特許第6394300号(P6394300)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6394300
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】レーンキープ制御システム
(51)【国際特許分類】
   B60T 7/12 20060101AFI20180913BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20180913BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20180913BHJP
   B60T 8/1755 20060101ALI20180913BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20180913BHJP
   B60W 30/12 20060101ALI20180913BHJP
   B60W 40/068 20120101ALI20180913BHJP
【FI】
   B60T7/12 F
   B62D6/00
   B60T8/17 D
   B60T8/1755 Z
   G08G1/16 C
   B60W30/12
   B60W40/068
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-228175(P2014-228175)
(22)【出願日】2014年11月10日
(65)【公開番号】特開2016-88429(P2016-88429A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年8月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】特許業務法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関澤 高俊
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 洋一朗
(72)【発明者】
【氏名】森 雅士
(72)【発明者】
【氏名】高岡 彰
【審査官】 山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−055284(JP,A)
【文献】 特開2009−046091(JP,A)
【文献】 特開2006−137416(JP,A)
【文献】 特開2005−289217(JP,A)
【文献】 特開2005−306160(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12
B62D 6/00
B60T 8/17
B60T 8/1755
G08G 1/16
B60W 30/12
B60W 40/068
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両における車輪(3)に備えられたタイヤ(31)のトレッド(32)の裏面に取り付けられ、前記タイヤの振動の大きさに応じた検出信号を出力する振動検出部(11)と、前記振動検出部の検出信号を信号処理して前記タイヤの走行路面の路面状態を示すデータである路面状態データを生成する信号処理部(15)と、前記路面状態データを送信する送信機(13)と、を有するタイヤ側装置(1)を備えていると共に、
前記送信機から送信された前記路面状態データを受信する受信機(21)と、前記路面状態データから前記車輪それぞれの走行路面の路面状態を認識し、該認識結果を示すデータを生成する情報処理部(22)と、前記情報処理部が生成したデータを出力する出力部(23)と、を有した車両側装置(2)を備えた路面状態推定装置と、
前記路面状態推定装置にて推定された前記路面状態に基づいて、前記車両が走行車線から逸脱することを抑制するレーンキープ制御を実行するレーンキープ制御装置(4)と、を備えていると共に、
前記レーンキープ制御として前記車輪のうちのいずれかに対して発生させるブレーキ力を制御するブレーキ制御を実行するブレーキ制御装置(5)と、
前記レーンキープ制御として前記車輪の舵角を調整するステアリング制御を実行するステアリング制御装置(6)と、を有し、
前記路面状態推定装置で検出される前記路面状態に基づいて、前記ブレーキ制御装置におけるブレーキ制御の制御量と前記ステアリング制御装置におけるステアリング制御の制御量の少なくとも一方を制御し、
さらに、前記走行路面に突起状の道路鋲が存在するか否かを判定する手段(1、2、10)を有し、
前記路面状態推定装置では、前記路面状態として路面摩擦係数を検出しており、
前記道路鋲が存在しているときには、検出されている前記路面摩擦係数において制御可能なブレーキ制御およびステアリング制御の制御量の最大値を発生させることを特徴とするレーンキープ制御システム。
【請求項2】
車両における車輪(3)に備えられたタイヤ(31)のトレッド(32)の裏面に取り付けられ、前記タイヤの振動の大きさに応じた検出信号を出力する振動検出部(11)と、前記振動検出部の検出信号を信号処理して前記タイヤの走行路面の路面状態を示すデータである路面状態データを生成する信号処理部(15)と、前記路面状態データを送信する送信機(13)と、を有するタイヤ側装置(1)を備えていると共に、
前記送信機から送信された前記路面状態データを受信する受信機(21)と、前記路面状態データから前記車輪それぞれの走行路面の路面状態を認識し、該認識結果を示すデータを生成する情報処理部(22)と、前記情報処理部が生成したデータを出力する出力部(23)と、を有した車両側装置(2)を備えた路面状態推定装置と、
前記路面状態推定装置にて推定された前記路面状態に基づいて、前記車両が走行車線から逸脱することを抑制するレーンキープ制御を実行するレーンキープ制御装置(4)と、を備えていると共に、
前記レーンキープ制御として前記車輪のうちのいずれかに対して発生させるブレーキ力を制御するブレーキ制御を実行するブレーキ制御装置(5)と、
前記レーンキープ制御として前記車輪の舵角を調整するステアリング制御を実行するステアリング制御装置(6)と、を有し、
前記路面状態推定装置で検出される前記路面状態に基づいて、前記ブレーキ制御装置におけるブレーキ制御の制御量と前記ステアリング制御装置におけるステアリング制御の制御量の少なくとも一方を制御し、
さらに、前記走行車線に沿って描かれている案内線を認識する手段(10)を有し、
前記車輪が案内線上にあるときには、面摩擦係数が基準値である場合よりも、前記ブレーキ制御装置におけるブレーキ制御の制御量と前記ステアリング制御装置におけるステアリング制御の制御量の少なくとも一方を小さくすることを特徴とするレーンキープ制御システム。
【請求項3】
前記路面状態推定装置では、前記路面状態として路面摩擦係数を検出しており、
前記車輪それぞれの路面摩擦係数が所定の基準値よりも大きな高μ路面であるときには、前記路面摩擦係数が前記基準値であるときと比べて、前記ブレーキ制御装置におけるブレーキ制御の制御量と前記ステアリング制御装置におけるステアリング制御の制御量の少なくとも一方を大きくすることを特徴とする請求項1または2に記載のレーンキープ制御システム。
【請求項4】
前記路面状態推定装置では、前記路面状態として路面摩擦係数を検出しており、
前記車輪それぞれの路面摩擦係数が所定の基準値よりも小さな低μ路面であるときには、前記レーンキープ制御を停止するか、もしくは、前記路面摩擦係数が前記基準値であるときと比べて、前記ブレーキ制御装置におけるブレーキ制御の制御量と前記ステアリング制御装置におけるステアリング制御の制御量の少なくとも一方を小さくすることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載のレーンキープ制御システム。
【請求項5】
前記路面状態推定装置では、前記路面状態として路面摩擦係数を検出しており、
前記車輪それぞれの路面摩擦係数に差があるときには、前記レーンキープ制御を停止するか、もしくは、少なくとも前記路面摩擦係数が小さい車輪について、前記路面摩擦係数が基準値である場合よりも、前記ブレーキ制御装置におけるブレーキ制御の制御量と前記ステアリング制御装置におけるステアリング制御の制御量の少なくとも一方を小さくすることを特徴とする請求項ないし4のいずれか1つに記載のレーンキープ制御システム。
【請求項6】
前記路面状態推定装置では、前記路面状態が平滑路であるか、未舗装路もしくは圧雪路であるかを判定しており、
前記未舗装路もしくは圧雪路であるときには、前記レーンキープ制御を停止するか、もしくは、前記路面摩擦係数が基準値である場合よりも、前記ブレーキ制御装置におけるブレーキ制御の制御量と前記ステアリング制御装置におけるステアリング制御の制御量の少なくとも一方を小さくすることを特徴とする請求項ないし5のいずれか1つに記載のレーンキープ制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行車線からの逸脱を抑制するレーンキープ制御を行うレーンキープ制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両において、走行車線からの車両の逸脱を抑制するレーンキープ制御が行われている(例えば、特許文献1参照)。レーンキープ制御では、車載カメラによって車両の進行方向前方の画像を撮影することで走行車線に沿って描かれた白線などを認識し、車両がその白線を乗り越えようとすると、警報などによってドライバに注意を促し、車両が走行車線から逸脱することを抑制する。さらに、レーンキープ制御では、ブレーキ制御やステアリング制御を行うことで、走行車線からの車両の逸脱を抑制しつつ、走行車線内に車両を戻す方向にモーメントを発生させる車両運動制御を行ってドライバをサポートしている。これにより、車両走行の安全性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−11756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レーンキープ制御を実行する場合、特定の路面状態または路面摩擦係数(以下、路面μという)を想定した設計、例えば乾燥路面かつアスファルト路面のような平滑路面を前提とした設計が行われている。本来であれば、車両の現在の走行路面の路面状況や路面μを検出し、その検出結果に基づいてレーンキープ制御を実行するのが好ましいと考えられる。しかしながら、路面状況や路面μを的確に検出することができないため、特定の路面状態または路面μを前提とした設計が行われている。
【0005】
本発明は上記点に鑑みて、車両の走行路面の路面状態または路面μを的確に検出し、その検出結果に応じて、より的確なレーンキープ制御を行うことができるレーンキープ制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、車両における車輪(3)に備えられたタイヤ(31)のトレッド(32)の裏面に取り付けられ、タイヤの振動の大きさに応じた検出信号を出力する振動検出部(11)と、振動検出部の検出信号を信号処理してタイヤの走行路面の路面状態を示すデータである路面状態データを生成する信号処理部(15)と、路面状態データを送信する送信機(13)と、を有するタイヤ側装置(1)を備えていると共に、送信機から送信された路面状態データを受信する受信機(21)と、路面状態データから車輪それぞれの走行路面の路面状態を認識し、該認識結果を示すデータを生成する情報処理部(22)と、情報処理部が生成したデータを出力する出力部(23)と、を有した車両側装置(2)を備えた路面状態推定装置と、路面状態推定装置にて推定された路面状態に基づいて、車両が走行車線から逸脱することを抑制するレーンキープ制御を実行するレーンキープ制御装置(4)と、を備えていることを特徴とする。
【0007】
このように、タイヤ側装置および車両側装置とによって路面状態推定装置を構成し、タイヤ側装置から送られる路面状態データに基づいて路面状態を把握できるようにしている。したがって、車両の走行路面の路面状態または路面μを的確に検出でき、その検出結果に応じて、より的確なレーンキープ制御を行うことが可能となる。
【0008】
特に、タイヤ側装置は、タイヤの接地面の振動を検出していることから、それに基づいて路面状態を推定することで、より正確に路面状態を推定することができる。したがって、より的確なレーンキープ制御を行うことが可能となる。
【0009】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1実施形態にかかるレーンキープ制御システムの概略構成を示す図である。
図2】レーンキープ制御システムにおける路面状態推定装置を構成するタイヤ側装置1と車両側装置2の詳細を示したブロック図である。
図3】タイヤ側装置1が取り付けられたタイヤ31の断面模式図である。
図4】タイヤ回転時における振動検出素子11の出力電圧波形図である。
図5】低μ路面と高μ路面において出力電圧の周波数解析を行った結果の相違を示した図である。
図6】レーンキープ制御処理の詳細を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0012】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。図1図6を参照して、本実施形態にかかるレーンキープ制御システムについて説明する。
【0013】
図1に示されるように、レーンキープ制御システムは、路面状態推定装置を構成するタイヤ側装置1と車両側装置2に加えて、各種電子制御装置(以下、ECUという)4〜6、ブレーキ制御機構7、ステアリング制御機構8とを有した構成とされている。
【0014】
タイヤ側装置1と車両側装置2によって構成される路面状態推定装置は、車両の各車輪に備えられるタイヤの接地面における振動に基づいて走行中の路面状態を推定するものとして用いられる。具体的には、路面状態推定装置は、タイヤ側装置1より走行中の路面状態を表すデータを送信すると共に、車両側装置2がタイヤ側装置1から送信されたデータを受信し、そのデータに基づいて走行中の路面状態を推定する。本実施形態の場合、タイヤ側装置1および車両側装置2は、以下のように構成されている。
【0015】
タイヤ側装置1は、図2に示すように、振動検出素子11、信号処理回路部12、および送信機13を備えた構成とされ、図3に示されるように、車輪3(3a〜3d)に備えられたタイヤ31のトレッド32の裏面側に設けられる。
【0016】
振動検出素子11は、タイヤ31が回転する際にタイヤ側装置1が描く円軌道に対して接する方向、つまりタイヤ接線方向(図3中の矢印Xの方向)の振動に応じた検出信号を出力する振動検出部を構成するものである。本実施形態の場合、振動検出素子11でタイヤ接線方向の振動に応じた検出信号を出力させている。振動検出素子11としては、例えば加速度センサなどを用いることができる。
【0017】
また、振動検出素子11によって、振動エネルギーを電気エネルギーに変換し、それに基づいてタイヤ側装置1の電源を生成することもできる。この場合、振動検出素子11は、タイヤ接線方向の振動に対して発電するように配設される。このような振動検出素子11としては、例えば静電誘導型の発電素子(エレクトレット)、圧電素子、摩擦式、磁歪式、電磁誘導型の素子を適用できる。
【0018】
具体的には、路面状態推定装置が備えられた車両が走行する際には、タイヤ31の回転運動や路面の凹凸などの種々の要因によって、タイヤ31のトレッド32に振動が生じる。この振動が振動検出素子11に伝わることで、振動検出素子11の出力信号が振動の大きさに応じて変化することから、振動検出素子11の出力信号をタイヤ接線方向の振動の大きさを表す検出信号として信号処理回路部12に伝えるようにしている。
【0019】
信号処理回路部12は、振動検出素子11の出力電圧をタイヤ接線方向の振動データを表す検出信号として用いて、この検出信号を処理することで路面状態を表すデータを得て、それを送信機13に伝える役割を果たす。すなわち、信号処理回路部12は、振動検出素子11の出力電圧の時間変化に基づいて、タイヤ31の回転時における振動検出素子11の接地区間(つまり、タイヤ31のトレッド32のうち振動検出素子11の配置箇所と対応する部分が路面接地している区間)を抽出している。そして、この振動検出素子11の接地区間中の検出信号に含まれる高周波成分が路面状態を表していることから、この高周波成分を抽出すると共に抽出した高周波成分に基づいて路面状態を表すデータを生成し、送信機13に伝えている。
【0020】
具体的には、信号処理回路部12は、各種回路やCPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータ等によって構成され、振動検出素子11の出力電圧に基づいて上記処理を行っている。そして、信号処理回路部12は、それらの処理を行う部分として接地区間抽出部14、信号処理部15、データ生成部16を備えている。
【0021】
接地区間抽出部14は、振動検出素子11の出力電圧で表される検出信号のピーク値を検出することで、振動検出素子11の接地区間を抽出し、接地区間中であることを信号処理部15に伝える。また、接地区間抽出部14は、送信機13に対して信号処理部15の算出結果を路面状態が表された路面状態データとして車両側装置2に送信させる送信トリガを発生させる。以下、具体的に接地区間抽出部14の機能について説明する。
【0022】
タイヤ回転時における振動検出素子11の出力電圧波形は例えば図4に示す波形となる。この図に示されるように、タイヤ31の回転に伴ってトレッド32のうち振動検出素子11の配置箇所と対応する部分が接地し始めた接地開始時に、振動検出素子11の出力電圧が極大値をとる。接地区間抽出部14では、この振動検出素子11の出力電圧が極大値をとる第1ピーク値のタイミングを接地開始時として検出している。さらに、図3に示されるように、タイヤ31の回転に伴ってトレッド32のうち振動検出素子11の配置箇所と対応する部分が接地していた状態から接地しなくなる接地終了時に、振動検出素子11の出力電圧が極小値をとる。接地区間抽出部14では、この振動検出素子11の出力電圧が極小値をとる第2ピーク値のタイミングを接地終了時として検出している。
【0023】
振動検出素子11が上記のようなタイミングでピーク値をとるのは、以下の理由による。すなわち、タイヤ31の回転に伴ってトレッド32のうち振動検出素子11の配置箇所と対応する部分が接地する際、振動検出素子11の近傍においてタイヤ31のうちそれまで略円筒面であった部分が押圧されて平面状に変形する。このときの衝撃を受けることで、振動検出素子11の出力電圧が第1ピーク値をとる。また、タイヤ31の回転に伴ってトレッド32のうち振動検出素子11の配置箇所と対応する部分が接地面から離れる際には、振動検出素子11の近傍においてタイヤ31は押圧が解放されて平面状から略円筒状に戻る。このタイヤ31の形状が元に戻るときの衝撃を受けることで、振動検出素子11の出力電圧が第2ピーク値をとる。このようにして、振動検出素子11が接地開始時と接地終了時でそれぞれ第1、第2ピーク値をとるのである。また、タイヤ31が押圧される際の衝撃の方向と、押圧から開放される際の衝撃の方向は逆方向であるため、出力電圧の符号も逆方向となる。
【0024】
そして、接地区間抽出部14は、第1、第2ピーク値のタイミングを信号処理部15に伝え、第1ピーク値のタイミングから第2ピーク値のタイミングまでの期間、振動検出素子11の出力電圧に含まれる高周波成分を整流して積分させる指示を出す。このようにして、接地区間抽出部14は、振動検出素子11の接地区間を抽出し、接地区間中であることを信号処理部15に伝えている。
【0025】
また、振動検出素子11の出力電圧が第2ピーク値をとるタイミングが振動検出素子11の接地終了時となるため、接地区間抽出部14は、このタイミングで送信機13に送信トリガを送っている。これにより、送信機13より、信号処理部15が作成した路面状態データを送信させている。このように、送信機13によるデータ送信を常に行うのではなく、振動検出素子11の接地終了時に限定して行うようにしているため、消費電力を低減することが可能となる。
【0026】
信号処理部15は、接地区間抽出部14から接地区間中であることが伝えられると、その期間中に振動検出素子11の出力電圧に含まれるタイヤ31の振動に起因する高周波成分に基づいて、路面状態データを作成する。
【0027】
具体的には、路面μが基準値よりも高い高μ路面と低い低μ路面それぞれにおいて、振動検出素子11の出力電圧を周波数解析(例えばフーリエ変換)すると、図5に示される結果となる。すなわち、路面μの影響で、車両が低μ路面を走行しているときにはタイヤ31のスリップによる細かな高周波振動が出力電圧に重畳されるため、低μ路面の方が高μ路面よりも出力電圧に含まれる高周波成分が大きくなる。
【0028】
これに基づき、路面状況や路面μに応じて変化すると想定される周波数帯域fa〜fbの高周波成分をフィルタリングなどによって抽出し、周波数解析によって取り出した周波数帯域fa〜fbの高周波数成分の電圧を積分する。例えば、図示しないコンデンサにチャージさせる。このようにすれば、走行路面が低μ路面の場合の方が高μ路面の場合よりもチャージ量が多くなる。そして、このチャージ量に基づいて、路面μが所定の基準値よりも高い高μ路面であるか、基準値よりも低い低μ路面であるかを判定できる。また、平滑路面であるか砂利道であるかなどの路面状況に応じても、高周波成分の電圧レベルが変動する。したがって、高周波成分の電圧の積分結果に応じて路面状況や路面μという路面状態を判定している。
【0029】
例えば、積分電圧値が基準値に基づいて定められる判定閾値よりも大きければ走行路面が低μ路面、小さければ走行路面が高μ路面と判定する。判定閾値は、路面μが所定範囲となるときを基準値として設定され、その基準値のときに想定される積分電圧値の範囲の上限値が低μ路面側の閾値、下限値が高μ路面側の閾値とされる。基準値のときに想定される積分電圧の範囲の上限値または下限値と、演算された積分電圧値とを大小比較することによって、走行路面の路面状況を推定することが可能となる。
【0030】
そして、信号処理部15は、このようにして得た判定結果を路面状態データとして生成し、この路面状態データが信号処理部15から送信機13に伝えられる。
【0031】
送信機13は、データ生成部16から伝えられた路面状態データを車両側装置2に対して送信するものである。送信機13と車両側装置2が備える受信機21との間の通信は、例えば、Bluetooth(登録商標)などの公知の近距離無線通信技術によって実施可能である。路面状態データを送信するタイミングについては任意であるが、上記したように、本実施形態では、振動検出素子11の接地終了時に接地区間抽出部14から送信トリガが送られることで送信機13から路面状態データが送られるようになっている。このように、送信機13によるデータ送信を常に行うのではなく、振動検出素子11の接地終了時に限定して行うようにしているため、消費電力を低減することが可能となる。
【0032】
また、路面状態データについては、車両に備えられたタイヤ31毎に予め備えられている車輪3(3a〜3d)の固有識別情報(以下、ID情報という)と共に送られる。各車輪3の位置については、車輪3が車両のどの位置に取り付けられているかを検出する周知の車輪位置検出装置によって特定できることから、車両側装置2にID情報と共に路面状態データを伝えることで、どの車輪3のデータであるかが判別可能になる。通常、走行路面の路面μは均一であると想定されるが、車両の左右輪で路面μが異なるμスプリット路なども有り、このようなμスプリット路においては車輪3毎に路面状態データが伝えられると好ましい。本実施形態では、このように車輪3毎に路面状態データを伝えるようにしている。
【0033】
一方、車両側装置2は、受信機21と情報処理部22およびインターフェース(以下、I/Fという)23を備えた構成とされている。車両側装置2は、タイヤ側装置1より送信された路面状態データを受信し、このデータに基づいて各種処理を行うことで、走行中の路面状態、すなわち路面状況や路面μを検出する。
【0034】
受信機21は、タイヤ側装置1が送信した路面状態データおよびID情報を含むデータを受信するための装置である。受信機21で受信したデータは、受信するたびに情報処理部22に逐次出力される。
【0035】
情報処理部22は、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従ってデータに含まれる各種情報の処理を行っている。具体的には、情報処理部22は、データIGBTに含まれる路面状態データとID情報とに基づいて路面状態を認識し、その路面状態を示すデータを生成して、このデータを所定の通信プロトコルに合わせて、I/F23に伝える。本実施形態の場合、上記したように、車輪3毎に路面状態データが伝えられていることから、各車輪3の位置ごとに路面状況や路面μを認識し、その認識結果を示したデータをI/F23に伝えている。
【0036】
I/F23は、情報処理部22で認識された路面状態を、例えば車載ネットワークであるCAN(Controller Area Network)通信に用いられる車内LAN9に載せる出力部に相当し、車内LAN9を通じて、各種ECU4〜6などに路面状態に関するデータが伝えられる。以上の構成によって、本実施形態にかかるレーンキープ制御システムにおける路面状況推定装置が構成されている。
【0037】
また、レーンキープ制御システムには、各種ECU4〜6として、レーンキープECU4、ブレーキECU5および電導パワーステアリング(以下、EPS(Electric Power Steering)という)−ECU6を備えている。
【0038】
レーンキープECU4は、本発明のレーンキープ制御装置を構成するものである。レーンキープECU4は、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、図示しないレーンキープ制御の実行スイッチが押下されると、ROMなどに記憶されたプログラムに従ってレーンキープ制御を実行する。具体的には、レーンキープECU4は、車内LAN9を通じて路面状態に関するデータを取得し、取得した路面状態に関するデータに基づいて、レーンキープ制御を実行している。レーンキープ制御では、車載カメラ10の撮像データに基づいて、車両が走行車線から逸脱することを抑制すべく、ドライバへの警告を行ったり、ブレーキ制御やステアリング制御を行う。このレーンキープ制御の詳細については後述する。
【0039】
ブレーキECU5は、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従ってブレーキ制御を実行するブレーキ制御装置に相当する。ブレーキECU5は、ドライバのブレーキペダル操作に基づくブレーキ制御などに加えて、レーンキープ制御に基づく制動要求に応じたブレーキ制御も行っている。具体的には、ブレーキECU5は、制動要求に応じてブレーキ制御機構7に備えられたブレーキアクチュエータ71に対して制御信号を出力し、所望の車輪3に対して所望のブレーキ力を発生させる。
【0040】
例えば、ブレーキアクチュエータ71には、各種電磁弁やポンプおよびポンプ駆動用のモータなどが備えられ、電磁弁を制御してブレーキ液圧回路を調整すると共に、モータを作動させてポンプ駆動を行うことで、ホイールシリンダ圧を発生させる。このホイールシリンダ圧を調整することによって、所望の車輪3に対して所望のブレーキ力が発生させられるようになっている。すなわち、ブレーキECU5は、制動要求に応じて各種演算を行い、その演算結果に応じてブレーキアクチュエータ71に備えられた電磁弁やポンプ駆動用のモータを制御する。これにより、ホイールシリンダ圧を発生させ、キャリパ72内に備えられるブレーキパッドをブレーキディスク73に押し当てることで所望のブレーキ力を発生させる。このとき、ブレーキアクチュエータ71の電磁弁の制御に基づいてブレーキ液圧回路を調整できることから、所望の車輪3のホイールシリンダ圧のみを発生させたり、ホイールシリンダ圧を車輪3毎に調整させられる。したがって、所望の車輪3に対して所望のブレーキ力を発生させることが可能となる。
【0041】
EPS−ECU6は、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従ってステアリング制御を実行するステアリング制御装置に相当する。EPS−ECU6は、ドライバのステアリング操作に基づくステアリング制御などに加えて、レーンキープ制御に基づくステアリング制御要求に応じたステアリング制御も行っている。具体的には、EPS−ECU6は、ステアリング制御要求に応じてステアリング制御機構8に対して制御信号を出力し、所望の車輪3に対して所望の舵角を発生させるように舵角の調整を行う。
【0042】
例えば、EPS−ECU6は、ステアリング制御要求に応じて各種演算を行い、ステアリング制御機構8を制御する。ステアリング制御機構8は、ステアリング81、ステアリングシャフト82、モータ83、ステアリングギア機構84、ステアリングリンク機構85等を備えて構成され、操舵輪となる両前輪の中心線に対する角度(舵角)の調整を行う。EPSでは、ステアリング81がドライバによって操作されることで、例えば図示しないステアリングコラムを介してステアリングシャフト82が回転させられる。また、ステアリングシャフト82に発生させられるトルクについては、モータ83の駆動に基づくアシスト力によって発生させることもできる。ステアリング制御においては、このモータ83を制御することによってステアリングシャフト82に発生させるトルクを制御している。そして、ステアリングシャフト82に発生させられたトルクがハンドル軸トルクとして、ステアリングギア機構84に伝えられる。このステアリングギア機構84により、内蔵歯車の組み合わせ、例えばラックアンドピニオン型の歯車の噛み合いによって、回転方向の力であるハンドル軸トルクがステアリングシャフト82に対する垂直方向の力に変換される。これがステアリングリンク機構85を介して操舵輪となる左右前輪3a、3bに伝えられ、左右前輪3a、3bが同方向に向けられて、所望の舵角を発生させることが可能となる。
【0043】
以上のような構成により、本実施形態にかかるレーンキープ制御システムが構成されている。続いて、このように構成されたレーンキープ制御システムの作動について、図6に示すレーンキープECU4が実行するレーンキープ制御処理のフローチャートを参照して説明する。なお、図6に示すレーンキープ制御処理は、例えば図示しないイグニッションスイッチがオンされたときに所定の制御周期毎に実行される。
【0044】
まず、ステップ100では、路面状態推定装置、つまりタイヤ側装置1と車両側装置2を用いた路面状態の検出の結果を取得することで、走行路面の路面μや平坦路であるか砂利道であるかなどの路面状況という路面状態の監視を行う。そして、ステップ105に進み、レーンキープ制御による監視スタートの条件を満たしたか否かを判定する。例えば、図示しないレーンキープ制御の実行スイッチが押下されると、監視スタートの条件を満たしたと判定する。ステップ105で肯定判定されるとステップ110に進み、否定判定されるとステップ105の処理を繰り返す。
【0045】
ステップ110では、レーンキープの制御開始要件を満たしたか否かを判定している。具体的には、車両が走行車線から逸脱する状況であるか否かを判定する。ここでいう車両が走行車線から逸脱する状況とは、走行車線の両側もしくは片側に沿って描かれている白線などの案内線(ガイドライン)を既に踏んでいる状況、もしくは、車両が案内線上に移動する状況であることを、車両が走行車線から逸脱する状況としている。このような状況であるか否かは、車載カメラ10の撮像データを解析して周知の手法を用いて判定できる。そして、ステップ110で肯定判定されるとステップ115に進む。また、ステップ110で否定判定された場合には、レーンキープ制御によるブレーキ制御やステアリング制御を行う必要がないことから、ステップ115以降には進まずにステップ110の処理を繰り返す。
【0046】
なお、ここでいう案内線とは、自車両の走行車線と対向車線との間に引かれた境界線(中央線)、同方向の複数車線間に引かれた車線境界線、走行車線とその外側(歩道など)とを仕切る車道外側線などを意味している。
【0047】
ステップ115では、車輪が白線(案内線)上にあるか否かを判定する。この判定も、車載カメラ10の撮像データを解析することによって行われる。ここで肯定判定された場合にはステップ120に進み、白線判定として、白線を踏んでいる車輪側とその反対の車輪側とで路面μが違うことを想定した制御を行う。すなわち、白線の路面μは白線とは異なる部分の路面μよりも低くなる。このため、白線上を踏んでいる車輪側では低μ路面に対応した制御、白線を踏んでいない車輪側では路面μが基準値のときに対応した制御となるように、制御の最適化を行う。
【0048】
具体的には、白線に移動した車両を走行車線内(白線内側)に戻す方向にモーメントを発生させることになり、例えば車両が進行方向左側の白線を踏んでいる状況の場合、車両を右方向に移動させるモーメントを発生させることになる。この場合、進行方向右側が左側よりもブレーキ力が高くなるようにブレーキ制御を行うか、車両を右方向に向けるステアリング力を発生させるステアリング制御を行うことになる。このとき、車両の右車輪側と左車輪側の路面μが異なっていることから、路面μが基準値の際に実行される通常のブレーキ制御やステアリング制御を行うと左車輪側にスリップが発生する可能性がある。したがって、この場合には、ブレーキ制御やステアリング制御の制御量の少なくとも一方を実行する場合の制御量について、路面μが基準値であるときに実行される通常のブレーキ制御やステアリング制御よりも制御量よりも小さくする。高μ路面側の車輪についても、低μ路側の車輪に対応させて制御量を小さくしても良い。これにより、車輪3のスリップを抑制して緩やかに車両が走行車線内に戻るようにすると好ましい。
【0049】
一方、ステップ115で否定判定された場合には、ステップ125に進み、路面状況が乾燥路面かつアスファルト路面のような平滑路であるか否かを判定する。この判定は、タイヤ側装置1から送られてきた路面状態データに基づいて行われる。ここで肯定判定された場合には、ステップ130に進み、4輪3a〜3dの路面μに差が有るか否かを判定する。この判定も、タイヤ側装置1から送られてきた路面状態データに基づいて行われ、例えば4輪3a〜3dの路面μのうち最も路面μが高い値と低い値との差が所定の閾値を超えている場合に肯定判定されるようになっている。もしくは、4輪3a〜3dの路面μの平均値を演算すると共に、その平均値と各車輪3a〜3dの路面μとの差を演算し、その差が所定の閾値を超えている場合に肯定判定されるようにしても良い。
【0050】
ここで肯定判定された場合には、4輪3a〜3dの路面μに差があって、車両姿勢が不安定になり得ることから、ステップ135に進み、レーンキープ制御を停止したり、もしくは、レーンキープ制御のためのブレーキ制御やステアリング制御の制御量を最適化する。すなわち、車両の左右輪で路面μが異なるμスプリット路や1輪のみ路面μが他の車輪の路面μと差が有る場合に対応して、各車輪3a〜3dの路面μに応じた制御となるようにする。例えば、μスプリット路においては、低μ路面側においてスリップが発生し易いことから、上記した白線上での制御と同様に、低μ路面上の車輪側では低μ路面に対応した制御、高μ路面上の車輪側では高μ路面に対応した制御となるように、制御の最適化を行う。
【0051】
なお、車両を左方向もしくは右方向に移動させるモーメントを発生させる場合、基本的には、移動させる方向側の車輪に対してブレーキ力を発生させれば良い。しかしながら、車両の左右のうちの一方にのみブレーキ力を発生させるよりも、左右の両方にブレーキ力を発生させた方が車両の安定性を向上させられる。このため、例えば対角線の関係にある車輪間にブレーキ力を発生させつつ、各車輪のブレーキ力に差を設けることで車両を左方向もしくは右方向に移動させるモーメントを発生させると良い。勿論、この場合にも、左右車輪間において路面μが異なっていれば、路面μに対応した制御とすることで、制御の最適化を図ることができる。
【0052】
また、ステップ130で否定判定された場合にはステップ140に進み、路面μが基準値よりも高い高μ路面であるか否かを判定する。この判定も、タイヤ側装置1から送られてきた路面状態データに基づいて行われる。高μ路面である場合、ブレーキ制御もしくはステアリング制御の制御量を大きくしても車輪にスリップが発生し難く、車両の安定性を損なう可能性が低い。したがって、ここで肯定判定された場合にはステップ145に進み、高μ路面に応じた制御として、ブレーキ制御もしくはステアリング制御の制御量を路面μが基準値である場合よりも大きく設定してレーンキープ制御を実行する。これより、より応答性良く車両を走行車線に戻すことが可能となる。
【0053】
さらに、ステップ140で否定判定された場合にはステップ150に進み、路面μが基準値よりも低い低μ路面であるか否かを判定する。この判定も、タイヤ側装置1から送られてきた路面状態データに基づいて行われる。
【0054】
路面μが基準値の場合、通常のレーンキープ制御を実行すれば良い。したがって、ステップ150で否定判定された場合にはステップ155に進み、通常のレーンキープ制御におけるブレーキ制御やステアリング制御を実行する。そして、低路面である場合には、ステップ150で肯定判定される。低μ路面である場合、ブレーキ制御もしくはステアリング制御の制御量を基準値と同様に発生させると車輪にスリップが発生する可能性があり、車両の安定性を損なう可能性がある。したがって、ステップ150で肯定判定された場合には、ステップ160に進んでレーンキープ制御を停止したり、もしくは、低μ路面に応じた制御として、ブレーキ制御もしくはステアリング制御の制御量を路面μが基準値である場合よりも小さく設定して最適化する。これより、より高い安定性で車両を走行車線に戻すことが可能となる。また、このようにブレーキ制御もしくはステアリング制御の制御量を低くする場合、その制御介入のタイミングを路面μが基準値となっている場合よりも早くすることで、応答性遅れを抑制することも可能となる。
【0055】
また、低μ路面の場合には、その旨をドライバに対して警告し、ドライバが操舵しない、もしくは、低μ路面に合わせた緩やかな操舵操作となるように注意を喚起するようにしても良い。
【0056】
さらに、上記したステップ125において否定判定された場合、平滑路ではない場合の制御が行われるようにする。まず、ステップ165において、走行路面にキャッツアイ(突起状の道路鋲)が存在するか否か、具体的にはキャッツアイを車輪が踏んだか否かを判定する。この判定は、車載カメラ10の撮像データの解析またはタイヤ側装置1から送られる路面状態データに基づいて行うことができる。そして、ここで肯定判定された場合には、ステップ170に進んでキャッツアイを避けるためのレーンキープ制御を実行する。
【0057】
キャッツアイを踏むと、車両姿勢が不安定になる可能性があるし、タイヤにダメージが与えられる可能性も有ることから、より早く車両を走行車線に戻すことが望ましい。したがって、キャッツアイを車輪が踏んだ場合には、検出されている路面μにおいて制御可能なブレーキ制御やステアリング制御の制御量の最大値を発生させることで、車両を走行車線に戻す方向のモーメントをより大きく発生させる。これにより、より早く車両を走行車線に戻すことが可能となり、車両姿勢の安定化が図れると共にタイヤのダメージ軽減を図ることが可能となる。
【0058】
一方、ステップ165で否定判定された場合にはステップ175に進み、未舗装路や圧雪路面などに対応する制御を行う。すなわち、低μ路面と同様に、車輪がスリップし易いことから、レーンキープ制御を停止したり、もしくは、レーンキープ制御のためのブレーキ制御やステアリング制御の制御量を最適化する。例えば、ブレーキ制御もしくはステアリング制御の制御量を路面μが基準値である場合よりも小さく設定して最適化する。これにより、より高い安定性で車両を走行車線に戻すことが可能となる。また、このようにブレーキ制御もしくはステアリング制御の制御量を低くする場合、その制御介入のタイミングを路面μが基準値となっている場合よりも早くすることで、応答性遅れを抑制することも可能となる。
【0059】
以上説明したように、本実施形態では、タイヤ側装置1および車両側装置2とによって路面状態推定装置を構成し、タイヤ側装置1から送られる路面状態データに基づいて路面状態を把握できるようにしている。したがって、車両の走行路面の路面状態または路面μを的確に検出でき、その検出結果に応じて、より的確なレーンキープ制御を行うことが可能となる。
【0060】
特に、タイヤ側装置1は、タイヤの接地面の振動を検出することで路面状態を推定していることから、より正確に路面状態を推定することができる。したがって、より的確なレーンキープ制御を行うことが可能となる。また、このような路面状態推定装置を構成するタイヤ側装置1や車両側装置2は、タイヤの接地長に基づいてタイヤ空気圧検出を行う例えばタイヤ空気圧監視システムに備えられるものと共通化できる。部品点数の削減を図ることもできる。よって、コスト削減を図ることも可能となる。
【0061】
(他の実施形態)
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。
【0062】
例えば、上記各実施形態では、路面状況や路面μに対応したレーンキープ制御の一例を挙げたが、上記した手法以外の手法によってレーンキープ制御を行っても良い。すなわち、路面状態や路面μをタイヤ側装置1および車両側装置2によって構成される路面状態推定装置によって把握し、その結果に基づいてレーンキープ制御を行うようにすれば、どのような手法であっても、より的確なレーンキープ制御を行うことが可能となる。
【0063】
また、路面状態データを通信センターに提供し、これを通信センターから自車両と同じ走行車線を通過する他車両に提供することで、他車両がレーンキープ制御する際の路面状態データとして用いることもできる。例えば、タイヤ側装置1から送られた路面状態データが車両側装置2に伝えられた場合に、それをDCM(Data Communication Module)のような携帯電話の無線ネットワークなどを経由して通信センターに送信する。そして、通信センターより、他車両にDCMを通じてその路面状態データを送信する。このデータを他車両のCAN通信用の車内LANを通じてレーンキープECUに伝え、レーンキープ制御時に利用すれば良い。
【0064】
また、上記実施形態では、レーンキープECU4、ブレーキECU5、EPS−ECU6を別々のECUによって構成する場合を説明したが、これらのいずれか2つもしくは全部が統合されたECUで構成されていても良い。
【0065】
さらに、上記実施形態では、タイヤ側装置1において路面状態を推定し、その路面状態を示した路面状態データを車両側装置2に伝えるようにした。しかしながら、これも一例を示したのであり、例えば路面状態データとしてタイヤ側装置1で生成した振動データを車両側装置2に送信し、車両側装置2で振動データに基づいて路面状態を推定しても良い。
【符号の説明】
【0066】
1 タイヤ側装置
2 車両側装置
3 車輪
4 レーンキープECU
5 ブレーキECU
6 EPS−ECU
11 振動検出素子
12 信号処理回路部
31 タイヤ
図1
図2
図3
図4
図5
図6