特許第6394685号(P6394685)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6394685
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】整流器および送受信装置
(51)【国際特許分類】
   H03B 15/00 20060101AFI20180913BHJP
   H01L 43/08 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   H03B15/00
   H01L43/08 Z
   H01L43/08 U
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-230756(P2016-230756)
(22)【出願日】2016年11月29日
(62)【分割の表示】特願2013-87513(P2013-87513)の分割
【原出願日】2013年4月18日
(65)【公開番号】特開2017-50891(P2017-50891A)
(43)【公開日】2017年3月9日
【審査請求日】2016年11月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 英治
【審査官】 橋本 和志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−034283(JP,A)
【文献】 特開2008−071903(JP,A)
【文献】 特開2009−194070(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03B 15/00
H01L 43/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
整流周波数が磁場により可変な整流部と、
前記整流部に接続された導体とを有する整流器であって、
前記整流部と前記導体とは、前記導体を流れる電流が前記整流部を流れる電流よりも大きく、前記導体を流れる電流が発生する磁場が前記整流部に印加されるように配置されていることを特徴とする整流器。
【請求項2】
整流周波数が磁場により可変な整流部と、
電流を増幅する電流増幅部と、
前記整流部に磁場を印加する磁場印加部とを有する整流器であって、
前記電流増幅部は入力端と出力端とを有し、
前記入力端から入力された電流を増幅して前記出力端に出力し、
前記整流部は前記入力端に直列に接続され、
前記磁場印加部は前記出力端に直列に接続されていることを特徴とする整流器。
【請求項3】
発振周波数が磁場により可変な整流部と、
電流を増幅する電流増幅部と、
前記整流部に磁場を印加する磁場印加部とを有する整流器であって、
前記電流増幅部は入力端と出力端とを有し、
前記入力端から入力された電流を増幅して前記出力端に出力し、
前記整流部と前記電流増幅部とは並列に接続され、
前記磁場印加部は前記出力端に直列に接続されていることを特徴とする整流器。
【請求項4】
前記整流部が整流作用を発現するための閾値磁場がゼロよりも大きく、
前記磁場が前記閾値磁場よりも大きいことを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の整流器。
【請求項5】
前記整流部が、磁気抵抗効果素子またはジョセフソン素子であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の整流器。
【請求項6】
発振周波数が磁場により可変な発振部と、電流を増幅する電流増幅部と、前記発振部に磁場を印加する磁場印加部とを有する発振器であって、前記電流増幅部は入力端と出力端とを有し、前記入力端から入力された電流を増幅して前記出力端に出力し、前記発振部は前記入力端に直列に接続され、前記磁場印加部は前記出力端に直列に接続されている発振器と、
請求項2または3に記載の整流器とを有し、
前記発振器の前記磁場印加部と前記整流器の前記磁場印加部とが電磁気的に結合することで、無線通信または無線電力伝送を行う送受信装置。
【請求項7】
発振周波数が磁場により可変な発振部と、電流を増幅する電流増幅部と、前記発振部に磁場を印加する磁場印加部とを有する発振器であって、前記電流増幅部は入力端と出力端とを有し、前記入力端から入力された電流を増幅して前記出力端に出力し、前記発振部と前記電流増幅部とは並列に接続され、前記磁場印加部は前記出力端に直列に接続されている発振器と、
請求項2または3に記載の整流器とを有し、
前記発振器の前記磁場印加部と前記整流器の前記磁場印加部とが電磁気的に結合することで、無線通信または無線電力伝送を行う送受信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発振器、整流器および送受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気抵抗効果素子によるマイクロ波発振と受信が研究されている。例えば、特許文献1においては、CCP―CPP(Current Confined Path−Current Perpendicular to Plane)発振素子に外部磁場を印加することによって、発振周波数を変えることができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−124340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら従来技術においては、自励発振やマイクロ波受信に必要な磁場は、磁気抵抗効果素子に接続されていない外部の配線あるいは外部のコイルや磁石により発生させていた。例えば特許文献1では、外部磁石と外部配線によって、磁場を自励発振素子である磁気抵抗効果素子に印加している。従って従来技術においては、部品点数が多くなり、発振器や検出器の寸法が大きくなるため、小型化が困難であった。
【0005】
そこで本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、小型化が可能な発振器または整流器を提供することを目的とする。また、そのような発振器と整流器を備えることによって、従来より小型化が可能な送受信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の第1の態様に係る発振器では、発振周波数が磁場により可変な発振部と、前記発振部に接続された導体とを有する発振器であって、前記発振部と前記導体とは、前記導体を流れる電流が前記発振部を流れる電流よりも大きく、前記導体を流れる電流が発生する磁場が前記発振部に印加されるように配置されていることを特徴とする。これにより、発振器の小型化が可能となる。
【0007】
本発明の第2の態様に係る発振器では、さらに、発振周波数が磁場により可変な発振部と、電流を増幅する電流増幅部と、前記発振部に磁場を印加する磁場印加部とを有する発振器であって、前記電流増幅部は入力端と出力端とを有し、前記入力端から入力された電流を増幅して前記出力端に出力し、前記発振部は前記入力端に直列に接続され、前記磁場印加部は前記出力端に直列に接続されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の第3の態様に係る発振器では、発振周波数が磁場により可変な発振部と、電流を増幅する電流増幅部と、前記発振部に磁場を印加する磁場印加部とを有する発振器であって、前記電流増幅部は入力端と出力端とを有し、前記入力端から入力された電流を増幅して前記出力端に出力し、前記発振部と前記電流増幅部とは並列に接続され、前記磁場印加部は前記出力端に直列に接続されていることを特徴とする。
【0009】
さらに、本発明の第4の態様に係る発振器では、第1の態様から第3の態様に係る発振器までのいずれか1態様の発振器において、前記発振部が発振を開始するための閾値磁場がゼロよりも大きく、前記磁場が前記閾値磁場よりも大きいことを特徴とする。
【0010】
さらに本発明の第5の態様に係る発振器では、第1の態様から第3の態様までのいずれか1態様の発振器において、前記発振部が、磁気抵抗効果素子、ジョセフソン素子または磁気共鳴フィルタを有するフィルタ付発振器であることを特徴とすることが好ましい。
【0011】
本発明の第6の態様に係る整流器では、整流周波数が磁場により可変な整流部と、前記整流部に接続された導体とを有する整流器であって、前記整流部と前記導体とは、前記導体を流れる電流が前記整流部を流れる電流よりも大きく、前記導体を流れる電流が発生する磁場が前記整流部に印加されるように配置されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の第7の態様に係る整流器では、整流周波数が磁場により可変な整流部と、電流を増幅する電流増幅部と、前記整流部に磁場を印加する磁場印加部とを有する整流器であって、前記電流増幅部は入力端と出力端とを有し、前記入力端から入力された電流を増幅して前記出力端に出力し、前記整流部は前記入力端に直列に接続され、前記磁場印加部は前記出力端に直列に接続されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の第8の態様に係る整流器では、発振周波数が磁場により可変な整流部と、電流を増幅する電流増幅部と、前記整流部に磁場を印加する磁場印加部とを有する整流器であって、前記電流増幅部は入力端と出力端とを有し、前記入力端から入力された電流を増幅して前記出力端に出力し、前記整流部と前記電流増幅部とは並列に接続され、前記磁場印加部は前記出力端に直列に接続されていることを特徴とする。
【0014】
さらに本発明の第9の態様に係る整流器では、第6の態様から第8の態様に係る整流器までのいずれか1態様の整流器において、前記整流部が整流作用を発現するための閾値磁場がゼロよりも大きく、前記磁場が前記閾値磁場よりも大きいことを特徴とする。
【0015】
さらに本発明の第10の態様に係る整流器では、第6の態様から第8の態様に係る整流器までのいずれか1態様の整流器において、前記整流部が、磁気抵抗効果素子またはジョセフソン素子であることを特徴とすることが好ましい。
【0016】
本発明の第11の態様に係る送受信装置では、第1の態様に係る発振器と、第6の態様に係る整流器とを有し、前記発振器の前記導体と前記整流器の前記導体とが電磁気的に結合することで、無線通信または無線電力伝送を行うことを特徴とする。
【0017】
さらに本発明の第12の態様に係る送受信装置では、第2の態様または第3の態様の発振器と、第7の態様または第8の態様の整流器とを有し、前記発振器の前記磁場印加部と前記整流器の前記磁場印加部とが電磁気的に結合することで、無線通信または無線電力伝送を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、小型化が可能な発振器または整流器を提供することができる。また、そのような発振器と整流器を備えることによって、従来よりも小型化が可能な送受信装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態1に係る発振器の模式図である。
図2】本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の構成例を示す図である。
図3】本発明の実施形態に係るフィルタ付き発振器の構成例を示す図である。
図4】本発明の実施形態1に係る発振器の周辺回路を示す図である。
図5】本発明の実施形態2に係る発振器の模式図である。
図6】本発明の実施形態3に係る発振器の模式図である。
図7】本発明の実施形態4に係る発振器の模式図である。
図8】本発明の実施形態5に係る発振器の模式図である。
図9】本発明の実施形態6に係る発振器の模式図である。
図10】本発明の実施形態7に係る整流器の模式図である。
図11】本発明の実施形態6に係る整流器の周辺回路を示す図である。
図12】本発明の実施形態10に係る送信装置の回路図である。
図13】本発明の実施形態13における送受信装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を用いて本発明を実施するための形態の例を説明する。なお、以下の説明は本発明の実施形態の一部を例示するものであり、本発明はこれら実施形態に限定されるものではなく、形態が本発明の技術的思想を有するものである限り、本発明の範囲に含まれる。各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせなどは一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
【0021】
(実施形態1)
図1は実施形態1に係る発振器の模式図である。実施形態1に係る発振器100は、発振部101と、発振部101に直列に接続された導体103aと導体103bと、電流増幅手段である電流増幅部104とを有する。電流増幅部104は入力端と出力端とを有し、入力端から入力された電流を増幅して出力端に出力する。発振部101は電流増幅部104の入力端に直列に接続され、導体103bは電流増幅部104の出力端に直列に接続されている。
【0022】
発振部101に直流電流Iを流すと、電流増幅部104は増幅電流Iを発生させる。導体103bは増幅電流Iが流れることによって、第1の磁場Hを発生させる。導体103bは、第1の磁場Hが発振部101が発振するための閾値磁場よりも大きくなるように配置されている。ここで閾値磁場とは、発振部101に直流電流Iが供給されている場合に、発振部101が発振するために最低限必要な磁場の大きさである。発振部101は、直流電流Iと第1の磁場Hが印加されることで発振する。
【0023】
閾値磁場がゼロより大きい発振部を発振部101に用いて発振させるためには、直流電流Iとともにゼロより大きい磁場を発振部101に印加する必要がある。直流電流Iのみで発振しない発振部101を用いた場合には、地磁気以上の磁場を印加する。ちなみに、ここでの地磁気とは、発振器に作用する地球磁気を示し、例えば、地表における地球磁気は、目安として37A/mである。
【0024】
導体103bは発振部101の極近傍に配置でき、閾値以上の強い磁場を発振部101に印加できる。したがって、発振器全体の小型化が可能になる。
【0025】
発振器100は、導体103bを流れる電流の大きさが発振部101を流れる電流よりも大きくなるように構成されている。したがって、発振部101には大電流が流れないため、発振部101を過電流から保護することが可能である。
【0026】
電流増幅手段である電流増幅部は、トランジスタ、市販のチップ形状のアンプ、または増幅回路などを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
発振部101は、例えば磁気抵抗効果素子や、発振回路と磁気共鳴を用いたフィルタで構成されるフィルタ付発振器や、ジョセフソン素子や、ゼーマンレーザーを用いることができる。
【0028】
図2には磁気抵抗効果素子の構成例を示す。磁気抵抗効果素子205は磁性層であるピン層206aと、磁性層であるフリー層206bと、その間に配置されたスペーサ層207とを有する。ここでのピン層206aの磁化方向は固定されており、矢印209aはピン層206aの磁化の固定方向を示す。フリー層206bの磁化方向は、電流を印加する前の状態では、有効磁場の方向を向いており、矢印209bは有効磁場の方向を示す。有効磁場は、フリー層206b内で生じる異方性磁場、交換磁場、外部磁場、反磁場の和である。図2では、ピン層206aの磁化の方向と、フリー層206bの有効磁場の方向が、互いに反対方向を向いているが、互いの方向はこれに限らない。
【0029】
磁気抵抗効果素子205は特に限定されないが、例えばGMR素子、またはTMR素子、またはスペーサ層207の絶縁層中に電流狭窄パスが存在する磁気抵抗効果素子などを用いることができる。
【0030】
磁気抵抗効果素子205にGMR素子を用いる場合、スペーサ層207は、例えば、銅など非磁性金属を用いることができる。GMR素子のフリー層206bおよびピン層206aの材料は、例えば、コバルト、鉄、ニッケル、クロムなどの磁性金属とその合金、又は、磁性合金にボロンを混入した合金を用いることができる。ピン層206aの磁化を固定するには、イリジウム、鉄、白金、マンガンなどの合金による反強磁性層との交換結合や、磁性金属多層膜(例えばコバルト鉄−ルテニウム−コバルト鉄の多層膜)による反強磁性結合を用いることができる。そして各層の厚さは0.1〜50nm程度が好ましい。GMR素子は、スペーサ層207が金属からなるため、他の磁気抵抗効果素子に比較して抵抗値が低い。このため、磁気抵抗効果素子205を低インピーダンスの回路に接続する際に、インピーダンス整合の観点で好ましい。
【0031】
磁気抵抗効果素子205にTMR素子を用いる場合、スペーサ層207は、例えば、アルミナや酸化マグネシウム(MgO)の絶縁層を用いることができる。TMR素子のフリー層206bおよびピン層206aの材料は、例えば、コバルト、鉄、ニッケル、クロムなどの磁性金属とその合金、又は、磁性合金としてボロンを混入した合金を用いることができる。ピン層206aの磁化を固定するには、イリジウム、鉄、白金、マンガンなどの合金による反強磁性層との交換結合や、磁性金属多層膜(例えばコバルト鉄−ルテニウム−コバルト鉄の多層膜)による反強磁性結合を用いることができる。そして各層の厚さは0.1〜50nm程度が好ましい。TMR素子はスペーサ層207が絶縁層からなるため、他の磁気抵抗効果素子に比較して抵抗値が高い。このため、磁気抵抗効果素子205を高インピーダンスの回路に接続する際に、インピーダンス整合の観点で好ましい。
【0032】
さらに磁気抵抗効果素子205に、スペーサ層207の絶縁層中に電流狭窄パスを有する磁気抵抗効果素子を用いる場合、そのスペーサ層207の絶縁層はAl等からなる。スペーサ層207の電流狭窄パスは、例えば銅などの非磁性金属や、コバルト、鉄、ニッケル、クロムなどの磁性金属とその合金、又は、磁性合金にボロンを混入した磁性金属を用いることができる。この磁気抵抗効果素子205の磁化自由層および磁化固定層には、例えば、コバルト、鉄、ニッケル、クロムなどの磁性金属とその合金、又は、磁性合金にボロンを混入した合金を用いることができる。ピン層206aの磁化を固定するには、イリジウム、鉄、白金、マンガンなどの合金による反強磁性層との交換結合や、磁性金属多層膜(例えばコバルト鉄−ルテニウム−コバルト鉄の多層膜)による反強磁性結合を用いることができる。そして、各層の厚さは0.1〜50nm程度が好ましい。この磁気抵抗効果素子205は、電流狭窄パスを有し、その電流狭窄パスによって電流密度を上げられる。このため、素子への投入電流を他の磁気抵抗効果素子に比較して小さくすることができる。この磁気抵抗効果素子205を発振部101に使用することによって、消費電力を抑えた回路とすることができる。
【0033】
本実施形態に係る磁気抵抗効果素子205の自励発振について説明する。ここで自励発振とは、振動的でない直流電流により電気的振動が誘起される現象である。磁気抵抗効果素子205に直流電流Iを流すと、伝導電子208が直流電流Iとその逆方向、すなわちピン層206aからスペーサ層207を介してフリー層206bに流れる。矢印209aの方向に磁化したピン層206aにおいて、伝導電子208のスピンは矢印209aの方向に偏極する。矢印209cは伝導電子208のスピンの方向を表す。スピン偏極した電子208はスペーサ層207を介してフリー層206bに流れこむことで、フリー層206bの磁化と角運動量の受け渡しを行う。これによって、フリー層206bの磁化の方向を、有効磁場の方向を示す矢印209bの方向から傾かせようとする作用が働く。一方で、フリー層206bの磁化の方向を、有効磁場の方向を示す矢印209bの方向に安定させようとするダンピングの作用がはたらく。したがって、これら2つの作用がつりあって、フリー層の磁化方向は有効磁場の方向の周りを歳差運動する。この歳差運動を、フリー層の磁化方向を示す矢印209dの、有効磁場の方向を示す矢印209bのまわりの運動として表わし、一点鎖線209eによって矢印209dの歳差運動の軌跡を示す。フリー層の磁化方向がピン層の磁化方向に対して高周波で変化するため、フリー層の磁化方向とピン層の磁化方向の相対角度に依存して抵抗が変化する磁気抵抗効果によって、抵抗値も高周波で変化する。直流電流Iに対して抵抗値が高周波で変化するので、およそ100MHzから1THzの高周波数で振動する電圧が発生する。有効磁場の方向は、ピン層206aの磁化方向に対して反対方向である180度の角度を有するだけでなく、同じ方向である0度や、45度、90度、または135度のような角度を有することができる。
【0034】
印加磁場と発振周波数は、おおよそ比例関係にある。したがって、高周波の発振を生じさせるためには、外部磁場は大きい方が望ましい。
【0035】
また、発振部101は発振回路と磁気共鳴を用いたフィルタで構成されるフィルタ付発振器を用いることができる。図3はフィルタ付発振器の構成例を示した図である。フィルタ付発振器300は発振回路301と、磁気共鳴を用いたフィルタ302と、導体103とからなる。導体103は、フィルタ付発振器300に電流を供給する部分と、フィルタ付発振器300から電流が流出する部分と、発振回路301とフィルタ302を接続する部分とを含む。フィルタ付発振器300においては、磁気共鳴を用いたフィルタ302に、電流が発生する磁場を効率良く印加できるように、導体103と、磁気共鳴を用いたフィルタ302を配置することが望ましい。
【0036】
磁気共鳴を用いたフィルタを利用したフィルタ付発振器300には、例えばYIG発振器を用いることができる。YIGとはYttrium Iron Garnet/YFe(FeOの略である。YIG発振器は発振回路とYIGにより構成される。YIGは球状が好ましい。YIGの単結晶フェライトで作った球は、磁場を印加すると鋭い磁気共鳴を示すため、その周波数の信号を通過させるフィルタとして機能する。発振回路に電流を流すと発振が生じ、フィルタとして機能するYIGに発振信号を通過させることで、発振は鋭いピークのスペクトルとなって出力される。
【0037】
YIGが通過させる信号の周波数は、印加磁場の大きさにおおよそ比例する磁気共鳴周波数で決定される。従って、磁気共鳴を用いたフィルタを利用したフィルタ付発振器300においても、高周波で発振させるためには大きな外部磁場が必要となる。
【0038】
発振部101に、交流ジョセフソン効果を用いた発振素子を用いることもできる。交流ジョセフソン効果は、2つの超伝導体を接続したジョセフソン接合部に閾値以上の直流電流を供給すると、接合部に交流電流が流れる効果である。さらに、外部磁場をジョセフソン接合部に印加することで、交流の周波数を変化できることが知られている。したがって、交流ジョセフソン効果を用いた発振素子は、外部磁場により周波数可変な発振部として用いることができる。
【0039】
発振部101に、ゼーマンレーザーを用いることもできる。ゼーマンレーザーは、磁場により原子のエネルギー準位が分裂するゼーマン効果を用いたレーザーであり、磁場と電流をレーザー発振部に印加すると、周波数の異なる2つの偏光成分を発振する。さらに磁場により、発振周波数を変化できることが知られている。したがって、ゼーマンレーザーは、外部磁場により周波数可変な発振部として用いることができる。
【0040】
図4は実施形態1に係る発振器100を使用するための周辺回路の一例を示す図である。周辺回路400は、直流電流源402と、負荷404と、インダクタLaと、キャパシタCaとからなる。インダクタLaは発振器100が発振した高周波出力の直流電流源402への流入を防ぎ、キャパシタCaは直流電流の負荷404への流入を防ぐことができる。
【0041】
直流電流源402から直流電流を発振器100に供給すると、発振器100は高周波を出力する。高周波の信号はインダクタLaに比較してインピーダンスが小さいキャパシタCaを主に通過し、負荷404で検出される。
【0042】
以後の実施形態の説明においては、周辺回路400は省略する。
【0043】
(実施形態2)
実施形態2では、実施形態1に比較して、より強い磁場を発振部に印加する磁場印加部を設けた発振器について説明する。
【0044】
図5は実施形態2に係る発振器の模式図である。実施形態2に係る発振器500は、発振部101と、発振部101に直列に接続された導体103aと導体103bと、電流増幅部104とを有する。導体103bは磁場印加部であるループ部を有し、ループ部はインダクタ502で表現される。発振部101は電流増幅部104の入力端に直列に接続され、ループ部は電流増幅部104の出力端に直列に接続されている。
【0045】
発振部101に直流電流Iを流すと、電流増幅部104は増幅電流Iを発生させる。ループ部は増幅電流Iが流れることによって、第1の磁場Hを発生させる。ループ部は、第1の磁場Hが発振部101が発振するための閾値磁場よりも大きくなるように配置されている。
【0046】
実施形態2は、磁場印加部であるループ部を構成してより強い磁場を発振部101に印加できる。したがって実施形態2は、素子を電流から保護しつつより高周波の発振を得たい場合に、より好ましい形態である。
【0047】
さらに、ループ部は、発振部101が発振した電力を電磁場として放出するアンテナとしても使用することができる。したがって、発振器から電磁場を外部へ放出させる場合、あらたにアンテナを設ける必要がなくなり、発振器全体の小型化が可能になる。ここでアンテナとは、波長より十分大きい距離へ電磁波を伝送させるためのアンテナだけでなく、波長と同程度、または波長より小さい距離へ電磁場を伝送させるアンテナや共振器を意味する。
【0048】
(実施形態3)
図6は実施形態3に係る模式図である。実施形態3に係る発振器600は、発振部101と、発振部101に直列に接続された導体103aと導体103bと、磁石601と、電流増幅部104を有する。発振部101は電流増幅部104の入力端に直列に接続され、導体103bは電流増幅部104の出力端に直列に接続されている。
【0049】
実施形態3では、磁石102は2つで例示しているが、1つでも発振部101に印加される磁場とすることができればよい。ただし磁石601は、1つより2つ配置する方が、発振部101に印加される磁場の偏りが少なくなるので好ましい。磁石601は第2の磁場として、発振部101に磁場Hを印加するように配置されている。また磁石は、コバルト、鉄、ニッケル、クロムなどの磁性金属とその合金、又は、磁性合金にボロンを混入した合金などで構成されるハードバイアス膜を用いてもよい。
【0050】
発振部101に直流電流Iを流すと、電流増幅部104は増幅電流Iを発生させる。導体103bは増幅電流Iが流れることによって発振部101の位置に第1の磁場Hを発生させる。導体103bは、第1の磁場Hと第2の磁場Hとの合成磁場が閾値磁場より大きくなるように配置されている。
【0051】
また、磁石601の位置を変化させることで印加磁場強度を調整すれば、発振部101の発振周波数を変化できる。
【0052】
第2の磁場を印加する磁場印加手段は磁石に限られず、例えば、外部の配線、または外部のコイルや電磁石を用いることができる。
【0053】
実施形態3は、第1の磁場Hと第2の磁場Hとの合成磁場とにより、比較的強い磁場を発振部101に印加できる。したがって、より高周波数での発振を得たい場合に、より好ましい実施形態である。
【0054】
(実施形態4)
実施形態4では、実施形態2と実施形態3の構成を併用し、より強い磁場を発振部101に印加でき、さらに高周波の発振を得ることができる。
【0055】
図7は実施形態4に係る発振器の模式図である。実施形態4に係る発振器700は、発振部101と、発振部101に直列に接続された導体103aと導体103bと、磁石601と、電流増幅部104を有する。導体103bは磁場印加部であるループ部を有し、ループ部はインダクタ502で表現される。発振部101は電流増幅部104の入力端に直列に接続され、ループ部は電流増幅部104の出力端に直列に接続されている。
【0056】
発振部101に直流電流Iを流すと、電流増幅部104は増幅電流Iを発生させる。磁場印加部であるループ部は増幅電流Iが流れることによって発振部101の位置に第1の磁場Hを発生させる。ループ部は、第1の磁場Hと第2の磁場Hとの合成磁場が閾値磁場より大きくなるように配置されている。
【0057】
実施形態4は、磁場印加部であるループ部が増幅電流により発生させる第1の磁場Hと、外部磁場印加機構による第2の磁場Hとの合成磁場とにより、比較的強い磁場を発振部101に印加できる。したがって、さらに高周波数での発振を得たい場合に、より好ましい実施形態である。
【0058】
(実施形態5)
電流増幅手段の配置は、実施形態1から4で示したように、発振部101と電流増幅手段が直列である配置に限らない。導体103bを流れる電流の大きさが、発振部101を流れる電流よりも大きくなる構成ならばよい。実施形態5では、発振部101と電流増幅手段が並列となるように配置する。
【0059】
図8は実施形態5に係る発振器の模式図である。実施形態5に係る発振器800は、発振部101と、発振部101に直列に接続された導体103aと導体103bとを有する。さらに発振器800は、発振部101と電気的並列に電流増幅部104を有する。発振部101の入力端は電流増幅部104の入力端に接続され、発振部101の出力端は電流増幅部104の出力端に接続されている。
【0060】
発振器800に直流電流Iを流すと、電流増幅部104は増幅電流を発生させる。導体103bは、発振部101を通過した電流と増幅電流を足した電流Iが流れることによって、第1の磁場Hを発生させる。導体103bは、第1の磁場Hが発振部101が発振するための閾値磁場よりも大きくなるように配置されている。
【0061】
実施形態5は、直流電流Iを発振部101と電流増幅部104に分流するため、発振部101に流れる電流をより小さくできる。発振部101の耐電流が小さく、素子を電流から保護しつつ高周波の発振を得たい場合に、より好ましい形態である。
【0062】
実施形態5では、発振部101の入力端と電流増幅部104の入力端が接続されている形態を説明したが、電流増幅部104の入力端が外部の電流供給源に接続されている構成を用いることもできる。その構成においても、導体103bを流れる電流の大きさを、発振部101を流れる電流よりも大きくすることができる。
【0063】
(実施形態6)
実施形態5では発振部101と電流増幅部104とが並列となる配置を説明したが、実施形態6では、直列に接続された磁場印加部と電流増幅部104とを、発振部101に並列に接続して構成した発振器を示す。
【0064】
図9は実施形態6に係る発振器の模式図である。実施形態6に係る発振器800bは、発振部101と、発振部101に直列に接続された導体103aと導体103bと、電流増幅部104と、磁場印加部とを有する。磁場印加部はループ部からなり、インダクタ502で表現する。電流増幅部104とループ部とは直列に接続されており、その直列接続は発振部101に並列に接続されている。電流増幅部104の入力端は発振部101の入力端に接続され、電流増幅部104の出力端はループ部に直列に接続されている。
【0065】
発振器800bに直流電流Iを流すと、電流増幅部104は増幅電流Iを発生させる。磁場印加部であるループ部は、増幅電流Iが流れることによって、第1の磁場Hを発生させる。ループ部は、第1の磁場Hが発振部101が発振するための閾値磁場よりも大きくなるように配置されている。
【0066】
実施形態6は、直流電流Iを発振部101と電流増幅部104に分流するため、発振部101に流れる電流をより小さくできる。発振部101の耐電流が小さく、素子を電流から保護しつつ高周波の発振を得たい場合に、より好ましい形態である。
【0067】
実施形態6では、発振部101の入力端と電流増幅部104の入力端が接続されている形態を説明したが、電流増幅部104の入力端が外部の電流供給源に接続されている構成を用いることもできる。その構成においても、導体103bを流れる電流の大きさを、発振部101を流れる電流よりも大きくすることができる。
【0068】
本発明の発振器は上記の実施形態に限らず、例えば、発振部101に印加される磁場は、閾値磁場に比較して小さく、さらに別の磁場を印加することで発振させる強度でもよい。また、閾値磁場が0[A/m]の発振部101に対して、所望の周波数で発振を生じさせるために、実施形態1から6を用いても良い。さらに、磁場印加部としてループ部を用いる形態を説明したが、磁場印加部はループ部に限らない。たとえば磁場印加部は、ループを完全に形成するまでには至らない半周巻きの形状や、直線状や曲線状などの他形状で構成してもよい。
【0069】
(実施形態7)
実施形態7では、実施形態1の発振器100において、発振部101を整流部と置き換え、さらに直流電流Iを交流電流IACにすることで、交流を直流に変換する整流器を示す。とくに実施形態7では、整流部を磁気抵抗効果素子205とする
【0070】
図10は、実施形態7の整流器900の模式図を示す。実施形態7における整流器900では、実施形態1の直流電流Iを交流電流IACとし、発振部101に置き換えた整流部として磁気抵抗効果素子205を用いる。導体103を介して交流電流IACを磁気抵抗効果素子205に印加すると、導体103bは増幅された交流電流IAC−Aによって磁場HACを発生する。導体103bは、磁場HACが磁気抵抗効果素子205に印加されるように配置する。この磁場HACが、後述するスピントルクFMR(Ferromagnetic Resonance)効果が生じるのに必要な閾値磁場を越えている場合、磁気抵抗効果素子205は交流を直流に変換する。すなわち、実施形態7の整流器900は整流器となる。ここで閾値磁場とは、磁気抵抗効果素子205に交流電流が供給されている場合に、磁気抵抗効果素子205がスピントルクFMR効果を発現するために最低限必要な磁場の大きさである。
【0071】
ここでスピントルクFMR効果について説明する。図2における磁気抵抗効果素子205に、各層の面直方向に交流電流を印加する場合を考える。交流の半周期で電子208がピン層206aからフリー層206bへ注入される場合は、フリー層206bとピン層206aの磁化が平行になるようにフリー層206bの磁化方向が回転し、磁気抵抗効果素子205の抵抗値が下がる。逆にフリー層206bからピン層206aへ電子208が注入される半周期では、フリー層206bとピン層206aの磁化方向は互いに反平行になるようにフリー層の磁化方向が回転し、抵抗値が上がる。交流電流により、この抵抗変化の現象が交互に起きて、振動電圧とともに直流電圧成分が発生する。すなわち交流を直流に変換する整流作用を示す。これをスピントルクFMR効果とよぶ。スピントルクFMR効果が発生する周波数、つまり整流周波数は印加磁場によるため、所望の周波数でスピントルクFMR効果を発生させるのに十分な磁場を印加する必要がある。
【0072】
導体103bは整流部である磁気抵抗効果素子205の極近傍に配置できる。導体103bは増幅された交流電流IAC−Aにより、閾値以上の強い磁場を整流部に印加できる。したがって、整流器全体の小型化が可能になる。
【0073】
整流器900は、導体103bを流れる電流の大きさが整流部である磁気抵抗効果素子205を流れる電流よりも大きくなるように構成されている。したがって、整流部には大電流が流れないため、整流部を過電流から保護することが可能である。
【0074】
整流部には、磁気抵抗効果素子だけでなく、例えば、ジョセフソン素子を用いることもできる。
【0075】
電流増幅手段である電流増幅部は、トランジスタ、市販のチップ形状のアンプ、または増幅回路などを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0076】
図11は実施形態7に係る整流器900を使用するための周辺回路の一例を示す図である。周辺回路1000は、交流電流源1002と、負荷1004と、インダクタLaと、キャパシタCaとからなる。インダクタLaは交流電流の負荷1004への流入を防ぎ、キャパシタCaはスピントルクFMR効果により発生した直流の交流電流源1002への流入を防ぐことができる。
【0077】
交流電流源1002からの交流電流IACは、インピーダンスが小さいキャパシタCaを通過するが、インピーダンスが大きいインダクタLaはほとんど通過しない。そのため、交流電流IACは効率良く整流器900に供給される。整流器900は交流電流IACを直流に変換し、直流出力は負荷1004で検出される。
【0078】
以後の実施形態の説明において、周辺回路1000は省略する。
【0079】
(実施形態8)
実施形態8では、実施形態2から6において発振部101を置き換えた整流部として磁気抵抗効果素子205を用い、さらに直流電流Iを交流電流IACにすることで、増幅電流IAC−Aにより発生する磁場HACを磁気抵抗効果素子205に効率良く印加する。実施形態8は、磁気抵抗効果素子205に交流電流IACと磁場HACが印加されることで、スピントルクFMR効果により磁気抵抗効果素子205は交流を直流に整流するため、整流器となる。
【0080】
さらに、磁場印加部であるループ部を、外部からの電磁場を受けて整流器へ電力を供給するアンテナとしても使用することができる。したがって、整流器に外部から電磁場を供給する場合、あらたにアンテナを設ける必要がなくなり、整流器の小型化が可能になる。ここでアンテナとは、波長より十分大きい距離から到来する電磁波を受信するためのアンテナだけでなく、波長と同程度、または波長より小さい距離からの電磁場を受信するアンテナや共振器も意味する。
【0081】
本発明の整流器は上記の実施形態7と8に限られず、例えば、磁気抵抗効果素子205に印加される磁場は、スピントルクFMR効果が生じるための閾値磁場に比較して小さく、別の磁場を印加することでスピントルクFMR効果を発現させる強度でもよい。また、閾値磁場が0[A/m]の磁気抵抗効果素子205に対して、所望の周波数でスピントルクFMR効果を生じさせるために、本発明を用いても良い。さらに、整流器においても、磁場印加部はループ部に限らない。たとえば磁場印加部は、ループを完全に形成するまでには至らない半周巻きの形状や、直線状などの他形状で構成してもよい。
【0082】
(実施形態9)
実施形態9では、実施形態7または8で説明した整流器において、交流電流IACを信号電流にすることで、信号電流により発生する磁場を磁気抵抗効果素子205に効率良く印加する。実施形態9は、磁気抵抗効果素子205に信号電流と、信号電流により発生する磁場が印加されることでスピントルクFMR効果が生じ、信号電流を直流に整流して受信するので、受信器となる。
【0083】
(実施形態10)
実施形態10では、発振部の出力を無線伝送するために、発振器と直流的に絶縁した電気回路に、発振部の出力を電磁気的な結合で伝送する手段を設ける。電磁気的な結合には、電磁誘導による誘導結合、容量による結合、電磁気的な共鳴による結合、電磁波による結合などがあげられる。実施形態10では、誘導結合を用いた実施形態を説明する。
【0084】
図12は、実施形態10に係る送信装置1100の回路図である。送信装置1100は、第1の電気回路1101と第2の電気回路1102とを有する。第1の電気回路1101は、実施形態2の発振器500と電気回路1105とを有する。発振器500のループ部は、第1のインダクタ502で表現する。ここでは図の簡略化のため、実施形態2の電流増幅部104は省略して図示していない。第2の電気回路1102は、導体1107と電気回路1106とを有する。電気回路1106は、送信装置1100の外部へ信号を送信するアンテナを、図示しないが備えている。導体1107はループ部を有し、それを第2のインダクタ1104で表現する。発振器500と第2の電気回路1102は直流的に絶縁されている。第1のインダクタ502と第2のインダクタ1104とは直流的には絶縁されているが、誘導結合している。
【0085】
発振器500が発振すると第1のインダクタ502には時間変動する電流が流れ、誘導結合により第2のインダクタ1104を介して、電気回路1102に電気回路1101による信号が伝送される。
【0086】
誘導結合の部分においてインピーダンス整合を考慮すれば、誘導結合部において反射が低減されるため、信号伝送がより効率的に行われる。第1の電気回路1101のインピーダンスをZ1、第2の電気回路1102のインピーダンスをZ2とする。この2つの電気回路のインピーダンスを整合させるために、第1のインダクタ502と第2のインダクタ1104の巻き数を調節する。本手法はトランスによるインピーダンス整合の手法として知られている。下の数式(2)を満たすように第1のインダクタ502の巻き数N1と、第2のインダクタ1104の巻き数N2を決定すれば、第1の電気回路1101と第2の電気回路1102のインピーダンスが整合する。
(N1/N2)=Z1/Z2・・・(2)
【0087】
発振部101に印加する磁場の大きさはインダクタの巻き数により調整できる。インピーダンス整合のために第1のインダクタ502の巻き数N1が調整されると、発振部101に印加する磁場が変更されるので、第2のインダクタ1104の巻き数N2が調整されるのが望ましい。
【0088】
第1のインダクタ502と第2のインダクタ1104は、たとえばループ部の軸部分に鉄芯やその他の磁石を配置した構成や、トロイダルコアに第1のインダクタ502と第2のインダクタ1104を設けた構成であっても良い。その構成は、誘導結合を強めたい場合に好ましい形態である。
【0089】
発振器として実施形態2の発振器500を例にあげて説明したが、発振器は特に限定されず、例えば、他の実施形態における発振器を用いることができる。
【0090】
(実施形態11)
実施形態11では、実施形態10の発振器500において、発振部101を磁気抵抗効果素子205を用いた整流部に置き換える。実施形態11は、導体1107に交流電流IACを流すと、誘導結合した第1のインダクタ502が発生する磁場と電流が、磁気抵抗効果素子205に印加されるので、磁気抵抗効果素子205はスピントルクFMR効果により交流電流から直流電圧を発生させる整流装置となる。
【0091】
整流装置の構成は、実施形態10の発振器500における発振部101を磁気抵抗効果素子205を用いた整流部に置き換える構成に限らない。実施形態11では実施形態2の発振器500を用いているが、実施形態1から6におけるいずれの発振器を用いてもよい。その発振器の発振部101を整流部である磁気抵抗効果素子205におきかえても整流装置を構成することができる。その構成で、導体1107に交流電流IACを流すと、電磁的な結合により発生する磁場と電流が、磁気抵抗効果素子205に印加されるので、磁気抵抗効果素子205はスピントルクFMR効果により交流電流から直流電圧を発生させる整流装置となる。ここで電磁気的な結合とは、電磁誘導による誘導結合、容量による結合、電磁気的な共鳴による結合、電磁波による結合などを意味するが、これに限ったものではない。
【0092】
(実施形態12)
実施形態12では、実施形態11で説明した整流装置において、導体1107に信号電流を流すと、電磁的な結合により発振器内で発生する磁場と電流が、磁気抵抗効果素子205に印加される。実施形態12は、磁気抵抗効果素子205はスピントルクFMR効果により信号電流を直流に整流して受信するので、受信装置となる。ここで電磁気的な結合とは、電磁誘導による誘導結合、容量による結合、電磁気的な共鳴による結合、電磁波による結合などを意味するが、これに限ったものではない。
【0093】
(実施形態13)
発振部101に磁場を印加する導体を、通信用のアンテナとして利用する実施形態13を説明する。
【0094】
図13は実施形態13に係る送受信装置を示す図である。送受信装置1200は発振器1201aと受信器1201bからなる。発振器1201aは、1例として実施形態2を用いる。つまり発振器1201aは、発振部101と、発振部101に直列に接続され発信信号を入力する導体103aと導体103bとを有し、導体103bはループ部1202aを有する。ここでは図の簡略化のため、電流増幅部は省略して図示していない。受信器1201bはループ部1202aが発生した電磁場を受ける手段を有する導体1202bと、導体1202bが受けた電磁場を受信信号に変換する変換部1203とを有する。
【0095】
送受信装置1200の動作を説明する。ここでの説明においては、通信符号化方式にNRZ(Non−Return−to−Zero)を用いる。NRZは信号が「1」の時に電圧はゼロでなく、信号が「0」の時に電圧をゼロとする符号化方式である。但し、本発明で用いることができる符号化方式はこれに限ったものではない。
【0096】
信号値が「1」の時は、ループ部1202aと発振部101とに「1」の時間間隔だけ電流が流れ、ループ部1202aは磁場Hを発生させる。発振部101は発振に必要な電流と磁場Hが印加されることによって、所望の周波数で発振する。ループ部1202aは発振した電圧が印加されることで、磁場Hと重畳して電磁場EMを発生させる。電磁場EMは受信器1201bの導体1202bで受信される。受信された電磁場は変換部1203において受信信号に変換され、信号値「1」が伝達される。
【0097】
信号値が「0」の時は、発振部101に電流が流れず、磁場も発生しないので、電磁場は受信器1201bに伝送されない。つまり、信号値「0」が伝達される。
【0098】
本実施形態では、発振部101に磁場を印加するために設けたループ部1202aを、無線伝送に使用するアンテナとしても利用する。したがって、新たに無線伝送用のアンテナを設ける必要がなくなり、送受信装置の小型化が実現できる。
【0099】
また、信号値が「0」の時はループ部1202aに電流が流れないため、通信に不要な電磁場が発生しない。つまり本実施形態は、省電力化、低ノイズ化の効果も期待できる。
【0100】
ループ部1202aと導体1202b間の伝送は、例えば2つのループ部を対向させる電磁誘導法や、インダクタンスとキャパシタンスとで共振周波数が決まるLC共鳴による電磁共鳴法、パターン導体の線路長により共振周波数が決まる電磁共鳴法、導体間の容量による結合などを利用できる。
【0101】
変換部1203は磁気抵抗効果素子205であっても良い。信号値「1」の時間間隔で発振部101が発振した高周波出力が、ループ部1202aと導体1202bを介して磁気抵抗効果素子205に入力されると、磁気抵抗効果素子205はスピントルクFMR効果により、高周波出力を直流出力に変換する。つまり、高周波出力となって伝送された信号値「1」を復調する。
【0102】
磁気抵抗効果素子205を、ループ部1202aと導体1202bとで生じる磁場を印加できるように配置することで、磁気抵抗効果素子205に磁場を印加する機構を小型化または不要とすることができ、送受信装置の小型化を実現できる。
【0103】
実施形態13では発振器1201aに実施形態2の発振器を使用する場合を示したが、実施形態2に限らず、他の実施形態の発振器を用いることもできる。受信器1201bは、実施形態9で説明した受信器を使用することができる。つまり、発振器と受信器を同じ構成として送受信装置を構成することが可能であるし、あるいはまた、発振器と受信器を異なる構成として送受信装置を構成することも可能である。それらの送受信装置では、磁場を印加する導体部を無線伝送に使用するアンテナとしても利用する。したがって、新たに無線伝送用のアンテナを設ける必要がなくなり、送受信装置の小型化が実現できる。ここでアンテナとは、波長より十分に大きい距離間での通信に用いるアンテナだけでなく、波長と同程度、または波長より小さい距離間の通信に用いるアンテナや共振器、その他の無線伝送部も含む。
【0104】
また、本実施形態は無線給電に応用することが可能である。入力を常に信号値が「1」の状態とすれば、常に発振信号すなわちエネルギーが受信器1201bに供給されるので、無線電力供給が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明に係る発振器または整流器、送信装置または整流装置および送受信装置は、無線通信や無線電力給電などに利用可能である。
【符号の説明】
【0106】
101…発振部、I…電流、103…導体、103a…発振部に電流を流入する導体、103b…発振部から電流を流出させる導体、104…電流増幅部、H…磁場、205…磁気抵抗効果素子、502…インダクタ、601…磁石、HAC…磁場、1101、1102…電気回路、1104…インダクタ、1201a…発振器、1201b…受信器、1202a…ループ部、1202b…導体、1203…変換部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13