(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2の外部電極の表面を覆うように形成された第1のめっき層を更に含み、該第1のめっき層は、NiおよびCuの少なくとも1つを含み、該第1のめっき層の厚さは3〜10μmである、請求項1〜5のいずれか1項に記載のチップ型セラミック半導体電子部品。
前記第2の外部電極の、前記第1の外部電極の表面からの厚さと、前記第1のめっき層の厚さとの比が、5:1〜1:1である、請求項6に記載のチップ型セラミック半導体電子部品。
前記セラミック素体の内部に配置された2以上の内部電極を更に含み、前記第1の外部電極が前記内部電極と電気的に接続している、請求項1〜7のいずれか1項に記載のチップ型セラミック半導体電子部品。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。但し、以下に示す実施形態は例示を目的とするものであり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。特に、以下に示す実施形態はPTCサーミスタを例として説明しているが、本発明はPTCサーミスタに限定されず、NTCサーミスタ、バリスタおよびコンデンサ等の他のチップ型セラミック半導体電子部品についても同様に実施することができる。なお、以下に説明する構成要素の寸法、材質、形状、相対的配置等は、特定的な記載がない限りは本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。また、各図面が示す構成要素の大きさ、形状、位置関係等は説明を明確にするため誇張していることがある。
【0013】
[第1の実施形態]
図1に、第1の実施形態に係るチップ型セラミック半導体電子部品の概略断面図を示す。
図1に示すチップ型セラミック半導体電子部品1は、セラミック半導体を含むセラミック素体2と、
セラミック素体2の両端面21に形成された1対の第1の外部電極3と、
第1の外部電極3を覆い且つセラミック素体2の側面22の一部に延在するように形成された1対の第2の外部電極4とを含む。
【0014】
本実施形態において、セラミック素体2は、正の抵抗温度特性を有するN型半導体を主成分として含む。N型半導体としては、例えば、((Ba,Pb,Sr,Ca)
0.0096Er
0.004)TiO
3を用いることができる。セラミック素体2は、N型半導体を99.5〜99.9重量%程度含むことが好ましい。セラミック素体2は、N型半導体に加えて、SiO
2やMnO
2を更に含んでよい。セラミック素体2の組成は、例えばICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析やXRF(蛍光X線分析)により測定することができる。
【0015】
1対の第1の外部電極3は、セラミック素体2の両端面21に形成される。なお、本明細書において、セラミック素体2の長手方向に対して垂直な2つの面を「端面」21とよび、両端面21に対して垂直な4つの面を「側面」22とよぶ。第1の外部電極3は、セラミック素体2の端面21の全面に形成されてよく、または端面21の一部に形成されてもよい。本実施形態において、第1の外部電極3は、セラミック素体2に対してオーミック性を有する。第1の外部電極3の詳細については後述する。
【0016】
1対の第2の外部電極4は、第1の外部電極3を覆い且つセラミック素体2の側面22の一部に延在するように形成される。第1の外部電極3がセラミック素体2の端面21の全面に形成されている場合、第2の外部電極4は、第1の外部電極3の周囲全体を覆い、かつセラミック素体2の側面22の一部に延在するように形成される。第1の外部電極3がセラミック素体2の端面21の一部に形成されている場合、第2の外部電極4は、第1の外部電極3の周囲全体と、第1の外部電極3が形成されていないセラミック素体2の端面21とを覆い、かつセラミック素体2の側面22の一部に延在するように形成される。上述のいずれの場合においても、第2の外部電極4は、第1の外部電極3が形成されたセラミック素体2の端部全体を覆うように形成される。第2の外部電極4は、実装時のはんだ付け性を向上させるため、および第1の外部電極内に含まれる金属元素の酸化を防止するために設けられる。第2の外部電極4がセラミック素体2の側面22の一部に延在するように形成されていることにより、チップ型セラミック半導体電子部品1を基板に実装するときに、基板とチップ型セラミック半導体電子部品1との接続性を確保することができる。
【0017】
第2の外部電極4は、導電剤と、500℃以下の温度で硬化された熱硬化性樹脂とを含む。第2の外部電極4がこのような構成を有することにより、従来の焼き付け等の高温での熱処理よりも低温で第2の外部電極4を形成することができる。その結果、得られるチップ型セラミック半導体電子部品1において、実装前後における抵抗値の変化率のばらつきを抑制することができる。
【0018】
本発明に係るチップ型セラミック半導体電子部品において実装前後での抵抗値の変化率のばらつきを小さくすることができるメカニズムは、いかなる理論にも拘束されるものではないが、凡そ以下の通りであると考えられる。
【0019】
第2の外部電極4を形成する際に熱処理を行う場合、第1の外部電極3にも熱が加えられる。第1の外部電極3に熱が加えられることにより、第1の外部電極3に含まれる金属元素の一部が酸化される傾向にある。また、熱が加えられることにより、第1の外部電極3に含まれる金属元素の一部が第1の外部電極3の内部において拡散して偏析する傾向にある。このように第1の外部電極3において金属酸化物が形成されること、および第1の外部電極3中に存在する金属元素の一部、特に上述の金属酸化物が拡散して第1の外部電極3において偏析することが、チップ型セラミック半導体電子部品における実装前後での抵抗値の変化率のばらつきが大きくなる原因であると考えられる。本発明において、第2の外部電極4の材料として500℃以下で硬化可能な熱硬化性樹脂を用いることにより、500℃以下の比較的低い温度で第2の外部電極4を形成することができる。これにより、第1の外部電極3における金属酸化物の形成を抑制することができ、第1の外部電極3中に存在する金属元素の一部、特に上述の金属酸化物の拡散および偏析を抑制することができる。その結果、得られるチップ型セラミック半導体電子部品1において、実装前後での抵抗値の変化率のばらつきが抑制されると考えられる。
【0020】
第1の外部電極3において金属酸化物が形成されること、および第1の外部電極3中に存在する金属元素の一部、特に上述の金属酸化物が拡散して第1の外部電極3において偏析することが、抵抗値の変化率のばらつきをもたらす要因の一つとして、以下のことが推測される。チップ型セラミック半導体電子部品1を基板に実装する際、チップ型セラミック半導体電子部品1に応力が加わることがある。第1の外部電極3中に存在する金属元素の一部、特に第2の外部電極4の形成時に生じ得る金属酸化物が第1の外部電極3の内部で偏析している場合、上述の応力が加わることにより、偏析の生じている部分に亀裂が生じる可能性がある。この亀裂の発生により、抵抗値の変化率のばらつきが生じるおそれがあると考えられる。本実施形態に係るチップ型セラミック半導体電子部品1においては、第1の外部電極3における金属元素の偏析を抑制することができるので、実装時に応力が加わった場合であっても、亀裂の発生を防止することができる。
【0021】
加えて、本実施形態に係るチップ型セラミック半導体電子部品1は、第2の外部電極4が熱硬化性樹脂を含んでいることにより、良好なたわみ強度を示す。そのため、チップ型セラミック半導体電子部品1において亀裂が発生しにくくなる。更に、本実施形態に係るチップ型セラミック半導体電子部品1は、製造プロセスにおいて、消費電力の大きい高温での第2の外部電極の焼き付け工程が不要であるので、製造コストを削減することができる。
【0022】
更に、第1の外部電極3において金属酸化物が形成されること、および第1の外部電極3中に存在する金属元素の一部、特に上述の金属酸化物が拡散して第1の外部電極3において偏析することにより、得られるチップ型セラミック半導体電子部品1において、室温における抵抗値の増大がもたらされ得る。本実施形態に係るチップ型セラミック半導体電子部品1は、金属酸化物の形成、金属元素(特に金属酸化物)の拡散および偏析が抑制されることにより、得られるチップ型セラミック半導体電子部品1において、室温における抵抗値の増大を抑制するという効果ももたらすことができる。この効果は、チップ型セラミック半導体電子部品1がPTCサーミスタである場合に特に有効である。PTCサーミスタの室温における抵抗値の増大を抑制することにより、室温における抵抗値と、キュリー温度より高い温度における抵抗値との差を大きくすることができ、PTCサーミスタの特性を向上させることができる。
【0023】
第2の外部電極4は、導電剤と、250℃以下の温度で硬化された熱硬化性樹脂とを含むことが好ましい。このような構成を有することにより、250℃以下のより一層低い温度で第2の外部電極4を形成することができるので、第1の外部電極3中に存在する金属元素の酸化、拡散および偏析をより一層効果的に防止することができる。その結果、チップ型セラミック半導体電子部品1において、実装前後での抵抗値の変化率のばらつきをより一層小さくすることができる。
【0024】
本実施形態において使用可能な熱硬化性樹脂は、500℃以下、好ましくは250℃以下の温度で硬化可能な熱硬化性樹脂であり、例えば、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂等が挙げられるが、これに限定されない。1種類の熱硬化性樹脂を単独で用いてよく、または2種類以上を混合して用いてもよい。
【0025】
本実施形態において使用可能な導電剤としては、例えば、Ag、AgPdおよびCu等の少なくとも1つを含む金属粒子が挙げられるが、これに限定されない。導電剤として用いられる金属粒子は、金属の単体からなる粒子であってよく、または上述の金属元素の少なくとも1つを含む合金からなる粒子であってもよい。上述の金属粒子は、1種類を単独で用いてよく、または2種類以上を組み合わせて用いてもよい。導電剤として用いられる金属粒子の平均粒径は、約1.0〜15μm程度であることが好ましい。このような導電剤を用いることにより、基板に対する実装性が高く、はんだ付け性に優れたチップ型セラミック半導体電子部品を得ることができる。
【0026】
本実施形態において、第2の外部電極4は、熱硬化性樹脂を10〜30重量%、導電剤を70〜90重量%含むことが好ましい。熱硬化性樹脂の含有量が10重量%以上であると、電極の強度を向上させることができる。熱硬化性樹脂の含有量が30重量%以下であると、十分な導電性を確保することができる。導電剤の含有量が70重量%以上であると、十分な導電性を確保することができる。導電剤の含有量が90重量%以下であると、電極の強度を向上させることができる。第2の外部電極4の組成は、例えばICP発光分光分析やXRFにより測定することができる。
【0027】
第2の外部電極の、第1の外部電極の表面からの厚さは、1〜35μmであることが好ましい。厚さが1〜35μmであると、実装時に起こり得るはんだ爆ぜを効果的に防止することができる。チップ型セラミック半導体電子部品1をリフロー実装等により基板に実装するとき、電極中に含まれ得る水分が気化し、電極から吹き出すことがある。この水蒸気等の水分が電極から吹き出すことにより、はんだが吹き飛ばされて基板上に散らばることがある。この現象は、一般に「はんだ爆ぜ」とよばれている。第2の外部電極4の厚さを35μm以下にすることにより、第2の外部電極4に含まれ得る水分の絶対量を少なくすることができ、その結果、はんだ爆ぜを効果的に防止することができる。
【0028】
図2に、本実施形態に係るチップ型セラミック半導体電子部品1の一の変形例の概略断面図を示す。なお、
図2は、第1の外部電極3が3層構造である実施形態を示しているが、本変形例において、第1の外部電極3は、単一の層で構成されてもよい。
図2に示すように、チップ型セラミック半導体電子部品1は、第2の外部電極4の表面を覆うように形成された第1のめっき層51を更に含んでよい。第1のめっき層51は、NiおよびCuの少なくとも1つを含む層である。第1のめっき層51を含むことにより、リフロー実装等によりチップ型セラミック半導体電子部品1を実装する際に起こり得るはんだ爆ぜをより一層効果的に防止することができる。第1のめっき層51は、実装時に第2の外部電極4の内部から水分が吹き出るのを防ぐ働きをする。また、第1のめっき層51は、周囲環境から水分がチップ型セラミック半導体電子部品1内に侵入するのを防ぐ働きもする。更に、第1のめっき層51は、周囲環境の温度、湿度等による電子部品の特性の劣化を防ぎ、電子部品の耐熱性を向上させることもできる。
【0029】
第1のめっき層51の厚さは3〜10μmであることが好ましい。厚さが3μm以上であると、はんだ爆ぜをより一層効果的に防止することができる。厚さが10μm以下であると、チップ型セラミック半導体電子部品1の実装時に起こり得る第1のめっき層51の熱収縮によりセラミック素体2にクラックが発生するのを抑制することができる。
【0030】
第2の外部電極4の第1の外部電極3の表面からの厚さと、第1のめっき層51の厚さとの比は、5:1〜1:1であることが好ましい。上記範囲内であると、実装時のはんだ爆ぜをより一層効果的に防止することができる。
【0031】
図2に示すように、チップ型セラミック半導体電子部品1は、第1のめっき層51の表面を覆うように形成された第2のめっき層52を更に含んでよい。第2のめっき層は、少なくともSnを含む層である。チップ型セラミック半導体電子部品1は、第2のめっき層52を備えることにより、実装時におけるはんだの濡れ性が向上し、実装性が高くなる。第2のめっき層52の厚さは3〜10μmであることが好ましい。厚さが3μm以上であると、はんだの濡れ性を安定させることができる。厚さが10μm以下であると、セラミック素体2の表面におけるめっき成長を抑制することができる。セラミック素体2の表面におけるめっき成長は、実装時のショートを引き起こすおそれがあり、また、外観不良やオーミック性の変化(抵抗値のばらつき)等を引き起こすおそれがある。なお、
図2は、第1のめっき層51および第2のめっき層52を含む実施形態を示しているが、第2のめっき層52は省略することができる。
【0032】
本実施形態において、第1の外部電極3は、セラミック素体2に対してオーミック性を有するものである。第1の外部電極3は、単一の層で構成されてよく、2以上の層で構成されてもよい。第1の外部電極3が2以上の層で構成される場合、これら2以上の層のうち少なくともセラミック素体2に接している層がセラミック素体2に対してオーミック性を有していればよい。チップ型セラミック半導体電子部品1において、セラミック素体2に対してオーミック性を有する層がチップ型セラミック半導体電子部品1の抵抗特性に寄与する。第2の外部電極4は実質的に抵抗特性に寄与しない。
【0033】
まず、第1の外部電極3が単一の層で構成される場合について、
図1を参照して説明する。第1の外部電極3の組成は、セラミック素体2に対してオーミック性を有するように適宜選択することができる。本実施形態においては、第1の外部電極3は、Cr、Zn−Ag、Ti、W、ZnおよびVの少なくとも1つを主成分として含むことが好ましい。第1の外部電極3は、例えば、Cr、Zn−Ag、Ti、W、ZnおよびVの少なくとも1つからなるものであってよい。第1の外部電極3の厚さは、0.07〜1.0μmであることが好ましい。厚さが0.07μm以上であると、バレル研磨等の加工時にかかる外力に対する耐久性が向上し、十分なオーミック性を確保することができる。厚さが1.0.μm以下であると、製造コストを低減することができ、生産性を向上させることができる。第1の外部電極3の組成は、例えば、WDX(波長分散型X線分析)やSAM(走査型オージェ電子顕微鏡)により測定することができる。
【0034】
第1の外部電極3に含まれる金属元素は、第2の外部電極4を高温条件下で形成するときに熱が加えられると酸化される傾向にあり、また、第1の外部電極3の内部において拡散して偏析する傾向にある。偏析は、特に、第1の外部電極3と第2の外部電極4との界面において生じ得る。酸化された金属元素が拡散して偏析する場合、第1の外部電極3と第2の外部電極4との界面において金属酸化物の層が形成され得る。本発明は、第2の外部電極4を比較的低温で形成することができるので、このような酸化、拡散および偏析を効果的に防止することができる。その結果、実装前後での抵抗値の変化率のばらつきが小さいチップ型セラミック半導体電子部品1を得ることができる。
【0035】
次に、第1の外部電極3が2以上の層を含む場合について、
図2を参照して説明する。
図2において、第1の外部電極3は3つの層(31、32、33)を含んでいるが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、
図2に示すチップ型セラミック半導体電子部品1は、第1のめっき層51および第2のめっき層52を含んでいるが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、2以上の層を含む第1の外部電極3および第1のめっき層51を含み且つ第2のめっき層52を含まない構成や、2以上の層を含む第1の外部電極3を含み且つ第1のめっき層51および第2のめっき層52を含まない構成をとることもできる。
【0036】
第1の外部電極3が2以上の層を含む場合、それら2以上の層のうち、少なくともセラミック素体2に接している第1層31が、セラミック素体2に対してオーミック性を有していればよい。第1層31の組成は、セラミック素体2に対してオーミック性を有するように適宜選択することができる。本実施形態において、第1の外部電極3の第1層31は、Cr、Zn−Ag、Ti、W、ZnおよびVの少なくとも1つを含むことが好ましい。第1層31は、例えば、Cr、Zn−Ag、Ti、W、ZnおよびVの少なくとも1つからなるものであってよい。第1層31の厚さは、0.3〜1.0μmであることが好ましい。厚さが0.3μm以上であると、バレル研磨等の加工時にかかる外力に対する耐久性が向上し、十分なオーミック性を確保することができる。厚さが1.0μm以下であると、製造コストを低減することができ、生産性を向上させることができる。
【0037】
第1の外部電極3が2以上の層を含む場合、第1の外部電極3は、第1層31の上に形成された第2層32を更に含んでよい。第2層32は、オーミック性を有する第1層31と第2の外部電極4との接着性、あるいは、第1の外部電極3が後述の第3層33を含む場合には第1層31と第3層33との接着性を向上させるための層である。第2層32の組成は、第1層31および第2の外部電極4または第3層33の組成によって適宜設定することができる。本実施形態において、第2層32は、Niと、Cu、CrおよびVから選択される1以上の金属元素とを含む層である。第2層32は、Niを50〜80重量%含み、Cu、CrおよびVから選択される1以上の金属元素を20〜50重量%含むことが好ましい。第2層32の厚さは、0.5〜2.0μmであることが好ましい。厚さが0.5μm以上であると、抵抗値の変化率のばらつきを更に抑制することができる。厚さが2.0μm以下であると、製造コストを低減することができ、生産性を向上させることができる。
【0038】
第1の外部電極3の第2層32に含まれる金属元素は、第2の外部電極4が高温条件下で形成される場合、熱が加えられることにより酸化される傾向にあり、また、第1の外部電極3の内部において拡散して偏析する傾向にある。第1の外部電極3が後述の第3層33を含まない場合、偏析は、特に、第1の外部電極3の第2層32と第2の外部電極4との界面において生じ得る。酸化された金属元素が拡散して偏析する場合、第2層32と第2の外部電極4との界面において金属酸化物の層が形成され得る。第1の外部電極3が後述の第3層33を更に含む場合、偏析は、特に、第1の外部電極3の第2層32と第3層33との界面において生じ得る。酸化された金属元素が拡散して偏析する場合、第2層32と第3層33との界面において金属酸化物の層が形成され得る。金属元素の拡散および偏析のしやすさは、第2層32が接している層、即ち第2の外部電極4または第1の外部電極3の第3層33に含まれる金属元素との親和性によって決まる。例えば、第2層32が接している層(第2の外部電極4または第1の外部電極3の第3層33)がAgを主成分として含む場合、第2層32においては、Cu、Cr、V等が拡散および偏析しやすい傾向にある。本発明は、第2の外部電極4を比較的低温で形成することができるので、上述の酸化、拡散および偏析を効果的に防止することができる。その結果、実装後の室温における抵抗値が小さく、抵抗値の変化率のばらつきが小さいチップ型セラミック半導体電子部品1を得ることができる。
【0039】
第1の外部電極3は、第2層32の上に形成された第3層33を更に含んでよい。第3層33は、第1層31および第2層32の酸化を防止し、また、第1層31および第2層32を外力から保護する。第3層33は、第2の外部電極4に含まれる導電剤と同じ導電剤を含む。本実施形態において、第3層33は、Ag、AgPdおよびCuの少なくとも1つを含む層である。第3層33は、例えば、Agからなるものであってよい。第3層33の厚さは、例えば、0.5〜1.5μmに設定することができる。
【0040】
以上、セラミック素体の内部に内部電極が配置されていない第1の実施形態に係るチップ型セラミック半導体電子部品について説明してきたが、本発明は、下記の第2の実施形態において説明するように、セラミック素体の内部に内部電極が配置されているチップ型セラミック半導体電子部品にも同様に適用することができる。尤も、本発明は、セラミック素体の内部に内部電極が配置されていない第1の実施形態に係るチップ型セラミック半導体電子部品において特に効果的である。なぜなら、第1の実施形態に係るチップ型セラミック半導体電子部品においては、第1の外部電極の内部における金属元素の酸化、拡散、偏析が抵抗特性に与える影響が大きいからである。
【0041】
[第2の実施形態]
図3に、本発明の第2の実施形態に係るチップ型セラミック半導体電子部品1の概略断面図を示す。
図3に示すように、チップ型セラミック半導体電子部品1は、セラミック素体2の内部に配置された2以上の内部電極6を更に含む。本実施形態において、第1の外部電極3は、内部電極6と電気的に接続している。本実施形態において、第2の外部電極4、第1のめっき層51、第2のめっき層52については、第1の実施形態と同様の構成を有する。なお、本実施形態に係るチップ型セラミック半導体電子部品1は、第1のめっき層51および第2のめっき層52を含まなくてもよい。セラミック素体2、第1の外部電極3および内部電極6の構成については、所望の特性に応じて適宜設定することができる。セラミック素体2は、例えば、半導体セラミック材料である(Ba
0.998Sm
0.002)TiO
3を含んでよい。上記式中、半導体化剤であるSmは、LaやNd等の他の希土類元素で置き換えてもよい。内部電極6は、例えばNi電極であってよい。内部電極6の厚さは0.5〜2.0μmであることが好ましい。本実施形態においても、第2の外部電極4が比較的低温で形成することができるので、第1の外部電極3中に含まれる金属元素の酸化、拡散、偏析を防止することができる。その結果、実装前後での抵抗値の変化率のばらつきが小さいチップ型セラミック半導体電子部品を得ることができる。
【0042】
以上、PTCサーミスタを例として説明してきたが、本発明はPTCサーミスタに限定されるものではなく、NTCサーミスタ、バリスタ、コンデンサ等の他のチップ型セラミック半導体電子部品に適宜適用することができる。
【0043】
[チップ型セラミック半導体電子部品の製造方法]
以下、本発明に係るチップ型セラミック半導体電子部品の製造方法について、上述の第1の実施形態に係るチップ型セラミック半導体電子部品を例として説明するが、製造方法はこれに限定されるものではない。
【0044】
(マザー基板の作製)
まず、セラミック素体の原料として、BaCO
3、TiO
2、PbO、SrCO
3、CaCO
3等のセラミック原料およびEr
2O
3等の半導体化剤を所定量秤量する。半導体化剤としては、Er
2O
3の代わりに、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luからなる群から選択される少なくとも1つの希土類元素の酸化物などを用いてもよい。また、セラミック素体の原料として、上述のセラミック原料および半導体化剤に加えて、Mn
2O
3等の特性改善剤や、SiO
2等の焼結助剤を用いてもよい。秤量した各原料を、部分安定化ジルコニア(Partially Stabilized Zirconia:PSZ)等の粉砕媒体(以下、PSZボールともよぶ)および純水と共にボールミルに投入し、湿式混合粉砕する。得られた混合物を、所定温度(例えば、1000〜1200℃)で仮焼成して、仮焼粉末を得る。得られた仮焼粉末に、有機バインダ、分散剤および水を加え、PSZボールと共に所定時間混合することにより造粒する。得られた造粒物を成形することにより未焼成のマザー基板を作製する。この未焼成のマザー基板に脱バインダ処理を行い、大気中で所定の温度(1200〜1400℃)で焼成してマザー基板を得る。
【0045】
(第1の外部電極の形成)
マザー基板の両面に第1の外部電極を形成する。第1の外部電極は、スパッタリング、蒸着等の薄膜形成法により形成することができる。以下、第1の外部電極の形成方法の一例として、第1の外部電極が3つの層を含む形態について説明するが、本発明はこの形態に限定されるものではない。
【0046】
まず、セラミック素体に対してオーミック性を有する第1の外部電極の第1層として、Cr層をスパッタリングにより形成する。形成された第1の外部電極の第1層の上に、第1の外部電極の第2層として、NiCu層をスパッタリングにより形成する。形成された第1の外部電極の第2層の上に、第1の外部電極の第3層として、Ag層をスパッタリングにより形成する。このようにして、3つの層を含む第1の外部電極を形成することができる。
【0047】
(第1の外部電極が形成されたセラミック素体の作製)
このようにして第1の外部電極が形成されたマザー基板を、第1の外部電極が形成されたセラミック素体の形状となるように所定の寸法にカットする。第1の外部電極が形成されたセラミック素体は、例えば、長手方向の寸法(L寸)が0.95mm、幅方向の寸法(W寸)が0.48mm、厚さ方向の寸法(T寸)が0.48mmとなるようにカットすることができる。なお、上述の第1の外部電極が形成されたセラミック素体の長手方向の寸法(L寸)は、1対の第1の外部電極の厚さを含んでいる。
【0048】
第1の外部電極が形成されたセラミック素体を、玉石および研磨粉等を用いて研磨することにより、セラミック素体の各辺を曲面状にする。研磨を行うことにより、カット時に生じ得るバリを除去することができ、また、チップのコーナー部における導電性ペーストの塗布性を向上させることができる。研磨を行った後の、第1の外部電極3が形成されたセラミック素体2の断面図の一例を
図4(a)、セラミック素体2の端面21側からみた側面図の一例を
図4(b)に示す。
図4(a)および
図4(b)に示すように、セラミック素体2に加えて、第1の外部電極3の各辺もまた、研磨により曲面状になってよいが、本発明はこの形態に限定されるものではなく、第1の外部電極3の各辺が直線状であってもよい。
【0049】
(第2の外部電極の形成)
まず、第2の外部電極を形成するための導電性ペーストを調製する。導電性ペーストは、Ag、AgPd、Cu等の導電剤70〜90重量%と、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂10〜30重量%と、希釈剤1〜5%とを混合することにより調製される。第1の外部電極が形成されたセラミック素体の端部を導電性ペースト浴に浸漬し、引き上げた後、500℃以下、好ましくは約100〜250℃で熱処理を行う。このようにして第2の外部電極が形成される。
【0050】
(めっき層の形成)
第1のめっき層は、第2の外部電極の表面を覆うように形成される。第1のめっき層は、例えば、NiおよびCuの少なくとも1つを電解めっきすることにより形成することができる。第2のめっき層は、第1のめっき層の表面を覆うように形成される。第2のめっき層は、例えばSnを電解めっきすることにより形成することができる。
【0051】
上述の製造方法により得られるチップ型セラミック半導体電子部品1の一例を
図5に示す。このようにして製造されたチップ型セラミック半導体電子部品1は、抵抗値の変化率のばらつきが小さいという利点を有する。
【0052】
以上、本発明に係るチップ型セラミック半導体電子部品の製造方法について、内部電極を有しないPTCサーミスタを例として説明したが、内部電極を有するPTCサーミスタ、NTCサーミスタ、バリスタ、コンデンサ等の他のチップ型セラミック半導体電子部品についても、本明細書の記載に基づいて適宜製造することができる。
【0053】
例えば、内部電極を有するPTCサーミスタは、以下に説明する手順で製造することができる。セラミック素体の各原料を湿式混合粉砕し、得られた混合物を所定温度で仮焼成することにより仮焼粉末を得る。得られた仮焼粉末に有機バインダを加え、湿式で混合処理を行なってスラリー状とし、その後、ドクターブレード法等を用いて成形加工し、セラミックグリーンシートを作製する。次いで、内部電極用導電性ペーストをセラミックグリーンシートの表面に塗布して内部電極パターンを形成する。内部電極用導電性ペーストは、例えば、有機溶剤中にNi金属粉末および有機バインダを分散させることにより調製することができる。内部電極用ペーストは、例えば、スクリーン印刷等により塗布してよい。このように内部電極パターンが形成されたセラミックグリーンシートを所定数積層し、次いで、内部電極パターンが形成されていないセラミックグリーンシートで上下を挟持して圧着することにより、積層体を作製する。この積層体を所定寸法に切断した後、脱バインダ処理を行い、次いで所定温度で焼成することにより、内部電極を有するセラミック素体が得られる。このセラミック素体に、第1および第2の外部電極ならびに場合により第1および第2のめっき層を形成することにより、内部電極を有するPTCサーミスタが得られる。
【実施例】
【0054】
[実施例1]
実施例1のチップ型セラミック半導体電子部品を下記の手順で作製した。実施例1のチップ型セラミック半導体電子部品は、PTCサーミスタである。
【0055】
(マザー基板の作製)
まず、セラミック原料であるBaCO
3、PbO、SrCO
3、CaCO
3およびTiO
2、半導体化剤であるEr
2O
3、ならびに特性改善剤であるMn
2O
3を所定量秤量した。秤量した各原料を、PSZボールおよび純水と共にボールミルに投入し、湿式混合粉砕した。得られた混合物を1150℃で仮焼成して仮焼粉末を得た。得られた仮焼粉末に、有機バインダであるアクリル酸系バインダ、分散剤および水を加え、PSZボールと共に所定時間混合することにより造粒した。得られた造粒物を成形することにより未焼成のマザー基板を作製した。この未焼成のマザー基板に脱バインダ処理を行い、大気中で最高温度1360℃にて焼成してマザー基板を得た。
【0056】
(第1の外部電極の形成)
得られたマザー基板の両面に、セラミック素体に対してオーミック性を有する第1の外部電極の第1層として、厚さ0.3μmのCr層をスパッタリングにより形成した。形成された第1の外部電極の第1層の上に、第1の外部電極の第2層として、厚さ1.0μmのNiCu層をスパッタリングにより形成した。形成された第1の外部電極の第2層の上に、第1の外部電極の第3層として、厚さ1.3μmのAg層をスパッタリングにより形成した。
【0057】
(第1の外部電極が形成されたセラミック素体の作製)
このようにして第1の外部電極が形成されたマザー基板を、長手方向の寸法(L寸)が0.95mm、幅方向の寸法(W寸)が0.48mm、厚さ方向の寸法(T寸)が0.48mmとなるようにカットすることにより、第1の外部電極が形成されたセラミック素体を作製した。このようにして得られた第1の外部電極が形成されたセラミック素体を玉石および研磨粉等を用いて研磨することにより、セラミック素体の各辺を曲面状にした。
【0058】
(第2の外部電極の形成)
導電剤であるAg、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂、および粘度調整用希釈剤を混合することにより導電性ペーストを調製した。第1の外部電極が形成されたセラミック素体の端部をこの導電性ペースト浴に浸漬し、引き上げた後、230℃で30分間熱処理を行うことにより、第2の外部電極を形成した。形成された第2の外部電極の、第1の外部電極の表面からの厚さは15μmであった。
【0059】
(めっき層の形成)
電解めっきにより、第1のめっき層として厚さ6μmのNi層を形成した。次いで、電解めっきにより、第2のめっき層として厚さ4μmのSn層を形成した。以上の手順により、実施例1のチップ型セラミック半導体電子部品が得られた。
【0060】
[比較例1]
比較例1のチップ型セラミック半導体電子部品を下記の手順で作製した。比較例1のチップ型セラミック半導体電子部品は、PTCサーミスタである。
【0061】
実施例1と同様の手順で、マザー基板の作製、第1の外部電極の形成、第1の外部電極が形成されたセラミック素体の作製を行った。導電剤、ガラス、樹脂成分および有機溶剤を混合することにより、第2の外部電極を形成するための導電性ペーストを調製した。第1の外部電極が形成されたセラミック素体の端部を、この導電性ペースト浴に浸漬し、引き上げた後、600℃で30分間焼き付けを行うことにより、第2の外部電極を形成した。形成された第2の外部電極の、第1の外部電極の表面からの厚さは、35μmであった。次いで、実施例1と同様の手順で、第1のめっき層としてNi層を形成し、次いで第2のめっき層としてSn層を形成した。以上の手順により、比較例1のチップ型セラミック半導体電子部品が得られた。
【0062】
[元素マッピングによる評価]
実施例1および比較例1のチップ型セラミック半導体電子部品の第1の外部電極中に存在する元素の分布を調べるために、SAMを用いたオージェ電子分光法により元素マッピングを行った。まず、試料の樹脂固めを行い、試料の厚さ方向に研磨し、厚さ方向の寸法(T寸)の1/2の地点における断面を得た。FIB(集束イオンビーム)を断面に対して5°の角度で照射して加工を行い、オージェ電子分光法による測定を行った。実施例1のチップ型セラミック半導体電子部品の第1の外部電極のSEM(走査型電子顕微鏡)画像ならびにO、Cr、Ni、CuおよびAgの元素マッピングの結果を
図6、比較例1のチップ型セラミック半導体電子部品の第1の外部電極のSEM(走査型電子顕微鏡)画像ならびにO、Cr、NiおよびCuの元素マッピングの結果を
図7に示す。
図6および
図7において、(a)で示す領域はセラミック素体、(b)で示す領域は第1の外部電極の第1層(Cr層)、(c)で示す領域は第1の外部電極の第2層(NiCu層)、(d)で示す領域は第1の外部電極の第3層(Ag層)である。
図6より、実施例1のチップ型セラミック半導体電子部品の第1の外部電極において、NiおよびCuの酸化物の偏析が起こらなかったことがわかる。この結果より、第2の外部電極を形成するときの熱処理温度が230℃である場合、第1の外部電極における金属元素の酸化物の偏析を防止できたことがわかる。これに対し、
図7より、比較例1のチップ型セラミック半導体電子部品の第1の外部電極において、Niの酸化および偏析は起こらなかったが、Cuの酸化物の偏析が起こったことがわかる。
図7のOおよびCu元素の元素マッピング結果より、Cuの酸化物は、第1の外部電極の第2層(NiCu層)と第3層(Ag層)との界面において偏析していることがわかった。この結果より、第2の外部電極を形成する時の熱処理(焼き付け)温度が600℃である場合、第1の外部電極における金属元素の酸化および偏析が生じてしまうことがわかる。
【0063】
[抵抗値の測定]
上述の実施例1および比較例1のチップ型セラミック半導体電子部品(PTCサーミスタ)に15Vで電流を印加し、印加の前後での抵抗値の変化率を測定した。抵抗値の変化率が一定値以上であったチップ型セラミック半導体電子部品を、実施例1および比較例1のそれぞれについて100個ずつ用意し、はんだ付けにより基板に実装した。実装は、トップ温度260℃、保持時間15秒の条件で行った。それぞれのPTCサーミスタについて、実装の前後に、4端子法により室温(25℃)における抵抗値を測定した。実施例1および比較例1のチップ型セラミック半導体電子部品のそれぞれについて、実装前後での抵抗値の変化率を下記式に基づいて求めた。
(抵抗値の変化率)[%]={(実装後の抵抗値)−(実装前の抵抗値)}/(実装前の抵抗値)×100
実装前後での抵抗値の変化率の平均値、標準偏差および最大値を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1より、実施例1のPTCサーミスタは、比較例1のPTCサーミスタと比較して、実装前後での抵抗変化率の最大値が小さく、それに伴いばらつきが小さくなったことがわかる。従って、第2の外部電極を形成する際の熱処理の温度を230℃と比較的低温にすることにより、実装後のPTCサーミスタにおいて、実装時の抵抗値の増大を抑制することができ、実装前後での抵抗値の変化率のばらつきを抑制することができたといえる。