(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記駆動回転体において前記従動回転体によりスラスト軸受される両面(11a,18a)間の軸方向距離(Da)と、当該両面間での前記従動回転体の軸方向厚さ(T)とを比較した寸法差を、δ1と定義し、
前記駆動回転体において前記従動回転体によりラジアル軸受される内周面(13a)の直径(φd2)と、前記従動回転体において前記駆動回転体をラジアル軸受する外周面(20a)の直径(φs)とを比較した寸法差を、δ2と定義し、
前記駆動回転体において前記カム軸によりラジアル軸受される内周面(13b)の直径(φd3)と、前記カム軸において前記駆動回転体をラジアル軸受する外周面(2a)の直径(φc)とを比較した寸法差を、δ3と定義し、
前記従動回転体による前記駆動回転体の前記偏心側でのスラスト軸受箇所(Pe)と、前記従動回転体による前記駆動回転体の反偏心側でのスラスト軸受箇所(Po)とについて相互間の径方向距離(Dr)を、L1と定義し、
前記従動回転体による前記駆動回転体のラジアル軸受箇所(Pr)において軸方向の軸受幅を、L2と定義し、
前記カム軸による前記駆動回転体のラジアル軸受箇所(Pc)において軸方向の軸受幅を、L3と定義すると、
δ1/L1<δ2/L2且つδ1/L1<δ3/L3の関係が成立することを特徴とする請求項1に記載のバルブタイミング調整装置。
前記従動回転体による前記駆動回転体のラジアル軸受箇所(Pr)の軸方向中心(Cr)と、前記従動回転体に対する前記遊星回転体の噛合箇所(Pbs)の軸方向中心(Cbs)とは、互いに軸方向にずれることを特徴とする請求項1又は2に記載のバルブタイミング調整装置。
前記従動回転体による前記駆動回転体の前記偏心側でのスラスト軸受箇所(Pe)は、前記駆動回転体及び前記従動回転体の一方において軸方向に突出する突部(18)を、前記駆動回転体及び前記従動回転体の他方と当接させることにより構築され、前記従動回転体による前記駆動回転体の反偏心側でのスラスト軸受箇所(Po)よりも径方向内側に位置することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のバルブタイミング調整装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さて、特許文献1の開示装置では、駆動回転体及び従動回転体に対する遊星回転体の噛合箇所において、バックラッシに起因する異音の抑制を、当該噛合箇所の位置設定により可能にしている。しかし、本発明者らが鋭意研究を行った結果、従動回転体による駆動回転体のスラスト軸受箇所に隙間が存在することから、駆動回転体が軸方向両側への移動により従動回転体と衝突して発生する異音については、別の対策が必要であることが判明した。
【0007】
本発明は、以上説明した問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、異音の抑制により静粛性を高めるバルブタイミング調整装置を、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、課題を達成するための発明の技術的手段について、説明する。尚、発明の技術的手段を開示する特許請求の範囲及び本欄に記載された括弧内の符号は、後に詳述する実施形態に記載された具体的手段との対応関係を示すものであり、発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0009】
上述の課題を解決するために開示された第一発明は、
内燃機関に付設され、クランク軸からのトルク伝達によりカム軸(2)が開閉する動弁のバルブタイミングを調整するバルブタイミング調整装置(1)において、
カム軸により径方向内側からラジアル軸受された状態下、クランク軸と連動して回転する駆動回転体(10)と、
駆動回転体を軸方向両側にてスラスト軸受し且つ駆動回転体を径方向内側からラジアル軸受した状態下、同軸上に連結されたカム軸と連動して回転する従動回転体(20)と、
駆動回転体及び従動回転体とは偏心して配置され、駆動回転体及び従動回転体に対して径方向内側から当該偏心側にて噛合する歯車連繋状態下、遊星運動することにより駆動回転体及び従動回転体の間の回転位相を調整する遊星回転体と、
駆動回転体を径方向内側からラジアル軸受し且つ遊星回転体を径方向内側からラジアル軸受した状態下、遊星回転体を遊星運動させる遊星キャリア(50)と、
遊星回転体及び遊星キャリアの間に介装され、遊星回転体を偏心側へ付勢するように復原力を発生することにより、従動回転体に対して駆動回転体を傾斜させる弾性部材(60)とを、備え、
軸方向両側にて従動回転体と当接したとする第一傾斜状態(S1)の駆動回転体を想定した場合に、従動回転体に対する駆動回転体の当該第一傾斜状態での傾斜角度を、θ1と定義し、
径方向両側にて従動回転体と当接したとする第二傾斜状態(S2)の駆動回転体を想定した場合に、従動回転体に対する駆動回転体の当該第二傾斜状態での傾斜角度を、θ2と定義し、
径方向両側にてカム軸と当接したとする第三傾斜状態(S3)の駆動回転体を想定した場合に、従動回転体に対する駆動回転体の当該第三傾斜状態での傾斜角度を、θ3と定義すると、
θ1<θ2且つθ1<θ3の関係が成立することを特徴とする。
【0010】
このような第一発明では、弾性部材の復原力により駆動回転体が従動回転体に対して傾斜することに関し、第一傾斜状態での傾斜角度θ1が第二傾斜状態での傾斜角度θ2及び第三傾斜状態での傾斜角度θ3のいずれよりも小さくなる。これにより、想定された三種類の傾斜状態のうち、実際には第一傾斜状態が実現されることで、第二傾斜状態及び第三傾斜状態の実現は制限され得る。これは、弾性部材の復原力により駆動回転体が、径方向両側における従動回転体及びカム軸との当接に優先して、軸方向両側における従動回転体との当接を維持し得ることを意味する。故に、従動回転体と当接した軸方向両側へ駆動回転体が移動するのを規制して、それら回転体同士の衝突による異音の発生を抑制することができる。したがって、静粛性を高めることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
図1に示すように、本発明の一実施形態によるバルブタイミング調整装置1は、車両の内燃機関においてクランク軸(図示しない)からカム軸2へクランクトルクを伝達する伝達系に、付設されている。ここでカム軸2は、内燃機関の「動弁」のうち吸気弁(図示しない)をクランクトルクの伝達により開閉する。そこで、装置1は、吸気弁のバルブタイミングを調整する。
【0014】
(基本構成)
以下、装置1の基本構成を説明する。
図1〜3に示すように装置1は、アクチュエータ4、通電制御回路部7及び位相調整ユニット8等から構成されている。
【0015】
図1に示すアクチュエータ4は、例えばブラシレスモータ等の電動モータであり、ハウジングボディ5及び制御軸6を有している。ハウジングボディ5は、内燃機関の固定節に固定され、制御軸6を回転自在に支持している。通電制御回路部7は、例えば駆動ドライバ及びその制御用マイクロコンピュータ等から構成され、ハウジングボディ5の外部及び/又は内部に配置されている。通電制御回路部7は、電気的に接続されるアクチュエータ4への通電を制御することで、制御軸6を回転駆動する。
【0016】
図1〜3に示すように位相調整ユニット8は、駆動回転体10、従動回転体20、遊星回転体30、遊星キャリア50及び弾性部材60を備えている。
【0017】
全体として中空状の金属製駆動回転体10は、位相調整ユニット8の他の構成要素20,30,50,60を内部に収容している。
図1,2,4に示すように駆動回転体10は、太陽歯車11、スプロケット13及び駆動ベアリング15を組み合わせてなる。
【0018】
段付円筒状の太陽歯車11は、有底円筒状のスプロケット13と一体回転可能に共締めされている。太陽歯車11は、歯底円の径方向内側に歯先円を有した駆動側内歯車部12を、周壁部のうち大径側内周面に形成している。
図1に示すように太陽歯車11は、軸方向に駆動側内歯車部12を挟んでカム軸2とは反対側に位置するジャーナル部14を、周壁部のうち小径側内周面に形成している。
【0019】
スプロケット13は、円柱状の金属製カム軸2に対して径方向外側に同軸上に配置されることで、ラジアル軸受されている。ここで特に、スプロケット13の底壁部のうち内周面13bは、カム軸2の外周面2aに対して摺動可能に嵌合することで、当該軸2により径方向内側からラジアル軸受されている。こうした軸受状態下、スプロケット13の径方向内側から軸方向の太陽歯車11とは反対側には、カム軸2が延出している。また、スプロケット13は、軸方向の太陽歯車11側へと突出して周方向に連続する円環状の突部18を、底壁部の内底面に形成している。この突部18は、太陽歯車11の周壁部のうち大径側端面11aよりも径方向内側に、位置している。
【0020】
スプロケット13は、周方向に等間隔ずつあけた箇所から径方向外側へ突出する複数のスプロケット歯19を、周壁部の外周面に形成している。スプロケット13は、それらスプロケット歯19とクランク軸の複数のスプロケット歯との間にてタイミングチェーン(図示しない)が掛け渡されることで、クランク軸と連繋する。かかる連繋によりスプロケット13には、クランク軸から出力されたクランクトルクがタイミングチェーンを通じて伝達される。その結果として駆動回転体10は、カム軸2によるラジアル軸受状態下、クランク軸と連動して一定方向(
図2の反時計方向且つ
図3の時計方向)に回転する。
【0021】
円環状の金属製駆動ベアリング15は、ジャーナル部14の径方向内側に同軸上に配置されている。駆動ベアリング15は、外輪15a及び内輪15bの間に複数の球状転動体15cを一列介装してなる単列式ラジアル軸受である。外輪15aは、ジャーナル部14の内周面14aに同軸上に圧入されている。かかる圧入により、太陽歯車11と駆動ベアリング15とが一体に回転可能となっている。
【0022】
図1,3に示すように、有底円筒状の金属製従動回転体20は、スプロケット13の径方向内側に同軸上に配置されることで、駆動回転体10をラジアル軸受している。ここで特に、
図1に示す従動回転体20の周壁部のうち底壁部側外周面20aは、スプロケット13の周壁部のうち底壁部側内周面13aに対して摺動可能に嵌合することで、駆動回転体10を径方向内側からラジアル軸受している。
【0023】
従動回転体20は、軸方向において太陽歯車11及びスプロケット13の間に挟持されることで、駆動回転体10を軸方向両側にてスラスト軸受している。ここで特に、従動回転体20の周壁部のうち開口端面20bは、太陽歯車11の周壁部のうち大径側端面11aと当接することで、軸方向のカム軸2側から駆動回転体10をスラスト軸受している。一方、従動回転体20の底壁部のうち外端面20cは、スプロケット13の底壁部のうち突部18の先端面18aと当接することで、軸方向のカム軸2とは反対側から駆動回転体10をスラスト軸受している。
【0024】
図1,3に示すように従動回転体20は、カム軸2に同軸上に連結される連結部22を、底壁部の中央部に形成している。かかる連結により従動回転体20は、駆動回転体10を軸方向両側にてスラスト軸受且つ径方向内側からラジアル軸受した状態下、当該回転体10に対しては、同一方向(
図3の時計方向)に回転しつつ相対回転可能となっている。
【0025】
従動回転体20は、歯底円の径方向内側に歯先円を有した従動側内歯車部24を、周壁部のうち開口側内周面に形成している。従動側内歯車部24は、駆動側内歯車部12とは軸方向のカム軸2側にずれて径方向には重ならない箇所に、配置されている。従動側内歯車部24の内径は、駆動側内歯車部12の内径よりも小さく設定されている。従動側内歯車部24の歯数は、駆動側内歯車部12の歯数よりも少なく設定されている。
【0026】
図1〜4に示すように、全体として円盤状の金属製歯車回転体30は、回転体10,20とは偏心して、配置されている。遊星回転体30は、遊星歯車31及び遊星ベアリング36を組み合わせてなる。
【0027】
図1〜3に示すように、段付円環状の金属製遊星歯車31は、従動回転体20の径方向内側から駆動側内歯車部12の径方向内側に跨って、配置されている。遊星歯車31は、歯底円の径方向外側に歯先円を有した外歯車部32,34を、周壁部の外周面に形成している。駆動側外歯車部32は、回転体10,20に対して遊星歯車31の偏心する偏心側(以下、単に「偏心側という)にて、径方向内側から駆動側内歯車部12と噛合している。従動側外歯車部34は、駆動側外歯車部32とは軸方向のカム軸2側へとずれて径方向には重ならない箇所に、形成されている。従動側外歯車部34の外径は、駆動側外歯車部32とは相異なる径として、駆動側外歯車部32の外径よりも小さく設定されている。従動側外歯車部34の歯数は、駆動側外歯車部32の歯数よりも少なく設定されている。従動側外歯車部34は、偏心側にて径方向内側から従動側内歯車部24と噛合している。
【0028】
ここで
図1に示すように、従動側内歯車部24に対する従動側外歯車部34の噛合箇所Pbsの軸方向中心Cbsは、従動回転体20によるスプロケット13のラジアル軸受箇所Prの軸方向中心Crに対して、軸方向のカム軸2とは反対側へずれている。尚、噛合箇所Pbsの軸方向中心Cbsとは、歯車部24,34同士が実際に噛合して重畳する部分の軸方向中心をいう。また、ラジアル軸受箇所Prの軸方向中心Crとは、スプロケット13及び従動回転体20の周面13a,20a同士が実際に摺接して重畳する部分の軸方向中心をいう。
【0029】
図1〜3に示すように、円環状の金属製遊星ベアリング36は、駆動側外歯車部32の径方向内側から従動側外歯車部34の径方向内側に跨って、配置されている。遊星ベアリング36は、外輪36a及び内輪36bの間に複数の球状転動体36cを一列介装してなる単列式ラジアル軸受である。外輪36aは、遊星歯車31の内周面31aに同軸上に圧入されている。かかる圧入により、遊星歯車31と遊星ベアリング36とが一体に遊星運動可能となっている。
【0030】
部分偏心円筒状の金属製遊星キャリア50は、遊星回転体30の径方向内側からジャーナル部14の径方向内側に跨って、配置されている。遊星キャリア50は、回転体10,20及び制御軸6とは同軸上となる円筒面状の入力部51を、周壁部の内周面に形成している。入力部51には、継手53と嵌合する連結溝52が設けられ、当該継手53を介して制御軸6が遊星キャリア50と連結されている。かかる連結により遊星キャリア50は、制御軸6と一体回転可能となっている。
【0031】
図1に示すように遊星キャリア50は、回転体10,20と同軸上となる円筒面状の同軸部56を、周壁部の外周面に形成している。同軸部56は、駆動ベアリング15のうち内輪15bに同軸上に外嵌されることで、駆動回転体10を径方向内側からラジアル軸受している。かかる軸受状態下において遊星キャリア50は、回転体10,20に対しては、同軸上に回転しつつ相対回転可能となっている。
【0032】
図1〜3に示すように遊星キャリア50は、回転体10,20とは偏心する円筒面状の偏心部54を、周壁部の外周面に形成している。偏心部54は、遊星ベアリング36のうち内輪36bに同軸上に外嵌されることで、遊星回転体30を径方向内側からラジアル軸受している。かかる軸受状態下において遊星キャリア50は、駆動回転体10に対して相対回転するのに応じて、遊星回転体30を遊星運動させる。このとき遊星回転体30は、回転体10,20と偏心側にて噛合する歯車連繋状態下、自身の周方向へと自転しつつ遊星キャリア50の回転方向へと公転する。
【0033】
金属製弾性部材60は、偏心部54の周方向二箇所に開口した収容凹部55に、それぞれ一つずつ収容されている。各弾性部材60は、概ねU字状断面の板ばねである。各弾性部材60は、遊星回転体30をなす遊星ベアリング36のうち内輪36bと、収容先の収容凹部55との間に介装されている。かかる介装により各弾性部材60は、遊星回転体30の径方向に圧縮されて弾性変形することで、それぞれ復原力を発生する。
【0034】
ここで
図2,3に示すように、遊星回転体30が回転体10,20とは偏心する径方向に沿ってストレートに延伸するように、基準線Lを想定する。かかる想定下、各弾性部材60は、軸方向長さの任意の範囲において、基準線Lに関する線対称位置に配置されている。その結果、各弾性部材60が発生する復原力の合力は、
図2,4に示すように、基準線Lに沿って偏心側の遊星回転体30に作用するラジアル力Feと、同線Lに沿って反対側(以下、「反偏心側」という)の遊星キャリア50に作用するラジアル力Foとなる。こうして、反偏心側のラジアル力Foにより各弾性部材60が収容凹部55に保持された状態下、遊星回転体30は、偏心側のラジアル力Feにより付勢されることで、当該偏心側にて回転体10,20との噛合状態を維持している。
【0035】
以上の構成を備えた位相調整ユニット8では、駆動回転体10及び従動回転体20の間の回転位相を、制御軸6の回転状態に応じて調整する。こうした回転位相の調整により、内燃機関の運転状況に適したバルブタイミング調整が実現される。
【0036】
具体的には、制御軸6が駆動回転体10と同速に回転することで、遊星キャリア50が当該回転体10に対して相対回転しないときには、遊星回転体30が遊星運動せずに回転体10,20と連れ回りする。その結果、回転位相が実質的に不変となって、バルブタイミングが保持調整される。一方、制御軸6が駆動回転体10に対して低速又は逆方向に回転することで、遊星キャリア50が当該回転体10に対する遅角方向へ相対回転すると、遊星回転体30の遊星運動により従動回転体20が駆動回転体10に対する遅角方向へと相対回転する。その結果、回転位相が遅角変化して、バルブタイミングが遅角調整される。また一方、制御軸6が駆動回転体10よりも高速に回転することで、遊星キャリア50が当該回転体10に対する進角方向へ相対回転すると、遊星回転体30の遊星運動により従動回転体20が駆動回転体10に対する進角方向へと相対回転する。その結果、回転位相が進角変化して、バルブタイミングが進角調整される。
【0037】
(位相調整ユニットにおけるラジアル力の相関)
以下、位相調整ユニット8において発生するラジアル力の相関を、
図4に基づき説明する。
【0038】
各弾性部材60により偏心側へ作用するラジアル力Feは、遊星回転体30が駆動回転体10を偏心側へ押圧するラジアル力Fedと、同回転体30が従動回転体20を偏心側へ押圧するラジアル力Fesとに、分配される。ここでラジアル力Fedは、歯車部12,32の噛合箇所Pbdを通じて遊星回転体30から駆動回転体10に作用する。一方でラジアル力Fesは、歯車部24,34の噛合箇所Pbsを通じて遊星回転体30から従動回転体20に作用する。
【0039】
駆動回転体10が遊星回転体30を反偏心側へ押圧するラジアル力Fredと、従動回転体20が遊星回転体30を反偏心側へ押圧するラジアル力Fresとは、それぞれラジアル力Fed,Fesの反作用として発生する。ここでラジアル力Fredは、歯車部12,32の噛合箇所Pbdを通じて駆動回転体10から遊星回転体30に作用する。一方でラジアル力Fresは、歯車部24,34の噛合箇所Pbsを通じて従動回転体20から遊星回転体30に作用する。
【0040】
各弾性部材60により反偏心側へ作用するラジアル力Foは、遊星キャリア50を通じて駆動回転体10にも反偏心側へと作用する。その結果としてラジアル力Foは、駆動回転体10が遊星回転体30を反偏心側へ押圧するラジアル力Fodと、同回転体10が従動回転体20を反偏心側へ押圧するラジアル力Fosとに、分配される。ここでラジアル力Fodは、歯車部12,32の噛合箇所Pbdを通じて駆動回転体10から遊星回転体30に作用する。一方でラジアル力Fosは、周面13a,20a同士のラジアル軸受箇所Prを通じて駆動回転体10から従動回転体20に作用する。
【0041】
遊星回転体30が駆動回転体10を偏心側へ押圧するラジアル力Frodと、従動回転体20が駆動回転体10を偏心側へ押圧するラジアル力Frosとは、それぞれラジアル力Fod,Fosの反作用として発生する。ここでラジアル力Frodは、歯車部12,32の噛合箇所Pbdを通じて遊星回転体30から駆動回転体10に作用する。一方でラジアル力Frosは、周面13a,20a同士のラジアル軸受箇所Prを通じて従動回転体20から駆動回転体10に作用する。
【0042】
ここまで説明したラジアル力のうち、従動回転体20に作用するラジアル力Fes,Fosは、当該回転体20に連結されたカム軸2により支えられる。また、歯車部12,32の噛合箇所を通じて駆動回転体10と遊星回転体30とにそれぞれ作用するラジアル力Fed,Frodとラジアル力Fred,Fodとは、相殺される。さらに、ラジアル力Fres,Frosがそれぞれ作用する箇所Pbs,Prの軸方向中心Cbs,Cr(
図1参照)は、軸方向に互いにずれている。これらのことからラジアル力Fres,Frosは、従動回転体20に対して駆動回転体10を
図4の反時計まわりに傾斜させるように、傾斜モーメントMiを発生させる。
【0043】
こうした傾斜モーメントMiが作用して傾斜する駆動回転体10は、反偏心側では端面11aを端面20bに当接させるため、従動回転体20により軸方向のカム軸2側からスラスト軸受されてスラスト軸受箇所Poを構築する。それと共に駆動回転体10は、偏心側では端面18aを端面20cに当接させるため、従動回転体20により軸方向のカム軸2とは反対側からスラスト軸受されてスラスト軸受箇所Peを構築する。即ち、従動回転体20による駆動回転体10の偏心側でのスラスト軸受箇所Peは、駆動回転体10において軸方向に突出する突部18が端面18aを従動回転体20に当接させることで、構築される。その結果、従動回転体20による駆動回転体10の偏心側でのスラスト軸受箇所Peは、端面11a,18aの位置関係に従って、従動回転体20による駆動回転体10の反偏心側でのスラスト軸受箇所Poよりも径方向内側に、位置する。
【0044】
このような駆動回転体10の傾斜及び従動回転体20のスラスト軸受を実現するために本実施形態では、
図5〜7に示す同回転体10の三種類の傾斜状態S1,S2,S3を想定し、それら各想定状態S1,S2,S3での傾斜角度θ1,θ2,θ3を定義する。それと共に、各傾斜角度θ1,θ2,θ3を与えるための物理量δ1,δ2,δ3,L1,L2,L3も、定義する。
【0045】
具体的にはまず、
図5に模式的に示すように、軸方向両側にて端面11a,18aが従動回転体20と当接したとする第一傾斜状態S1の駆動回転体10を想定し、その場合において、従動回転体20に対する駆動回転体10の当該状態S1での傾斜角度θ1が定義される。この傾斜角度θ1は、物理量δ1,L1を用いた下記の式1により、近似的に与えられる。ここでδ1は、駆動回転体10において従動回転体20によりスラスト軸受される両端面11a,18a間の軸方向距離Daと、当該両端面11a,18a間での従動回転体20の軸方向厚さTとを比較して、それらの寸法差(Da−T)により定義される。L1は、従動回転体20による駆動回転体10の偏心側でのスラスト軸受箇所Peと、従動回転体20による駆動回転体10の反偏心側でのスラスト軸受箇所Poとについて、相互間の径方向距離により定義される。即ちL1は、偏心側でのスラスト軸受箇所Peの半径Rd1eと、反偏心側でのスラスト軸受箇所Poの半径Rd1oとの和(Rd1e+Rd1o)として、定義される。
θ1≒arctan(δ1/L1) …(式1)
【0046】
次に、
図6に模式的に示すように、径方向両側にて内周面13aが従動回転体20と当接したとする第二傾斜状態S2の駆動回転体10を想定し、その場合において、従動回転体20に対する駆動回転体10の当該状態S2での傾斜角度θ2が定義される。この傾斜角度θ2は、物理量δ2,L2を用いた下記の式2により、近似的に与えられる。ここでδ2は、駆動回転体10において従動回転体20によりラジアル軸受される内周面13aの直径φd2と、従動回転体20において駆動回転体10をラジアル軸受する外周面20aの直径φsとを比較して、それらの寸法差(φd2−φs)により定義される。L2は、従動回転体20による駆動回転体10のラジアル軸受箇所Prにおける軸方向の軸受幅により、定義される。即ちL2は、ラジアル軸受箇所Prをなす周面13a,20a同士が実際に重畳する部分の軸方向長さとして、定義される。
θ2≒arctan(δ2/L2) …(式2)
【0047】
さらに、
図7に模式的に示すように、径方向両側にて内周面13bがカム軸2と当接したとする第三傾斜状態S3の駆動回転体10を想定し、その場合において、従動回転体20に対する駆動回転体10の当該状態S3での傾斜角度θ3が定義される。この傾斜角度θ3は、物理量δ3,L3を用いた下記の式3により、近似的に与えられる。ここでδ3は、駆動回転体10においてカム軸2によりラジアル軸受される内周面13bの直径φd3と、カム軸2において駆動回転体10をラジアル軸受する外周面2aの直径φcとを比較して、それらの寸法差(φd3−φc)により定義される。L3は、カム軸2による駆動回転体10のラジアル軸受箇所Pc(
図7と共に
図4も参照)における軸方向の軸受幅により、定義される。即ちL3は、ラジアル軸受箇所Pcをなす周面13b,2a同士が実際に重畳する部分の軸方向長さとして、定義される。
θ3≒arctan(δ3/L3) …(式3)
【0048】
以上の定義下にて本実施形態では、第一傾斜状態S1を実現する一方、第二傾斜状態S2及び第三傾斜状態S3の実現を制限するように、下記の式4,5の関係を共に成立させている。これら式4,5の関係成立により駆動回転体10は、径方向両側での従動回転体20及びカム軸2との当接に優先して、軸方向両側での従動回転体20との当接を維持することになる。また、これら式4,5及び上記式1〜3から導出される式6,7の関係を共に成立させるように、本実施形態では位相調整ユニット8の構造が設計されている。
θ1<θ2 …(式4)
θ1<θ3 …(式5)
δ1/L1<δ2/L2 …(式6)
δ1/L1<δ3/L3 …(式7)
【0049】
(作用効果)
以上説明した装置1の作用効果を、以下に説明する。
【0050】
装置1では、式4,5の関係が成立する。即ち、各弾性部材60の復原力により駆動回転体10が従動回転体20に対して傾斜することに関し、第一傾斜状態S1での傾斜角度θ1が第二傾斜状態S2での傾斜角度θ2及び第三傾斜状態S3での傾斜角度θ3のいずれよりも小さくなる。これにより、想定された三種類の傾斜状態S1,S2,S3のうち、実際には第一傾斜状態S1が実現されることで、第二傾斜状態S2及び第三傾斜状態S3の実現は制限され得る。これは、各弾性部材60の復原力により駆動回転体10が、径方向両側における従動回転体20及びカム軸2との当接に優先して、軸方向両側における従動回転体20との当接を維持し得ることを意味する。故に、従動回転体20と当接した軸方向両側へ駆動回転体10が移動するのを規制して、それら回転体10,20同士の衝突による異音の発生を抑制することができる。したがって、静粛性を高めることが可能である。
【0051】
また、装置1によると、各傾斜状態S1,S2,S3での傾斜角度θ1,θ2,θ3は、それぞれ式1,2,3により近似的に表される。したがって、式6,7の関係が成立することで、式4,5の関係も成立することになる。即ち、式6,7の関係を成立させる構造を採用することで、第一傾斜状態S1での傾斜角度θ1が第二傾斜状態S2での傾斜角度θ2及び第三傾斜状態S3での傾斜角度θ3のいずれよりも小さくなる関係を、適正に成立させ得る。故に、式6,7の関係を成立させる構造を採用した装置1によれば、軸方向両側への駆動回転体10の移動を確実に規制できるので、それら回転体10,20同士の衝突による異音の発生抑制効果につき、信頼性を高めることが可能となる。
【0052】
さらに、装置1によると、従動回転体20による駆動回転体10のラジアル軸受箇所Prの軸方向中心Crと、従動回転体20に対する遊星回転体30の噛合箇所Pbsの軸方向中心Cbsとは、互いに軸方向にずれる。こうした構成では、各弾性部材60の復原力により従動回転体20に対して駆動回転体10を傾斜させる傾斜モーメントMiが発生し易くなる。これによれば、傾斜モーメントMiにより傾斜した駆動回転体10が軸方向両側にて従動回転体20と当接する第一傾斜状態S1を、確実に維持し得る。故に、回転体10,20同士の衝突による異音の発生抑制効果につき、信頼性を高めることが可能となる。
【0053】
またさらに、装置1によると、従動回転体20による駆動回転体10の偏心側でのスラスト軸受箇所Peは、従動回転体20による駆動回転体10の反偏心側でのスラスト軸受箇所Poよりも、径方向内側に位置する。ここで、かかる偏心側でのスラスト軸受箇所Peは、駆動回転体10において軸方向に突出する突部18を従動回転体20と当接させることで、構築される。これにより、突部18よりも径方向外側には、駆動回転体10の傾斜を許容する空間17(
図1,4参照)を形成できるので、軸方向両側にて従動回転体20と当接する駆動回転体10の第一傾斜状態S1を、実現し易い。故に、回転体10,20同士の衝突による異音の発生抑制効果につき、信頼性を高めることが可能となる。
【0054】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、当該実施形態に限定して解釈されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態に適用することができる。
【0055】
具体的に変形例1では、式4,5の関係が成立し且つ各弾性部材60の復原力により駆動回転体10が従動回転体20に対して傾斜する限りにおいて、ラジアル軸受箇所Prの軸方向中心Crと噛合箇所Pbsの軸方向中心Cbsとを径方向に重ねてもよい。
【0056】
変形例2では、式4,5の関係が成立し且つ各弾性部材60の復原力により駆動回転体10が従動回転体20に対して傾斜する限りにおいて、偏心側でのスラスト軸受箇所Peを反偏心側でのスラスト軸受箇所Poよりも径方向外側に位置させてもよい。
【0057】
変形例3では、
図8に示すように、従動回転体20の底壁部のうち外端面20cから軸方向のカム軸2側へ突出させた突部18の先端面18aを、スプロケット13の底壁部のうち内底面と当接させることで、偏心側でのスラスト軸受箇所Peを構築してもよい。
【0058】
変形例4では、遊星回転体30を偏心側へ付勢する復原力を発生可能な限りにおいて、遊星回転体30及び遊星キャリア50間の適宜な箇所に、一つ又は三つ以上の弾性部材60を設けてもよい。
【0059】
変形例5では、「動弁」として排気弁のバルブタイミングを調整する装置や、「動弁」として吸気弁及び排気弁の双方のバルブタイミングを調整する装置に、本発明を適用してもよい。