(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エンジン本体と、エンジン本体に導入される吸気が流通する吸気通路と、エンジン本体から排出される排気が流通する排気通路と、小型ターボ過給機および大型ターボ過給機と、各過給機の過給動作を制御可能な制御手段とを備えたターボ過給機エンジンであって、
前記小型ターボ過給機は、前記排気通路に設けられる小型タービンと、前記吸気通路に設けられる小型コンプレッサとを有し、
前記大型ターボ過給機は、前記排気通路のうち前記小型タービンよりも下流側に設けられて当該小型タービンよりも大型の大型タービンと、前記吸気通路のうち前記小型コンプレッサよりも上流側に設けられて当該小型コンプレッサよりも大型の大型コンプレッサとを有し、
前記排気通路は、前記小型タービンよりも上流側の部分と下流側の部分とを連通して当該小型タービンをバイパスする排気バイパス通路と、当該排気バイパス通路を開閉する排気バイパス弁とを有し、
前記吸気通路は、前記小型コンプレッサよりも上流側の部分と下流側の部分とを連通して当該小型コンプレッサをバイパスする第1バイパス通路と、当該第1バイパス通路を開閉する第1バイパス弁と、前記大型コンプレッサよりも上流側の部分と下流側の部分とを連通して当該大型コンプレッサをバイパスする第2バイパス通路と、当該第2バイパス通路を開閉する第2バイパス弁と、前記第2バイパス通路の上流端が接続される部分と前記大型コンプレッサとの間の通路の流路面積を変更する絞り弁とを有し、
前記制御手段は、
エンジン回転数が低いほど高くなるように予め設定された基準負荷よりもエンジン負荷が低いことでエンジン本体から排出される排気の流量が所定量よりも低くなる低流量領域でエンジンが運転されているとき、前記排気バイパス弁、前記第1バイパス弁および前記第2バイパス弁を閉じ、かつ、前記絞り弁を開く一方、
エンジン負荷が前記基準負荷よりも高いことで前記排気の流量が前記所定量以上となる高流量領域でエンジンが運転されているとき、前記排気バイパス弁および前記第1バイパス弁を開き、前記第2バイパス弁を閉じ、かつ、前記絞り弁を開くとともに、
前記低流量領域から前記高流量領域への移行時の少なくとも初期は、前記排気バイパス弁および前記第1バイパス弁をそれぞれ閉じるとともに前記第2バイパス弁を開き、かつ、前記絞り弁の開度を前記低流量領域および前記高流量領域のときよりも小さい開度にすることを特徴とするターボ過給機付エンジン。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のターボ過給機付エンジンでは、低流量領域から高流量領域への移行時に大型コンプレッサの回転上昇が遅れ、加速性能が十分に確保できないおそれがある。具体的には、このターボ過給機付エンジンでは、加速時に運転領域が低流量領域から高流量領域に移行するのに伴って大型ターボ過給機のみによる過給に切り替えられるが、大型タービンはイナーシャが大きいため加速に伴って排気の流量が増大してもその回転数はすぐには上昇しない。そのため、大型コンプレッサの回転数および過給圧が早期に上昇せず十分な加速性能が得られないおそれがある。
【0006】
本発明は、前記のような事情に鑑みてなされたものであり、小型タービンと大型タービンとを用いて効率よく吸気を過給しながら、高い加速性能を得ることのできるターボ過給機付エンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するためのものとして、本発明は、エンジン本体と、エンジン本体に導入される吸気が流通する吸気通路と、エンジン本体から排出される排気が流通する排気通路と、小型ターボ過給機および大型ターボ過給機と、各過給機の過給動作を制御可能な制御手段とを備えたターボ過給機エンジンであって、前記小型ターボ過給機は、前記排気通路に設けられる小型タービンと、前記吸気通路に設けられる小型コンプレッサとを有し、前記大型ターボ過給機は、前記排気通路のうち前記小型タービンよりも下流側に設けられて当該小型タービンよりも大型の大型タービンと、前記吸気通路のうち前記小型コンプレッサよりも上流側に設けられて当該小型コンプレッサよりも大型の大型コンプレッサとを有し、前記排気通路は、前記小型タービンよりも上流側の部分と下流側の部分とを連通して当該小型タービンをバイパスする排気バイパス通路と、当該排気バイパス通路を開閉する排気バイパス弁とを有し、前記吸気通路は、前記小型コンプレッサよりも上流側の部分と下流側の部分とを連通して当該小型コンプレッサをバイパスする第1バイパス通路と、当該第1バイパス通路を開閉する第1バイパス弁と、前記大型コンプレッサよりも上流側の部分と下流側の部分とを連通して当該大型コンプレッサをバイパスする第2バイパス通路と、当該第2バイパス通路を開閉する第2バイパス弁と、前記第2バイパス通路の上流端が接続される部分と前記大型コンプレッサとの間の通路の流路面積を変更する絞り弁とを有し、前記制御手段は、
エンジン回転数が低いほど高くなるように予め設定された基準負荷よりもエンジン負荷が低いことでエンジン本体から排出される排気の流量が所定量よりも低
くなる低流量領域で
エンジンが運転されているとき、前記排気バイパス弁、前記第1バイパス弁および前記第2バイパス弁を閉じ、かつ、前記絞り弁を開く一方、
エンジン負荷が前記基準負荷よりも高いことで前記排気の流量が前記所定量以上
となる高流量領域で
エンジンが運転されているとき、前記排気バイパス弁および前記第1バイパス弁を開き、前記第2バイパス弁を閉じ、かつ、前記絞り弁を開くとともに、前記低流量領域から前記高流量領域への移行時の少なくとも初期は、前記排気バイパス弁および前記第1バイパス弁をそれぞれ閉じるとともに前記第2バイパス弁を開き、かつ、前記絞り弁の開度を前記低流量および高流量領域のときよりも小さい開度にすることを特徴とするものである(請求項1)。
【0008】
本発明によれば、低流量領域において両方のターボ過給機によって少ない量の排気で効果的に吸気を過給することができるとともに、高流量領域において大型ターボ過給機によって効率よく吸気を過給することができる。
【0009】
しかも、低流量領域から高流量領域への移行時(少なくとも初期)には、排気バイパス弁および第1バイパス弁がそれぞれ閉じられ、第2バイパス弁が開かれ、かつ、絞り弁が絞り制御される(絞り弁の開度が低流量および高流量領域の開度よりも小さい開度とされる)ため、小型ターボ過給機による過給力を高めつつ大型ターボ過給機の回転数を上昇させることができ、過給圧をより早期に高くして加速性能を高めることができる。
【0010】
具体的には、前記移行時において、排気バイパス弁が閉じられることでエンジン本体から排出された排気の全量が小型タービンに導入される。そのため、イナーシャが小さいこの小型タービンに効果的に多量の排気を導入することができ、小型タービンの回転数をより早期に高めることができる。さらに、このとき、第1バイパス弁が閉じられるとともに、第2バイパス弁が開かれて、小型コンプレッサに向かう吸気の流路抵抗が小さくされる。そのため、小型コンプレッサに流入する吸気の量を多くすることができ、この多量の吸気を回転数の上昇が促進された小型タービンによって効果的に過給することができ過給圧をより早期に高めることができる。しかも、このとき、絞り弁が絞り制御されて、大型コンプレッサに流入する吸気の量すなわち大型コンプレッサの作動流体の量が低減される。そのため、大型コンプレッサの回転数を高めてこれによる過給能力を高めることができる。従って、前記移行時において過給圧をより早期に高くすることができる。また、前記移行時の後半あるいは移行後に高流量領域の制御に切り替えて、主として大型ターボ過給機によって過給を行うときに、高い回転数で回転している大型ターボ過給機によって吸気を適切に過給することができる。
【0011】
なお、本発明において「弁を閉じる」とは、ガスの流通を規制することであり、実質的にこのガスの流通が規制されていればよく、弁を全閉にすることに限定されない。同様に、「弁を開く」とは、ガスの流通が規制されないようにすることであり、実質的にガスの流通が規制されない状態になっていればよく、弁を全開にすることに限定されない。
【0012】
本発明において、前記制御手段は、前記低流量領域から前記高流量領域への移行時において、前記大型コンプレッサの回転数が予め設定された基準回転数以上になると、前記排気バイパス弁および前記第1バイパス弁をそれぞれ開き、前記第2バイパス弁を閉じ、かつ、前記絞り弁の開度を開くのが好ましい(請求項2)。
【0013】
この構成によれば、大型コンプレッサの回転数が基準回転数以上に高められた状態で大型ターボ過給機を主とした過給に切り替えられるため、この切替時において過給圧をより確実に高い値に維持することができる。
【0014】
また、本発明において、前記排気通路のうち前記小型タービンと前記大型タービンの少なくとも一方のタービンに流入する排気の流路面積を変更して当該タービンに流入する排気の流速を変更可能な排気流速変更手段を備えるのが好ましい(請求項3)。
【0015】
このようにすれば、タービンに流入する排気の流速を変更することで過給圧をより精度よく適切な値にすることができる。
【0016】
また、本発明において、前記制御手段は、前記低流量領域から前記高流量領域への移行が開始すると前記排気流速変更手段によって前記排気の流路面積を小さくするのが好ましい(請求項4)。
【0017】
このようにすれば、低流量領域から高流量領域への移行開始時であって前記のようにより多くの吸気が小型コンプレッサに流入している状態で、小型タービンに流入する排気の流速が高められるため、小型ターボ過給機による過給量をより一層高めて加速性能をより確実に高めることができる。ただし、このように構成した場合には、小型タービンの背圧すなわち大型タービンの上流側の圧力が高くなり、大型タービンの回転数の上昇が抑制されるおそれがある。これに対して、本発明では、前記のように、前記移行時において大型タービンの回転数を高めることができるように構成されている。従って、前記移行初期において過給圧を早期に高めつつ、大型タービンおよび大型コンプレッサの回転数を適切に上昇させることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明のターボ過給付エンジンによれば、小型タービンと大型タービンとを用いて効率よく吸気を過給しながら、高い加速性能を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(1)エンジンの全体構成
図1は、本発明の一実施形態にかかるターボ過給付エンジンの全体構成を概略的に示す平面図である。本図に示されるエンジンは、走行用の動力源として車両に搭載された4サイクルのガソリンエンジンであり、紙面に直交する方向に並ぶ複数(例えば4つ)の気筒2を有する直列多気筒型のエンジン本体1と、エンジン本体1に燃焼用の空気を導入するための吸気通路20と、エンジン本体1で生成された燃焼ガス(排気)を排出するための排気通路30と、排気通路30を流通する排気によりそれぞれ駆動される小型ターボ過給機50および大型ターボ過給機60とを備えている。
【0021】
エンジン本体1は、円筒状の気筒2が内部に形成されたシリンダブロック3と、気筒2の上面を塞ぐようにシリンダブロック3に取り付けられたシリンダヘッド4と、各気筒2にそれぞれ往復動可能に挿入されたピストン5とを有している。
【0022】
ピストン5の上方には燃焼室6が画成されており、この燃焼室6には、インジェクタ11から噴射されるガソリンを主成分とする燃料が供給される。供給された燃料は燃焼室6で燃焼し、その燃焼による膨張力で押し下げられることでピストン5は上下方向に往復運動する。
【0023】
ピストン5の下方には、エンジン本体1の出力軸であるクランク軸15が配設されている。クランク軸15は、ピストン5とコネクティングロッド14を介して連結され、ピストン5の往復運動に応じて中心軸回りに回転する。
【0024】
シリンダヘッド4には、前記のように燃焼室6に向けて燃料(ガソリン)を噴射するインジェクタ11と、インジェクタ11から噴射された燃料と空気との混合気に点火する点火プラグ12とが、各気筒2につき1組ずつ設けられている。
【0025】
また、シリンダヘッド4には、各気筒2に対応して、吸気通路20から供給される空気(吸気)を各気筒2に導入するための吸気ポート7と、各気筒2で生成された排気を排気通路30に導出するための排気ポート8と、吸気ポート7を開閉可能に閉鎖する吸気弁9と、排気ポート8を開閉可能に閉鎖する排気弁10とがそれぞれ設けられている。
【0026】
吸気通路20は、各吸気ポート7に繋がるように設けられている。吸気通路20には、上流側から順に、エアクリーナ21、大型コンプレッサ62、小型コンプレッサ52、インタークーラ22、スロットルバルブ23が設けられている。
【0027】
大型コンプレッサ62は、大型ターボ過給機60の構成部品である。すなわち、大型ターボ過給機60は、排気通路30に設けられて排気により回転駆動される大型タービン64と、吸気通路20に設けられて大型タービン64により回転駆動される大型コンプレッサ62とを有しており、大型タービン64に排気が導入されて回転することで大型コンプレッサ62が回転して吸気を過給する。
【0028】
同様に、小型コンプレッサ52は、小型ターボ過給機50の構成部品である。すなわち、小型ターボ過給機50は、排気通路30に設けられて排気により回転駆動される小型タービン54と、気通路20に設けられて小型タービン54により回転駆動される小型コンプレッサ52とを有しており、小型タービン54に排気が導入されて回転することで小型コンプレッサ52が回転して吸気を過給する。
【0029】
ここで、小型ターボ過給機50すなわち小型タービン54および小型コンプレッサ52は、大型コンプレッサ62すなわち大型タービン54および大型コンプレッサ52よりも容量が小さく、これに伴って、小型ターボ過給機50のイナーシャは大型ターボ過給機60よりも小さくなっている。
【0030】
吸気通路20には、小型コンプレッサ52をバイパスする第1バイパス通路121と、大型コンプレッサ62をバイパスする第2バイパス通路122とが設けられている。
【0031】
具体的には、第1バイパス通路121は、吸気通路20のうち小型コンプレッサ52と大型コンプレッサ62との間に位置する分岐部121aと、小型コンプレッサ52よりも下流側の部分121bとを連通している。また、第2バイパス通路122は、分岐部121aと大型コンプレッサ62との間の部分122bと、大型コンプレッサ62よりも上流側の部分122aとを連通している。
【0032】
第1バイパス通路121には、これを開閉する第1バイパス弁41が設けられている。第1バイパス弁41が全閉の状態(第1バイパス通路121を封鎖している状態)では、吸気の全量は小型コンプレッサ52に流入する。一方、第1バイパス弁41が開弁している状態では、吸気の多くは小型コンプレッサ52をバイパスして流下する。すなわち、小型コンプレッサ52は吸気の流通に対して抵抗となるため、第1バイパス弁41が開弁している状態では、吸気の多くはより抵抗の小さい第1バイパス通路121に流入する。
【0033】
同様に、第2バイパス通路122には、これを開閉する第2バイパス弁42が設けられている。第2バイパス弁42が全閉の状態(第2バイパス通路122を封鎖している状態)では、吸気の全量は大型コンプレッサ62に流入する。一方、第2バイパス弁42が開弁している状態では、吸気の多くは大型コンプレッサ62をバイパスして流下する。すなわち、大型コンプレッサ62は吸気の流通に対して抵抗となるため、第2バイパス弁42が開弁している状態では、吸気の多くはより抵抗の小さい第2バイパス通路122に流入する。
【0034】
さらに、吸気通路20には、吸気通路20のうち第2バイパス通路122の上流端が接続される部分122aと大型コンプレッサ62との間の通路20aに、この通路20aの流路面積を変更する絞り弁43が設けられている。これに伴い、第2バイパス弁42が開弁している状態において、絞り弁43の開度が全開よりも閉じ側とされると、大型コンプレッサ62に流入する吸気の量は低減され、より多くの吸気が第2バイパス通路122に流入して小型コンプレッサ52に向かうことになる。
【0035】
排気通路30は、エンジン本体1の各排気ポート11に繋がるように設けられている。排気通路30には、上流側から順に、小型タービン54、大型タービン64、触媒装置90が設けられている。
【0036】
前記のように、小型タービン54は、排気のエネルギーを受けて小型コンプレッサ52を回転駆動する。また、大型タービン64は、排気のエネルギーを受けて大型コンプレッサ52を回転駆動する。
【0037】
小型タービン54は、複数の翼を有しこれら翼に排気が衝突することで回転するインペラである。また、本実施形態では、小型タービン54は、
図2に示すように、VGT(Variable Geometry Turbine)であり、この小型タービン54の周囲には、角度変更可能な複数のノズルベーン54bが設けられているとともに、各ノズルベーン54bと連携されたロッド54cと、ロッド54cを進退駆動することにより各ノズルベーン54bの角度を変更するベーンアクチュエータ54dとが設けられている。ベーンアクチュエータ54dおよびロッド54cによってノズルベーン54bが閉方向(隣接するノズルベーン54bどうしの距離を狭める方向)に駆動されると、小型タービン54に流入する排気の流路の面積は小さくなり、小型タービン54に流入する排気の流速が増大する。
【0038】
このように、本実施形態では、各ノズルベーン54bと、ロッド54cと、ベーンアクチュエータ54dとが、小型タービン54に流入する排気の流路面積を変更してこの排気の流速を変更可能な排気流速変更手段として機能する。
【0039】
排気通路30には、小型タービン54をバイパスする排気バイパス通路132が設けられている。
【0040】
具体的には、排気バイパス通路132は、排気通路30のうち小型タービン54と大型タービン64との間の部分132bと、小型タービン54よりも上流側の部分132aとを連通している。
【0041】
排気バイパス通路132には、これを開閉する排気バイパス弁44が設けられている。排気バイパス弁44が全閉の状態(排気バイパス通路132を封鎖している状態)では、排気の全量は小型タービン54に流入する。一方、排気バイパス弁44が開弁している状態では、排気の多くは小型タービン54をバイパスして流下する。すなわち、小型タービン54は排気の流通に対して抵抗となるため、排気バイパス弁44が開弁している状態では、排気の多くはより抵抗の小さい排気バイパス通路132を通り、小型タービン54を通過せずに流下する。
【0042】
また、本実施形態では、排気通路30に、大型タービン64をバイパスするウエストゲート用通路133が設けられているとともに、これを開閉するウエストゲートバルブ45が設けられている。
【0043】
具体的には、ウエストゲート用通路133は、排気通路30のうち排気バイパス通路132の下流端132bよりも下流側の部分と133a、大型タービン64よりも下流側の部分133bとを連通している。ウエストゲートバルブ45が全閉の状態では、排気の全量が大型タービン64に流入する一方、ウエストゲートバルブ45が開弁している状態では、排気の多くが大型タービン64をバイパスして流下する。
【0044】
また、本実施形態のエンジンは、排気の一部を吸気に還流させるEGR装置80を有しており、エンジンには、排気通路30のうち小型タービン54よりも上流側の部分と、吸気通路20のうちスロットルバルブ23よりも下流側の部分とを連通するEGR通路81と、これを開閉するEGRバルブ82と、EGR通路81内のガスを冷却するEGRクーラ83とが設けられている。
【0045】
(2)制御系統
次に、
図3を用いて、エンジンの制御系について説明する。本実施形態のエンジンシステムは、車両に搭載されたECU(エンジン制御ユニット、制御手段)500によって制御される。ECU500は、周知のとおり、CPU、ROM、RAM、I/F等から構成されるマイクロプロセッサである。
【0046】
ECU500には、各種センサからの情報が入力される。例えば、ECU500は、エキセントリックシャフト23の回転数すなわちエンジンの回転数を検出するためのエンジン回転数センサSN1、各気筒2に導入される吸気量を検出するためのエアフローセンサSN2、車両に設けられて運転者により操作されるアクセルペダル(不図示)の開度を検出するアクセル開度センサSN3、過給圧(吸気通路20のうち小型コンプレッサ52の下流側の圧力)を検出する過給圧センサSN4、大型コンプレッサ62の回転数を検出する大型コンプレッサ回転数センサSN5等と電気的に接続されており、これらのセンサからの入力信号を受け付ける。
【0047】
ECU500は、各センサSN1〜SN5からの入力信号等に基づいて種々の演算等を実行し、各バイパス弁41,42,44、絞り弁43、ウエストゲートバルブ45、小型タービン54、およびその他のエンジンの各部(点火プラグ12、インジェクタ11、スロットルバルブ23等)にそれぞれ制御信号を出力する。
【0048】
具体的には、ECU500は、各弁およびバルブを駆動するアクチュエータに指令を出して、これら弁およびバルブを開閉させる。
【0049】
また、ECU500は、小型タービン54の制御として、ベーンアクチュエータ64dに駆動信号を出力して小型タービン54のノズルベーン54bの角度(以下、適宜、VGT開度という)を制御する。ここで、VGT開度は、その値が大きいほど小型タービン54の各翼に向かう排気の流通通路の流路面積が大きくなり、その値が小さいほどこの流路面積が小さく絞られるようになるパラメータである。
【0050】
ECU500による、各バイパス弁41,42,44、絞り弁43、小型タービン54(VGT開度)の制御内容について
図4のフローチャートを用いて説明する。
【0051】
まず、ECU500は、ステップS2にて、低流量領域から高流量領域への移行時であるか否かを判定する。すなわち、本実施形態では、エンジンの運転領域が
図5のように区画されており、エンジン回転数およびエンジン負荷が
図5のラインL1よりも小さくこれに伴ってエンジン本体1から排出される排気の流量が所定値よりも低い領域に低流量領域A1が設定され、それ以外の領域であってエンジン回転数あるいはエンジン負荷が高くこれに伴って排気の流量が所定値以上の領域に高流量領域A2が設定されている。ECU500は、エンジン回転数とエンジン負荷(要求されるエンジントルク)とに応じて現在の運転領域がこれら領域A1,A2のいずれであるかを常時判定しており、ステップS2では、
図5の矢印で示すように、現在の運転領域が高流量領域A2であり、かつ、直前の運転領域が低流量領域A1である場合に、低流量領域A1から高流量領域A2への移行時であると判定する。
【0052】
ステップS2の判定がNOの場合は、ステップS10に進む。ステップS10では、
現在の運転領域が高流量領域A2であるか否かを判定する。この判定がYESであって、高流量領域A2であて、かつ、前記移行時でない場合は、ステップS11に進む。
【0053】
ステップS11では、排気バイパス弁44および第1バイパス弁41をそれぞれ全開にする(既に全開の場合は全開を維持する)。
【0054】
ステップS11の後はステップS12に進み、第2バイパス弁42を全閉にする(既に全開の場合は全閉を維持する)。また、ステップS12の後に進むステップS13において、絞り弁43を全開にして(既に全開の場合は全開を維持する)処理を終了する(ステップS1に戻る)。
【0055】
このように、本実施形態では、高流量領域A2で運転がなされている場合(前記移行時を除く)は、排気バイパス弁44および第1バイパス弁41がそれぞれ全開とされる。従って、排気の多くは小型タービン54を通過せずに直接大型タービン64に流入し、吸気の多くは小型コンプレッサ52を通過せずに流下する。また、第2バイパス弁42が全閉とされることで、吸気の全量が大型コンプレッサ62に流入する。これに伴い、高流量領域A2では、主として大型ターボ過給機60によって過給が行われる。また、絞り弁43が全開とされることで、吸気はより抵抗の少ない状態で効率よく大型コンプレッサ62に流入する。
【0056】
一方、ステップS10の判定がNOであって低流量領域A1で運転されている場合は、ステップS21に進む。ステップS21では、排気バイパス弁44および第1バイパス弁41をそれぞれ全閉にする(既に全開の場合は全閉を維持する)。ステップS21の後は、ステップS12およびステップS13に進み、前記のように、第2バイパス弁42を全閉にするとともに絞り弁43を全開にして処理を終了する(ステップS2に戻る)。
【0057】
このように、本実施形態では、低流量領域A1で運転がなされている場合は、排気バイパス弁44、第1バイパス弁41および第2バイパス弁42がそれぞれ全閉とされる。従って、吸気の全量が大型コンプレッサ62を通過するとともに、その後小型コンプレッサ52に流入する。また、排気の全量が小型タービン54に流入し、その後大型タービン64に流入する。なお、第2バイパス弁42が全閉とされ、絞り弁43が全開とされることで、前記のように、吸気は効率よく大型コンプレッサ62に流入する。
【0058】
一方、ステップS2の判定がYESであって低流量領域A1から高流量領域A2への移行が行われたと判定されると、ステップS31に進む。ステップS31では、VGT開度を閉じ側にする。
【0059】
ステップS31の後は、ステップS32に進み、排気バイパス弁44および第1バイパス弁41をそれぞれ全閉にする。
【0060】
ステップS32の後は、ステップS33に進み、第2バイパス弁42を全開にする。
【0061】
ステップS33の後は、ステップS34に進み、絞り弁43を全開よりも閉じ側にする。具体的には、絞り弁43の開度を全閉よりも開き側でかつ全開よりも閉じ側の所定の開度にする。この開度は、例えば、予め設定されている。
【0062】
ステップS34の後は、ステップS35に進む。ステップS35では、大型コンプレッサ回転数センサSN5により検出された大型コンプレッサ62の回転数である大型コンプレッサ回転数が基準回転数以上か否かが判定される。基準回転数は予め設定されている。
【0063】
ステップS35の判定がYESであって、大型コンプレッサ回転数が基準回転数以上に高められている場合は、ステップS11に進む。そして、ステップS11〜S13を実施して、処理を終了する(ステップS2に戻る)。すなわち、大型コンプレッサ回転数が基準回転数以上になると、通常の高流量領域A2と同様の制御が行われ、排気バイパス弁44および第1バイパス弁41がそれぞれ全開にされ、第2バイパス弁42が全閉にされるとともに、絞り弁43が全開にされる。
【0064】
一方、ステップS35の判定がNOであって、大型コンプレッサ回転数が基準回転数にまだ到達していない場合は、ステップS32に戻る。そして、ステップS32〜S35を繰り返す。
【0065】
このように、本実施形態では、低流量領域A1から高流量領域A2へ移行すると、大型コンプレッサ回転数が基準回転数に到達するまでの間、排気バイパス弁44および第1バイパス弁41がそれぞれ全閉にされ、第2バイパス弁42が全開にされるとともに、絞り弁43が全開よりも閉じ側とされる。従って、この期間中、排気の全量が小型タービン54に流入し、その後大型タービン64に流入する。また、大型コンプレッサ62に流入する吸気の量は低減され、吸気の全量が小型コンプレッサ52に流入する。
【0066】
そして、大型コンプレッサ回転数が基準回転数に到達すると、排気バイパス弁44、第1バイパス弁41および絞り弁がそれぞれ全開とされ、第2バイパス弁42が全閉とされて、通常の高流量領域A2と同様の制御が行われて主として大型ターボ過給機60によって吸気が過給される。
【0067】
なお、本実施形態では、ウエストゲートバルブ45は、基本的に全閉とされており、過給圧が所定の限界圧力を超えると開弁するようになっている。
【0068】
(3)作用等
図6は、低流量領域A1から高流量領域A2への移行時における各パラメータの変化を模式的に示したものである。なお、
図6において、破線は、比較例として、移行時に、第2バイパス弁42を全開にし且つ絞り弁43を全閉にする制御を実施せず、移行前後で第2バイパス弁42を全閉、絞り弁43を全開に維持したときの各変化を示している。
【0069】
この
図6に示すように、本実施形態では、時刻t1にて、鎖線で示すようにエンジン負荷(要求されるエンジントルクである要求トルク)が増大して運転領域が低流量領域A1から高流量領域A2に移行しても、排気バイパス弁44が全閉に維持される。そのため、排気の全量が小型タービン54に導入されることになり、時刻t1直後において小型タービン54および小型コンプレッサ52の回転数をより早期に高めることができる。
【0070】
具体的には、時刻t1後、エンジン負荷が増大するのに伴ってエンジン本体2から排出される排気の量は増大するが、このとき、前記のように排気バイパス弁44が全閉に維持されていることで、前記増量した排気の全量をイナーシャが小さく回転上昇しやすい小型タービン54に導入することができる。従って、小型タービン54および小型コンプレッサ52の回転数を高めることができる。なお、本実施形態では、前記のように、移行直後にVGTの開度が閉じ側にされるようになっている。そのため、小型タービン54および小型コンプレッサ52の回転数はより一層高められる。
【0071】
しかも、このとき、第1バイパス弁41が全閉にされ、第2バイパス弁42が全開にされ、かつ、絞り弁43が閉じ側とされて、より多くの吸気が大型コンプレッサ62を通過せずに小型コンプレッサ52に流入するようになっている。そのため、前記のように回転数が高められた小型タービン54および小型コンプレッサ52によってこの増大した吸気を効果的に過給することができる。従って、過給圧をより確実に高くすることができる。すなわち、比較例であって、移行前後において、第2バイパス弁42が全閉に維持され、かつ、絞り弁43が全開に維持される場合には、小型コンプレッサ52には、大型コンプレッサ62を通過した後の吸気しか流入せず、大型コンプレッサ62が抵抗となって小型コンプレッサ52に流入する吸気の流量は小さく抑えられる。そのため、小型タービン54および小型コンプレッサ52の回転を効果的に吸気に付与することができず、過給圧の上昇が低く抑えられる。これに対して、本実施形態では、小型コンプレッサ52に流入する吸気の流量を増大させて小型コンプレッサ52によって効果的に吸気を過給することができる。
【0072】
さらに、本実施形態では、時刻t1において、絞り弁43が閉じ側とされて、大型コンプレッサ62に流入する吸気の量が低減される。すなわち、大型コンプレッサ62が駆動する作動流体の量が低減される。そのため、大型コンプレッサ62の回転数も高めることができる。
【0073】
図7を用いて詳細に説明する。
図7は、コンプレッサの特性を示した図であり、横軸をコンプレッサに流入する作動流体の流量、縦軸をコンプレッサの前後の圧力比(上流側の圧力を下流側の圧力で割ったもの)として、コンプレッサの回転数と、コンプレッサの駆動力(コンプレッサを駆動するのに必要な力)を示した図である。具体的には、
図7において、各実線はそれぞれコンプレッサの駆動力が互いに同じとなる点をつないだ線であり、各破線Nc1〜Nc5はそれぞれコンプレッサの回転数が同じとなる点をつないだ線である。ここで、回転数は、Nc1からNc5に向けて高くなっている。また、
図7には、合わせて、鎖線でコンプレッサの効率も示している(各鎖線は、それぞれ効率が同じとなる点をつないだ線)。
【0074】
この
図7に示されるように、駆動力が同じ場合において、コンプレッサに流入する作動流体の流量が小さくなると、コンプレッサの回転数は高くなる。例えば、点Aと点Bとでは、駆動力は同じであるが、点Bの方がコンプレッサの回転数は高くなる。
【0075】
従って、前記のように絞り弁43を閉じ側とされて大型コンプレッサ62に流入する吸気の量すなわち作動流体の流量が低減すると、大型コンプレッサ62および大型タービン64の回転数は高くなる。すなわち、大型タービン64に流入する排気のエネルギーであって大型コンプレッサ62の駆動力は絞り弁43の開閉によって変化しないため、絞り弁43が閉じ側とされて前記流量が低減すると、大型コンプレッサ62および大型タービン64の回転数は高くなる。また、
図7から明らかなように、このように作動流体の流量が低減されて回転数が高められるとコンプレッサの圧力比も増大する。そのため、絞り弁43を閉じ側とされることによって大型コンプレッサ62による過給も促進され、過給圧はより一層高められる。
【0076】
このように、本実施形態では、時刻t1であって低流量領域A1から高流量領域A2への移行が行われた直後において過給圧を早期に高めることができ、これに伴ってエンジントルクを高めて加速性能を高くすることができる。
【0077】
また、本実施形態では、時刻t2において大型コンプレッサの回転数が基準回転数に到達すると、排気バイパス弁44、第1バイパス弁41および絞り弁43が全開にされ、且つ、第2バイパス弁42が全閉にされて、前記のように、主として大型ターボ過給機60によって吸気が過給されるようになるが、このとき大型コンプレッサ62の回転数が十分に高められているため、時刻t2後においても、過給圧を適切に高めること、あるいは、適切な値に維持することが可能になる。なお、
図7に示すように、時刻t2後は、小型タービン54に流入する排気の量が低減することに伴い小型コンプレッサ52の回転数は低下する。
【0078】
(4)変形例
前記実施形態では、第2バイパス弁42を開弁し、かつ、絞り弁43を閉じ側にする制御を実施する期間を、低流量領域A1から高流量領域A2への移行が開始されてから、大型コンプレッサの回転数が基準回転数に到達するまでの間とした場合について説明したが、前記制御は、前記移行時の少なくとも初期に行われればよい。なお、ここでは、前記移行時とは、エンジン回転数およびエンジントルクの要求値が低流量領域A1の値から高流量領域A2の値に切り替わってから、これらの実際の値が高流量領域A2の値となるまでの期間をいう。例えば、前記制御をこの移行時の全期間にわたって実施してもよい。また、前記移行が開始されてから予め設定された所定の時間経過するまでの間、前記制御を実施するようにしてもよい。
【0079】
また、前記実施形態では、大型コンプレッサ62の回転数が基準回転数に到達すると、排気バイパス弁44および第1バイパス弁41を全閉から全開にし、第2バイパス弁42を全開から全閉にし、絞り弁43を全開にする場合について説明したが、これらの開度を徐々に変更するようにしてもよい。例えば、大型コンプレッサ62の回転数が前記基準回転数よりも小さい所定の回転数に到達すると、各弁41〜43の開度を全閉あるいは全開に向けて徐々に変化させるようにしてもよい。
【0080】
また、前記実施形態では、小型タービン54をVGTとした場合について説明したが、小型タービン54を、ノズルベーン54bを有しない通常のタービンとしてもよい。ただし、小型タービン54をVGTとして、前記のように前記移行時にVGT開度を閉じ側にすれば、小型タービン54の回転数をより早期に高めて加速性能をより確実に高めることができる。
【0081】
ただし、このように小型タービン54をVGTとし、前記移行時にVGT開度を閉じ側に変更すると、小型タービン54の背圧が上昇し大型タービン64の上流側の圧力が増大して大型タービン64の回転数の上昇が抑制されるおそれがある。しかしながら、本実施形態では、前記のように、前記移行時において大型コンプレッサ62に流入する吸気の量を低減することによって大型コンプレッサ62および大型タービン64の回転数を高めることができる。従って、小型タービン54をVGTとすることで、加速性能をより確実に高めることができる。
【0082】
また、大型タービン64をVGTとしてもよい。この場合であっても、大型タービン64のVGT開度の調整によって、過給圧をより適切な値にすることができる。すなわち、前記移行時において、大型タービン64のVGT開度を閉じ側にすれば、大型タービン64の回転数をより一層高くして過給圧を高めることができる。ただし、移行時において大型タービン64のVGT開度を閉じ側にすると、大型タービン64の上流側の圧力すなわち小型タービン54の背圧が上昇するので、VGT開度の閉じ量は少なく抑えるのが好ましい。なお、本実施形態では、前記のように、前記移行時において大型コンプレッサ62に流入する吸気の量を低減することによって大型コンプレッサ62および大型タービン64の回転数を高めることができる。そのため、VGT開度の閉じ量を少なく抑えても、これらの回転数を十分に高めることができる。
【0083】
また、前記実施形態では、各バイパス弁41,42,44を全閉と全開とに切り替える場合について説明したが、必ずしも全閉と全開とに切り替える必要はない。すなわち、各弁41,42,44が所定量開いていても、実質的に全閉にしたときと同様に各弁41,42,44によってガスの流通が規制される場合(ほとんどガスが流れない場合)には、前記実施形態における各バイパス弁41,42,44を全閉にするという制御に代えて各バイパス弁41,42,44の開度を前記の所定量以下にするという制御を行ってもよい。
【0084】
同様に、各弁41,42,44が全開から所定量閉じていても、実質的に全開にしたときと同様に各弁41,42,44によってガスの流通がほとんど規制されない場合には、前記実施形態における各バイパス弁41,42,44を全開にするという制御に代えて各バイパス弁41,42,44の開度を前記の所定量以上にするという制御を行ってもよい。また、絞り弁48においても、絞り弁48を全開にする制御に代えて、絞り弁48の開度を所定量以上にするという制御を行ってもよい。