【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記技術的背景に鑑みて成されたものであり、化学組成の変更やカーボン原料の工夫に頼ることなくモールドパウダーの焼結を抑制し、鋳型内におけるスラグリムの過大な成長を防止することができるモールドパウダーの提供を目的とするものである。
【0011】
鋼の連続鋳造用モールドパウダーは、通常、第二族金属の塩基性酸化物であるMgO ,CaO ,SrO ,BaO と、酸性酸化物であるSiO
2を主成分として含有する。その理由は、これらの組み合わせが比較的安価に凝固温度や粘度といった物性値を調整するのに好適だからである。
【0012】
発明者らは、前記主成分の原料として、第二族金属の炭酸塩である炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、にソーダ石灰ガラス粉を組み合わせて、それぞれある割合以上用いることによって、モールドパウダーが鋳型内で焼結して生じるスラグリムの気孔率が高まり、強度が低下することを見出した。
【0013】
強度の低いスラグリムは鋳型内で自己崩壊するので、スラグリムの気孔率を高めるとスラグリムが過大に成長することを防止できるのである。その理由は、これら炭酸塩が熱分解して炭酸ガスを放出する温度とソーダ石灰ガラス粉が軟化する温度が、共に800〜1000℃の間にあるので、炭酸ガスによる発泡作用がソーダ石灰ガラス粉に作用して焼結体の気孔率が高まるためと考えられる。ソーダ石灰ガラス粉は溶融時にも高い粘度を保つので、炭酸塩の分解によって生じたガスを取り込んで発泡し、焼結体の気孔率を増大させる能力が高いと考えられる。
【0014】
本発明は、上記の発明者らの知見を基にしており、モールドパウダーの主成分であるMgO ,CaO ,SrO,BaO およびSiO
2の原料に、第二族金属炭酸塩とソーダ石灰ガラス粉を組み合わせて、規定濃度あるいは割合以上用いることによって、鋳型内におけるスラグリムの過大な成長を防止することをその骨子としている。
【0015】
すなわち、本発明は、
鋼等の高温溶融金属の連続鋳造に用いられ、第二族金属酸化物であるMgO ,CaO ,SrO,BaO とSiO
2を主成分とし、これら主成分の合計濃度が60atomic%以上である鋼の連続鋳造用モールドパウダーであって、
前記主成分の合計濃度が60atomic%以上であるモールドパウダーの基材原料中に、第二族金属炭酸塩である炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウムの内、少なくとも1種類以上を含有し、これら第二族金属炭酸塩が熱分解して生じる前記
第二族金属炭酸塩由来の第二族金属酸化物
であるMgO ,CaO ,SrO,BaOの合計濃度が7〜30atomic%の範囲内にあり、
かつ、前記基材原料中に含有したソーダ石灰ガラス粉に由来するSiO
2が、モールドパウダーに含まれるSiO
2の総量の50mass%以上を占めることを最も主要な特徴としている。
【0016】
本発明において、MgO ,CaO ,SrO,BaO とSiO
2を主成分とするとは、これら酸化物の合計濃度が60atomic%以上であることと定義する。これら酸化物の合計濃度の上限は100atomic%であることは言うまでもない。
【0017】
本発明の鋼の連続鋳造用モールドパウダーにおけるスラグリム成長の抑制効果は、モールドパウダーの主成分
となる
第二族金属酸化物であるMgO ,CaO ,SrO,BaO の原料にこれらの炭酸塩を用い、
第二族金属炭酸塩由来のMgO ,CaO ,SrO,BaO の合計濃度が7atomic%以上、より好ましくは10atomic% 以上の場合に発揮される。
【0018】
しかしながら、これら
第二族金属炭酸塩由来の
第二族金属酸化物であるMgO ,CaO ,SrO ,BaO の合計濃度が30atomic%を超えると、炭酸塩分解に伴う吸熱がモールドパウダーの溶鋼湯面保温作用を損なうので好ましくない。
【0019】
ところで、一般的にモールドフラックスの原料として使われる炭酸塩には、第二族金属炭酸塩の他に、Na
2CO
3などのアルカリ金属炭酸塩がある。
【0020】
しかしながら、アルカリ金属炭酸塩は、分解時にSiO
2と反応して800℃程度で液相を生じ、それをバインダーとしてモールドフラックスの焼結収縮が促進されてしまう側面を持つ。
【0021】
これに対して、第二族金属炭酸塩は、分解時にSiO
2と反応して800℃程度で液相を生じることがなく、バインダーとしてモールドフラックスの焼結収縮を促進せずにスラグリムの形成を抑制できる。
【0022】
そこで、本発明では、スラグリム成長抑制の観点から好適である第二族金属炭酸塩を利用することとしている。
【0023】
一方の主成分であるSiO
2に関しては、その原料の50mass%以上、より好ましくは60mass%以上をソーダ石灰ガラス粉とすれば、炭酸塩分解によるガス発生とソーダ石灰ガラス粉軟化の相乗効果によって十分な効果が得られる。ソーダ石灰ガラス粉に由来するSiO
2が、モールドパウダーに含まれるSiO
2の総量に占める割合の上限は100mass%であることは言うまでもない。
【0024】
ところで、ソーダ石灰ガラスとは、最も広範に使われているガラスであり、その組成は70〜73mass%SiO
2,1〜2mass%Al
2O
3 ,13〜15mass%Na
2O,7〜12mass%CaO のものが一般的であるが、Na
2Oの一部をK
2O に置き換えたものや数%程度のMgO を含むもの、 着色のために微量の遷移金属酸化物などを加えたものもある。本発明では、このようなソーダ石灰ガラスを数μm 〜数10μm 程度の粒径に粉砕したものを原料に用いる。この粒度は他の基材原料と同等である。
【0025】
本発明で規定しないモールドフラックスの基材原料としては、CaO およびSiO
2を主に含む原料としてポルトランドセメントやウォラストナイト、SiO
2原料として珪砂や珪藻土、Al
2O
3 の原料としてアルミナ粉、MgO の原料としてマグネシア粉(マグネシアクリンカ)、Na
2O原料としてソーダ灰(炭酸ナトリウム)、F 原料としてホタル石など、一般的な原料を用いればよい。
【0026】
また、モールドフラックスは、溶融速度調整用の骨材原料として、カーボンブラックやコークス粉などの炭素質原料を数mass%程度配合するが、これら骨材原料の配合については、本発明では特に規定しない。
【0027】
本発明において、濃度をatomic%で表すのは、原子量が大きく異なるマグネシウム〜バリウムまでの第二族金属を含む原料の濃度をmass%で表すと、濃度と配合効果との関係が原料毎に大きく異なってしまうためである。
【0028】
本発明のモールドパウダーは、多くの炭酸塩を含有する配合となるので、単に原料粉末を混合して製品とした場合、鋳型内で炭酸塩の熱分解によって発生するガスが原料粉末を舞い上げ、作業環境汚染を引き起こす場合がある。
【0029】
そこで、本発明のモールドパウダーは、基材原料にカーボンを主とした骨材原料を加えて混合したものを水で練ってスラリーにした後、顆粒状に成形した製品とすることが望ましい。
【0030】
顆粒の粒形状は、俵状、丸粒、中空丸粒、いずれであっても構わない。また、顆粒の大きさ(短径)は特に限定されないが、一般的には、0.3mm〜1.5mm程度のものを使用する。