特許第6394732号(P6394732)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6394732熱可塑性プリプレグ及び熱可塑性プリプレグの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6394732
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】熱可塑性プリプレグ及び熱可塑性プリプレグの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20180913BHJP
【FI】
   C08J5/04CEZ
【請求項の数】14
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-93181(P2017-93181)
(22)【出願日】2017年5月9日
(62)【分割の表示】特願2013-175799(P2013-175799)の分割
【原出願日】2013年8月27日
(65)【公開番号】特開2017-128744(P2017-128744A)
(43)【公開日】2017年7月27日
【審査請求日】2017年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】上野 浩義
(72)【発明者】
【氏名】小林 靖
(72)【発明者】
【氏名】土井 伸一
【審査官】 大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4708330(JP,B2)
【文献】 特開2011−144473(JP,A)
【文献】 特許第6142737(JP,B2)
【文献】 国際公開第2012/037225(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/021084(WO,A1)
【文献】 特開平07−157578(JP,A)
【文献】 特開平05−042536(JP,A)
【文献】 特開平06−322159(JP,A)
【文献】 特開2012−119287(JP,A)
【文献】 特開2012−255065(JP,A)
【文献】 特開2008−050598(JP,A)
【文献】 特開2015−110791(JP,A)
【文献】 特許第5949895(JP,B2)
【文献】 特許第5949896(JP,B2)
【文献】 特許第6020612(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16;15/08−15/14
C08J 5/04−5/10;5/24
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維成分と、熱可塑性スーパーエンプラ繊維を含むマトリックス樹脂成分と、バインダー繊維とを含む繊維強化プラスチック成形体用シートを加熱加圧処理することにより形成される熱可塑性プリプレグであって、
前記バインダー繊維は、ポリエチレンテレフタレート又は変性ポリエチレンテレフタレートを含み、
前記熱可塑性スーパーエンプラ繊維の限界酸素指数は24以上であり、
前記熱可塑性プリプレグの密度は、0.15g/cm3以上0.4g/cm3以下であることを特徴とする熱可塑性プリプレグ。
【請求項2】
前記繊維強化プラスチック成形体用シートのJAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.5−2に規定される透気度が250秒以下であることを特徴とする請求項に記載の熱可塑性プリプレグ。
【請求項3】
前記バインダー繊維は前記熱可塑性プリプレグの全質量に対して0.1〜10質量%となるように含有されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱可塑性プリプレグ。
【請求項4】
前記熱可塑性スーパーエンプラ繊維及び前記バインダー繊維は、チョップドストランドであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性プリプレグ。
【請求項5】
前記繊維強化プラスチック成形体用シートは表層領域と前記表層領域に挟まれた中間領域を有し、
前記表層領域に含有されているバインダー繊維は、前記中間領域に含有されているバインダー繊維より多いことを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の熱可塑性プリプレグ。
【請求項6】
前記熱可塑性スーパーエンプラ繊維はポリエーテルイミド繊維又はポリカーボネート繊維から選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の熱可塑性プリプレグ。
【請求項7】
前記熱可塑性スーパーエンプラ繊維はポリエーテルイミド繊維であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の熱可塑性プリプレグ。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか1項に記載の熱可塑性プリプレグを、前記熱可塑性スーパーエンプラ繊維のガラス転移温度以上の温度で加熱加圧成形することにより形成される繊維強化プラスチック成形体。
【請求項9】
強化繊維成分と、熱可塑性スーパーエンプラ繊維を含むマトリックス樹脂成分と、バインダー繊維とを含む繊維強化プラスチック成形体用シートを加熱加圧処理する工程を含む熱可塑性プリプレグの製造方法において、
前記バインダー繊維は、ポリエチレンテレフタレート又は変性ポリエチレンテレフタレートを含み、
前記熱可塑性スーパーエンプラ繊維の限界酸素指数は24以上であり、
前記熱可塑性プリプレグの密度は0.15g/cm3以上0.4g/cm3以下であることを特徴とする熱可塑性プリプレグの製造方法。
【請求項10】
前記加熱加圧処理する工程では、前記熱可塑性スーパーエンプラ繊維のガラス転移温度以上の温度で、加熱加圧処理されることを特徴とする請求項に記載の熱可塑性プリプレグの製造方法。
【請求項11】
前記加熱加圧処理する工程では、前記繊維強化プラスチック成形体用シートを150〜600℃で加熱加圧することを特徴とする請求項9又は10に記載の熱可塑性プリプレグの製造方法。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれか1項に記載の熱可塑性プリプレグの製造方法を用いて熱可塑性プリプレグを製造した後、該熱可塑性プリプレグを150〜600℃で加熱加圧成形することを特徴とする繊維強化プラスチック成形体の製造方法。
【請求項13】
請求項9〜11のいずれか1項に記載の熱可塑性プリプレグの製造方法を用いて熱可塑性プリプレグを製造した後、該熱可塑性プリプレグを、前記熱可塑性スーパーエンプラ繊維のガラス転移温度以上の温度まで加熱加圧成形することを特徴とする繊維強化プラスチック成形体の製造方法。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の加熱加圧成形する工程が、スタンピング成形であることを特徴とする繊維強化プラスチック成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性プリプレグ及び熱可塑性プリプレグの製造方法に関する。具体的に、本発明は、強化繊維成分と、熱可塑性スーパーエンプラ繊維を含むマトリックス樹脂成分と、バインダー成分とを含む繊維強化プラスチック成形体用シートを加熱加圧処理することにより形成される熱可塑性プリプレグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維やガラス繊維等の強化繊維を含む不織布を加熱加圧処理し、成形した繊維強化樹脂成形体は、既にスポーツ、レジャー用品、航空機用材料など様々な分野で用いられている。これらの繊維強化樹脂成形体においてマトリックスとなる樹脂には、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、またはフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂が用いられることが多い。しかし、熱硬化性樹脂を用いた場合、熱硬化性樹脂と強化繊維を混合した不織布やプリプレグは冷蔵保管しなければならず、長期保管ができないという難点がある。なお、プリプレグとは、熱硬化性樹脂等を含む繊維強化樹脂成形体の成形前の部材(前駆体)を称したものである。
【0003】
このため、近年は、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として用い、強化繊維を含有した繊維強化不織布やプリプレグの開発が進められている。例えば、特許文献1には、強化繊維と熱可塑性樹脂を含む不織布が開示されており、特許文献2には、強化繊維束の上に熱可塑性樹脂からなる層が積層されたプリプレグが開示されている。このような熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として用いた繊維強化不織布やプリプレグは、保存管理が容易であり、長期保管ができるという利点を有する。また、熱可塑性樹脂を含む不織布やプリプレグは、熱硬化性樹脂を含む不織布やプリプレグと比較して成形加工が容易であり、加熱加圧処理を行うことにより成形加工品を成形することができるという利点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2006−524755号公報
【特許文献2】国際公開2003/091015号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に記載されているような熱可塑性プリプレグは、加熱加圧加工を施すことにより、プラスチック成形体に加工される。しかしながら、従来の熱可塑性プリプレグを用いて成形したプラスチック成形体は、その強度が十分ではないという問題があった。また、従来の熱可塑性プリプレグを用いて成形したプラスチック成形体は、難燃性が十分に高くないため、その取り扱いに注意が必要とされる場合があった。
【0006】
かかる問題を解決するためには、プリプレグではなくマトリックス樹脂たる高耐熱性熱可塑性繊維と、強化繊維たる無機繊維を混合した不織布によって構成されるFRP成形用不織布を用いることも考えられる(特許文献1)。
しかし、近年のプラスチック成形体の製造方法においては、加工速度を更に向上させるため、フリー状態で赤外線ヒーターによって急速に300℃〜400℃という高温に加熱し、コールドプレスですばやくプレスする、いわゆるスタンピング成形が採用されつつある。このようなスタンピング成形に、特許文献1に開示されているFRP成形用不織布を用いた場合、フリー状態で高温に加熱したときに、熱可塑性繊維が激しく収縮し、シート形状を保たなくなるという問題があった。すなわち、特許文献1に記載された不織布では、このような高速加工ができないという問題点を有し、プラスチック成形体への加工適性が低いという問題があった。
これは、一般に熱可塑性繊維は、繊維の製造工程において延伸しながら紡糸されるため、軟化温度より高い温度にさらされた場合繊維自体が熱収縮するためと考えられる。
【0007】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、高強度で難燃性の高いプラスチック成形体を成形し得る熱可塑性プリプレグであって、プラスチック成形体への加工適性が高い熱可塑性プリプレグを提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、強化繊維成分と、熱可塑性スーパーエンプラ繊維を含むマトリックス樹脂成分と、バインダー成分とを含む繊維強化プラスチック成形体用シートを加熱加圧処理することにより形成されるプリプレグにおいて、繊維強化プラスチック成形体用シートの構成を特定し、かつこのシートを拘束しながら加熱することで繊維自体の残留応力を緩和しつつプリプレグの密度を特定の範囲とすることにより、フリー状態で急速に加熱した場合でもシートの収縮・変形が少なく加工適性に優れる熱可塑性プリプレグを得ることができることを見出した。さらに、本発明者らは、このような熱可塑性プリプレグを成形することにより、高強度で難燃性が高い繊維強化プラスチック成形体を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
【0009】
[1]強化繊維成分と、熱可塑性スーパーエンプラ繊維を含むマトリックス樹脂成分と、バインダー成分とを含む繊維強化プラスチック成形体用シートを加熱加圧処理することにより形成される熱可塑性プリプレグであって、前記熱可塑性スーパーエンプラ繊維の限界酸素指数は24以上であり、前記熱可塑性プリプレグの密度は、0.15g/cm3以上であることを特徴とする熱可塑性プリプレグ。
[2]前記強化繊維成分は、無機繊維を含み、前記熱可塑性スーパーエンプラ繊維の繊維径は40μm以下であり、かつ前記熱可塑性スーパーエンプラ繊維の繊維径は前記無機繊維の繊維径の5倍以下であることを特徴とする[1]に記載の熱可塑性プリプレグ。
[3]前記繊維強化プラスチック成形体用シートのJAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.5−2に規定される透気度が250秒以下であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の熱可塑性プリプレグ。
[4]前記バインダー成分は前記熱可塑性プリプレグの全質量に対して0.1〜10質量%となるように含有されていることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか1項に記載の熱可塑性プリプレグ。
[5]前記バインダー成分は前記熱可塑性スーパーエンプラ繊維と加熱溶融状態で相溶することを特徴とする[1]〜[4]のいずれか1項に記載の熱可塑性プリプレグ。
[6]前記バインダー成分は、メチル(メタ)アクリレート含有モノマー由来の繰り返し単位及びエチル(メタ)アクリレート含有モノマー由来の繰り返し単位のうち少なくとも一方を含む共重合体を含有することを特徴とする[1]〜[5]のいずれか1項に記載の熱可塑性プリプレグ。
[7]前記バインダー成分は、前記熱可塑性スーパーエンプラ繊維のガラス転移温度よりも低い融点を有するバインダー繊維を含有することを特徴とする[6]に記載の熱可塑性プリプレグ。
[8]前記バインダー繊維は、ポリエチレンテレフタレート又は変性ポリエチレンテレフタレートを含むことを特徴とする[7]に記載の熱可塑性プリプレグ。
[9]前記熱可塑性スーパーエンプラ繊維及び前記バインダー繊維は、チョップドストランドであることを特徴とする[7]又は[8]に記載の熱可塑性プリプレグ。
[10]前記繊維強化プラスチック成形体用シートは表層領域と前記表層領域に挟まれた中間領域を有し、前記表層領域に含有されているバインダー成分は、前記中間領域に含有されているバインダー成分より多いことを特徴とする[1]〜[9]のいずれか1項に記載の熱可塑性プリプレグ。
[11]前記バインダー成分に含まれる共重合体は、前記強化繊維成分と前記マトリックス樹脂成分を構成する繊維同士の交点に水掻き膜状に局在していることを特徴とする[6]〜[10]のいずれか1項に記載の熱可塑性プリプレグ。
[12]前記熱可塑性スーパーエンプラ繊維はポリエーテルイミド繊維又はポリカーボネート繊維から選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする[1]〜[11]のいずれか1項に記載の熱可塑性プリプレグ。
[13]前記熱可塑性スーパーエンプラ繊維はポリエーテルイミド繊維であることを特徴とする[1]〜[12]のいずれか1項に記載の熱可塑性プリプレグ。
[14][1]〜[13]のいずれか1項に記載の熱可塑性プリプレグを、前記熱可塑性スーパーエンプラ繊維のガラス転移温度以上の温度で加熱加圧成形することにより形成される繊維強化プラスチック成形体。
[15][1]〜[13]のいずれか1項に記載の熱可塑性プリプレグを、150〜600℃の温度で加熱加圧成形することにより形成される繊維強化プラスチック成形体。
[16][14]又は[15]に記載の加熱加圧成形する工程が、スタンピング成形であることを特徴とする繊維強化プラスチック成形体。
[17]強化繊維成分と、熱可塑性スーパーエンプラ繊維を含むマトリックス樹脂成分と、バインダー成分とを含む繊維強化プラスチック成形体用シートを加熱加圧処理する工程を含む熱可塑性プリプレグの製造方法において、前記熱可塑性スーパーエンプラ繊維の限界酸素指数は24以上であり、前記熱可塑性プリプレグの密度は0.15g/cm3以上であることを特徴とする熱可塑性プリプレグの製造方法。
[18]前記加熱加圧処理する工程の前に、さらに繊維強化プラスチック成形体用シートを形成する工程を含み、前記繊維強化プラスチック成形体用シートを形成する工程は、乾式不織布法又は湿式不織布法のいずれかの方法で不織布シートを形成する工程と、前記バインダー成分を含む溶液又は前記バインダー成分を含むエマルジョンを前記不織布シートに内添、塗布又は含浸させ、加熱乾燥させる工程を含むことを特徴とする[17]に記載の熱可塑性プリプレグの製造方法。
[19]前記加熱加圧処理する工程では、前記熱可塑性スーパーエンプラ繊維のガラス転移温度以上の温度で加熱加圧処理されることを特徴とする[17]又は[18]に記載の熱可塑性プリプレグの製造方法。
[20]前記加熱加圧処理する工程では、前記繊維強化プラスチック成形体用シートを150〜600℃で加熱加圧することを特徴とする[17]〜[19]のいずれか1項に記載の熱可塑性プリプレグの製造方法。
[21] [17]〜[20]のいずれか1項に記載の熱可塑性プリプレグの製造方法を用いて熱可塑性プリプレグを製造した後、該熱可塑性プリプレグを150〜600℃で加熱加圧成形することを特徴とする繊維強化プラスチック成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高強度で難燃性が高い、繊維強化プラスチック成形体を成形し得る熱可塑性プリプレグを得ることができる。さらに本発明によれば、加工適性に優れた熱可塑性プリプレグを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は「〜」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
(熱可塑性プリプレグ)
本発明は、強化繊維成分と、熱可塑性スーパーエンプラ繊維を含むマトリックス樹脂成分の混合物を含み、さらにバインダー成分を含む繊維強化プラスチック成形体用シートを熱可塑性スーパーエンプラ繊維のガラス転移温度以上の温度で加熱加圧処理することにより形成されるプリプレグに関する。ここで、熱可塑性スーパーエンプラ繊維の限界酸素指数は24以上であり、熱可塑性プリプレグは熱可塑性スーパーエンプラ繊維のガラス転移温度以上で加熱加圧することにより、密度を0.15g/cm3以上としたものである。また、密度の上限は特に定められないが、熱可塑性スーパーエンプラ樹脂やバインダー等が強化繊維に溶融含浸され、空隙がなくなった状態が密度の上限となる。この場合、密度は不織布が含有する熱可塑性スーパーエンプラ繊維の密度と、強化繊維成分の密度と、バインダー成分等の密度の重量平均値になる。本発明では、熱可塑性プリプレグを上記のような構成とすることにより、加工適性に優れたプリプレグを得ることができる。さらに、本発明のプリプレグを用いて成形した繊維強化プラスチック成形体は、高強度であり、難燃性が高いため、保管や取り扱いが容易となるという利点を有している。
【0013】
本発明の熱可塑性プリプレグの密度は、加熱工程後において0.15g/cm3以上あればよく、0.2g/cm3以上あることが好ましく、0.3g/cm3以上あることがより好ましい。熱可塑性プリプレグの密度を上記範囲内とすることにより、加工適性に優れた熱可塑性プリプレグを得ることができる。本発明の熱可塑性プリプレグを用いた場合、プラスチック成形体の生産効率を高めることができる。
【0014】
本発明の熱可塑性プリプレグは、強化繊維成分と、熱可塑性スーパーエンプラ繊維を含むマトリックス樹脂成分と、バインダー成分とを含む繊維強化プラスチック成形体用シートを加熱加圧処理して形成したプラスチック層である。繊維強化プラスチック成形体用シートは単層で加熱加圧処理されてもよいし、所望の厚さとなるように積層して加熱加圧処理されてもよい。
【0015】
加熱加圧工程は、熱可塑性スーパーエンプラ繊維のガラス転移温度以上の温度まで加熱しつつ加圧を行う工程である。加熱加圧工程では、熱プレス処理を施すことが好ましい。
加熱加圧工程では繊維強化プラスチック成形体用シートの表面温度がTg〜Tg+100℃となるように加熱することが好ましい。ここで、Tgは、熱可塑性スーパーエンプラ繊維のガラス転移温度を表す。なお、加熱温度は、熱可塑性スーパーエンプラ繊維が流動する温度であって強化繊維は溶融しない温度帯であることが好ましい。
【0016】
(繊維強化プラスチック成形体用シート)
繊維強化プラスチック成形体用シートは、強化繊維成分と、熱可塑性スーパーエンプラ繊維を含むマトリックス樹脂成分と、バインダー成分とを含む。
【0017】
本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートにおいて、強化繊維成分と熱可塑性スーパーエンプラ繊維の質量比は1:0.2〜1:10であることが好ましく、1:0.5〜1:5であることがより好ましく、1:0.7〜1:3であることがさらに好ましい。強化繊維成分と熱可塑性スーパーエンプラ繊維の質量比を上記範囲内とすることにより、軽量であり、かつ高強度の繊維強化プラスチック成形体を形成し得る熱可塑性プリプレグを得ることができる。
【0018】
加熱加圧成形後に十分な強度を得るためには、強化繊維成分とマトリックス樹脂成分は均一に混合されていることが好ましい。このためには、強化繊維とマトリックス樹脂繊維の繊維径が近いほうが好ましい。この観点からは、熱可塑性スーパーエンプラ繊維の繊維径は強化繊維の繊維径の5倍以下であることが好ましく、4倍以下であることがより好ましく、3倍以下であることがさらに好ましく、最も好ましくは熱可塑性スーパーエンプラ繊維の繊維径と強化繊維の繊維径がほぼ同等であることである。
【0019】
一般に、マトリックス樹脂は、溶融粘度が高いため、射出成形等の方法では強化繊維を多量に配合すると、強化繊維を均一に分散させることが難しいため、強化繊維の配合比に限界がある。しかし、本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートでは、必要とされる強度に応じて比較的自由に強化繊維とマトリックス樹脂繊維との比率を設定することができる。
【0020】
繊維強化プラスチック成形体用シートのJAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.5−2に規定される透気度は、250秒以下であることが好ましく、230秒以下であることがより好ましく、200秒以下であることがさらに好ましい。この数値は、数字が小さいほど空気が通りやすい(通気性が良い)ことを表す。本発明では、繊維強化プラスチック成形体用シートの透気度を上記範囲内とすることにより、加熱加圧工程における成形速度を高めることができ、熱可塑性プリプレグの生産効率を高めることができる。
【0021】
但し、上記通気性を満たすための材料として、処理前のシートを嵩高に調整した場合、繊維強化プラスチック成形体用シートを加熱加圧工程での熱プレス機等に挿入する際に不都合が生じる場合がある。また、繊維強化プラスチック成形体用シートを製造後、加熱加圧工程に供するまでの間、保管コストがかかるという問題もある。このような問題は、加熱加圧処理前に熱プレス、若しくは熱カレンダーによって軽くプレスし、適宜密度を高めることで解決できる。この方法の場合、空気は多少通りにくくなるので、JAPAN TAPPI紙パルプ試験法に準拠した方法で測定される透気度が250秒以下という状態を維持できる範囲で高密度化することが好ましい。
【0022】
<強化繊維成分>
強化繊維成分は、無機繊維を含む。無機繊維としては、例えば、ガラス繊維や炭素繊維等を挙げることができる。なお、これらの無機繊維は、1種を使用してもよく、複数種を使用してもよい。さらに、本発明では、強化繊維成分は、このような無機繊維の他に、アラミド繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)繊維等の耐熱性に優れた有機繊維を含有していてもよい。
強化繊維成分として、例えば、炭素繊維等の無機繊維を使用した場合、成形体用シートに含まれる熱可塑性スーパーエンプラ繊維の溶融温度で加熱加圧処理することにより曲げ強度・引張強度・弾性率が高い繊維強化プラスチック成形体を成形し得る熱可塑性プリプレグを得ることができる。
強化繊維成分として、アラミド繊維等の高耐熱性・高強度の有機繊維を使用した場合は、高度な平滑性の要求される精密な研磨用の機器に適する繊維強化プラスチック成形体を成形し得る熱可塑性プリプレグを得ることができる。アラミド等の有機繊維を強化繊維として含有する繊維強化プラスチック成形体用シートから形成される熱可塑性プリプレグは、一般的に強化繊維として無機繊維を使用した繊維強化プラスチック成形体用シートから形成される熱可塑性プリプレグよりも、それらを繊維強化プラスチック成形体としたときの耐摩耗性に優れる。また擦過等によって繊維強化プラスチック成形体の一部が削り取られたとしても、その削り粕が無機繊維よりも柔らかいので、被研磨物を傷つける恐れが少ない。
【0023】
強化繊維の繊維長は、1mm以上であることが好ましく、2mm以上であることがより好ましく、3mm以上であることがさらに好ましい。また、強化繊維の繊維長は、40mm以下であることが好ましく、35mm以下であることがより好ましく、30mm以下であることがさらに好ましい。
【0024】
強化繊維の繊維径としては、特に限定されるものではないが、3〜18μmが好ましい。強化繊維の繊維径を上記範囲内とすることにより、製造工程或いは使用中に人体に取り込まれることを防ぐことができ、かつ均一に混合することが可能となる。
【0025】
<マトリックス樹脂成分>
マトリックス樹脂成分は、熱可塑性スーパーエンプラ繊維を含む。なお、熱可塑性スーパーエンプラ繊維は熱成形により溶融してマトリックス樹脂となる。
【0026】
熱可塑性スーパーエンプラ繊維は、スーパーエンプラ(スーパーエンジニアリングプラスチック)と称される熱可塑性樹脂の繊維であり、耐熱性で難燃性の熱可塑性樹脂を繊維化したものである。熱可塑性スーパーエンプラ繊維としては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)等を例示することができる。ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂は耐薬品性が高く、耐熱性が高いため、耐薬品性と高温時の強度に優れる繊維強化プラスチックを得ることができる。ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂を用いた場合は、他のスーパーエンプラよりも耐薬品性と高温時の強度に特に優れる繊維強化プラスチックを得ることができる。また、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂は炭素繊維やガラス繊維との密着性が優れ、また限界酸素指数が樹脂ブロックの状態で47と非常に高いため、強度と難燃性に優れる繊維強化プラスチックを得ることができる。
【0027】
本発明では、熱可塑性スーパーエンプラ繊維として、ポリエーテルイミド(PEI)繊維又はポリカーボネート(PC)繊維から選ばれる少なくとも1種以上を用いることが好ましい。中でも、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂を繊維化したポリエーテルイミド(PEI)繊維を用いることが特に好ましい。ポリエーテルイミド(PEI)樹脂は、溶融し成形加工された状態での限界酸素指数が40以上、またASTM E−662に記載の方法で測定した20分燃焼時の発煙量が30ds前後と、非常に発煙量が少ないため好ましく用いられる。
尚、通常熱可塑性スーパーエンプラ繊維には分類されないが、ポリカーボネート(PC)も難燃性に優れているため、本発明には含むものとする。本発明の熱可塑性スーパーエンプラ繊維は、2種類以上用いることもできる。また、本発明の効果を損ねない範囲で、ポリアミド、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、フェノール樹脂、ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリエチレン、エポキシ樹脂等の熱可塑性スーパーエンプラ繊維以外も添加することができる。
【0028】
熱可塑性スーパーエンプラ繊維は、繊維状態において限界酸素指数が24以上であることが好ましく、30以上であることがより好ましい。熱可塑性スーパーエンプラ繊維の限界酸素指数を上記範囲とすることにより、難燃性に優れた成形体用シートを得ることができる。なお、本発明において、「限界酸素指数」とは、燃焼を続けるのに必要な酸素濃度を表し、JIS K7201に記載された方法で測定した数値をいう。すなわち、限界酸素指数が20以下は、通常の空気中で燃焼することを示す数値である。尚、上記ポリカーボネートの限界酸素指数は24〜26である。
【0029】
熱可塑性スーパーエンプラ繊維のガラス転移温度は、140℃以上であるものが好ましい。熱可塑性スーパーエンプラ繊維には、熱可塑性プリプレグを形成する際に300℃から400℃というような温度条件下で十分に流動的であることが求められる。なお、PPS樹脂繊維のようにガラス転移温度が140℃未満のスーパーエンプラ繊維であっても、樹脂の荷重たわみ温度が190℃以上となるスーパーエンプラを繊維化したものであれば使用可能である。このような熱可塑性スーパーエンプラ繊維は、加熱・加圧により溶融して限界酸素指数が30以上という非常に高い難燃性を有する樹脂ブロックを形成する。
【0030】
熱可塑性スーパーエンプラ繊維の繊維径は40μm以下であることが好ましい。さらに、熱可塑性スーパーエンプラ繊維の繊維径は上述した無機繊維の繊維径の5倍以下であることが好ましく、4倍以下であることがより好ましく、3倍以下であることがさらに好ましい。熱可塑性スーパーエンプラ繊維の繊維径を上記範囲内とすることにより、熱可塑性プリプレグの密度を所望の範囲とすることができる。さらに、熱可塑性プリプレグを用いて成形する繊維強化プラスチック成形体の強度をより高めることができる。
【0031】
熱可塑性スーパーエンプラ繊維の繊維径は40μm以下であることが好ましく、35μm以下であることがより好ましく、32μm以下であることがさらに好ましい。中でも、熱可塑性スーパーエンプラ繊維の繊維径は、1〜30μmであることが好ましく、1〜20μmであることがより好ましい。
【0032】
熱可塑性スーパーエンプラ繊維の繊維長は、1mm以上であることが好ましく、 2mm以上であることがより好ましく、3mm以上であることがさらに好ましい。また、熱可塑性スーパーエンプラ繊維の繊維長は、40mm以下であることが好ましく、35mm以下であることがより好ましく、30mm以下であることがさらに好ましい。熱可塑性スーパーエンプラ繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、繊維の分散性を良好にすることができ、また、繊維強化プラスチック成形体用シート等の破断等を防ぐことができる。なお、繊維径及び繊維長は単一であってもよく、また異なる繊維径、繊維長のものをブレンドして使用してもよい。
【0033】
本発明で用いられる繊維強化プラスチック成形体用シートでは、熱可塑性スーパーエンプラ繊維が繊維形態をしていることによりシート中に空隙が存在している。
本発明では、熱可塑性スーパーエンプラ繊維が加熱加圧処理前には、繊維形態を維持しているため、熱可塑性プリプレグを形成する前は、シート自体がしなやかでドレープ性がある。このため、繊維強化プラスチック成形体用シートを巻き取りの形態で保管・輸送することが可能であり、ハンドリング性に優れるという特徴を有する。
【0034】
また、本発明で用いられる繊維強化プラスチック成形体用シートは、熱可塑性プリプレグに加工する際の加熱加圧処理時間が短時間ですみ、熱可塑性プリプレグの生産性に優れている。繊維強化プラスチック成形体用シートを短時間で加熱加圧処理するためには、使用される熱可塑性スーパーエンプラ繊維が高温下で速やかに溶融することが必要であり、そのためには、スーパーエンプラ繊維の繊維径が細いほうが好ましい。繊維径が細いほど繊維同士の接触点数が増加するため、繊維同士の接触面積が増加し、熱伝導が良好となること、及び繊維の熱容量が小さくなるため、溶融させるために必要な熱量が少なくなるためである。
【0035】
<バインダー成分>
本発明において、繊維強化プラスチック成形体用シートに含有されるバインダーとしては、一般的に不織布製造に使用されるフェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ケイ素樹脂等の熱硬化性樹脂や、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、スチレン−アクリル樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂、ウレタン樹脂等の熱可塑性樹脂、或いは熱水溶融するPVA樹脂等が使用できる。
【0036】
バインダー成分は、加熱加圧処理後にマトリックスとなる熱可塑性スーパーエンプラ繊維が加熱加圧処理で溶融する際に、その樹脂と相溶する樹脂成分であることが特に好ましい。このような樹脂成分をバインダーとした場合、加熱加圧処理後、マトリックス樹脂とバインダー樹脂の間に界面が存在せず一体化するため高強度となる。さらにバインダー成分に起因するマトリックス樹脂のガラス転移温度の低下が少ないという特徴を持つ。
【0037】
本発明では、バインダー成分は、熱可塑性プリプレグの全質量に対して0.1〜10質量%となるように含有されることが好ましく、0.4〜9.5質量%であることがより好ましく、0.5〜8質量%であることがさらに好ましい。バインダー成分の含有率を上記範囲内とすることにより、製造工程中の強度を高めることができ、ハンドリング性を向上させることができる。また、バインダー成分の含有率を上記範囲とすることにより、難燃性・低発煙性を損なうこともない。なお、バインダー成分の量は多くなると表面強度・層間強度共に強くなるが、逆に加熱成形時の臭気の問題が発生しやすくなる。しかし、上記の範囲においては臭気の問題はほとんど発生せず、また繰り返しの断裁工程を経ても層間剥離などを発生しない繊維強化プラスチック成形体用シートを得ることができる。
【0038】
バインダー成分は、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、メチルアクリレート及びエチルアクリレートの少なくとも1種のモノマーを含有するモノマー混合物を重合させることによって得られる共重合体を含むことが好ましい。すなわち、バインダー成分は、メチル(メタ)アクリレート含有モノマー由来の繰り返し単位、エチル(メタ)アクリレート含有モノマー由来の繰り返し単位のうち少なくとも1つを含む共重合体を含有する。中でも、バインダー成分は、メチルメタクリレート含有モノマー由来の繰り返し単位及びエチルメタクリレート含有モノマー由来の繰り返し単位のうち少なくとも1つを含む共重合体を含有することが好ましい。
なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」及び「メタクリレート」の両方を含むことを意味し、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」の両方を含むことを意味する。
【0039】
更に、本発明で好ましいバインダー成分として、熱可塑性スーパーエンプラ繊維のガラス転移温度よりも低い融点を有するバインダー繊維が挙げられる。バインダー繊維は、PEI繊維等と混合して水中に分散し、湿式抄紙法で抄造した場合、粒状バインダーのように抄紙ワイヤーの目から抜けて歩留が低下したり、ワイヤー側に偏在したりすることがないため好ましく用いられる。また、このようなバインダー繊維を使用することにより、層間強度を向上させることができる。
【0040】
バインダー繊維としては、ポリエステル樹脂を用いることが好ましい。ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。変性ポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂を変性することで融点を低下させたものであれば特に限定されないが、変性ポリエチレンテレフタレートが好ましい。変性ポリエチレンテレフタレートとしては、共重合ポリエチレンテレフタレート(CoPET)が好ましく、例えば、ウレタン変性共重合ポリエチレンテレフタレートが挙げられる。ポリエステル樹脂はポリエーテルイミド繊維と加熱溶融時に相溶するため、冷却後もポリエーテルイミド樹脂の難燃性・低発煙性といった優れた点を損ないにくいため、好ましく用いられる。
共重合ポリエチレンテレフタレートは、融点が140℃以下のものが好ましく、120℃以下ものがより好ましい。また、特公平1−30926号公報に記載のような変性ポリエステル樹脂を使用してもよい。変性ポリエステル樹脂の具体例として、特に、ユニチカ社製商品名「メルティ4000」(繊維全てが共重合ポリエチレンテレフタレートである繊維)が好ましく挙げられる。また、上記芯鞘構造のバインダー繊維としては、ユニチカ社製商品名「メルティ4080」や、クラレ社製商品名「N−720」等が好適に使用できる。
【0041】
上記のメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、メチルアクリレート及びエチルアクリレートの少なくとも1種のモノマーを含有するモノマー混合物を重合させることによって得られる共重合体や、ポリエステル樹脂繊維等のバインダー繊維は、単独で使用することもできるが、本発明の効果を更に向上させるために併用することもできる。
共重合体は熱可塑性プリプレグの全質量に対して0.1〜4質量%となるように含有され、バインダー繊維は熱可塑性プリプレグの全質量に対して1.5〜6質量%となるように含有されることが好ましい。共重合体とバインダー繊維の含有率を上記範囲内とすることにより、熱可塑性プリプレグの表面強度及び層間強度を高めることができる。なお、上記の範囲においては、共重合体を成分とするバインダー(液状バインダー)の配合量は、ポリエステル樹脂又は変性ポリエステル樹脂よりも少ないほうが、臭気の関係から好ましい結果が得られる。ポリエステル系バインダーはマトリックス樹脂と相溶するため、比較的添加量が多くとも臭気を発生しにくく、また、液状バインダーは繊維交点に集中して偏在しやすいため、かかる結果が得られているものと推定している。
【0042】
バインダー成分として好ましい組合せとしては、アクリル系のエマルジョンと低融点熱可塑性樹脂繊維としてのチョップ状のPET繊維の組合せである。具体的には、熱可塑性プリプレグの全質量に対してアクリル系バインダー0.3〜4質量%に対し、PET繊維1.5〜6質量%である。好ましくはアクリル系バインダー1〜3質量%に対し、PET繊維2〜6質量%、更に好ましくはアクリル系バインダー1.5〜2.5質量%に対し、PET繊維3〜5質量%である。
【0043】
繊維強化プラスチック成形体用シートは表層領域と表層領域に挟まれた中間領域を有することとした場合、表層領域に含有されているバインダー成分は、中間領域に含有されているバインダー成分より多いことが好ましい。特にバインダー成分のうち、メチル(メタ)アクリレート含有モノマー由来の繰り返し単位、エチル(メタ)アクリレート含有モノマー由来の繰り返し単位のうち少なくとも1つを含む共重合体が表層領域に多く含有されていることが好ましい。
ここで、繊維強化プラスチック成形体用シートの表層領域は、成形体用シートを厚さ方向(Z軸方向)に略3分割した際に、外側に位置する2つの領域である。なお、中間領域はこれらの2つの領域に挟まれた間の領域をいう。表層領域に含有されているバインダー成分は、中間領域に含有されているバインダー成分より多いことが好ましく、表層領域に含有されているバインダー成分は、中間領域に含有されているバインダー成分の1.1〜1.5倍であることがより好ましい。
【0044】
このように、バインダー成分を表層領域に集中させることで、高温の金型やプレス板により加熱加圧処理される際に、バインダー成分が効果的に加熱されるため、バインダー成分が速やかに熱分解・揮発する。これにより熱成形品に残留するバインダー成分がごく僅かな量に抑えられることとなる。このため、本発明の熱可塑性プリプレグは、高い難燃性を有しており、発煙性が抑えられている。
【0045】
メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、エチルアクリレート、及びメチルアクリレートの少なくとも1種のモノマーを含有するモノマー混合物を重合させることによって得られる共重合体を成分とする液状バインダーは繊維強化プラスチック成形体用シートの表層領域に集中して存在することが好ましい。また、これらの液状バインダーは、両表層領域の繊維成分同士の交点に水掻き膜状に局在することが好ましい。すなわち、共重合体は、強化繊維成分とマトリックス樹脂成分を構成する繊維同士の交点に水掻き膜状に局在することが好ましい。このように局在することにより、バインダー成分が少量であっても使用工程においても両表層領域の繊維の脱落を少なくすることができる。また、変色が少なく好適であり、繊維強化プラスチック成形体用シートの抄造直後に平板にカットして積層し、プレスするような工程に好適に使用できる。
【0046】
なお、バインダー成分のうち、共重合体を含む成分は、表層領域に集中させることが好ましいが、バインダー繊維は、繊維強化プラスチック成形体用シートの中間領域に含有させることもできる。これにより、繊維強化プラスチック成形体用シートの層間強度が高まり、加熱成形加工時のハンドリング性が更に改善される。
【0047】
バインダー繊維は、強化繊維やPEI繊維等と共に空気中に分散させてネットに捕捉してウエブを形成する方法(乾式不織布法)で繊維強化プラスチック成形体用シートに含有させることができる。また、バインダー繊維は、溶媒中に分散させ、その後溶媒を除去してウエブを形成する方法(湿式不織布法)等の方法で繊維強化プラスチック成形体用シートに含有させることもできる。
【0048】
繊維強化プラスチック成形体用シートの表層にバインダーを相対的に多く存在させる方法としては、下記方法が挙げられる。例えば、バインダー成分を溶媒に溶解した液状物、若しくはバインダー成分の乳化物(エマルジョン)を不織布シートに内添、塗布又は含浸させ、加熱乾燥するという製造方法が挙げられる。中でも、湿式不織布法又は乾式不織布法によってウエブを形成した後、バインダー成分を溶媒に溶解した液状物、若しくはバインダー成分の乳化物(エマルジョン)を、ディッピング、若しくはスプレー法等で付与し、加熱乾燥するという製造方法が好ましく用いられる。この方法によれば、加熱乾燥する際に、ウエブ内部の溶媒が両面の表層に移動し、蒸発するため、この溶媒の移動に伴ってバインダーも表層に相対的に多く集中する。
【0049】
上記のように、繊維強化プラスチック成形体用シートの表層にバインダー成分を偏在させるためには、バインダー成分の溶液、若しくはエマルジョン等、液状のバインダー成分を使用し、加熱乾燥させる製造方法を採用することができる。この場合、溶媒の移動が多いほうがバインダー成分の偏在が強まるため好ましい。
このような方法を採用する場合、湿式不織布法でウエットウエブを形成後、バインダーの水溶液、若しくはエマルジョンをウエブにディッピング若しくはスプレー等の方法で付与し、乾燥する方法が好ましい。この場合、ウエブ水分はバインダーの水溶液、若しくはエマルジョンのバインダー液濃度や、湿式不織布製造工程におけるウエットサクション、ドライサクションによる水分の吸引力の調整で行うことが可能である。
【0050】
バインダー成分を偏在させるために好ましいウエブ内の水分量は50%以上であるが、ある程度以上に水分が多いと乾燥負荷が大きくなり、製造コストがかさむため、両者を勘案して適宜ウエブ内水分量を調整することが好ましい。
【0051】
上記の対策で不十分な場合、バインダー成分の添加量を減少させる方法として、繊維強化プラスチック成形体用シートを湿式抄紙し、強度縦横比を大きくすることも好ましい。具体的には、ジェットワイヤー比の調整によってマシンの抄造方向(MD方向)とその直角方向(CD方向)の強度比(強度縦横比)を大きくすることができる。一般に、強度縦横比を大きくすると、繊維が一方向に並ぶ傾向となり、不織布の密度が高くなる傾向にある。その結果、繊維間の交点が増加するため、少量のバインダーでも十分な表面強度が得られる。このような効果が明確に得られるのは、通常、強度縦横比が1.5以上、より明確に得られるのは3.0以上、更に明確に得られるのは5.0以上である。
【0052】
(繊維形状)
本発明では、熱可塑性スーパーエンプラ繊維とバインダー繊維は、一定の長さにカットされたチョップドストランドであることが好ましい。また、本発明では、繊維強化プラスチック成形体用シートに含まれる、熱可塑性スーパーエンプラ繊維及び強化繊維も、一定の長さにカットされたチョップドストランドであることが好ましい。このような形態とすることにより、繊維強化プラスチック成形体用シート中で、各種繊維を均一に混合することができる。
【0053】
上記のような場合、繊維強化プラスチック成形体用シートは、熱可塑性スーパーエンプラ繊維、強化繊維、バインダー繊維のチョップドストランドを、空気中に分散させてネットに捕捉してウエブを形成する方法(乾式不織布法)で製造される。また、熱可塑性スーパーエンプラ繊維、強化繊維、バインダー繊維のチョップドストランドを溶媒中に分散させ、その後溶媒を除去してウエブを形成する方法(湿式不織布法)等の方法で製造されてもよい。
【0054】
(熱可塑性プリプレグの製造方法)
本発明の熱可塑性プリプレグの製造工程は、強化繊維成分と、熱可塑性スーパーエンプラ繊維を含むマトリックス樹脂成分と、バインダー成分を含む繊維強化プラスチック成形体用シートを加熱加圧処理し熱可塑性プリプレグを形成する工程を含む。
また、熱可塑性スーパーエンプラ繊維の限界酸素指数は25以上であり、熱可塑性プリプレグの密度は、0.15g/cm3以上である。
【0055】
熱可塑性プリプレグを形成する工程における加熱加圧工程は、熱可塑性スーパーエンプラ繊維の、好ましくは、ガラス転移温度以上の温度で加熱しつつ加圧を行う工程である。具体的には、繊維強化プラスチック成形体用シートを150〜600℃、好ましくは200〜500℃で加熱し、加圧することが好ましい。なお、加熱温度は、熱可塑性樹脂繊維が流動する温度であって強化繊維は溶融しない温度帯であることが好ましい。
【0056】
本発明では、繊維強化プラスチック成形体用シートを加熱加圧成形する工程の前に、さらに繊維強化プラスチック成形体用シートを形成する工程を含むことが好ましい。繊維強化プラスチック成形体用シートを形成する工程は、乾式不織布法又は湿式不織布法のいずれかの方法で不織布シートを形成する工程と、バインダー成分を含む溶液又はバインダー成分を含むエマルジョンを不織布シートに内添、塗布又は含浸させる工程を含む。さらに、内添、塗布又は含浸後には、加熱乾燥させる工程を含む。このような工程を設けることにより、繊維強化プラスチック成形体用シートの表面繊維の飛散、毛羽立ちや脱落を抑制することができ、ハンドリング性に優れた成形加工シートを得ることができる。
【0057】
なお、バインダー成分を含む溶液又はバインダー成分を含むエマルジョンを不織布シートに内添、塗布又は含浸させた後は、その不織布シートを急速に加熱することが好ましい。このような加熱工程を設けることにより、バインダー成分を含む溶液又はバインダー成分を含むエマルジョンを繊維強化プラスチック成形体用シートの表層領域に移行させることができる。さらに、バインダー成分を水掻き膜状に局在させることができる。
【0058】
(熱可塑性プリプレグの使用方法)
本発明の熱可塑性プリプレグは、目的とする成形品の形状や成形法に合わせて任意の形状に加工することができる。例えば、熱可塑性プリプレグを熱プレスで加熱加圧成形したり、あらかじめ赤外線ヒーター等で予熱し、金型によって加熱加圧成形する等、一般的なスタンパブルシートの加熱加圧成形方法を用いて加工することにより、強度・難燃性に優れたプラスチック成形体とすることができる。
【0059】
本発明では、熱可塑性プリプレグから繊維強化プラスチック成形体を作製する際には、熱可塑性プリプレグを、熱可塑性スーパーエンプラ繊維のガラス転移温度以上の温度で加圧加熱成形することが好ましい。例えば、熱プレスによる成形加工の条件としては、使用される熱可塑性樹脂によって異なるが、保持温度として150〜600℃、好ましくは200〜500℃、さらに好ましくは250〜450℃、圧力としては5〜20MPaが好ましい。また、上記所望の保持温度に到達するまでの昇温速度は3〜20℃/分が好ましく、また、所望の熱プレス温度での保持時間は1〜30分、その後、成形体を取り出す温度(200℃以下)までは圧力を維持しながら、3〜20℃/分の冷却速度とするのが好ましい。更に、生産効率はやや落ちるものの、熱プレスの保持温度からスーパーエンプラ繊維のガラス転移温度までは空冷でゆっくりと0.1〜3℃/分で冷却することも、強度向上の観点からは好ましい。また、急速加熱、急速冷却(ヒートアンドクール)成形を用いて熱プレス成形することも可能であり、その場合の昇温、冷却速度はそれぞれ30〜500℃/分である。更に、赤外線ヒーターによる場合は、温度として150〜600℃、好ましくは200〜500℃で1〜30分間加熱し、その後30〜150MPaの圧力で成形することができる。
【0060】
本発明で得られるプラスチック成形品は、力学的強度に優れ、かつ工業的に有用な生産性を兼ね備えているため、種々の用途に展開することができる。
【実施例】
【0061】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0062】
(実施例1〜4)
繊維径7μm、繊維長13mmのPAN系炭素繊維と、表1に示した繊維径のPPS樹脂繊維(Fiber Innovation Technology社製、繊維長13mm、限界酸素指数41)を、質量比がポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維40に対しポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂繊維60となるように計量し、水中に投入した。投入した水の量は、PAN系炭素繊維とPPS樹脂繊維の合計質量に対し200倍となるようにした(すなわち繊維スラリー濃度として0.5%)。
このスラリーに分散剤として商品名「エマノーン3199」(花王社製)を繊維(PAN系炭素繊維とPPS繊維の合計)100質量部に対し1質量部となるよう添加して攪拌し、繊維を水中に均一に分散させた繊維スラリーを作製した。
【0063】
粒状ポリビニルアルコール(PVA)(ユニチカ社製、商品名「OV−N」)を、濃度が10%となるように水に添加し、攪拌してバインダースラリーを作成した。この粒状PVAのスラリーを繊維スラリーに投入して湿式抄紙法でウエットウエブを形成し、180℃で加熱乾燥することにより目付けが250g/m2である不織布(繊維強化プラスチック成形体用シート)を得た。
この不織布(繊維強化プラスチック成形体用シート)を、280℃の熱プレスにて、加熱加圧処理することで表1に記載の密度となる熱可塑性プリプレグを得た。
なお、実施例2においては実施例1よりも加熱加圧時間を短縮することによって密度を表1の通り調整し、実施例4においては実施例1よりも加熱加圧時間を延長することによって、密度を表1の通り調整した。
また、実施例3においては、バインダーの添加量を12質量%とした以外は実施例1と同様にして熱可塑性プリプレグを得た。
粒状PVAの熱可塑性プリプレグに対する配合率は、表1に示す通りとなるよう、粒状PVAスラリー濃度の添加量を適宜調整した。
【0064】
(実施例5)
PPS樹脂繊維を、表1に示した繊維径であるPPS繊維(KBセーレン社製、ガラス転移温度92℃、繊維長13mm、限界酸素指数41)に変更した以外は、実施例1と同様にして熱可塑性プリプレグを作製した。
【0065】
(実施例6〜9)
実施例1における繊維径7μm、繊維長13mmであるPAN系炭素繊維を、繊維径が9μmであり、繊維長が18mmのガラス繊維に変更し、実施例1におけるPPS樹脂繊維(Fiber Innovation Technology社製、ガラス転移温度92℃、限界酸素指数41)を、表2に示したポリエーテルイミド(PEI)樹脂繊維(Fiber Innovation Technology社製、ガラス転移温度220℃、繊維長13mm、限界酸素指数47)に変更した以外は実施例1と同様にして、目付けが250g/m2である不織布を得た。得られたシートを、280℃の熱プレスによって加熱加圧することで、表2の通り密度を適宜調整し、実施例6、7の熱可塑性プリプレグを作製した。
また、粒状PVA(ユニチカ社製、商品名「OV−N」)を、PET/coPET変性芯鞘バインダー繊維(ユニチカ社製、商品名「メルティ4080」)に変更した以外は、実施例6と同様にして実施例8の熱可塑性プリプレグを作製した。
【0066】
また、実施例6におけるガラス繊維を繊維径が6μmであり、繊維長が18mmのガラス繊維に変更して、実施例6と同様にして実施例9の熱可塑性プリプレグを作製した。
【0067】
(実施例10〜15)
実施例1におけるPPS樹脂繊維を、繊維径16μmのPPS樹脂繊維(Fiber Innovation Technology社製、ガラス転移温度92℃、繊維長13mm、限界酸素指数41)に代えるとともに、粒状PVAに代えて、ウエットウエブ形成後に表3のバインダー液をスプレー法によって表3に示されている量で添加し、加熱乾燥させた以外は、実施例1と同様にして実施例10〜15の熱可塑性プリプレグを作製した。
【0068】
(実施例16〜21)
実施例10〜15におけるPPS樹脂繊維を、繊維径15μmのPEI樹脂繊維(Fiber Innovation Technology社製、ガラス転移温度220℃、繊維長13mm、限界酸素指数47)に代える以外は、実施例10〜15のそれぞれに対応する実施例16〜21の熱可塑性プリプレグを作製した。
【0069】
(実施例22)
実施例14における繊維径15μmのPEI繊維(Fiber Innovation Technology社製、繊維長13mm、限界酸素指数47)の代わりにポリカーボネート繊維(繊維長15mm、繊維径30μm、限界酸素指数25)を用いた以外は、実施例16と同様にして熱可塑性プリプレグを作製した。尚、プリプレグを作製する際の加熱温度は220℃とした。
【0070】
(実施例23)
ポリカーボネート繊維(繊維長15mm、繊維径30μm、限界酸素指数25)及び繊維径15μmのPEI繊維(Fiber Innovation Technology社製、繊維長13mm、限界酸素指数47)を50/50の質量比で混合して使用した以外は、実施例16と同様にして熱可塑性プリプレグを得た。尚、プリプレグを作製する際の加熱温度は280℃とした。
【0071】
なお、上記のバインダー液において、PVA水溶液は、クラレ社製商品名「PVA117」を熱水に溶解したPVA水溶液を使用した。また、スチレン−アクリルエマルジョンは、DIC社製商品名「GM−1000」を使用し、ウレタンエマルジョンはDIC社製商品名「AP−X101」を使用した。
【0072】
(比較例1)
不織布を製造後、加熱加圧工程を省略した以外は実施例1と同様にして熱可塑性プリプレグを作成した。
【0073】
(比較例2)
実施例1において、PPS樹脂繊維の代わりにポリアミド6樹脂(東レ社製、商品名「アミランCM1021」、融点210℃、限界酸素指数20、繊維径20μm)に変更した以外は、実施例1と同様にして熱可塑性プリプレグを製造した。
【0074】
(スタンピング成形)
以上の各実施例及び比較例の方法で得られた各熱可塑性プリプレグを、6枚積層し、IRヒーターで400℃で60秒加熱した後、コールドプレスで20MPaで60秒間プレスし、繊維強化プラスチック成形体を得た。尚、実施例22においてはIRヒーターの温度を300℃、実施例23においてはIRヒーターの温度を350℃とした。
【0075】
(評価)
(プラスチック成形体の外観)
得られた繊維強化プラスチックの外観については、以下の基準で評価を行った。なお、この外観評価が良好なものは、熱可塑性プリプレグのハンドリング性(加工適正)が良好であることを表す。
◎:ボイド等がなく良好
○:わずかにボイドが確認できるだけである
△:ボイドの発生があるが実用上差し支えはない
×:ボイドに起因して明らかに外観が悪く、製品として使用できない
【0076】
(プラスチック成形体の曲げ強度)
プラスチック成形体の曲げ強度は、JIS K7074に準拠した方法で測定した。
【0077】
(難燃性評価)
プラスチック成形体の難燃性の評価は限界酸素指数テスト(ASTM D2863)に基づいて実施した。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
【表4】
【0082】
表1〜4に示されるように、実施例1〜23の各熱可塑性プリプレグを加熱加圧成形して得られる繊維強化プラスチック成形体は、特定の限界酸素指数を有するスーパーエンプラと称される熱可塑性樹脂の繊維と炭素繊維やガラス繊維からなる強化繊維とを有し、かつ一定以上の密度を有する熱可塑性プリプレグを加熱加圧成形して製造されていることにより、高強度で外観も良好である繊維強化プラスチック体となっている。
【0083】
なお、スーパーエンプラ繊維としてポリカーボネートを用いている実施例22や実施例23では難燃性が低下する傾向にはあるものの実用上は問題ないレベルである。
【0084】
一方、不織布製造後に加熱加圧を行わず、密度の低い比較例1においては、スタンピング成形における赤外ヒーター加熱工程においてシートが激しく収縮し、成形加工が不能であった。また、比較例2は、限界酸素指数が低く、難燃性が不足している。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の熱可塑性プリプレグを用いることにより、高強度かつ難燃性の高い、繊維強化プラスチック成形体を得ることができる。さらに本発明によれば、加工適性に優れた熱可塑性プリプレグを得ることができ、プラスチック成形加工分野等において産業上の利用可能性が高い。