N=0)の等速度曲線との間の領域を水車(T)が水流により回転する水車領域として、この水車領域において、回転電気機械(G)が水車(T)により回転駆動されて発電機として運転されるのを基本とする。上記無拘束速度曲線のマップ左側の領域は、回転電気機械(G)が電動機として水車(T)を回転駆動する力行領域である。
【0038】
上記水車領域において、複数の等トルク曲線は上記無拘束速度曲線(T=0)に沿い、マップ上、流量(Q)の増大に応じてトルク値も増大する。また、複数の等速度曲線は回転数零値(N=0)の等速度曲線に沿い、有効落差(H)が大きくなるほど回転数も上昇する。更に、破線で示した等発電力曲線は下に凸な二次曲線であって、有効落差(H)及び流量(Q)の増大に応じて発電力も増大する。この複数の等発電力曲線の頂点を結ぶ曲線(E)は、回転電気機械(G)が発電機として最大発電力を得る最大発電力曲線である。このH−Q関係マップ上に回転電気機械(G)のトルク(T)、回転速度(N)、発電力(P)を記録した特性マップ(M)は、本流体システム(A)が接続される管路系(1)とは無関係であり、本流体システム(A)に固有の特性マップである。
【0039】
そして、上記特性マップ(M)に、回転電気機械(G)の実際の運転で推定した管路系(1)のシステムロスカーブ(S)を記録する。このシステムロスカーブ(S)の推定動作の詳細は後述する。このシステムロスカーブ(S)は、
図1に示した管路系(1)に固有の流動抵抗特性線であって、流量(Q)=0のとき有効落差(H)が総落差(Ho)であり、流量(Q)の増大に応じて有効落差(H)が二次曲線的に減少する特性を持ち、その曲率は
図1の管路系(1)固有の値を持つ。
【0040】
図2に戻って、上記制御装置(20)の内部には、速度検出器(21)と、最適運転制御装置(22)と、速度制御器(23)と、トルク制御器(24)と、電流制御器(25)と、選択器(26)とが備えられる。速度検出器(21)は、回転電気機械(G)の出力電流を検出する電流センサ(27)の出力と、電流制御器(25)の電流制御信号とを受けて、回転電気機械(G)の回転速度を検出する。最適運転制御装置(22)は、上記速度検出器(21)で検出した回転速度と、トルク制御器(24)からのトルク値とに基づいて、これ等の回転速度及びトルク値に対応する上記特性マップ(M)上の回転電気機械(G)の運転点(有効落差(H)及び流量(Q))を演算し、この回転電気機械(G)の運転点から、最大発電力となる最大発電力曲線(E)上の運転点に移行するように、トルク指令値又は回転速度指令値を演算する。また、最適運転制御装置(22)は、運転状態に応じて速度制御かトルク制御かを選択器(26)で切り替える。
【0041】
上記制御装置(20)の最適運転制御装置(22)の内部構成を
図4に示す。最適運転制御装置(22)は、流量演算部(30)と、有効落差演算部(31)と、最適運転指令演算器(32)とを有する。上記流量演算部(30)は、
図2の速度検出器(21)からの回転速度(N)と、トルク制御器(24)からのトルク値(T)とを受けて、
図3の特性マップ(M)上のこれ等の回転速度(N)及びトルク値(T)で決まる回転電気機械(G)の運転点での流量(Q)を演算する。また、有効落差演算部(31)は、上記流量演算部(30)の内部演算値と上記速度検出器(21)からの回転速度(N)とを受け、この流量(Q)及び回転速度(N)で決まる特性マップ(M)上の運転点での有効落差(H)を演算する。更に、最適運転指令演算器(32)は、上記流量演算部(30)で演算された流量(Q)と有効落差演算部(31)で演算された有効落差(H)とに基づいて、これ等の流量(Q)と有効落差(H)とで決まる特性マップ(M)上の回転電気機械(G)の運転点から最大発電力曲線(E)上の最大発電力となる運転点に移動するためのトルク指令値又は回転速度指令値を演算する。
【0042】
<管路系(1)の総落差(Ho)の推定及び貯留槽(2)の液面高さ調整>
次に、制御装置(20)による管路系(1)の総落差(Ho)の推定、及び貯留槽(2)の液面高さの調整を
図5のフローチャートに基づいて説明する。
【0043】
図5において、ステップS1では、抵抗流動抵抗線として、管路系(1)に固有のシステムロスカーブ(S)を作成する。この作成は、具体的には、
図6のフローチャートに基づいて行う。
【0044】
[管路系(1)固有のシステムロスカーブ(S)の作成]
図6のフローチャートに基づくシステムロスカーブ(S)の作成に際し、その当初で、回転電気機械(G)が特性マップ(M)上の水車領域内の任意の運転点、例えば、
図7の特性マップ(M)上の最大発電力曲線(E)上の運転点(Y)で運転されている場合を例示して説明する。この時、回転電気機械(G)は、最大発電力曲線(E)上の運転点(Y)になるように、その回転数(N)又はトルク(T)が逐次探索制御(MPPT制御、Maximum Power Point Track制御)されている。
【0045】
そして、
図6のフローチャートに示したように、ステップS1において、トルク制御器(24)へのトルク指令値(T)を、最初は、現在の繰り返し回数(Nr)(Nr=1〜3、初期値=1)・現在トルク値(To)の所定%値、例えば30%値(0.3・Nr・To)に設定して、回転電気機械(G)を運転する。その後、ステップS2で所定時間の間、運転状態が安定するまで待ち、ステップS3において速度検出器(21)で検出した回転電気機械(G)の回転速度(N)と、トルク制御器(24)からのトルク(T)をモニタすると共に、これ等の回転速度(N)及びトルク(T)から回転電気機械(G)の発電力(P)を演算し、これ等の情報で決まる特性マップ(M)上の運転点の流量(Q)及び有効落差(H)に変換する。
【0046】
そして、ステップS4で繰り返し回数(Nr)の値を判断し、繰り返し回数(Nr)が設定値(例えば3)以下(Nr≦3)の場合には、ステップS5で繰り返し回数(Nr)に「1」値を加算(Nr=Nr+1)した後、ステップS1に戻って以上の運転点の変更を繰り返す。一方、上記複数回(Nr+1回)を越えた(Nr>3)場合には、ステップS6に進んで、上記複数回(Nr+1回)得られた運転点のデータを用いてシステムロスカーブ(S)を推定する。
【0047】
尚、上記複数個の運転点のデータ取得については、特性マップ(M)上の水車領域で運転点を変更するので、トルク指令値(T)は無拘束速度曲線のT=0%以上の値に設定する。また、運転点の変更に際し、トルク指令値(T)は30%ずつ増大させたが、10%、15%又は20%ずつ変更しても良く、予め定めた所定%値を採用すれば良い。更に、回転電気機械(G)の運転状態の変更は、トルク指令値(T)を変更するのに代えて、回転速度(N)を変更したり、これ等を組み合わせて変更しても良い。加えて、運転状態の安定を待つ必要がない場合には、変更する制御値が目標値に至るまでの複数の運転データを逐次記録し、これ等の運転データをもシステムロスカーブ(S)の推定に活用しても良い。また、上記繰返し回数(Nr)は本実施形態では所定値(“3”値)に設定したが、“1”値に設定して、少なくとも2つの運転点のデータを取得すればシステムロスカーブ(S)の推定が可能である。繰返し回数(Nr)をNr≧2とすればシステムロスカーブ(S)の推定精度は向上する。
【0048】
このようにして、
図7に示したように、複数(上記説明では「4」)の運転点(Z1)〜(Z4)が得られたので、これ等の運転点のデータを用いて管路系(1)のシステムロスカーブ(S)を推定する。このシステムロスカーブ(S)の推定については、予め定めた配管モデルを使用して行うのが望ましい。この配管モデルは、
図3に示したシステムロスカーブ(S)から判るように、流量(Q)の2乗に比例して有効落差(H)が減少する特性、すなわち、流量(Q)の2乗に比例して管路抵抗が増大する特性から、この特性曲線を持つ配管モデルがテーブル又は数式で表現されている。そして、上記取得した複数の運転点のデータと上記特性曲線の配管モデルとに基づいて、上記取得した複数の運転点間のデータを補間して、上記水車領域にて管路系(1)のシステムロスカーブ(S)を導出する。このシステムロスカーブ(S)は、更に、力行領域及び回転数零値(N=0)の等速度曲線のマップ右側の領域にも延びるように、上記水車領域での曲線を延長(外挿)して導出する。そして、このように導出、推定した管路系(1)のシステムロスカーブ(S)を
図3の特性マップ(M)に記録する。尚、上記システムロスカーブ(S)の推定は、上記配管モデルを使用する場合には、回転電気機械(G)の少なくとも2つの運転点のデータを取得すれば可能である。一方、上記配管モデルを使用しない場合には、少なくとも3つの運転点のデータを取得する必要がある。
【0049】
上記推定したシステムロスカーブ(S)により、後述するように管路系(1)の総落差(Ho)が推定できると共に、管路系(1)の配管抵抗係数が推定可能である。
【0050】
尚、システムロスカーブ(S)の最初の推定タイミングは、本流体システムを管路系(1)に設置するシステム構築時である。そして、本流体システムの稼働後は、管路系(1)の最新の総落差を把握すべく、
図5のフローチャートに従って随時更新して行く。
【0051】
[管路系(1)の総落差(Ho)の推定]
上記
図5のステップS1にてシステムロスカーブ(S)が作成されたので、
図5のステップS2では、このシステムロスカーブ(S)に基づいて管路系(1)の総落差を推定する。具体的には、
図7に示したように、システムロスカーブ(S)の流量=0の点、すなわち、管路系(1)の配管ロスが「0」値での有効落差(Ho)を管路系(1)の総落差として把握する。この管路系(1)の総落差(Ho)は、
図1に示したように貯留槽(2)の液面高さに相当する。
【0052】
その後は、
図5のステップS3及びS4において、上記推定した管路系(1)の総落差(Ho)を、貯留槽(2)内で維持すべき液面範囲の上限値(HU)及び下限値(HL)と比較する。そして、Ho>HUの場合には、液面範囲の上限値を越えるため、ステップS5で液面範囲の上限値(HU)以下に抑えるよう、水車(T)を流れる流量が最大流量になるように回転電気機械(G)の運転を制御する。具体的には、
図3に示した特性マップ(M)のシステムロスカーブ(S)上において、水車(T)の回転数零値(N=0)の等速度曲線近傍の極低回転数での運転点(例えば同図に示すA点)で運転するように、回転電気機械(G)の運転を制御する。尚、この運転点(A)での運転に代えて、水車(T)にその回転軸(9)のロック機構(メカニカルブレーキ等)を備える場合には、このロック機構を作動させても良い。
【0053】
一方、Ho<HLの場合には、液面範囲の下限値未満であるため、ステップS6で液面範囲の下限値(HL)以上に上げるよう、水車(T)を流れる流量が最少流量になるように回転電気機械(G)の運転を制御する。具体的には、
図3に示した特性マップ(M)のシステムロスカーブ(S)上において、無拘束速度曲線(T=0)近傍の水車領域の運転点(例えば同図に示すB点)で水車(T)を無負荷運転に近い状態で運転するように、回転電気機械(G)に最低トルク指令を出力する。尚、水車(T)の下流に配置した吐出弁(D)をほぼ全閉にして水車(T)を流れる流量を最少流量にしても良い
尚、上記Ho>HUの場合及びHo<HLの場合、すなわち、貯留槽(2)の推定液面(推定した管路系(1)の総落差(Ho))が液面範囲(HL≦Ho≦HU)にない場合には、ステップS7でアラーム(警報)を発令した後、ステップS1及びS2に戻ってシステムロスカーブ(S)を再作成して総落差(Ho)を再推定する。
【0054】
上記総落差(Ho)が液面範囲の上限値(HU)を越える場合(Ho>HUの場合)において、水車(T)の運転点(例えばA点)での運転により水車(T)の流量が最大流量になった状態では、貯留槽(2)の液面高さが低下するため、水車(T)の流量がその最大流量を保持したまま水車(T)の運転点(A点)が下方に移動すると、その移動後の運転点と運転点(A点)との間の有効落差(H)の変動分を総落差(Ho)の変動分(低下分)と把握することが可能である。同様に、総落差(Ho)が液面範囲の下限値(HL)未満の場合(Ho<HLの場合)において、水車(T)の運転点(例えばB点)での運転により水車(T)の流量が最少流量になった状態では、貯留槽(2)の液面高さが上昇するため、水車(T)の流量がその最少流量を保持したまま水車(T)の運転点(B点)が上方に移動すると、その移動後の運転点と運転点(B点)との間の有効落差(H)の変動分を総落差(Ho)の変動分(上昇分)と把握することが可能である。従って、システムロスカーブ(S)を再作成する必要がなく、その再作成に要する時間を短縮することができる。尚、以上の総落差(Ho)の変動分の把握は、管路系(1)の故障や、急な外乱要因がないときに限って行うのは勿論である。
【0055】
そして、推定した管路系(1)の総落差(Ho)が液面範囲(HL≦Ho≦HU)内にある場合には、ステップS8において、回転電気機械(G)の運転状態(回転数、トルク及び発電量)に対応する水車(T)の推定流量を、管路系(1)で維持すべき設定最少流量値と比較し、水車(T)の推定流量が上記維持すべき設定最少流量値以下の場合には、ステップS9において、水車(T)に流れる流量が管路系(1)として維持すべき上記設定最少流量値になるよう、回転電気機械(T)の回転数又はトルクを制御し、その後、ステップS1及びS2に戻ってシステムロスカーブ(S)を再作成して総落差(Ho)を再推定する。
【0056】
一方、上記ステップS8で水車(T)の推定流量が上記維持すべき設定最少流量値を越えている場合には、ステップS10において、貯留槽(2)の推定液面(Ho)を貯留槽(2)の液面目標値(HT)にするよう、水車(T)に流れる流量を制御する。具体的には、先ず、貯留槽(2)の推定液面(Ho)を液面目標値(目標総落差)(HT)と比較し、Ho≧HTの場合には、水車(T)に流れる流量を増量制御して推定液面(Ho)を低下させるよう、回転電気機械(G)の回転数を低下制御するか、又は回転電気機械(G)のトルクを増大制御する。一方、逆に、Ho<HTの場合には、水車(T)に流れる流量を減少制御して推定液面(Ho)を上昇させるよう、回転電気機械(G)の回転数を上昇制御するか、又は回転電気機械(G)のトルクを低下制御する。尚、上記貯留槽(2)の液面目標値(HT)は、液面範囲の上限値(HU)を越えない範囲で、高く設定する方が、長期間で見た場合の総発電量を多く確保できる。また、この液面目標値(HT)は、液面範囲の上限値(HU)に対して所定のマージンをもって設定するのが望ましい。
【0057】
そして、上記ステップS10で貯留槽(2)の推定液面(Ho)を貯留槽(2)の液面目標値(HT)にするよう制御した後は、ステップS1及びS2に戻ってシステムロスカーブ(S)を再作成して総落差(Ho)を再推定する。
【0058】
ここで、上記の液面目標値(HT)への液面制御によって、貯留槽(2)の推定液面(Ho)がその液面目標値(HT)に一定制御されている場合には、貯留槽(2)への流体の流入量と水車(T)に流れる流量とが同量であるので、回転電気機械(G)の運転状態(回転数、トルク及び発電量)に対応する水車(T)の推定流量から、貯留槽(2)への流体の流入量を推定することが可能である。
【0059】
以上のようにして推定した管路系(1)の総落差(Ho)が液面目標値(HT)になるよう優先して制御した後は、制御装置(20)は、例えば
図3に示す特性マップ(M)においてシステムロスカーブ(S)上で最大発電電力となる運転点(R)、すなわちシステムロスカーブ(S)と最大発電力曲線(E)との交点の運転点で運転するように、回転電気機械(G)の回転数(N)又はトルク(T)を逐次探索制御(MPPT制御)する。尚、上記最大発電電力となる運転点(R)での運転に代えて、回転電気機械(G)が最大効率となる運転点など、所定の運転点で運転しても良いのは勿論である。
【0060】
<実施形態の効果>
本実施形態では、管路系(1)の総落差(Ho)を把握するに際しては、
図7に示したように、特性マップ(M)上でシステムロスカーブ(S)を推定して、そのシステムロスカーブ(S)上の流量「0」での有効落差(H)を総落差(Ho)として把握した。また、上記システムロスカーブ(S)の推定に際しては、回転電気機械(G)の運転状態(回転速度(N)、トルク(T)又はその双方)を複数回変更し、それらの運転状態と所定の配管モデルに基づいて、管路系(1)のシステムロスカーブ(S)を推定した。従って、管路系(1)に水車(T)の流量を検出する高価な流量センサや、水車(T)前後の圧力を検出する圧力センサ、更には貯留槽(2)の液面を検出する水位計などのセンサ類を配置する必要や、これ等のセンサ類の検出信号を制御装置(20)に入力するための信号線などを配置することなく、管路系(1)の総落差(Ho)を把握することが可能である。
【0061】
また、この総落差(Ho)の把握により、その総落差(Ho)を高く調整すれば、長期間で見た場合の水車(T)の総発電量を多くすることが可能である。
【0062】
特に、システムロスカーブ(S)の推定に用いる配管モデルは、管路系(1)に流れる流量(Q)の2乗に比例して管路抵抗が増加する二次曲線、すなわち、システムロスカーブの実際の変化傾向を良好に表現した配管モデルであるので、管路系(1)固有のシステムロスカーブ(S)を精度良く推定することが可能である。
【0063】
また、本実施形態では、上記把握した管路系(1)の総落差(Ho)(貯留槽(2)の推定液面)を液面目標値(HT)になるように液面調整することが可能である。具体的には、貯留槽(2)の推定液面(Ho)が液面目標値(HT)を越える場合には、回転電気機械(G)の回転速度(N)を低下又はトルク(T)を増加制御して、水車(T)を流れる流量を増量させ、一方、貯留槽(2)の推定液面(Ho)が液面目標値(HT)未満の場合には、回転電気機械(G)の回転速度(N)を上昇又はトルク(T)を減少制御して、水車(T)を流れる流量を減少させる。従って、管路系(1)の総落差(Ho)を所望の目標総落差(HT)に高くした状態から、水車(T)を用いた所期の発電を開始することができる。この場合には、総落差(Ho)が低い状態で発電を開始する場合に比して、長期間で見た場合の総発電量を多く確保することができる。また、水車(T)を用いた発電時において、総落差(Ho)が目標総落差(HT)未満の低い状況では、回転電気機械(G)の回転速度(N)を上昇制御又はトルク(T)を減少制御することによって、水車(T)を流れる流量を減少させて、その水車(T)による発電を続行しながら、総落差(Ho)を上昇させる運転を優先することが可能である。
【0064】
更に、把握した貯留槽(2)の液面(Ho)が液面範囲上限値(HU)を越える場合には、水車(T)を最大流量で運転すると共にアラームが発令される一方、貯留槽(2)の液面(Ho)が液面範囲下限値(HL)未満の場合には、水車(T)を最少流量で運転すると共にアラームが発令されるので、貯留槽(2)の液面(Ho)を素早く所望の液面範囲内に収めることが可能であると共に、アラームの発令により液面異常を警告することが可能である。
【0065】
加えて、把握した貯留槽(2)の液面(Ho)が液面範囲下限値(HL)未満の場合には、水車(T)の流量を極く少量に制限するように、水車(T)を無拘束運転曲線(T=0)近傍の水車領域の運転点(
図3の運転点(B))、すなわち、水車(T)で回転電気機械(G)を駆動した発電状態で運転したので、その際に回転電気機械(G)の制御に要する電力をその回転電気機械(G)の発電電力で賄うことが可能である。
【0066】
また、水車(T)に流れる実際流量が管路系(1)の設定最少流量未満となる場合には、水車(T)の流量を増量制御して、設定最少流量を維持したので、管路系(1)の流量の需要を優先して確保することができる。
【0067】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0068】
上記実施形態では、回転電気機械(G)の特性マップ(M)上の運転点の把握は回転速度(N)とトルク値(T)との組合せにより行ったが、その他、回転速度(N)と発電力(P)との組合せや、トルク値(T)と発電力(P)との組合せであっても良い。
【0069】
また、
図3に示した特性マップ(M)は、テーブルや数式で表現しても良い。