特許第6394414号(P6394414)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6394414
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】鋼の連続鋳造用モールドパウダー
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/108 20060101AFI20180913BHJP
【FI】
   B22D11/108 F
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-10988(P2015-10988)
(22)【出願日】2015年1月23日
(65)【公開番号】特開2016-135493(P2016-135493A)
(43)【公開日】2016年7月28日
【審査請求日】2017年9月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089462
【弁理士】
【氏名又は名称】溝上 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100129827
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 進
(72)【発明者】
【氏名】塚口 友一
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 達一
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−227972(JP,A)
【文献】 特表平10−501471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/108
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼等の高温溶融金属の連続鋳造に用いられ、第二族金属酸化物であるMgO ,CaO ,SrO,BaO とSiO2を主成分とし、これら主成分の合計濃度が60atomic%以上である鋼の連続鋳造用モールドパウダーであって、
前記主成分の合計濃度が60atomic%以上であるモールドパウダーの基材原料中に、第二族金属炭酸塩である炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウムの内、少なくとも1種類以上を含有し、これら第二族金属炭酸塩が熱分解して生じる前記第二族金属炭酸塩由来の第二族金属酸化物であるMgO ,CaO ,SrO,BaOの合計濃度が7〜30atomic%の範囲内にあり、
かつ、前記基材原料中に含有したソーダ石灰ガラス粉に由来するSiO2が、モールドパウダーに含まれるSiO2の総量の50mass%以上を占めることを特徴とする鋼の連続鋳造用モールドパウダー。
【請求項2】
前記基材原料と、当該基材原料中に含有する第二族金属炭酸塩及びソーダ石灰ガラス粉の粒形状が顆粒であることを特徴とする請求項1に記載の鋼の連続鋳造用モールドパウダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼等の高温溶融金属の連続鋳造に用いられる潤滑保温剤であるモールドパウダーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1に示すように、鋼等の連続鋳造において、鋳型1に供給された溶融金属2の湯面上に添加されたモールドパウダー3は、溶融金属2の熱で溶けて溶融金属2の湯面上で溶融スラグ4の層を形成する。
【0003】
形成された溶融スラグ4は、鋳型1と鋳片5との間隙に流入してフィルム6を形成する。このフィルム6は、鋳型1と鋳片5の焼き付きを防止する潤滑の役割と、鋳片5から鋳型1への熱流束を制御する冷却調整の役割を担う。
【0004】
モールドパウダー3は、一般に、融点あるいは軟化温度の異なる複数種の原料を混合しているので、溶融開始段階では低融点原料が先に溶けて高融点原料を繋げるバインダーとして作用し、焼結体を形成した後、完全溶融に至る。
【0005】
溶融開始段階で形成される焼結体は、鋳型1の内壁面に沿って連続したスラグリム(スラグベアとも言う)7を形成する。スラグリム7は、鋳型振動(オシレーション)と相まって溶融スラグ4の流入を促進するポンプ作用を果たすが、スラグリム7が過大に成長すると、自重によって徐々に鋳型1の内側へ倒れ込んで、溶融スラグ4の流入経路を塞いだり、鋳片5の先端部を押し込んだりする悪弊を生じるようになる。
【0006】
そこで、従来から、スラグリムの肥大化を抑制する技術が、提案されている。
例えば特許文献1,2では、モールドパウダー中のアルカリ金属酸化物の濃度を低減することによって、焼結のバインダーとなる低融点液相の生成そのものを抑制する発明が提案されている。また、特許文献3では、モールドパウダーの骨材となるカーボンの種類や配合量を工夫することによって焼結を抑制する発明が提案されている。
【0007】
特許文献1〜3で提案されたモールドパウダーはいずれも有効である。
しかしながら、アルカリ金属酸化物の濃度を低減する場合、モールドパウダーの粘性や結晶化温度といった物性値の調整が難しくなるので、全てのモールドパウダーに適用できるわけではない。また、カーボンの種類や配合量の工夫も、モールドパウダーの粒形状が中空顆粒である場合には、造粒の都合上、使えるカーボンの種類が制限されるので、活用が難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2985671号公報
【特許文献2】特許第3637895号公報
【特許文献3】特開平11−10297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする問題点は、スラグリムの過大成長を防止するために、アルカリ金属酸化物の濃度を低減する場合、物性値の調整が難しくなるので、全てのモールドパウダーに適用できるわけではないという点である。また、カーボンの種類や配合量の工夫も、モールドパウダーの粒形状が中空顆粒である場合は、造粒の都合上、使えるカーボンの種類が制限されるので、活用が難しいという点である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記技術的背景に鑑みて成されたものであり、化学組成の変更やカーボン原料の工夫に頼ることなくモールドパウダーの焼結を抑制し、鋳型内におけるスラグリムの過大な成長を防止することができるモールドパウダーの提供を目的とするものである。
【0011】
鋼の連続鋳造用モールドパウダーは、通常、第二族金属の塩基性酸化物であるMgO ,CaO ,SrO ,BaO と、酸性酸化物であるSiO2を主成分として含有する。その理由は、これらの組み合わせが比較的安価に凝固温度や粘度といった物性値を調整するのに好適だからである。
【0012】
発明者らは、前記主成分の原料として、第二族金属の炭酸塩である炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、にソーダ石灰ガラス粉を組み合わせて、それぞれある割合以上用いることによって、モールドパウダーが鋳型内で焼結して生じるスラグリムの気孔率が高まり、強度が低下することを見出した。
【0013】
強度の低いスラグリムは鋳型内で自己崩壊するので、スラグリムの気孔率を高めるとスラグリムが過大に成長することを防止できるのである。その理由は、これら炭酸塩が熱分解して炭酸ガスを放出する温度とソーダ石灰ガラス粉が軟化する温度が、共に800〜1000℃の間にあるので、炭酸ガスによる発泡作用がソーダ石灰ガラス粉に作用して焼結体の気孔率が高まるためと考えられる。ソーダ石灰ガラス粉は溶融時にも高い粘度を保つので、炭酸塩の分解によって生じたガスを取り込んで発泡し、焼結体の気孔率を増大させる能力が高いと考えられる。
【0014】
本発明は、上記の発明者らの知見を基にしており、モールドパウダーの主成分であるMgO ,CaO ,SrO,BaO およびSiO2の原料に、第二族金属炭酸塩とソーダ石灰ガラス粉を組み合わせて、規定濃度あるいは割合以上用いることによって、鋳型内におけるスラグリムの過大な成長を防止することをその骨子としている。
【0015】
すなわち、本発明は、
鋼等の高温溶融金属の連続鋳造に用いられ、第二族金属酸化物であるMgO ,CaO ,SrO,BaO とSiO2を主成分とし、これら主成分の合計濃度が60atomic%以上である鋼の連続鋳造用モールドパウダーであって、
前記主成分の合計濃度が60atomic%以上であるモールドパウダーの基材原料中に、第二族金属炭酸塩である炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウムの内、少なくとも1種類以上を含有し、これら第二族金属炭酸塩が熱分解して生じる前記第二族金属炭酸塩由来の第二族金属酸化物であるMgO ,CaO ,SrO,BaOの合計濃度が7〜30atomic%の範囲内にあり、
かつ、前記基材原料中に含有したソーダ石灰ガラス粉に由来するSiO2が、モールドパウダーに含まれるSiO2の総量の50mass%以上を占めることを最も主要な特徴としている。
【0016】
本発明において、MgO ,CaO ,SrO,BaO とSiO2を主成分とするとは、これら酸化物の合計濃度が60atomic%以上であることと定義する。これら酸化物の合計濃度の上限は100atomic%であることは言うまでもない。
【0017】
本発明の鋼の連続鋳造用モールドパウダーにおけるスラグリム成長の抑制効果は、モールドパウダーの主成分とな第二族金属酸化物であるMgO ,CaO ,SrO,BaO の原料にこれらの炭酸塩を用い、第二族金属炭酸塩由来のMgO ,CaO ,SrO,BaO の合計濃度が7atomic%以上、より好ましくは10atomic% 以上の場合に発揮される。
【0018】
しかしながら、これら第二族金属炭酸塩由来の第二族金属酸化物であるMgO ,CaO ,SrO ,BaO の合計濃度が30atomic%を超えると、炭酸塩分解に伴う吸熱がモールドパウダーの溶鋼湯面保温作用を損なうので好ましくない。
【0019】
ところで、一般的にモールドフラックスの原料として使われる炭酸塩には、第二族金属炭酸塩の他に、Na2CO3などのアルカリ金属炭酸塩がある。
【0020】
しかしながら、アルカリ金属炭酸塩は、分解時にSiO2と反応して800℃程度で液相を生じ、それをバインダーとしてモールドフラックスの焼結収縮が促進されてしまう側面を持つ。
【0021】
これに対して、第二族金属炭酸塩は、分解時にSiO2と反応して800℃程度で液相を生じることがなく、バインダーとしてモールドフラックスの焼結収縮を促進せずにスラグリムの形成を抑制できる。
【0022】
そこで、本発明では、スラグリム成長抑制の観点から好適である第二族金属炭酸塩を利用することとしている。
【0023】
一方の主成分であるSiO2に関しては、その原料の50mass%以上、より好ましくは60mass%以上をソーダ石灰ガラス粉とすれば、炭酸塩分解によるガス発生とソーダ石灰ガラス粉軟化の相乗効果によって十分な効果が得られる。ソーダ石灰ガラス粉に由来するSiO2が、モールドパウダーに含まれるSiO2の総量に占める割合の上限は100mass%であることは言うまでもない。
【0024】
ところで、ソーダ石灰ガラスとは、最も広範に使われているガラスであり、その組成は70〜73mass%SiO2,1〜2mass%Al2O3 ,13〜15mass%Na2O,7〜12mass%CaO のものが一般的であるが、Na2Oの一部をK2O に置き換えたものや数%程度のMgO を含むもの、 着色のために微量の遷移金属酸化物などを加えたものもある。本発明では、このようなソーダ石灰ガラスを数μm 〜数10μm 程度の粒径に粉砕したものを原料に用いる。この粒度は他の基材原料と同等である。
【0025】
本発明で規定しないモールドフラックスの基材原料としては、CaO およびSiO2を主に含む原料としてポルトランドセメントやウォラストナイト、SiO2原料として珪砂や珪藻土、Al2O3 の原料としてアルミナ粉、MgO の原料としてマグネシア粉(マグネシアクリンカ)、Na2O原料としてソーダ灰(炭酸ナトリウム)、F 原料としてホタル石など、一般的な原料を用いればよい。
【0026】
また、モールドフラックスは、溶融速度調整用の骨材原料として、カーボンブラックやコークス粉などの炭素質原料を数mass%程度配合するが、これら骨材原料の配合については、本発明では特に規定しない。
【0027】
本発明において、濃度をatomic%で表すのは、原子量が大きく異なるマグネシウム〜バリウムまでの第二族金属を含む原料の濃度をmass%で表すと、濃度と配合効果との関係が原料毎に大きく異なってしまうためである。
【0028】
本発明のモールドパウダーは、多くの炭酸塩を含有する配合となるので、単に原料粉末を混合して製品とした場合、鋳型内で炭酸塩の熱分解によって発生するガスが原料粉末を舞い上げ、作業環境汚染を引き起こす場合がある。
【0029】
そこで、本発明のモールドパウダーは、基材原料にカーボンを主とした骨材原料を加えて混合したものを水で練ってスラリーにした後、顆粒状に成形した製品とすることが望ましい。
【0030】
顆粒の粒形状は、俵状、丸粒、中空丸粒、いずれであっても構わない。また、顆粒の大きさ(短径)は特に限定されないが、一般的には、0.3mm〜1.5mm程度のものを使用する。
【発明の効果】
【0031】
本発明では、モールドフラックスの化学組成を保ったまま、原料系の変更によって、スラグリムの成長を抑制できるので、操業上のリスクを負うことなく、スラグリムの肥大化にともなう問題を改善することができる。しかも、それに用いる原料が、リサイクル原料であるガラス粉など比較的安価なものであることも、本発明の優れた点である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】連続鋳造中の鋳型内の状況を説明する図である。
図2】本発明の実施例と比較例におけるスラグリムの厚さを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明では、化学組成の変更やカーボン原料の工夫に頼ることなくモールドパウダーの焼結を抑制し、鋳型内におけるスラグリムの過大な成長を防止するという目的を、モールドフラックスの化学組成を保ったまま、原料系を変更することで実現した。
【実施例】
【0034】
以下に、本発明の実施例を比較例と対比して示しながら、本発明について具体的に説明する。
【0035】
下記表1には、本発明の実施例と比較例の基材組成及びその濃度、基材組成の主成分であるMgO ,CaO ,SrO ,BaO とSiO2の合計濃度、炭酸塩由来の基材の濃度、炭酸塩のMgO ,CaO ,SrO ,BaO の合計濃度、全SiO2中のソーダ石灰ガラス粉由来の割合、製品の粒形状を示している。
【0036】
【表1】
【0037】
表1中のAは、本発明の請求項1を満たすモールドフラックス、BおよびCは、本発明の請求項1および請求項2を満たすモールドフラックスの実施例を示す。
【0038】
これらの実施例A〜Cにおいては、SiO2原料の多くを占めるソーダ石灰ガラス粉が軟化する温度域において第二族金属炭酸塩の分解によりガスが発生して焼結体の気孔率が高まり、後述する連続鋳造試験結果のようにスラグリムの成長が効果的に抑制される。
【0039】
一方、表1中のD〜Fは、本発明の請求項を満たさないモールドフラックスの比較例を示す。
【0040】
これらの比較例D,E,Fは、それぞれ実施例A,B,Cと同じ化学組成を有するモールドフラックスであるが、第二族金属炭酸塩やソーダ石灰ガラス粉の配合が本発明の規定を満たさないので、スラグリムが成長しやすい例である。
【0041】
また表1中のGは、主成分(MgO +CaO +SrO +BaO +SiO2)の合計濃度が本発明で規定する範囲を満たさないので、本発明の効果を発揮しえない比較例である。
【0042】
次に、実施例Cおよび比較例Fのモールドフラックスを実際の連続鋳造に供した結果について説明する。
【0043】
横断面が300mm×400mmの矩形断面鋳型に、内径が80mm、外径が150mmの浸漬ノズルを通して下記表2に示した化学組成を有する高炭素鋼の溶鋼を供給しながら、0.7m/minの鋳造速度で、280分間に亘って連続鋳造した後、鋳型内で成長したスラグリムの厚みt(図1参照)を測定した。スラグリムは、鋳造の終わった鋳型内から採取し、矩形断面鋳型のコーナー部2箇所とコーナー部から100mm離れた部位2箇所の厚みを測定して、その厚みデータを得た。
【0044】
【表2】
【0045】
その結果、図2に示すように、実施例Cのモールドフラックスを使用した場合の平均スラグリム厚みは、比較例Fのモールドフラックスを使用した場合の半分程度に低減した。
【0046】
本発明は上記の例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0047】
1 鋳型
2 溶融金属
3 モールドパウダー
4 溶融スラグ
5 鋳片
6 フィルム
7 スラグリム
図1
図2