(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、車両の運転中にしばしば経験する振動にシミー(タイヤシミー)がある。シミーはホイールバランスの不良に起因する振動であり、タイヤ交換やホイールバランスの修正等によって起こる。例えば高速道路を100〜120km/h程度(タイヤの回転周波数でおよそ10Hz)で走行すると、ステアリングホイールが小刻みに震えることがある。これがシミーである。
【0007】
シミーは、タイヤの回転に起因してフロントサブフレームに支持された懸架装置の内部で振動が発生し、発生した振動(タイヤ回転起因振動)が、タイロッド、ピニオンラック機構、及びステアリングシャフト等を含む操舵装置を通じてステアリングホイールに伝達されたものである。懸架装置は多種多様の部材で構成され、各部材はそれぞれ異なる固有振動数を持っている。シミーは、多種多様の部材のうちのいくつかの部材がタイヤの回転周波数に共振し、その複数の共振が相俟って総合的に伝達されたものである。そのため、シミーの発生時に共振している部材は1つや2つでは収まらず、どの部材がシミーの発生原因であるかを突き止めるのは容易ではない。
【0008】
もっとも、タイヤの回転周波数がある周波数まで上がると、その周波数で共振する懸架装置の複数の構成部材の振動が総合的に相俟って操舵装置を介して運転者の手に伝わるのがシミーであるから、シミーは車速がある速度まで上昇すると発生することは確かである。そして、シミーが発生するタイヤの回転周波数(シミー発生周波数、上記設例では10Hz)は個体差や修理歴等により車両毎に相違するのみならず、1台の車両のなかでも例えば懸架装置の経時変化等により経時的に変化し得るものである。つまり、シミーがどの車速で発生するかは予測がつかないものであり、知るためには予め調べなければならない。
【0009】
このようなタイヤの回転に起因して発生する振動としては、シミーの他にディスクブレーキのディスクの歪みに起因する振動等がある。
【0010】
本発明は、上記のようなシミー等のタイヤ回転起因振動の抑制が可能な電動パワーステアリングの制御装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、操舵装置にアシストトルクを付与するためのモータと、運転者の操舵トルクを検出する検出手段と、上記検出手段で検出された操舵トルクに基いて上記モータが出力すべきモータトルクを設定する設定手段とを有する電動パワーステアリングの制御装置であって、上記モータの回転角度を検出する回転角度検出手段と、上記回転角度検出手段で検出されたモータの回転角度をフィルタ処理することによりタイヤの回転に起因して発生する振動であるタイヤ回転起因振動を抑制するための振動抑制用ゲインを出力するフィルタ処理手段と、上記フィルタ処理手段で出力された振動抑制用ゲインを用いて、上記設定手段で設定されたモータトルクを上記タイヤ回転起因振動を抑制するように補正する補正手段とが備えられ、上記フィルタ処理手段は、ゲインがカットオフ角周波数において所定の大きさとなり、位相がカットオフ角周波数において90°進む周波数特性を有する振動抽出フィルタを備え、車速に応じて変化するタイヤ回転周波数に合わせて上記振動抽出フィルタのカットオフ角周波数を可変させることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、車速に応じて変化するタイヤ回転周波数に合わせて振動抽出フィルタのカットオフ角周波数が変更されるので、タイヤ回転起因振動(例えばシミー)がどの周波数で起きたとしても、当該振動が常に振動抑制用ゲインに基くトルク補正により抑制される。そのため、タイヤ回転起因振動の周波数が車両毎に相違したり懸架装置の経時変化等により経時的に変化しても良好に対応でき、車両の個体差や経時変化に拘わらず、タイヤ回転起因振動が常に抑制される。また、タイヤ回転起因振動の周波数を予め知る必要がないので、タイヤ回転起因振動の抑制を簡単に実現できる。しかも、振動抑制用ゲインの位相が90°進んでいるので、補正手段によるモータトルクの補正が位相が90°ずれて行われる。その結果、粘性が付与され(粘性付与制御)、タイヤ回転起因振動が粘性によって確実にかつ効果的に抑制される。
【0013】
本発明においては、上記フィルタ処理手段は、所定の下限周波数未満では振動抑制用ゲインを零とし、上記下限周波数以上では周波数が大きいほど振動抑制用ゲインを大きくするゲイン調整器をさらに備えることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、振動レベルが低い低速側では、設定手段で設定されたモータトルクが補正されないから、運転者の操舵を支援するアシスト制御が振動抑制制御の影響を受けることなく適正に行われる。一方、振動レベルが高い高速側ほど、設定手段で設定されたモータトルクが大幅に補正されるから、振動抑制制御の実効が図られる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、シミー等のタイヤ回転起因振動の抑制が可能な電動パワーステアリングの制御装置が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に示すように、本実施形態に係る車両(図示略)は、ステアリングホイール1と、ステアリングシャフト2と、両端のユニバーサルジョイント4a,4bで連結された中間シャフト4と、ピニオンラック機構5と、タイロッド6とを介して前輪7を操舵する操舵装置を備えている。また、上記車両は、この操舵装置にアシストトルクを付与するために、ステアリングシャフト2に減速ギヤ3を介して結合されたモータ20と、運転者の操舵トルクを検出するトルクセンサ(本発明の「検出手段」に相当する)10と、車速を検出する車速センサ11と、ECU(Electronic Control Unit)30とを含んで構成されるコラムアシスト型の電動パワーステアリングを搭載している。
【0018】
図1において、符号8は、車両前部の最下部の骨組みであってエンジン(図示略)がマウントされるフロントサブフレーム、符号9は、フロントサブフレーム8に支持される前輪7の懸架装置である。
【0019】
ECU30は、CPU、ROM、RAM等から構成されるマイクロプロセッサであり、基本的動作として、トルクセンサ10で検出された操舵トルクと、車速センサ11で検出された車速とに基いて、モータ20が出力すべきモータトルクを設定し、設定したモータトルクが実現するようにモータ20に印加する電流を制御する(アシスト制御)。
【0020】
電動パワーステアリングは、上記アシスト制御に加え、例えばシミーやディスクブレーキのディスクの歪みに起因する振動等のタイヤの回転に起因して発生するタイヤ回転起因振動を抑制する振動抑制制御を並行して行う。そして、そのために、モータ20の回転角度を検出するモータ角度センサ(本発明の「回転角度検出手段」に相当する)12を備える。
【0021】
以下、本実施形態に係る上記振動抑制制御について説明する。
図2は、上記電動パワーステアリングのブロック図であり、
図3は、上記ブロック図のアシストマップをグラフで表したものであり、
図4は、上記ブロック図の振動抽出フィルタの周波数特性を示すゲイン線図と位相線図との組合せでなるボード線図である。
【0022】
図2に示すように、運転者の操舵トルクがトルクセンサ10で検出され、ローパスフィルタ31に入力される。ローパスフィルタ31に入力されたトルクのうち、運転者の操舵成分の周波数(4〜6Hz程度)を含む低周波側の操舵成分信号が抽出され、アシストマップ(本発明の「設定手段」に相当する)32に入力される。アシストマップ32は、
図3に示すように、入力である操舵トルクと出力であるモータトルクとの入出力特性を示すものである。入出力特性は車速毎に予め作成される。具体的に、横軸に操舵トルクが定義され、縦軸にモータトルクが定義される。図例では、車速が10km/h、30km/h、80km/h、150km/hの場合の入出力特性が作成されている。アシストマップ32には車速センサ11で検出された車速も入力される。操舵トルクが大きいほど、また車速が低いほど、大きなモータトルクが設定される。
【0023】
アシストマップ32で設定されたモータトルクは、加算器(本発明の「補正手段」に相当する)33で補正される。具体的に、アシストマップ32で設定されたモータトルクは、加算器33に入力され、後述する振動抑制トルク生成部36で生成された振動抑制トルクが加算される。このように加算器33で補正されたモータトルクは、電流制御部34に入力される。電流制御部34は、入力されたモータトルクを実現する電流をモータ20に印加する。これにより、モータトルクが減速ギヤ3で増大されてステアリングシャフト2に付与される。すなわちアシスト制御が行われる。
【0024】
アシスト制御と並行して行われる振動抑制制御は、モータ20の回転角度がモータ角度センサ12で検出され、振動抽出フィルタ35に入力されることから始まる。振動抽出フィルタ35は、周知の2次のハイパスフィルタを用いて構成されており、次のような周波数特性を有する。
【0025】
図4に示すように、振動抽出フィルタ35は、運転者の操舵成分の周波数(4〜6Hz)よりも高周波側で、カットオフ角周波数(図例では10Hz)を含む周波数帯域(図例では7〜30Hz)の入力を抽出し、1を超える大きさの第1ゲインを掛けて、位相を進めて出力する。特にカットオフ角周波数(10Hz)においては、ゲインの値がピーク(図例では10)となり、値が10の大きさの第1ゲインを、位相を90°進めて出力する。
【0026】
振動抽出フィルタ35は、上記周波数帯域(7〜30Hz)よりも高周波側の周波数帯域(図例では30〜100Hz)の入力を抽出し、略1の大きさの第2ゲインを掛けて、位相をほとんど進めずに出力する。
【0027】
振動抽出フィルタ35は、上記周波数帯域(7〜30Hz)よりも低周波側の周波数帯域(図例では1〜7Hz)の入力を抽出し、1よりも小さい大きさの第3ゲインを掛けて、位相を進めて出力する。
【0028】
振動抽出フィルタ35の周波数特性は、下記式(2次のハイパスフィルタの伝達関数式)により近似的に実現できる。
【0029】
式:s
2/(s
2+2ζω
cs+ω
c2)
ここで、sはラプラス演算子、ζは減衰定数、ω
cはカットオフ角周波数である。
【0030】
上記各周波数帯域(1〜7Hz、7〜30Hz、30〜100Hz)は、2次のハイパスフィルタである振動抽出フィルタ35の上記周波数特性を上記伝達関数式を介して変更することにより、容易に種々の範囲に設定することができる。例えばパラメータの1つであるカットオフ角周波数ω
cとして種々様々な値を代入することができる。
【0031】
図5は、シミー(タイヤシミー)の発生を説明するための、車速に対応するタイヤ回転周波数と、振動の度合い(振動レベル)に対応するステアリングホイール1の周方向の加速度との関係を示すグラフである。タイヤ回転周波数f(Hz)は、下記変換式に従い、車速V(km/h)及びタイヤ半径(動半径)R(m)から求められる。例えば、V=110、R=0.485のとき、f=10となる。
【0032】
変換式:f=V/(3.6×2×π×R)
本実施形態では、
図2に符号37で示すタイヤ回転周波数変換部が、車速センサ11で検出された車速に基きタイヤ回転周波数fを算出して、
図4に示した振動抑制フィルタ35に出力する。
【0033】
シミーはホイールバランスの不良に起因する振動であり、例えばタイヤの回転に起因した振動が操舵装置やその周辺のいくつかの部材を共振させて、結果としてステアリングホイール1が小刻みに震える現象である。すなわち、シミーは、タイヤの回転を起振力としてサブフレーム8に支持された懸架装置9の内部で発生した振動が、タイロッド6、ピニオンラック機構5、中間シャフト4、及びステアリングシャフト2等を含む操舵装置を通じてステアリングホイール1に伝達されたものである。シミーはタイヤ回転周波数が共振点であるシミー発生周波数(=シミーが発生するタイヤ回転周波数)まで上昇すると発生する。ただし、シミー発生周波数は、個体差や修理歴等により車両毎に相違する。また、シミー発生周波数は、1台の車両のなかでも例えば懸架装置9の経時変化等により経時的に変化する。
【0034】
図6は、ゲイン調整器35a(
図2参照)が
図4の振動抽出フィルタ35のカットオフ角周波数ω
cを車速に応じて変化するタイヤ回転周波数に合わせて可変させる場合のイメージ図である。すなわち、
図4に示した振動抽出フィルタ35のカットオフ角周波数(10Hz)が複数のタイヤ回転周波数(7,8,9,10,11,12,13,14Hz)に可変的に設定されている。言い換えると、振動抽出フィルタ35のカットオフ角周波数ω
cが種々様々なタイヤ回転周波数に変更可能に合致されている。なお、
図6は、
図4と異なり、ゲイン線図の縦軸は対数表示されていない(周波数特性は
図4と
図6とで同一である)。ここで、振動抽出フィルタ35及びゲイン調整器35aは、本発明の「フィルタ処理手段」に相当する。
【0035】
具体的に、振動抽出フィルタ35のカットオフ角周波数は、
図4では10Hzに設定されていたが、
図6では、7,8,9,10,11,12,13,14Hzに設定されている。タイヤ回転周波数変換部37は、現在の車速V(km/h)を上記変換式に従いタイヤ回転周波数f(Hz)に変換し、ゲイン調整器35aは、得られた値(現在のタイヤ回転周波数)を上記伝達関数式のカットオフ角周波数ω
cに代入する。これにより、現在の車速で発生するシミーが振動抑制用ゲイン(
図6のゲイン線図参照)に基く振動抑制トルクにより抑制される。この場合、現在の車速で実際にシミーが発生するかどうかは問題ではない。要すれば、現在の車速V(km/h)に対応するタイヤ回転周波数f(Hz)をカットオフ角周波数ω
cとすることで、シミー発生周波数を予め調べて知る必要がなく、シミーが発生したならば、発生したシミーを常に抑制できる。そのため、シミー発生周波数が個体差や修理歴等により車両毎に相違しても、また1台の車両のなかでも例えば懸架装置9の経時変化等により経時的に変化しても、良好に対応可能となり、シミーを常に抑制できる。つまり、予測がつかないシミー発生周波数を知る必要がなく、知るために予め調べる必要がなく、そのような状況でシミーを常時抑制することが可能となる。
【0036】
図2に戻り、振動抽出フィルタ35の抽出結果とゲインとの積は、ゲイン調整器35aを経由して、振動抑制トルク生成部36に振動抑制用ゲインとして入力される。
【0037】
図7は、ゲイン調整器35aの動作を表すグラフである。すなわち、ゲイン調整器35aは、タイヤ回転周波数に応じて最終ゲイン調整係数を読み取り、読み取った係数を振動抽出フィルタ35の抽出結果とゲイン調整器35aで調製されたゲインとの積、すなわち振動抑制用ゲインにさらに乗算する。
【0038】
図例では、タイヤ回転周波数が0Hz以上6.7Hz(本発明の「下限周波数」に相当する)未満では、最終ゲイン調整係数が零であるから、ゲイン調整器35aから振動抑制トルク生成部36には値が零の振動抑制用ゲインが入力される。また、タイヤ回転周波数が10Hz以上では、最終ゲイン調整係数が2であるから、ゲイン調整器35aから振動抑制トルク生成部36には値が相対的に大きい振動抑制用ゲインが入力される。さらに、タイヤ回転周波数が6.7Hz以上10Hz未満では、タイヤ回転周波数が増大するほど最終ゲイン調整係数が大きくなるから、ゲイン調整器35aから振動抑制トルク生成部36にはタイヤ回転周波数が増大するほど値が大きくなる振動抑制用ゲインが入力される。
【0039】
振動抑制トルク生成部36は、入力された振動抑制用ゲインに基いて振動抑制トルクを生成する。具体的に、振動抑制トルクは、振動抑制用ゲインが大きいほど大きい値に生成される。特に振動抑制用ゲインが零のときは、振動抑制トルクは零となる。また、振動抑制用ゲインがピーク(最大値)となるカットオフ角周波数では、振動抑制トルクもピークとなる。
【0040】
振動抑制トルク生成部36で生成された振動抑制トルクは、前述の加算器33に入力され、前述したように、アシストマップ32で設定されたモータトルクに加算される(すなわちモータトルクの補正に用いられる)。言い換えると、加算器33は、振動抽出フィルタ35及びゲイン調整器35aで出力された振動抑制用ゲインを用いて、アシストマップ32で設定されたモータトルクを、タイヤ回転起因振動、つまりシミーを抑制するように補正する。
【0041】
具体的に、振動抑制用ゲインが小さいほど振動抑制トルク生成部36で生成される振動抑制トルクが小さい値となるので、モータトルクの補正は僅かとなる。特に振動抑制用ゲインが零のときは振動抑制トルクが零となるので、モータトルクは全く補正されなくなる。その結果、運転者の操舵を支援するアシスト制御が振動抑制制御の影響を受けることなく適正に行われる。そのため、運転者の操舵トルクにアシストトルクが応答性良く追従し、良好な操舵フィーリングが得られる。
【0042】
逆に、振動抑制用ゲインが大きいほど振動抑制トルク生成部36で生成される振動抑制トルクが大きい値となるので、モータトルクはシミーを抑制するように大幅に補正される。特にカットオフ角周波数(=シミー発生周波数)では振動抑制トルクがピーク(最大値)となるので、モータトルクはより一層大幅に補正される。
【0043】
また、振動抑制用ゲインが位相が進められずに出力される場合は、加算器33によるモータトルクの補正が位相がずれずに行われる。その結果、制御系におけるいわゆる剛性が付与され、相対的に周期の短い振動がこの剛性によって確実にかつ効果的に抑制される。
【0044】
逆に、振動抑制用ゲインが位相が進められて出力される場合(特に90°進められて出力される場合)は、加算器33によるモータトルクの補正が位相がずれて(特に90°ずれて)行われる。その結果、制御系におけるいわゆる粘性が付与され、相対的に周期の長い振動がこの粘性によって確実にかつ効果的に抑制される(粘性付与制御)。すなわち、振動抽出フィルタ35のカットオフ角周波数を種々様々なシミー発生周波数に変更可能に合致させることで、タイヤシミーの抑制が可能な電動パワーステアリングの制御装置が提供される。要すれば、シミー発生周波数においては、ゲイン調整器35aで出力された振動抑制用ゲインを位相を90°進めて出力することにより粘性を付与する粘性付与制御が達成される。
【0046】
(1)本実施形態においては、操舵装置にアシストトルクを付与するためのモータ20と、運転者の操舵トルクを検出するトルクセンサ10と、上記トルクセンサ10で検出された操舵トルクに基いて上記モータ20が出力すべきモータトルクを設定するアシストマップ32とを有する電動パワーステアリングの制御装置において、上記モータ20の回転角度を検出するモータ角度センサ12と、上記モータ角度センサ12で検出されたモータ20の回転角度をフィルタ処理することによりタイヤの回転に起因して発生する振動であるシミーを抑制するための振動抑制用ゲインを出力するフィルタ処理手段35,35aと、上記フィルタ処理手段35,35aで出力された振動抑制用ゲインを用いて、上記アシストマップ32で設定されたモータトルクを上記シミーを抑制するように補正する加算器33とが備えられ、上記フィルタ処理手段35,35aは、ゲインがカットオフ角周波数ω
cにおいてピーク(最大値)となり、位相がカットオフ角周波数ω
cにおいて90°進む周波数特性を有する振動抽出フィルタ35と、車速に応じて変化するタイヤ回転周波数に合わせて上記振動抽出フィルタ35のカットオフ角周波数ω
cを可変させるゲイン調整器35aとを備える。
【0047】
この構成によれば、車速に応じて変化するタイヤ回転周波数に合わせて振動抽出フィルタ35のカットオフ角周波数ω
cが変更されるので、シミーがどの周波数で起きたとしても、当該シミーが常に振動抑制用ゲインに基くトルク補正により抑制される。そのため、シミー発生周波数が車両毎に相違したり懸架装置9の経時変化等により経時的に変化しても良好に対応でき、車両の個体差や経時変化に拘わらず、シミーが常に抑制される。また、シミー発生周波数を予め知る必要がないので、シミーの抑制を簡単に実現できる。しかも、振動抑制用ゲインの位相が90°進んでいるので、加算器33によるモータトルクの補正が位相が90°ずれて行われる。その結果、粘性が付与され(粘性付与制御)、シミーが粘性によって確実にかつ効果的に抑制される。
【0048】
(2)本実施形態においては、シミー発生周波数(
図6の7Hz)よりも低い所定の下限周波数(
図7の6.7Hz)未満では振動抑制用ゲインを零とし、上記下限周波数(
図7の6.7Hz)以上では周波数が大きいほど振動抑制用ゲインを大きくするゲイン調整器35aが備えられる。
【0049】
この構成によれば、振動レベルが低い低速側(
図7の6.7Hz未満)では、アシストマップ32で設定されたモータトルクが補正されないから、運転者の操舵を支援するアシスト制御が振動抑制制御の影響を受けることなく適正に行われる。一方、振動レベルが高い高速側(
図7の6.7Hz以上)ほど、アシストマップ32で設定されたモータトルクが大幅に補正されるから、振動抑制制御の実効が図られる。
【0050】
(3)
図8は、本実施形態における上記粘性付与制御を実行する前(改善前)と実行した後(改善後)とで振動ないしシミーがステアリングホイール1に伝達され難くなったことを示す実験データである。実験例1と2とではタイヤの重量が異なり、実験例1のタイヤは実験例2のタイヤよりも軽いタイヤであった。いずれの場合も、シミー発生周波数では振動抑制用ゲインを位相を90°進めて出力する粘性付与制御を実行することにより、タイヤ回転周波数の略全域に亘って振動レベルが低下している。
【0051】
なお、上記実施形態では、電動パワーステアリングはコラムアシスト型であったが、他の型の電動パワーステアリングにも本発明は適用可能である。
【0052】
また、上記実施形態では、アシストマップの出力はモータトルクであったが、これに代えて、モータに印加する電流値であってもよい。
【0053】
また、上記実施形態では、
図2から明らかなように、ローパスフィルタ31、アシストマップ32、加算器33、電流制御部34、振動抽出フィルタ35、ゲイン調整器35a、振動抑制トルク生成部36、及びタイヤ回転周波数変換部37は、ECU30内に包含されていたが、これに限られないことはいうまでもない。
【0054】
また、上記実施形態で示された加算器33によるモータトルクの補正の仕方や振動抑制トルク生成部36による振動抑制トルクの生成の仕方はあくまでも例示であって、これに限られないことはいうまでもない。
【0055】
また、上記実施形態で示された数値もまたあくまでも例示であって、これに限られないことはいうまでもない。
【0056】
さらに、上記粘性付与制御は、シミー発生周波数で振動抑制用ゲインを位相を90°進めて出力する場合に限られない。例えば、シミー発生周波数を含む所定の周波数帯域(シミー発生周波数に所定の範囲内で近い領域)で振動抑制用ゲインを位相を略90°(90°に所定の範囲内で近い度数)進めて出力する場合においても粘性付与制御は達成可能である。