(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6394282
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】無菌作業用アイソレータ
(51)【国際特許分類】
B01L 1/00 20060101AFI20180913BHJP
A61L 2/20 20060101ALI20180913BHJP
F24F 7/06 20060101ALI20180913BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
B01L1/00 C
A61L2/20
B01L1/00 E
F24F7/06 C
C12M1/00 K
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-221587(P2014-221587)
(22)【出願日】2014年10月30日
(65)【公開番号】特開2016-87499(P2016-87499A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000253019
【氏名又は名称】澁谷工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082108
【弁理士】
【氏名又は名称】神崎 真一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【弁理士】
【氏名又は名称】神崎 真
(72)【発明者】
【氏名】橋本 克紀
【審査官】
河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−327873(JP,A)
【文献】
特開2005−279576(JP,A)
【文献】
特開2015−089574(JP,A)
【文献】
特開2005−205576(JP,A)
【文献】
特開2003−126224(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01L 1/00
F24F 7/06
A61L 2/20
C12M 1/00
B25J 21/02
B25H 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉可能な作業室と、該作業室に除染ガスを供給する除染ガス供給手段とを備え、上記除染ガス供給手段から上記作業室内に除染ガスを供給して内部を除染するようにした無菌作業用アイソレータにおいて、
上記作業室内に設けられて末端部が該作業室の排気口に接続された可撓性を有する吸引ホースと、上記作業室の外部に設けられて上記排気口に接続された排気通路と、上記作業室内の気体を上記吸引ホースを介して排気通路に引出す吸引手段と、上記排気通路に接続されて作業室内から引出された気体を上記作業室に循環させる循環通路と、上記作業室内から引出された気体を排気通路を介して外部に排出しまたは循環通路を介して作業室に循環させる流路切換手段とを備え、
上記作業室の除染時には、上記流路切換手段により循環通路を介して循環可能な状態で吸引手段を作動させて上記除染ガスにより吸引ホース内を除染させ、無菌作業時には、上記流路切換手段により流路を切換えて上記吸引ホースによる作業室内の清掃を可能としたことを特徴とする無菌作業用アイソレータ。
【請求項2】
上記吸引ホースまたは排気口または排気通路にフィルタを設けたことを特徴とする請求項1に記載の無菌作業用アイソレータ。
【請求項3】
上記吸引ホースの先端部に廃棄物や液体を捕捉する分別ケースが設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の無菌作業用アイソレータ。
【請求項4】
上記作業室内に、除染時に上記吸引ホースを螺旋状に掛け渡すラックが設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の無菌作業用アイソレータ。
【請求項5】
上記吸引手段は、上記循環通路に設けられたポンプと排気通路に設けられたポンプとを備えることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の無菌作業用アイソレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無菌作業用アイソレータに関し、より詳しくは、無菌状態を保ったまま内部を清掃することができるようにした無菌作業用アイソレータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内部が無菌状態に維持される無菌作業用アイソレータは、密閉可能な作業室と、該作業室に除染ガスを供給する除染ガス供給手段とを備えており、上記除染ガス供給手段から上記作業室内に除染ガスを供給して内部を除染するようにしている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−126224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記無菌作業用アイソレータ内で種々の操作を行っている最中に、例えばバイアル瓶が破損したような場合には、ガラス瓶の破片とその中の薬液が無菌作業用アイソレータ内に散乱することになる。従来、そのような事態が発生しても、アイソレータ内での操作が完了して無菌状態をブレイクできる状態となるまでは、破片や薬液の清掃を行うことができなかった。
本発明はそのような事情に鑑み、無菌作業用アイソレータ内で種々の操作を行っている最中に、該無菌作業用アイソレータ内の清掃を行うことができるようにした無菌作業用アイソレータを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明は、密閉可能な作業室と、該作業室に除染ガスを供給する除染ガス供給手段とを備え、上記除染ガス供給手段から上記作業室内に除染ガスを供給して内部を除染するようにした無菌作業用アイソレータにおいて、
上記作業室内に設けられて末端部が該作業室の排気口に接続された可撓性を有する吸引ホースと、上記作業室の外部に設けられて上記排気口に接続された排気通路と、上記作業室内の気体を上記吸引ホースを介して排気通路に引出す吸引手段と、上記排気通路に接続されて作業室内から引出された気体を上記作業室に循環させる循環通路と、上記作業室内から引出された気体を排気通路を介して外部に排出しまたは循環通路を介して作業室に循環させる流路切換手段とを備え、
上記作業室の除染時には、上記流路切換手段により循環通路を介して循環可能な状態で吸引手段を作動させて上記除染ガスにより吸引ホース内を除染させ、無菌作業時には、上記流路切換手段により流路を切換えて上記吸引ホースによる作業室内の清掃を可能としたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
上記構成によれば、無菌作業時には、上記流路切換手段により流路を切換えて、上記吸引手段により上記作業室内の気体を吸引ホースおよび排気通路を介して外部に排出させれば、無菌状態を保ったまま吸引ホースによって作業室内の清掃を行うことが可能となる。
また上記作業室の除染時には、すなわち上記除染ガス供給手段から上記作業室内に除染ガスを供給して作業室内部を除染している際には、上記流路切換手段により流路を切換えて、作業室内から引出された除染ガスを上記吸引ホース、排気通路および循環通路を介して作業室に循環させることにより吸引ホース内を除染することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】
図1の排気口2aの近傍に設けられたラック10の正面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図示実施例について本発明を説明すると、
図1において、無菌作業用アイソレータ1は密閉可能な作業室2を備えており、この作業室2に除染ガス供給手段3から過酸化水素などの除染ガスを供給してその内部を除染することができるようになっている。上記作業室2内には、本実施例では図示しないがガラス製のバイアル瓶に薬液を充填する充填機や薬液が充填されたバイアル瓶に栓を打栓するキャッパが設けられている。
また上記作業室2内は、無菌作業時には陽圧となるように制御されている。
【0009】
無菌作業時に作業室2内を清掃するために、該作業室2内に可撓性を有する吸引ホース5が設けられている。この吸引ホース5の末端部5aは作業室2の壁面に設けた排気口2aに接続してあり、また吸引ホース5の先端部5bには集塵手段6が着脱自在に取り付けられている。
上記集塵手段6は、吸引した廃棄物や液体といったゴミを捕捉する分別ケース7と、これに接続した可撓性を有する集塵ホース8と、さらに集塵ホース8の先端部に設けたノズル9とを備えている。後に詳述するように、上記吸引ホース5に吸引力が作用された際には、作業室2内のゴミはノズル9および集塵ホース8を介して分別ケース7内に吸引され、この分別ケース7内でゴミと気体とが分離されるようになっている。そして分別ケース7内にガラス瓶の破片や液体などのゴミを残して、気体のみが吸引ホース5に吸引されるようになる。
【0010】
図2に示すように、上記作業室2内の壁面には、上記排気口2aに隣接した位置に吸引ホース5を螺旋状に巻回すことができるラック10が設けられている。
このラック10は、十字状の支持部材10aの先端部にそれぞれ円弧状の掛止部10bを備えており、この十字状の支持部材10aを水平方向に多数隣接させて配設固定することにより、各円弧状の掛止部10bに吸引ホース5を螺旋状に掛け渡すことができるようにしてある。
このように吸引ホース5をラック10に螺旋状に巻回すことにより、吸引ホース5同士が接触しないようにして、確実に吸引ホース5の表面を除染ガスで除染することができるようにしてある。
【0011】
上記作業室2の外部には排気通路11が設けられており、この排気通路11の一端は上記作業室2の排気口2aに接続されて吸引ホース5に連通されている。またこの排気通路11の他端は作業室2の外部に開放されている。
上記排気通路11の一端には、上記排気口2aに隣接した位置にフィルタ12を設けてあり、このフィルタ12によって作業室2内の無菌状態を維持することができるようにしてある。なお、このフィルタ12は吸引ホース5の末端部5a側に設けても、或は排気口2aに設けてもよい。上記排気通路11の他端には吸引手段としての真空ポンプP1を設けてあり、この真空ポンプP1を起動することによって吸引ホース5に吸引力を作用させ、無菌作業時に作業室2内の清掃を行うことができるようにしてある。この真空ポンプP1としては、その代わりに市販の掃除機が備えている真空ポンプを利用することができ、より具体的には、必要時に、上記排気通路11の他端に市販の掃除機の吸引ホースを接続すればよい。また上記真空ポンプの代わりにブロワを用いることもできる。
【0012】
上記フィルタ12よりも下流側の排気通路11には、上記作業室2内から引出された気体、より具体的には作業室内の除染ガスを上記作業室2に循環させる循環通路13の一端を接続してある。この循環通路13の他端は、上記作業室2の上部に区画形成した循環室2bに接続してあり、該循環室2b内に流入した除染ガスはHEPAフィルタHを流通して、ここで清浄化されてから上記作業室2内に循環されるようになっている。
上記循環通路13の途中には上記真空ポンプP1とともに吸引手段を構成する真空ポンプP2を設けてあり、この真空ポンプP2を起動することによって吸引ホース5を介して作業室2内の除染ガスを再び作業室2内に循環させることができるようにしてある。このように吸引ホース5に除染ガスを流通させることにより、吸引ホース5の内部を除染することができる。
【0013】
上記排気通路11と循環通路13との流路を切換えるために流路切換手段14を設けてあり、図示実施例では排気通路11に設けた開閉弁14Aと循環通路13に設けた開閉弁14Bとから上記流路切換手段14を構成してある。
各開閉弁14A、14Bは、いずれも排気通路11と循環通路13との接続部よりも下流側に設けてあり、上記作業室2の除染時には、排気通路11に設けた開閉弁14Aを閉じ、循環通路13に設けた開閉弁14Bを開くことによって、上記作業室2内に供給された除染ガスを吸引ホース5、フィルタ12および循環通路13を介して作業室2内に循環させることが可能となるようにしてある。
他方、無菌作業時には、排気通路11に設けた開閉弁14Aを開き、循環通路13に設けた開閉弁14Bを閉じることによって、上記吸引ホース5による作業室内の清掃が可能となるようにしてある。
【0014】
以上の構成において、作業室2を除染する際には、吸引ホース5はラック10に螺旋状に巻回されている。
また、上記集塵手段6は吸引ホース5の先端部5bから分離されているが、全ての構成部材、すなわち分別ケース7、集塵ホース8およびノズル9は予め外部で蒸気などによって除染されて組み立てられており、かつ図示しない密封容器内に収納されて、上記ラック10に掛止された吸引ホース5の先端部5b近傍に配置されている。
この状態で作業室2が密閉されると、上記除染ガス供給手段3から除染ガスが作業室2に供給されてその内部の除染が行われる。この際には、上記集塵手段6を収納している密封容器の外面も除染される。
またこれと同時に、上記流路切換手段14を構成する排気通路11に設けた開閉弁14Aが閉じられるとともに、循環通路13に設けた開閉弁14Bが開かれて真空ポンプP2が起動され、これにより作業室2内に導入されていた除染ガスは、吸引ホース5、フィルタ12、排気通路11、循環通路13、循環室2bおよびHEPAフィルタHを介して作業室2内に循環され、これによって吸引ホース5の内部が除染される。
【0015】
このようにして作業室2内の除染や吸引ホース5の除染が完了したら、本実施例の場合には図示しない充填機やキャッパが作動されて、ガラス製バイアル瓶に薬液が充填されるとともに栓が打栓される。
このような作業中にバイアル瓶が破損した場合には、ガラス瓶の破片とその中の薬液が作業室2内に散乱することになる。
この場合には、作業室2の壁面に設けられた図示しない多数のグローブを利用して、作業室2の外部からの人手による操作により密封容器内から集塵手段6を取り出すとともに、ラック10に螺旋状に掛け渡されていた吸引ホース5を当該ラック10から取り外し、次に吸引ホース5の先端部5bに集塵手段6の分別ケース7を連結する。
この状態となったら、上記流路切換手段14を構成する循環通路13に設けた開閉弁14Bを閉じるとともに、排気通路11に設けた開閉弁14Aを開き、さらに真空ポンプP1を起動する。
これにより作業室2内の気体は、ノズル9、集塵ホース8、分別ケース7内に吸引され、さらに吸引ホース5、フィルタ12、排気通路11を介して外部に排出される。これにより、上記ノズル9によって上記破片や薬液を分別ケース7内に吸引してここに捕捉することができるので、作業室2内を清掃することができる。
なお上記清掃作業中に、すなわち開閉弁14Aが開放されている状態で、上記真空ポンプP1の作動が停止した場合や、真空ポンプP1の代わりに用いた市販の掃除機の吸引ホースが外れたような場合であっても、上記フィルタ12によって作業室2内の無菌状態が維持される。
【0016】
上記作業室2内での作業が終了して該作業室2の気密性がブレイクされたら、人手により吸引ホース5と集塵手段6とが分離され、吸引ホース5はラック10に螺旋状に掛け渡され、また集塵手段6は作業室2の外部に搬出されて分別ケース7内のゴミが回収される。そして集塵手段6は次の使用に備えて、予め作業室2の外部で除染されて再び密封容器内に収納されるようになる。
【0017】
図3は本発明の第2実施例を示したもので、上記第1実施例が2つの真空ポンプP1と真空ポンプP2とから吸引手段を構成しているのに対し、本実施例では1つの真空ポンプPによって吸引手段を構成したものである。
すなわち本実施例では上記真空ポンプPをフィルタ12と循環通路13との間の排気通路11に設けている。その他の構成は上記第1実施例と同様に構成してある。
本実施例においては、作業室2の除染時には、排気通路11に設けた開閉弁14Aを閉じるとともに循環通路13に設けた開閉弁14Bを開き、この状態で真空ポンプPを起動することにより、上記作業室2内に供給された除染ガスを吸引ホース5、フィルタ12および循環通路13を介して作業室2内に循環させることできるようにしてある。
他方、無菌作業時には、排気通路11に設けた開閉弁14Aを開くとともに循環通路13に設けた開閉弁14Bを閉じ、この状態で真空ポンプPを起動することにより、上記吸引ホース5による作業室内の清掃が可能となる。
【0018】
なお、上記集塵手段6の構成は上述したものに限定されるのではなく、適宜の構成のものを用いることができる。
そして上記実施例では集塵手段6を作業室2の外部で除染するようにしているが、これに限定されるものではなく、作業室2を除染する際に同時に集塵手段6を除染することも可能である。この場合には、集塵手段6を構成する部材を吸引ホース5から分離させた状態で、作業室2内に供給される除染ガスで該集塵手段6を除染するようにしてもよいし、或は集塵手段6を吸引ホース5に接続した状態で集塵手段6と吸引ホース5内に除染ガスを流通させることによって、該集塵手段6を除染させてもよい。
特に、上記吸引したゴミを捕捉する分別ケース7を吸引ホース5に接続してその内部に除染ガスを流通させ、これによって該分別ケース7を除染させるようにした場合には、分別ケースは吸引ホース5の末端部5a側に設けてもよく、或は作業室2の外部で排気口2aとフィルタ12との間に設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0019】
1 無菌作業用アイソレータ 2 作業室
2a 排気口 3 除染ガス供給手段
5 吸引ホース 6 集塵手段
7 分別ケース 10 ラック
11 排気通路 12 フィルタ
13 循環通路 14 流路切換手段
P、P1、P2 真空ポンプ