特許第6394597号(P6394597)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6394597ポリオレフィン多層微多孔膜およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6394597
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】ポリオレフィン多層微多孔膜およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20180913BHJP
   C08J 9/26 20060101ALI20180913BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   B32B27/32 Z
   B32B27/32 E
   C08J9/26 102
   C08J9/26CES
   H01M2/16 P
   H01M2/16 L
【請求項の数】10
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2015-519928(P2015-519928)
(86)(22)【出願日】2014年5月29日
(86)【国際出願番号】JP2014064247
(87)【国際公開番号】WO2014192861
(87)【国際公開日】20141204
【審査請求日】2017年3月15日
(31)【優先権主張番号】特願2013-115003(P2013-115003)
(32)【優先日】2013年5月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石原 毅
【審査官】 藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−518497(JP,A)
【文献】 特開2007−118588(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/137540(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/054930(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/037289(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/152201(WO,A1)
【文献】 特開2013−57045(JP,A)
【文献】 特表2010−502472(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
C08J 9/00− 9/42
H01M 2/14− 2/18
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレンを含む第1の微多孔層を有し、電解液注液性が20秒以下であり、シャットダウン温度が132℃以下であり、少なくとも一方の表層が前記第1の微多孔層であり、前記第1の微多孔層のポリプロピレン分布が面内方向で均一であるポリオレフィン多層微多孔膜。
【請求項2】
前記第1の微多孔層のラマン分光法により測定した、規格化ポリプロピレン/ポリエチレン比率の平均値が0.5以上、規格化ポリプロピレン/ポリエチレン比率の標準偏差が0.2以下、規格化ポリプロピレン/ポリエチレン比率の尖度が1.0以下−1.0以上である請求項1に記載のポリオレフィン多層微多孔膜。
【請求項3】
前記ポリプロピレンの重量平均分子量が6.0×10より大きく、3.0×10未満であり、その含有量が前記第1の微多孔層中に前記第1の微多孔層のポリオレフィン樹脂全体の重量を100重量%として0.5重量%以上、5重量%未満である請求項1または請求項2に記載のポリオレフィン多層微多孔膜。
【請求項4】
両表層間に配置された第2の微多孔層を含み、前記第2の微多孔層が、赤外分光法による末端ビニル基濃度が10,000個の炭素原子当たり0.2個以上であるポリエチレンを含む請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項5】
前記第1の微多孔層からなる両表層間に前記第2の微多孔層が配置されてなる三層構造を有する請求項4に記載のポリオレフィン多層微多孔膜。
【請求項6】
前記第2の微多孔層が、末端ビニル基濃度が10,000個の炭素原子当たり0.2個以上であるポリエチレンを第2の微多孔層の全ポリオレフィン重量を100重量%として20重量%以上含む請求項4または請求項5に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項7】
前記第1の微多孔層が第1のポリオレフィン樹脂からなり、前記第1のポリオレフィン樹脂が、末端ビニル基濃度が10,000個の炭素原子当たり0.2個未満であり、重量平均分子量が1.0×10未満のポリエチレンおよび重量平均分子量が6.0×10より大きく、3.0×10未満であるポリプロピレンを含んでなる請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリオレフィン多層微多孔膜。
【請求項8】
前記第1のポリオレフィン樹脂が、末端ビニル基濃度が10,000個の炭素原子当たり0.2個未満であり、重量平均分子量が5.0×10以上5.0×10未満の高密度ポリエチレン(第1のポリオレフィン樹脂全体の重量を100重量%として45.0重量%以上99.5重量%以下となる量)、重量平均分子量が1.0×10以上3.0×10未満の超高分子量ポリエチレン(第1のポリオレフィン樹脂全体の重量を100重量%として0.0重量%以上50.0重量%以下となる量)、および重量平均分子量が6.0×10より大きく、3.0×10未満であるポリプロピレン(第1のポリオレフィン樹脂全体の重量を100重量%として0.5重量%以上5.0重量%未満となる量)を含んでなる請求項7に記載のポリオレフィン多層微多孔膜。
【請求項9】
前記第2の微多孔層が第2のポリオレフィン樹脂からなり、前記第2のポリオレフィン樹脂が、末端ビニル基濃度が10,000個の炭素原子当たり0.2個以上であり、重量平均分子量が5.0×10以上1.0×10未満のポリエチレン(第2のポリオレフィン樹脂全体の重量を100重量%として20.0重量%以上99.0重量%以下となる量)、末端ビニル基濃度が10,000個の炭素原子当たり0.2個未満であり、重量平均分子量が5.0×10以上1.0×10未満の高密度ポリエチレン(第2のポリオレフィン樹脂全体の重量を100重量%として0.0重量%以上79.0重量%以下となる量)、重量平均分子量が1.0×10以上3.0×10未満の超高分子量ポリエチレン(第2のポリオレフィン樹脂全体の重量を100重量%として1.0重量%以上50.0重量%以下となる量)を含んでなり、ポリプロピレンを含まない請求項4〜8のいずれか1項に記載のポリオレフィン多層微多孔膜。
【請求項10】
(a)ポリオレフィン樹脂と成膜用溶剤とを溶融混練してポリオレフィン溶液を調製する工程であって、
(a−1)赤外分光法による末端ビニル基濃度が10,000個の炭素原子当たり0.2個未満であり、重量平均分子量が1.0×10未満のポリエチレンと、重量平均分子量が6.0×10より大きく、3.0×10未満であるポリプロピレンを含む第1のポリオレフィン樹脂と成膜用溶剤とを溶融混練して第1のポリオレフィン溶液を調製する工程、および、
(a−2)赤外分光法による末端ビニル基濃度が10,000個の炭素原子当たり0.2個以上であり、重量平均分子量が1.0×10未満のポリエチレンと、重量平均分子量が1.0×10以上である超高分子量ポリエチレンを含む第2のポリオレフィン樹脂と成膜用溶剤とを溶融混練して第2のポリオレフィン溶液を調製する工程を含むことを特徴とする工程、
(b)せん断速度60/sec以上で、ポリオレフィン溶液を押し出して成形体を形成する工程、
(c)得られた押出成形体を冷却速度30℃/sec以上で冷却してゲル状シートを形成する工程、
(d)得られたゲル状シートを少なくとも一軸方向に延伸して延伸物を作成する工程、および、
(e)得られた延伸物から前記成膜用溶剤を除去する工程を含むポリオレフィン多層微多孔膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン多層微多孔膜およびその製造方法に関し、特に電池用セパレータとして有用なポリオレフィン多層微多孔膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン多層微多孔膜は、電池用セパレータ、電解コンデンサ用隔膜、各種フィルタ、透湿防水衣料、逆浸透濾過膜、限外濾過膜、精密濾過膜等の各種用途に用いられている。ポリオレフィン多層微多孔膜を電池用セパレータ、特にリチウムイオン電池用セパレータとして用いる場合、その性能は電池特性、電池生産性および電池安全性に深く関わっている。そのため優れた透過性、機械的特性、耐熱収縮性、シャットダウン特性、メルトダウン特性等が要求される。例えば機械的強度が低い電池用セパレータを用いた場合、電極の短絡により電池の電圧が低下してしまうことがある。また、リチウムイオン電池は満充電に近い状態で充電しながら使用し続けると電池性能が悪化することが知られており、セパレータの酸化劣化もその一因になることから、セパレータの改良が求められてきた。
【0003】
これまでポリオレフィン微多孔膜の物性を改善する方法として、原料組成、延伸条件、熱処理条件等の改良が検討されており、耐熱性を高める手段としてポリプロプレンを混合することが提案されてきた(例えば特開2002−105235号公報、特開2003−183432号公報)。特に最近では、透過性、機械的特性、耐熱収縮性などに加えて、電解液注液性等の電池生産性に関わる特性や耐酸化性等の電池寿命に関わる特性も重視されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
例えば特許文献1(特開平11−269290号公報)では、超高分子量ポリエチレンまたはその組成物に特定量のポリプロピレンを加えることにより、ポリオレフィン微多孔膜の表面に微視的な凹凸を生じさせ、透過性および機械的強度に優れるとともに、成形性を改善し、電解液の浸透性や保持性を改良したポリオレフィン微多孔膜を開示している。さらに、特許文献2(特開2011−111484号公報)では、耐酸化性とサイクル特性を両立し得るセパレータとして好適なポリオレフィン多層微多孔膜として、ポリプロピレン成分5〜50重量%と、ポリエチレン成分50〜95重量%とを含み、前記ポリエチレン成分が超高分子量ポリエチレンを含むと共に、前記ポリエチレン成分の融点Tmeと、前記ポリプロピレン成分の融点Tmpとの温度差が−20℃<Tmp−Tme<23℃であり、かつバブルポイントが400〜600kPaであるポリオレフィン多層微多孔膜を開示している。
【0005】
特許文献3(特開2004−152614号公報)では、ポリエチレンに特定のポリプロピレン等のポリオレフィンを加えてブレンドし製膜するとポリオレフィンが表面に偏析して表面近傍のポリエチレンの含有率が減少する場合があることが開示されており、このような表面の微多孔膜は高温保存時のガス発生や放電容量の低下を抑制できることが開示されている。この微多孔膜は、ポリエチレンを50重量%以上含有する単層であって、少なくとも片面の膜の表面近傍のポリエチレンの含有率が膜全体の平均値よりも少なく、粘度平均分子量が20万以上のポリプロピレンと粘度平均分子量が5万以下の低分子量ポリプロピレンをそれぞれ膜構成材料全体の5〜20重量%含んでいることを特徴とする。
【0006】
また、特許文献4(特開2011−063025号公報)では、ポリエチレンとポリプロピレンを必須とするポリオレフィン微多孔膜と、ポリエチレン微多孔膜を積層することで、薄膜化しても十分な安全性機能と強度が得られることが報告されている。特許文献4のポリオレフィン微多孔膜は、ポリプロピレンと超高分子量ポリエチレンからなる層とポリエチレンからなる層を積層することで、強度と安全性(孔閉塞温度及び破膜温度)を担保していることを特徴としている。ポリプロピレンと超高分子量ポリエチレンを組み合わせることで耐熱性と強度を保ち、ポリエチレン層で孔閉塞温度の上昇を防いでいる。
【0007】
特許文献5(特開平5−234578号公報)では、特定の分子量分布を有するポリエチレンと特定の範囲の重量平均分子量を有するポリプロピレンとをポリマー成分とし、それと無機微粉体、有機液体よりなる混合物を製膜原料として用いることで、ポリエチレンの分子量分布において超高分子量部分の割合を増大しても、膜成形時の圧力上昇もなく、機械的特性に優れ、安全性についても優れた、有機電解液を用いる電池用セパレータを提案している。このセパレータは、分子量が1.0×10以上の部分を10重量%以上かつ分子量が1.0×10以下の部分を5重量%以上含むポリエチレン及び重量平均分子量が1.0×10〜1.0×10のポリプロピレンを包含するマトリックスよりなるポリオレフィン微多孔膜で構成され、該ポリプロピレンの量はポリエチレン及びポリプロピレンの全重量の5〜45重量%であり、該ポリオレフィン微多孔膜は、厚さが10〜500μm、気孔率が40〜85%、最大孔径が0.05〜5μmであり、膜破れ温度と無孔化温度との差が28〜40℃である。
【0008】
特許文献6(国際公開WO2007/015416号)はポリエチレンと粘度平均分子量10万以上のポリプロピレンからなるポリオレフィン微多孔膜であって、該ポリプロピレンを4wt%以上含有すること、かつ赤外分光法によるポリオレフィン微多孔膜を構成するポリオレフィン中の炭素原子10,000個あたりの末端ビニル基濃度が2個以上であることを特徴とするポリオレフィン微多孔膜を提案している。当該ポリオレフィン微多孔膜は耐破膜性と低熱収縮性の双方が達成されており、さらにヒューズ特性に優れ膜厚も均一であることを開示している。
【特許文献1】特開平11−269290号公報
【特許文献2】特開2011−111484号公報
【特許文献3】特開2004−152614号公報
【特許文献4】特開2011−063025号公報
【特許文献5】特開平5−234578号公報
【特許文献6】国際公開WO2007/015416号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ポリプロピレンを添加して耐酸化性を改善するには相当量のポリプロピレンを添加する必要があるが、ポリプロピレンの含有量を増やすとポリエチレン微多孔膜の透過性・強度バランスが損なわれる、特に強度が低下するという欠点が存在する。さらに、十分なシャットダウオン温度が得られないという問題点がある。従って、電池寿命に関わるセパレータの耐酸化性の改良を図りつつ、電池の生産性、安全性および出力特性を担保するために、ポリエチレン微多孔膜の持つ優れた透過性および強度バランス、さらにシャットダウン特性を保持することが求められている。
従って、本発明の課題は、耐酸化性、電解液注液性、およびシャットダウン特性に優れ、さらに透過性および強度バランスに優れたポリオレフィン多層微多孔膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した課題を解決するため、本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、次の構成を有する。すなわち、
ポリプロピレンを含む第1の微多孔層を有し、電解液注液性が20秒以下であり、シャットダウン温度が132℃以下であり、少なくとも一方の表層が前記第1の微多孔層であり、前記第1の微多孔層のポリプロピレン分布(以下、PP分布)が面内方向で均一であるポリオレフィン多層微多孔膜、である。
また、本発明のポリオレフィン多層微多孔膜の製造方法は、次の構成を有する。すなわち、
(a)ポリオレフィン樹脂と成膜用溶剤とを溶融混練してポリオレフィン溶液を調製する工程であって、
(a−1)赤外分光法による末端ビニル基濃度が10,000個の炭素原子当たり0.2個未満であり、重量平均分子量が1.0×10未満のポリエチレンと、重量平均分子量が6.0×10より大きく、3.0×10未満であるポリプロピレンを含む第1のポリオレフィン樹脂と成膜用溶剤とを溶融混練して第1のポリオレフィン溶液を調製する工程、および、
(a−2)赤外分光法による末端ビニル基濃度が10,000個の炭素原子当たり0.2個以上であり、重量平均分子量が1.0×10未満のポリエチレンと、重量平均分子量が1.0×10以上である超高分子量ポリエチレンを含む第2のポリオレフィン樹脂と成膜用溶剤とを溶融混練して第2のポリオレフィン溶液を調製する工程を含むことを特徴とする工程、
(b)せん断速度60/sec以上で、ポリオレフィン溶液を押し出して成形体を形成する工程と、
(c)得られた押出成形体を冷却速度30℃/sec以上で冷却してゲル状シートを形成する工程と、
(d)得られたゲル状シートを少なくとも一軸方向に延伸して延伸物を作成する工程と、
(e)得られた延伸物から前記成膜用溶剤を除去する工程とを含むポリオレフィン多層微多孔膜の製造方法、である。
【0011】
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、前記第1の微多孔層のラマン分光法により測定した、規格化ポリプロピレン/ポリエチレン比率(以下、規格化PP/PE比率)の平均値が0.5以上、規格化PP/PE比率の標準偏差が0.2以下、規格化PP/PE比率の尖度が1.0以下−1.0以上であることが好ましい。
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、前記ポリプロピレンの重量平均分子量が6.0×10より大きく、3.0×10未満であり、その含有量が前記第1の微多孔層中に前記第1の微多孔層のポリオレフィン樹脂全体の重量を100重量%として0.5重量%以上、5重量%未満含まれることが好ましい。
【0012】
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、3層以上で構成され、両表層間に配置された第2の微多孔層を含み、前記第2の微多孔層は、赤外分光法による末端ビニル基濃度が10,000個の炭素原子当たり0.2個以上であるポリエチレンを含むことが好ましい。
【0013】
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、前記第1の微多孔層からなる両表層間に前記第2の微多孔層が配置されてなる三層構造を有することが好ましい。
【0014】
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、前記第2の微多孔層が、末端ビニル基濃度が10,000個の炭素原子当たり0.2個以上であるポリエチレンを第2の微多孔層の全ポリオレフィン重量を100重量%として20.0重量%以上含むことが好ましい。
【0015】
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、前記第1の微多孔層が第1のポリオレフィン樹脂からなり、前記第1のポリオレフィン樹脂が、末端ビニル基濃度が10,000個の炭素原子当たり0.2個未満であり、重量平均分子量が1.0×10未満のポリエチレンおよび重量平均分子量が6.0×10より大きく、3.0×10未満であるポリプロピレンを含んでなることが好ましい。
【0016】
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、前記第1のポリオレフィン樹脂が、末端ビニル基濃度が10,000個の炭素原子当たり0.2個未満であり、重量平均分子量が5.0×10以上5.0×10未満の高密度ポリエチレン(第1のポリオレフィン樹脂全体の重量を100重量%として45.0重量%以上99.5重量%以下となる量)、重量平均分子量が1.0×10以上3.0×10未満の超高分子量ポリエチレン(第1のポリオレフィン樹脂全体の重量を100重量%として0.0重量%以上50.0重量%以下となる量)、および重量平均分子量が6.0×10より大きく、3.0×10未満であるポリプロピレン(第1のポリオレフィン樹脂全体の重量を100重量%として0.5重量%以上5.0重量%未満となる量)を含んでなることが好ましい。
【0017】
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、前記第2の微多孔層が第2のポリオレフィン樹脂からなり、前記第2のポリオレフィン樹脂が、末端ビニル基濃度が10,000個の炭素原子当たり0.2個以上であり、重量平均分子量が5.0×10以上1.0×10未満のポリエチレン(第2のポリオレフィン樹脂全体の重量を100重量%として20.0重量%以上99.0重量%以下となる量)、末端ビニル基濃度が10,000個の炭素原子当たり0.2個未満であり、重量平均分子量が5.0×10以上1.0×10未満の高密度ポリエチレン(第2のポリオレフィン樹脂全体の重量を100重量%として0.0重量%以上79.0重量%以下となる量)、重量平均分子量が1.0×10以上3.0×10未満の超高分子量ポリエチレン(第2のポリオレフィン樹脂全体の重量を100重量%として1.0重量%以上50.0重量%以下となる量)を含んでなり、ポリプロピレンを含まないことが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、ポリプロピレンを含む第1の微多孔層を有し、電解液注液性が20秒以下であり、シャットダウン温度が132℃以下であり、少なくとも一方の表層が第1の微多孔層であり、第1の微多孔層のPP分布が面内方向で均一であるので、耐酸化性、電解液注液性、およびシャットダウン特性に優れる。シャットダウン温度がより低いことにより、異常反応時に電池内の電池反応をより安全に停止させることができる。
【0019】
電池用セパレータとしてポリオレフィン多層微多孔膜を用いる場合に、ポリオレフィン多層微多孔膜内に部分的にポリエチレン濃度の高い箇所が存在すると、電池の充放電中にポリオレフィン多層微多孔膜の劣化が発生することがある。本発明のポリオレフィン多層微多孔膜を用いることにより、電池の充放電中に起こる劣化を抑制することができ、電池を長寿命化することができる。
【0020】
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、重量平均分子量が6.0×10より大きく、3.0×10未満のポリプロピレンを第1の微多孔層中に第1の微多孔層のポリオレフィン樹脂全体の重量を100重量%として0.5重量%以上、5重量%未満含むことが好ましい。透気度と強度のバランスに優れ、ポリエチレン多層微多孔膜と同等の電解液注液性を有するからである。さらに、特定のポリプロピレンの含有量が5重量%未満であると、膜厚分布が均一になるので好ましい。本発明のポリオレフィン多層微多孔膜を電池セパレータとして使用した場合、電池の生産性が向上し、また、その優れた耐酸化性により電池を長寿命化することができる。
【0021】
また、本発明のポリオレフィン多層微多孔膜の製造方法によれば前述の特性を有する本発明のポリオレフィン多層微多孔膜を効率よく製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明のポリオレフィン多層微多孔膜(実施例1)の第1の微多孔層の規格化PP/PE比率の分布図を示すグラフである。
図2】本発明のポリオレフィン多層微多孔膜(実施例1)の第1の微多孔層の規格化PP/PE比率の2次元分布図を示すグラフである。
図3】ポリオレフィン多層微多孔膜(比較例1)の第1の微多孔層の規格化PP/PE比率の2次元分布図を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0024】
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、2層以上であり、好ましくは3層であり、第1の微多孔層を少なくとも一層有する。本発明のポリオレフィン多層微多孔膜において第1の微多孔層は、ポリエチレンを主成分とし、ポリプロピレンを含むポリオレフィン樹脂(第1のポリオレフィン樹脂)から構成される。さらに、第1の微多孔層は、本発明のポリオレフィン多層微多孔膜の少なくとも一方の表層である。第1の微多孔層以外の層は、第2のポリオレフィン樹脂からなる第2の微多孔層であってもよい。本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、両表層(スキン層)が第1の微多孔層であり、両表層間(コア層)に第2の微多孔層が配置された3層構造を有することが好ましい。
【0025】
以下に本発明のポリオレフィン多層微多孔膜で使用するポリオレフィン樹脂を説明する。
【0026】
[1]原料
[ポリオレフィン樹脂]
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜を構成する第1および第2のポリオレフィン樹脂は、ポリエチレン(PE)を主成分とし、ポリオレフィン樹脂全体を100重量%として、ポリエチレンの割合が好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上含む。第1および第2のポリオレフィン樹脂は、ポリオレフィン以外の樹脂を含む組成物であってもよい。従って、「ポリオレフィン樹脂」という言葉は、ポリオレフィンのみならず、ポリオレフィン以外の樹脂を含むものであってもよい。
【0027】
[第1のポリオレフィン樹脂]
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜において、第1の微多孔層は第1のポリオレフィン樹脂から構成される。第1のポリオレフィン樹脂はポリエチレンの他にポリプロピレンを含む。以下に各成分について詳細を示す。
【0028】
ポリエチレン
ポリエチレンは、(a)Mw(重量平均分子量)が1.0×10未満のポリエチレン(以下、「PE(A)」)、又は(b)PE(A)と、Mwが1.0×10以上の超高分子量ポリエチレン(UHMwPE)とからなる組成物(以下、「PE組成物(B)」)であることが好ましい。
【0029】
PE(A)およびPE組成物(B)のMwと数平均分子量(Mn)の比Mw/Mn(分子量分布)は限定的でないが、5〜300の範囲内であることが好ましく、5〜100の範囲内であることがより好ましく、5〜25の範囲内であることが特に好ましい。Mw/Mnが上記好ましい範囲であると、ポリエチレン溶液の押出が容易であり、得られるポリオレフィン多層微多孔膜の強度にも優れる。
【0030】
PE(A)
PE(A)は、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)および低密度ポリエチレン(LDPE)のいずれでもよいが、HDPEが好ましい。PE(A)は、エチレンの単独重合体のみならず、他のα−オレフィンを少量含有する共重合体であってもよい。エチレン以外の他のα−オレフィンとしてはプロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1、ペンテン−1、4−メチルペンテン−1、オクテン、酢酸ビニル、メタクリル酸メチル、スチレン等が挙げられる。
【0031】
PE(A)は10,000個の炭素原子当たり0.20個未満の末端不飽和基を有するポリエチレンである。任意に、PE(A)は、10,000個の炭素原子当たり0.14以下、又は0.12以下、例えば0.05〜0.14個の範囲内(例えば測定限界未満)の末端不飽和基を有する。さらに、PE(A)は例えば約2.0×10〜約0.9×10の範囲といった、1.0×10未満の重量平均分子量(Mw)、約2.0〜50.0の範囲内の分子量分布(MWD、Mwを数平均分子量Mnで割った値と定義する。)を有してもよい。PE(A)のMwは1.0×10以上〜5.0×10未満であることが好ましい。中でもHDPEのMwは5.0×10以上〜4.0×10未満がより好ましい。PE(A)は、Mw又は密度の異なるもの二種以上からなるようにしてもよい。
【0032】
PE組成物(B)
ポリエチレンがPE組成物(B)である場合、PE(A)の上限は、第1のポリオレフィン樹脂全体の重量を100重量%として99.5重量%であることが好ましく、より好ましくは98.0重量%である。PE(A)の下限は、45.0重量%であることが好ましく、より好ましくは60重量%である。
【0033】
UHMwPEの含有量は、第1のポリオレフィン樹脂全体の重量を100重量%として50重量%以下とすることが好ましい。特に好ましくは40重量%以下である。この含有量が上記好ましい範囲であると、成形時に圧力上昇をもたらすことはなく、生産性も良好である。また、この含有量の下限は特に制限されないが、機械的強度維持および高メルトダウン温度維持の点から0.1重量%であることがより好ましく、より好ましくは1重量%、さらに25重量%であることが特に好ましい。UHMwPEを0.1重量%以上50重量%以下とすることで、強度・透気度バランスの優れたポリオレフィン多層微多孔膜を得ることができる。
【0034】
UHMwPEのMwは1.0×10〜3.0×10の範囲内であることが好ましい。UHMwPEのMwを3.0×10以下にすることにより、溶融押出を容易にすることができる。UHMwPEはエチレンの単独重合体のみならず、他のα−オレフィンを少量含有する共重合体であってもよい。エチレン以外の他のα−オレフィンは上記と同じでよい。
【0035】
PE組成物(B)は、任意成分としてMwが1.0×10〜4.0×10のポリブテン−1、およびMwが1.0×10〜4.0×10のエチレン/α−オレフィン共重合体のいずれかを含んでもよい。これらの任意成分は第1のポリオレフィン樹脂全体を100重量%として40重量%以下含まれることが好ましい。
【0036】
ポリプロピレン
ポリプロピレンの含有量は、第1のポリオレフィン樹脂全体の重量を100重量%として5.0重量%未満であることが好ましい。ポリプロピレンの含有量の上限は好ましくは3.5重量%である。ポリプロピレンの含有量の下限は、好ましくは0.5重量%、より好ましくは1.0重量%である。ポリプロピレンの含有量が上記範囲内であると耐酸化性、膜厚均一性および強度が向上する。
【0037】
ポリプロピレンのMwは6.0×10より大きく3.0×10未満であることが好ましく、6.0×10より大きく1.5×10未満であることがより好ましい。ポリプロピレンの分子量分布(Mw/Mn)は1.01〜100であることが好ましく、1.1〜50であることがより好ましい。ポリプロピレンは単独物でもよいし、2種以上のポリプロピレンを含む組成物であってもよい。
【0038】
限定的ではないが、ポリプロピレンの融点は150〜175℃であることが好ましく、より好ましくは、150〜160℃である。
【0039】
ポリプロピレンとしては単独重合体のみならず、他のα−オレフィン又はジオレフィンを含むブロック共重合体および/又はランダム共重合体でもよい。他のオレフィンとしてはエチレン又は炭素数が4〜8のα−オレフィンが好ましい。炭素数4〜8のα−オレフィンとして、例えば1−ブテン、1−へキセン、4−メチル−1−ペンテン等が挙げられる。ジオレフィンの炭素数は4〜14が好ましい。炭素数4〜14のジオレフィンとして、例えばブタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,7−オクタジエン、1,9−デカジエン等が挙げられる。他のオレフィン又はジオレフィンの含有率は、プロピレン共重合体を100モル%として10モル%未満であることが好ましい。
【0040】
[第2のポリオレフィン樹脂]
第2の微多孔層を構成する第2のポリオレフィン樹脂の態様は以下のとおりである。
【0041】
第2のポリオレフィン樹脂はポリエチレンを含む。ポリエチレンは、(a)Mw(重量平均分子量)が1.0×10未満であり赤外分光法による末端ビニル基濃度が、10,000個の炭素原子当たり0.2個以上であるポリエチレン(以下、PE(C))、(b)PE(C)と、Mwが1.0×10以上の超高分子量ポリエチレン(UHMwPE)とからなる組成物(以下、PE組成物(D))又は(c)PE(A)と、PE(C)と、Mwが1.0×10以上の超高分子量ポリエチレン(UHMwPE)とからなる組成物(以下、PE組成物(E))であることが好ましい。ポリエチレンは、第1のポリオレフィン樹脂に記載のポリエチレンを用いることができる。第2のポリオレフィン樹脂は、ポリプロピレンを含まないことが好ましい。
【0042】
第2のポリオレフィン樹脂にPE(C)が含まれると、本発明のポリオレフィン多層微多孔膜のシャットダウン温度が低下する。これは、PE(C)を含む層において、ポリエチレン成分の運動性が高まり、細孔がより低い温度で閉塞するためと考えられる。
【0043】
PE(C)は、炭素原子1.0×10個当たり0.20個以上、好ましくは炭素原子1.0×10個当たり0.30個以上、より好ましくは炭素原子1.0×10個当たり0.50個以上、例えば炭素原子1.0×10個当たり0.6〜10.0個の範囲の赤外分光法による末端ビニル基濃度を有する。さらに、PE(C)の重量平均分子量は1.0×10未満であり、好ましくは重量平均分子量の上限が0.9×10、より好ましくは8.0×10である。PE(C)のMwの下限は、2.0×10であり、好ましくは3.0×10である。PE(C)のMWDは、約2〜約50であることが好ましく、より好ましくは約4〜約15である。
【0044】
ポリエチレンがPE組成物(D)又はPE組成物(E)である場合、PE(C)の含有量の上限は、第2のポリオレフィン樹脂全体の重量を100重量%として99.0重量%であることが好ましく、より好ましくは95.0重量%である。PE(C)の下限は、20.0重量%であることが好ましく、より好ましくは60.0重量%である。PE(C)を20重量%以上含むことで132℃以下のシャットダウン温度を保ちつつ、耐酸化性が良好で物性バランスに優れたポリオレフィン多層微多孔膜を得ることができる。
【0045】
UHMwPEの含有量は、第2のポリオレフィン樹脂全体の重量を100重量%として50.0重量%以下とすることが好ましい。特に好ましくは40.0重量%以下である。この含有量が上記範囲内であると、成形時も圧力上昇が抑制され、生産性が向上するからである。また、この含有量の下限は特に制限されないが、機械的強度維持および高メルトダウン温度維持の点から1.0重量%であることがより好ましく、5.0重量%であることが特に好ましい。UHMwPEを1.0重量%以上50.0重量%以下とすることで、強度・透気度バランスの優れたポリオレフィン多層微多孔膜を得ることができる。
【0046】
PE組成物(D)又はPE組成物(E)は、任意成分としてMwが1.0×10〜4.0×10のポリブテン−1、およびMwが1.0×10〜4.0×10のエチレン/α−オレフィン共重合体のいずれかを添加してもよい。これらの添加量は第2のポリオレフィン樹脂全体の重量を100重量%として40重量%以下であることが好ましい。
【0047】
[ポリオレフィン樹脂におけるポリエチレン、ポリプロピレン以外の成分]
前述のとおり、第1および第2のポリオレフィン樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン以外のポリオレフィンや、ポリオレフィン以外の樹脂を含む組成物であってもよい。ポリエチレン、ポリプロピレン以外のポリオレフィンとしては、ポリブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、オクテン等の単独重合体および共重合体が挙げられる。
【0048】
また、ポリオレフィン樹脂が耐熱性樹脂を含むと、ポリオレフィン多層微多孔膜を電池用セパレータとして用いた場合にメルトダウン温度が向上するので、電池の高温保存特性が一層向上する。
【0049】
耐熱性樹脂としては国際公開WO2006/137540に記載されたものなどを使用することができる。耐熱性樹脂の添加量は、ポリオレフィン樹脂全体を100重量%として3〜20重量%であることが好ましく、3〜15重量%であることがより好ましい。この含有率が上記好ましい範囲であると、突刺強度、引張破断強度等の機械的強度に優れる。
【0050】
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、三層以上の微多孔層で構成される場合、第3の微多孔層またはそれ以上の微多孔層を含んでもよい。本発明のポリオレフィン多層微多孔膜が三層の微多孔層で構成される場合、前記第3の微多孔層は第1の微多孔層と反対側の表層に位置する。第3の微多孔層を構成する樹脂は特に限定されるものではないが、第1のポリオレフィン樹脂または第2のポリオレフィン樹脂からなってもよってもよいが、ポリプロピレンを含まないことが好ましい。
【0051】
[2]ポリオレフィン多層微多孔膜の製造方法
次に、本発明のポリオレフィン多層微多孔膜の製造方法を説明する。なお、本発明のポリオレフィン多層微多孔膜の製造方法は、これに限定されるものではない。
【0052】
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜の製造方法は、
(a)ポリオレフィン樹脂と成膜用溶剤とを溶融混練してポリオレフィン溶液を調製する工程であって、
(a−1)赤外分光法による末端ビニル基濃度が10,000個の炭素原子当たり0.2個未満であり、重量平均分子量が1.0×10未満のポリエチレンと、重量平均分子量が6.0×10より大きく、3.0×10未満であるポリプロピレンを含む第1のポリオレフィン樹脂と成膜用溶剤とを溶融混練して第1のポリオレフィン溶液を調製する工程、および、
(a−2)赤外分光法による末端ビニル基濃度が10,000個の炭素原子当たり0.2個以上であり、重量平均分子量が1.0×10未満のポリエチレンと、重量平均分子量が1.0×10以上である超高分子量ポリエチレンを含む第2のポリオレフィン樹脂と成膜用溶剤とを溶融混練して第2のポリオレフィン溶液を調製する工程を含む工程、
(b)せん断速度60/sec以上で、ポリオレフィン溶液を押し出して成形体を形成する工程と、
(c)得られた押出成形体を冷却速度30℃/sec以上で冷却してゲル状シートを形成する工程と、
(d)得られたゲル状シートを少なくとも一軸方向に延伸して延伸物を作成する工程と、
(e)得られた延伸物から前記成膜用溶剤を除去する工程とを含む。
【0053】
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜の製造方法は積層方法により大きく4通りに分類できるので、以下その分類別に説明する。
(2−1)第1の製造方法
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜を製造する第1の製造方法は、(i)第1のポリオレフィン樹脂と成膜用溶剤とを溶融混練して第1のポリオレフィン溶液を調製し、(ii)第2のポリオレフィン樹脂と成膜用溶剤とを溶融混練して第2のポリオレフィン溶液を調製し、(iii)第1および第2のポリオレフィン溶液を1つのダイより同時に押し出し、(iv)得られた押出成形体を冷却してゲル状シートを形成する。さらに、(v)ゲル状シートを少なくとも一軸方向に延伸して延伸物を作成する工程(第1の延伸工程)、(vi)延伸物から成膜用溶剤を除去(洗浄)する工程、および(vii)洗浄後の膜を乾燥する工程を含む。(i)〜(vii)の工程の後、さらに(viii)乾燥した膜を少なくとも一軸方向に再び延伸する工程(第2の延伸工程)、および(ix)熱処理する工程を含んでもよい。必要に応じて、(vi)の成膜用溶剤除去工程の前に熱固定処理工程、熱ロール処理工程および熱溶剤処理工程のいずれかを設けてもよい。さらに(i)〜(ix)の工程の後、乾燥工程、熱処理工程、電離放射による架橋処理工程、親水化処理工程、表面被覆処理工程等を設けてもよい。さらに(v)第1の延伸工程の後に延伸物を熱処理する工程を設けてもよい。
【0054】
(i)第1のポリオレフィン溶液の調製
第1のポリオレフィン樹脂と成膜用溶剤とを溶融混練し、第1のポリオレフィン溶液を調製する。前述した第1のポリオレフィン樹脂に適当な成膜用溶剤を配合した後、溶融混練し、ポリオレフィン樹脂溶液を調製する。溶融混練方法として、例えば特許第2132327号および特許第3347835号の明細書に記載の二軸押出機を用いる方法を利用することができる。溶融混練方法は公知であるので説明を省略する。ただしポリオレフィン樹脂溶液のポリオレフィン樹脂濃度は、ポリオレフィン樹脂と成膜用溶剤の合計を100重量%として、ポリオレフィン樹脂が20〜50重量%であり、好ましくは25〜45重量%である。ポリオレフィン樹脂溶液のポリオレフィン樹脂濃度が上記範囲内であると、生産性の低下や、ゲル状シートの成形性の低下が防止される。
【0055】
第1のポリオレフィン樹脂としては、前記したとおりのものが使用可能である。
【0056】
(ii)第2のポリオレフィン溶液の調製
第2のポリオレフィン樹脂と成膜用溶剤とを溶融混練し、第2のポリオレフィン溶液を調製する。第2のポリオレフィン溶液に用いる成膜用溶剤は、第1のポリオレフィン溶液に用いる成膜用溶剤と同じでもよいし、異なってもよいが、同じであることが好ましい。それ以外の調製方法は第1のポリオレフィン溶液の調製の場合と同じでよい。
第2のポリオレフィン樹脂としては、前記したとおりのものを使用可能である。
【0057】
(iii)押出
第1および第2のポリオレフィン溶液をそれぞれ押出機から1つのダイに送給し、そこで両溶液を層状に組合せ、シート状に押し出す。三層以上の構造を有するポリオレフィン多層微多孔膜を製造する場合、第1のポリオレフィン溶液が少なくとも一方の表層(第1の微多孔層)を形成し、第2のポリオレフィン溶液が両表層間の少なくとも一層(第2の微多孔層)を形成するように(好ましくは、両表層の一方又は両方に接触するように)両溶液を層状に組合せ、シート状に押し出す。
【0058】
押出方法はフラットダイ法およびインフレーション法のいずれでもよい。いずれの方法でも、溶液を別々のマニホールドに供給して多層用ダイのリップ入口で層状に積層する方法(多数マニホールド法)、又は溶液を予め層状の流れにしてダイに供給する方法(ブロック法)を用いることができる。多数マニホールド法およびブロック法自体は公知であるので、それらの詳細な説明は省略する。多層用フラットダイのギャップは0.1〜5mmであることが好ましい。押出温度は140〜250℃好ましく、押出速度は0.2〜15m/分が好ましい。第1および第2のポリオレフィン溶液の各押出量を調節することにより、第1および第2の微多孔層の膜厚比を調節することができる。
【0059】
二軸押出機のスクリュの長さ(L)と直径(D)の比(L/D)は20〜100の範囲が好ましい。二軸押出機のシリンダ内径は40〜200mmであることが好ましい。ポリオレフィン樹脂を二軸押出機に入れる際、スクリュ回転数Ns(rpm)に対するポリオレフィン樹脂溶液の投入量Q(kg/h)の比Q/Nsを0.1〜0.55kg/h/rpmにするのが好ましい。スクリュ回転数Nsは180rpm以上にするのが好ましい。スクリュ回転数Nsの上限は特に制限されないが、500rpmが好ましい。
【0060】
押出方法としては、例えば特許第2132327号および特許第3347835号に開示の方法を利用することができるが、本発明のポリオレフィン多層微多孔膜の製造方法においては、第1のポリオレフィン樹脂溶液を含むポリオレフィン樹脂溶液のダイからのせん断速度が60/sec以上であることを特徴とする。ダイからのせん断速度は150/sec以上であることがより好ましい。
【0061】
(iv)ゲル状シートの形成
(iii)により得られた押出成形体を冷却してゲル状シートを形成する。ゲル状シートの形成方法として、例えば特許第2132327号および特許第3347835号に開示の方法を利用することができる。冷却は押出成形体が40℃以下になるまで行うことが好ましい。冷却により、成膜用溶剤によって分離されたポリオレフィンのミクロ相を固定化することができる。冷却方法としては冷風、冷却水等の冷媒に接触させる方法、冷却ロールに接触させる方法等を用いることができる。
【0062】
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜の製造方法においては、第1のポリオレフィン樹脂溶液を含むポリオレフィン樹脂溶液の押出成形体の冷却速度は30℃/sec以上であることを特徴とする。
【0063】
ダイからのせん断速度および冷却速度を適切に制御すれば、ゲル状シート内でのポリプロピレンの分布を均一にすることが容易であり、耐酸化性および電解液注液性が良好になる。
【0064】
(v)第1の延伸工程
得られたゲル状シートを少なくとも一軸方向に延伸する。第1の延伸によりポリエチレン結晶ラメラ層間の開裂が起こり、ポリエチレン相が微細化し、多数のフィブリルが形成される。得られるフィブリルは三次元網目構造(三次元的に不規則に連結したネットワーク構造)を形成する。ゲル状シートは成膜用溶剤を含むので、均一に延伸できる。第1の延伸は、ゲル状シートを加熱後、通常のテンター法、ロール法、インフレーション法、圧延法又はこれらの方法の組合せにより所定の倍率で行うことができる。第1の延伸は一軸延伸でも二軸延伸でもよいが、二軸延伸が好ましい。二軸延伸の場合、同時二軸延伸又は逐次延伸のいずれを施してもよい。
【0065】
延伸倍率はゲル状シートの厚さにより異なるが、一軸延伸では2倍以上にするのが好ましく、3〜30倍にするのがより好ましい。二軸延伸ではいずれの方向でも少なくとも3倍以上、すなわち面積倍率で9倍以上にすることが好ましく、これにより、得られるポリオレフィン多層微多孔膜の突刺強度が向上し、高弾性化、高強度化が可能となる。また、面積倍率が上記好ましい範囲であると、延伸装置、延伸操作等の点で制約が生じない。なお、二軸延伸では両方向の倍率を同倍率とすることが好ましい。
【0066】
第1の延伸の温度は、ポリオレフィン溶液の調製に用いたポリエチレンの融点を約10℃超えた温度以下とすることが好ましい。延伸温度は、Tcd超〜Tme未満の範囲でもよい。Tme及びTcdは、それぞれ、ポリオレフィン溶液の調製に用いた全てのポリエチレンの融点及び結晶分散温度である。延伸温度がTme+10℃以下であると、延伸中にゲル状シート中のポリオレフィンの分子鎖の配向が促進される傾向がある。一方、延伸温度がTcd以上であると、延伸による破膜が抑制され、高倍率の延伸が可能となる。一実施態様において、延伸温度は約90℃〜約140℃か、約100℃〜約130℃である。ポリオレフィン樹脂が90重量%以上のポリエチレンからなる場合、延伸温度を通常90〜130℃の範囲内にし、好ましくは100〜125℃の範囲内にし、より好ましくは105〜120℃の範囲内にする。
【0067】
PE(A)、超高分子量ポリエチレン(UHMwPE)、第2のポリオレフィン樹脂、又はポリエチレン組成物(PE組成物(B))、PE(C)、PE組成物(D)のTmeは一般的に約130℃〜約140℃であり、Tcdは約90℃〜約100℃である。TcdはASTM D 4065による動的粘弾性の温度特性から求めることができる。
【0068】
第1の延伸は、温度の異なる多段階の延伸を施してもよく、前段および後段の延伸温度並びに最終の延伸倍率は各々上記範囲内とする。所望の物性に応じて、膜厚方向に温度分布を設けて延伸してもよく、これにより一層機械的強度に優れたポリオレフィン多層微多孔膜が得られる。その方法としては、例えば特許第3347854号に開示の方法を用いることができる。
【0069】
(vi)成膜用溶剤除去(洗浄)工程
次に、洗浄溶剤を用いて、延伸したゲル状シート(延伸物)中に残留する成膜用溶剤を除去する。ポリオレフィン相は成膜用溶剤と相分離しているので、成膜用溶剤を除去すると多孔質の膜が得られる。洗浄溶剤およびこれを用いた成膜用溶剤の除去方法は公知であるので説明を省略する。例えば特許第2132327号明細書や特開2002−256099号公報に開示の方法を利用することができる。
【0070】
(vii)膜の乾燥工程
成膜用溶剤除去により得られたポリオレフィン多層微多孔膜は、加熱乾燥法、風乾法等により乾燥する。
【0071】
(viii)第2の延伸工程
さらに、乾燥後の膜を再び少なくとも一軸方向に延伸してもよい。第2の延伸は、膜を加熱しながら、第1の延伸と同様にテンター法等により行うことができる。第2の延伸は一軸延伸でも二軸延伸でもよい。
【0072】
第2の延伸温度は、ポリオレフィン溶液の調製に用いた全てのポリエチレンの融点Tmeとほぼ同じかそれ以下でよい。一実施態様において、第2の延伸温度は約Tcd〜約Tmeである。第2の延伸温度がTme以下であると、得られるポリオレフィン多層微多孔膜の透過性が適正となり、横方向(幅方向:TD方向)の透過性等の物性のばらつきが抑制される傾向がある一方、第2の延伸温度がTcd以上であると、延伸による破膜が抑制され、均一に延伸することが可能となる。ポリオレフィン樹脂がポリエチレンからなる場合、延伸温度を通常90〜140℃の範囲内にし、好ましくは100〜140℃の範囲内にする。
【0073】
第2の延伸の一軸方向への倍率は1.1〜1.8倍にするのが好ましい。例えば一軸延伸の場合、MD方向(膜の製造方向をいい、機械方向、長手方向ともいう)又はTD方向(長手方向と同平面で、かつ垂直な方向をいい、横方向ともいう)に1.1〜1.8倍にする。二軸延伸の場合、MD方向およびTD方向に各々1.1〜1.8倍にする。二軸延伸の場合、MD方向およびTD方向の各延伸倍率は1.1〜1.8倍である限り、各方向で互いに異なってもよい。延伸倍率を上記範囲内とすると、得られるポリオレフィン多層微多孔膜の透過性、耐熱収縮性、電解液吸収性および耐圧縮性が向上する傾向が認められた。第2の延伸の倍率は1.2〜1.6倍にするのがより好ましい。
【0074】
第2の延伸の速度は延伸軸方向に3%/秒以上にするのが好ましい。例えば一軸延伸の場合、MD方向又はTD方向に3%/秒以上にする。二軸延伸の場合、MD方向およびTD方向に各々3%/秒以上にする。延伸軸方向における延伸速度(%/秒)とは、膜(シート)が再延伸される領域において再延伸前の延伸軸方向の長さを100%とし、1秒間当りに伸ばされる長さの割合を表す。この延伸速度を3%/秒以上とすると、得られるポリオレフィン多層微多孔膜の透過性が適正になり、シート幅方向における透過性などの物性のばらつきが抑制される傾向がある。第2の延伸の速度は5%/秒以上にするのが好ましく、10%/秒以上にするのがより好ましい。二軸延伸の場合、MD方向およびTD方向の各延伸速度は3%/秒以上である限り、MD方向とTD方向で互いに異なってもよいが、同じであることが好ましい。第2の延伸の速度の上限に特に制限はないが、破断防止の観点から50%/秒以下であることが好ましい。
【0075】
(ix)熱処理工程
第2の延伸後の膜を熱処理してもよい。第2の延伸により形成されたフィブリルからなる網状組織が保持され、細孔径が大きく、強度に優れたポリオレフィン多層微多孔膜を作製できる。熱処理は、熱固定処理および/又は熱緩和処理を用いることができる。熱固定処理とは、膜の寸法が変わらないように保持しながら加熱する熱処理である。熱緩和処理とは、膜を加熱中にMD方向やTD方向に熱収縮させる熱処理である。特に熱固定処理により膜の結晶が安定化する。熱処理は、テンター方式、ロール方式又は圧延方式といった従来の方法で行うことができる。例えば、熱緩和処理方法としては特開2002−256099号公報に開示の方法があげられる。
【0076】
熱処理は、ポリオレフィン多層微多孔膜を構成する全てのポリオレフィン樹脂の結晶分散温度以上〜融点以下の温度範囲内で行う。熱固定処理温度は、第2の延伸温度±5℃の範囲内であることが好ましく、これにより物性が安定化する。この温度は第2の延伸温度±3℃の範囲内であることがより好ましい。
【0077】
限定的ではないが、第1の延伸、成膜用溶剤除去、乾燥、第2の延伸および熱処理を一連のライン上で連続的に施すインライン方式を採用するのが好ましい。ただし必要に応じて乾燥処理後の膜を一旦巻き、その後これを巻き出して第2の延伸および熱処理を施すオフライン方式を採用してもよい。
【0078】
(x)その他の工程
第1の延伸を施したゲル状シートから成膜用溶剤を除去する前に、熱固定処理工程、熱ロール処理工程および熱溶剤処理工程のいずれかを設けてもよい。また洗浄後や第2の延伸工程中の膜に対して熱固定処理する工程を設けてもよい。洗浄前および/又は後の延伸ゲル状シート、並びに第2の延伸工程中の膜を熱固定処理する方法は上記と同じでよい。
【0079】
(2−2)第2の製造方法
ポリオレフィン多層微多孔膜を製造する第2の方法は、(i)第1のポリオレフィン樹脂と成膜用溶剤とを溶融混練して第1のポリオレフィン溶液を調製し、(ii)第2のポリオレフィン樹脂と成膜用溶剤とを溶融混練して第2のポリオレフィン溶液を調製し、(iii−2)第1および第2のポリオレフィン溶液を別個のダイより押出した直後に積層し、(iv)得られた押出成形体(積層体)を冷却してゲル状シートを形成することを特徴とする。すなわち、第1の製造方法が1つのダイの中でポリオレフィン溶液を積層して押出成形体を形成するのに対し、第2の製造方法は溶液を別個のダイより押出した直後に積層する点でのみ異なり、以下の工程は第1の製造方法と同じ方法を採用することができる。
【0080】
第2の方法は工程(iii−2)以外は第1の製造方法における各工程と同じであるので、工程(iii−2)のみ説明する。工程(iii−2)では、複数の押出機の各々に接続した近接するダイから第1および第2のポリオレフィン溶液をそれぞれシート状に押出し、各溶液の温度が高い(例えば100℃以上)うちに直ちに積層し、積層された押出成形体とする。これ以外の工程は第1の製造方法と同じでよい。
【0081】
(2−3)第3の製造方法
ポリオレフィン多層微多孔膜を製造する第3の製造方法は、(i)第1のポリオレフィン樹脂と成膜用溶剤とを溶融混練して第1のポリオレフィン溶液を調製し、(ii)第2のポリオレフィン樹脂と成膜用溶剤とを溶融混練して第2のポリオレフィン溶液を調製し、(iii−3−1)第1のポリオレフィン溶液を一つのダイより押し出して第1の押出成形体を形成し、(iii−3−2)第2のポリオレフィン溶液を別のダイより押し出して第2の押出成形体を形成し、(iv−3)得られた第1および第2の押出成形体をそれぞれ冷却して第1および第2のゲル状シートを形成し、(v−3)第1および第2のゲル状シートをそれぞれ延伸し、(xi−3)延伸した第1および第2の延伸物を積層し、(vi)得られた延伸物から成膜用溶剤を除去することを特徴とする。すなわち、ゲル状シートを延伸するまでは別々に行い、その後に積層するものであって、以下の工程は第1の製造方法と同じ方法を採用することができる。工程(vi−3)と(vii−3)の間に、(viii−3)ゲル状積層シートの延伸工程等を設けてもよい。工程(iii−3−1)及び(iii−3−2)は、第1及び第2のポリオレフィン溶液を層状に組合せない点でのみ、第1の製造方法における工程(iii)と異なる。使用するダイは第2の製造方法における工程(iii−2)で使用するダイと同じである。工程(iv−3)は、第1および第2の押出成形体をそれぞれ別々に冷却する点でのみ第1の製造方法における工程(iv)と異なる。工程(v−3)は、第1および第2のゲル状シートをそれぞれ延伸する点でのみ第1の製造方法における工程(v)と異なる。一方、工程(xi−3)は、第1および第2の延伸物を積層するという第1及び第2の製造方法にはない工程であるが、延伸物の積層は公知の方法を用いればよい。
【0082】
(2−4)第4の製造方法
ポリオレフィン多層微多孔膜を製造する第4の製造方法は、(i)第1のポリオレフィン樹脂と成膜用溶剤とを溶融混練して第1のポリオレフィン溶液を調製し、(ii)第2のポリオレフィン樹脂と成膜用溶剤とを溶融混練して第2のポリオレフィン溶液を調製し、(iii−4−1)第1のポリオレフィン溶液を一つのダイより押し出し、(iii−4−2)第2のポリオレフィン溶液を別のダイより押し出し、(iv−4)得られた各押出成形体をそれぞれ冷却して第1および第2のゲル状シートを形成し、(v−4)第1および第2のゲル状シートをそれぞれ延伸し、(vi−4)延伸した各延伸物から成膜用溶剤を除去し、(vii−4)得られた第1および第2のポリオレフィン微多孔膜を乾燥し、(viii−4)少なくとも第2のポリオレフィン微多孔膜を延伸し、(xi−4)第1および第2のポリオレフィン微多孔膜を積層する工程を有する。すなわち、多孔膜とするまでは別々に行い、その後に積層して多層微多孔膜とするものである。必要に応じて、工程(vii)と(viii−4)の間に(ix−4)第1および第2のポリオレフィン微多孔膜のそれぞれに熱処理工程を行ってもよい。また以下の工程は第1の製造方法と同じ方法を採ることができる。
【0083】
工程(v−4)までは第3の製造方法と同様に行うことができる。工程(vi−4)は、第1および第2の延伸物からそれぞれ成膜用溶剤を除去する点でのみ第1及び第3の製造方法における工程(vi)と異なる。工程(vii−4)は、第1および第2の膜をそれぞれ乾燥する点でのみ第1及び第3の製造方法における工程(vii)と異なる。
【0084】
一方、工程(viii−4)は第1〜3の製造方法では必ずしも必要ではない工程であるが、第4の製造方法ではこの工程(viii−4)で少なくとも第2のポリオレフィン微多孔膜を再延伸する。延伸温度は、融点以下が好ましく、結晶分散温度〜融点がより好ましい。必要に応じて第1のポリオレフィン微多孔膜も延伸してもよい。延伸温度は、融点以下が好ましく、結晶分散温度〜融点がより好ましい。第1および第2のポリオレフィン微多孔膜のいずれを延伸する場合でも、延伸倍率は、積層していないポリオレフィン微多孔膜を延伸する以外は第1の製造方法と同じでよい。
【0085】
また、工程(xi−4)は、第1および第2の膜を積層するという第1〜3の製造方法にはない工程であるが、膜の積層は延伸物の積層と同様に公知の方法を用いればよい。
【0086】
以上、積層方法によって4つの分類で本発明のポリオレフィン多層微多孔膜の製造方法を説明したが、これらをまとめると必要な工程としては工程(a)〜(e)となる。
【0087】
工程(a)は、第1〜4の製造方法の工程(i)及び工程(ii)に該当する。
工程(b)は、第1の製造方法の工程(iii)、第2の製造方法の工程(iii−2)、第3の製造方法の工程(iii−3−1)、及び第4の製造方法の工程(iii−4−1)に該当する。
工程(c)は、第1の製造方法の工程(iv)、第2の製造方法の工程(iv−2)、第3の製造方法の工程(iv−3)、及び第4の製造方法の工程(iv−4)に該当する。
工程(d)は、第1〜第2の製造方法の工程(v)、第3の製造方法の工程(v−3)、及び第4の製造方法の工程(v−4)に該当する。
工程(e)は、第1〜第3の製造方法の工程(vi)、及び第4の製造方法の工程(vi−4)に該当する。
【0088】
[3]ポリオレフィン多層微多孔膜の構造、物性およびその測定方法
本発明の好ましい実施態様によるポリオレフィン多層微多孔膜は、次の物性を有する。以下に、構造、物性およびその測定方法を説明する。
【0089】
(1)規格化PP/PE比率
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、第1の微多孔層のPP分布が面内方向で均一な構造となっている。PP分布の均一性を表現する一例として、顕微ラマン分光法により求めたPPとPEのピーク強度比(PP/PE比率)について、膜表面の最大PP/PE比率を1としたときの相対値を規格化PP/PE比率とすれば、規格化PP/PE比率の平均値/標準偏差/尖度が一定の値を示す構造と表現することができる。すなわち、本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は規格化PP/PE比率が、平均値で0.5以上、標準偏差で0.2以下、分布の形状を示すパラメーターである尖度で1.0以下−1.0以上である構造を有することが好ましい。
【0090】
顕微ラマン分光法による膜表面のPP/PE比率の測定方法について以下に説明する。顕微ラマン分光法により、波長532nmレーザーを用いて、深さ方向1〜2ミクロン、20×20ミクロン視野を1ミクロンスポット径でエリア分析を行い、計400点における周波数807cm−1(PP)、周波数1127cm−1(PE)のピーク強度比を測定する。20×20ミクロン視野内の強度比の最大値を1としたときの相対値を「規格化PP/PE比率」とする。
【0091】
規格化PP/PE比率の平均値が上記好ましい範囲である場合には、ポリプロピレン濃度の低い部分が少なく、ポリエチレンが主となる部分が増えず、電池内での充放電に伴う酸化反応によりポリエチレンが主となる部分が少ないので劣化が進行しにくく、サイクル特性が良好に保たれると考えられる。
【0092】
規格化PP/PE比率の標準偏差が上記好ましい範囲であると、ポリプロピレン濃度の変化が小さく、ポリプロピレン濃度の低いところが少ないのでやはり耐酸化性が悪化しにくいと考えられる。
【0093】
またポリプロピレン濃度の分布が上記好ましい範囲であると、ポリプロピレン濃度の低いところが少なく、電池内での耐酸化性能が劣る部分が生じにくく、電池性能が良好である。ある程度、ポリプロピレン濃度の高い部分が存在することが耐酸化性を改善しやすい。これらの結果から適切な規格化PP/PEの分布がポリオレフィン多層微多孔膜の耐酸化性改善に必須であることが判明した。
【0094】
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、第1の微多孔層において前述したように、面内方向で均一なPP分布を有するので、耐酸化性に優れる。さらに、ポリプロピレンの含有率が5重量%未満と少ない場合には、ポリプロピレンによる物性低下が抑制され、透過性、強度および電解液吸収性に優れるので好ましい。そのためリチウムイオン電池用セパレータとして用いた場合に、各々優れた電池生産性、安全性、電池サイクル特性を実現することができる。
【0095】
(2)透気度(秒/100cm/20μm)
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜の膜厚を20μmに換算した透気度(ガーレー値)は20〜600秒/100cmであることが好ましく、より好ましくは100〜500秒/100cmである。透気度がこの範囲であると、ポリオレフィン多層微多孔膜を電池セパレータとして用いた場合に電池容量が大きく、電池のサイクル特性も良好で、電池内部の温度上昇時にシャットダウンが十分に行われる一方、電池に利用した場合に充放電時に抵抗値が上がりにくく、平均電気化学的安定性は良好である。なお、透気度は、JIS P 8117により測定し、膜厚を20μmに換算することにより求めた値である。
【0096】
(3)空孔率(%)
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜の空孔率は25〜80%であることが好ましく、より好ましくは30〜50%である。空孔率が上記範囲内であると、ポリオレフィン多層微多孔膜を電池セパレータとして用いた場合の透過性と強度が適正であり、電極の短絡が抑制される。空孔率は質量法により測定した値である。
空孔率(%)=100×(w2−w1)/w2
w1:微多孔膜の実重量
w2:同じ大きさおよび厚さを有する、(同じポリマーの)同等の非多孔性膜の重量
【0097】
(4)突刺強度(mN/20μm)
突刺強度は、直径1mm(0.5mmR)の針を用い、速度2mm/secでポリオレフィン多層微多孔膜を突刺したときの最大荷重値を測定し、膜厚を20μmに換算することにより求めた値である。本発明のポリオレフィン多層微多孔膜の膜厚を20μmに換算した突刺強度は2,000mN以上であることが好ましく、好ましくは2,500mN以上、より好ましくは4,000mN以上である。突刺強度が2,000mN/20μm以上であると、ポリオレフィン多層微多孔膜を電池用セパレータとして電池に組み込んだ場合に、電極の短絡を効果的に抑制できる。
【0098】
(5)引張破断強度(kPa)
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜の引張破断強度はMD方向およびTD方向のいずれにおいても60,000kPa以上、より好ましくは80,000kPa以上、さらに好ましくは100,000kPa以上である。引張破断強度が60,000kPa以上であることにより、電池製造時の破膜を防止しやすい。引張破断強度は、幅10mmの短冊状試験片を用いてASTM D882により測定した値である。
【0099】
(6)引張破断伸度(%)
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜の引張破断伸度はMD方向およびTD方向のいずれにおいても80%以上であることが好ましく、より好ましくは100%以上である。これにより電池製造時の破膜を防止しやすい。引張破断伸度は、幅10mmの短冊状試験片を用いてASTM D882により測定した値である。
【0100】
(7)熱収縮率(%)
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜の105℃の温度で8時間暴露後の熱収縮率はMD方向およびTD方向ともに15%以下であることが好ましく、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは6%以下である。熱収縮率が15%以下であると、ポリオレフィン多層微多孔膜をリチウム電池用セパレータとして用いた場合、発熱時にセパレータ端部が収縮し、電極の短絡が発生する可能性が低くなる。
【0101】
熱収縮率は、ポリオレフィン多層微多孔膜を105℃で8時間暴露したときのMD方向およびTD方向の熱収縮率をそれぞれ3回ずつ測定し、それぞれ平均値を算出することにより求めた値である。熱収縮率は以下の式で表される。
熱収縮率(%)=100×(加熱前の長さ−加熱後の長さ)/加熱前の長さ
【0102】
(8)シャットダウン温度
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜のシャットダウン温度は135℃以下、より好ましくは、132℃以下である。なお、シャットダウン温度は、国際公開第2007/052663号に開示されている方法によって測定する。この方法に従い、ポリオレフィン多層微多孔膜を30℃の雰囲気中にさらして、5℃/分で昇温し、その間に膜の透気度を測定する。ポリオレフィン多層微多孔膜のシャットダウン温度は、ポリオレフィン多層微多孔膜の透気度(ガーレー値)が最初に100,000秒/100cmを超える時の温度と定義した。ポリオレフィン多層微多孔膜の透気度は、透気度計(旭精工株式会社製、EGO−1T)を用いてJIS P 8117に従って測定する。
【0103】
(9)電解液注液性
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜の電解液注液性は20秒以下である。より好ましくは10秒以下、さらには5秒以下が特に好ましい。電解液注液性はプロピレンカーボネートの浸透時間にて評価した。50mm×50mmのサンプルをガラス板の上に載せ、サンプルの約2cm上からプロピレンカーボネートを0.5ml滴下し、滴下終了から時間の計測を開始する。滴下終了直後、プロピレンカーボネートは膜上に表面張力で盛り上がるが、滴下したプロピレンカーボネートは時間の経過とともに浸透する。膜上のプロピレンカーボネートが全て透過したところで時間の計測を停止し、浸透時間とする。浸透時間が20秒以下を良好、20秒より大きく50秒以下をやや良好、50秒を超えたものを不適とする。
【0104】
(10)平均電気化学的安定性(漏れ電流値)(mAh)
電気化学的安定性を測定するために、70mmの長さ(MD)および60mmの幅(TD)を有する膜を膜と同じ面積を有する負極と正極の間に配置する。負極は天然黒鉛製であり、正極はLiCoO製である。電解質は、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)(3/7、V/V)との混合物中にLiPFを1M溶液として溶解させることにより調製する。負極と正極の間の領域にある膜の中に電解質を含浸させ、電池を完成させる。
【0105】
次いで、電池を、28日間60℃の温度にさらしながら、4.3Vの印加電圧にさらす。「電気化学的安定性」という用語は、28日間にわたって電圧源と電池との間に流れる積分電流(mAh)と定義される。電気化学的安定性は、同一の条件下で3個の電池について測定する(3つの同条件の膜試料から同条件の電池を3個作製する)。平均電気化学的安定性(漏れ電流値)とは、測定した3個の電池の電気化学的安定性の値の平均(算術平均)である。
【0106】
電気化学的安定性は、保管または使用中に比較的高温にさらされる電池内のセパレータとして膜を使用した場合の膜の耐酸化性に関連した膜特性である。電気化学的安定性はmAhを単位とし、一般的にはより低い値が望ましい(高温での保管または過充電中の総合充電ロスがより少ないことを表す)。電気自動車やハイブリッド電気自動車を動かすための動力手段の起動、またはその動力手段への給電に用いる電池等の自動車用電池、および電動工具用電池は、比較的高出力、大容量用途として使用されるため、電池用セパレータの電気化学的不安定性に起因する自己放電ロス等の、電池容量のわずかなロスであっても重要な問題である。本発明のポリオレフィン多層微多孔膜の平均電気化学的安定性は、45.0mAh以下が好ましく、特に35.0mAh以下が好ましい。「大容量」電池という用語は、通常は、例えば2.0Ah〜3.6Ahといった、1アンペア時(1Ah)以上供給することが可能な電池を意味する。
【0107】
(11)膜厚
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜の膜厚は、例えば電池用セパレータとして使用する場合は5〜50μmが好ましく、5〜35μmがより好ましく、10〜25μmがさらに好ましい。膜厚の測定方法は、接触式厚さ測定方法でも非接触式厚さ測定方法でもかまわない。例えば、縦方向に1.0cm間隔で10.0cmの幅にわたって接触式厚さ計により測定することができ、次いで平均値を出して膜厚を得ることができる。接触式厚さ計としては、例えば株式会社ミツトヨ製ライトマチック等の厚さ計が好適である。
【0108】
(12)外観
膜の外観は目視/多点膜厚測定にて評価した。目視により厚みの変動が小さいものについて「良好」とした。「良好」は、多点における膜厚測定において、膜厚変動が5ミクロン未満である場合に相当する。
(13)融点
樹脂の融点はJIS K 7122に準じて以下の手順で測定した。すなわち、樹脂サンプルを走査型示差熱量計(Perkin Elmer, Inc.製、DSC−System7型)のサンプルホルダー内に静置し、窒素雰囲気中、230℃で10分間熱処理し、10℃/分で40℃まで冷却した後、40℃に2分間保持し、その後10℃/分の速度で230℃まで加熱した。最大吸熱量となった温度(ピーク温度)を融点とした。
【0109】
[4]電池等
以上のように、本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、耐酸化性および電解液注液性に優れ、電池として充放電を繰り返した後も黒色化等が起こりにくく、透過性および強度バランスに優れるので、特に電池用セパレータとして好適である。
【0110】
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜からなるセパレータは、電池および電気二重層コンデンサに用いることができる。これを用いる電池/コンデンサの種類に特に制限はないが、特にリチウム二次電池/リチウムイオンキャパシタ用途に好適である。本発明のポリオレフィン多層微多孔膜からなるセパレータを用いたリチウム二次電池/キャパシタには、公知の電極および電解液を使用すればよい。また本発明のポリオレフィン多層微多孔膜からなるセパレータを使用するリチウム二次電池/キャパシタの構造も公知のものでよい。
【実施例】
【0111】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、ポリオレフィン多層微多孔膜の各物性は前述の方法で求めた。
【0112】
実施例1
(1)第1のポリオレフィン溶液の調製
第1ポリオレフィン組成物の全重量に対し(a)Mwが2.5×10のHDPE(Mw/Mn:8.6、末端ビニル基濃度0.1個/10000炭素あたり))97重量%、(b)Mwが9.7×10のポリプロピレン(Mw/Mn:2.6、融点155℃)3重量%含む第1ポリオレフィン組成物をドライブレンドにより調製した。酸化防止剤としてテトラキス[メチレン−3−(3,5−ジターシャリーブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]メタンを、第1ポリオレフィン組成物100重量部当たり0.2重量部ドライブレンドし、第1ポリオレフィン樹脂を調製した。
【0113】
30重量部の第1ポリオレフィン樹脂を強混練二軸押出機に供給し、70重量部の液体パラフィン(40℃で50cSt)をサイドフィーダーから二軸押出機に供給した。210℃、200rpmで溶融混練して第1のポリオレフィン溶液を調製した。
【0114】
(2)第2のポリオレフィン溶液の調製
第2のポリオレフィン溶液は、以下の点を除き第1のポリオレフィン溶液の調整方法と同様にして調製した。第2ポリオレフィン組成物の全重量に対し(a)Mwが2.0×10のUHMwPE(Mw/Mn:8.0)20重量%、(b)Mwが3.0×10のHDPE(Mw/Mn:13.5、末端ビニル基濃度0.9個/10000炭素あたり)80重量%含む第2ポリオレフィン組成物をドライブレンドにより調製した。酸化防止剤としてテトラキス[メチレン−3−(3,5−ジターシャリーブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]メタンを、第2ポリオレフィン組成物100重量部当たり0.2重量部ドライブレンドし、第2ポリオレフィン樹脂を調製した。得られた第2ポリオレフィン組成物25重量部を強混練二軸押出機に供給し、75重量部の液体パラフィン(40℃で50cSt)をサイドフィーダーから二軸押出機に供給した。210℃、200rpmで溶融混練して第2のポリオレフィン溶液を調製した。
【0115】
(3)微多孔膜の製造
第1および第2のポリオレフィン溶液をそれぞれの二軸押出機から三層Tダイへ供給して、層構成が第1のポリオレフィン溶液/第2のポリオレフィン溶液/第1のポリオレフィン溶液で、層厚み比が8.5/83/8.5の三層の押出成形体を形成した。この押出成形体を20℃に制御された冷却ロールに通して冷却して三層のゲル状積層シートを形成した。なお、押出成形体のダイ中でのせん断速度を210/sec、冷却ロールでの冷却速度を38℃/secとした。得られたゲル状積層シートに対して、テンター延伸機を用いて、116℃の温度で延伸倍率5×5倍の同時二軸延伸(第1の延伸)を施し、巻き取った。次いで巻き取った延伸物から一部を採取し、枠板[サイズ:20cm×20cm、アルミニウム製(以下同じ)]に固定し、25℃に温調した塩化メチレンの洗浄槽中に浸漬し、100rpmで3分間揺動させながら洗浄した。洗浄した膜を室温で風乾した。乾燥した微多孔膜をバッチ延伸機により126℃でTD方向に1.4倍の延伸倍率で第2の延伸(再延伸)をした後、バッチ延伸機に取り付けたままの状態で、再延伸の温度で10分間熱固定処理してポリオレフィン多層微多孔膜を作製した。
【0116】
実施例2〜実施例7および比較例1〜比較例8
表1および表2に示す原料・条件にて実施例1と同様にポリオレフィン多層微多孔膜を作成した。実施例2、7、比較例2〜4は表に示す温度および倍率で、第2の延伸(再延伸)を行った後、TD方向に熱緩和処理し、その後バッチ延伸機に取り付けたままの状態で、再延伸の温度で10分間熱固定処理してポリオレフィン多層微多孔膜を作製した。なお、表1および表2における「−」は、表中のUHMwPEまたはHDPE2を含まないこと、および熱緩和処理を行わなかったことを示す。
【0117】
【表1】
【0118】
【表2】
【0119】
表3および表4に、実施例1〜7および比較例1〜8のポリオレフィン微多孔膜の物性を示す。なお、表4において比較例2の「−」は表面が目視で判断可能である大きな凹凸があり、測定できなかったことを示す。
【0120】
【表3】
【0121】
【表4】
【0122】
表3および表4をみると、実施例1〜8のポリオレフィン微多孔膜は、いずれも電解液注液性に優れ、PP分布が均一である。さらに、漏れ電流値が45mAh以下となり、優れた耐酸化性を示す。また、シャットダウン温度も132℃以下であり、電池に使用した際により安全性に優れ、物性バランスに優れている。図1は、実施例1のポリオレフィン多層微多孔膜の表層の規格化PP/PE比率の分布図を示すグラフであり、規格化PP/PE比率が0.5以上の狭い範囲に集中して存在していることが分かる。図2は、実施例1のポリオレフィン多層微多孔膜の表層の規格化PP/PE比率の2次元分布図を示し、ポリプロピレン濃度が低い領域(色の濃い部分)がほとんど見られず、さらにポリプロピレンが平均的に存在していることがわかる。一方、図3は、比較例1のポリオレフィン多層微多孔膜の表層の規格化PP/PE比率の2次元分布図を示しており、ポリプロピレン濃度が低い領域(色の濃い部分)が多く、ポリプロピレンが表層に平均的に存在していないことがわかる。
【0123】
これに対して比較例1のポリオレフィン多層微多孔膜は重量平均分子量が3.0×10以上のポリプロピレンを含んでおり、透気度の悪化、電解液注液性の著しく低下、耐酸化性も優れなかった。
【0124】
比較例2のポリオレフィン微多孔膜は、実施例1〜8で用いたポリプロピレンと同じポリプロピレンを8重量%含んでいる。空孔率が上昇して透気度が低下するものの、強度が低下してしまった。膜の外観は目視で凹凸が見られ、電池用セパレータとしての一般物性の面で劣ることが確認できた。
【0125】
比較例3のポリオレフィン多層微多孔膜は、実施例1〜8で用いたポリプロピレンと同じポリプロピレンを0.3重量%含んでいる。ポリプロピレンの分散性(標準偏差、尖度)は良いものの、表面近傍のポリプロピレン濃度が不十分になり、耐酸化性が向上しなかったと考えられる。
【0126】
比較例4では、末端ビニル基が0.2個以上のポリエチレンを中間層に含んでいないため、耐酸化性、注液性、透気度/突刺強度バランスに優れているものの、シャットダウン温度が132℃を越えており、シャットダウン温度が高めであった。
【0127】
比較例5では、中間層にMwが1.0×10以上の超高分子量ポリエチレン(UHMwPE)およびPE(C)の含有量が少ないため、シャットダウン温度が十分に下がらなかった。
【0128】
比較例8では、PE(C)を表層に含んでいるため、耐酸化性が不十分であった。
【0129】
比較例7では、実施例1と同じ樹脂組成を用いて、Tダイからのせん断速度を低下させており、透過性が悪化するとともに電解液注液性の低下および耐酸化性の悪化が見られた。
【0130】
比較例8では、実施例1と同じ樹脂組成を用いて、冷却速度を低下させており、透過性が悪化するとともに電解液注液性の低下および耐酸化性の悪化が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0131】
以上より、本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、耐酸化性、電解液注液性、およびシャットダウン特性に優れ、さらに透過性および強度バランスに優れ、電池の長寿命化および安全性を高めることができる。このポリオレフィン多層微多孔膜は、キャパシター用途、コンデンサー用途、電池用途等の非水系電解液の蓄電デバイスとして好適な性能を有しており、安全性、及び、信頼性の向上に貢献することができる。中でも電池用セパレータ、より具体的には、リチウムイオン電池用セパレータとして好適に利用できる。その他の用途として、燃料電池の一構成部品、加湿膜、ろ過膜等の各種分離膜としても用いられるので、それらの分野において産業上の利用可能性がある。
図1
図2
図3