(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(a)テトラグリシジルアミンと、(b)第1のビスフェノール型エポキシ樹脂と、(c)ジシアンジアミドおよび(d)尿素基を2つ以上有する芳香族ウレアを含む樹脂組成物であって、テトラグリシジルアミンが、110g/eq〜140g/eqのEEWを有し、樹脂組成物中の全エポキシ樹脂100重量部当たりの量が30〜60重量部であり、第1のビスフェノール型エポキシ樹脂のEEWが500〜1500g/eqであり、第1のビスフェノール型エポキシ樹脂の量が全エポキシ樹脂100重量部当たり10〜25重量部であり、ジシアンジアミドの量が全エポキシ樹脂100重量部当たり3〜7重量部の範囲であり、芳香族ウレアの量が全エポキシ樹脂100重量部当たり0.5〜7重量部の範囲であり、樹脂組成物が、143℃で3分間硬化させた際に160℃以上のTgを有するとともに硬化度70%以上であり、177℃で1分間以上硬化させた際に160℃超のTgを維持する樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書で用いる「およそ」、「約」、「ほぼ」という用語は、規定の量に近い量であるが、その量でも目的の機能が発揮されるか、または目的の結果が得られる量を表す。例えば、「およそ」、「約」、「ほぼ」という用語は、規定の量の10%未満以内、5%未満以内、1%未満以内、0.1%未満以内および0.01%未満以内の量を指す場合がある。
【0013】
本明細書で用いる「室温」という用語は、当業者には公知であるその通常の意味を有し、約15℃〜43℃の範囲内の温度を含み得る。
【0014】
「全エポキシ樹脂」という用語は、樹脂組成物中に存在する全てのエポキシ樹脂を指す。
【0015】
一実施形態は、以下の構成要素(a)〜(d)を含むエポキシ樹脂組成物であって、エポキシ樹脂硬化物が、143℃で3分間加熱後のガラス転移温度(Tg)が160℃以上であり、また177℃で1分間以上硬化させた際に160℃超のTgを維持するエポキシ樹脂組成物に関する:
(a)テトラグリシジルアミン;
(b)第1のビスフェノール型エポキシ樹脂;
(c)ジシアンジアミド;
(d)
尿素基を2つ以上有する芳香族ウレア。
【0016】
本実施形態においては、テトラグリシジルアミンは110g/eq〜140g/eqまたは110g/eq〜130g/eqのEEWを有し、全エポキシ樹脂100重量部当たり30〜60重量部または40〜60重量部の量含まれる。EEWが100g/eq以上であれば、エポキシ樹脂組成物の保存性が高くなり、一方、EEWが140g/eq以下であれば、エポキシ樹脂硬化物の耐熱性が高くなる。また、含有量が30以上であれば、エポキシ樹脂硬化物の耐熱性が高くなり、一方、含有量が60以下であれば、エポキシ樹脂硬化物の耐衝撃性が高くなる。
【0017】
耐熱性が高いとは、エポキシ樹脂硬化物のTgが160℃以上であることを意味する。Tgが160℃以上であれば、例えば、高品質なコーティングが持続することが要求される自動車産業や航空宇宙産業等で使用される高温の塗装工程中においてFRP材料が変形しにくい。
【0018】
テトラグリシジルアミンとしては、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルジアミノジフェニルエーテル、テトラグリシジルジアミノジフェニルスルホン、テトラグリシジルジアミノジフェニルアミド、テトラグリシジルキシリレンジアミン、これらのハロゲン置換体、アルキノール置換体、水添品等が挙げられる。また、これらのエポキシ樹脂のうち1種以上のエポキシ樹脂を用いてもよい。
【0019】
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン樹脂の市販品としては、「スミエポキシ(登録商標)」ELM434(住友化学(株)製)、YH434L(新日鐵化学(株)製)、「jER(登録商標)」604(三菱化学(株)製)、「アラルダイト(登録商標)」MY9655、MY720、MY721(以上、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)等が挙げられる。
【0020】
テトラグリシジルジアミノジフェニルスルホンの市販品としては、TG3DAS(小西化学工業(株)製)が挙げられる。
【0021】
テトラグリシジルキシリレンジアミンおよびその水添品の市販品としては、TETRAD−X、TETRAD−C(以上、三菱ガス化学(株)製)等が挙げられる。
【0022】
一実施形態においては、第1のビスフェノール型エポキシ樹脂は、エポキシ化されたビスフェノール型のものであれば特に限定されない。
【0023】
第1のエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールR型エポキシ樹脂、これらのハロゲン置換体、アルキノール置換体、水添品等が挙げられる。また、これらのエポキシ樹脂のうち1種以上のエポキシ樹脂を用いてもよい。
【0024】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、「jER(登録商標)」825、828、834、1001、1002、1003、1003F、1004、1004AF、1005F、1006FS、1007、1009、1010(以上、三菱化学(株)製)、「エポン(登録商標)」825、826、827、828、830、1001F、1002F、1004F、1007F、1009F、2002、2003、2004、2005、2014、2024、2041、3002(以上、モメンティブ・スペシャルティー・ケミカルズ社製)等が挙げられる。臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、「jER(登録商標)」505、5050、5051、5054、5057(以上、三菱化学(株)製)等が挙げられる。水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、ST5080、ST4000D、ST4100D、ST5100(以上、新日鐵化学(株)製)等が挙げられる。
【0025】
ビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、「jER(登録商標)」806、807、4002P、4004P、4007P、4009P、4010P(以上、三菱化学(株)製)、「エポトート(登録商標)」YDF2001、YDF2004(以上、新日鐵化学(株)製)等が挙げられる。テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、YSLV−80XY(新日鐵化学(株)製)等がある。
ビスフェノールS型エポキシ樹脂の市販品としては、「エピクロン(登録商標)」EXA−154(DIC(株)製)等が挙げられる。
【0026】
いくつかの実施形態においては、第1のビスフェノール型エポキシ樹脂は、EEWが500g/eq〜1500g/eqであればよく、全エポキシ樹脂100重量部当たり10〜40重量部の量含まれてもよく、他の実施形態においては10〜25重量部の量含まれてもよい。EEWが500g/eq以上であれば、エポキシ樹脂硬化物の伸長性や耐衝撃性が高くなり得る。一方、EEWが1500g/eq以下であれば、エポキシ樹脂硬化物の耐熱性が高くなり得る。
【0027】
他の実施形態においては、EEWが500g/eq〜1500g/eqである第1のビスフェノール型エポキシ樹脂は、EEWが500g/eq〜1500g/eqであるビスフェノール型エポキシ樹脂単体であってもよいし、EEWがそれぞれ500より大きく、かつ平均EEWが500g/eq〜1500g/eqである複数のビスフェノール型エポキシ樹脂の組合せであってもよい。平均EEWの算出方法は以下のとおりである。例えば、Ex(g/eq)のエポキシ樹脂の重量部をWx、Ey(g/eq)のエポキシ樹脂の重量部をWy、Ez(g/eq)のエポキシ樹脂の重量部をWzとしてこれらを組み合わせ、下記式より平均EEWを算出できる。
平均EEW=(Wx+Wy+Wz)/(Wx/Ex+Wy/Ey+Wz/Ez)
【0028】
式中、Wは各エポキシ樹脂の重量パーセントと等しく、Eは各エポキシ樹脂のEEWを指す。
【0029】
また、EEWが500g/eq〜1500g/eqであり、全エポキシ樹脂100重量部当たり10〜40重量部または10〜25重量部の量含まれる第1のビスフェノールは、EEWが150〜200である第2のビスフェノール型エポキシ樹脂とともに用いてもよい。エポキシ組成物中に第2のビスフェノール型エポキシ樹脂が含まれていると、組成物が繊維に含浸しやすくなって高強度の繊維強化プラスチックが得られる。
【0030】
さらに、エポキシ樹脂組成物中に第2のビスフェノール型エポキシ樹脂が含まれていると、第1のビスフェノール型エポキシ樹脂がテトラグリシジルアミンおよび/または熱可塑性樹脂と相溶し、耐熱性の高い繊維FRP材料に加え耐熱性の高いエポキシ樹脂硬化物が得られる。また、第2のビスフェノール型エポキシ樹脂としては、EEWが150〜200である少なくとも1種のエポキシ樹脂を用いることができる。
【0031】
いくつかの実施形態においては、第1のビスフェノール型エポキシ樹脂はEEWが500g/eq〜1000g/eqまたは500g/eq〜750g/eqであればよく、全エポキシ樹脂100重量部当たり10〜40重量部の量含まれてもよい。このような第1のビスフェノール型エポキシ樹脂を用いると、第1のビスフェノール型エポキシ樹脂はテトラグリシジルアミンおよび/または熱可塑性樹脂と相溶し、耐熱性の高いエポキシ樹脂硬化物や耐熱性の高いFRP材料が得られる。
【0032】
他のいくつかの実施形態においては、EEWが500g/eq〜1000g/eqである第1のビスフェノール型エポキシ樹脂は、EEWが500g/eq〜1000g/eqであるビスフェノール型エポキシ樹脂単体であってもよいし、EEWがそれぞれ500以上であり、かつ平均EEWが500g/eq〜1000g/eqである複数のビスフェノール型エポキシ樹脂の組合せであってもよい。平均EEWの算出方法は上記と同様である。
【0033】
本明細書中の実施形態においては、テトラグリシジルアミン、第1のビスフェノール型エポキシ樹脂、第2のビスフェノール型エポキシ樹脂以外のいずれかのエポキシ樹脂を加えてもよい。
かかるエポキシ樹脂としては、ジグリシジルアミン、トリグリシジルアミン、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、イソシアネート変性エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、これらのハロゲン置換体、アルキノール置換体、水添品等が挙げられる。また、これらのエポキシ樹脂のうち1種以上のエポキシ樹脂を用いてもよい。
【0034】
ジグリシジルアミンの市販品としては、GAN、GOT(以上、日本化薬(株)製)等が挙げられる。
【0035】
トリグリシジルアミンの市販品としては、「スミエポキシ(登録商標)」ELM100(住友化学(株)製)、「アラルダイト(登録商標)」MY0500、MY0510、MY0600(以上、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)、「jER(登録商標)」630(三菱化学(株)製)等が挙げられる。
【0036】
フェノールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、「jER(登録商標)」152、154(以上、三菱化学(株)製)、「エピクロン(登録商標)」N−740、N−770、N−775(以上、DIC(株)製)、「アラルダイト(登録商標)」EPN1138(ハンツマン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)等が挙げられる。
【0037】
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、「エピクロン(登録商標)」N−660、N−665、N−670、N−673、N−695(以上、DIC(株)製)、EOCN−1020、EOCN−102S、EOCN−104S(以上、日本化薬(株)製)等が挙げられる。
【0038】
レゾルシノール型エポキシ樹脂の市販品としては、「デナコール(登録商標)」EX−201(ナガセケムテックス(株)製)がある。
【0039】
ナフタレン型エポキシ樹脂の市販品としては、HP−4032、HP4032D、HP−4700、HP−4710、HP−4770、EXA−4701、EXA−4750、EXA−7240(以上、DIC(株)製)等が挙げられる。
【0040】
ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の市販品としては、「エピクロン(登録商標)」HP7200、HP7200L、HP7200H、HP7200HH(以上、DIC(株)製)、「Tactix(登録商標)」558(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)、XD−1000−1L、XD−1000−2L(以上、日本化薬(株)製)等が挙げられる。
【0041】
ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂の市販品としては、「jER(登録商標)」YX4000H、YX4000、YL6616(以上、三菱化学(株)製)、NC−3000(日本化薬(株)製)等が挙げられる。
【0042】
イソシアネート変性エポキシ樹脂の市販品としては、オキサゾリドン環を有する、AER4152(旭化成エポキシ(株)製)およびACR1348((株)ADEKA製)等が挙げられる。
【0043】
脂肪族エポキシ樹脂の市販品としては、「デナコール(登録商標)」EX−111、121、141、145、146、147、171、192、201、211、212、252、313、314、321、411、421、512、521、611、612、614、614B、622、810、811、821、830、832、841、850、851、861、911、920、931、941(以上、ナガセケムテックス(株)製)等が挙げられる。
【0044】
本明細書中のいくつかの実施形態においては、ジシアンジアミドを硬化剤として使用する。ジシアンジアミドを硬化剤として使用すると、エポキシ樹脂組成物の保存性が高くなり、エポキシ樹脂硬化物の耐熱性が高くなる。
【0045】
ジシアンジアミドの使用量は、全エポキシ樹脂100重量部当たり3〜7重量部の範囲であればよい。ジシアンジアミドの使用量が3重量部以上であると、エポキシ樹脂硬化物の耐熱性が高くなり得る。一方、ジシアンジアミドの使用量が7重量部以下であると、エポキシ樹脂硬化物の伸長性が高くなり得る。
【0046】
ジシアンジアミドの市販品としては、DICY−7、DICY−15(以上、三菱化学(株)製)、「ダイハード(Dyhard)(登録商標)」100S(アルツケム・トロストベルク・ゲーエムベーハー社製)等が挙げられる。本明細書中の他の実施形態においては、ジシアンジアミド以外のいずれかの硬化剤を加えてもよい。
【0047】
硬化剤としては、ポリアミド、アミドアミン(アミノベンズアミド、アミノベンズアニリド、アミノベンゼンスルホンアミド等の芳香族アミドアミン等)、芳香族ジアミン(ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン[DDS]等)、アミノベンゾエート(トリメチレングリコールジ−p−アミノベンゾエート、ネオペンチルグリコールジ−p−アミノベンゾエート等)、脂肪族アミン(トリエチレンテトラミン、イソホロンジアミン等)、脂環式アミン(イソホロンジアミン等)、イミダゾール誘導体、テトラメチルグアニジン等のグアニジン、カルボン酸無水物(メチルヘキサヒドロフタル酸無水物等)、カルボン酸ヒドラジド(アジピン酸ヒドラジド等)、フェノールノボラック型樹脂およびクレゾールノボラック型樹脂、カルボン酸アミド、ポリフェノール化合物、ポリスルフィドおよびメルカプタン、ならびにルイス酸/塩基(三フッ化ホウ素エチルアミン、トリス−(ジエチルアミノメチル)フェノール等)等が挙げられる。また、これらの硬化剤のうち1種以上の硬化剤を用いてもよい。
【0048】
本明細書中のいくつかの実施形態においては、芳香族ウレアは、エポキシ樹脂と硬化剤の反応および/またはエポキシ樹脂の塊状重合のための促進剤として使用される。芳香族
ウレアを促進剤として使用すると、エポキシ樹脂組成物の保存性が高くなり、エポキシ樹脂硬化物の耐熱性が高くなる。
【0049】
芳香族ウレアの使用量は、全エポキシ樹脂100重量部当たり0.5〜7重量部の範囲であればよい。芳香族ウレアの使用量が0.5重量部以上であれば、エポキシ樹脂硬化物の耐熱性が高くなり得る。一方、芳香族ウレアの使用量が7重量部以下であれば、エポキシ樹脂組成物の保存性が高くなる。
【0050】
芳香族ウレアとしては、N,N−ジメチル−N’−(3,4−ジクロロフェニル)ウレア、トルエンビス(ジメチルウレア)、4,4’−メチレンビス(フェニルジメチルウレア)、3−フェニル−1,1−ジメチルウレア等が挙げられる。芳香族ウレアの市販品としては、DCMU99(保土谷化学工業(株)製)、「オミキュア(登録商標)」24,24M、52、94(以上、CVCサーモセット・スペシャルティーズ社製)等が挙げられる。これらのうち、速硬性の観点からは、尿素基を2つ以上有する芳香族ウレアを用いてもよい。
【0051】
本明細書中の他の実施形態においては、芳香族ウレア以外のいずれかの促進剤を加えてもよい。
【0052】
かかる促進剤としては、スルホン酸エステル化合物、三フッ化ホウ素ピペリジン、p−t−ブチルカテコール、スルホン酸エステル化合物(p−トルエンスルホン酸エチル、p−トルエンスルホン酸メチル等)、第三級アミンまたはその塩、イミダゾールまたはその塩、リン系硬化促進剤、金属カルボン酸塩、ルイス酸/ブレンステッド酸またはその塩等が挙げられる。
【0053】
イミダゾール化合物またはその誘導体の市販品としては、2MZ、2PZ、2E4MZ(以上、四国化成工業(株)製)等が挙げられる。ルイス酸触媒としては、三フッ化ホウ素ピペリジン錯体、三フッ化ホウ素モノエチルアミン錯体、三フッ化ホウ素トリエタノールアミン錯体、三塩化ホウ素オクチルアミン錯体等の、三ハロゲン化ホウ素と塩基との錯体、p−トルエンスルホン酸メチル、p−トルエンスルホン酸エチル、p−トルエンスルホン酸イソプロピル等が挙げられる。
【0054】
本明細書中の実施形態においては、いずれかの熱可塑性樹脂を加えてもよい。熱可塑性樹脂としては、エポキシ樹脂に可溶な熱可塑性樹脂、ならびにゴム粒子および熱可塑性樹脂粒子等の有機粒子等が挙げられる。エポキシ樹脂に可溶な熱可塑性樹脂としては、樹脂と強化繊維との接着性を改善する効果が期待される水素結合性の官能基を有する熱可塑性樹脂を用いてもよい。エポキシ樹脂に可溶であり水素結合性の官能基を有する熱可塑性樹脂としては、アルコール性水酸基を有する熱可塑性樹脂、アミド結合を有する熱可塑性樹脂、スルホニル基を有する熱可塑性樹脂等が挙げられる。
【0055】
ヒドロキシル基を有する熱可塑性樹脂としては、ポリビニルホルマールやポリビニルブチラール等のポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール、フェノキシ樹脂等が挙げられる。アミド結合を有する熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリイミド、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。スルホニル基を有する熱可塑性樹脂としては、ポリスルホン等が挙げられる。ポリアミド、ポリイミドおよびポリスルホンは、その主鎖にエーテル結合、カルボニル基等の官能基を有してもよい。ポリアミドは、アミド基の窒素原子に置換基を有してもよい。
【0056】
エポキシ樹脂に可溶であり水素結合性の官能基を有する熱可塑性樹脂の市販品としては、以下のものが挙げられる:ポリビニルアセタール樹脂として、「デンカブチラール(登録商標)」、デンカホルマール(登録商標)」(以上、電気化学工業(株)製)、「ビニレック(登録商標)」(JNC(株)製);フェノキシ樹脂として、「UCAR(登録商標)」PKHP(ユニオンカーバイド社製);ポリアミド樹脂として、「マクロメルト(登録商標)」(ヘンケル白水(株)製)、「アミラン(登録商標)」CM4000(東レ(株)製);ポリイミドとして、「ウルテム(登録商標)」(ゼネラルエレクトリック社製)、「マトリミド(登録商標)」5218(チバ社製);ポリスルホンとして、「スミカエクセル(登録商標)」(住友化学(株)製)、「UDEL(登録商標)」(ソルベイアドバンストポリマーズ株式会社製);ポリビニルピロリドンとして、「ルビスコール(登録商標)」(BASFジャパン社製)。
【0057】
アクリル樹脂はエポキシ樹脂との非相溶性が高いため、粘弾性の調整に好適に使用できる。アクリル樹脂の市販品としては、「ダイヤナール(登録商標)」BRシリーズ(三菱レイヨン(株)製)、「マツモトマイクロスフェアー(登録商標)」M、M100、M500(以上、松本油脂製薬(株)製)、「ナノストレングス(登録商標)」E40F、M22N、M52N(以上、アルケマ社製)等が挙げられる。
【0058】
また、ゴム粒子を加えてもよい。ゴム粒子としては、取扱い性の観点から、架橋ゴム粒子、および架橋ゴム粒子の表面に異種ポリマーをグラフト重合したコアシェルゴム粒子を用いてもよい。
【0059】
架橋ゴム粒子の市販品としては、カルボキシル変性のブタジエン−アクリロニトリル共重合体の架橋物からなるFX501P(日本合成ゴム(株)製)、アクリルゴム微粒子からなる、CX−MNシリーズ((株)日本触媒製)およびYR−500シリーズ(新日鐵化学(株)製)等が挙げられる。
【0060】
コアシェルゴム粒子の市販品としては、ブタジエン−メタクリル酸アルキル−スチレン共重合体からなる「パラロイド(登録商標)」EXL−2655((株)クレハ製)、アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体からなる「スタフィロイド(登録商標)」AC−3355、TR−2122(以上、武田薬品工業(株)製)、アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル共重合体からなる「PARALOID(登録商標)」EXL−2611、EXL−3387(以上、ローム・アンド・ハース社製)、「カネエース(登録商標)」MXシリーズ((株)カネカ製)等が挙げられる。
【0061】
熱可塑性樹脂粒子としては、ポリアミド粒子やポリイミド粒子を用いてもよい。ポリアミド粒子の市販品としては、SP−500(東レ(株)製)、「オルガゾール(登録商標)」(アルケマ社製)等が挙げられる。
【0062】
本明細書中の実施形態においては、いずれかの無機粒子を加えてもよい。無機粒子としては、金属酸化物粒子、金属粒子、鉱物粒子等が挙げられる。また、これらの無機粒子のうち1種以上の無機粒子を使用できる。無機粒子を用いることにより、エポキシ樹脂硬化物のいくつかの機能を改善したり、エポキシ樹脂硬化物にいくつかの機能を付与したりすることができる。かかる機能としては、表面硬さ、アンチブロッキング性、耐熱性、バリア性、導電性、帯電防止性、電磁波吸収性、紫外線遮蔽性、靭性、耐衝撃性、低線熱膨張係数等が挙げられる。
【0063】
金属酸化物としては、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化セリウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化インジウムスズ(ITO)、アンチモンドープ酸化スズ、フッ素ドープ酸化スズ等が挙げられる。
【0064】
金属としては、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄、亜鉛、ステンレス等が挙げられる。鉱物としては、モンモリロナイト、タルク、マイカ、ベーマイト、カオリン、スメクタイト、ゾノトライト、バーミキュライト、セリサイト等が挙げられる。
【0065】
他の無機材料としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスバルーン等が挙げられる。
【0066】
例えば1nm〜10μmの範囲等、いずれのサイズの無機粒子を用いてもよく、例えば球状、針状、平板状、バルーン状、中空状等、いずれの形状の無機粒子を用いてもよい。無機粒子は、そのまま粉末として用いてもよいし、ゾルやコロイド等の溶媒分散液として用いてもよい。
【0067】
また、無機粒子の表面をカップリング剤で処理して分散性やエポキシ樹脂との界面親和性を高めてもよい。
【0068】
本明細書中の実施形態においては、エポキシ樹脂組成物は、上記材料以外のいずれかの他の材料を含有してもよい。他の材料としては、離型剤、表面処理剤、難燃剤、抗菌剤、レベリング剤、消泡剤、チキソトロープ剤、熱安定剤、光安定剤、UV吸収剤、顔料、カップリング剤、金属アルコキシド等が挙げられる。
【0069】
本実施形態においては、エポキシ樹脂硬化物は、143℃で3分間加熱後のTgが160℃以上である。またこのTgは、硬化温度が上がるにつれてTgが下がってしまう一部の比較例とは異なり、177℃で1分間以上硬化させた際にも維持されるか、またはさらに高くなる。さらに、エポキシ樹脂組成物の硬化度は70%以上であればよく、143℃で3分間加熱したエポキシ樹脂硬化物のTgが160℃以上であれば、例えば、高品質なコーティングが持続することが要求される自動車産業や航空宇宙産業等で使用される高温の塗装工程中においてFRP材料が変形しにくい。
【0070】
本明細書のエポキシ樹脂硬化物のTgは、以下の方法で測定する。平板状のエポキシ樹脂硬化物から、幅10mm、長さ60mmの試験片を切り出す。次に、動的粘弾性測定装置(ARES、ティー・エイ・インスツルメント社製)を用い、1.0Hzのねじりモードにて、SACMA SRM 18R−94に準拠して試験片を昇温速度5℃/分で50℃〜250℃の温度に加熱することによりTgを測定する。ガラス転移温度は、温度−貯蔵弾性率曲線におけるガラス領域の接線とガラス領域からゴム領域までの転移領域の接線との交点から求め、その交点の温度をガラス転移温度(G’Tgともいう)とした。
【0071】
エポキシ樹脂硬化物の各実施形態においては、粘性係数(G”)のピークが1つまたは複数あってもよい。各ピークの高さは、ピーク高さ(単位:MPa)から当該ピークの前にある谷を引くことによって算出する。これらのピークのいずれか1つの高さが15MPa未満の場合には、それに相当するG’曲線上の転移をTgの算出に用いることはない。
【0072】
143℃で3分間加熱したエポキシ樹脂硬化物は、以下の方法で成形する。真空脱泡および高せん断混合の後、2mm厚のテフロン(登録商標)製スペーサーにより厚さ2mmになるように設定した金型にエポキシ樹脂組成物を注入する。その後、50℃/分の速度で室温から143℃まで昇温し、143℃で3分間保持して2mm厚の板状エポキシ樹脂硬化物を得る。
【0073】
177℃で1分間加熱したエポキシ樹脂硬化物は、上記と同様の方法で成形する。
【0074】
エポキシ樹脂組成物の各実施形態においては、エポキシ樹脂硬化物の硬化度は次の方法で測定する。示差走査熱量計(DSC)(Q2000:ティー・エイ・インスツルメント社製)を用いて、昇温速度10℃/分にて室温から250℃に加熱することにより未硬化のエポキシ樹脂組成物の発熱量(H
0)を測定する。そのエポキシ樹脂硬化物の発熱量(H
1)を、エポキシ樹脂硬化物と同様の方法で測定する。その後、下記式によりエポキシ樹脂硬化物の硬化度を算出する。
硬化度(%)=[(H
0−H
1)×100/H
0]
【0075】
図2に示すような、55℃〜140℃の範囲内におけるエポキシ樹脂硬化物の最大G”値と最小G”値との差分値は、15MPa以下であればよい。G”値は、エポキシ樹脂硬化物のTg測定方法と同じ方法で測定する。差分値が15MPa以下であれば、エポキシ樹脂組成物からなるFRP材料は、エポキシ樹脂硬化物のTgに近いTgを有することになり、耐熱性が高くなる。
【0076】
FRP材料のTgは、厚さほぼ0.6mmのFRP材料を用いて、エポキシ樹脂硬化物のTg測定方法と同じ方法で測定する。
【0077】
エポキシ樹脂組成物をプリプレグのマトリックス樹脂として使用する場合、粘着性やドレープ性等の加工性の観点から、80℃における粘度は0.5〜200Pa・sであればよく、他の実施形態においては5〜50Pa・sであればよい。
【0078】
エポキシ樹脂組成物をプリプレグのマトリックス樹脂として使用する場合、エポキシ樹脂組成物の最低粘度は、FRP材料のクラスAの表面の観点から50mPa・s以下であればよい。また、エポキシ樹脂組成物の最低粘度に到達するまでの時間は、FRP材料のクラスAの表面の観点から36分以上であるべきである。
【0079】
「粘度」という用語は、動的粘弾性測定装置(ARES、ティー・エイ・インスツルメント社製)および直径40mmの円形パラレルプレートを用い、昇温速度2℃/分で単純昇温しながら周波数0.5Hz、ギャップ長1mmにて測定した複素粘弾性率η
*を指す。
【0080】
エポキシ樹脂組成物をプリプレグのマトリックス樹脂として使用する場合、エポキシ樹脂組成物のゲル化点に到達するまでの時間(ゲル化時間)は、FRP材料のクラスAの表面の観点から、4分以下であればよい。ゲル化時間は、JIS K−7071に準拠した方法で測定し、温度は50℃/分の速度で単純昇温する。
【0081】
最低粘度が50mPa・s以下であり、かつ最低粘度に到達するまでの時間が36分以上であれば、エポキシ樹脂組成物は成形型の表面を完全に浸潤し得る。さらに、50℃/分以上の速度で加熱した際のゲル化時間が4分以下であれば、エポキシ樹脂組成物がFRP材料から流出し過ぎてFRP材料の表面に樹脂が不足した領域ができるのを防げる。これらの結果、エポキシ樹脂組成物からクラスAの表面を有するFRP硬化材料が得られる。
【0082】
エポキシ樹脂硬化物の各実施形態においては、得られるエポキシ樹脂硬化物の弾性率は2.5〜5.0GPaとなり得る。弾性率が2.5以上であれば、FRP材料の強度が高くなり得る。一方、弾性率が5.0以下であれば、FRP材料の耐衝撃性が高くなり得る。
【0083】
エポキシ樹脂硬化物の各実施形態においては、樹脂靭性(K
Ic)が0.6MPa・m
0.5以上となり得る。他の実施形態においては、0.8MPa・m
0.5以上となり得る。樹脂靭性が0.6MPa・m
0.5以上であれば、FRP材料の耐衝撃性が高くなり得る。
【0084】
本明細書中の各実施形態におけるエポキシ樹脂組成物の調整には、ニーダー、プラネタリーミキサー、三本ロールミル、二軸押出機等が好ましく用いられる。エポキシ樹脂の投入後、エポキシ樹脂が均一に溶解するように攪拌しながら、混合物を130〜180℃より選択した温度に加熱する。この時、硬化剤や硬化促進剤以外の他の成分(熱可塑性樹脂、無機粒子等)をエポキシ樹脂に加えて混練してもよい。この後、混合物を攪拌しながら、いくつかの実施形態においては100℃以下、他の実施形態においては80℃以下、さらに他の実施形態においては60℃以下の温度まで冷却する。次に、硬化剤と硬化促進剤を加えて混練し、各成分を分散させる。保存性に優れたエポキシ樹脂組成物が得られるため、この方法を用いてもよい。
【0085】
次に、FRP材料について説明する。各実施形態におけるエポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させた後に硬化させることにより、硬化物の形態となった各実施形態におけるエポキシ樹脂組成物をマトリックス樹脂として含有するFRP材料が得られる。
【0086】
用いる強化繊維の種類に特に限定や制限はなく、ガラス繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維等の様々な繊維が用いられる。これらの強化繊維のうち1種以上の強化繊維を混合して用いてもよい。炭素繊維を用いると、特に軽量で剛直なFRP材料を得ることができる。炭素繊維の中でも、引張弾性率が230〜800GPaのものを用いてもよい。230〜800GPaの高弾性率の炭素繊維をエポキシ樹脂組成物と組み合わせると、FRP材料の剛性、強度および耐衝撃性のバランスの観点から好ましい。
【0087】
強化繊維の形態に特に限定や制限はなく、例えば、長繊維(一方向に引き揃えたもの)、トウ、織物、マット、編物、組み紐、短繊維(10mm未満の長さに切られたもの)等の種々の形態の繊維を用いてもよい。ここで、長繊維とは、10mm以上有効に連続した単繊維または繊維束を意味する。一方、短繊維は10mm未満の長さに切られた繊維束である。高い比強度や比弾性率が要求される用途には、強化繊維束が同一方向に並んだ繊維形態が好ましい。
【0088】
FRP材料は、プリプレグ積層成形法、レジントランスファーモールディング法、レジンフィルムインフュージョン法、ハンドレイアップ法、シートモールディングコンパウンド法、フィラメントワインディング法、プルトルージョン法等の方法により製造することができるが、この点において特に限定や制限はない。
【0089】
レジントランスファーモールディング法とは、液状の熱硬化性樹脂組成物を強化繊維基材に直接含浸させて硬化させる方法である。この方法は、プリプレグ等の中間生産物を伴わないため成形コストを削減できる可能性が高く、宇宙船、航空機、鉄道車両、自動車、船舶等の構造材料の製造に好ましく用いられる。
【0090】
プリプレグ積層成形法とは、強化繊維基材に熱硬化性樹脂組成物を含浸させてなる1種以上のプリプレグを成形かつ/または積層した後、この成形かつ/または積層したプリプレグを加熱加圧することによって樹脂を硬化させてFRP材料を得る方法である。
【0091】
フィラメントワインディング法とは、一本から数十本の強化繊維ロービングを一方向に引き揃え、テンションを掛けて所定の角度で回転金属芯(マンドレル)に捲回しながら熱硬化性樹脂組成物を含浸させる方法である。ロービングの捲回体が所定の厚さに達した後、硬化させ、その後金属芯を取り外す。
【0092】
プルトルージョン法とは、強化繊維を引張機で連続的に引っ張りながら、液状の熱硬化性樹脂組成物を充填した含浸槽に連続的に通して熱硬化性樹脂組成物を含浸させた後、スクイーズダイおよび加熱ダイを通して成形、硬化させる方法である。この方法は、FRP材料が連続的に成形できるという利点があるため、釣竿、ロッド、パイプ、シート、アンテナ、建築物等用のFRP材料の製造に用いられる。
【0093】
これらの方法のうち、プリプレグ積層成形法を用いると得られるFRP材料に優れた剛性および強度を付与することができる。
【0094】
プリプレグは、各実施形態におけるエポキシ樹脂組成物および強化繊維を含有してもよい。かかるプリプレグは、本明細書中に開示されているエポキシ樹脂組成物を強化繊維基材に含浸させることによって得ることができる。含浸させる方法としては、ウェット法、ホットメルト法(ドライ法)等が挙げられる。
【0095】
ウェット法とは、まずメチルエチルケトンやメタノール等の溶媒にエポキシ樹脂組成物を溶解させたエポキシ樹脂組成物溶液に強化繊維を浸漬し、この強化繊維を引き上げた後、オーブン等により溶媒を蒸発させて除去し、強化繊維にエポキシ樹脂組成物を含浸させる方法である。ホットメルト法は、加熱によってあらかじめ液状にしたエポキシ樹脂組成物を強化繊維に直接含浸させて行ってもよいし、樹脂フィルムとして使用するためにまずエポキシ樹脂組成物を一枚または複数の離型紙等にコーティングし、平板状にした強化繊維の片側または両側にこのフィルムを重ねた後、加熱加圧して強化繊維に樹脂を含浸させて行ってもよい。ホットメルト法では、残留溶媒が実質上皆無であるプリプレグが得られる。
【0096】
プリプレグの単位面積あたりの強化繊維量は50〜200g/m
2であればよい。強化繊維量が50g/m
2以上であれば、FRP材料の成形の際に所定の厚みを確保するために必要なプリプレグの積層枚数が少なくてすみ、積層作業を簡素化できる。一方、強化繊維量が200g/m
2以下であれば、プリプレグのドレープ性が良好となり得る。プリプレグの強化繊維質量分率は、いくつかの実施形態においては60〜90質量%、他の実施形態においては65〜85質量%、さらに他の実施形態においては70〜80質量%であればよい。強化繊維質量分率が60質量%以上であれば、繊維含有量が十分となり、比強度と比弾性率に優れるというFRP材料の利点が得られるだけでなく、FRP材料の硬化時の発熱量が多くなり過ぎることがない。一方、強化繊維質量分率が90質量%以下であれば、樹脂の含浸が十分となり、FRP材料に大量のボイドが発生する可能性が低くなる。
【0097】
プリプレグ積層成形法において加熱加圧するためには、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法等を適宜使用することができる。
【0098】
オートクレーブ成形法とは、所定の形状のツール板にプリプレグを積層してバッギングフィルムで覆った後、積層物内を脱気しながら加熱加圧することによって硬化させる方法である。この方法によると、繊維配向を精密に制御することが可能となるだけでなく、ボイド率が最小値であるため、機械的特性に優れた高品質の成形材料が得られる。成形工程時にかける圧力は0.3〜1.0MPaであればよく、成形温度は90〜200℃の範囲であればよい。
【0099】
ラッピングテープ法とは、マンドレル等の芯金にプリプレグを捲回して管状FRP材料を成形する方法である。この方法を用いると、ゴルフシャフト、釣竿およびその他棒状の製品を製造できる。より具体的には、マンドレルにプリプレグを捲回し、このプリプレグの上から、プリプレグを固定するために張力をかけながら熱可塑性フィルムからなるラッピングテープを捲回し、加圧する方法である。オーブン内で加熱することによって樹脂を硬化させた後、芯金を取り外して管状体を得る。ラッピングテープを巻くために用いる張力は20〜78Nであればよい。成形温度は80〜200℃の範囲であればよい。
【0100】
内圧成形法とは、熱可塑性樹脂製チューブ等の内圧付与体にプリプレグを捲回したプリフォームを金型内にセットした後、この内圧付与体中に高圧の気体を導入して加圧すると同時に金型を加熱してプリプレグを成形する方法である。この方法は、ゴルフシャフト、バット、テニスやバドミントンのラケット等の、複雑な形状の物体を成形する際に用いることができる。成形工程の際に加える圧力は0.1〜2.0MPaであればよい。成形温度は室温から200℃、または80〜180℃の範囲であればよい。
【0101】
プリプレグから得られるFRP材料は、上述のとおり、クラスAの表面を有し得る。クラスAの表面とは、美観上の欠点や欠陥のない、仕上がり品質特性が極めて高い表面を意味する。
【0102】
エポキシ樹脂組成物と強化繊維とから得られるエポキシ樹脂硬化物を含有するFRP材料は、スポーツ用途、一般産業用途および航空宇宙用途に好ましく用いられる。かかる材料が好ましく用いられる具体的なスポーツ用途としては、ゴルフシャフト、釣竿、テニスやバドミントンのラケット、ホッケー用スティック、スキーのストック等が挙げられる。かかる材料が好ましく用いられる具体的な一般産業用途としては、自動車、自転車、船舶および鉄道車両等の乗り物用構造材料、ドライブシャフト、板バネ、風車ブレード、圧力容器、フライホイール、製紙用ローラー、屋根材、ケーブル、補修/補強材料等が挙げられる。
【0103】
プリプレグを管状に硬化させてなる管状FRP材料は、ゴルフシャフト、釣竿等に好ましく用いられる。
【実施例】
【0104】
以下、実施例を示して本発明の実施形態をより詳細に説明する。各種特性の測定は以下の方法により行った。特に断りのない限り、これら各種特性は、温度23℃、相対湿度50%の環境条件下で測定した。実施例および比較例で用いた成分は以下のとおりである。
<エポキシ樹脂>
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、アラルダイト(登録商標)MY9655、EEW:126g/eq(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂、「エポン(登録商標)」1001F、EEW:480g/eq(モメンティブ・スペシャルティー・ケミカルズ社製)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂、「エポン(登録商標)」3002、EEW:555g/eq(モメンティブ・スペシャルティー・ケミカルズ社製)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂、「エポン(登録商標)」2014、EEW:800g/eq(モメンティブ・スペシャルティー・ケミカルズ社製)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂、「エポン(登録商標)」2024、EEW:900g/eq(モメンティブ・スペシャルティー・ケミカルズ社製)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂、「エポン(登録商標)」2005、EEW:1300g/eq(モメンティブ・スペシャルティー・ケミカルズ社製)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂、「エポン(登録商標)」828、EEW:187g/eq(モメンティブ・スペシャルティー・ケミカルズ社製)
フェノールノボラック型エポキシ樹脂、「アラルダイトEPN(登録商標)」1138、EEW:178g/eq(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)
<硬化剤>
ジシアンジアミド、「ダイハード(登録商標)」100S(アルツケム・トロストベルク・ゲーエムベーハー社製)
4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(DDS)、(和歌山精化工業(株)製)
<促進剤>
2,4’−トルエンビスジメチルウレア、「オミキュア(登録商標)」U−24M(CVCサーモセット・スペシャルティーズ社製)
<熱可塑性樹脂>
ポリビニルホルマール、「ビニレック(登録商標)」PVF−K(JNC(株)製)
<炭素繊維>
炭素繊維、「トレカ(登録商標)」T700G−24K−31E(東レ(株)製)、繊維フィラメント数:24,000、引張強度:4.9GPa、引張弾性率:240GPa、引張伸度:2.0%
【0105】
各実施例においては、エポキシ樹脂組成物、プリプレグおよびFRP材料を以下の測定方法で測定した。
(1)エポキシ樹脂の粘度
【0106】
硬化剤および硬化促進剤以外の全成分を、ミキサー内で所定量溶解させて混合物とした後、所定量の促進剤とともに所定量の硬化剤を加えてエポキシ樹脂組成物を得た。
【0107】
このエポキシ樹脂組成物を、動的粘弾性測定装置(ARES、ティー・エイ・インスツルメント社製)を用い、パラレルプレートを用いて、歪み100%、周波数0.5Hz、プレート間隔1mmにて50℃から170℃まで2℃/分の速度で単純昇温しながら測定した。
(2)エポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度
【0108】
エポキシ樹脂硬化物を以下の方法で成形する。真空脱泡および高せん断混合の後、2mm厚の「テフロン(登録商標)」製スペーサーにより厚さ2mmになるように設定した金型に(1)で調製したエポキシ樹脂組成物を注入する。その後、以下の条件下でエポキシ樹脂組成物を硬化させて2mm厚の板状樹脂硬化物を得た。
条件1:エポキシ樹脂組成物を50℃/分の速度で室温から143℃まで加熱した後、143℃で3分間保持した。
条件2:エポキシ樹脂組成物を50℃/分の速度で室温から163℃まで加熱した後、163℃で2分間保持した。
条件3:エポキシ樹脂組成物を50℃/分の速度で室温から177℃まで加熱した後、177℃で2分間保持した。
【0109】
次に、動的粘弾性測定装置(ARES、ティー・エイ・インスツルメント社製)を用い、1.0Hzのねじりモードにて、SACMA SRM 18R−94に準拠して試験片を昇温速度5℃/分で50℃〜250℃の温度に加熱することによりTgを測定する。
【0110】
Tgは、温度−貯蔵弾性率曲線におけるガラス領域の接線とガラス領域からゴム領域までの転移領域の接線との交点から求め、その交点の温度をガラス転移温度(G’Tgともいう)とした。
【0111】
ただし、樹脂硬化物の粘性係数(G”)のピークが1つまたは複数ある場合は、Tgは次の方法により測定した。各ピークの高さを、ピーク高さ(単位:MPa)から当該ピークの前にある谷を引くことによって算出する。これらのピークのいずれか1つの高さが15MPaより大きい場合には、それに相当するG’曲線上の転移をを用いてTgを算出する。
(3)エポキシ樹脂硬化物の硬化度
【0112】
示差走査熱量計(DSC)(Q2000:ティー・エイ・インスツルメント社製)を用いて、昇温速度10℃/分にて室温から250℃に加熱することにより未硬化のエポキシ樹脂組成物の発熱量(H
0)を測定した。そのエポキシ樹脂硬化物の発熱量(H
1)を、エポキシ樹脂硬化物と同様の方法で測定した。その後、下記式によりエポキシ樹脂硬化物の硬化度を算出した。
硬化度(%)=[(H
0−H
1)×100/H
0]
(4)エポキシ樹脂組成物のゲル化特性
【0113】
ASTM D3532/R2004またはJIS K−7071の「炭素繊維及びエポキシ樹脂からなるプリプレグの試験方法」により、(1)で調製したエポキシ樹脂組成物のゲル化時間およびゲル化温度を測定した。ゲル化時間およびゲル化温度の測定に使用した硬化サイクルは(2)に記載のものと同様である。
(5)エポキシ樹脂硬化物の靭性
【0114】
(2)で得たエポキシ樹脂硬化物から、12.7mm×150mmの試験片を切り出した。その後、この試験片を加工して、ASTM D5045(1999)に準拠してインストロン万能試験機(インストロン社製)を用いて試験した。試験片への初期亀裂の導入は、液体窒素温度まで冷やした剃刀の刃を試験片にあてハンマーで剃刀の背を叩いて衝撃を加えることで行った。ここで、樹脂靭性とは変形モードI(開口型)の臨界応力を指す。5つの試験片について試験を行い、測定値(n=5)の平均を樹脂靭性値とした。
(6)FRP材料のガラス転移温度
【0115】
(1)で調製したエポキシ樹脂組成物をナイフコーターで剥離紙に塗布して、52.0g/m
2の樹脂フィルムを2枚作製した。次に、作製したこの2枚の樹脂フィルムを、密度1.8g/cm
2の一方向に配列されたシート状の炭素繊維(T700G−24K−31E)の両面に積層し、ローラー温度100℃、ローラー圧力0.07MPaでエポキシ樹脂組成物を含浸させて、炭素繊維の単位面積重量が190g/m
2でエポキシ樹脂組成物の重量分率が35.4%の一方向プリプレグを得た。
【0116】
この一方向プリプレグを、繊維配向を均一にして3枚積層した。積層したプリプレグを、隙間を作らずにナイロンフィルムで被覆し、プレス内で1MPaの圧力をかけながら50℃/分の速度で室温から143℃まで加熱した後、143℃で3分間保持して0.6mm厚のFRPプレートを得た。
【0117】
FPRプレートのTgの測定方法は、0.6mm厚のFRPプレートを使用したこと以外は(2)と同様であった。
(7)FRP材料の表面品質
【0118】
(6)で調製したFPR材料の表面品質は、次の方法で評価した。強化繊維の配列の乱れ、エポキシ樹脂硬化物の欠陥箇所、およびFRP材料表面のボイドを目視した。これらの欠陥がない表面を高品質の表面とする。一方、これらの欠陥が1つでもある表面を欠陥表面とする。
実施例1〜
12、参考例1〜3および比較例1〜
9
【0119】
各実施例および比較例における各使用量を表1〜3に示す。表1〜3に示すエポキシ樹脂組成物は、(1)に記載の方法に従って得た。
【0120】
得られたエポキシ樹脂組成物を(2)に記載の方法で硬化した。各試験結果を表1〜3に示す。
【0121】
FRP材料を(6)に記載の方法で成形した。各試験結果を表1および3に示す。
実施例1〜
12では良好な結果が得られた。
【0122】
実施例1のエポキシ樹脂硬化物は、条件1で硬化させた際のTgが実施例
10よりも高い。一方、実施例1のFPC材料は、条件1で硬化させた際のTgが実施例
10よりも低い。これは、実施例1では第1のビスフェノール型エポキシ樹脂のEEWが1000超であるが、実施例
10ではEEWが500〜1000の範囲であることが理由である。
【0123】
実施例1では第1のビスフェノール型エポキシ樹脂の平均EEWが500〜1500の範囲であるため、実施例1のエポキシ樹脂硬化物は
参考例2よりも靭性が高い。
【0124】
比較例1では、組成物中にテトラグリシジルアミンが含まれていないため、条件1〜3で得たエポキシ樹脂硬化物のTgが160℃未満となっている。また、
図1に示すように、最低粘度は実施例1よりも高く50mPa・sを超えている。さらに、
図1に示すように、最低粘度に到達するまでの時間は実施例1よりも短く36分未満となっている。このような粘度特性では、FRP材料の表面は欠陥を有することになる。
【0125】
比較例2では、組成物中にジシアンジアミドが含まれていないため、条件1〜3で得たエポキシ樹脂硬化物のTgが160℃未満となっている。
【0126】
比較例3では、エポキシ樹脂組成物中に芳香族ウレアが含まれていないため、条件1〜3でエポキシ樹脂組成物を硬化させることができない。
【0127】
比較例4では、エポキシ樹脂組成物が第1のビスフェノール型エポキシ樹脂を含んでいないため、条件1〜3で得たエポキシ樹脂硬化物
の硬化度は70%未満となっている。さらに、最低粘度に到達するまでの時間が36分未満となっているため、FRP硬化材料の表面には欠陥が含まれている。
【0128】
比較例5では、硬化条件1〜3で得たエポキシ樹脂硬化物のTgが160℃未満となっている。
【0129】
比較例6では、硬化条件1〜3で得たエポキシ樹脂硬化物のTgが160℃未満となっている。また、
図1に示すように、最低粘度が実施例1よりも高く50mPa・sを超えているため、FRP材料の表面には欠陥が含まれている。
【0130】
【表1】
【0131】
【表2】
【0132】
【表3】