(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0022】
本実施形態は、
図1及び
図2に示すように、車体側部材であるサブフレーム8の共振と、タイヤ回転起因振動であるシミーとの双方の抑制が可能な電動パワーステアリングの制御装置に関する。サブフレーム共振抽出フィルタ39はモータ20の回転角度をフィルタ処理することによりサブフレーム8の共振を抑制するための振動抑制用ゲイン(「サブフレーム共振抑制用ゲイン」という)を出力する。シミー抽出フィルタ35はモータ20の回転角度をフィルタ処理することによりシミーを抑制するための振動抑制用ゲイン(「シミー抑制用ゲイン」という)を出力する。フィルタ39,35はカットオフ角周波数においてゲインが最大値となり位相が90°進む周波数特性を有する。フィルタ39のカットオフ角周波数は車体側部材であるサブフレーム8の共振周波数に固定的に設定される。フィルタ35のカットオフ角周波数は車速に応じて変化するタイヤ回転周波数に合わせて可変的に設定される。ゲイン加算器40はフィルタ39,35のゲイン同士を加算し、加算した値を振動抑制用ゲインとして補正器33側に出力する。補正器33は出力された振動抑制用ゲインを用いてアシストマップ32で設定されたモータトルクを補正する。
【0023】
具体的に、
図1に示すように、本実施形態に係る車両(図示略)は、ステアリングホイール1と、ステアリングシャフト2と、両端のユニバーサルジョイント4a,4bで連結された中間シャフト4と、ピニオンラック機構5と、タイロッド6とを介して前輪7を操舵する操舵装置を備えている。また、上記車両は、この操舵装置にアシストトルクを付与するために、ステアリングシャフト2に減速ギヤ3を介して結合されたモータ20と、運転者の操舵トルクを検出するトルクセンサ(本発明の「検出手段」に相当する)10と、車速を検出する車速センサ11と、ECU(Electronic Control Unit)30とを含んで構成されるコラムアシスト型の電動パワーステアリングを搭載している。
【0024】
図1において、符号8は、車両前部の最下部の骨組みであってエンジン(図示略)がマウントされるフロントサブフレーム(本発明の「車体側部材」に相当する)、符号9は、フロントサブフレーム8に支持される前輪7の懸架装置である。
【0025】
ECU30は、CPU、ROM、RAM等から構成されるマイクロプロセッサであり、基本的動作として、トルクセンサ10で検出された操舵トルクと、車速センサ11で検出された車速とに基いて、モータ20が出力すべきモータトルクを設定し、設定したモータトルクが実現するようにモータ20に印加する電流を制御する(アシスト制御)。
【0026】
電動パワーステアリングは、上記アシスト制御に加え、例えばサブフレーム8等の車体側部材の共振と、シミーやディスクブレーキのディスクの歪みに起因する振動等のタイヤの回転に起因して発生するタイヤ回転起因振動とを抑制する振動抑制制御を並行して行う。そして、そのために、モータ20の回転角度を検出するモータ角度センサ(本発明の「回転角度検出手段」に相当する)12を備える。本実施形態では、サブフレーム8の共振周波数が10Hzにある(
図5参照)。
【0027】
以下、本実施形態に係る上記振動抑制制御について説明する。
図2は、上記電動パワーステアリングのブロック図であり、
図3は、上記ブロック図のアシストマップ32をグラフで表したものであり、
図4は、上記ブロック図のフィルタ35,39の周波数特性を示すゲイン線図と位相線図との組合せでなるボード線図である。
【0028】
図2に示すように、運転者の操舵トルクがトルクセンサ10で検出され、ローパスフィルタ31に入力される。ローパスフィルタ31に入力されたトルクのうち、運転者の操舵成分の周波数(4〜6Hz程度)を含む低周波側の操舵成分信号が抽出され、アシストマップ(本発明の「設定手段」に相当する)32に入力される。アシストマップ32は、
図3に示すように、入力である操舵トルクと出力であるモータトルクとの入出力特性を示すものである。入出力特性は車速毎に予め作成される。具体的に、横軸に操舵トルクが定義され、縦軸にモータトルクが定義される。図例では、車速が10km/h、30km/h、80km/h、150km/hの場合の入出力特性が作成されている。アシストマップ32には車速センサ11で検出された車速も入力される。操舵トルクが大きいほど、また車速が低いほど、大きなモータトルクが設定される。
【0029】
アシストマップ32で設定されたモータトルクは、補正器(本発明の「補正手段」に相当する)33で補正される。具体的に、アシストマップ32で設定されたモータトルクは、補正器33に入力され、後述する振動抑制トルク生成部36で生成された振動抑制トルクが加算されて補正される。このように補正器33で補正されたモータトルクは、電流制御部34に入力される。電流制御部34は、入力されたモータトルクを実現する電流をモータ20に印加する。これにより、モータトルクが減速ギヤ3で増大されてステアリングシャフト2に付与される。すなわちアシスト制御が行われる。
【0030】
アシスト制御と並行して行われる振動抑制制御は、モータ20の回転角度がモータ角度センサ12で検出され、2つのフィルタ35,39に入力されることから始まる。各フィルタ35,39は、それぞれ、周知の2次のハイパスフィルタを用いて構成されており、次のような周波数特性を有する。
【0031】
図4に示すように、フィルタ35,39は、運転者の操舵成分の周波数(4〜6Hz)よりも高周波側で、カットオフ角周波数(
図4では便宜上カットオフ角周波数が一例として10Hzにある場合を示している)を含む周波数帯域(図例では7〜30Hz)の入力を抽出し、1を超える大きさの第1ゲインを掛けて、位相を進めて出力する。特にカットオフ角周波数(10Hz)においては、ゲインの値がピーク(図例では10)となり、値が10の大きさの第1ゲインを、位相を90°進めて出力する。
【0032】
フィルタ35,39は、上記周波数帯域(7〜30Hz)よりも高周波側の周波数帯域(図例では30〜100Hz)の入力を抽出し、略1の大きさの第2ゲインを掛けて、位相をほとんど進めずに出力する。
【0033】
フィルタ35,39は、上記周波数帯域(7〜30Hz)よりも低周波側の周波数帯域(図例では1〜7Hz)の入力を抽出し、1よりも小さい大きさの第3ゲインを掛けて、位相を進めて出力する。
【0034】
フィルタ35,39の周波数特性は、下記伝達関数式(2次のハイパスフィルタの伝達関数式)により近似的に実現できる。
【0035】
伝達関数式:s
2/(s
2+2ζω
cs+ω
c2)
ここで、sはラプラス演算子、ζは減衰定数、ω
cはカットオフ角周波数である。
【0036】
上記各周波数帯域(1〜7Hz、7〜30Hz、30〜100Hz)は、2次のハイパスフィルタであるフィルタ35,39の上記周波数特性を上記伝達関数式を介して変更することにより、容易に種々の範囲に設定することができる。例えばパラメータの1つであるカットオフ角周波数ω
cとして種々の値を代入することができる。
【0037】
図5は、カットオフ角周波数ω
cが車体側部材であるサブフレーム8の共振周波数(前述したように本実施形態では10Hz)に固定的に設定されたサブフレーム共振抽出フィルタ(本発明の「第1のフィルタ」に相当する)39のボード線図である。すなわち、
図4に示したボード線図において、第1ゲインが出力される周波数帯域(7〜30Hz)が第1周波数帯域、第2ゲインが出力される周波数帯域(30〜100Hz)が第2周波数帯域、第3ゲインが出力される周波数帯域(1〜7Hz)が第3周波数帯域にそれぞれ設定されている。
【0038】
図2に戻り、サブフレーム共振抽出フィルタ39の抽出結果とゲインとの積(図中の符号A参照)は、第1重み付け調整器38aを経由して、ゲイン加算器40に振動抑制用ゲインとして入力される。第1重み付け調整器38aの動作については後述する。
【0039】
図6は、シミー(タイヤシミー)の発生を説明するための、車速に対応するタイヤ回転周波数と、振動の度合い(振動レベル)に対応するステアリングホイール1の周方向の加速度との関係を示すグラフである。タイヤ回転周波数f(Hz)は、下記変換式に従い、車速V(km/h)及びタイヤ半径(動半径)R(m)から求められる。例えば、V=110、R=0.485のとき、f=10となる。
【0040】
変換式:f=V/(3.6×2×π×R)
本実施形態では、
図2に符号37で示すタイヤ回転周波数変換部が、車速センサ11で検出された車速に基きタイヤ回転周波数fを算出して、
図5のサブフレーム共振抽出フィルタ39と、次に説明する
図7のシミー抽出フィルタ35とに出力する。
【0041】
シミーはホイールバランスの不良に起因する振動であり、例えばタイヤの回転に起因した振動が操舵装置やその周辺のいくつかの部材を共振させて、結果としてステアリングホイール1が小刻みに震える現象である。すなわち、シミーは、タイヤの回転を起振力としてサブフレーム8に支持された懸架装置9の内部で発生した振動が、タイロッド6、ピニオンラック機構5、中間シャフト4、及びステアリングシャフト2等を含む操舵装置を通じてステアリングホイール1に伝達されたものである。シミーはタイヤ回転周波数が共振点であるシミー発生周波数(=シミーが発生するタイヤ回転周波数)まで上昇すると発生する。ただし、シミー発生周波数は、個体差や修理歴等により車両毎に相違する。また、シミー発生周波数は、1台の車両のなかでも例えば懸架装置9の経時変化等により経時的に変化する。
【0042】
図7は、カットオフ角周波数ω
cが車速に応じて変化するタイヤ回転周波数に合わせて可変的に設定されたシミー抽出フィルタ(本発明の「第2のフィルタ」に相当する)35のボード線図である。すなわち、
図4に示したボード線図において、便宜上10Hzであったカットオフ角周波数が複数のタイヤ回転周波数(図例では7,8,9,10,11,12,13,14Hz)に可変的に設定されている。言い換えると、
図4に示した周波数特性のカットオフ角周波数ω
cが種々様々なタイヤ回転周波数に変更可能に合致されている。なお、
図7は、
図4と異なり、ゲイン線図の縦軸は対数表示されていない(周波数特性の波形は
図4と
図7とで同じである)。
【0043】
具体的に、
図4のボード線図では、カットオフ角周波数ω
cは、便宜上一例として10Hzに設定されていたが、
図7のボード線図では、カットオフ角周波数ω
cは、7,8,9,10,11,12,13,14Hzに設定されている。タイヤ回転周波数変換部37は、現在の車速V(km/h)を前述の変換式に従いタイヤ回転周波数f(Hz)に変換し、シミー抽出フィルタ35に出力する。
図2に示すゲイン調整器35aは、得られた値(現在のタイヤ回転周波数f)を前述の伝達関数式のカットオフ角周波数ω
cに代入する。これにより、現在の車速で発生するシミーが振動抑制用ゲイン(
図7のゲイン線図参照)に基く振動抑制トルクにより抑制される。この場合、現在の車速で実際にシミーが発生するかどうかは問題ではない。要すれば、現在の車速V(km/h)に対応するタイヤ回転周波数f(Hz)をカットオフ角周波数ω
cとすることによって、シミー発生周波数を予め調べて知る必要がなく、若し仮に現在の車速Vでシミーが発生したとしたならば、発生したシミーを常に抑制することができる。そのため、シミー発生周波数が個体差や修理歴等により車両毎に相違しても、また1台の車両のなかでも例えば懸架装置9の経時変化等により経時的に変化しても、良好に対応可能となり、シミーを常に抑制できる。つまり、予測がつかないシミー発生周波数を知る必要がなく、知るために予め調べる必要がなく、そのような状況でシミーを常時抑制することが可能となる。
【0044】
図2に戻り、シミー抽出フィルタ35の抽出結果とゲインとの積(図中の符号C参照)は、上記ゲイン調整器35aと第2重み付け調整器38bとを経由して、上記ゲイン加算器40に振動抑制用ゲインとして入力される。第2重み付け調整器38bの動作については後述する。
【0045】
サブフレーム共振抽出フィルタ39からゲイン加算器40への信号ルート上にある第1重み付け調整器38aの動作、及びシミー抽出フィルタ35からゲイン加算器40への信号ルート上にある第2重み付け調整器38bの動作を説明する前に、先に、第2重み付け調整器38bの手前にある上記ゲイン調整器35aの動作を説明する。すなわち、
図8は、ゲイン調整器35aの動作を表すグラフである。ゲイン調整器35aは、前述したように、現在のタイヤ回転周波数fを伝達関数式のカットオフ角周波数ω
cに代入するという動作を行う他に、タイヤ回転周波数fに応じて
図8のグラフから最終ゲイン調整係数を読み取り、読み取った係数をシミー抽出フィルタ35の抽出結果とゲインとの積にさらに乗算するという動作を行う。
【0046】
図8の例示によれば、タイヤ回転周波数が0Hz以上6.7Hz未満では、最終ゲイン調整係数が零であるから、ゲイン調整器35aから第2重み付け調整器38bには、シミー抽出フィルタ35の抽出結果とゲインとの積(
図2の符号C参照)がどのような値であるかに拘わらず、値が零の振動抑制用ゲイン(
図2の符号D参照)が入力される。また、タイヤ回転周波数が10Hz以上では、最終ゲイン調整係数が2であるから、ゲイン調整器35aから第2重み付け調整器38bには、シミー抽出フィルタ35の抽出結果とゲインとの積の2倍の値の振動抑制用ゲインが入力される。また、タイヤ回転周波数が6.7Hz以上10Hz未満では、タイヤ回転周波数が増大するほど最終ゲイン調整係数が大きくなるから、ゲイン調整器35aから第2重み付け調整器38bには、タイヤ回転周波数が増大するほど値が大きくなる振動抑制用ゲインが入力される。
【0047】
そのため、例えば、
図7において、カットオフ角周波数が10,11,12,13,14Hzに設定される場合は、ゲインのピークが20となり、カットオフ角周波数が7,8,9Hzに設定される場合は、カットオフ角周波数が小さいほどゲインのピークが20よりも小さくなる。
【0048】
次に、上記第1重み付け調整器38aの動作及び第2重み付け調整器38bの動作を説明する。すなわち、
図9は、上記第1重み付け調整器38aが用いる第1重み付け係数αのグラフであり、
図10は、上記第2重み付け調整器38bが用いる第2重み付け係数βのグラフである。第1重み付け調整器38aは、周波数に応じて
図9のグラフから第1重み付け係数αを読み取り、読み取った係数αをサブフレーム共振抽出フィルタ39の抽出結果とゲインとの積にさらに乗算するという動作を行う。第2重み付け調整器38bは、周波数に応じて
図10のグラフから第2重み付け係数βを読み取り、読み取った係数βをゲイン調整器35aから入力される振動抑制用ゲインにさらに乗算するという動作を行う。
【0049】
図9の例示によれば、周波数が5Hz未満及び12Hz超えでは、第1重み付け係数αは、値が1であるから、第1重み付け調整器38aからゲイン加算器40には、サブフレーム共振抽出フィルタ39から第1重み付け調整器38aに入力されるサブフレーム共振抽出フィルタ39の抽出結果とゲインとの積(
図2の符号A参照)と同じ値の振動抑制用ゲイン、すなわちサブフレーム共振抑制用ゲイン(
図2の符号B参照)が入力される。また、周波数が5Hz以上10Hz以下では、周波数が増大するほど第1重み付け係数αが1よりも小さくなるから、第1重み付け調整器38aからゲイン加算器40には、周波数が増大するほどサブフレーム共振抽出フィルタ39の抽出結果とゲインとの積よりも値が小さくなるサブフレーム共振抑制用ゲインが入力される。また、周波数が10Hz超え12Hz以下では、周波数が増大するほど第1重み付け係数αが最小値0.35よりも大きくなるから、第1重み付け調整器38aからゲイン加算器40には、周波数が増大するほど値が大きくなるサブフレーム共振抑制用ゲインが入力される。
【0050】
そのため、例えば、
図5において、周波数が10Hzのときのゲインのピークは10よりも小さくなる(具体的に、第1重み付け係数αの最小値が0.35なので、3.5になる)。
【0051】
図10の例示によれば、周波数が5Hz未満及び13Hz超えでは、第2重み付け係数βは、値が1であるから、第2重み付け調整器38bからゲイン加算器40には、ゲイン調整器35aから第2重み付け調整器38bに入力される振動抑制用ゲイン(
図2の符号D参照)と同じ値の振動抑制用ゲイン、すなわちシミー抑制用ゲイン(
図2の符号E参照)が入力される。また、周波数が5Hz以上10Hz以下では、周波数が増大するほど第2重み付け係数βが1よりも小さくなるから、第2重み付け調整器38bからゲイン加算器40には、周波数が増大するほどゲイン調整器35aから第2重み付け調整器38bに入力される振動抑制用ゲインよりも値が小さくなるシミー抑制用ゲインが入力される。さらに、周波数が10Hz超え13Hz以下では、周波数が増大するほど第2重み付け係数βが最小値0.7よりも大きくなるから、第2重み付け調整器38bからゲイン加算器40には、周波数が増大するほど値が大きくなるシミー抑制用ゲインが入力される。
【0052】
そのため、例えば、
図7において、カットオフ角周波数が10Hzに設定される場合は、ゲインのピークが20(ゲイン調整器35aによる
図8の動作が行われた後の値)よりも小さくなる(具体的に、第2重み付け係数βの最小値が0.7なので、14になる)。
【0053】
図2に戻り、ゲイン加算器40は、第1重み付け調整器38aから入力されるサブフレーム共振抽出フィルタ39からの振動抑制用ゲイン、すなわちサブフレーム共振抑制用ゲインと、第2重み付け調整器38bから入力されるシミー抽出フィルタ35からの振動抑制用ゲイン、すなわちシミー抑制用ゲインとを加算する。ゲイン加算器40は、加算した値を振動抑制用ゲインとして振動抑制トルク生成部36に出力する。
【0054】
ここで、上記シミー抽出フィルタ35、ゲイン調整器35a、第1重み付け調整器38a、第2重み付け調整器38b、サブフレーム共振抽出フィルタ39、及びゲイン加算器40は、それぞれ、本発明の「フィルタ処理手段」に相当し、又は本発明の「フィルタ処理手段」を構成する要素である。
【0055】
図11は、上記ゲイン加算器40が第1重み付け調整器38aから入力されるサブフレーム共振抑制用ゲインと第2重み付け調整器38bから入力されるシミー抑制用ゲインとを重み付け加算した場合、すなわち上記重み付け係数α、βが
図9、
図10に示すように周波数に応じて変化する場合に得られるボード線図である。
【0056】
図11において、例えば、波形アは、カットオフ角周波数ω
cがサブフレーム共振周波数10Hzに固定的に設定された
図5のサブフレーム共振抽出フィルタ39の周波数特性(
図2の符号A参照)に
図9の第1重み付け係数αを乗算することで得られたサブフレーム共振抑制用ゲイン(
図2の符号B参照)と、カットオフ角周波数ω
cが車速に応じて変化するタイヤ回転周波数7Hzに合わせて可変的に設定された
図7のシミー抽出フィルタ35の周波数特性(
図2の符号C参照)に
図8の最終ゲイン調整係数を乗算しさらに
図10の第2重み付け係数βを乗算することで得られたシミー抑制用ゲイン(
図2の符号E参照)とを相互に加算(重み付け加算)した場合に得られる波形である。他の波形イ、ウ、エ、オ、カ、キ、クも、それぞれ、タイヤ回転周波数が8,9,10,11,12,13,14Hzに可変的に設定されている点を除き、これに準じて同様である。
【0057】
ゲイン線図において、サブフレーム共振抽出フィルタ39のカットオフ角周波数ω
cと、シミー抽出フィルタ35のカットオフ角周波数ω
cとが共に10Hzである場合の波形エを除き、各波形とも、サブフレーム8の共振周波数由来のピークと、タイヤ回転周波数由来のピークとの2つのピークを有する。
【0058】
一方、位相線図においては、上記波形エを除き、各波形とも、サブフレーム8の共振周波数由来のピークの位相と、タイヤ回転周波数由来のピークの位相とが共に90°からズレている。
【0059】
図13は、
図11の重み付け加算の場合のサブフレーム共振周波数(10Hz)における上記波形ア〜クの位相の90°からのズレ量を拡大して示したものである。図示するように、サブフレーム共振抽出フィルタ39のカットオフ角周波数ω
cと、シミー抽出フィルタ35のカットオフ角周波数ω
cとが相互に10Hzで一致する場合の波形エでは、位相は90°からズレていない。これに対し、サブフレーム共振抽出フィルタ39のカットオフ角周波数ω
cと、シミー抽出フィルタ35のカットオフ角周波数ω
cとが相互に異なる場合において、その差が小さいほど位相の90°からのズレ量が大きくなる(波形ア<イ<ウ、波形オ>カ>キ>ク)。なお、拡大して図示しないが、タイヤ回転周波数における上記波形ア〜クの位相の90°からのズレ量も同様の傾向である。
【0060】
以上に対し、
図12は、改善前の比較例であって、上記ゲイン加算器40が第1重み付け調整器38aから入力されるサブフレーム共振抑制用ゲインと第2重み付け調整器38bから入力されるシミー抑制用ゲインとを単純加算した場合、すなわち上記重み付け係数α、βが周波数に拘わらず常時1の場合に得られるボード線図である。
【0061】
図12において、例えば、波形サは、カットオフ角周波数ω
cがサブフレーム共振周波数10Hzに固定的に設定された
図5のサブフレーム共振抽出フィルタ39の周波数特性(
図2の符号A参照)に係数1を乗算することで得られたサブフレーム共振抑制用ゲイン(
図2の符号B参照)と、カットオフ角周波数ω
cが車速に応じて変化するタイヤ回転周波数7Hzに合わせて可変的に設定された
図7のシミー抽出フィルタ35の周波数特性(
図2の符号C参照)に
図8の最終ゲイン調整係数を乗算しさらに係数1を乗算することで得られたシミー抑制用ゲイン(
図2の符号E参照)とを相互に加算(単純加算)した場合に得られる波形である。他の波形シ、ス、セ、ソ、タ、チ、ツも、それぞれ、タイヤ回転周波数が8,9,10,11,12,13,14Hzに可変的に設定されている点を除き、これに準じて同様である。
【0062】
ゲイン線図において、サブフレーム共振抽出フィルタ39のカットオフ角周波数ω
cと、シミー抽出フィルタ35のカットオフ角周波数ω
cとが共に10Hzである場合の波形セを除き、各波形とも、サブフレーム8の共振周波数由来のピークと、タイヤ回転周波数由来のピークとの2つのピークを有する。
【0063】
ここで、
図11と
図12とを比較すると、10Hzにおける
図11の波形エのピークはゲインがおよそ10なのに対し、10Hzにおける
図12の波形セのピークはゲインが20ある。これは、
図11では、10Hzにおける第1重み付け係数αが0.35、第2重み付け係数βが0.7なのに対し、
図12では、上記重み付け係数α、βが周波数に拘わらず常時1だからである。
【0064】
一方、位相線図においては、上記波形セを除き、各波形とも、サブフレーム8の共振周波数由来のピークの位相と、タイヤ回転周波数由来のピークの位相とが共に90°からズレている。
【0065】
図14は、
図12の単純加算の場合のサブフレーム共振周波数(10Hz)における上記波形サ〜ツの位相の90°からのズレ量を拡大して示したものである。図示するように、サブフレーム共振抽出フィルタ39のカットオフ角周波数ω
cと、シミー抽出フィルタ35のカットオフ角周波数ω
cとが相互に10Hzで一致する場合の波形セでは、位相は90°からズレていない。これに対し、サブフレーム共振抽出フィルタ39のカットオフ角周波数ω
cと、シミー抽出フィルタ35のカットオフ角周波数ω
cとが相互に異なる場合において、その差が小さいほど位相の90°からのズレ量が大きくなる(波形サ<シ<ス、波形ソ>タ>チ>ツ)。なお、拡大して図示しないが、タイヤ回転周波数における上記波形サ〜ツの位相の90°からのズレ量も同様の傾向である。
【0066】
ここで、
図13と
図14とを比較すると、
図13の重み付け加算の場合に比べて、
図14の単純加算の場合は、サブフレーム共振周波数(10Hz)における位相の90°からのズレ量が増大している。このことは、後述する粘性付与制御にとって好ましくない。言い換えると、重み付け加算することによって粘性付与制御が改善されたことになる。
【0067】
図2に戻り、振動抑制トルク生成部36は、入力された振動抑制用ゲインに基いて振動抑制トルクを生成する。具体的に、振動抑制トルクは、振動抑制用ゲインが大きいほど大きい値に生成される。特に振動抑制用ゲインが零のときは、振動抑制トルクは零となる。また、振動抑制用ゲインがピーク(最大値)となるカットオフ角周波数ω
cでは、振動抑制トルクもピークとなる。
【0068】
振動抑制トルク生成部36で生成された振動抑制トルクは、前述の補正器33に入力され、前述したように、アシストマップ32で設定されたモータトルクに加算される(すなわちモータトルクの補正に用いられる)。言い換えると、補正器33は、シミー抽出フィルタ35及びゲイン調整器35aで出力されたシミー抑制用ゲインと、サブフレーム共振抽出フィルタ39で出力されたサブフレーム共振抑制用ゲインとを用いて、アシストマップ32で設定されたモータトルクを、車体側部材、つまりサブフレーム8の共振と、タイヤ回転起因振動、つまりシミーとを抑制するように補正する。
【0069】
具体的に、振動抑制用ゲインが小さいほど振動抑制トルク生成部36で生成される振動抑制トルクが小さい値となるので、モータトルクの補正は僅かとなる。特に振動抑制用ゲインが零のときは振動抑制トルクが零となるので、モータトルクは全く補正されなくなる。その結果、運転者の操舵を支援するアシスト制御が振動抑制制御の影響を受けることなく適正に行われる。そのため、運転者の操舵トルクにアシストトルクが応答性良く追従し、良好な操舵フィーリングが得られる。
【0070】
逆に、振動抑制用ゲインが大きいほど振動抑制トルク生成部36で生成される振動抑制トルクが大きい値となるので、モータトルクはサブフレーム共振及び/又はシミーを抑制するように大幅に補正される。特にカットオフ角周波数ω
c(=サブフレーム共振周波数=シミー発生周波数)では振動抑制トルクがピーク(最大値)となるので、モータトルクはより一層大幅に補正される。
【0071】
また、振動抑制用ゲインが位相が進められずに出力される場合は、補正器33によるモータトルクの補正が位相がズレずに行われる。その結果、制御系におけるいわゆる剛性が付与され、相対的に周期の短い振動がこの剛性によって確実にかつ効果的に抑制される。
【0072】
逆に、振動抑制用ゲインが位相が進められて出力される場合(特に90°進められて出力される場合)は、補正器33によるモータトルクの補正が位相がズレて(特に90°ズレて)行われる。その結果、制御系におけるいわゆる粘性が付与され、相対的に周期の長い振動がこの粘性によって確実にかつ効果的に抑制される(粘性付与制御)。
【0073】
すなわち、シミー抽出フィルタ35のカットオフ角周波数ω
cを種々様々なシミー発生周波数に変更可能に合致させることで、タイヤシミーの抑制が可能な電動パワーステアリングの制御装置が提供される。要すれば、シミー発生周波数においては、ゲイン調整器35aで出力された振動抑制用ゲインを位相を90°進めて出力することにより粘性を付与する粘性付与制御が達成される。
【0074】
一方、サブフレーム共振抽出フィルタ39のカットオフ角周波数ω
cをサブフレーム共振周波数に固定的に合致させることで、サブフレーム共振の抑制が可能な電動パワーステアリングの制御装置が提供される。要すれば、サブフレーム共振周波数においては、サブフレーム共振抽出フィルタ39で出力された振動抑制用ゲインを位相を90°進めて出力することにより粘性を付与する粘性付与制御が達成される。
【0076】
(1)本実施形態においては、操舵装置にアシストトルクを付与するためのモータ20と、運転者の操舵トルクを検出するトルクセンサ10と、上記トルクセンサ10で検出された操舵トルクに基いて上記モータ20が出力すべきモータトルクを設定するアシストマップ32とを有する電動パワーステアリングの制御装置において、上記モータ20の回転角度を検出するモータ角度センサ12と、上記モータ角度センサ12で検出されたモータ20の回転角度をフィルタ処理することにより、サブフレーム8の共振を抑制するための振動抑制用ゲイン、すなわちサブフレーム共振抑制用ゲインと、タイヤの回転に起因して発生する振動であるシミーを抑制するための振動抑制用ゲイン、すなわちシミー抑制用ゲインとを出力するフィルタ処理手段39,35と、上記フィルタ処理手段39,35で出力された振動抑制用ゲインを用いて、上記アシストマップ32で設定されたモータトルクを上記サブフレーム8の共振及びシミーを抑制するように補正する補正器33とが備えられる。
【0077】
上記フィルタ処理手段39,35は、カットオフ角周波数ω
cがサブフレーム8の共振周波数に固定的に設定され、上記カットオフ角周波数ω
cにおいて、ゲインがピーク(最大値)となり、位相が90°進む周波数特性を有するサブフレーム共振抽出フィルタ39と、カットオフ角周波数ω
cが車速に応じて変化するタイヤ回転周波数に合わせて可変的に設定され、上記カットオフ角周波数ω
cにおいて、ゲインがピーク(最大値)となり、位相が90°進む周波数特性を有するシミー抽出フィルタ35とを備える。
【0078】
また、上記サブフレーム共振抽出フィルタ39のゲインと、上記シミー抽出フィルタ35のゲインとを加算し、加算した値を振動抑制用ゲインとして補正器33側に出力するゲイン加算器40が備えられる。
【0079】
この構成によれば、サブフレーム共振抽出フィルタ39のゲインとシミー抽出フィルタ35のゲインとが加算されて補正器33側に出力される。
【0080】
その場合に、サブフレーム共振抽出フィルタ39においては、カットオフ角周波数ω
cがサブフレーム8の共振周波数に固定されるので、当該サブフレーム8の共振が常に振動抑制用ゲインに基くトルク補正により安定的に抑制される。
【0081】
一方、シミー抽出フィルタ35においては、カットオフ角周波数ω
cがタイヤ回転周波数に合わせて変更されるので、シミーがどの周波数で起きたとしても、当該シミーが常に振動抑制用ゲインに基くトルク補正により抑制される。そのため、シミー発生周波数が車両毎に相違したり懸架装置9の経時変化等により経時的に変化しても良好に対応でき、車両の個体差や経時変化に拘わらず、シミーが常に抑制される。また、シミー発生周波数を予め知る必要がないので、シミーの抑制を簡単に実現できる。
【0082】
しかも、いずれの場合も、振動抑制用ゲイン(サブフレーム共振抑制用ゲイン、シミー抑制用ゲイン)の位相が90°進んでいるので、補正器33によるモータトルクの補正が位相が90°ズレて行われる。その結果、粘性が付与され(粘性付与制御)、サブフレーム8の共振及びシミーが粘性によって確実にかつ効果的に抑制される。
【0083】
(2)本実施形態においては、上記ゲイン加算器40が上記サブフレーム共振抽出フィルタ39のゲインと上記シミー抽出フィルタ35のゲインとを加算する前に上記サブフレーム共振抽出フィルタ39のゲイン及び上記シミー抽出フィルタ35のゲインをそれぞれ重み付けする第1重み付け調整器38a及び第2重み付け調整器38bがさらに備えられる。
【0084】
この構成によれば、サブフレーム共振抽出フィルタ39のゲイン及びシミー抽出フィルタ35のゲインを重み付けすることにより、重み付けしないときに比べて、両ゲイン同士を加算しても、カットオフ角周波数ω
cにおける位相の90°からのズレ量が小さくなる。そのため、粘性付与制御が確保されて、サブフレーム8の共振及びシミーが常に粘性によって確実にかつ効果的に抑制される。
【0085】
(3)
図15は、本実施形態における上記粘性付与制御を実行する前(改善前)と実行した後(改善後)とでサブフレーム共振及びシミーがステアリングホイール1に伝達され難くなったことを示す実験データである。実験例1と2とではタイヤの重量が異なり、実験例1のタイヤは実験例2のタイヤよりも軽いタイヤであった。いずれの場合も、サブフレーム共振周波数及びシミー発生周波数では振動抑制用ゲインを位相を90°進めて出力する粘性付与制御を実行することにより、タイヤ回転周波数の略全域に亘って振動レベルが低下している。
【0086】
なお、上記実施形態では、電動パワーステアリングはコラムアシスト型であったが、他の型の電動パワーステアリングにも本発明は適用可能である。
【0087】
また、上記実施形態では、アシストマップの出力はモータトルクであったが、これに代えて、モータに印加する電流値であってもよい。
【0088】
また、上記実施形態では、
図2から明らかなように、ローパスフィルタ31、アシストマップ32、補正器33、電流制御部34、シミー抽出フィルタ35、ゲイン調整器35a、振動抑制トルク生成部36、タイヤ回転周波数変換部37、第1重み付け調整器38a、第2重み付け調整器38b、サブフレーム共振抽出フィルタ39、及びゲイン加算器40は、ECU30内に包含されていたが、これに限られないことはいうまでもない。
【0089】
また、上記実施形態で示された補正器33によるモータトルクの補正の仕方や振動抑制トルク生成部36による振動抑制トルクの生成の仕方はあくまでも例示であって、これに限られないことはいうまでもない。
【0090】
また、上記実施形態で示された数値もまたあくまでも例示であって、これに限られないことはいうまでもない。
【0091】
さらに、上記粘性付与制御は、サブフレーム共振周波数及びシミー発生周波数で振動抑制用ゲインを位相を90°進めて出力する場合に限られない。例えば、サブフレーム共振周波数及びシミー発生周波数を含む所定の周波数帯域(サブフレーム共振周波数及びシミー発生周波数に所定の範囲内で近い領域)で振動抑制用ゲインを位相を略90°(90°に所定の範囲内で近い度数)進めて出力する場合においても粘性付与制御は達成可能である。