特許第6394370号(P6394370)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6394370-可変絞り形静圧軸受 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6394370
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】可変絞り形静圧軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 32/06 20060101AFI20180913BHJP
【FI】
   F16C32/06 A
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-260917(P2014-260917)
(22)【出願日】2014年12月24日
(65)【公開番号】特開2016-121726(P2016-121726A)
(43)【公開日】2016年7月7日
【審査請求日】2017年11月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(72)【発明者】
【氏名】橋本 高明
【審査官】 尾形 元
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−231857(JP,A)
【文献】 特開昭56−126547(JP,A)
【文献】 特開2015−230022(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 32/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受面に設けられた静圧ポケットと、
前記静圧ポケットに流体を供給する流体供給手段と、
前記流体供給手段から前記静圧ポケットに至る流体の流路を形成する流体流路と、
前記流体流路の途中に設けられ、流体の流量を絞って前記静圧ポケットに流入させる可変絞りを備え、
前記可変絞りは、
流体貯留室と、
中央部に突起部を備えた流体供給室と、
前記流体供給室と前記流体貯留室の間を仕切り、自らの厚さ方向と直交する面が前記突起部と所定の隙間を隔てて正対するダイアフラムと、
前記突起部に前記静圧ポケットへ連通する流路を備え、前記ダイアフラムと前記突起部の隙間の開度により絞り量を調整する可変絞り形静圧軸受において、
前記ダイアフラムの前記突起部に正対する面の裏面に一端が接するピストンと、
前記ピストンを摺動自在に収容し、前記ピストンと共に流体室を構成するシリンダと、
前記ピストンの他端を押圧し、前記シリンダ内に収容される弾性部材を備える可変絞り形静圧軸受。
【請求項2】
前記シリンダは、一端が閉じられ、前記ピストンと前記シリンダ内径との隙間を介して流体室内の流体が出入りする請求項1に記載の可変絞り形静圧軸受。
【請求項3】
前記ピストンの周面は、小径部の両端に大径部を備える請求項1または請求項2に記載の可変絞り形静圧軸受。
【請求項4】
前記ピストンの一端は、前記ピストンの大径部の断面積より小さな面積を有する請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の可変絞り形静圧軸受。
【請求項5】
前記ダイアフラムの前記突起部に対向しない部位に、前記流体供給室と前記流体貯留室の間を連結する流路を備える請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の可変絞り形静圧軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイアフラム式可変絞りを備えた可変絞り形静圧軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダイアフラム式可変絞りを備えた可変絞り形静圧軸受において、ダイアフラムの振動減衰性を大きくして静圧ポケットと可変絞りを含む流体回路の振動を減衰するために、ダイアフラムの可動方向と垂直な面の中央部に可変絞り部を備え、ダイアフラムの外周部とダイアフラム保持部材の間に狭い隙間のギャップを設けて、ギャップに作動流体を充満しておくことでダイアフラムの振動を抑制する技術がある。(特許文献1の図7
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−196655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ダイアフラムの変位量は中央部が最大で周辺部は小さいため、特許文献1に記載の従来技術では、振動抑制に寄与するダイアフラムの周辺部の変位量が小さく、十分な減衰性を付与することが困難な場合があった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、所望の位置に減衰機構を配置することで所望の減衰性を容易に実現できるダイアフラム式可変絞りを備えた可変絞り形静圧軸受を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、軸受面に設けられた静圧ポケットと、前記静圧ポケットに流体を供給する流体供給手段と、前記流体供給手段から前記静圧ポケットに至る流体の流路を形成する流体流路と、前記流体流路の途中に設けられ、流体の流量を絞って前記静圧ポケットに流入させる可変絞りを備え、前記可変絞りは、流体貯留室と、中央部に突起部を備えた流体供給室と、前記流体供給室と前記流体貯留室の間を仕切り、自らの厚さ方向と直交する面が前記突起部と所定の隙間を隔てて正対するダイアフラムと、前記突起部に前記静圧ポケットへ連通する流路を備え、前記ダイアフラムと前記突起部の隙間の開度により絞り量を調整する可変絞り形静圧軸受において、前記ダイアフラムの前記突起部に正対する面の裏面に一端が接するピストンと、前記ピストンを摺動自在に収容し、前記ピストンと共に流体室を構成するシリンダと、前記ピストンの他端を押圧し、前記シリンダ内に収容される弾性部材を備えることである。
【0007】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1に係る発明において、前記シリンダは、一端が閉じられ、前記ピストンと前記シリンダ内径との隙間を介して流体室内の流体が出入りすることである。
【0008】
請求項3に係る発明の特徴は、請求項1または請求項2に係る発明において、前記ピストンの周面は、小径部の両端に大径部を備えることである。
【0009】
請求項4に係る発明の特徴は、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に係る発明において、前記ピストンの一端は、前記ピストンの大径部の断面積より小さな面積を有することである。
【0010】
請求項5に係る発明の特徴は、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に係る発明において、前記ダイアフラムの前記突起部に対向しない部位に、前記流体供給室と前記流体貯留室の間を連結する流路を備えることである。
【0011】
請求項1、2に係る発明によれば、流体室から流出する流体の粘性抵抗により、ダイアフラムが突起部から離れる方向のダイアフラムの運動を妨げる作用を持つ。このため、静圧ポケットと可変絞りを含む流体回路に振動が発生してダイアフラムがその厚さ方向に振動する場合に、ダイアフラムの振動を妨げ減衰性を付与する。ピストンはダイアフラムと分離しているため、ダイアフラムの突起部に正対する面の裏面の所望の位置に配置できるので、所望の減衰特性を設定することが容易な可変絞り形静圧軸受を実現できる。
【0012】
請求項3に係る発明によれば、ピストンの大径部の軸方向長さの総和と、大径部の端部の間の最大軸方向距離を個別に設定できる。ピストンの大径部の軸方向長さの総和は粘性抵抗の大きさに影響し、大径部の端部の間の最大軸方向距離はピストンの傾きに影響する。両者を個別に設定できるので、過大なピストンの傾きを防止し、粘性抵抗を最適に設定できる可変絞り形静圧軸受を実現できる。
【0013】
請求項4に係る発明によれば、ピストンとダイアフラムの接触部の面積を小さくできるので、接触面圧を大きくでき、接触部に流体膜が生じるのを防止できる。流体膜は抵抗力の応答を悪くし減衰性を低下させるので、流体膜の防止は減衰性の向上となる。よって、減衰性のより大きな可変絞り形静圧軸受を実現できる。
【0014】
請求項5に係る発明によれば、ダイアフラムに流体供給室と流体貯留室の間を連結する流路を備えるので、外部に流路を備える必要がない。可変絞りの構造が簡単になり、低コストで可変絞り形静圧軸受を実現できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、所望の位置に減衰機構を配置することで所望の減衰性を容易に実現できるダイアフラム式可変絞りを備えた可変絞り形静圧軸受を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態のスライドテーブル装置の全体構成を示す概略図である。
図2図1のA−A断面図である。
図3図2のB部の可変絞りの詳細図である。
図4】ピストン部の詳細図である。
図5】変形態様の可変絞りの詳細図である。
図6図5のC矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、本発明をテーブル送り装置に使用した事例で説明する。
図1に示すように、テーブル送り装置1はベース10のスライド部にテーブル2を摺動自在に搭載し、テーブル2の両端の下部に1対の裏板5を取り付けることによりX軸方向のみに移動可能にした構造である。
図2に示すように、テーブル2のベース10に対向する軸受面に静圧ポケット2aを下向きに2箇所、横向きに対向する1対の静圧ポケット2cを備えている。静圧ポケット2a、2cには可変絞り3が連通しており、可変絞り3には各々給油管路4が連通している。給油管路4にはポンプ11(流体供給手段)が連結しており流体を供給する。
裏板5にも静圧ポケット5aを上向きに備えており、静圧ポケット5aには可変絞り3が連通しており、可変絞り3には各々給油管路4が連通している。
【0018】
図3に可変絞り3の詳細を示す。可変絞り3は、流体供給室31aを備えた可変絞りベース31と流体貯留室32aを備えたキャップ32とが、流体供給室31aと流体貯留室32aが対向し、それらの間にダイアフラム33の外周部を挟むように締結した構造である。可変絞りベース31は、流体供給室31aの中央部に突起部31bと吐出口31cとを備えている。キャップ32は流体貯留室32aの中央部に円筒形の止まり穴であるシリンダ32bを備えている。シリンダ32bの内部にピストン34が摺動自在に収容されている。ピストン34とシリンダ32bにより構成される流体室32cの内部にコイルばね35が、ピストン34をダイアフラム33の方向へ押圧するように圧縮されて配置されている。この押圧力により、ピストン34はダイアフラム33に押付けられている。
ダイアフラム33が中立位置にある場合は、突起部31bとダイアフラム33は隙間tを備えて正対する。流体貯留室32aにはキャップ32に形成した流路32dを経由して給油管路4が連通し、流体供給室31aには可変絞りベース31に形成した流路31dと前記流路32dを経由して給油管路4が連通し、吐出口31cはテーブル2の流入路2bを経由して静圧ポケット2aと連通している。
【0019】
ピストン34の詳細について、図4に基づき説明する。
ピストン34は、小径部34bと小径部34bの両端に配置された大径部34aで構成される周面と、ダイアフラム33に接触する端部34cを備え、大径部34aの径はD2である。小径部34bの径は大径部34aの80%程度で、端部34cの径は大径部34aの径D2の50%以下に設定されている。大径部34aの長さはL1とL2で、小径部34bの長さはL3である。
【0020】
可変絞り形静圧軸受の作動について、図3に基づき説明する。
管路4に流体が供給されると流路32dを経由して流体貯留室32aに流体が充満し、さらにシリンダ32bとピストン34の嵌合部の隙間(絞り)を経由して流体室32cにも流体が充満する。一方、流路32dと流路31dを経由して流体供給室31aに流体が充満し、さらに、流体供給室31a内の流体はダイアフラム33と突起部31bの間の隙間と吐出口31cを経由して静圧ポケット2aに流入する。静圧ポケット2a内からは、静圧ポケット2aとベース10の間隔tから流体が流出する。
以上のことが、テーブル2の水平方向に設置された静圧ポケット2cと裏板5の静圧ポケット5a部においても同様に起きる。この結果として、ベース10とテーブル2は静圧ポケット2a部で間隔tを備えた状態で保持される。
【0021】
ここで、ダイアフラム33が突起部31bから離れる方向に変位する時、ダイアフラム33がピストン34を押し、ピストン34はシリンダ32bに押込まれ、流体室32cの体積が減少するので、ピストン34とシリンダ32bの嵌合部の隙間(絞り)を経由して流体が流体室32cから流出する。このため、ピストン34は、嵌合部を流れる流体の粘性抵抗により変位速度が減速される力を受け、その力はダイアフラム33に伝わり、ダイアフラム33の変位速度も減速される。
これにより、静圧ポケットと可変絞りを含む流体回路の振動が発生した場合にはダイアフラム33が振動しようとするが、その振動を防止するようにピストン34に粘性抵抗が作用する、すなわち、減衰性を備えた可変絞りとなる。
【0022】
一方、ダイアフラム33が突起部31bに近づく方向に変位する時は、ピストン34に作用する減速力はダイアフラム33に伝わらない。すなわち、ダイアフラム33の変位速度は減速されない。
減衰の効果を大きくするためには、ダイアフラム33が突起部31bから離れる方向に変位する時には、常にダイアフラム33とピストン34が接触して、減衰の作用する時間を最大にすることが効果的である。そのためには、ダイアフラム33が突起部31bに近づく方向に変位する時にも、ダイアフラム33に遅れることなくピストン34が変位する必要がある。これには、ピストン34とコイルばね35により構成される振動系の振動周期をダイアフラム33の振動周期より小さくすることや、ダイアフラム33の振動の最大加速度よりもピストン34の加速度が大きくなるようにピストン34の質量とコイルばね35の押付け力を設定すればよい。
【0023】
さらに、本実施例では、図4に示すように、ピストン34の中央に大径部D2の80%程度の径を有する小径部34bを設け、その両端に絞り効果を生じる大径部34aを配置することで、所望の絞り特性を実現するとともに、ピストン34の動作の安定性を向上している。絞り特性は、シリンダ32bの内径D1とピストン34の大径部34aの外径D2の差である隙間の大きさD1−D2と大径部34aの長さの和L1+L2により決定される。一方、シリンダ32bに対してピストン34が傾くと、大径部34aの両端部がシリンダ32bの内壁に接触する。傾きが大きいと、ピストンがシリンダに食い込みスムースな運動ができなくなる。傾きの度合いは、大径部34aの両端部の距離Lが大きいほど小さくなる。適正な絞り特性を実現できる大径部34aの長さL1+L2と、ピストンの傾きの許容値で決まるL=L1+L2+L3となるようにL3の値を設定することで、所望の絞り特性の実現と、ピストン34の動作の安定性を両立できる。
【0024】
また、ピストン34のダイアフラム33に接触する端部34cの径は大径部34aの径D2の50%以下に設定されている。これにより、ピストン34とダイアフラム33の接触部の面圧が高くなり、接触部に油膜が生じにくくなる。油膜が存在するとピストン34からダイアフラム33へ伝わる力が減少して減衰効果が低下するので、端部34cの径を小さくすることは、減衰効果を低下させないために有効である。
【0025】
以上の実施例では、流体供給室31aへの流体の供給を流路31dを経由して行ったが、図5に示すように、ダイアフラム330の突起部310bに対向しない部位に流路330aを設け、流体貯留室320aから流路330aを経由して流体供給室310aへ流体を供給してもよい。図6に示すように、流路330aは複数を円周上等分に配置するとよい。こうすることで、可変絞りベース310aの流路を廃止でき、構造が簡単になる。
また、コイルばね35によりピストン34を押圧したが、ゴムや空気ばねなどの他の弾性部材を用いてもよい。
なお、図5図6の符号310、310a、310b、320、320a、320d、330は、それぞれ図3の符号31、31a、31b、32、32a、32d、33に対応する。
【符号の説明】
【0026】
2:テーブル 2a:静圧ポケット 3:可変絞り 4:給油管路 10:ベース 31:可変絞りベース 31a:流体供給室 31b:突起部 32:キャップ 32a:流体貯留室 32b:シリンダ 32c:流体室 33:ダイアフラム 34:ピストン 35:コイルばね
図1
図2
図3
図4
図5
図6